コウキ「そういえばさ」
ミウ「ん?」
コウキ「俺たちって、ゲーム入る前に《キャリブレーション》? ってやつで体のサイズとかを決定してたよな?」
ミウ「うん、そうだね」
コウキ「じゃあさ......この世界のなかだと、俺たちって成長しないのかな?」
ミウ「っっっ!!! そ、そっか!!!」
コウキ「え、いきなりどうしたんだ? そんな目ぇ見開いて」
ミウ(そうだよ。体が成長しないから私はまだ残念ボディなんだ。だからきっと今ごろ現実の私の体は大人っぽく成長しているはず。なんたって成長期なんだし!!)
コウキ「えーっと......なんかミウが急に黙っちゃったけど......本編どうぞー」
ミウ「待っててよ私の体ーー!!!」
「こんにちわー」
「あぁ! ミウちゃん久しぶりー!!」
「わぷっ!?」
久方ぶりに《旋風》に来た俺とミウ、そしてヨウト。
扉を開けた俺たちを出迎えたのは......フィナさんの熱い抱擁だった(ミウにだけだけど)
「もー、ミウちゃんたち最近来てくれないから寂しかったんだよー?」
「ちょっ、ちょっとフィナさん、ごめんなさい、最近来なかったことは謝るから離して、あっ、ん......本当にダメーー!」
おぉ......いつもは抱きつく側のミウが抱きつかれて、しかも慌ててる......なんか新鮮な構図だな。
でもあのフィナさん? ちょっとスキンシップ激しすぎません? なんか少しずつミウの声がいつもと変わってきてるんですけど。具体的には朝っぱらからしてはいけない感じに。
「おー!! コウキ、俺すごいことに気がついた!!」
「聞きたくないけど......なに?」
「俺、基本巨乳派だけど、なんかミウちゃんみたいな明るい子なら胸なくてもーーへぶらっ!?」
「それ以上言ったら二度と話せなくするぞ変態」
「もうすでにやられかけたよ!! なんだよ口に肘鉄って!?」
いやしてねぇよ。寸止めしたし。勝手に飛んでいったのお前だろうが。
いつも通りなヨウトの反応に、ついため息をついてしまう。
なんでこう......ヨウトはこうなんだろう? 別にそこまでしなくてもいいのに。
最近のヨウトは少しその傾向が強すぎると思う。リリの時もそうだったし。
「......なんでお前って、ヨウトなんだろうなぁ?」
「あれっ!? もしかして今俺、存在全否定されてる!?」
「おー、してるしてる。ちょーしてる」
ヨウトの反応にまたため息をついてしまった。
まぁ、こいつはこういう奴だから仕方ないか。今はそれで納得しておくことにする。
「ちょっと!? 2人とも話してないで私のこと助けてよー!!」
ごめんなさい。俺はヨウトと違ってガールズラブに耐性ないので刺激が強すぎます。
「ミーちゃン来てくれたのカ! 久しぶりだナー」
「わー、アルゴー......って、なんでアルゴも抱きついてくるの!? なんで私の体まさぐるの!?」
「アー、ミーちゃンの体ってプニプニで気持ちいいナ」
そう言いつつ、店に入り次第ガールズラブ第2回戦を始めたアルゴ。何を言いたいのか俺に視線を寄越してくる。
なんですか? 俺が羨ましがっているとでも言いたげな視線だなおい。
別に羨ましくねぇよ。俺が抱きつきに行ったら通報されるに決まってるだろ。イケメン以外の男子の世の中の厳しさをなめるなよ。
「......」
ただ、まぁ、よくよく考えると俺って、1層の時にミウに抱き締められているわけで......
あの時の感覚というのは、その、悶絶したこともあって、恐ろしいほどに記憶に刻み込まれてしまっているわけで......
........................。
「......コウキ? いきなりどうした? 顔赤くして」
「な、何でもないって!!」
ヨウトに声をかけられて、なんとか思考を元に戻すことができた。
俺、朝から何考えてんだよんだよ......しかもミウ相手に、失礼すぎるだろ......ヨウトじゃあるまいし。
邪念よ消え去れ邪念よ消え去れ色即是空、空即是色......とよく覚えてもいないお経を適当に唱えつつ、そろそろ本当に涙目になってきてミウを救出するべく、そして邪念を振り払うべく、アルゴに突撃を決行する俺だった。
俺が多大な被害を被りながらも(主に恥ずかし情報)、ミウ救出はなんとか成功を納めた。
その際にミウが俺に抱きつこうとしていたが、それは丁重に断らせてもらった。俺の邪念とかそういうのが再降臨しそうだったから。
今はフィナさん以外の4人ともカウンター席について、フィナさんはカウンターの向こうで立っている。ようやく話す体勢になった。
「それで? 今日はアルゴに呼ばれてここに来た訳なんだけど。用件は?」
昨夜、俺たち3人にアルゴからメッセが届いたのだ。
内容は簡潔で『少し困ったことになっタ。力を貸してくれないカ?』ということだ。
そんなメッセが届けば、ミウはいつものように動くだろうし、ヨウトも面白そうと言って動く。
もちろん俺としてもアルゴからの頼みでは、無下にはできない。お世話にもなっているし、借りが山のようにあるからな。
というわけで今日、俺たちはここ《旋風》に集合したわけだ。
アルゴは、俺の言葉を聞くとシニカルに笑う。
「そんなに慌てるなヨ。落ち着きのない男は嫌われるっテ、おねーさんは教えたはずだロ?」
「いや、初めて聞いたよそんなこと......ていうか、いつも余裕綽々って感じのお前からあんな簡潔な文章が来たら、そりゃ誰だって慌てるだろ」
俺に続くように、ミウもヨウトも頷く。
フィナさんはこれと言って反応は見せなかった。もしかしたらすでにアルゴから話を聞いているのかもしれない。
「ニハハー......まァ、おねーさんにはこれと言って問題はないから安心していいゾ」
笑いながら言ったアルゴの言葉に、妙なしこりを感じた。
ただ言い回しを間違えた、そんな感じには聞こえなかった。ということは......これ以上聞いてほしくはないのか。
俺がアルゴの本心を探りかねていると、話は俺を置いて先に進んでしまう。
「せっかく久しぶりに会ったんダ。互いの近況報告ぐらいはしようじゃないカ」
「......まぁ、そうだな」
アルゴ本人がそう言うのなら、俺が悩んでも仕方がない。
俺は軽く頭を振って思考を切り替える。
「でも、近況報告って言っても、私とコウキは当たり前として、最近はヨウトともよく会ってるしなぁ」
「ミーちゃん言ってたじゃないカ。確か最近リリって新しい友達ができたっテ。そいつのことを教えてくれヨ」
リリの名前を呼ばれて、肩を震わせるヨウト。
ヨウト......お前ついにそこまで反応するようになっちまったか......
まぁ、確かに会うたび会うたびに、無視、怯えられる、天然罵倒が飛んでくればそうもなるか。
俺もミウもできることはやってみたんだけどなぁ。
例えば、それとなくヨウトの良いところを伝えてみたり。実寸大のヨウトと話してもらうことでヨウトが嫌いという印象を変えてみようとしてみたり。
ただ全部失敗に終わってしまったが。マゾゲーが好き、という人もこの世の中には存在するらしいが、これはいくらなんでも難易度が高すぎる。
そんな感じにリリのことをアルゴとフィナさんに説明する。終始ヨウトは涙目だったが。
すると、さすがにヨウトに同情したのか、アルゴもフィナさんも苦笑いした。
「ヨウト君もなんというか......苦労してるね~」
「うぅ、そうなんだよ......慰めてよフィナー」
「おぉ、よしよし」
カウンターにぐてーっと突っ伏したヨウトの頭を撫でるフィナさん。
アルゴもいつの間に注文したのか、団子のお菓子をヨウトにあげている。
「フィナの手柔らかいな~」
「ははっ、ありがとー」
「それに優しいしさ~」
「えっ? も、もう、急になに?」
「スタイルいいし、美人だし、スタイルいいし、料理うまいし、スタイルいいし......」
「......」
「そうだっ! フィナ、俺と付き合ーーからぁ!!??」
ヨウトが何か言おうとして口を開けた瞬間に、フィナさんが何かをいれた。
俺とミウが首をかしげていると、アルゴが俺とミウに何か小瓶のようなものを見せてきた。
これは......キムチ?
その瓶の中には、何かの野菜が赤く染まったような物体が詰め込まれていた。瓶に張られているラベルによると、ご飯のお供にでも食べると美味しいらしい。
ただ単体だと舌が崩壊するレベルで辛いので注意が必要by フィナ......
「これナ、《スピードスター》も開発に関わってたんだヨ。その注意書きモ、本当は《スピードスター》の感想だしナ」
ニハハー、と笑いながら団子を食べるアルゴ。
いつの間にかヨウトにあげてた団子、自分で食べてるし......
「フィナ、水、水ー!! ってなんで上から頭押さえつけるんだ!?」
「ふんっ」
「ここで無視......だと!? 誰かっ、水プリーズ!! あっ、是非ともミウちゃんに!!」
「なんで私?」
「だって他の2人って、頼っても仕方がなーーなんで!? なんでアルゴも押さえにかかってくるの!?」
「これについては完全にヨウトが悪いと思うから私は助けません」
「そんな!? ミウちゃんまで見放さないでよーー!!」
口の中が辛いのに頭と体を上から2人がかりで押さえつけられているという地獄絵図。しかもフィナさんなんかヨウトの口の中に第2波を放り込もうとしてるし。
皆ヨウトに冷たい態度を取りつつも、笑っている。ヨウト自身も笑っている。これは楽しいじゃれあいだと表情が物語っている。
実際、何も知らない人が見ても、くすりと笑ってしまうような光景では確かにあると思う。俺自身、少し面白く感じているから。
だが......
「なぁ、ヨウト」
「ん!? なにコウキ、水くれんの!?」
頭を押さえつけられながらも器用に俺の方を見るヨウト。
その表情は、やはり笑顔。
......なぁ、ヨウト。お前はーー
「......ほらよ」
「わぷ!? 水筒ごと投げつけないでくれますか!?」
「うっせぇ。ミウも言ってたけど、今回はお前が悪い」
「そんな、殺生なーー!!」
ヨウトの叫びが悲しくも木霊する。
それを聞きながら俺は、ヨウトへの罪悪感と苛立ちでいっぱいだった。
「それデ、お前たちをここに呼んだ理由だけどナ」
2人がかりで押さえつけられた上、本当にキムチもどき第2波を口に放り込まれ、完全に沈黙してしまったヨウトを放置してアルゴが切り出す。
「またすごい勢いで話題転換するな......」
「まぁ、アルゴちゃんだからねー」
「うるさいナ、あとアルゴちゃんやめろっテ」
アルゴがカウンターの向こうにいるフィナさんを睨み付ける。
前から思っていたけど、アルゴ、そんなに『アルゴちゃん』って呼ばれるの嫌なんだろうか? 身長的にだけ言えば、これ以上ない呼び名ーーあ、ごめんなさい。何でもないです。そんな猛禽類のような目で睨まないでください。
今度は俺を睨んできたアルゴだったが、空気を入れ替えるように一度咳き込む。
「俺っチがお前たちを呼んだのはナ、少し調べてきてほしいクエストがあるんダ」
「えっ......クエストって、普通のクエスト?」
「あァ」
アルゴの言葉を聞いて安堵の息をつきつつも、少し首をかしげるミウ。
その反応も無理はないと思う。俺もアルゴの雰囲気から、もっとマズイ状況になっているんじゃないかと思ってここに来ていたから。
だが言い渡されたのは、クエストの調査依頼。これでは拍子抜け、というよりも疑問の方が先行してしまう。
「確かアルゴって、いつも戦闘系のクエストは誰かに依頼して調べてるんだよね?」
「まァ、探索系でもたまに依頼するケド、大体そんな感じダ。今回はいつも頼んでいる『お得意様』が都合悪くてナ」
皆忙しくて大変ダ。そう言ったアルゴに、また先程のような妙なしこりを感じた。
情報屋《鼠》のアルゴ。彼女の噂や武勇伝は数えきれないほどに存在する。
いつの間にか背後に立っているだの、頼まれた情報は必ず手にいれるだの、彼女の機嫌を損ねた攻略組のプレイヤーはこの世界では生きてはいけないだの。
そんな中でも、特に有名なのは、情報の正確さだ。
とにかく、アルゴが取り扱う情報には間違いがない。まさにリアルでも売っているようなゲームの攻略本と同等か、それ以上の正確さを誇っている。
そんなアルゴなら、情報収集のためには、絶対の信頼があるプレイヤーにしか、手伝ってくれ、なんて言わないはずだ。今回の場合はその『お得意様』とやらか。
いくら仲の良いミウがいるからと言って、アルゴが俺たちに頼んでくるような内容ではないはずなのだ。
それなのに俺たちに頼んできた。それはつまり、おそらくその『お得意様』に相当な事情があった、ということなのだろう。
そして、アルゴのお気に入りで、アルゴからそれほどの信頼を勝ち取る人物と言えばーー
「ーーはぁぁぁぁぁぁああ......」
「わっ、コウキ君、いきなりどうしたの?」
「ごめんなさい、最近コウキ急に自己嫌悪モードに入ることあるから......」
「そ、そうなんだ?」
ミウが俺の代わりに話してくれていることに感謝しつつ、なんとか自己嫌悪を抑え込む。
こうやって、誰でも見境なく相手の内側の事情を探るのは、さすがによくないだろう......
相手のことを理解したい、と思うことと、相手が隠したがっていることを無理に探り出すのは全くの別物だろう。そりゃあ、そういうことが大切な時もあるんだろうけどさ。
ただ、相手の裏側ばかりを探ろうとするのは、ただの嫌な陰湿な奴だ。最近、ミウやリリと一緒にいると本当にそう思う。
「ごめん、何でもない......それで? 調査してもらいたいクエストって?」
「あァ。いヤ、クエストそのものは前にも調べたことがあるクエストなんだケド。なんか最近になってそのクエスト、別ルートでも攻略ができるようになった......かもしれないんダ」
「最近になって......てことは、上層の攻略進度によって開くようなクエストルートってことか?」
「多分ナ」
リリと......あと少し違うけど2層のフィールドボスなんかもそんな感じだったな。
まぁ、この世界ならこういうクエストの解放条件もありなんだろうけど......こんなに同じ条件ばっかり被るものなんだろうか?
「とにかく、そのクエストを受けて、実際のところどうなのよ? ってことだよな。了解」
すると、いつの間にか復活していたヨウトが言う。
「ちょっ、ヨウト! せめてクエストの内容聞いてから返事しろよ!」
「ん? だってアルゴが一応俺たちに話振ってきたってことは、難易度の安全はとれてる......ってことだろ?」
それは分かるけど、それだけが問題じゃないだろうが......
ただよく分からないクエスト、安全はとれている。それならアルゴ本人が一人で行くはずだ。
それをしないってことは......
俺が、まだなにかあるんだろ? と視線を送ると、肩をすくめるアルゴ。
「お察しの通リ。このクエストには問題が2つある。1つ目はこのクエストが戦闘系ノ、しかも虐殺系ものだってことダ。俺っチが戦ってたんじゃ効率が悪すぎル」
「でも、いつもは誰かについていってるんでしょ? それならそんなに問題ないんじゃない?」
「いつもはナ。ただ今回は2つ目の問題のせいでそれができないんダ」
「2つ目......?」
コクン、とアルゴは頷き、間髪入れずにその2つ目の問題点を言った。
「このクエストはナ、ソロプレイヤーしか攻略できない仕様になっているんダ」
アルゴの話を纏めるとこうだ。
まず第一に、アルゴが言ったクエストはソロでしか挑戦できない。
といっても、クエストが受けられないわけではない。正しくは、その新しいルートがソロでしか開かれないかもしれない、ということだ。
そして他のルートがあるかもしれないといっても、そのクエストの基本体系は虐殺系。アルゴがソロでチャレンジするのは効率が悪い。
ならば、ソロプレイヤーにだけクエストを受けさせて、アルゴはそれについて行くだけでいいのではないか、というのも望み薄のようだ。理由は、それができるのならもうとっくのとうに見つけているはずだから、とのこと。
アルゴは他のプレイヤーに......まぁ、なんというか、許可をとらずにこっそり着いていくこともあるらしい。が、それでも今までそのクエストで別ルートを見たことはなかったらしい。そのことからクエストを受けたものしかその別ルートには入れない、という予想がたったらしい。
そしてアルゴがクエストを受けても、結局虐殺系なので効率がーーと、堂々巡りになってしまう。
「もちろン、これで決まりって訳じゃないガ、今までの情報からすると可能性は高いと思ウ」
アルゴがフィナさんに新しく注いでもらったお茶を飲みながら言う。その表情はあまり明るくない。
その様子を見ながら俺は考える。
ーー多分、アルゴも無理を言っているという自覚はあるんだろう。
俺とミウがーーというより、プレイヤーがパーティーを組む一番の理由は、死なないためだ。
他のゲームならば、友達付き合い、相手が面白いからなどといった理由もあるんだと思うが、この世界ではやはり死ぬか死なないかが一番の問題だ。
そんなパーティーを組んでいるプレイヤーに、アルゴはソロプレイをしてくれ、と言っているのだ。そりゃあ頼む側も心苦しいものはあるだろうし、頼まれる側もあまり良い顔はしないだろう。
ミウを見れば、ミウも両手で包んだ湯呑みを膝の上に置いて見つめている。そして時々、俺の方をチラチラと見てくる。
私は困ってるアルゴを助けたい。というミウの考えが痛いほど伝わってくる。
ただ俺の意見も聞いてから......といった具合か。
......ソロプレイ、か。
その単語は、考えれば考えるほどに重くのし掛かる。
ソロプレイのメリットは何か? と聞かれても、正直俺にはそこまでの答えを用意できない。精々パーティー内での小競り合いということがない、ぐらいだ。
だが、デメリットは? と聞かれれば山のように浮かび上がる。それは俺への危険、ということもあるが、それよりもミウへの万が一を考えてしまう。
いや、それは言い訳か。ミウは強い。それこそ本当に、どうして俺とパーティーを組んでいるのかと本気で疑問に思うほどに。ミウなら仮にキリトとパーティーを組んでもなんなくこなしそうだ。
だから、今現時点での問題は、俺。俺がどうするか。その一点にすべてが集約しているのだ。
.............................
「......うし。まぁ、この場合はやっぱり俺だろ?」
俺が考えに耽っていると、ヨウトが凝り固まった空気を切るようにそう言った。
「もともと俺はソロだしさ? それに対してコウキもミウちゃんも、ソロに関しちゃほぼ初心者だ。無理してまで行く必要はないだろ」
「それは、そうだけど......でも、やっぱり......」
ミウが奥にものが詰まったように言う。
......うん、そうだよな。これがミウだ。
自分の危険よりも、誰か友達、もしくは見知らぬ人でも困っていれば見捨てずにはいられない。
そんな考え方が、俺にはすごく眩しく感じる。それはミウの考えが正しい、と俺自身が分かっているからだろう。
......それなら、このままじゃダメだよな。もう今まで通り眩しいと思うだけじゃ、羨ましいと思うだけじゃ、もう足りない。
俺も、いい加減に前に進まないと、ダメだ。
「ミウちゃんの気持ちも分かるけどーー」
「ヨウト」
ヨウトの言葉を遮るように言う。
そしてーー
「俺も、いや、俺たちも受けるよ。その依頼」
「......で、よかったのかよ?」
「? なにが?」
「だから、このクエストだよ。別にお前らはこのクエスト受けなくてもよかったんだぞ。コウキだってソロには反対なんじゃないのかよ?」
どこか拗ねたような雰囲気を出しているヨウト。そこまで俺がソロを了承したのが意外だったのか。
とある最前線近くの層の、とある森。俺たち3人はアルゴに頼まれたクエストを受けて、クエストの内容であるmob狩りのため指定された森に来ている。
この森はこれといって変わった点はない森、この世界でもどこにでもあるような森だ。強いて挙げる点があるとするなら太陽の光があまり届かず、暗くて視界が悪い、ということか。
少しミウたちと離れたぐらいで見失うほど暗くはないが、木の陰にでも隠れているmobに急襲されると、一瞬反応が遅れそうで少し怖くはある。実際、先程から何度かmobと戦闘しているが、そういった場面があった。
一応、mobの討伐目標数には先ほども3人とも達したので、これ以上戦う必要はない。だから襲われても逃げればいいのかもしれないが、それでも怖いものは怖い。
ヨウトに言われて、視界の左端に表示されている自分のHPバーを見る。
いつも自分のHPの下にはミウのHPバーが表示されているが、今はない。俺が今ミウとパーティーを組んでいない何よりもの証拠だ。
この世界に入ってから、ミウのHPバーが視界内にないなんてことは最初の2日間ぐらいしかなかったので、ひどく違和感というか、不安を感じる。
俺はそれを振り払うためにも、肩をすくめてヨウトに答える。
「アルゴには山ほど借りがあるからな。俺は義理堅いんだよ」
もちろん、それもある。ただそれが主ではない。
本当の理由は......まぁ、これといって特別なものではない。常々思っていたことだ。
もっと強くならなければ。それこそ、ミウと肩を並べられるほどに。
今までも策を弄して、小技を使って、隙を突いて、もちろん俺自身の力も鍛えて、なんとか食らいついていたけれど、それではもう足りないんだ。
だから、良い機会だと思った。
ソロでクエストに挑戦。ミウや他の人の力を借りずに戦うことで、俺自身の力を試し、そしてもっと向上させることができるかもしれない。
もっともっと強くーーそう思っていたのに。
「ーーなんで俺たち3人で行動してんだよ!?」
「いや、しょうがないだろ。いくらお前らでも、いきなりソロプレイなんてさせられないっつの。それに『一応』ソロだろ?」
ヨウトがため息をつきながら自らのHPバーがあるだろう場所を指差す。
確かに、先ほども言ったように、今そこにミウのHPバーは存在しない。
「た......しかにそうだけど! なんか違うんだよ!!」
「違うって、なにが?」
「そ、それは......ふん」
何か探るような目で見てくるヨウトの視線から外れるようにーー気まずさからもーー顔を背ける。
強くならなければならない。その考えは俺の考えであって、今回のアルゴの頼みとは関係ない。ならばヨウトに言うのは何か筋違いだと思ったのだ。
だがそうすると訪れるのは居心地の悪い沈黙。3人もいてこの雰囲気はマズイと思ったのか、ヨウトがすぐに口を開いた。
「......なぁ、ミウちゃんからもなんとか言ってやってくれないか?」
「..................」
ヨウトが声をかけるが、ミウは特に反応を見せずにただ虚空を見上げている。
......?
「......ミウちゃん?」
「ーーふぇ? あ、うん。ごめんごめん。なんだっけ?」
「あー......いや、なんでもないよ。ミウちゃんこそなに見てたの?」
「なにって......なんなんだろうね?」
「まさかの聞き返し!?」
「ははは、ヨウトー、女の子は不思議でいっぱいなんだよ?」
......なんというか、この2人は余裕あるなぁ。
ヨウトはともかくミウも俺と同じでソロの経験なんてほとんどないだろうに。
俺なんか、さっきから目に入る情報を細かく検査するレベルで辺りを見回してるのに......やっぱり実力の問題だろうか? 強ければ心にもゆとりが、みたいな。
後ろで軽い会話を繰り広げているミウとヨウトを見て、よりいっそう強くなりたいと思った。
SIDE Miu
ひどく居心地が悪い。
もう何度もそう感じたけれど、その度にコウキやヨウト(ほとんどヨウトだったけど)と小話をして気分をまぎらわしてきた。
話しているとき、戦っているとき、とにかく他のことに意識が向いているときは良いんだ。『そのこと』を意識しなくてすむから。
でも、ただ無言で歩いているときはダメだ。あまりの居心地の悪さに頭をかきむしりたくなる。
今もそう。あぁ、気になる気になる気になる。イライラするむずむずするモヤモヤする。あー、もうーー
「ミウちゃん、聞いてる?」
「うぇっ!?」
「いや、『うぇっ!?』って......ミウちゃんから話しかけてきたんだろ?」
隣でヨウトが少し困ったように笑う。
しまった、そうだった。さっき私、また耐えられなくなってヨウトに話しかけて......
それを理解すると同時にヨウトへの申し訳なさと恥ずかしさが湧いてくるけど、それはなんとか抑えて、すぐにヨウトに謝る。
ヨウトは「気にしなくていい」って言ってくれた......けど、さすがに今回は失礼すぎたからもう一度謝ると、またヨウトは苦笑いしてしまった。
私もつられて抑え気味に笑っていると、不意にヨウトの雰囲気が変わった。
「ミウちゃんはいいの?」
「なにが?」
「コウキのあの行動」
ヨウトが前を歩くコウキを見ながら言う。小声で話しているのは、コウキにはあまり聞かれたくないからか。
なんとなく、ヨウトが言いたいことは私にも分かった。
多分、またコウキが1人ド壺にはまってしまっているんじゃないか? 手を貸さなくてもいいのか? そういう類いのことだと思う。
それを踏まえた上で。
「別にいいんじゃないかな」
私はヨウトに言った。
......前から思ってたけど、ヨウトって結構過保護っぽいところあるよね。今も私の言葉にすごく反論したそうな表情してるし。
私もいつもなら何か言っているかもしれない。でも今回は言わない。それはアルゴの頼みを達成するため、とかじゃなくて。
この前ーーあの夜のことだ。コウキが1人一心不乱に剣を振っているところを見た、あの時。私はなんて考えなしなんだろうって、改めて思い知らされた。
私はよくコウキに、無茶しないで、って言っているけど、コウキが無茶をするのにだって理由があるんだ。
それは、私が弱いから。そしてーーコウキが弱いから。
ひどく上から目線になってしまうけど、多分そういう話だ。
私が強ければ、コウキにもっと楽をさせてあげられる。
コウキが強ければ、コウキはもっと安全策で戦える。
そのためにもコウキは寝ることなんか後回しにしてでも、自分の力を磨いてる。それでも足りないからコウキは一か八かの戦いに身を投じているんだ。
そんなコウキが、もっと強くなるために、今こうして自分の力をさらに磨こうとしているのなら、私はそれを応援して、そして一緒に強くなりたいと思う。
「ヨウト」
「ん?」
「......もっと、コウキのことを信じてあげてよ」
「......っ」
「私はさ、2人の間に何があるのかは知らないよ? 無理に聞こうとも思わない。でもさ、偉そうかもしれないけど、コウキはいつまでもヨウトにおんぶにだっこされないといけないほど、弱くはないと思う」
「......」
「だからさーー」
「あ、おい! 2人とも!!」
コウキのこと信じてあげてよ。
......そう言い締めようとしていたのを、コウキの声で中断されてしまった。
「コーウキー?」
「え、なんで俺そんなにジト目向けられてんの......?」
「別にー?」
ただ、コウキのあまりのタイミングの悪さにちょーっとだけイラッとしてるだけだよ。
このままコウキにプレッシャーを与え続けてもいいけど、それでは話が進まないから引っ込める。
「それでどうしたの?」
「あ、あぁ、ちょっとこっちに来てくれ」
「はーい......あれ、ヨウト? 行くよ?」
「......おう、分かった」
ヨウトが返事をして私たちのあとを追ってくる。小走り気味に。
ちゃんと移動しているはずなのに、それなのに、私にはヨウトがあまりの出来事にただ立ち尽くしているようなイメージが、頭から抜けなかった。
「これこれ」
コウキが言う場所まで行くと、そこは鬱蒼と繁っている木々の中にある、少し開いた空間だった。
開いた、というよりは閉じられた、の方が正しかもしれない。その空間は回りが木の枝や幹が編み込まれた壁、かまくらが雪の代わりに木で作られているような場所だから。なんだかすごく良くできた秘密基地みたいだ。
そしてその空間の中心。そこには大理石の台のようなものが立っている。
「なにこれ? なにか文字が彫ってあるけど」
「アルゴからは特になにも聞いてないし......多分、これが別ルートに入るために必要ななにかなんじゃないか?」
「って、言われてもねぇ......」
これはどうするものなのか......
とりあえず私の腰ほどの高さの台に近づいて、触ったり撫でたり、ぺちぺちと叩いてみたりする。
......うーん、やっぱり石でできてるからか、触ってみるとひんやりとしている。ここ最近気温が少し上がってきているから気持ちいい。
それ以外は特に新しい発見はなかった。彫られてる文字も読もうとはしてみたけど、そもそも何語かも分かるわけがないーーあれ?
「これってもしかしてーー」
「普通に英語だな」
私の後ろから、ようやく追い付いてきたヨウトが言う。
やっぱり、これ英語だよね。最初はただのミミズ文字に見えたけど、よく見たら筆記体っぽい。
......いやいや、石に『彫って』あるのに、筆記体って......どれだけ怪力の人が彫ればそんなことができるんだろう?
私とヨウトが互いに苦笑いしていると、コウキが一人視線を逸らしていた。
もちろん、そんなことをすればヨウトが黙っていない。
「どうしたコウキ? もしかして英語だって分からなかったか?」
「うっ......」
「そんなわけないよなー。だって俺もミウちゃんも分かったんだから」
「うるさいな! あー、どうせ俺は英語できませんよ!! いいじゃん別に!! I am japanese! 日本語できればそれでいいんだよ!!」
「コウキ......それ英語できない人の常套句だよ......」
私が困りながら笑って言うと、相当精神的にダメージを受けたのか、台に両手を付いてうなだれてしまった。コウキ作、反省のポーズ。
で、でも、コウキの言うことも一理はあるし! そもそも何語で書いてあるか分かっても、読めないことにはなんの意味もーー
「『 力示し者 汝は さらなる冒険を 栄光を 財宝を 望むか ならば 意志を 示せ 』」
「へ?」
「ここに書いてあるの。多分こんな感じだと思うよ」
私がなんとかコウキをフォローしようと考えていると、ヨウトが言った。
「えっ、すごい! ヨウト読めるの!?」
「ん? あぁ、まぁ、これぐらいなら割と普通に」
これぐらい、なんてヨウトは言うけど、これは本当にすごいと思う。
英語の教科書の英文を訳せ、なんていうのだったら私も辞書片手にできるけど、ヨウトはなんの情報もなしに素の英文から訳してる。
これは素直にかっこいいと思う。
私が何度もすごいすごい!と言っていると、コウキが視界の隅の方で台に突っ伏してしまった。
わわ、しまった。
「でもコウキ、こんなの読めないのが普通だもんね! 私も読めなかったもん」
「うん、いやまぁ、そうなんだけどさ......」
コウキはもう色々と諦めましたって感じで笑う。
え、あれ? 私なにか間違えた?
「なぁ、ヨウト。お前何ヵ国語ぐらい話せたっけ?」
「うーん......今は4ぐらいかなぁ。あ、日本語もだから5か」
「......うぇえええ!?」
「分かった? ヨウトは基本スペックがおかしいんだよ...... もう最近は馬鹿馬鹿しすぎて考えないようにしてたけど」
コウキの言葉に、私は笑い返すこともできずにただ唖然としてしまった。
いや、でも、5か国語って......え、あれ? ヨウトってコウキと同い年......だったっけ? そんなこと可能なの?
ヨウトを見ても肩をすくめるだけ。冗談とかではないし、別におかしいことはない、そんな感じだ。
ただ、コウキとしてはいつものことなのか、ヨウトのことにはこれ以上触れずに、自分が突っ伏している台を見ていた。
「冒険、栄光、財宝、ねぇ......」
「なんかはっきりとしない文章だよな。財宝は分かるけど、冒険と栄光はなぁ」
確かに、2人の言う通りかもしれない。
財宝。これは純粋にアイテムやお金のことだと思う。これほど分かりやすい私たちプレイヤーへの報酬はない。
栄光。これは微妙。私たちにとっての栄光って......強いて言うならボス攻略のLAとかかな? まわりからすごい!!って言われるし。
冒険。これはさっぱり。力を示したから、さらなる戦いを、そういう意味なら分からなくもないけど、それなら『争い』とか『戦闘』って言い方しそうだし......
そこまで考えて、少し引っ掛かるものがあった。
財宝、宝......その単語確かさっきも......
「財宝、《宝物》......か。この台の言う通りなら、この森の《宝物》でも手に入るのかねぇ」
コウキがポツリと呟いた瞬間。
コウキの体が淡く光を纏い、次の瞬間にはコウキの体は台からは消えた。
「え......ちょっと、コウキ!?」
さっきまでコウキがいた場所に今更手を伸ばすけど、もちろん私の手は何も掴まない。
隣でヨウトがすぐにウィンドウを開いてマップを確認しようとするけど、ここは圏外。パーティーを組んでいるのならまだしも、フレンドのヨウトでは居場所を知ることも、メッセを届けることもできない。
それは、今コウキとパーティーを組んでいない私もそうだ。
「コウキ......」
コウキのHPバーも、コウキの姿すらも私の視界から完全に消える。
寒くもないのに体が微かに震えて、暑くもないのに妙な汗をかいてしまう。
私は、この世界に来てから一番の不安に襲われていた。
SIDE Kouki
「うぇぷっ!?」
いってぇ......
突如体がどこかに放り出されて、まともに受け身もとれずに地面に頭から突っ込んでしまう。
俺、なんでこんなことを......そうだ。なんかヨウトが読んだ文章について考察してたら、急に転移の時のエフェクトが出てきてーー
「そうだ! ミウ、ヨウト!!」
すぐさま地面との接吻を取り止めて顔をあげて、回りを確認する。
が、そこは先程までと何も変わらない。ただ目に入り込んでくるのは緑色。どうやらここはまだ森の中のようだ。
どれほど目を動かしても、ミウやヨウト、いや、それどころかプレイヤーの姿が見当たらない。
ウィンドウを開いて現在位置を確認......やはり、俺が今いるのは先ほどまでいた森。ただ、先ほどまでいた場所からえらく移動している。
これは......ワープのトラップ? いや、だがそういうトラップは今までも見てきたが、大体が扉を潜った時とか、あとは変な板の上に乗った時に起こっていた。
こんななんの前ぶりもなくトラップが作動なんて......あ、そういえば俺さっきなんか呟いたな。
確かーー
『財宝、《宝物》......か。この台の言う通りなら、この森の《宝物》でも手に入るのかねぇ』
......あれがワープのキーワードになったってことか?
「はぁ......面倒なことになってきたな」
もう一度ウィンドウのマップを確認する。
......よし、さっきまでいた場所まで、一応地続きになってる。戻ろうと思えば戻れるな。
いや、それよりも《転移結晶》使った方が早いか。そう思ってポーチから結晶を取り出す、が、そこであることが脳裏に浮かんだ。
あの日、リリと出会った日のことだ。
確か、あの時のトラップも、結晶が使えなくなっていた。
「......まさか、な」
俺は《転移結晶》を使って転移先を指定する......が、ある意味予想通り。俺の体には何も変化が起こらない。
おいおい、マジかよ......
もしかしたら先ほどの転移のせいで結晶使用不可にでもなったのだろうか? 鬼畜過ぎる。
不安からか、今すぐ何か行動をしたくもなるが、俺のようにミウやヨウトも転移してくるかもしれない。その時に一緒に行動できるようにしておいた方が得策か。
なので10分ほどその場で待つ。誰も転移してこない。
......俺が適当に考えただけでも思い付いたようなことを、ヨウトやミウが思い付かない、とは考えにくい。だとすると転移先が別になるのか、転移先に危険があるかもと考えて転移しないのか。
どちらにせよ、正しい考えではある。俺はすごく困るけど。
つい、また不安に駈られて自分のHPバーの下を見てしまう。そこには今、何もないのに。
「..................よし、こうしていても仕方がない」
とにかく、何か考えて行動しよう。
まず、先ほど回りを確認したときに遠くにいたmobも確認しておいたが、レベルはこの層に準ずるものだった。つまり、いきなり強いmobに襲われてゲームオーバーってことにはならないはず......多分。
そしてこういう遭難のような場面の時。無駄に動き回るのは得策ではない。どこにどんな危険があるか分からないし、なにより捜索隊とすれ違いになってしまう可能性があるからだ。
強くなりたい。そう考える俺としては、1人でも大丈夫! と行動すべきなのかもしれないが、俺を探しに来てくれたミウたちに余計な労力を費やせさせたくない。
まぁ、ただ。俺が《転移結晶》で街に戻ってると思って、それを確認しようとミウたちが街に戻ってしまったら、俺は非常に困るけど......それは仕方がない。
そこでふと思ったことがあった。
さっきの石の台。『意志を示せ』って書いてあったんだっけ? 多分、俺の場合『財宝』とか『宝物』ってワードで意志を示したことになるんだろうけど......それなのに、さっきから何も起きない。
てっきり、意志とやらを示したらなんかイベントが始まると思ってたんだけどな......
いや、そもそも強制転移の後に結晶使用不可なんて、人の悪意がもろに出ている気がする。
ゲームなのだから当然、と言えばそうだが。今までこのゲームは理不尽はあっても、身勝手はなかったような気がする。
「別ルート......《森緑の宝物》、か」
アルゴ。このクエスト、いよいよきな臭くなってきたぞ。
さて、今からどうするかーー
「ーーーーッ」
何か、金属と金属がぶつかる音が聞こえた。
今のは......剣の音か?
またプレイヤーとmobの戦闘か、とも考えたが、すぐに否定する。この森には、なにか金属を持つmobはポップしないからだ。
ということは。
「っ、と......」
一瞬、無意識のうちに体が動き出しそうになったのを止める。
いやいやいや。今俺一人だぞ? 俺はミウじゃないぞ? なんで普通に助けに行こうとしてんだよ? そもそもオレンジとかがいるとも決まってないのに。
俺は強くもない。下手に動けば、それこそ危険がたくさんだ。オレンジが相手にもなれば、普通に死ぬ可能性の方が高い。
普段とは違う自分の行動に疑問を覚えたが、すぐさま状況を整理して落ち着く......はずが。
なぜか、またリリのことを思い出した。いや、理由は分かっている。
リリを助けて、ありがとうと言われた。李里を助けたあと、リリが笑う場面も何度か見た。
実際にリリを助けたのは俺一人の力じゃないけど、俺は思ったんだ。
あぁ、見捨てないで良かった。助けられて良かった。
『誰かを助けて、相手が笑ってくれたり幸せそうにしてくれたら、こっちも嬉しいから』
ミウに最初言われたあの言葉の意味が、時間と共に少しずつ理解できていく。
それに、俺は強くならないといけない。ミウと並び立つためにも。
そのためには、こんなところでウジウジしていてもいいのか?
「いやいや、だから俺は弱いって......」
ミイラ取りがミイラ、ではないが、俺が殺されてしまっては元も子もない。
......そう、前までなら、というか、今でも考えてるはずなんだけどなぁ。
俺はウィンドウから紙とペン、そして透明なボトルを取り出す。
そして紙に文字を書いていく。内容は『この辺りにいます』。
そして紙を丸めて、ボトルの中に入れる。どうかmobに破壊されませんように。
ボトルを道の中央に置いて、俺は金属音がする方へ駆け出した。
「これは、そう、状況確認だ! 待っている最中に俺も戦闘に巻き込まれないよう、状況確認!!」
......誰にするでもない、言い訳を言いながら。
あぁ、俺ってば、本当にミウに感化されてきている気がする。
......とにかく、死なないことだけを考えていこう。
はい、初めてのソロ回でした。
まず......ごめんなさい!! 更新がすごい遅れてしまいました!!
テスト対策で毎日睡眠時間3時間とかやっていて、まともに書けませんでした......
いえ、これは言い訳ですね。日頃から勉強しないと、と心から思いました。
さて。
なんか、めちゃくちゃ長くなりましたねぇ。多分私の作品のなかでも最長です。
はじめの頃は平均文字数7千後半だったんだけどなぁ。今じゃ倍ぐらいだ......
しかもまた伏線張っちゃったし......回収が大変になるのに......
次回は、またASになります。
......もう展開は読めてるかもしれませんが、生暖かく見ていてもらえると嬉しいです。