コウキ「......」
リリ「......ミウさん、コウキさんは、何をしているんですか? ずっとなにもせずに転移門近くを見てますけど......」
ミウ「あー、あれはね。コウキ曰く『流れ』と『傾向』を見てるんだって」
リリ「流れと......傾向?」
ミウ「うん。ああやって大勢の人を一斉に見ることで、その人たちの全体の動きとか、逆にその動きから外れようとしている人を見つけたりとか。まぁ、目を鍛えるひとつの方法なんだって」
リリ「すごいですね。私、ただいつもの日常の風景だと思って見てました......」
ミウ「だよね~、聞いたとき私もビックリしたよ。本当にコウキは努力家だと思うよ」
リリ「そうですね......。ジー............」
ミウ「......リリちゃん。多分やろうと思ってもすぐにはできないと思うよ? 私も前にやってみたことあるけど、10秒でお手上げだったし」
リリ「うぅ......はい、すぐに目が痛くなってきました......」
ミウ「本当、コウキのああいう所は、もう才能だと思うよ」
リリ「そうですね、私ももっと頑張らないと!!」
前回までの話!
俺、ミウ、ヨウトの3人は情報屋アルゴに《旋風》に呼び出された。
そこでアルゴが俺たちに話したのは、あるクエストの別ルートが発見されたという話。そしてそのクエストの調査依頼だった!
アルゴの突然の申し出に返答に詰まる俺たち。だがそこで、「依頼を受ける」と言って場を動かしたのはミウでもヨウトでもなく、俺だった!
そして俺たちは森に移動、クエストをそつなくこなしていると、ある石の台を発見。
その石の台に刻まれていた暗号を解読すると、突如光が発生して俺は飲み込まれてしまった!!
気がついたときには俺は別の場所に移動していた。そしてどこからか聞こえてくる金属がぶつかり合うような音。
俺は誰かに言い訳しながらも、その現場を確認して自分の安全を確保しようと動き始めたのだった!!
以上、ダイジェストでした。
......うん。やっぱり何度確認しても、そこまでおかしな行動は俺は取っていないはずだ。最後の行動は少し俺のいつもの行動とは違っていたかもしれないが、自分にも危険が迫ってきているかもしれないのに、ただボーッと突っ立ているのはバカのすることだから結果的には間違っていないはず。
なのに、どうしてーー
ーーどうして俺は今、大勢のオレンジプレイヤーに囲まれているんだろう?
うーん、おかしいな。俺はなにも間違ってはいないはずなのに、なぜこんな絶望的な状況に陥ってしまっているのだろう? というかなんで俺は状況確認とか言っているのに戦場のど真ん中に突っ立っているのだろう!? というかなんで俺はこんなに変なテンションになっているんだろうっ!? なんだよさっきまでのダイジェストって!!
今の俺の脳内は、これ以上ないぐらいに錯乱状態になってしまっていた。もう少しいけば本気で目を回してしまいそうな勢いだ。
じゃっかんーーではない気がするけどーー纏まらない思考をなんとか整理し、俺の左側に立っている男性プレイヤーを見る。
そのプレイヤーは、今この場にいるプレイヤーの中では俺を除いては唯一カーソルがグリーン、つまり一般プレイヤーだ。
右手に持っているのは......薙刀だろうか? あまり見ない武器だ。
顔は辺りが薄暗いせいでよく見えなかったが、雰囲気が妙に浮世離れしているというか......不思議な感じがする。髪が黒ではないせいかもしれない。何色かは分からないけれど。
回りに立っているプレイヤーの全員がオレンジプレイヤーーー先程から俺に向かって何やら罵倒してきているがそれは無視。それどころじゃないーー、 しかもそのほとんどが体のどこかを切断されてしまっている、という中々にバイオレンスな状況なので、グリーンのプレイヤーの不思議さが余計に際立ってしまっているように感じる。
そして今も言ったように、回りに、というより、包囲するようにオレンジプレイヤーが......8人か。さらに奥にポンチョみたいの着た奴が1人いるけど。
さて、ここまでが今の状況だ。それらから察するに、このグリーンの人が襲われた、ってことで多分いいんだろうけど......
なんでこの人、ほとんど無傷なんだろう?
可能性としては8人相手に無双しまくったっていうのがあるけど......そんなこと、キリトレベルでもできるかどうか怪しい離れ業だ。レベルが相当離れていればできるかもしれないけど......って、今はそこはどうでもいいか。
とにかく今は......こんな状況に飛び込んでしまった俺が、どうやって生き延びるか、だ。
現状敵だと思われるオレンジプレイヤーたちからすれば、俺は死刑執行に飛び込んできた邪魔物な訳だから、俺ごと殺したがっているだろう。
......本当、なんでこんなことに、俺はミウみたいに誰でもかれでも助けようとかとは考えてないのに。なのになんでさっきはあんな勝手に体が動いて......あぁ、もう本当にーー
「ーーっと、あぶな!?」
俺が軽い自己嫌悪に陥っていると、奥にいる男のかけ声とともに『なぜか』右手首が切断されている男が、左手で曲刀を持って背後から斬りかかってきた。
俺はそれを前方に跳んで回避し、すぐさま体を反転、曲刀の男と相対する。
すると同じタイミングで斬りかかられ、俺と同じく前方に跳んでかわして体を反転させたのか、グリーンの薙刀男が俺と背中を合わせるようにしてぶつかってきた。
どうでもいいが、近づいてみて薙刀男の髪は藍色だということが判明した
俺は敵の動きをチェックしながら、
「あんた、《転移結晶》は持ってるだろ? 最悪俺が時間を稼ぐから、その間にーー」
「あ、ごめん。僕麻痺攻撃受けたときに結晶入れてたポーチにも攻撃当たってたみたいでさ」
「は?」
「端的に言うと結晶類全部、ポーチを落としたので持ってないです。予備も全部ポーチの中だったしねぇ」
「........................」
どうしよう、マジ帰りたい。
藍髪男は自分に襲いかかってきたオレンジの一人を、苦笑いしながら割と簡単に捌きながら言ったが、俺からすればもうすでに色々と泣きそうだった。
俺はトラップのせいか結晶使用不可。
藍髪男は結晶そのものを持っていない。
あぁ、くそ!
左から俺の体ごと砕く勢いで振られた棍を、棍の持ち手を剣で叩いて弾く。
「じゃあ、俺の《転移結晶》を使え! それで逃げられるだろう!?」
「......それはやだっ、かな?」
藍髪男は自分を襲ってきた短剣を弾いた勢いをそのまま後ろ、つまり俺の方へ向け、薙刀の石突きで俺を攻撃してきた棍の男の腹に一撃お見舞いした。
「なんでだよ?」
「だって、この事件、元は僕の力不足のせいなんだから。それを君に全部押し付けて、はい、おしまい。にはできないよ」
「......」
......なんだこいつ。
ムカついたのと同時に、一瞬、脳裏をミウの顔がよぎった。
今藍髪男が言ったことが、なんとなく、ミウが言いそうなことだったから。
打算も偽善もなにもなしに、相手のことを思いやり、そして誰よりも自分の責任に誠実。
......だから、というわけではないが。今背を当てているこの男は、多分悪いやつじゃあないんだろう。そう思った。
そして、こういうやつに限って、絶対に自分の意見や責任は譲歩しないだろうことも。
俺は小さくため息をつく。
あぁ、俺ってば、本当に感化されてきてる。
「......お前、名前は?」
「ヤマト」
「俺はコウキ」
「うん。コウキ、ここを切り抜ける間、よろしく」
「......あぁ」
まこと遺憾ながらだけど、信じよう。というかそうじゃないと俺もここで死んじゃう。
だが、ぶっちゃけた話、藍髪男ーーヤマトの申し出は俺からすればありがたいことこの上ない。
この人数相手に俺一人で逃げきることはかなり難しい。それを手伝ってくれるというのだから(実際は俺が手伝う側だけど)、受けない手はない。
「......それで、ヤマトがそんなぎこちなさそうに戦ってるのには、何か理由があるのか?」
先程から横目で見ていると、ヤマトは相手の動きに対してかなりレベルの高い反応を見せている。それこそキリトやミウクラスの反応だ。
なのに、行動そのものが後手に回ってしまっている。そういうスタイルです、と言われてしまえば納得するしかないが、本人も戦いづらそうにしているから、そういうわけではないのだろう。
それに先程からオレンジたちの攻撃が妙に少ないことも気になる。なにか関係があるのだろうか?
するとヤマトは少し考える素振りを見せ、
「......あー、うん。ちょっと諸事情があって」
とだけ言った。
説明するのを嫌った、というよりは、本当に説明が面倒くさそうだ。
初対面で共闘するのだから、そこら辺の信頼関係は大事にしなくてはいけないと思うのだが......話したくないのなら仕方がない。今無闇に波風をたてる方が問題だ。
それに必要な情報ならさすがに面倒くさくても話してくるだろう......多分。こいつのことなにも知らないけど。
ヤマトは薙刀を短く持ち直しながら言う。
「ちょっとウィンドウ操作するけど、よろしく」
「は?」
ヤマトが言ったことが一瞬理解できなかった。
が、ヤマトはそのまま本当にウィンドウを開いて操作しだしたーーって!
「おい、こんなときになにやってーーうわっ!?」
俺たち2人のうち1人がウィンドウを構い始めたことで、それを好機と見たのか、これまた奥の男のかけ声とともに部位破壊をされていないオレンジプレイヤー3人が一斉に襲いかかってきた。
俺へは棍を持った男1人、ヤマトへは短剣と槌の2人だ。
マズイ、と思いヤマトを見るが、こんな時になっても未だにウィンドウを構っている。
本当に、こいつはなんなんだよっ!?
俺は棍の一撃を今度は剣で受け流し、その一瞬をついて棍の男に《肩撃》を叩き込む。
棍の男が怯んだ隙にヤマトのフォローに入ろうと、すぐさま戻ろうとするが。
「なっ!?」
後ろを向いた瞬間、俺の背後にはヤマトではなく、体勢を崩した槌を持った男がいた。
俺は咄嗟に《バーチカル》を発動させて相手の槌に当て、弾き飛ばす。そして続けざまに剣の腹でオレンジの男を叩きつけて吹き飛ばす。
なんでこんなところに敵が、とヤマトの方を見ると......なんだあれ。
俺が見た先には、ウィンドウを操作しながらも、短剣で襲いかかってくる男をあしらっているヤマトの姿があった。
短剣で突かれれば身を捻ってかわし、上段から斬りかかられれば薙刀の持ち手を相手の腕にぶつけて攻撃をそらしている。
それだけでも俺からすればかなり上の次元の話なのだが、ヤマトはそれをウィンドウを見ながら行っているのだ。
......まぁ、とにかく、先ほどのオレンジは上段から槌を振り下ろしてそれをヤマトがかわし、そのまま体勢を崩して前方につんのめった、ということだろうか?
そしてヤマトが相手の攻撃をかわしながら、最後にもう一度ウィンドウをタッチすると、右手にあった武器が薙刀から刀に変わった。
どうやら装備を変更したらしい。
「なんで今装備交換するんだよ!?」
「いやー、まぁ普通はしないけどね。でも共闘するのならリーチの長い薙刀よりも、刀の方が君もやりやすいでしょ?」
「そりゃそうだけど!!」
それでも、正気の沙汰じゃない。
相手の攻撃をもしも喰らったらとか考えないのだろうかこいつは?
こいつは大変なやつを味方にしてしまった、と軽く後悔していると、再び敵が襲ってくる。今度は俺に短剣の男が突きを放ってきた。
それを俺は剣で上から叩いて逸らす。
部位破壊されている敵は数に数えないとしても、こうやって1対1なら俺もさすがに負けないが、相手が1人でも増えると本気でマズイ。
「なぁヤマト。お前は何人ぐらい一度に相手できるっ?」
「うーん、今はやっぱり1人がやっとか、なぁ!」
「は!? お前さっきウィンドウ構いながらでも余裕で1人相手してただろ!? 武器も持ってちゃんと戦えばーーっと」
会話の最中も、何度も金属音がなる。いや、金属音が鳴り響くなか会話をしていると言った方が正しいか。
「それは『逃げ』に徹してたからだよ。多対一になると、どうしても捕まっちゃう。そうなると今の僕はもうお手上げかなー」
じゃあなんでそんなに余裕そうに話してるんだよっ!!
激しくツッコミたいが、なんとか堪える。俺の方にはそんな余裕もない、振り回される槌を上体を反らしてかわす。
「......じゃあ、『逃げつつ挑発』だったら2対1でもできるか!?」
「......? まぁ、できないこともないけど、それだと君の方にもたまに2人分の攻撃がいくと思うんだけど」
上等、と俺は冷や汗をかきながら呟く。
俺への攻撃とかは今はもう問題ではない。
そもそも、俺たちはこの場にいる敵全員を倒していかないといけないわけではない。逃げられる状況を作り出せればいいのだ。
外側にいる手負いメンバーの包囲を突っ切る方法はあるが、近くの3人を突破する方法が思い付かなかった。
だが、ヤマトが一時的にでも2人分相手にできるのなら、この状況にも活路を見いだせる!!
「じゃあ、フォロー頼んだぞ!!」
「えっーー」
ヤマトの返事を聞かずに俺は剣を肩に担ぐ形で構え、槌の男に突進する。
槌のような重さ重視の武器は、基本的に細かい動きに適さない。だから今の俺の攻撃を弾くことはできず、受け止めるしかないのだ。
ならば、そこをつく。
俺は肉薄した瞬間、上段から剣を振り下ろすように腕を振るーー寸前で自分の剣を手放した。
結果、剣は俺の手を離れて地面に落ちるが、お陰で右手が自由に動かせる。
俺は右手を剣を振る軌道のまま振り下ろし、相手が防御に回した槌、その細い持ち手を掴んだ。
「なっ!?」
相手がなにか驚愕の声を出す。それには構わず、俺はそのまま掴んだ槌を自分の方へ思いきり引き、相手の体勢を崩したところで、前方に出てきた相手の顔面目掛けて、左手で《閃打》を叩き込む。
体勢を崩していたところにさらに違うベクトルの攻撃を受けたことにより、槌の男はその場に完全に倒れた。しかも《閃打》による硬直も発生しているだろう。
俺はその隙を逃さず、すぐさま地面に落ちている自分の剣を拾い上げ、倒れた男の右手首を切断するため剣を振り下ろす。
が、その瞬間、横合いから接近してきていた左手で片手剣を持っている男に斬りつけられ、HPがいくらか減る。
だがその攻撃は上手く体重がのせられなかったのか、ほとんど攻撃力はなかった。どうやら元々は斬られている右手で武器を持っているようだ。
そのおかげもあって、俺の攻撃そのものはあまり妨害されず、なんとか槌の男の右手首切断が成功した。
......なぜかこの場にいる部位破壊をされているプレイヤーは、肩からバッサリや、足を太ももからバッサリ、という斬られ方が多いが、そんなこと通常攻撃では相当のレベル差がないと無理だ。なので俺は右手首切断でなんとか対応させてもらう。
とにかく、これで部位破壊されていない敵は2人。奥にいるやつも、なぜかこちらを観察するような視線を向けてきていて気になるが、今はいい。
俺は片手剣の男を振り払い、ヤマトのもとへとんぼ返りする。
途中、それを妨害するように体のどこかが斬られているオレンジが2人進路妨害してくるが、剣を振って相手の武器に当てて弾き飛ばす。いくらなんでもそこまでのハンデがあれば俺も負けやしない。
こういう状況になって考えてみると、ヤマトがなんだかんだ言って2人を完全に押さえ込んでいてくれたので助かった。
ヤマトを襲っていた短剣の男を背後から《肩撃》で吹っ飛ばす。《体術》スキルは分かっていても吹っ飛ばせるほどの馬力があるのが良いところだ。
「で、2人相手しておいたけど、ここからどうするの!?」
ヤマトも俺が来たのに合わせるようにつばぜり合いをしていた刀を滑らせ、柄を相手の腹にぶつけた後、相手を思いっきり両手で押し退けた。
「ヤマト、こういう集団の攻略法って知ってるか?」
「攻略法......?」
俺は小さく笑みを浮かべる。
集団を相手にするときの攻略法。それは相手が人間だろうがmobだろうがあまり変わらない。
それは、相手のなかで一番強いやつ、もしくはリーダーを攻撃、撹乱することだ。
こういう集団で行動する奴らには、どうしても集団心理というのが働く。
あの一番強い人に従っていれば、リーダーに従っていれば上手くいくだろう、というような考えだ。
そしてその認識は集団全体に及ぶ。
ならば、その核である人物をつついてやればどうだ?
倒せないまでも、その人物が浮き足立てば?
もっと言えば、その人物が立てた作戦が乱されれば?
そうなれば、集団全体に混乱と焦りが生まれる。その隙をつけば、この大人数相手でも逃げることは可能だ。
いや、むしろこれほどの大人数が混乱に陥れば、落ち着くには相当の時間を要する。逃げることは可能どころか、容易にまでなるはず!
「ーーっ、コウキ!!」
ヤマトの声が響く。残った短剣の男と棍の男が同時に襲いかかってきたのだ。
ナイスタイミング。俺は心のなかで笑いながら棍の男に向けて剣を構える。
「ヤマト、一度でいい! 相手の攻撃をブレイクしてくれ!!」
「分かった!」
俺とヤマトはそれぞれ接近してくる敵に相対する。
敵も俺たちの会話を聞いていたのだろう。俺に向かってくる棍の男は、棍を上段に振り上げ、凄まじい勢いで振り下ろしてきた。
棍のようなリーチの長い武器での全力攻撃。それは威力が非常に高く、弾くことも難しい上にリーチが長いせいで、かわしながら相手の懐に入るのも一呼吸で、というわけにはいかずスピーディーには行えない。(まぁ、そのぶん懐に入ることができればかなり楽にはなるのだが)
ここではソードスキルは使いたくない。
だったら。
俺は体を左に一歩動かすことで、迫ってくる棍を体にかすらせるかどうかのギリギリでかわす。
ここで棍の男に向かって接近しても、先程言ったように返しの刀で棍を叩き込まれて終わりだ。
そこで俺は、かわした後、接近するのではなく、体のすぐ隣にある敵の棍に上から思いきり剣を叩きつけた。
ゴキィィン!! と鈍い音が鳴り響く。敵の棍は、上段から振り下ろしたことによりほとんど地面に触れているような状況にあった。そこを上から剣で叩いたのだから、棍は地面に完全に触れる上に、その結果起こるのは持ち手への強い衝撃だ。
これで武器破壊はできないかもしれないが、思わぬ方向からの衝撃によって武器をファンブルさせることぐらいはできる。
よし、これで準備は整った!!
俺はそこから間髪いれずに、奥にいる男とは反対の方向を向き、ソードスキルのモーションに入る。
「......なるほどっ」
俺の動作を見て、俺と同じく相手の攻撃を弾いたヤマトも狙いが分かったのだろう。俺に続いてスキルモーションに入る。おそらくは俺と同じ、『突攻撃』系スキル。
そして、短い予備動作を経て、俺、ヤマトの順にソードスキルが発動する。
俺が発動したのは《ブレイヴチャージ》だ。
「はぁぁぁぁああ!!」
スキルに沿って体が加速していく。
俺たちは確かに包囲されているが、それはあくまでも円上に回りを囲まれているだけだ。なにも人海戦術並みに人に囲まれているわけではない。
それならば、ある程度以上の突破力があれば包囲を突破することは可能だ。
今までは俺たち2人に敵3人が付いていたのでその『突破力』であるソードスキルを使用するタイミングがなかったが、それも今は問題ではなくなった。
......以前、ニックにこういった突進系のスキルは軌道が読まれやすい、と注意されたことがある。
確かにそれは欠点だろう。
だが、単純な突破力としては、無敵に近い力を持っている!
スキルの射線上にいた敵プレイヤーを吹き飛ばしながら前に進んでく。
そして。
「っしゃ!! 出たぞ!!」
遂に、敵の包囲網を突破した。
こうなれば後は簡単だ。後はただ必死に走って逃げきればーー
「......まさか、ここまでお前のtactics通りに動かされるとはな」
一歩を踏み出そうとした矢先、目の前には、先程まで俺たちの包囲の外側にいたポンチョの男が目の前に立っていた。
......ま、そこまで上手くはいかないよな。
さっきまでこのポンチョの男が立っていた位置からならば、いくら逆方向でも俺たちのスキルモーションを見てから動けばこうやって回り込むことも可能だろう。
しかも先程からこのポンチョの男はことあるごとにこの集団に的確に指示を飛ばしていた。このぐらいじゃあ完全に突破することはさすがに無理だろう。
でも、どんなプレイヤーでも2対1なら隙は作り出せる。
「ヤマト、突破するぞ!!」
俺は足を止めずに、遅れてやってくるヤマトに指示を飛ばしながら、切り下げ気味に横一閃に剣を振る。
横振りなのは、走りながらでは縦振りは力が入らないということと、相手の次の行動を封じるためにだ。
縦振りだと、先程の俺のように小さくかわした後にカウンターを放たれる可能性がある、が、横振りならばかわし方としては跳ぶか、しゃがむか、退くか、受け止めるかだ。
それらの行動は次の行動に移るのにはどうしても流れが悪くなる。1対1ならばそれでも問題はないが、今のような状況ならばこれが中々に効くはず。
そんな中、目の前のポンチョの男が選んだのは俺の剣を、自分の短剣で受け止めることだった。
普段ならば反撃を気にして、セーブして剣戟を放つところだが、俺の剣は受け止められてもいいので今回は、それこそガードごと吹き飛ばす勢いで剣をそのまま振った。
「ーーイッツ・ショウ・タイム」
ーーえ?
目の前のポンチョの男が小さく呟くのと同時に、俺の攻撃は男が構えた短剣に直撃した。したはずだ。
なのに、なんで。
なんで今、俺の剣は斜め上へ振りきられているんだ......?
おかしい、俺の攻撃が相手に短剣に当たる瞬間は見たし、感触もあったのに。
まるで俺が攻撃したのはただの幻影だったかのような......いや違う。感触はあったのだから。
今まで経験したことのない感覚と現象に、一瞬思考が停止する。
それも本当に一瞬だ。時間にすればストップウォッチでも測りきれないほどの刹那だ。それほどの短い時間の思考停止ですんだのも日頃の鍛練の賜物だろう。
だが、目の前のポンチョの男はそんな隙すらも見逃さなかった。
恐ろしいほどまでに鋭く、静かな突きが俺の喉元目掛けて迫ってくる。
喉に冷たいものを感じた瞬間。
「っ、危ない!!」
すんでのところでヤマトが俺とポンチョの男の間に割って入り、短剣を弾いた。
......危なかった。今、完全に反応できていなかった。
俺は警戒と恐怖を込めて目の前のポンチョの男を見る。
本当ならヤマトに礼を言うべきなんだろうが、今はそれすらもできる状況ではない。
今この場面で、このポンチョの男から目を離してしまえば、俺は死ぬ。それが分かった。
まずい、これじゃあ敵全体の混乱なんて無理だ。いや、それどころか安定感すら出てきてしまう。
「くそぉぉぉぉぉおおお!!」
俺とヤマトはほぼ同時にポンチョの男に肉薄する。
このポンチョの男は、間違いなく強敵だ。俺たち二人がかりでも勝てるかどうか分からないほどの。
そんな相手にこんな無策な特攻、愚行にもほどがある。それは分かっている。だが、俺たちには迷っている余裕なんてない。
このポンチョの男がこんな化け物だと分かった時点で一つの事実が決定してしまっているのだ。
俺たちは、後ろにいる連中に再び囲まれてしまったら、今度こそ本当に死ぬ。
もう俺たちには、このポンチョの男を残りの数秒で突破するしか生き残る道は残されていない。
俺は今度は刺突を、ヤマトは袈裟斬りを放つ。
......言うまでもないが、俺とヤマトは今日知り合った完全な初対面だ。
百歩譲って相手を信用することはできても、相手との連携を完璧に決めることなんてのは不可能だ。
ならば下手な連携など考えずにとにかく攻撃して、隙をうかがって逃げた方が懸命だ。
.......その隙を見つけられれば、の話だけどな。
それでも、やるしかない。
ポンチョの男は先に到達した俺の剣を、先程と同じ謎の方法で逸らし、ヤマトの刀と当てることで2人分の攻撃をかわす。
これだ。このいつの間にか攻撃の方向を逸らされている感覚。おそらく、受け流しの類いだとは思うけど、その予備動作がほぼ全くないからこっちの攻撃だけが勝手に曲がっている感覚に襲われるのか。
今度はヤマトが体を回転させて、体重も乗せた刀の左から右への横一閃をポンチョの男に放つが、男はそれを俺の時と同じように斜め上へ受け流してしまう。
ダメだ。他人が弾かれているところを見ても、武器があいつの短剣に触れた瞬間に勝手に軌道を変えているようにしか見えない......
だが、ヤマトの攻撃はそこで途切れなかった。
ヤマトは体勢を崩されつつも、流された右腕の反動を生かして左足での蹴りをポンチョの男の腕目掛けて放ち、直撃させる。
「Wonderful!! まるでハリウッドみてぇだな!」
ポンチョの男の右腕が大きく跳ね上がる。
「コウキっ!!」
「あぁ!!」
俺はスキルモーションに入る。
あの攻撃の逸らし方にはまだ突破口を見いだせないが、もうそれはいい。
とにかく、この一撃を意地でも当てて、この場から離脱する!!
俺の剣が左斬り上げでポンチョの男を襲う。
このスキルは片手剣単発スキル《ヘイスティ・アタック》。スキルの内容としてはただの斬り上げ一発だが、その攻撃速度は他の片手剣スキルと比べ物にならないほどに早い。
そのぶん、攻撃そのものは軽いのだが、相手の体勢を崩すことができればいい現状では、これほどに使えるものはない。
「ほう、選択は中々だな」
ポンチョの男は呟くと同時、体勢を整え、右手に持っている短剣を逆手に持ちかえると、短剣をそのまま振り下ろした。
そうして、俺の剣とポンチョの男の短剣は交わーーらなかった。
ガキィィン!! という音を上げて俺の剣が宙を舞う。
ポンチョの男の短剣が俺の剣の柄を叩き、弾き飛ばしたのだ。
なっ...... これは......《武器取落》!?
「聞いただけのskillだが、なるほど、使えるなぁ」
ポンチョの男はフードを被っているせいでそこしか見えない口の部分を、三日月のように歪ませる。
そして短剣を逆手に持ったままポンチョの男は俺に斬りかかってくる。
狙いはーーまたも喉元。
まずい! と思い、俺は寸前で半歩下がりながら首をすぼめて僅かに俯く。
「がっ、はぁっ......」
「ほう......上手くかわすもんだなぁ」
俺は2歩、3歩とたたらを踏む。
......よかった、まだ生きてる。
攻撃がヒットする瞬間、俺はヒットする位置を首から頬に変わるよう仕向けたのだ。
これも、一歩間違えたら目をやられて視界が悪くなっていた可能性があったが......上手くいってよかった。
スキルディレイが解けるのがあと一瞬遅かったらと考えると、ゾッとする。
いや、そんなことは後だ。
俺が後退したのと入れ替わるようにヤマトが前に出て、攻撃を放った直後のポンチョの男に対してスキルを発動する。
あの構えは......多分刀三連撃スキルの《三陣》だろう。Δ状に相手を斬りつけるスキルだ。
このスキルは特別発動が遅いわけではない。武器を完全に振りきっている状態の男になら、問題なく入る......普通なら。
攻撃するヤマト。それに対応するポンチョの男。
動きが速かったのは、ポンチョの男の方だった。
「なっ!?」
「お前、さっきの戦闘からactivityが遅いままだぜぇ? 惜しかったなぁ?」
ポンチョの男はヤマトがスキルモーションに入った瞬間、かわすために退くのではなく、逆に無理矢理一歩踏み出すことでヤマトに体を押し付け、ヤマトのソードスキルをブレイクしたのだ。
そしてその密着状態は、刀を持つヤマトの距離ではなく、短剣を持つ男の距離だ。
その短剣で刺されればヤマトは完全にアウトだ。
それはさせない!!
ポンチョの男が短剣を引いた瞬間に俺も前に出て、ヤマトの肩を左手で掴む。
そして、思いきり手前に引いた。
結果、再び入れ替わる俺とヤマトの立ち位置。
いつかの俺とヨウトを思い出すが、あの時とは違う点がある。
それは、俺が『右手』を大きく引いていることだ。
力を込めると、俺の右手が淡く光を纏う。
「はぁぁぁぁぁああ!!」
ポンチョの男の顔面目掛け、拳を叩きつける。
今回は、ポンチョの男の謎のガードも間に合わなかった。
入った!!
......一瞬でも、そう思ったのがいけなかったのだろうか?
ポンチョの男は、スウェーのみで俺の拳をかわしていた。
しかもそこからバック宙のように体を回転させ、蹴りを俺の顎に入れてくる。
「がぁっ!!」
「おー、おー、あぶねぇあぶねぇ」
ドサリ、と音を上げて、今度こそ俺の体は地面に伏せる。
そして、それがタイムアップのブザーとでも言うように、俺とヤマトは再びオレンジプレイヤーたちに囲まれてしまった。
......くそ! 時間切れかよ......!!
俺もヤマトもまだHPは残っている。だが、それだけではこの状況をどうにかする要素にはならない。
まだ、なにか方法はないのか? まだなにか、生き残る道は......!!
体を起こして一発逆転の手段を考えるが、なにも思い付かない。
回りを囲んだオレンジたちが襲いかかろうとしてくるが、それをポンチョの男が止めた。
それからポンチョの男はパチパチと手を叩く。
「あー......お前らいいなぁ。刀の奴はtop gearなら《黒の剣士》レベル、そっちのガキも面白いもんを持ってる......たまには気まぐれを起こしてみるもんだぜぇ」
「......ははっ、ありがとう」
ヤマトがどこか適当に言う。
賛辞は受けとるけど、話は聞くつもりはない、って感じだ。
......本当なら、こうしている間に何か武器を握っておきたいのだが、なにか行動を見せれば、こいつらは間違いなく襲いかかってくるだろう。下手な行動はできない。
この会話を切欠に、なんとか突破口を見つけられないか? そう思考を巡らせる俺をよそに、ポンチョの男は俺たちに言う。
「なぁ、お前ら。ウチに入らねぇか?」
「やだね」
っておい、ヤマト!
少しでも状況を良くするために何か考えろよ!! そんな脊髄反射で会話すんな!!
「おいおい、そんなつれねぇこと言うなよ? 中々にいいproposalだろぉ? どうも刀のお前は元々ソロプレイヤーみたいだしなぁ?」
「まぁね。でもあなたたちが実はちょっと狂気的なドッキリが大好きなギルド、とかじゃなければ僕は入る気はないかな? 人殺しなんて前衛的すぎて失笑ものなこと、僕は興味ないからね」
こいつ、なんかメチャクチャ口悪いな......!!
言ってることには100%同感だけど、そんな相手を挑発するようなこと......
俺が内心冷や汗をかきまくっていると、ポンチョの男はくくっと皮肉っぽく笑った。
「こいつはぁ、おもしれぇ!! いいなお前、頭の中がイカれてる。俺たちと同種の人間じゃねぇか!!」
「全然嬉しくないね」
「はっ、それは残念だ」
そこで会話を切ると、今度は俺の方に顔を向けてきた。
そうして数秒間、なにも言わずに俺の顔を見ると、男は再び笑った。
ただし今度は、どこか友好的な、歓喜の笑み。
「......お前は、possibilityだな」
「.......?」
possibility......?
この人はなぜこんなにも外国語を混ぜて話すのだろう? 言葉の意味が分からなくて意思が読み取りづらい。
俺が首を捻っていると、
「ははっ、やっぱりいいぜお前ら、おもしれぇ。そのstrength! そのpossibility! この場を切り開いてもっと見せてくれよぉ、なぁ!?」
ポンチョの男が言うと同時、回りを囲っているオレンジプレイヤーたちが一斉に襲いかかってくる。
まずいっ、俺は今武器を持っていないし、ヤマトもやっぱり不調ぎみらしい。
逃げ道がない。打つ手がない。
俺とヤマトにいくつもの攻撃が降ってくる。これだけの数となれば、対処するのは無理だ。
やられるっ!!
「いやいや、この場を切り開いても、お前らとなんか二度と会わねぇよ、バーカ!!」
「コウキには、悪の組織とか似合わないと思うし」
ガキィィイイン!! と音を立てて俺たちに迫っていた武器のいくつかが宙を舞った。
それに少し遅れて、空中から何かが落ちてくる。
「......ミウ、ヨウト!?」
「もー、コウキ? 置き手紙するのはいいけど、せめて場所ぐらい書いてよ。探すのに苦労した」
「それに見つけたと思ったら、まーた厄介ごとに巻き込まれてるし......実は俺とかミウちゃんじゃなくて、お前が厄介ごと引き付けてるんじゃないか?」
いつも通りな雰囲気で俺に話しかけてくる2人。
そこには今までの生死をかけたような空気はなく、どこまでもいつも通りな空気が流れている。
俺が突然の展開に着いていけなくなるが、状況は変わっていく。
「そっちにいるのは、被害者さん? それともウチのコウキを助けてくれた人? ま、どっちにしろコウキがお世話をかけました」
「いや、こちらこそ......」
「私たちも状況打開に協力するよ」
そう言って、ミウが剣を構える。
その際、俺の方を一瞥し、心配ご無用、と言わんばかりにウィンクしてきた。そのあまりにもカッコいい一連の動作に一瞬鼓動が跳ねたような気がしたが、重要なのはそこではない。
ポンチョの男に、動きがあった。
「ちっ......なんだよ、良いとこだったのによぉ」
「それは悪かったな。ま、今は退いてくんない? そっちにも怪我人は多いみたいだし、リーダーっぽいあんたも4人相手はキツいだろ?」
ポンチョの男に向かって、ヨウトが言う。
こういう嗅覚はさすがだ。ポンチョの男の強さまでもなんとなく感づいてるっぽい。
ヨウトの言葉を聞いて、ポンチョの男は何かブツブツと呟く。と、それにヨウトが返す。
「ーー ーーーー ー ーーーーーーー」
「ーーーー ーーーーー ーー ーーーーー」
「......? ーーーーー ー ーーーー」
......この2人、何語で話してるんだ?
聞いたことのない言語で話す2人。何を話しているのかは分からないが、表情からするとヨウトがポンチョの男をなにか挑発して、それが上手くいっているっぽい。
そしてさらに何回か話すと、ポンチョの男は大きく舌打ちして「おい!!」と苛立たしそうに言った。
それが合図だったのか、俺たちを囲っていたオレンジプレイヤーたちは、一斉に俺たちから距離を取り始めた。
よく分からないが、どうやら撤退してくれるらしい。
そしてポンチョの男は俺たちをもう一度見ると、
「ーーーー ーーーーー ーー ーーー」
また何語かも分からない言葉を言って、他のオレンジプレイヤーたちと同じように俺たちから距離を取り、そのまま闇に紛れていった。
しばらくは俺の《索敵》スキル範囲内にプレイヤーアイコンが映っていたが、10秒ほどすると、完全に消えた。
......とりあえず......助かったのか?
それを実感した途端、足腰から力が抜けそうになったが、なんとか倒れることだけは堪える。
「なぁ、ヨウト。あいつなんて言ってたんだ?」
「あぁ!? 嫌なやつだったよ!!」
おぉ、珍しい。ヨウトがここまで苛立ちを全面に出してくるなんて。
「いや、お前らの会話じゃなくて。最後だよ、最後」
「ん? あぁ......『俺たちはいつでもお前たちを見ている。それを忘れるな......』だと。気持ち悪っ」
そう言って、本当に体を震わせるヨウト。
本当、ヨウトがここまで拒否反応を示すだなんて......一体どんな会話していたんだろう?
「コウキ」
「なんだ、ミウ?」
「.......」
「.......」
「.......」
「.......」
「.......」
「.......ごめんなさい」
「私まだなにも言ってないけど」
ミウから声をかけられて、そのまま視線の衝突。先に目を逸らして負けたのは俺でした。
いや、でも今回は本当に俺が悪かったと思ってます。さすがに後先考えてなさすぎた。そういう考えを含めて謝ったのだが、それはミウとしては少し不服らしく、口をつき出して拗ねている。
「う~......そりゃあ、コウキがまた自分のこと省みらずに行動したのは怒りたいけど......」
「コウキが誰か本当の他人のために体張るなんて中々ないもんなぁ。いやー進歩進歩!」
ミウとヨウトが続けて言ってくる。
俺が他人のために頑張ることはそんなに珍しい......な、確かに。
少しずつ、自分のなかで何かが変わっているのだろうか? よく分からない。
だが、ミウと出会ったあの日。あの日の俺と比べて少しでも成長できているのなら、それは......
「......コウキ、なんか嬉しそう?」
「違います」
ミウから顔を背けて言う。そして小さくため息をつく。
いや、とにかくこの会話はもういい。本題に入ろう。
俺はそこでようやっと一人でゴソゴソ動いているヤマトに向き直った。
ヤマトはコウキとその愉快な(?)仲間たちがなんか楽しそうに話している間、一人草むらのなかに入って結晶が入ったポーチを探していた。
ポーチそのものはどこにでも売っているからどうでもいいのだが、中の結晶は中々に高価なものだからそうもいかない。
ヤマトの勘からすれば、持っていかれていない限りはこの辺りに落ちているはずなのだが......
草むらに手を突っ込む、ない。また突っ込み、ない。またまた突っ込む、痛い、mobに噛まれた、刀で倒す。
(おかしーなぁ、攻撃の方向からこの辺にあると思ったんだけど......)
「ヤマト」
これはいよいよ買い直すしかないかなぁ、とヤマトが諦めかけていると、コウキに声をかけられる。
いつの間にか3人の状況報告は終わって、ヤマトとの意見交換のターンになっていたようだ。
「なにやってたんだ?」
「んー、さっき言ってたポーチ探してる。どうもさっきのやつらに持っていかれたっぽいけどね」
命の代わりに結晶を取られたと考えれば少しはマシになる......と分かってはいても、やはり微妙に釈然としない。
ヤマトが小さくため息をついていると、コウキの仲間の一人「ねぇねぇ」と声をかけてくる。
肩にかかるほどの黒髪。どこか活発そうな雰囲気、だがどこか爽やかさを感じさせる人物だ。
(......? 男......あ、いや、女の子......か、な? あれ、どっちだろう?)
「? 『私』の顔、なんかついてる?」
「いや、そういうわけじゃ、ごめんごめん。なに?」
よかった、女の子だった。ヤマトは内心で安堵の息をつく。
いくらマイペースで無遠慮でオブラートなんて言葉を欠片も知らないヤマトでも、男女を間違えるのは生死に直結することは分かった。
今日に限ってミウは装飾品を身に付けていなかったので、そのせいでヤマトも焦ったのだろう。
その、他のパラレルワールドならヤマトに泣かされていそうな気がする少女は、右手をヤマトにつき出した。
「君が探してるポーチって、もしかしてこれ?」
少女が右手に持っていたのは、中に結晶がいくつか見え隠れしている、少し茶色がかったポーチ。ヤマトが今の今まで探していたものだ。
「わぁ! ありがとう、それどこにあったの!?」
「なんかここにくるまでに無造作に転がってたから落とし物かなぁって。よかったよ、持ち主が見つかって」
可愛い、というよりは爽やかと形容される笑みを見せる少女。
それを見てヤマトは、これは男と言われても疑わないかもなぁ、となんとなしに思った。
「コウキのことはもう分かるんだよね? 私はミウ、で、あっちがヨウト。よろしくね。えっと......ヤマト......くん?」
「ちょっと待ってミウちゃん、なんで俺は最初から呼び捨てだったのに、ヤマトはくん付け?」
「ん~......なんかヤマトくんは妙に落ち着いて見えるからかなぁ?」
「なんか間接的に落ち着きがないって言われた!!」
「ミウ、俺は!?」
「コウキ? コウキは.......コウキだから?」
「どういうこと!?」
またワーワー話し出す3人。
なんか賑やかな人たちだな、とヤマトは思った。ヤマトの回りは静かと言うか、落ち着いた感じの人が多い。
強いて言えば、カリン(ヤマト視点では)が賑やかに入るかもしれないが、それでもそれはヤマトが一方的にからかう感じで、こんなにコロコロと話が転がるということはあまりない。
ただ、ガヤガヤしているのはそこまで得意ではないヤマトでも、あまり嫌な気分にはならない賑やかさだ。
世の中いろんな人がいるなぁ、と考えながら、このままここにいても仕方がないと思い、ヤマトはコウキに近づく。
「コウキ」
「ん?」
「ありがとう、君のお陰で助かった」
ヤマトが言うと、先程まで騒いでいたコウキの雰囲気が大きく変わった。
正の雰囲気から、負の雰囲気へ。
コウキが皮肉ぎみに笑って言う。
「......そんなことない。結局俺は足手まとい同然だったし、それにヤマトを助けられたのはミウとヨウトのお陰だろ?」
「それでも、君がいたから僕はこうして生きてる」
「......」
ヤマトの言葉を聞いても、まだ釈然としていなさそうなコウキ。
なぜそこまで自分のしたことを信じられないのだろう? とヤマトは不思議に思った。
シリカの時にも似たことがあった。だがシリカの場合は完全な謙遜だったが、コウキの場合はもっと根深そうな何かがあるような気がヤマトはした。
ふと隣を見ると、ヨウトがどこか寂しそうな顔をしているのが見えた。
(......誰にでも、1つや2つ、抱えているものはあるか......)
コウキもヤマトも、そして多分ミウも、なにかを抱えている。
助けたい、と、力になりたい、と、ヤマトは強く思った。
ヤマトは、コウキたちのことは何も知らない。今まで見かけたことも、聞いたこともない。完全な初対面だ。
それでも、力になりたい。できることならなんでもしたい。
......だが。
「......」
ヤマトは改めてコウキたちを見る。
そこは、どこかもう完成していた。
言うなれば、ひとつの世界がもうひとつの世界が出来上がっているのだ。
お前はいらない。これは俺たちの問題だ。そう言外に言われたよう気がヤマトはした。
(なんだか、羨ましいな)
そんなひとつの世界をコウキたちが確立していることが、少し羨ましい。
ヤマトは基本的に誰かに依存したりしない。誰かと共に行動するようなことはそこまで推していないのだ。
カリンが着いてきたり、シリカとたまに出くわしたり、エギルと井戸端会議したりはしても、それでも誰かと手を取り合って立ち向かう、ということはしないのだ。
理由は特にない。ただ機会や動機がないだけ。
だからこそ、ヤマトはコウキたちのような、誰かが誰かを支え、誰かが誰かを守るような、そんな関係に、憧れる。
これは、僕なんか必要ないな、とヤマトは区切りをつけた。
「ま、君にお礼言ったのも僕の自己満足だから、なにか勘に触ったのなら忘れてもらっていいよ?」
じゃあね、色々ありがとう。そう言ってヤマトは踵を返し、歩いていく。
いつか自分もあんな人たちと出会えるのだろうか? そんな思いを胸に秘めながら。
そして、カリンへ感謝の品を、ようやく渡しに行けることを、小さく喜びながら。
主人公2人の戦闘回でした。
まず......本当にすいません! またすごい間が空いてしまいました!
新しいゲームが出たり、年末で色々あったり、表現に迷いまくったりして、更新が遅れてしまいました。
これからももしかしたら(というかほぼ確実に)、こういうことがあるかもしれませんが、その時は、本当にすいません。
ですが、完結せず、ということはないと思うので、生暖かくも、待っていてもらえれば幸いです。
本編の方は、主人公2人の考え方や、立ち位置が異なるように書いてみました。(またいつものように書けているか大変に不安ですが......)
それと今回初出演の例の人。あの人の口調が分かりづらすぎて四苦八苦しました。未だにどんな感じなのか上手く掴めていません。
次回は......もうちょっとこのシリーズが続きます。