ニック「あら?」
ミウ「うっ......ニックさん、こんにちは」
ニック「こんにちは。今日はコウキは一緒じゃないのね」
ミウ「コウキは友達と買い物です」
ニック「あら、その友達にあなた負けちゃったのね」
ミウ「にゃっ!? そ、そんなことはないです!! 負けてません何も!! ......負けてないもん、相手がヨウトだからコウキも断れなかっただけだもん.....」
ニック「意地を通すなら最後まで通しなさいよ」
ミウ「うぅ......そういうニックさんは?」
ニック「最近溜まっていたから。ちょっと骨のある相手を探してるところよ」
ミウ「まだ辻斬りみたいなことしているんですか......」
ニック「辻斬りだなんて、人聞きが悪いわね。私はただ欲望に従って腕のたつプレイヤーと戦っているだけよ」
ミウ「ほとんど同じじゃないですか......」
ニック「そんなに言うのなら、あなたがかかってきなさい。そして私のストレス発散に付き合いなさい」
ミウ「嫌です。『今はまだ』勝てる気がしませんから」
ニック「......へぇ、前よりも成長しているじゃない」
ミウ「それでもニックさんに勝てなかったら、あまり意味ないです。というか、絶対にそんなこと思ってないですよね?」
ニック「そんなことないわよ。それに私、あなたの才能はかなり買ってるわよ? 才能『は』」
ミウ「......私、そんなに才能なんてないですよ?」
ニック「それは謙遜ね。あなた、多分才能だとか潜在能力だけで見たら、この世界でもかなり上よ? それこそーーーー化け物クラスの、ね」
オレンジの男を襲ったプレイヤーと正面から睨み合う。
いや、正しく言えば相手は俺のことを睨んでいるわけではなくただ見ているだけかもしれない。
そう思わせるほどに、男は自然体だった。
自然体のまま、俺に対して恐ろしいほどの殺気を放ってきているのだ。
前に会ったときも思ったけど、こいつ、かなりヤバイ。
オレンジの男はこのプレイヤーに武器を弾かれて右手を踏まれている状態なので動けそうにない。
これではどう助けようとしても、このプレイヤーと言葉にしろ剣にしろ、一度は接触する必要がある。その危険性を考えて、心の中で苦笑いする。
少しでも隙を見せたら殺られるような奴と戦えと? 冗談じゃない。
撤退の可能性も考えにいれつつそのまま睨み合っていると、先に行動に出たのは相手だった。
プレイヤーは大きくため息をつく。
「......あんたたち、こいつの仲間?」
こいつ、というのはもちろん右手を踏まれて動けなくなっているオレンジのことだろう。
そしてプレイヤーが言うのと同時に、《リザードマン》を倒しきったのか、ミウが俺に追い付いてきた。
「いいや、俺たちはそいつが襲っていたプレイヤーを助けていたんだ。それでそいつを《黒鉄宮》に連行しようとしていた時、あんたが来た。それと、俺の名前はコウキ」
「私はミウ」
「......ふーん? 俺はシバ」
俺の説明に納得したのかは分からないが、シバは名乗った後観察するように俺とミウのことを見てくる。
普通、初対面のプレイヤーにさっきみたいに自分達の行動を説明することはない。
そんなことをこの世界でやっていたら、自分達の情報が駄々漏れになり、圧倒的に不利な立場になってしまうからだ。
だが、そんな常識はこの男の前では適用されない。
先ほど俺にオレンジの仲間かどうかと聞いてきたときも、シバは殺気をおさめていなかった。
そして、あからさまなほどに目で語っていたのだ。
ーーーー少しでも納得できなければ殺す、と。
......ははは、参った。本当、どうしましょうかねぇ。
俺が心の中で愚痴っていると、シバは不意に俺たちから視線を外し、
「なっ、ちょっと待ってよ!!」
「......なに?」
ミウの制止の声に再び視線だけを俺たち、というよりミウに向けてくるシバ。
その目には先ほどまでよりも確かに苛立ちが募っている。
ここはミウを止めるべきか、とも考えたが、それによって余計に話が長引いて苛立たれても困るので口を閉じる。
それに、ミウだってシバのヤバさは分かっているはずなんだ。俺よりも全然感覚が鋭いのだから。
だがそれでも止まらないのは、やはりミウの決意ゆえか。
「その人、どうするの?」
「どうするって、殺すけど?」
殺す。
そのあまりにも率直で生々しい言葉をなんの躊躇いもなく言い放つシバに、一瞬気圧されるミウ。
だがそれも本当に一瞬のこと。ミウはすぐに立て直すと再びシバに言い返す。
「それはやりすぎだよ。君はその人となんの関係もないんでしょ? だったら私たちみたいに《黒鉄宮》に連れて行くだけでいいじゃない!」
「俺もこいつの仲間に襲われたんだよ。まぁ、そいつらも返り討ちで殺ったけど。自分の保身のため、なによりムカついたからこいつを殺る。なにか悪い?」
他の犯罪者プレイヤーは、シバに倒されていたのか......敬意は分からないけど、多分さっきのプレイヤーを襲った後にどこかへ移動中、犯罪者プレイヤーの集団がシバと遭遇した、ということなのだろう。
でも、これはマズイ。
話の流れが完全にシバに行っている上に、いくらかシバにオレンジの男を攻撃する正当な理由がある。
その上で、ミウは退かなかった。
「それでも......殺すのはやりすぎだと思う」
「......」
ミウの言葉になにか思うところがあったのか、シバはゆっくりと両手剣を下ろした。
すごいな......
もう話し合いでシバを説得することは不可能なことは、ミウも百も承知だろう。
それでも、ミウは諦めない。
助けられる可能性がある命を、目の前で消えつつある命を諦めない。
この世界では、ほとんどのプレイヤーが自分に縛られている。
恐怖する自分、自分の命が大事な自分、諦める自分のような、自分の弱さに縛られている。
なのにミウは、そんな世界の中でも誰かを第一に動いている。
本当に、正義のヒーローのような強さを、心の中に持っているのだ。
それは、どれだけ尊いことだろうか?
......だが、現実はそれだけで優しいルールが適用されるようになるほど出来てはいなかった。
「めんどくさ」
男はまたため息をつく。
次の瞬間には、ミウがシバと鍔迫り合いをしていた。
ーーーーなっ!?
今まで正面5メートルほどの距離にいた人物が、いつの間にか自分の隣に立っていたことに遅れて気がつく。
見えなかった......まさか今の一瞬でこの距離を潰して、しかも一撃放ってきたのか!?
今の攻撃に合わせることができたミウもすごいが、視界から外れるほどの速度で攻撃を放ってきたシバは完全に別格だ。
いや、よく見れば浅くとだが、シバの両手剣がミウの肩を斬っている。それをシステムにプレイヤーへの攻撃と判定されて、シバのカーソルがグリーンからオレンジに変わる。
驚愕している俺や困惑しているミウに対して、シバは小さく声を上げる。
「......へぇ、今のに反応するんだ」
それは今までの相手に苛ついてた声ではなく、ミウに対して興味を持った風な口調だった。
シバがすぐさま腕を引いたかと思うと、次の瞬間にはガガガキンッッ!!! という、とても金属製の剣からとは思えない凄まじい音が二人の間から鳴り響く。
視界の隅でなにか動いていたのでそちらを見ると、オレンジの男が逃げ出そうとしていた。が、俺と同時にシバも男に気付いたらしく、ミウに向かって突進していたのをワンステップ入れることで進行方向を変え、一気に男に接近する。
どうやら、オレンジの男のことを諦めていないようだ。
しかしシバの動きに辛うじてのとこで反応したミウが、男とシバの間に割って入るように立ち塞がり、シバの剣を受け流す。
ミウが踏ん張るなか、オレンジの男は今の攻撃で完全に腰を抜かしてしまったらしく、もう声すらも上げられなくなってしまった。
だが、正直今の状況においてはそちらの方がありがたい。さすがにこんな状況であんな奴に気を使っている余裕はない。
それに、今はミウだ。
ミウはシバの攻撃を全て完全に流しているが、その様子は明らかに防戦一方だ。
俺は現状を打開するためにも走り出す。
向かう先はシバの背後だ。
正直な話、今の俺ではあの二人の攻防に着いていくことは難しい。だがそれは、真正面から正々堂々戦ったらの話だ。
正々堂々が無理ならば、策を弄せばいい。
俺の攻撃ではどれだけ良いものを放っても、シバには届かないと思うが、背後からの攻撃なら少しぐらいは意識を向けさせることができるかもしれない。
ほんの一割でも、それ以下でもいいから、シバの意識を俺に向けさせることができれば、ミウならシバ相手にも一撃入れられるだろう。
ミウがまだ困惑しているのは気がかりだが......それはもう、ミウに任せるしかない。
俺は剣を大きく引き絞り、シバの背中を斬りつけようとする、が。
ゾワリッ!! と、シバが俺の攻撃の射程に入った瞬間、背筋に氷柱を突き刺されたような悪寒が走る。
俺はその暴力的なまでの、体から発せられた止まれという合図に、思わず一歩後ろに下がる。
それとほぼ同時に、淡い光を帯びた両手剣の刃が男の回りを走った。
......今のは、単発両手剣スキル《テンペスト》だと思う。
思う、というのは、スキルの起こりがあまりにも自然で、スキルだと思えなかったからだ。
《テンペスト》は《ホリゾンタル》などと同じで範囲攻撃スキルだ。なので攻撃はミウにも届いていたが、辛うじて防御している。
......くそっ。シバが圧倒的に強いのは分かった。でも、ここまで......
普通、いくら強いからって、背後からの攻撃に完全に合わせるなんてそうそう出来ることじゃない。今の攻撃はまさに後ろに目がついているのか、と言いたくなるほどのタイミングだった。偶然だなんて言えない。
シバを見るが、俺のことは全く見ていない。
......興味はないけど、邪魔するなら殺すってか。
シバの攻撃を見て、ミウも危機感を覚えたのか、まだ僅かな和解の可能性にかけているのか、口を開く。
「なんの関係もないのなら、自分から誰かを殺さなくてもいいじゃない! 殺す以外の選択肢は本当にないの!?」
「......なにも関係がないからこそ、殺しても良いんじゃないか? 大体、俺からすればあんたたちがなんの関係もないそいつを助けようとしていることの方が理解不能だよ」
「......例え、関係がない人だとしても、目の前で誰かが死んでいくのは嫌だから。だから助けるの」
「......ふーん」
シバはそうとだけ返すと、軽く目を閉じた。まるでミウの言葉を口の中で転がして、しっかりと受け止めるように。
てっきり、ミウの言葉を頭から否定してくると思っていたので、少し意外に感じる。
それに今までの会話から、シバはなんとなくだが、俺たちよりも年下なイメージを受ける。
年下なのにここまで誰かを殺すことに躊躇いがないことには驚きだが、シバは絶対悪、というわけではない気がする。
と、言っても、だから説得できるというわけではないけれど。
「なら、俺を倒して止めてみせなよ!!」
シバは小さく笑うと、再びミウに斬りかかる。その攻撃は今までよりも過激で、容赦がないように見える。
普通のプレイヤーなら、数秒後には冗談なしでミンチになってしまいそうな、嵐のような攻撃。
......だが、今までと違うのはミウも同じだった。
先ほどよりも強く、先ほどよりも速い二つの剣戟がぶつかり合う。
突然のミウの変わりように、シバも小さく目を見開いていた。
「......分かったよ」
ミウが、今まで纏っていた空気をがらりと変える。
その誰かを威圧させるようなミウの雰囲気は、俺も一度見たことがないものだ。
ミウは、シバに向けて剣を構え直す。
「君の言う通り、君を倒して止めてみせるっっ!!」
SIDE Miu
コウキなら、きっとこの男の子が言うように、こんな犯罪者プレイヤーのために命を懸けるなんて間違っている、って言うと思う。
多分、その考えは正しい。
それでも私は相も変わらず、目の前で消えて、死んでいしまいそうな人が誰であろうと、ただ見過ごすなんてことはできない。
だってそれは、なんとかできる可能性を自分から潰しているのと同義だから。
自分が動いてそのなんとかできる可能性が高まるのなら、そっちの方が良いに決まってる。
それが今回の場合犯罪者プレイヤーだった。ただそれだけの話。
私は、誰かを助けるために誰かを諦めるなんてことは絶対にしたくはない。
だから私は、いつものように全力で手を伸ばす。
「はぁっ!!」
私は、この男の子を『止めて』みせる。
私が連続で叩き込んだ剣戟をシバ(......くん? 年下っぽいし)は全て受けきる。でも、その表情からは今まであった余裕が消えた。
その代わりに現れたのは、悦び。ようやく自分の力を存分に発揮できる相手に出会えた。私の自意識過剰でなければシバくんの表情はそう語っている気がする。
私はさらに連続して剣戟を叩き込む。それに合わせるようにシバくんは両手剣で私の攻撃を叩き落としていくけど、防がれなかった剣戟がシバくんの体を掠めてく。
必要なこととはいえ、同じプレイヤーの男の子を自分の手で傷つけるのはどうしても抵抗を感じる。でも今は飲み込むしかない。
どうやら、速さに関しては私の方が上で、攻撃力に関してはシバくんの方が上みたい。
その場その場の状況判断能力は今のところは互角。そのせいで一進一退の攻防が続く。
シバくんが私の体ごと砕かんとばかりに私が防御に回した剣の上から剣を叩きつけてくるのを、私は小さく後ろに跳ぶことで威力を殺し、攻撃の勢いのままにさらに後ろに跳ぶ。
私が着地した瞬間を狙ってシバくんは両手剣を横一閃に振ってくる。
それならと私は、後ろに下がったことで体にかかるベクトルを地についた足を踏ん張ることでそのまま逆のベクトルに変える。
つまり、振っている最中のシバくんの剣に向かって飛び込む。
そしてーーーー相手の武器の柄めがけて剣を全力で叩き込む。《武器取落》だ。
完璧に捉えたタイミング。
「なっ!?」
でも、シバくんは私の攻撃が当たる直前に手首を使って両手剣を上空に放った。
しまった。今回の私の《武器取落》は相手の手首じゃなくて、武器の柄を狙ったものだ。
なのにシバくんに自ら武器を手放されたら、私の攻撃は空を斬るだけだ。
しかも、シバくんは剣閃のの残りをなぞるように振った腕の遠心力をそのまま利用して、その場でくるりと回転する。
シバくんの背がちょうど私に向いたとき、直前に上空に放っていた彼の両手剣が本人の手元に降ってきて、見事キャッチする。
なるほど、上空に放った剣の軌道も最初から計算済みと......
恐ろしいほどに高レベルなこと私の目の前で行われているけど、感心している場合じゃない。
シバくんはさらに体を回転させてそのまま私を斬りつけてきた。それを相手の懐に自分から飛び込むことでなんとかかわす。
「まだまだぁ!!」
さらにすぐさま体を起こしてシバくんの右側から斬りかかるけど、すぐさま防御されてしまった。
互いに後ろへ後退して、一度一呼吸いれる。
......それにしても、ここまで素早く正確に両手剣を扱えるなんて。
普通、両手剣の特性というのはメリットとしては片手剣以上の攻撃力、攻撃範囲。デメリットとしては武器が重いことによる隙が大きい大振りな攻撃。そして同じ理由から素早い動きがしにくいことだ。
あとあるとするなら、『両手』剣なのに、振るだけなら片手でも筋力値しだいではできることだ。
一応片手が空くことで、攻撃にバリエーションがでるといえばでるけど......これはどちらかといえばデメリットだ。
両手剣を片手で持つということはいうことは、ただでさえ重い武器をさらに重くしているってことだし、武器を振るスピードを殺してしまう。つまり両手剣のメリットの攻撃力の高さを自ら放棄するということになる、
しかも、ソードスキルを使うときはいちいち両手に持ち変えなくてはいけない。
......だというのに、目の前にいる男の子は両手剣を片手で持った上で、片手剣以上の速さ、精密さを維持している。
これはもう、彼自身の圧倒的センスだとしか言いようがないと思う。
「ふっ!!」
そんなわけで、彼の攻撃を正面から受けるのは非常にマズイ。彼相手に少しでも動きを止めてしまったらあとは一方的な展開になってしまうからだ。
鍔迫り合いも少しはできるだろうけど、その場合有利なるのは膂力のある向こうだ。
だからシバくんの攻撃は受け止めるのではなく、完全にかわすか、最低でも受け流すことが条件。
ボス相手にこの考えならまだ分かるんだけど、プレイヤー相手にこんな考え方をしなくちゃいけないというのが、彼の異常性を明確に表してると思う。
そんな考えのもと私はシバくんの突きを身を捻ることでかわしつつ、左足を一歩シバくんに向けて踏み出し接近する。
そのままカウンター気味に攻撃をしかけようと思った瞬間、私は動かし始めていた右腕に急制動をかけて、全力で頭を下げるようにしゃがむ。
次の瞬間には、私の頭の上をシバくんの両手剣がスゴい音をたてて通過していた。彼は突きに出した両手剣を、無理矢理横振りに起動変更したんだ。
本当に、化け物みたいな子だな......
これほどすごい力、いくらシバくんが天才と言われるようなタイプであっても、ちょっとやそっとじゃ到達できないレベルのものだ。
それを躊躇いもせずに、殺しに使っているということが、すごく悲しい。
彼を止めないと。その気持ちが私の中でさらに大きくなる。
剣の柄を強く握る。
現状では、私の方が有利だ。
私は彼の攻撃を辛うじてとはいえいなしているのに対して、彼は極僅かずつではあるけど私が掠めた攻撃のダメージが溜まっていっている。
確かにシバくんの攻撃を一撃でももらえば、私が今まで与えたダメージなんて目じゃないほどのダメージをもらうけど、このまま上手くいけば私の有利は揺るがない。
それに、私が、いや、
「はぁぁ!!」
「ちっ......ちょこまかと......!!」
シバくんの背後、から放たれるコウキの攻撃だ。
普通の攻撃ならシバくんもかわすなり迎撃するなりできるんだろうけど、彼が攻撃に転じる瞬間、彼が防御に入る瞬間など、コウキが絶妙なタイミングで攻撃してくるせいで随分と動きがぎこちなくなっている。
シバくんはコウキからの攻撃は《テンペスト》で私を巻き込むようにするか、二人分の攻撃をかわすかで対処しているけど、スキルを使えばどうしてもディレイが発生するし、無理にかわせば体勢が崩れる。結果的に彼は後手に回り続けている。
コウキも最初はタイミングが掴めなくて危ない場面もあったけど、今はかなりシバくんの動きを制限している。さすがはコウキだ。
そんな状態でもほぼ互角な戦いを演じているシバくんは本当にすごいと思う。
それでも、遂に彼にも限界が来たのか、防御し損ねた私の突きが彼の体めがけて突き進む。
が、これで決まったか。そう私に全く思わせないほど無駄なく、彼はスウェイのみで私の攻撃をかわしてしまった。
私としては、今のタイミングの攻撃でもそんなに綺麗にかわされてしまうのかと唸りたかったけど、何が気に食わないのかシバくんは顔をしかめた。
彼は接近状態だった私から離れると、聞いてくる。
「今の攻撃、本気なら俺の体に当てて止めにできた......どうして当てなかったの?」
「言ったでしょ? 私は君を『倒して止める』って。私は君を殺すつもりは、毛頭ないの」
私の言葉に何も返さずにじっと見返してくる。
その目には、いくつもの感情が写り込んでいるようにも見える。
チラリ、と私はコウキの様子を見る。コウキは私たちの会話に対しては完全に不干渉を決め込んでいるのか、何も言わない。
......確かに、私はシバくんの言う通り攻撃は繰り出しているけど、直撃になるような攻撃は一切していない(《武器取落》は別として)。大体が彼の剣に向かってか、彼にギリギリ掠るような攻撃ばかりだ。
別に、舐めているわけじゃない。そもそもシバくんの実力は私と同等か、それ以上なのだから舐めるほどの余裕もない。
でも、それでも私は彼が死んでしまうような可能性は、可能な限り生み出したくない。
「甘い考えって貶されても、バカにされてもいい。それでも私はこの考えは曲げないから」
ーーすると私が言った後、一瞬コウキが優しく微笑んだ気がした。
その微笑みは、多分、肯定の印。
......コウキに認めてもらえれば、私はどこまでもいける。立ち向かえる!
数瞬そのまま場が膠着する。でも、それを破ったのはやっぱりシバくんだった。
「......まぁ、あんたがそういう考え方をするなら、それでいいよ。でも、なりふり構っているようなら俺は止められないと思うよ」
これ以上の会話は無意味と言わんばかりに、再び肉薄してくるシバくん。
それに答える私。
そこから再び開始される凄まじい剣戟の応酬。
彼から剣戟が放たれればかわして、私が放てば叩き落とされる。
コウキがシバくんの背後へ接近したら、シバくんは範囲攻撃スキルで全体攻撃を放ち、それを私とコウキは後ろに跳ぶことで回避する。
二対一なのにも関わらず、時に私たちを圧倒する彼のその姿は、まさに闘神か破壊神のようだった。
そんな攻防の中で、少しずつだけれど確かに減っていくシバくんのHPバー。
いくら彼でも、自分のHPがイエローゾーンに突入すれば、無理をしてまで私たちとは戦おうとはしないはず。仮に戦おうとしても、そこまでHPが減ればじぶんを守るためにどうしても動きが鈍るはずだ。
本当に僅かだけど、ようやく彼を止めるための迷路の出口が見えてきた。
その矢先。
私たちの攻防は。
私の想像とは違う形で、終わりを迎えた。
ついに痺れを切らしたのか、シバくんが私に対して放ってきた《テンペスト》をかなりギリギリではあるけどかわそうとする私。
でも。
「ぶ......ぐっ......!!」
私は
「......?」
突然の私の不可解な行動に、今度こそ意味が分からないと眉間にシワを寄せるシバくん。
彼の背後で、コウキが目を見開いて私の名前を叫んでいるのが分かった。
たはは......参ったなぁ。これは私の不注意だね。
戦闘中は、当然のようにその場に留まって延々剣を打ち合っている訳じゃない。
だから今までの攻防でも私はかなり動き回って戦っていた。
しかも、今思えば私の思考はいつからかシバくんを止めることばかり考えていた気がする。
だからこそ、失念してしまった。
未だ自分が狙われたことで腰を抜かし、その場で動くことができないオレンジの人の目の前に私が移動してしまったことを。
そんな状況でシバくんの攻撃をかわしてしまったら、彼の攻撃がそのままオレンジの人に直撃してしまう。
もう受け流せるような体勢でもなかったから、剣で受け止めてみたんだけど......
結果今のように防御しきれず、体にも直撃したのか分からないけど、私のHPバーは残りを3割を切っていた。
私もいくらかシバくんの攻撃が掠めたことはあったから、もともと残り7割を切っていたけど、それにしたって4割近く一気に持っていかれたことになる。
しかもダメージディレイと同時にスタンまで発生している。
ははは......本当に参った。
シバくんは壁に寄りかかったままの私に近づいてくると、まるでさっきオレンジの人を殺そうとしていた時の再現みたいに両手剣を持った右腕を振り上げる。
「残念。俺を殺す気なら止められたかもしれないのに」
彼の言葉に私は何も返さない。
彼が言っていることは、ある意味事実だから。
私の考えからは到底考えられない可能性だけど、確かにそうであれば止められた可能性はあった。
だとしても、私はこう思う。
......やっぱり、そんなことはしたくないな。
でも、それを彼に言っても何も状況は変わらない。
彼もこうやって話しているうちに私のディレイが解けることを恐れてか、それ以上は何も言わずに剣を振り下ろす。
が、またも絶妙なタイミングでシバくんの背中にコウキが斬りかかりに行く。
「もう何度目だと思ってんだよ」
シバくんもそれを読んでいたのか、事前に決めていたように振り下ろす両手剣を止めると、両手に持ち替えてそのままソードスキルに移行する。
発動したスキルは二連撃範囲ソードスキル《セリアルウェーブ》。一撃目は前から体の左側半周、二撃目は続けて体の周り一周の攻撃範囲で繰り出される全体攻撃だ。
しかも彼は一撃目の出所を私にすることで、一撃目でコウキの攻撃も迎撃できるようにしている。
二連撃のスキルを選んだのは、私を確実に仕留めるため。
コウキの迎撃のためにソードスキルを使えば、どうしても時間がかかって、私のディレイが解けてしまう可能性がある。
だから私のディレイが解けても、私に止めがさせる二連撃なんだろう。
私のディレイが解けて私が防御しても、一撃目で私の剣は弾き飛ばされて、二撃目で私に攻撃が入る。
しかも上手くすればコウキにも止めがさせる、ということでシバくんからすれば一石二鳥なんだ。
そして彼の予想通り、私のディレイはギリギリで解けて、一撃目を剣で防御するけど、簡単に弾き飛ばされてしまう。
このまま二撃目が来たら、私のHPバー綺麗に吹き飛ぶ。
ここまで来てしまっては、もう私にできることは何もない。
今までで最も明確に死、という概念が身近に迫ってくる。立ってもいないのに膝が震えて、歯が噛み合わなくなる。
四肢からはおかしいほどに力が抜けて、比喩なしに目の前が真っ暗になっていくのを感じる。
もう、私には死ぬ以外の選択肢はない。
......ただし、それは私が
ガキィィィンッッ!! と凄まじい音を上げて、シバくんの両手剣が途中で止まった。
「な、に......?」
《セリアルウェーブ》の一撃目が終わる寸前ーーーーコウキに一撃目が当たるとほぼ同時に、男の子の目が今までで最も見開かれた。
確かに、彼からすれば何が起こったのか分からないだろうし、予想もできないと思う。
でも、私からははっきりと見えた。
いや、仮に見えなくても私ならはっきりと想像できる。
コウキが《武器取落》でシバくんのスキルを強引に止めた。ただそれだけ。
単純明快。だからこそシバくんからすれば意識の外だったはずだ。
自分よりも一つも二つも格下だと思っていた相手に、自分の止めの、自信のある一撃を完全に止められたんだから。
コウキの《武器取落》はシバくんの両手剣を落とすまではいかなかったけど、シバくんからすればそこは問題じゃないんだろう。
首をゆっくりと回して、多分出会って初めてシバくんはコウキのことを正面から見据える。
「それ以上はやらせねぇよ......!! こっから先は、俺の相手をしてもらうぞ、シバァ!!」
コウキの咆哮が轟く。
ここで私の役割は終わりみたいだ。
そしてここからは、コウキのターンだ。
はい、ミウ主人公じゃね? 回でした。
いやはや、まさかミウ視点のミウ戦闘がここまで書きやすいとは思いませんでした。
やっぱり強いキャラ、というのはそれだけで戦闘が有利に進められますね。
そして今回、本作主人公は最後以外ほとんどフォローに回っています。もう少し頑張らせたかった。
次回は、戦闘最後、になるのかな? 多分。