力無き少年のソードアート・オンライン   作:Aruki

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42話目です!

ミウ「あちゅいー......」

リリ「最近、特に気温高いですよねー......」

ミウ「こういう日は、こーやって木陰から出たくなくなっちゃうよ」

リリ「......それを言うと、その、私たちのために飲み物を買いに行ってくれているコウキさんに、悪い気が......」

ミウ「私たちのなかでじゃんけんはほとんど絶対だからねー」

リリ「ははは......(前にコウキさん、ミウさんにじゃんけんで勝てないって言ってた気が......意外とフェアじゃないような......)」

アスナ「あっ、あなたたち、こんな朝から何を休んでいるの!!」

リリ「ひゃいっ!?」

ミウ「あ、アスナ。ちょっと久しぶりだね」

アスナ「ミウさんだったの......まったくあなたは。まだ朝だというのに」

ミウ「ごめんごめん。ちょっとコウキのこと待ってるだけだからさ。許して?」

アスナ「......コウキさんが来たら、すぐに動き始めなさいよ」

ミウ「うんっ」

アスナ「まったく......それで、そちらの方は? なにかすごく怯えられてるのだけど......」

ミウ「あ、この子はリリちゃん。友達だよっ」

リリ「り、リリ、です。よろしくお願い、します」

アスナ「私はアスナ。よろしくね。リリさん」

ミウ「ふへへっ(あ~、自分の友達同士が知り合いになるのって、なんだかすごく嬉しいかも)」




42話目 奇術師VS破壊神

 SIDE Shiva

 

 俺は、ミウというプレイヤーとの戦闘に、この上ない高揚感を覚えていた。

 それこそ、頭の中の血が沸騰し、全身をとにかく動かしていないと気が済まないというほどに。

 ......始まりは、レベリング中にオレンジの集団に急襲される、というものだった。こちらはただ一人迷宮区を静かに探索中だったというのに。

 気分は最悪だった。

 だから、襲ってきた何人かは殺してしまったが、相手も文句はあるまい。なにせ自分達から俺の機嫌を損ねに来たのだから。むしろ俺が文句を言いたかった。

 だが、その後のミウとの素晴らしい戦いのことを考えれば、それは必要経費だったのかもしれない。だとしたら前言撤回だ。文句の代わりに感謝しよう。

 そして、ミウ。

 出会い頭は、何を考えているのかも何を言っているのかも分からない相手ではあったが、実際に戦ってみてそんな些細なことはどうでもよくなった。

 自分が攻撃を放てばそれを神憑り的な正確さと技術で弾いてきて、ミウが放つ攻撃はまるで針の穴を通すかのように的確にこちらの嫌なところをついてくる。

 今まで戦ってきたプレイヤーの中でも、間違いなく一、二を争うプレイヤーだ。

 まさに強敵。だが、それだけにミウが俺の体を慮り、本気で戦っていないことがひどく残念だった。

 恐らくこの相手が本気を出せば、誰かの力を借りずとも俺と一対一で互角の勝負、いや、それ以上の戦いができるだろうに。

 事実、一度やられかけた場面もあった。

 あの攻撃は殺気が込もっていなかった。だから避け損ねかけた。だが、殺気がこもった本気の一撃なら俺がかわせたかと聞かれれば、正直五分五分だ。

 結局、その後もミウは彼女が掲げる信念のようなものを優先し、俺のことを殺そうとはしなかった。

 そして、そんな甘いことをしていたからかは分からないが、この素晴らしい戦闘はすぐに終わりが来た。

 今まで受け流すように俺の攻撃を受けてきたミウが、正面から受け止めたのだ。

 一瞬、俺のことを舐めているかとも考えた。だが、この相手はそんなふざけたことはしない。それは直感で分かった。

 そして、ミウが俺の攻撃を受けた本当の理由も同時に分かった。

 ミウは、自分の後ろにいたオレンジプレイヤーを守ったのだ。

 自分が死んでしまうかもしれないのに。迷いもせずに元々敵だった人物を守ることを選んだ。

 ......ここまで来ると、ミウの心構えには感服してしまう。

 何を思って、考えて、そんな行動に出るのか少し興味が湧いたが、『それ』は結局相手を叩き潰すために戦う俺に敵うものではなかった。今のこの状況がその証拠だ。

 ならば、『それ』は知らなくてもいい考えだ。強さしか求められないこの世界でも、そしてここよりもさらに冷たい外の世界でも、完全に不必要なものだ。

 ここまで戦った相手に敬意を見せる意味で、そして意味のないものを振り払う気持ちを込め、俺はソードスキルを放った。

 ミウが万全な状態ならともかく、今の状態では止めることも、かわすこともできないだろう。

 これで終わった。

 ......その、はずなのに。

 

「なんでっ......お前が......っ!!」

 

 俺の攻撃を止めたのは、ミウではなく、今まで歯牙にもかけていなかった、ミウの仲間の男だった。

 確かにこいつが俺の背中に攻撃するタイミングは上手かった。逆に挙げるとするならそれぐらいしか特徴がないただの外野だったはずだ。

 だが、そいつが今、俺の攻撃を完全に止めている。それは事実だ。

 その時、俺は男の顔を初めて注意して見たーーーー瞬間。

 ゾクリッッ!!

 

「ーーちっ!!」

 

 何か得たいの知れないものを感じとり、その場から大きく後退する。

 今あいつは、俺のことを『見ていた』。まるで俺の全てを見透かそうとしているように。

 男は俺を追撃しようとしたが、ミウを優先したのか彼女のもとへ駆け寄る。

 

「大丈夫かっ!?」

 

「にははは......ごめん、私が勝手に突っ込んだのに。さすがにキツかったや。すぐには動けないかも」

 

 ミウは男ーー確か、コウキ、だったか?ーーに軽い調子で笑いかけていたが、俺が与えたダメージがまだ体から抜けないのか動けないようだ。

 ミウの様子を確認した後、俺は視線をずらしコウキのことを改めて観察する......が、どこからどう見ても特に変わったところは見られない。

 強い人物というのは自信からか、経験からか、ある程度雰囲気が出る。ミウも途中から強者としての雰囲気を纏っていた。

 だが、コウキからはそういったものが一切感じられない。先ほど感じた妙な威圧感も、気のせいだったのか......?

 コウキはその後、二言三言ミウとの会話を交わすと、俺に正対するように前に出てきた。

 その目には、激情のような色が浮かんでいる。

 ......へぇ、俺と戦う気なんだ。

 確かに先ほど俺のソードスキルを止めたことは素直に評価するが、だからといってこの男がミウよりも強い、何てことはないだろう。

 仮にそうであれば最初からこの男が俺と戦っていたはずだし、俺の攻撃にも反応していたはずだ。

 いくらか腑に落ちないこともあるが、この男が俺と互角に戦えるとは到底思えない。

 

「ミウの敵討ち......ってことか?」

 

「お前にミウの名前を気安く呼ばれたくねぇよ。単純に、お前がムカつくからブッ飛ばすだけ」

 

「へぇ......じゃあ、俺と戦う理由ほとんど変わらないじゃん。年上っぽいのに、大人げないね」

 

「男なんてそんなもんだよ、クソガキ」

 

 ピリッ、と、空気が少しずつと張り詰めていくのが分かる。

 なるほど。俺にものすごく腹をたてているようだ。

 ......まぁ、それだけで俺に勝てるようになるほど、甘くもないけど。

 これといって、この男に強い興味があるわけではない。これ以上の会話は面倒なだけだ。

 だから、早く終わらせよう。

 俺は少しずつ重心を傾けていき、そして。

 

 

 

 

 ガキィィィイインッッ!! と、金属が(、、、)ぶつかり合う音が鳴り響く。

 次の瞬間には、目の前に俺の攻撃を剣で防御したコウキの姿があった。

 

 

 

 

 ......また止められた。なんでだ? 確かにこいつは最初の攻撃の時、反応もできていなかったのに。

 今は動じることもなく俺の攻撃を受け止めている。

 ......もう一度見てみるか。

 俺は腕を引き、今度は至近距離からの剣戟でコウキの反応を見ようとする。がコウキは俺が剣を引いた瞬間に素早く後退してしまった。

 退くというのなら、ここで一気に攻めるだけだ。

 俺は引いた腕をそのまま前に突きだし、後退するコウキを追撃する。

 しかしこれもまたコウキに防御されてしまった。コウキはそのまま俺の攻撃の勢いに身を任せ、大きく後退する。

 やはり、俺の攻撃に完全に対応してきている。

 そうなると、一つ疑問が浮かんだ。

 

「......あんた、それだけ動けるのに、なんで最初は黙ってたんだ?」

 

「......さぁてね。なんでだと思う?」

 

 分からないのなら分からないままでいろ。そう語っている笑みを浮かべると、コウキは俺に向かって突進してきた。

 今まで完全に受け身に回っていたのに、急に攻めてきたことに一瞬驚く。

 だが、そのスピードは俺やミウに比べれば話にもならないほどのものだ。この程度の攻撃、対処することはなんでもない。

 俺は真正面からばか正直に突進してくる男に対して、逆袈裟に両手剣を振るう。

 

「なっ!?」

 

 すると、今度こそ信じられないことが起こった。

 俺が両手剣を振るった瞬間にはもう、コウキは袈裟斬りで応戦してきていたのだ。

 互いの剣がぶつかり合い、反発するように両者ともに弾かれる。

 その事実を俺はまだ信じられないでいた。

 今のこいつの攻撃に移るタイミングは、事前に俺がどういう動き、どういう攻撃をしてくるのか分かっているかのようだった。まるで、シューティングゲームを相手の攻撃タイミングを全て熟知した上でプレイしているかのような。

 俺の攻撃が読まれている、ということなのか......?

 だが、この男に俺の動きを見せたのは、ミウと戦っているせいぜい数分程度。たったそれだけの時間で、決まったアルゴリズムをプログラムされたmobでもない俺の攻撃を、これほどの精度で先読みすることは可能なのか.......?

 そんなバカな、と、つい舌打ちしそうになるが、コウキの攻撃はまだ終わっていなかった。

 ーーっ! 《体術》スキルかっ!!

 光を帯びたコウキの左拳が、俺に向けて放たれる。

 剣をぶつけ合うほどの距離だ。これはかわせないと悟り、両手剣にしては幅の狭い自分の武器でコウキの拳を受け止め、すぐさまコウキから距離を取る。

 くそ。未だに信じられないが、こいつはかなりの精度を誇る先読みを俺相手に実践しているのは確かなようだ。

 こいつ自身の能力は中の下から中の中程度だが、それを先読みの力で行動を早くすることで、何段階か上のランクに食らいついている、ということか。

 その事実を俺は、一度深呼吸することで、自分の中に受け入れた。

 

「......正直、甘く見てたよ、あんたのこと。やるね」

 

「泣いて許しを乞う気になったか?」

 

「まさか......完膚なきまでに叩きのめしてやる」

 

「上等。こちとらミウを殺されかけて、さんざん雑魚扱いされて、ツケが貯まってんだッ!! ......覚悟しやがれ」

 

 コウキはまるで自分の激情を無理矢理飲み込むかのように一気にトーンダウンすると、剣を引き絞って俺に向かって突進してくる。

 その瞳に映っているのは、間違いなく殺意。

 ......これだよ、これを待っていた!!

 ミウとの勝負も確かに至上のものだった。けれど、俺がしたいのはルールの決まった試合ではない。何でもありの戦闘だ。

 ミウが何か動き始めたが、まぁ、今はこいつだ。

 この勝負、まだまだ楽しめそうだ、と俺は歓喜に震えながらコウキの迎撃に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 SIDE Kouki

 まず、大前提として。

 俺とミウの勝利条件は、このムカつく野郎ーーーーシバに勝つことではない。

 最後に生きて帰ることができれば俺たちの勝ちだ。

 あのオレンジプレイヤーに関しては、多分、ミウがなんとかしてくれる。今はまだシバの殺気に当てられて錯乱しているが、ミウが落ち着かせて《転移結晶》で逃がしてくれるだろう。

 だから、ここからの流れとしては、俺がシバを足止めしている間にミウが自分も回復しながらオレンジプレイヤーを逃がして、最後は二対一でなんとかシバの隙をつくって逃走、という感じだ。

 守る対象もいない、完全な二対一なら、逃げることぐらいはできるはずだ。

 ゴールもゴールへの行き方も完全に見えた。後はそこに向かって全力で進むだけ。

 

 

 

 

 ......そう、いつもなら。

 けれどそれに反して、俺は自分から(、、、、)攻撃に出る。

 

 

 

 

 本当のところ、俺からシバに攻撃する理由はあまりない。せいぜい俺に意識を向けさせるために最低限のものでいい。

 俺の役割は、シバの足止めなのだから。

 でも......それじゃあ収まりがつかない。

 ミウを殺しかけたこのクソ野郎(シバ)への怒りが、どうしても収まらない。

 殴るでもぶっ叩くでも、なんでもいいから一発当ててやらないと気が済まない!!

 ......これは、俺の自分勝手な怒りなのかもしれない。

 ミウはシバの目的を妨害するように戦っていたのだから、シバがミウを殺そうとすることは否定しきれないものかもしれない。

 だけど、そんなことは関係ないんだ。

 自分勝手な怒り? それでもいい。そもそも正しい行いをしたいわけではない。

 ミウを傷つけられた。ミウを殺されかけた。ミウを失いかけた。

 それだけで、俺が戦う理由は十分すぎる。

 意地でも、こいつをぶっ飛ばす!!

 

「はぁぁぁああ!!」

 

 横一閃に剣を振るう。

 シバはそれを剣を盾のように立てガードする。

 ーー重心は......いつもと同じ。

 シバは返しの刀で俺の剣を弾き、袈裟斬りで攻撃してくる、が、剣を弾かれた時には俺はもう下がっていたのでシバの攻撃は空振りに終わる。

 その隙を付いて、もう一度シバに接近する。

 ーー重心は......低くなった。

 確認してすぐに俺は剣を小さく振り上げ、これから跳ね上がってくるであろうシバの両手剣めがけて振り下ろした。

 キィィイイン!! と音を上げて、俺の予測通り跳ね上がってきたシバの両手剣を押さえ込む。

 がら空きになったシバの顔面めがけて《閃打》を放つが......ちっ、相変わらず反応が早い。後退することでかわされてしまった。

 シバが嬉しそうに、だがどこか悔しそうに笑う。

 多分、俺がシバの動きを読んでいることはもうバレているだろう。

 シバの動きには、いくらかクセがある。

 まず攻撃の際には、両手剣を片手で持っているから重心移動が大きいのか、振り下ろしの際には重心に変化がないが、振り上げの際には少し重心が低くなる。

 そしてシバの低身長に長さのある両手剣を装備、という特性ゆえか、シバの攻撃は上段からの攻撃が多い。

 左右の攻撃は両手剣を大きく後ろに引くから分かりやすい。

 防御の際は、かわす、という方法はギリギリの時しか行わず、基本は叩き落とす、次点で両手剣を盾にしてのガードだ。

 ソードスキルは両手に持ち替えてからでないと使えないし、これだけあればいくらか先読みはできる。

 ただ。

 

「くっ......」

 

「どうしたの? 体、ついてこれてないよ?」

 

 防御しきれなかったシバの攻撃がいくつか俺の体を掠めていく。

 こいつ......ギアを上げてきたか。

 剣だけでは捌ききれなくなり、前のクエストで手に入れて以来、左手首に着けている手甲も使って防御する。が、それでも間に合わない。

 確かに、俺はシバの行動を先読みすることで、一瞬以上に先に動くことができる。

 けれど、先読みは絶対ではないし、先読みなんか関係ないぐらいの速さ、強さで攻撃されてしまえばなんの意味もない。

 おそらくシバは、ミウを相手にしていた時は自分が最もやりやすいテンポやスピード、つまり一番バランスがとれた攻撃をしていたのだろう。それが一番、搦め手無しの純粋な戦いでは戦いやすいから。

 しかし、そのテンポやスピードは俺に分析されていることを認識したから、今度は俺に攻撃を当てることを優先した、早い攻撃に切り替えてきた。

 まだこんなに速くなるなんて......しまった、これではミウのお陰で得たシバからのアドバンテージは意味をなさない......

 ーーーーと、俺が思っているとか考えているのなら、楽観視もいいところだ。

 

「ーーっ!?」

 

 素早いシバの攻撃が俺に振り下ろされていくなか、顔を驚愕の色に染めたのはシバだった。

 

「まだ速くなる? 知ってたよ、そんなこと」

 

 迫ってきたシバの突きを、思い切り弾き返す。

 普段と違うテンポで攻撃、と言えば簡単に聞こえるが、それを相手の動きを見て対応しながらとなると、とてつもなく難しい。

 だからどうしてもいつもと違うテンポのなかに、いつもと同じーー俺が知っているテンポが顔を出してくる。

 しかも、速い攻撃を重視しているから攻撃も軽くなる。これならば、攻撃を弾くことはできる!

 

「はぁ!!」

 

 シバの攻撃を弾いたところから、そのまま返すようにシバを斬りつける、が、それは体をずらすことでギリギリかわされてしまった。

 くそ、やっぱり反応がいい。あそこまで体勢を崩したんだから、一撃ぐらい当たってもいいものを。

 だがこれでシバに俺には速いテンポは効果がないことが印象づけられたはず。これでまたシバの攻撃は崩れ始めーーーー

 

「ふっ!!」

 

 シバが息を吹くと、再び俺にシバの攻撃が雨のように降ってきた。

 ーーなっ!? こいつ、全くブレてない......!?

 普通、どんな人間でも自分が新しくとった方法が最初から完全に失敗してしまったら、この方法は間違っている、他の方法を試してみよう、という気持ちがどこかに出てくる。なのにシバは、今取っているこの方法が最善だと言わんばかりに強行してくる。相当自分に自信がないとできないことだ。

 ......しかもさらに嫌なところは、その方法は確かに俺に対して有効なのだ。

 俺はシバのいつものテンポには対応できるが、この速い攻撃には対応がどうしても遅れてしまう。速い攻撃のなかのいつものテンポを待っている間は、ただ耐えるしかないのだ。

 どうしても、有利なのは向こうだ。

 ここは一度引いて仕切り直すしかーーーーしまった、迷った(、、、)

 迷いながら中途半端に後退してしまったことを後悔するが、もう今さら遅い。

 

「そこで退くのは、俺でも予想がつくよ」

 

 完全に下がりきれていない俺は格好の餌食だ。防御に回した剣の上に、シバのとても重い一撃が振り下ろされる。

 俺は後方に大きく吹っ飛ばされたが、ズザザザザッッ!! と両足で踏ん張りなんとか膝をつく程度で堪える。HPバーを見れば残り4割を切っていた。どうやらシバの攻撃を防ぎきれず、腹かどこかを斬られたらしい。

 ーーーーでも、まだ動ける。

 吹っ飛ばされたことでできた時間で、ミウの方を盗み見ると、ちょうどオレンジプレイヤーを落ち着かせているところだった。

 よし。シバの気を引くことには成功したみたいだな......まぁ、そのためにもわざわざ挑発するような口調で話してたしな......2割くらいは。

 シバに視線を戻すと、離れた俺に向かって突進してくる。それに対して、俺は手近の石を拾い、すぐさま地面を蹴って一気に駆け出す。

 互いの距離がみるみる近づいていき、シバの長い両手剣の射程距離に入る一歩手前。

 俺は左手で手のひらサイズの石を、シバの踏み出された足の下に放った。

 俺は《投剣》スキルのような、何かを投擲するスキルは持っていない。だから放った石はなにも光を纏っていないし、当たってもダメージなど少しも入らないだろう。

 だが、それは俺が知っていることであって、シバからすればどうだ?

 ここまで俺は、シバの動きを読んだり、テンポを変えた攻撃にもすぐさま対応したり、シバの止めの一撃を止めたりと、トリッキーな行動を繰り返している。

 そんな俺が放った石ころ。それにもなにか意味があるんじゃないかとシバは一瞬勘繰ってしまう。

 だからシバは踏み出す途中の足を、石が当たらないよう無理やり軌道修正した。

 そんなことをシバほどのスピードで行えばーーーー当然、バランスを崩す。

 

「なっ!?」

 

 シバが体勢を崩したことにより、シバは剣を振れず、そのまま俺の射程距離に入ってくる。

 ーーーーもらった!!

 スキルモーションに入り、当てることを優先した《ヘイスティ・アタック》を発動する。

 このスキルはスピードだけで言えば俺が今使えるスキルのなかで最速。その分威力は低いが......これならシバの残りのHPでも耐えることができるだろう。

 俺の剣が光を纏い、システムアシストを受けて通常以上の速さで動き出す、直前。

 シバの両手剣も同時に光を纏い、異常な速さで動き出した。その軌道は恐らく《テンペスト》。

 ここまでして同時にソードスキルを使うことがやっと、ということに驚くが、同時ならば打ち合いにできる。

 シバの体勢は今も崩れたままだ。このまま押し切る!!

 二振りの刃が光を纏い、互いの距離を殺していく。

 そして、その距離がついに0になり、交じりあう。

 直後、ダンジョン内に響き渡る甲高くも、衝撃を伴いそうな金属音。

 

「っ!?」

 

 結果は、引き分け。

 互いに武器を大きく弾かれた。

 なんとか手放しはしなかったが、打ち合った瞬間腕ごと持っていかれるかと思った。

 でも、まだだ。

 今俺とシバは互いに武器を弾かれてソードスキルを中断された、スキルディレイに囚われている状態だ。

 互いに使用したスキルは単発スキルだから、硬直が解けるのはほぼ同時だろう。

 だが、俺は片膝をついているだけなのに対して、シバは大きくのけ反っている。これならば、硬直終了後にすぐさまスキルを使えば俺は先ほど以上に有利になる。

 次は俺が完全に有利なのだから、連撃系でもシバと同時ぐらいには発動できる......だが、これでは先と同じで、シバは想像を越えてくる。

 ならば。

 永遠とも感じてしまうような硬直時間が、終わる。

 そして先ほどとは違うスキルモーションに動作に入る。

 そんな中、シバは。

 

「ちっ......やっぱりな」

 

 シバはのけ反っていた自分の体勢を逆に利用し、その体勢から地面を蹴ることでバック宙。俺から距離を取ると同時に体勢を立て直してみせた。

 やっぱり、俺の想像を越えてきた。こいつはムカつく野郎だけど、確実に俺よりも一つも二つも上にいる相手だ。

 それでも今だけは、そんなこと関係ない。ミウを殺そうとしやがったこの野郎に、一撃をいれてやる!!

 シバがゆっくりとスキルモーションに入る、おそらく、俺がスキルを打ち終わったところ狙っているのだろう。

 確かにシバが下がったことで距離が開いてしまい、この距離では俺のソードスキルは届かない。

 

 

 

 

 だから俺は、ただ一歩だけ、地面を蹴ってシバとの距離を詰めた。

 

 

 

 

 ソードスキルのスキルモーションというのは、思いの外判定が厳しい。

 特に強力なものともなると、スキルモーションが全身になって、少しでもずれると発動しなくなってしまう。それこそ、腕の位置が10cmでもずれてしまえば発動しなくなってしまうほどに。

 そしてそれはーーーー他人からでも分からないほどの誤差だ。

 俺は、スキルモーションにはまだ入ってない。シバにそう見える(、、、、、)モーションを取っただけだ。

 シバに接近して、今度こそ本当にスキルモーションに入る。

 

「ははっ......あんた面白いよ!!」

 

 シバは応えるように笑うと同時、この戦いではまだ見せていないスキルモーションに入る。

 だけど、ここまで来てしまえばもう関係ない。何がなんでも俺の一撃をシバに当てる。ただそれだけだ!!

 一瞬後、俺のスキルが先に発動し、それに追随するようにシバのスキルも発動する。

 俺のスキルはホリゾンタル系がさらに進化した《ホリゾンタル・スクエア》。4回の水平斬りを高速で行うものだ。

 対して、シバが発動した発動したのは奇しくも同じ4連撃のスキル《ツイスター》。自分を台風の目に見立て、その周りを斬りつけるスキルだ。

 周り、といっても数ヶ所4撃分の斬戟が重なる場所があるので、そこに俺を重ねてくるつもりなのだろう。

 互いの一撃目が、まるで先ほどの再現かのように接近していく。

 瞬きよりも速いかどうかほどの速度。なのに俺は急に時間の流れが極限まで遅くなっていくように感じた。

 

 

 

 

 ーー一撃目。

 俺の右から左への一閃とシバの上段からの振り下ろしが十字に重なり、弾ける。

 俺の方が一瞬早く発動したお陰か力負けもしていない。

 だが、一撃でも弾き損ねれば、俺とシバ、どちらかはソードスキルの餌食になるだろう。

 

 

 

 

 ーー二撃目。

 一撃目の軌道をなぞるように斬り返す。対してシバは振り下ろした両手剣を左に力強く振り、刃が交差する。

 普通、水平斬りに対して水平斬りをぶつけるのは至難の技だが、シバは僅かに剣の軌道を傾けることでそれを可能にしていた。

 

 

 

 

 ーー三撃目。

 俺は右に振り切った腕の勢いそのままにくるりと体を回転させ、さらに一撃シバを斬りつけるが、目の前ではシバも同じく体を一回転させ、二撃目と同じ軌道で斬りつけてくる。結果、三度目の衝突。

 《ツイスター》のソードスキルを間近で見るのは初めてだが、どうやら《ホリゾンタル・スクエア》と連撃の構成が似ているようだ。

 くそ......頭が痛い。集中しすぎてフラフラしてきた。ここまで上手く斬り結べているのが奇跡のようだ。

 だが、負けるわけにはいかない。

 

 

 

 

 ーーそして最後。四撃目。

 振りきった状態から跳ね返ってくるように逆袈裟に俺の一閃、そして同じく振りきった状態から再び上段に両手剣を持ち上げ、凄まじい勢いで振り下ろしてくるシバの一閃、二閃が敵を倒さんと走る。

 互いに最後の一撃。それはーーーー重なることも、交差することも、衝突することもなかった。

 俺の集中力が切れたのか。シバの集中力が切れたのか。それとも偶然か。

 理由は分からないが、結果として、俺たちの一撃はそのまま敵へと向かっていく。

 ここで、重要になるのは互いの距離だ。

 今、俺たちの距離は俺の剣がシバに届く距離、つまり、シバにとっては窮屈な距離だ。

 この距離ならば、俺の剣の方が速い!!

 

 

 

 

 俺の考え通り、ソードスキルに沿って俺の剣はシバの体に吸い込まれていきーーーーそして、直撃した。

 した、はずなのに。

 ............うそ、だろ? こいつ、正気か......っ!?

 シバの体は、俺の剣を喰らっても変わらず、ソードスキルの動きを続行している。

 こいつは、初めから俺の一撃を貰うつもりでスキルを使っていたということかッッ!?

 それでもスキルが中断されないかどうかは、五分五分もなかったはずなのに......!!

 俺はスキルディレイに囚われ、動くことができない。

 ち、くっしょう......!!

 そして、歓喜の笑みを浮かべたシバの一撃は、一切緩むことなく俺に振り下ろされーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 SIDE Miu

 

 コウキが私に代わってシバくんと戦ってる。

 その様子はコウキがシバくんの動きをほとんど完璧に読みきって、それでもなんとか五分五分ってところ。

 ......やっぱり、シバくんは強い。コウキだって攻略組プレイヤー、なのにここまで劣勢になってるなんて。

 それに、私だってさっきは死にかけた。コウキがいなければ、今ごろ......

 コウキに、守ってもらえたことに温かい嬉しさと、自分の力のなさから無力感を覚える。

 

「うくっ......」

 

 ディレイから解けた体を無理やり動かす。妙に体が重く感じるのはあまりのダメージ量のためか、それとも先ほどの戦闘の疲労が想像以上だったのか。

 とにかく今は、コウキが頑張ってくれてる。だったら私も休んでなんかいられない......!

 私がすべきこと。まずはオレンジの人をここから逃がさないと。そしてその後、コウキの応援に......いや、違う。まずは私自身の回復をしないと。

 左手で腰にあるポーチを探って、《回復結晶》を取り出す。「ヒール」の掛け声と共に結晶が一瞬光ったかと思えば、私のHPバーが一気に満タンになった。

 すぐに近くで怯えているオレンジの人の元に移動しようと立ち上がる......ダメだ。やっぱりゆっくりとしか動けない。

 それに立ち上がった時、一瞬シバくんからの殺気がすごい飛んできた......あの子、戦っててもここまで全体が見えてるんだ。

 これは早く動き始めないと、と思っていると、近くに転がっている私の剣に気がついた。

 コウキのところに少しでも早く戻れるように、先に拾っておこう。

 私は屈んで右手を剣に伸ばす、けど、右手はピクリとも動かない。

 えっ......まさか、これ。

 私は恐る恐ると自分の右肩ーーーーシバくんに斬られた箇所を見る。そこはまだ回復されてなくて、深々と斬られていた。

 これ、部位破壊されてるのか......

 まずい、部位破壊は《回復結晶》じゃ治せない。

 

「すー、はー......」

 

 落ち着け。

 今はとにかく、できることに集中しよう。

 私は剣を左手で拾い、今度こそオレンジの人の元に移動した。

 

「大丈夫? 君、《転移結晶》は?」

 

「ひっ!?」

 

 できる限り優しく話しかける。けどシバくんの殺気に当てられてしまってるのか、私にまで怯えてしまっている。

 

「落ち着いて。君は大丈夫だから。だからまず深呼吸しよう?」

 

 いーち、に、いーち、に、と呼吸のリズムに合わせて数字を数えて、少し無理やりにでも深呼吸させる。

 それからも何回か言葉をかけながら深呼吸させて、1、2分。オレンジの人はやっと会話が成立するぐらいに落ち着いてくれた。

 

「君、《転移結晶》持ってる?」

 

「あ、あぁ。持ってるが......だけど俺はオレンジだから......」

 

 そうか。オレンジのカーソルだから街に戻っても衛兵に弾き出されちゃうのか。

 

「じゃあ、アジトにでもなんでもいいから、ここから早く逃げて。勝手だけど、君のこと守れそうにないんだ」

 

「分かったけどよ......どうしてだ?」

 

「? なにが?」

 

「どうして、あんたらは、俺のことをそこまで心配してくれるんだ? いっそのこと、俺を囮にすれば簡単に助かるだろーが」

 

「......」

 

 もう何度も問われた質問だ。

 何で助けるのか?

 私の脳裏に、私の罪が、『夏音』の顔が浮かぶ。

 

「......もう、どうにもならなくなるのを、ただ見ていたくないから」

 

「......?」

 

 オレンジの人は訳がわからないような表情をしていたけど、私が早く行くように促すと、そそくさと逃げていった。

 ......これで、あの人は多分もう大丈夫。あとはこっちの問題だ。早くコウキの元に行かないとーーーー

 

「かっ......あぁ......っ!!」

 

「ーーえ?」

 

 瞬間、一番聞こえたくない声を聞いた気がした。

 そしてすぐ後に、ドサリ、となにか重たいものが落ちるような音が聞こえてくる。

 

 ーー今の音はなに?

 

 嘘だ。

 

 ーー混乱してる場合じゃない。早くコウキの元に行かないと。

 

 嘘だ嘘だ。

 

 ーーあれ? なんで急に金属音が消えて......?

 

 嘘だ嘘だ嘘だ!!

 

 ーーいや、それもどうでもいい。早くコウキの元に。

 

 右腕がたとえ動かなくても、なにか力になろうとコウキの元に駆け寄ろうと、コウキたちが戦っている場所を見る。

 そこにはーーーー

 

「ーーコウ、キ?」

 

 

 

 

 ーーーーそこには、体の中心を深々と斬られ、地面に倒れて動かなくなっているコウキの体があった。

 

 

 

 

 心の中で、何かが切れてしまったような気がした。

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああッッッ!!!!」

 

 さっきまで動かないと思っていた体が、悪寒という言葉じゃ全然足りない寒気に襲われ、いつも以上に早く動く。

 そして駆け寄ったコウキの体にすぐに触れる。

 そんなはずはないのに。幻覚だと分かっているのに。コウキの体や頭からどんどん血が溢れていくのが見えた。

 コウキの体から、どんどん体温がなくなっていくのを感じた。

 

「コウキ! コウキ!!」

 

 必死に何度も声をかける。

 体は揺さぶったらまずい? 止血は? 違う、ここはリアルじゃない。でもコウキが反応しない。コウキ、コウキ!!

 

「コウキぃ......!」

 

 目が妙に熱い。そんなことどうでもいい。視界が変にぼやける。邪魔だ、なにこれ。

 目をすぐに拭ってコウキを見る、なのに視界は一向に治らない。

 目の熱さを自覚するたび、コウキの名前を呼ぶたび、さっきまで確かにあったコウキとの思い出が次々とどこかへと消えていくのを感じた。

 心のなかが、どんどん虫食いのように削られていく。体が、凍えてしまったかのように震える。

 いやだ、いやだいやだいやだいやだいやだ。怖い、怖い!!

 

「お願いだから、目を......開けてよ......っ!!」

 

 また、私を見て、笑ってよ......私の名前、呼んでよ......!!

 その時になってようやく、自分の視界の隅とコウキの頭上にあるコウキのHPバーに気がついた。

 すがるようにそれを見るとーーーーそこには、ほんの数ドットだけ残った赤い塊が見えた。

 それが意味するのは。

 

「まだ、残ってる......? 生きてくれてる......!」

 

 なにか攻撃が掠めるだけでも簡単に消えてしまいそうなHP、だけど確かにコウキが生きてる証が、まだ残っていた。

 よかった、本当に.......そうだ! 早く《回復結晶》を!! 私のはもうポーチにないから、ストレージから......あぁ、もう! 右手が動かない。あっ、コウキのポーチにまだあるはーーーー

 

「ねぇ、もういい?」

 

 コウキのものじゃない声が聞こえた。

 最初、誰の声かすぐに分からなかった。

 その声の発信源が分かったのは、その人物がコウキに両手剣を当たるギリギリまで近づけたその時だ。

 

「シバ、くん......」

 

「まさかそいつにここまで追い込まれるとは思わなかったけど......まぁ、楽しめたかな」

 

 で、とシバくんは付け加える。

 

「そいつ、もう殺してもいい?」

 

 何を......言ってるの?

 なんで、殺すの? まだ生きてるのに。

 なんで、まだ剣を握ってるの? もう勝負はついたよ?

 ......この時、私はやっと分かったんだと思う。

 殺し合いの、本当の意味を。

 

「あ、あぁ......」

 

 喉から掠れた声が出る。さっきのオレンジの人も、こんな気分だったのかなって、どこかずれた考えが浮かんだ。

 そして次に浮かんだのは、とにかく懇願することだった。

 

「お願い、だから。コウキを、殺さないで......」

 

「嫌だよ。そいつ、確かにそこそこ強かったけど、結局俺に一撃しか当てられてないし。しかも完全に俺の動き読みきった上で。元々が弱すぎるし、もう興味はないかな」

 

 ダメだ。この子は、言葉だけじゃ止まってくれない。

 どうすれば。コウキなら、こんな時、どうして......

 私がとにかく頭を回転させていると、シバくんは良いことを思い付いたとばかりに声をあげた。

 もしかして、見逃してくれるのーーーー

 

「あんたーーミウはまだ戦えるの?」

 

「え、私は......」

 

「さっき言ったじゃん。俺を止めるんだって」

 

「止める......」

 

 ーーーーそうだ。私がシバくんを止めることができれば。

 そうすれば、コウキは助かる......?

 でも、私。まだ右腕が......

 

「それとも? そいつ殺したら逆上して戦ってくれたりするのかな」

 

「ーーっ!! 止めて!!」

 

「......じゃあ、早く戦おうよ」

 

「......」

 

 私は脇に置いていた自分の剣を左手で握る。

 シバくんを止めるしかない。でも、どうやって?

 分からない。頭が回らない。それよりも、コウキが目を覚まさないのが気になる。コウキは本当に大丈夫なの? なんで返事をしてくれないの? これじゃあーーーー

 

「ほら早く」

 

 シバくんが無造作に剣を横に振った。

 シバくんはその雑な一閃に私が反応して、私が戦う気になるんだと思ってたのかもしれない。

 でも私は、シバくんの攻撃なんて全然見えてなくて、その一閃は軌道上にあった私の剣を弾いて壁際まで吹っ飛ばした。

 

「......なにそれ?」

 

 シバくんが失望したように言う。

 剣、早く拾いに行って、戦わないと......

 

「ミウは、大事なものが危険な目にあったら本気で戦えると思ったんだけど......なんだ、弱くなる人か」

 

「え......?」

 

「じゃあ、もういいや」

 

 シバくんは大きく剣を振り上げる。

 その剣が振り下ろされてしまったら、私もコウキも本当に死んでしまうのは、何となく分かった。

 コウキがーーーー死んじゃう。

 いやだよ。そんなの。

 まだまだコウキと美味しいもの食べるんだ。

 バカな話するんだ。

 手を繋ぐんだ。

 笑い合うんだ。

 リアルに戻っても今日までみたいに一緒にいて、いつか、告白もして。もっともっと、楽しく生きて。

 それが出来なくなる。

 ......誰のせい?

 つまらなそうなシバくんを見上げる。

 ......この人のせい?

 この人が、悪いの?

 この人を、なんとかすれば、コウキとまた笑える?

 この人を......メチャクチャにすれば。

 メチャクチャに、しちゃえばーーーー

 

「さよなら」

 

 シバくんが両手剣を振り下ろす。

 死の刃が迫ってくる。

 私の視界が、赤くなるーーーーそれより、一瞬早く。

 

 

 

 

 ザシュッ!! と音をたてて、シバくんの右腕が両手剣とともに宙を舞った。

 

 

 

 

 その瞬間、時が止まったように感じたのは、きっと私だけじゃなくて、シバくんもだ。

 私はなにもしていない。シバくんも剣を振り下ろしただけだ。

 じゃあ、なんでシバくんの右腕と両手剣は今地面に落ちたの?

 そんなの、この場にいるもう一人(、、、、)がしたに決まってる。

 その声は、私の大好きな声は小さいのに、強く、響く。

 

 

 

 

「ミウに......手を、出すな......!!」

 

 

 

 

「コウキ......!!」

 

 私の前で剣を振り上げて立っている、コウキの名前を呼ぶ。本当はもっと大声で、何度も何度も呼びたいけど、喉になにか詰まってしまったかのように上手く声が出てくれない。

 コウキは肩で息をしていて、足もフラついていて危なっかしい。でも、コウキの声がまた聞けたことが、コウキがまた私の名前を読んでくれたことが、なによりも嬉しかった。

 それに対して、シバくんはあり得ないものを見たかのように目を見開いている。いや、怯えているって言っても過言じゃない。

 コウキの気迫に、完全に飲まれてしまっていて、戦意もなくなってしまったように見える。

 そうだ、コウキのHPを何とかしないと。私は動かない右手を左手で支えて、無理やりウィンドウを開く。

 その間にも、コウキは息も絶え絶えの状態でシバくんと話す。

 

「いくら、お前でも......片腕ない状態、じゃあ......ミウ......と戦えないだろう? ざまぁ、みやがれ」

 

「ちっ......くっ......一つ、聞かせろ」

 

「なんだ......」

 

「あんたは、なんのためにそこまでして戦うんだ? 自分がボロボロになっているだけで、あんた自信にはなにも良いことないじゃんか」

 

「んなの......決まって、んだろーが」

 

 

 

 

「大事な人を、絶対に死なせたくない人を、守る、ため......だ」

 

 

 

 

「ーーーーっ」

 

 シバくんが息を飲むような雰囲気がしたけど、それどころじゃない。

 うぅ、右手動かせないってこんなに不便なんだ......よし、やっとストレージから出せた。

 すぐにコウキに近づけて、「ヒール」と言う。私と同じように、コウキのHPが光とともに全快した。

 よかった......

 私は場違いだと分かりつつも、一人安心してしまった。

 それほどに、怖かった。コウキがいなくなってしまうことが。

 私が息をついていると、シバくんは少し離れたところに落ちている自分の両手剣を取りに行った。

 さっきまでならすぐに警戒するべきなんだろうけど......今のシバくんからは、全くと言っていいほどに戦意を感じない。

 本当に、別人になってしまったかのような変わりようだ。

 するとシバくんは両手剣を背中に担ぎ、私たちを振り返った。

 

「......そういう『強さ』もあるんだ。覚えておくよ」

 

 それだけ言うと、シバくんは私たちに背中を向けて、歩いて立ち去っていった。

 嵐のような戦い振りとは裏腹に、ものすごく静かな去り方だった。

 そして、この場に残ったのは、私とコウキ。

 そう、残ることができた。ちゃんと、生きている......!

 それを改めて実感することができた。

 

「コウキっ!!」

 

 嬉しさや悲しさや喜びや惨めさ。色々な感情が混じり合いながらも、今はとにかくコウキと話したい。

 コウキに笑ってもらって、コウキに謝って、とにかく、コウキと関わりたい!

 そんな想いを抑えきれず、コウキの背中に声をかけた。

 ......でも、コウキがいつものように私の名前を呼ぶことは、なく。

 

 

 

 

 そのまま前に向かって、バタン、と倒れてしまった。

 

 

 

 

「コウキっ!?」

 

 コウキは、そのまま動かない。もう、力のすべてを使いきってしまったかのように。

 コウキは、そのまま目を覚ますことはなかった。

 




はい、シバとの戦闘ラスト回でした。

長くなったなぁ......。ただ、そのぶん今回の話は久しぶりに満足のいく話を書くことができました。ただ書き方に少しクセが出てしまったところはあるので、好き嫌いは別れるかもしれないです。
展開としては王道かもしれませんが、王道大好きな私としてはすごく楽しく書けましたね。
さて、今回また色々伏線を引いてしまいました......自分が大変になるだけなのになぁ(なのにやめないという


次回は......後日談+αですかね。
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