力無き少年のソードアート・オンライン   作:Aruki

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43話目です!









43話目 傷心

 声が、聞こえる。

 一つは、目の前の男の子の声。

 血を流して倒れている人に何度も何度も声をかけて、泣いている男の子の声。

 もう一つは、頭のなかに直接聞こえてくる、女の子の声。

 その声も震えながらも誰かの名前を呼んでいて、顔が見えなくても泣いているだろうことが分かる、大切な、女の子の声。

 二つの声が、聞こえる。

 そのどちらも、まるで祈りのように声を上げていて、なんとかしなくては、そう思わせるような声。

 そしてどちらもが、誰か、大切な人を呼び掛ける声。

 安心して、大丈夫だ、と俺は手を伸ばしてーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーー暗い。

 最初に認識したのは、目に写る暗闇だった。

 洞窟やダンジョン内のような仄かに光が見える、ということもなく、ただ暗い。

 俺、生きてる......

 暗闇に少しずつ目が慣れてくると、次に認識したのは、現在地だ。

 ここは......どこかの部屋のなか? ベットに眠らされてるのか?

 確か俺はさっきまで迷宮区にいて、それでーーーー

 

「ーー......っ!!」

 

 そうだ。迷宮区で、シバとかいう奴に遭遇して、戦闘になって。それでミウが......!

 

「ミウ、ミウは!?」

 

 ベットに横たわっている体を跳ね上げるように起こす。体が異常なほどに重く感じるが、そんなことはどうでもいい。

 ミウはあのあとどうなったんだ!? ミウも助かったのか!?

 なんでもいいからなにか情報を得ようと首を動かし周りを確認する。妙に暗いと思ったら外はもう夜で、カーテンを閉めているからだったようだ。

 部屋のなかには俺が今座っているベットと簡素な机が置かれている。ここはどこかの宿屋か?

 そして......俺が今座っているベット。それにもたれかかるようにして、眠っているミウの姿があった。

 その存在が幻かなにかではないかと怖くなりミウの頭に触れるが、ちゃんとしたミウの髪の柔らかい質感があった。

 

「よかった......ミウ、大丈夫そうだ......」

 

 安堵の息をつく。

 心に余裕が出てきたからか、今の状況。いつぞやの寝起き騒動にそっくりだなーとか思ったが、今はあの時のような混乱よりも安心感の方が強く、嫌がられるかもしれないがなんとなくミウの頭を撫でていたかった。

 俺が撫でるのに反応してミウが小さく心地良さそうに唸る。その反応がまたミウがここにいることの証に思えて安心感が増す。

 ......でも、どうやってここまで戻ってきたんだ? 記憶が微妙に飛び飛びになっていて、よく分からない。

 あいつーーシバはどうなったんだ? 俺たちを見逃した......? あそこまで戦っておいて?

 思考に没頭してしまったせいで、ミウの頭を撫でる手が止まる。するとそれがスイッチになったかのように、ミウがゆっくりと目を開く。

 

「......コウキ?」

 

「おう、コウキですよ?」

 

 一度の確認の後、ミウはそのまま硬直する。

 そしてゆっくりと目を見開いていくと、次の瞬間、ガバッと俺に突進する勢いで抱きついてきた。

 

「うぇっ!? ちょっとミウ!?」

 

「コウキだよね!? 本当に、コウキここにいるんだよね!? 夢じゃないよね!?」

 

「......うん、ここにいるって。大丈夫」

 

 ポンポン、と何度かミウの頭を叩いてやると、ミウは顔を俺の胸に押し付けてくる。

 みっともない顔を見せたくない、ということなのだろうか?

 ......今の状況とか、聞きたいことは色々あったけど、それよりも優先することがあった。

 ミウから嗚咽のようなものは聞こえてこない。それでも、今は受け止めるべきだと思った。

 それからしばらく、俺とミウの声は途切れることなく部屋のなかに響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーってことは、アスナたちのおかげで助かったってことか?」

 

「うん。私もコウキもHPはほとんど満タンだったけど、精神的には危なかったから......」

 

 ミウとの熱い抱擁ーー他に言い方が思い付かなかったーーを終えてから10分ほど。ミウからシバとの戦闘からの大まかな流れを聞いていた。

 俺がいまいち覚えていない箇所ーーつまりシバに斬りつけられてから先は、シバが俺に気圧されて(?)何故か急に立ち去る。俺はぶっ倒れる。ミウも錯乱してしまっているところにアスナたち《Kob》の攻略パーティーが通りがかり、俺を街まで送ってくれたらしい。

 そして街に戻ってきたところで、偶然にもヨウトがアスナたちを発見。事情を聞いてヨウトのホームに俺を搬送してくれた、とのこと。

 俺が今いるのは、最近ヨウトが買った新しいホームとのことで、5部屋もある優良物件らしい。(なぜそんなに部屋数を求めたのかは分からない)

 ......ヨウトに、また借りができてしまった。それにアスナたちにも。今度お礼を言いに行かないと、だな......

 

「ね、ねぇ、コウキ。本当にもう体は大丈夫なの? 頭、くらくらしたりしない?」

 

「あぁ、大丈夫だよ。ていうか、それもう7回目だぞ?」

 

「う......ごめん......」

 

「......」

 

 俺の隣にベットに腰かけたミウは、いつもの元気をどこかになくしてしまったかのようにしおらしく俯く。

 本当なら、俺がミウを元気付けなきゃいけない。いや、元気付けたい。でもその俺自身がミウをここまで心配させてしまったという罪悪感に襲われて、何も言えなくなってしまう。

 そして俺たちの間に心細くなるような、冷たい沈黙が訪れる。

 そんな中、ミウはちらちらとずっと俺のことを見てくる。だがそれは俺の様子が気になるというものではなく、それこそ心細い子供がするような仕草だ。

 

「コウキ......」

 

「ん?」

 

「その......手、握ってもいい......?」

 

 ミウの言葉を聞いた瞬間、返事をするよりも早く俺はミウの手を握っていた。

 それは、俺が今ミウにできることはそれしかないと思ったからだし......俺も、今はミウに触れていたかったからでもある。

 ミウは一瞬驚いたみたいだが、すぐさまいつものほどではないが笑みを浮かべてくれた。

 再び沈黙が訪れるが、それは先程よりは幾分温度がある。

 ......改めて考えてみると、今ミウとこうしていられるのも、ほとんど奇跡みたいなものなんだ。

 なにかが一つ違ってしまえば俺とミウのどちらか、もしくは両方が、今ごろ消えてしまっていたのかも知れないのだから。

 俺がその事実にうすら寒いものを感じていると、ミウが握った手を強く握ってきた。

 驚いてミウを見ると、ミウはただ床を見つめているだけで、俺のことを気にして握ったわけではないらしい。

 ーーミウは、こうして時々俺の手を握ってくることがある。

 前に、俺の手なんか握って楽しいか? と聞いたときには怒られてしまったが、振り返ってみるとミウは大体なにか不安になった時に俺の手を握ってきている気がする。

 もしかしたらミウなりに不安に耐えようとして、誰かに甘えることで心のバランスを保っているのかもしれない。

 ......それなら。

 

「......ふぇ?」

 

「......」

 

 ミウの小さな戸惑いの声を無視して、俺はさらに手を強く握る。

 今の俺には、これぐらいしかできないから。

 だから、せめて少しでもミウの不安をかき消すためにも、ミウの手を強く握る。

 

「......コウキは、やっぱり優しいね」

 

「そんなことないよ。本当に優しい奴はーーーー」

 

 ーー大切な人を不安にさせたりしない。

 そう言おうと思ったが、いくらなんでもキザったらしいと思って口をつぐんだ。

 でもミウは、ちゃんと聞こえたよ? というような表情で小さく笑った。

 その笑顔はさっきのものよりも、少しだけいつもの笑顔に近づいている。

 俺が安心していると、ミウは手を離して立ち上がる。

 

「うん。ごめんね、私の不安押し付けるみたいになっちゃって」

 

「いや、俺もよく聞いてもらってるしな」

 

「そっか、じゃあおあいこだ......じゃあ、コウキはもう少し寝てて」

 

「え、いや。もう大丈夫だぞ?」

 

「うそ。コウキさっきから少し頭揺れてるもん」

 

 あれ? そうなの?

 確かに体がめちゃくちゃ重く感じるけど、そこまで疲弊してるのか......

 少し申し訳なくなったが、ここはミウの言葉に甘えさせてもらうと思い、再びベットに横になる。

 ヨウトへのお礼は、明日すぐにでもなにかしよう。

 

「......あ、でもミウもまだ疲れてるんじゃないか? ごめん。俺起こしちゃったか」

 

「ううん。私はもうほとんど全快してるよ。それにお陰でコウキの顔すぐに見れたし、ありがと、起こしてくれて」

 

「あぁ......そう」

 

 ......ん? おかしいな。確かに今ちょっと感傷的な雰囲気だし、ミウも元々躊躇わずに思ったこと言うところあるから大胆発言もおかしくないような気がするど......なんか、いつもよりもミウの言葉が思わせ振りというか、どストレートというか......

 きっとこれもまだ頭が回ってないからそう思うだけかな? と自分に言い聞かせて、俺は布団を被る。

 すると、急に布団のなかに侵入者が現れた。

 侵入者は手だけを布団のなかに侵入させ、俺の手を再び握ってくる。

 

「......ミウ?」

 

「眠るまでこうしてる」

 

「いや、それは......」

 

「ダメ......?」

 

「......」

 

 だから、なんでそんなにしおらしいの? 俺じゃなければ襲っててもおかしくないレベルのしおらしさだ。

 ただそれは、そこまでミウに心配をかけたということで......

 こんな状態で、ダメとも言えるわけもなく......

 

「......寒いから、ミウもカーディガンかなにか羽織れよ?」

 

「うん、ありがと......おやすみ」

 

 おやすみ、と返して俺は渋々と目をつむる。

 年頃の女の子と二人きりの状態で眠るなんて、中々にすごい状況なんじゃないか? とも思わなくもない。

 だがそんな俺の考えに反して、今日はいつもの何倍も早く、眠りにつくことができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 SIDE Miu

 

「......すぅー、すぅー」

 

「......」

 

 外からも人の声がほとんど聞こえなくなった時間。コウキの寝息は、コウキが目をつむってすぐに聞こえ始めた。

 リズムもほとんど一定だし、コウキが私に気遣って寝た振りをしているわけでもないと思う。

 ーーやっぱり、疲れてたんだよ。

 きっと今のコウキには言葉は届かないだろうから、心のなかでしたりがおをコウキに向けておく。

 やっぱり、コウキの寝顔はいつ見てもほっとする。心が暖かくなるというか、居心地がよくていつまでも見ていたくなる。

 でもそれだとコウキも休めないだろうし、そろそろ部屋から出ようかな......

 

「.......」

 

 立ち上がろうとして、ふと、繋いだコウキの手に意識がいく。

 ......今、こうしてコウキと手を繋いでいる。こうしてコウキが目の前にいる。

 それは決して普通なことじゃない、すごい偶然のもとにあるんだってことは分かってた。

 分かってた、つもりだった。なのに、いつからか忘れていた。

 コウキがいなくなるなんて、もう考えたくもない。脳裏を掠めることすらも嫌だ。

 さっきコウキのお陰で暖まった心が、また急速に冷えていくのが分かった。

 

「......寒かったらごめんね」

 

 私は繋いでいるコウキの右手を少しだけ浮かして、自分の胸に寄せる。

 そして、できる限りのーーコウキを起こさない程度のーー力でコウキの手を胸に当てる。

 コウキの手が触れている部分から、少しずつ暖かさが戻っていく。

 ......本当は、さっきみたいに抱きつきたい。でもそれじゃあコウキを起こしちゃうから。

 コウキから触ってくれたらもっと大丈夫になると思うんだけど......あ、いや、胸にじゃなくて。

 ......いや、その、胸も、コウキが触りたいのなら、構わないけど。

 だからさっき手を握ってもらえた時はすごく嬉しかったなぁ。

 あんな風に、もっと色んなところを触ってもらえたらーーーー

 

「~~~~っ!」

 

 これ以上はなにか違う意味でマズい気がして、すぐにコウキの右手を布団のなかに戻す。

 うん、まぁ、あれだよ。こんな変な思考になっちゃうぐらいにはコウキから元気をもらえたんだ。よかった。

 実際、コウキが目を覚ます前と今じゃ全然気分が違う。まだ全快には遠いけど、それでも良い方向に気分が向いている。

 私は名残惜しさを抑えて、おやすみ、ともう一度言って部屋から静かに出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コウキが眠っている部屋からリビングに移動すると、向い合わせで二つ置いてあるソファーにヨウトが座っていた。

 ヨウトも私に気がついて片手をあげてくる。

 

「アスナたちへの挨拶、ありがとね」

 

「まぁ、あの状態のミウちゃんにはさすがにやらせるわけにもいかないしな」

 

「......えっと、私、そんなに乱れてた?」

 

「そりゃあもう」

 

 ヨウトは冗談めかして言ってるけど、目があまり笑ってない。

 私はさっきまでコウキの部屋で寝てしまっていたわけだけど、それはずっとコウキに泣きながら抱きついてたから......だと、思う。

 しかもヨウトの様子からするとかなり喚きもしたっぽい。うぅ、恥ずかしい。

 だと思う、とか、ぽいっていう他人事になってしまっているのは、さっきはコウキの手前言えなかったけど、私も少し記憶が飛び飛びになってしまっているから。

 シバくんにコウキと一緒にやられかけた時とか、シバくんが立ち去った後とか。記憶としては残っているんだけど、その時の感覚というか......私の意識みたいなものをいまいち覚えてない。

 なんかこう......スクリーンで映像は見てるんだけど、私自身のこととして実感がないみたいな?

 それでも、コウキがいなくなりそうな不安感みたいなものだけはずっと残ってて......あぁ、だから余計に怖いのかもしれない。

 

 まぁとにかく。

 

 そんな私がアスナたちにまともに状況説明なんてできるわけもなくて、私の代わりにヨウトがアスナたちに細かい話をしてくれるって言っていた。

 アスナたちも、ただずっと泣き叫んでいた(のかな?)私を宥めながら街まで戻るのは本当に大変だったと思う。ヨウトにもアスナたちにも、本当に感謝しないといけない。今度なにかお詫びの品を持っていかないと。

 

「でも、アスナがミウちゃんとコウキには後日詳しい話を聞きに来るってさ」

 

「それでも感謝しきれないよ。うん、私も少し落ち着いたから。ヨウトも本当にありがとう」

 

「ははは、ミウちゃんは真っ直ぐに感謝の言葉とか言ってくるからちょっとこっちがはずくなってくるな......」

 

 ヨウトが恥ずかしそうに頭を掻く。

 真っ直ぐお礼を言うと相手は恥ずかしいんだ......そう言えばコウキもたまに今のヨウトみたいな表情をしてることがある。そういうことだったのか。

 今度コウキに今回のことも含めて真っ直ぐお礼言ってみようかな、と考えてると、家の玄関からドンドン! と扉を叩く音が聞こえた。

 こんな時間にお客さま......?

 ヨウトが返事をして扉を開けに行く。

 そして扉を開ける音が聞こえた瞬間。

 

「コウキさんとミウさんが危ないって、本当ですか!?」

 

 家のなかに響き渡るほどの叫び声が聞こえた。

 この声って......

 声の主に心当たりがあり、私も玄関の方へ移動すると。

 

「リリちゃん?」

 

「あっ、ミウさん!! あの、か、体は大丈夫なんですか!? お二人が倒れたってヨウトさんからメッセが......!!」

 

「うん、私は倒れてないけどね。でも......」

 

「え......コウキさんは......?」

 

 どう説明したものかな、と考えていると、ヨウトが間に入ってくれる。

 

「まぁまぁ、リリちゃん落ち着いて。ちょっと長くなるしさ、中入って話さない? いくら夏だって言っても夜は冷えるし」

 

 ヨウトの提案にリリちゃんは少し迷っていたけど、やっぱり私たちのことが気になったのか小さくうなずいて扉をくぐる。

 そしてヨウトの誘導に従って、場所は再びリビングに。

 私のとなりにリリちゃん。向かいにヨウトの位置でソファーに座り直す。

 そしてすぐに、うし、と言ってヨウトが話を切り出す。

 

「じゃあ、俺からある程度説明していくけどーー」

 

「あ、ちょっと待って」

 

 でも、私はヨウトの出だしを止めた。

 

「私から話すよ」

 

「......大丈夫か? まだキツいだろ」

 

 ヨウトが少し咎めるような雰囲気で言う。

 こういうところを見ると、やっぱりヨウトもすごく優しいと思う。どんな場面でも友達のことを心配して、その人が困らないようにしてるのってすごく難しいことだ。

 でも、今は私が話したい。

 

「リリちゃんはわざわざ心配してきてくれたんだから、私から話すよ。それにもうだいぶん元気出てきたから、だいじょぶだいじょぶっ」

 

 右腕を曲げて力こぶを作って見せる......ないけどさ。

 声も少し張り上げて過剰な元気アピールになっちゃったけど、そのおかげかヨウトはなんとか引き下がってくれた。

 ありがと、とヨウトに言って、体を隣のリリちゃんに少し向ける。

 

「じゃあ、話すね」

 

「はい」

 

「おう」

 

 二人からの返事を聞いて、私はさっきコウキとも話した内容にコウキが覚えていたことも付け加えて話す。

 さっきも言ったけど、私も少し記憶が飛んでいる。だからその部分は曖昧な説明になってしまったけど、二人はなにも言わずにそのまま聞いてくれた。

 私の説明が下手なこともあって、全部話すには30分ほどかかってしまった。

 話終えて、最初に口を開いたのはリリちゃんだった。

 

「あの......じゃあ、二人とも体は大丈夫、なんですよね......?」

 

「うん。コウキもさっき目覚ましたしね。今はまた寝てるけど」

 

「......よかった......」

 

 リリちゃんが大きく息をつく。

 ......リリちゃんも本当に優しい。

 多分、ヨウトから連絡があった時にも、本当に心配してくれて、ここまで来てくれたんだと思う。

 

「リリちゃん、ありがと」

 

「へ......あ、いや。はい......」

 

 私は嬉しくなってリリちゃんにお礼を言うと、リリちゃんはいつもみたいに俯いてしまった。

 やっぱり、こういうところは本当にかわいい。

 

「ーーっ! あ、そうだ! わ、私食べ物持ってきたんです! コウキさん、起きたときにお腹も減ってると思いますし......」

 

 このまま頭とか撫でたら嫌がられちゃうかな? と考えているとリリちゃんは勢いよく立ち上がった。

 その表情はなぜか妙に青ざめてる気がする。なんでかな?

 

「.......今、ちょっと危なかったかも......ミウさん女の子にもモテそう......」

 

「?」

 

 リリちゃんが私に背を向けてなにか言っていたけど、よく聞こえない。

 そしてリリちゃんはそのままコウキの部屋に向かう。その際にコウキを起こさないように静かにね、って一応言っておいたけど......リリちゃんなら大丈夫か。

 私がリリちゃんから目を離すと、今までずっと黙っていたヨウトが神妙な顔でなにか考えていた。

 

「どうしたの?」

 

「......ん、いやな」

 

 ごめんごめんってヨウトは苦笑いする。

 でも、表情そのものはあまり変わってない。

 

「やっぱり攻略って危険だな、って再認識してただけ」

 

「......コウキのこと、心配、だよね」

 

 そりゃあそうだ。基本積極的に仲良くしようとはしないけど、コウキとヨウトは親友同士。

 そんな自分の親友が危険な目に遭って、しかもそれが親友の相方のせいともなったらーーーー

 

「あ、一応言っておくけど、別にミウちゃんがどうこうって話じゃないよ?」

 

「......なんで、分かったの? 考えてること」

 

「その辺は、コウキとミウちゃんよく似てるからな」

 

 呆れたようにため息をつくヨウト。

 そんな、私はコウキほど自虐的ってわけでもないし、溜め込みやすくもないと思うんだけど......

 すると、ヨウトはまたため息をついて、「むしろこの鈍感さの方がミウちゃんにとって問題だよなぁ」とか言ってる。よく分からない。

 そしてヨウトはそのまま違う話を始めてしまって、私がさっき気になったことは、結局聞けずじまいに終わってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 SIDE Lily

 

 コウキさんが眠っていると教えてもらった部屋の前に立つ。

 そして、右手に持った菓子パンの存在を確かめる。

 ......慌てて来たからこんなものしか用紙できなかったけど、大丈夫......だよね?

 私は小さい頃体が弱くてよく寝込むことがあった。その際に目を覚ましたとき、体の調子が良くなっていたらそれまで食べ物が喉を通らなかった分お腹が減る。調子が悪いままでも、自分が起きたときにただ布団とベットしかないのはすごく寂しい気持ちになる。

 そんなときに小物でもいいから食べ物があると、食べてお腹を満たすこともできるし、誰かに心配してもらえていることがすごく嬉しくなって寂しさなんて感じずにすむ。それが私の考え、というより体験談。

 コウキさんは私なんかよりも強い人だからそんな風には思わないかもしれないけど......それでも、少しでもいいから、私もなにか力になりたい。

 菓子パンは袋に入っているから水分が飛んじゃうこともない。

 ......よし。

 

「......あっ」

 

 そういえば、この部屋、扉開くの......?

 宿屋とかだと中にいる人じゃないと開けられないけど......

 少し迷った末、コンコン、と小さくノックする。

 

「コ、コウキさーん......?」

 

 小さく名前を呼んでみるけど、やっぱり返事はない。

 いや、私が小さい音しか出していないから聞こえないだけかもしれないけど。でも、コウキさんを起こしたら申し訳ないし.......でも......

 なんとかコウキさんの邪魔をせずに入れないものかとダメ元で扉のノブに手を伸ばすと。

 

「あ......開いた......」

 

 さっきまでボス部屋の大扉なんて目じゃないぐらいに威圧感を放っていた扉は、手前に引くと簡単に開いてしまった。

 そっか、ここヨウトさんの家なんだから鍵とかはついていないのが普通だよね......

 

「失礼......します」

 

 私は抜けてしまった気を入れ直して、ゆっくりと部屋のなかに入っていく。

 コウキさんは......まだ眠ってる。よかった、起こしたりはしてないみたい。

 私は音をたてないよう、かつ迅速に動く。持ってきたパンはコウキさんの目につきやすいよう机の上に置いておく(というより、そこしか置く場所がなかった)

 あとはまた音をたてないよう注意して部屋から出るだけ......だけど。

 

「......」

 

 私は、今まで以上に音をたてないよう慎重に歩いて、今も眠っているとコウキさんに近づく。

 ......本当は、あまり良くないことなんだろう。それでも、気になってしまった。

 ヨウトさんからメッセがきた時心臓が止まるかと思った。コウキさんとミウさんのことが心配で仕方がなかった。

 いつもいつもコウキさんに手が届かない私は、コウキさんの危険すらも分からない。

 私は、心配して、見上げることしかできない。

 だから、欲が出てしまった。

 せめてコウキさんの顔を近くで見たいと。

 あと一歩近づけば、コウキさんに手が届く。そんな距離まで近づいた瞬間ーーーー

 

 

 

 

 ーーーーバッ!! と、コウキさんが体を起こして、壁際まで逃げるように後ずさった。

 

 

 

 

「リ、リ.....?」

 

 コウキさんが眠っていたベットは壁に接していたから、コウキさんが床に落ちるようなことはなかった。

 でも、その様子は何かに怯えているようで、顔が真っ青だ。

 呼吸も妙に荒れている。

 ......でも、今それを気にすることができるほどの余裕は、私にはなかった。

 

「ご、ごめんなさいっ!!」

 

 私は反射的に謝って、その場から走って立ち去ろうとする。

 その間にも、頭のなかにはさっきコウキさんに不用意にも近づいてしまったことへの罪悪感がぐるぐる回っている。

 コウキさんを起こしてしまった......

 あれほど起こさないよう気を付けていたのに、また迷惑をかけてしまった......

 私が変な欲を出してたせいだ、全然コウキさんの力になれてなんかない......

 どうして私はいつもいつも......

 

「ちょ、ちょっと待ったリリ!!」

 

 私が扉のノブに手をかけた瞬間、コウキさんに声をかけられた。

 つい、コウキさんの声に反応してしまって体の動きが止まる。

 

「人の気配がして薄目開けてみたらリリがいたから驚いたんだ」

 

「え......?」

 

「リリのこと驚かしちゃったよな。ごめん」

 

 コウキさんが本当に申し訳なさそうに謝ってくる。

 ......私がなにかしわけじゃなかった?

 コウキさんの表情を見ても、誤魔化しているのかどうかいまいちよく分からない。

 コウキさんが言うことを疑う訳じゃないけど......いや、でも!

 

「あの、でも! 私が近づいたせいです。本当に、ごめんなさい......」

 

「ははっ、大丈夫だよ......あ、それもしかしてパン?」

 

 コウキさんが私が机に置いたパンを指差して言う。

 それに頷くと、コウキさんは目を輝かせた。

 

「じゃあそれもらってもいいか? 俺、昼ぐらいからなにも食べてなくてさ」

 

「え、あ、はい! どうぞ! あの、あまり美味しくないかもしれませんが!!」

 

「ありがと」

 

 コウキさんは私が渡したパンをすぐさま食べ始める。お腹が空いていたのは本当だったみたい。

 ......よかった、ミウさんの言う通り、コウキさんも大丈夫そうだ。

 コウキさんを起こしてしまった申し訳なさもまだあるけど、一番気がかりだったことを確認できてホッとしている自分がいる。

 でも、このままここにいるとさらにコウキさんに迷惑をかけてしまいそうで怖い。

 そう思って、私はコウキさんに一言声をかけて、今度こそ部屋から退室した。

 ......その時になって、私はようやくコウキさんが起きたときの様子が異常だったことに気がついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 SIDE Miu

 

「あ、リリちゃんおかえり。コウキの様子どうだった?」

 

 ヨウトと適当に話していると、リリちゃんがダイニングに戻ってきた。

 私の質問に対して、リリちゃんは顔を曇らせる。

 

「......すみません。私のせいでコウキさん目を覚ましてしまって」

 

「そっか......コウキはなんて? 怒ってた?」

 

「いえ......気配がして起きただけだから大丈夫って......やっぱり、気を遣ってもらったんでしょうか?」

 

 確かに。コウキの場合怒るよりはそっちの方がしっくりくる。

 でも、コウキが自分のことを心配してきてくれた人をただ邪険に思うとは考えられない。リリちゃんが来てくれて素直に嬉しかった、っていうのもあるんだろうな。

 そのことをリリちゃんにも伝えようとすると、それよりも早くヨウトがあっ! と声をあげた。

 

「どうしたのヨウト?」

 

「あー......うん。えっとまず、リリちゃんごめん。今回は完全に俺が悪かった」

 

「......? なんのこと、ですか?」

 

「いや、コウキってさ。ちょっと特異体質で......。人の気配に異常に敏感というか。寝てるときに誰かに近づかれると、自然と目が覚めちゃうんだ」

 

 ごめん、言いそびれてた。そう言ってヨウトはリリちゃんに頭を下げる。

 リリちゃんもヨウトが相手なのに珍しく畏まった様子で、リリちゃんからもヨウトに謝っている。

 そんな中、私はヨウトの言葉に変な違和感を覚えた。

 ......コウキがそういう体質......聞いたことなかったな。

 さっきまで私がコウキの隣で寝ていてもコウキが目を覚まさなかったのは、気絶していたのと同じ状態で反応したくてもできなかった、それで納得できるけど......

 前の......忘れるはずがない私が初めてコウキの部屋に入ったあの朝。あの時も私、コウキの隣で寝てたけど、コウキは私に対してなにも反応していなかった気がする。

 なんでだろう......? 前日がボス攻略で疲れていたから? でもヨウトの話だと異常って言われるほどに人の気配に敏感らしいし......

 私が首を捻っていると、リリちゃんがヨウトに恐る恐ると聞いた。

 

「あの......ヨウトさんは、コウキさんのことを、あの......よく知っているんですよね?」

 

「まぁな。一応幼馴染みだし」

 

「じゃあ......コウキさんのこと(、、、、、、、、)知っているんですよね?」

 

 

 リリちゃんの言葉は、ひとつ前に言った言葉とほとんど同じ。でもニュアンスは違った。

 その言葉にヨウトの顔色が変わる。

 失敗した、というのもあるんだろうけど、驚きの方が強いみたいだ。

 ヨウトが怯んでいる隙に、リリちゃんが続ける。

 

「私は、本当にコウキさんのことを知らないんだって、思ったんです。力になりたいと思っても......なにか見えない壁、に弾かれてしまって......私だけ、力になれないのは、もう嫌です。私がコウキさんに、何度も助けてもらったように......私も、コウキさんの力になりたいんです! だから......」

 

「......ちょっと驚いた。そのこと俺に聞いてくるのは、多分ミウちゃんだと思ってたから」

 

 ヨウトが私に視線を向けてくる。

 ......正直、その方法を考えなかったっていったら嘘になる。

 何度か考えた。ヨウトにコウキのことを聞けば、コウキにもっと近づけて、分かり合えるんじゃないかって。

 でも......

 

「......もう少し、あと少ししたら、全部言うから。あとは俺の覚悟の問題だから。だから、もう少しだけ......待ってくれないか?」

 

 コウキはそう言ってくれた。

 あの時だけはきっと、私は本当のコウキに触れることができていた。そのことが、すごく嬉しかった。

 だから、私はコウキ本人から話を聞きたい。たとえどれだけ時間がかかってもいいから。もしも話してもらえなくてもいいから。

 あの時のコウキとの時間を否定してしまうようなことは、絶対にしたくない。

 

「でもリリちゃん、いいのか? ここで俺が話したとしても、それはコウキ本人の言葉じゃない。想いじゃないぞ? 最悪自分がいないところで自分の大事な話をされて、軽蔑される可能性だってある」

 

 私の考えを読み取って、というわけではないとおもうけど、ヨウトが試すようにリリちゃんに言う。

 それでも、リリちゃんは退かない。

 

「そうかも、しれません......それでも、何か強い力で打ち破らなきゃいけない時だって、絶対にあると、思います......!」

 

 あれほどヨウトのことが苦手なはずなのに。それでもリリちゃんは譲歩せずにヨウトに意見をぶつける。

 リリちゃんの言うことは間違ってない。だからこれは、前提条件の違い。

 今までのコウキとの関係が大切で、それも失わずにコウキのことも助けたい、それが私。

 今までよりも、未来を大切にしようとしていて、たとえ自分がどれだけ傷ついてもコウキのことを助けたい、それがリリちゃん。

 そういう違い。

 ......やっぱり、私の考えって、甘いのかな......

 すると、ヨウトは一瞬迷うような素振りを見せた後、小さく頷いた。

 

「そうだな......あぁ、そうだ。コウキのこと、ここまで心配してくれてるんだ。二人には、話しておいた方がいいのかもな。いや、俺が話したい」

 

 コウキのこと。コウキの、秘密。

 私が前から気になっていた、知りたくても知ることができなかったこと。

 私も何度も弾かれてしまった、コウキの見えない壁。

 それを今、ヨウトが話そうとしている。

 コウキじゃなくて、ヨウトが。

 ......やっぱり、ダメだ。私は、ここで聞いちゃダメな気がする。

 ヨウトが話したのならコウキは多分、怒らないし、軽蔑もしないと思う。でも、コウキ自身の言葉は絶対に聞けなくなってしまう。

 わがままかもしれないけど、私は聞かないって言おう。そう考えた矢先。

 

 

 

 

「おーい、陰口とかってよくないと、僕は思いまーす」

 

 

 

 

「「コウキ(さん)!?」」

 

 コウキの部屋の方への通路から、コウキが歩いてダイニングに入ってくる。

 体はまだどこか疲れている雰囲気があるけど、顔色はさっきよりもいい。

 それに対して、顔色を悪くしたのは私たち3人だ。

 なにしろ、コウキ本人の話を今ここでしようとしていたんだから。

 私とリリちゃんがなんとか弁明しようとしているなか、最初に動いたのはヨウトだ。

 

「い、いや、これは陰口とかじゃなくてだな!? その、なんていうか......」

 

「ばーか。冗談だよ。そんな本気にするなって」

 

 コウキはヨウトのとなりまで行くと、ヨウトの頭を軽くこづいた。

 

「リリに俺が急に起きるところ見られたから、もしかしたらこういう雰囲気になってるかもと心配して来てみれば......」

 

「本当に、わりぃ」

 

「だから謝るなって。ヨウトのことだからまた俺に気を遣ってだろ?」

 

 さて。とコウキは私とリリちゃんに向き直る。

 

「で? 二人は俺のことを聞きたい、ってことでいいのか?」

 

 私......多分リリちゃんも、とにかく最初はコウキに謝ることを考えていた。

 でも、コウキが求めているのはそれじゃない。今の言葉でそれが分かった。

 だから私とリリちゃんは、コウキに向かってただ頷いた。

 

「そっか......元はと言えば先伸ばしにずっとしてた俺が悪いしな......でも、多分ここからはあんま良い話にはならないぞ? それでも聞いてくれるか?」

 

「そんなに辛いことを、コウキだけには背負わせたくないよ」

 

「話して、コウキさんが少しでも楽になるのなら......ぜひ聞かせてほしいです」

 

 私とリリちゃんは少しも間を開けずに言った。

 コウキは私たちの言葉に少し安心したかのように小さく笑うと、ヨウトのとなりの席に座った。

 

 

 

 

「じゃあ話すよ。バカな俺の、昔話をーーーー」

 

 

 

 

 




はい、中継回? でした。

今回は話的に書かない方がいいかな? と思って前書きコーナーは書いていません。
楽しみにしてくださっている方がもしもいてくれたのなら、申し訳ありません。

今回は繋ぎでもあるし、戦闘後の二人の気持ちも表現したかったのでテンポと雰囲気に気をつけて書いてみましたが......やっぱり両立は難しいですね。しかも結局長いですし。

さて次回は......引っ張った通りコウキの過去回です。やっと書ける......!



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