ヨウト「......」
コウキ「あーあ......おーい、大丈夫か? いい加減起き上がれって。お前があんなこと言うからリリにソードスキルでぶっ飛ばされるんだって」
ヨウト「それでも......俺は後悔しない!!」
コウキ「いやそこはしろよ。友達悲しませたんだから反省はしようぜ」
ヨウト「だって!! お前も分かるだろ!? 女の子の柔肌!! 見えるか見えないかのチラリズム!! しかもそれがリリちゃんみたいな大人しい子のだぞ!? 男子なら興奮するかテンションMAXになるかしかないだろ!?」
コウキ「たまに、お前のこと心からすごいと思う。よくそんな台詞大声で叫べるな」
ヨウト「男ならエロに嘘はつかない!!」
コウキ「......はぁ、そんなんだから折角稼いだ好感度も全部下がっていくんだよお前は......(リリと少し仲良くなってきたと思ったのに......はぁ)」
ヨウト「???」
SIDE Nick
「く......たっ!!」
私の攻撃をかわしたミウは、その勢いのまま体を回転させて剣戟を放ってくる。
今の攻撃をかわしてしかも反撃してくる、なるほど。やはり実力は折り紙つきということね。
ただ......どうにも様子がおかしい。
迫ってくるミウの
反応も、判断力も、使ってくる手も、ミウはかなりのものだ。それこそこの世界でも5本の指......いや、もっと上でもおかしくはないと言えるほどに。
だというのに、ミウは私に圧倒されている。
これは......
「はぁ......はぁ......」
数時間後、ミウは膝に手をついていた。
コウキとミウの申し出を受けてから一週間。ミウはまだ私に攻撃を当てることはできていない。
そしてその原因は、もう分かっている。
「ミウ、あなた体の調子悪いでしょう?」
「え......? いや、そんなこと......」
やっぱり、本人は自覚なしか。
調子が悪い、と言っても言葉通りの意味ではない。
ミウの攻撃、防御、体運び、それら全てのペースが、ずれている。
まるで自分が思い描いている動きと、実際の体の動きが合わさっていないかのように。
VRMMOの性質上、始めて間もない人間がアバターとの動きにズレが生じる、というのはある。だがそれは初心者の話でもう1年近くこの世界にダイブしているミウが今さらそんなことになるとは思えない。
となれば。
「確かあなた、シバとの戦闘は互角かそれ以上に戦えたのよね?」
「はい......って、え!? ニックさんシバくんのこと知ってるんですか!?」
「えぇ、言ってなかったかしら?」
シバ。あの子はよかった。
強さに貪欲で、戦闘にはもっと貪欲で。正に私好みのプレイヤーだった。
ただ......なんというか、深みがまだ足りなかったわね。まだまだヒーローを夢見ているだけの少年、という感じで。
コウキのように現実を知っていて、なお希望に手を伸ばすようなものはなかった。私としては強ければそれで良いのだけれど。
それをミウに伝えると呆れたように笑われた。ふん、まぁ、この感覚は分かる人にしか分からないしね。
とにかく、だ。
「あなたは、そのときの動きを再現しようとしているのよ」
スポーツなどでもよくある話だ。本人の体の調子が最高の状態を一度味わって、その後もその動きを再現しようとして上手くいかない、なんて話は。
しかも今回はミウの場合だ。前にも言ったがミウの力はこの世界でも化け物クラスと呼ばれるもの。
そんな人物が一度自分の力を認識してしまったのだから、そりゃあ普段の自分の動きとの違いに戸惑ってしまうだろう。
ただ、この内容は本人に言ってどうにかなるものではない。
そもそも一度は本来の実力で戦うことだできたのだから、またそうできることもあるだろう。
だから、こういうときの治療法というのは、至極単純。
戦って戦って戦って、その時の感覚、動きを完全に思い出せば良い。
私はようやく息が整ってきたミウに、再び剣を向ける。
「さ、次行くわよ」
「話の続きは!?」
「言ったでしょう? 教えるのは苦手なの......面倒だしね」
「絶対後の方が本音ですよね!?」
うるさいわね。
さっさとミウが私と戦えるようにならないと、私もつまらないのよ。
ということで、今日もミウは嬉しそうに目に涙を浮かべ、私と戦い続けた。
SIDE Kouki
結局俺の特訓には、ヨウトとリリが参加してくれることになった。
リリは俺のためにできることがあれば、なんでもやりたいと言ってくれた。
いつもならやんわりと断るところなのだが、俺は俺でもう後がない上に、リリは経験が足りていないだけで多分単純な実力だけで言えば俺と同等だ。
そんな相手を逃すのは、かなり惜しい。
なので今回はリリの好意に甘えることにした。
ただそれでも問題になってくるのは、リリのレベリングだ。リリはまだレベル的には最前線に達していないので、俺の特訓に付き合った後、午後だけでレベリングをするというのは無理がある。
リリもそこは分かっていた。だから午後のレベリングは、俺たちに同伴することになったのだ。
俺とミウの二人がいれば、相当悪条件でもない限りはリリを最前線に連れていくことはできる。リリには本当に負担をかけてしまっているから、レベリングに付き合うぐらいは俺は喜んでする。
ただこれは毎日ではない。いきなりずっと最前線にリリを連れていくのは、それはそれでリリへの負担が大きい。
だから最初は一週間に2~3回程度。そこから慣れてくれば徐徐に回数を増やしていく、という具合だ。
そしてリリは今日、下層の1ヶ月に1回しかない限定日クエストに挑戦している。こういう縛りがあるクエストは良いものなら最前線で攻略をするよりも良い経験値や報酬が貰えることがあるので効率はよかったりする。
ならそれを手伝おうとしたのだが、残念なことにソロ専用のもだった。
まぁ、そんなこんなで今日はいつも通りミウと攻略中、なのだが。
「......」
「......大丈夫か?」
「割と大丈夫じゃないかも......」
最前線、42層ーー《エーレンの森》なかを歩きながらミウは肩を落とす。
互いに別々に鍛え始めて一週間、俺の方にはまだこれといって進展はない。
早くなんとかしなくては、それは分かっているのだがどうにも上手くいかない。
そもそも俺は今まで割となんでもありの方法で戦ってきていて、キリトでいう『反射速度』、アスナでいう『攻撃速度』のような、これという武器らしい武器がない。
強いて言うのなら『目』だが、これは直接的な武器にはならないし......
そんな感じで、俺は自分の武器を見つけないと先には進めないのだ。
それに対してミウの方はというと、今聞いたようにミウも芳しくはないようだ。
しかもこの一週間、ミウはニックにかなりしごかれている+理不尽な言動に左右されているらしく、ミウのなかでニックへの好感度がまた少し下がってるらしい。
でも休憩の時に食べるお菓子は好みが完全に被っていて楽しいし美味しい! とのこと。相変わらず仲が良いのか悪いのかよく分からない関係だ。
「うーん......攻略の時は別にいつも通りなんだけどなぁ」
「なにが?」
「なんかニックさんに、体の調子がー、とか言われてね。確かに言われてみるとニックさんと戦ってるときって動き難いんだよね」
「......それって大丈夫なのか?」
「あ、ううん。別に風邪とかそういうのじゃないから大丈夫だよ」
心配してくれてありがと、そう言うミウの笑顔は、最近よく見るようになった笑顔。
ミウの『女の子』がすごく前面に出てきているような、そんな笑顔だ。
......うーん、この笑顔はなんというか、ペースが崩れる。
今までの元気100%笑顔にも、最近ようやく慣れてきたというのに......
しかも元々ミウは、本人に自覚がないだけでかなりの美少女だ。そういう子にこういう笑顔をされるのは......中々にキツい。
圏外で気を抜くなよ抜くと死ぬぞ、と自分に言い聞かせながらミウに軽く返事をする。
すると、急に森のなかが開けてくる。
「......ん? ミウ、ちょっと待った」
「なに?」
「ここ......多分ーー」
俺が言い終えるよりも早く、場に変化が起こった。
短い悲鳴が聞こえたかと思ったら、次の瞬間には大きな物体が横合いから吹っ飛んできた。
その物体は、よく見ればヒト形ーー女性プレイヤーだ。
それを確認すると続けざまに、その女性を追うようにして二つの影が木の間から飛び出てくる。共に片手剣を握っている男性プレイヤーだ。
見てすぐに分かるように、どうやら女性プレイヤーが男性プレイヤーに襲われている、という状況のようだ。
そして襲われている女性プレイヤーの頭上に?マークが浮かび上がる。
この開いた空間......やっぱりイベントクエスト用のものか。
ということはあの3人はNPCで、これはクエストを受けるかどうか、という状況な訳だ。
「コウキ、行こ!」
「......あぁ!」
返答後、すぐに走り出す。
今俺たちは自分達の力が足りていないことを知って、鍛えている最中だから、ただ突っ込んでいくのは無責任なんじゃないか? とも考えた。
だがそれでこの場を離れるということは、結局俺はニックの言う通り自分の信念に負けてしまう。それは嫌だ。
なにより、ミウだけを行かせるなんて選択肢、俺にはない。
「ちょっと待ったぁぁぁあああ!!」
女性と男たちの間に割って入ったミウが大声をあげて戦闘を中断させる。
それがクエスト受諾の合図になったのか、女性の頭上から?マークのアイコンが消え、女性は走り去ってしまった。
同時にこの開いた空間を透明な膜のようなものが覆う。この場を何とかするまでここからは出られないってことか、くそ。
そこで改めて襲っている男二人を見る。
二人とも武器は装飾の多い片手剣、防具も揃えているのか同じもので、黄色と紫で彩られたいかにも防御力の高そうな甲冑を着ている。
揃えられた甲冑、か。もしかしたら組織ぐるみで行動している人物たちかもしれないな。
「なんだ、お前たちは?」
右に立っている男ーー分かりづらいな。甲冑Aさんとしようーーが問いかけてくる。
その声は屹然としていて、まさに騎士のようだ。馬はいないけど。
あまりに堂々としているせいでこちらがもしかして悪いことをしているんじゃないか? と一瞬思ってしまう。
俺は一度細く息をはく。
「あんたらは何をしてるんだ?」
「ふん、貴様らには何も関係のないことだ、立ち去れ!!」
「あの女の子、泣いてたけど、あれは君たちのせいなんだよね?」
「関係のないことだと言っているだろう、これ以上邪魔するのなら排除するぞ」
甲冑Bさんがミウに剣を向けてくると、甲冑二人に1本ずつHPバーが出現する
......くそ、やっぱ交渉でなんとかするってのは無理か。
この人たちが何を企んでいるのか、そもそもこれがどういうクエストなのかもまだ分からないが、とりあえずこの場を切り抜けることを考えよう。
まず、こういう正式なクエスト受注をせずに受けるクエストーーイベントクエスト等は、急な戦闘イベントの場合が多く、プレイヤー側が万全な状態で望めない場合がある。
だからこそある救済処置、なのかもしれないが、この手のクエストではプレイヤー側のHPが全損することは少ない。
敵のレベルが低く設定されていることが多いのだ。
だから今回もその例に漏れず、この戦闘はそこまで危ないものにはーー
「はぁっ!!」
ーーなりそうだな。間違いなく。
甲冑Bによる俺への斬りつけは、この層にポップする剣を装備しているmob《ゴブリン・エリート》のそれよりも鋭く、速い。
なんとかかわしはしたものの、これは連続して斬りかかられるとかなりまずい。
さらに迫ってくる剣を膝を落とすことでかわし、低い姿勢のまま甲冑Bさん接近、甲冑に両手を当てて《鎧透破》を発動ーーしようとしたのだが、甲冑Aさんが俺に斬りかかってきたことにより、《鎧透破》は中断。代わりに《肩撃》を甲冑Bさんに叩き込み相手二人を引き離す。
くそ、甲冑着てるようなパワータイプの相手なら、超接近戦に持ち込めば力が分散して戦いやすいと思ったのに......それに今の甲冑Aさんの俺への妨害。一歩間違えたら甲冑Bさんに攻撃が当たってたところだ。コンビネーションにかなりの自信があるってことか......
「ミウ、そっちの甲冑さんのこと頼む!」
「了解!」
ミウはそう答えたが、俺が言うよりも早く先にもう戦い始めていた。
......前から思ってたんだけど、俺のミウへの指示ってほとんどいらないと思うんだよなぁ。
でもミウ曰く、あった方が安心できる、らしいし。
等と考えていると、甲冑Bさんが体勢を立て直して、再び剣を構えてくる。
俺もそれに合わせるように背中にある鞘から剣を抜く。
......うーん、さすがは騎士。構えからして隙があまりない。
しかも甲冑なんてゴツいものを着ているせいで威圧感がかなりある。
背後からはミウと甲冑Aさんによる剣戟の音が聞こえてくるが、それは意識の外に追いやる。俺の背中を守っているのはあのミウなんだから、大丈夫に決まっている。
「ふっ!!」
短く息を吐くと同時、今度は俺から接近し、剣を振るう。
狙いは右足。これが通れば上手くすればスタンを取ることができるかもしれないが、さすがにそこまで甘くはない、甲冑Bさんは簡単に剣で防いでしまう。
俺はそこから相手の剣の上を滑らせるように自分の剣を振り上げ、相手の胸を切り裂く。
......ちっ、さすがは甲冑。防御力が半端ないな。胸に直撃でも2割削れないか。
やはり隙を狙ってソードスキルで一撃いれないと効率が悪すぎる。
さらに相手に一撃入れて体勢を崩してやろうとするが、それは剣で防御されてしまった。
さっきの胸への攻撃もかわそうと思えばできたタイミングだと思うけど......ほとんど避けようとしないな。甲冑が重いせいか?
まぁ、なんにせよ、相手が動かないパワー思考の相手だというのは分かった。
それならば、やりようはいくらでもある。
俺は剣が触れあった状態から、今度はつばぜり合いにもっていく。
俺が急にテンポを変えたせいか、甲冑Bさんは反応に遅れて一瞬、つばぜり合いに置いて俺が有利になる。
よし、体勢を崩した、ここでソードスキルをーー
「う、おぉぉぉぉぉおおお!!」
が、俺が有利になったのは本当に一瞬。甲冑Bさんは咆哮と共に一気に力を込め俺を押し返してしまった。
ーーなっ、おいおい。いくらパワーがあるからって、どんだけ筋力値に差があればこんなに一気に持っていかれ......!?
先ほどと反転して体勢を崩された俺に向けて甲冑Bさんは剣を構え、その剣が淡く輝きを放つ。
まずっ、ソードスキル......!!
そう思った時にはもう目の前まで輝く剣が迫ってきている。
だが俺も、ほぼ条件反射的に上半身のモーションだけで発動可能なスキル《スラント》を発動し、迫り来る剣に無理矢理ぶつける。
ガキィィィン!! と互いの剣が弾ける。だが体勢の悪かった俺は、後方に吹っ飛ばされてしまう。
ダメージは......よし、上手く殺せてるな。
俺はすぐに体勢を立て直し立ち上がる。すると俺に背中をぶつけるようにしてミウも後退してきた。
「やっぱ結構強いな」
「そうだねぇ......でもコウキ、わざとこの状況作り出してるよね?」
「......まぁな」
今の俺たちの状況は、相手二人に挟撃されている状態だ。
挟撃といえば二方向から次々と攻撃がされて、中央に配置された側が不利、という印象が強いが、それは絶対ではない。
逆に相手を二つの方向に分割することで一方向当たりの攻撃力を分散させることができるし、今のような2対2の状況なら、真ん中にパートナーと近い状態で配置された方がコンビネーションが取りやすいという利点がある。
相手もコンビネーションに自信があって、攻撃力もかなりあるみたいだったから、俺はわざと相手二人を引き離したのだ。
......まぁ、それで1対1の状況で俺がやられたら話にならないんだけど。
半身で剣を向けて、甲冑Bさんを牽制する。
「ミウ、そっちはどう?」
「うーん......あともう一歩攻めきれないって感じかな~」
「なるほど」
逆に、『あと一歩』があれば攻めきれるってことか。
......よし、これなら行ける。
左肘を2回ほどミウに当てて合図を出す。
直後、俺とミウは同時に自分の相手に向かって駆け出した。
そして近づきざまに、俺は甲冑Bさんに力任せの横一閃を放つが、もちろん筋力値の差にものを言わせて抑え込まれてしまう。
そこで俺はつばぜり合いをせずに、一度後ろに引いた。
甲冑Bさんは俺の攻撃で体勢を崩されたわけでも、意表を突かれたわけでもない。そんな状態で俺が引けばーー
「ふっ! どうした、怖じ気づいたか!?」
ーーそりゃあ、嬉々として一歩踏み込んで俺に追撃してくる。
よし、きた!!
引いたタイミングで放たれる追撃の一撃。これほど嫌なものはないが、来ることさえ分かっていれば対処そのものは簡単だ。
しかも最近はヒットアンドアウェイの師匠、リリ先生(本人にこれを言うと全力で畏まっちゃうけど)に引いたタイミングの攻撃への対処法を教えてもらっているのだ。
これぐらいの攻撃の対処、できないわけがない!
俺は剣を斜めに固定して、迫ってくる剣を左下に逸らし、受け流した。
こういうパワーでごり押し、というタイプにはこういう受け流し方の方がダメージが少なくてすむし、相手自身の力しか使わない受け流し方だから相手の攻撃力が高ければ高いほど相手の体勢を崩すことができる。
前に戦ったポンチョ男のパリィを俺なりに研究した結果だ。
ただこの方法は武器を完全に防御に回してしまうので、弾いてパリィするよりも次の行動に繋げにくいというのはある。つまり反撃に繋げにくいのだ。
だが、今回はこれでいい。
俺はさらに一歩バックステップを入れて、後方に引く。
そして下がった先にはーー先程の再現であるかのように、俺と同じく後方に下がったミウの背中があった。
そのまま俺たちは体をぶつけ、そこから互いに体を回転させることで、互いの立ち位置を入れ換えた。
つまり、俺の相手は甲冑Aさんに。ミウの相手は甲冑Bさんに、ということだ。
甲冑Aさんを見ればちょうどミウに攻撃しようと迫ってきていたところだったようで、突如ターゲットであるミウが俺になったことで混乱し、動きが止まってしまっていた。
ナイス、ミウ!!
この状況なら、ミウが言っていた『あと一歩』も踏み出せる!!
俺の剣が黄色く光り、片手剣三連撃スキル《クロス・ポイント》を発動する。
このスキルは《クロス・シーザー》の上位スキルで、《クロス・シーザー》と同様の横、縦の剣閃の後に、十字が重なった部分に三撃目の突きを放つというものだ。
しかもこのスキルは攻撃が重なる部分はかなりの高火力になる上、タンブル性能までついているという優れものだ。スキルの出が少し遅いというのはあるが、今の状況ならそれを気にする必要もない。
凄まじい勢いで、俺の攻撃は甲冑Aさんに吸い込まれていく。
そして最後の突きが直撃した時、甲冑AさんのHPはちょうど残り3割ぐらいだ。
ミウと入れ替わった時は確か残り6割を切っていたから、ソードスキルを直撃させても3割削れていないということか。くそ、厄介な。
しかも連撃系のスキルは硬直が長い。甲冑Aさんもタンブルして動けなくはなっているが、先に回復されるとかなりまずい。
早くディレイ終われ!! と念じるが、それに反して先に動き出したのは甲冑Aさんだった。
それを見た瞬間、まずい、一撃もらう!! と体を固くさせたが、いつまで経っても重い衝撃は襲ってこない。
それどころか、俺の耳に聞こえてきたのは怒りのこもった咆哮ではなくーー
「く、くそ! 一先ず撤退だ!!」
「貴様ら、我々《エイジス》にこのような蛮行......!! ただですむと思うな!!」
少し懐かしい、捨て台詞だった。重そうな甲冑をガッチャンガッチャン言わせて二人は走り去っていった。
ディレイから解放されてミウの方を見ると、ミウもポカンとしている。
「え、ミウ。ミウが先に相手倒したとか?」
「ううん。私はまだ6割ぐらいまでしか削ってなかったけど......」
じゃあ、なんだ。
倒してないのにあいつらは逃走したってことか? いや、好き好んで相手を倒したい訳じゃないから退散してくれたのは素直に嬉しい。
嬉しいんだけど......なんだ、この拍子抜け感。
「もしかしたら、さっきの甲冑どっちかのHPを残り3割以下まで削るのが条件だったのかも......」
「あ、だからじゃないかな? あの二人が妙に強かったの。二人のうちどっちか片方を集中攻撃して、残りHPを3割以下まで削ればよかったんじゃ......」
「......」
え、マジで?
じゃあさっきまで考えてたあの甲冑を引き離してとか撹乱してとかほとんどいらない思考だったんじゃ......
恥ずかしさのあまり顔を思いきり地面に叩きつけたくなったが、そんな奇行に突然走ればミウが心配するのでなんとか堪える。
代わりに、今日最大のため息をつこうとしたその時。
「すみません!! この辺りで紫の甲冑を着た男が二人いたらしいのですが、ご存知ありませんか!?」
「あっ! この方たちですシラル!! 私を助けてくださったのはこの方たちです!!」
「なんと、それはまことですかミレーシャ様!!」
俺とミウの前に、また突然の来客が来た。
一人は先ほど襲われていた女性で肌がとても白く金髪。体形のメリハリがとてもある穏和かつおてんばそうなミレーシャと呼ばれた女性。
もう一人は先ほどの甲冑さんたちとはまた違う、水色と緑で彩られている甲冑を着ているシラルと呼ばれた男性。なんとなく新人のサラリーマンのような雰囲気というか、とにかくこれまた優しそうな印象がある。
ただ、この二人を見た瞬間、俺は思った。
......あ、やべ。これ厄介事だ。と。
はい、導入回でした!
ちょっと内容が薄くなっちゃいましたかね?(割といつものことのような気が......
ただ少し久しぶりな戦闘も書けたので楽しかったです。
そして新キャラが出てきましたね。これからコウキたちは彼女らとどう関わっていくのか。
次回は......そこそこ進む回かな?
あと最近、どこでAS入れようかとタイミングを伺っているのですが、なかなか見つからずしょんぼりです。