力無き少年のソードアート・オンライン   作:Aruki

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49話目です!

シラル「さぁさぁ剣士さま、こちらです!!」

コウキ「あの、ちょっと待ってくださーー」

ミレーシャ「こちらです!!」

ミウ「え、え!?」

コウキ「あの、状況が全然見えないーー」

シラル・ミレーシャ「「どうぞどうぞ!!」」

コウキ・ミウ「「(なにこの状況!?)」」


49話目 ガイア

「さぁさぁどうぞ、こちらです剣士さま!!」

 

「は、はぁ......」

 

 俺たちは謎の甲冑さんたちとの戦闘後、突如現れたミレーシャさんとシラルさんに半ば強制である村まで連行された(いや、これがクエスト内容に含まれるのなら、半ば、じゃなくて完全に強制だ)

 連行された村は森の中を東へ東へと歩いていった場所で、正に森の中の最奥。隠れ里のような場所だ。

 ただ規模はかなり大きく、各層の主街区ぐらいはありそうだ。

 ミレーシャさんたちについていくと村の出入り口だと思われる場所につく。そこには神社にあるような立派な門がそびえ立っており、門の前には二人の憲兵が構えている。

 憲兵が身に纏っている甲冑はシラルさんが着ているものと同じもので、水色と緑で彩られている。

 門の前まで行くと、憲兵二人は最初に俺とミウのことを睨み、次にミレーシャさんに対して膝をつき、頭を垂れた。

 

「おかえりなさいませ!! ミレーシャ様!!」

 

「はい、ただいま戻りました。頭を上げてください」

 

 ミレーシャさんが憲兵二人の頭に触れながら言うと、統制の整った動きで二人が立ち上がる。

 この感じからするに......ミレーシャさんはお姫様かなにかなのか? でもティアラとか被ってないし、服装も白い修道服みたいなの着てるしな......

 強制連行されてここまで来たが、情報収集は怠らない。ないと思いたいがここまできてまさかの敵地、ということもありうる。

 

 シラルさんが憲兵二人に俺たちのことを「《エイジス》からミレーシャ様をお守りしてくれた方々」と説明すると、憲兵たちに尊敬の眼差しのようなものを向けられた。どういうこと?

 そういえば、さっきも言ってたな《エイジス》とかなんとか。何かの組織名......って考えるのが妥当か。

 そのまま俺たちは門を通された。

 

「う、わぁ......」

 

 ミウが思わずといった風に声を漏らす。

 門の先にあったのは半分ほど予想織りの大規模な村。

 建物はロッジのようなものや、茅葺き屋根のもの、木造が多い。

 それらが不規則にあちらこちらに建っている。ここまではいい。

 それでも俺たちが息を飲んでしまったのは、村の雰囲気、賑わいだ。

 前に見た2層の賑わい、あれにも劣らないほど村は賑わっていたのだ。

 こんな森の奥に、こんなに人がいるなんて......

 最近の主街区でも、ここまで賑わうことはほとんどない。

 俺たちの驚きを見て気分をよくしたのか、ミレーシャさんは俺たちの前に躍り出て、優雅に頭を下げながら言った。

 

 

 

 

「ようこそ、自然の恵みに愛されし国、《ガイア》へ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《ガイア》の中を突っ切り、最初に案内されたのは円状の敷地の中央にある大きな建物だ。

 この建物だけ他の建物と比べて高さがあり、素材にもレンガなど丈夫なものが使われている。位の高い人物が生活したり、客を入れる建物で、《青樹殿》というらしい。

 その話をミレーシャさんに聞いて、とりあえず俺たちは客人として扱われているのかとやっと安心できた。

 そこでシエルさんは「これで失礼します」と言って別れた。ミレーシャさん曰く憲兵や騎士がこういう建物に入ることはほとんどないらしい。

 石造りの重そうな扉は、メイドさんたちが引くと簡単に開いた。

 建物の中はかなり広い。リアルでの例えになるが感覚的にはバッキンガム宮殿とかこんな感じだろうなぁ、という内装だ。

 入ってすぐには左右に廊下がはしっていて、そちらの方を見ると扉が多くある。あっちの方は居住区とかそういった部屋が配置されているとのこと。

 壁はベージュ色のような目に優しい色で統一されている。足元は赤い絨毯......とまではさすがにいかないが、それでも良い石が使われているのが分かる。

 俺とミウがずっとキョロキョロしていると、どこからか女性が二人俺たちに近づいてきた。

 

「わっ、メイドさん!! コウキ、メイドさんだよ本物!!」

 

「いやいやミウさんや。あなたもお店の手伝いクエストで似たような格好してたでしょーが」

 

「そうだけど、あれは偽物だもん」

 

 メイドの本物偽物ってなんだ......?

 俺は首を捻りつつ、今度はメイドさんたちに案内されるままに、入って正面にある扉をくぐる。

 そこから先は空気が違った。というか建物の内装も変わった。

 これは......植物園みたいな部屋だな......

 どういう仕組みになっているのかは分からないが、この部屋は至るところの木や草など植物が生えている上に、外からの明かりを直接取り入れていてかなり明るい。

 自然の恵みに愛されし、という枕詞が似合う様相だ。

 壁際は草木にほぼ完全に覆われているなか、扉から入って真っ直ぐ歩いていくとまた少し空間が変わった。

 なんというか、人の気配というか、生活の気配が出てきたのだ。

 枝や木を切って作ったと思われるイスや机。家具のようなものが辺りにちらほらと見える。

 そして、最後に見えたのはベット。あの王族貴族が使ってそうな装飾多めのキングサイズのやつだ。

 そこには、一人の男性がベットに腰かけていた。

 色素が薄めの短い茶色の髪に、華奢な体格が印象的な人だ。

 

「ナフ、今戻ったわ」

 

「ん? あぁ......」

 

 俺たちと一緒に歩いてきていたミレーシャさんが声をかけると、ナフと呼ばれた男性は鈍く反応した。まるで寝起きのような反応の悪さだが......体調が悪いのだろうか?

 ナフさんは俺たちと正面から向き合うためか立ち上がるが、すぐに数歩足を踊らせ倒れそうになるのをメイドさん二人が支えていた。

 

「あの、大丈夫ですか......?」

 

「あ、はい。ナフのこれはちょっとした反作用みたいなものなので、直に回復します」

 

「はぁ......? あ、辛いのならそのままでもいいよ」

 

「そうかい? 悪いね......」

 

 ミウの言葉に従い、ナフさんはゆっくりとベットに腰を下ろした。

 そして、ふわり、と笑いながら体だけをこちらに向けてくる。

 

「ようこそ、《青樹殿》へ。僕はナフ。ここでの立ち位置は......うん? 僕の立ち位置ってどうなるんだろう?」

 

「もう、そんなこと言わないでよ......すみません、剣士さま。ナフの国での立ち位置は......《森人》......じゃ言葉不足ですね。人間国宝の頂点、と考えてもらえると」

 

「に、人間国宝?」

 

「はい、人間国宝です。そして私のことは人間国宝、ナフの少し下、と考えていただけると幸いです」

 

 人間国宝......その単語をこの世界で聞くことになるとは思わなかったな......

 うーん......まだ全然話が見えてこないが。とりあえず国のなかでもかなりの重要人物って、ことか?

 

「そして、話が前後してしまったけど、この度はミレーシャを助けていただいて、本当にありがとうございました」

 

「ありがとうございました」

 

「「え、えぇ!?」」

 

 ぐいっと、勢いよくナフさん、そしてミレーシャとメイドさん二人が俺たちに頭を下げ、それに俺とミウが声をあげてしまう。

 助けたことにお礼を言われることは、まぁ分かるけど、さすがにここまで畏まられるほどのことじゃない。

 そもそもお礼を言われるべきはミウだ。俺はミウについていったにすぎないんだし。

 それをナフさんやミレーシャさんに伝えたが、頭を上げさせる効果はあっても感謝の念をミウだけに向けさせることはできなかった。あとミウにもなぜかジト目を向けられた。

 一度咳をして空気を入れ換える。

 

「えっと......それで? この国......《ガイア》のこととか、詳しく聞かせてもらうことはできますか?」

 

 適当に口から出てしまった言葉だったが、それは確かに聞きたかった内容だ。

 ここまでほぼ強制的に連れてこられたが、建物などの説明はあっても《ガイア》という国そのものの説明は一切なかった。

 だからそこを聞けばこのクエストの内容やここまでの流れもなんとなく分かるだろう、そう思ったのだが。

 

 

 

 

「いや、その話は追々ということにしよう」

 

 

 

 

 

「っ!!」

 

 ナフさんが言ったその言葉で、ようやく俺は目が覚めた。

 しまった。相手が弱っている上に穏和そうだからって、完全に油断していた。

 ここまでの会話の流れ、完全に向こうに話の主導権が渡っていた。いや、ここまでじゃない、今もそうだ。

 ナフさんの顔を改めて見る。先ほどと変わらず柔らかく微笑んでいるだけだ。

 だが俺には、その笑顔がもうただの笑顔には見えない。

 この話の主導権がいつの間にか持っていかれてて、不気味な感じ......ヒースクリフに似たものを感じる。

 

「あ、じゃあミレーシャさん、さっき襲われてたけど......怪我とかなかった? 大丈夫?」

 

「はい、心配いただきありがとうございます。お二方のお陰で、事なきことを得ました」

 

「そっか、よかったっ」

 

 ミウが安心したように笑うのを見て、俺も安堵の息を飲む。

 ナイスミウ。あのままだったらもう向こうのペースから抜け出せなくなるところだった。

 こういう一度作られてしまった流れは、狙って変えるのが極端に難しいしな。

 

「そういえば、ミレーシャさんはどうしてあの......《エイジス》?に襲われていたんですか?」

 

「はい.......私たちにも理由や狙いは分からないのですが、近頃、《ナーザ》から送られてくる《エイジス》が、民や私たちを襲ってくるようになって......」

 

 うっ、なんかまた新ワードが。

 ただこれも聞いたところでナフさんの笑顔(ほとんど暗黒微笑)に封殺されそうなので質問はしない。

 ミレーシャさんが沈痛そうに顔を伏せる。自分が襲われた恐怖が蘇ったのか、国民が襲われていることに心を痛めているのか。

 すると、ナフさんが細く息をついた。

 ......どうやら、ここからが本題のようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ......気疲れした......」

 

 ナフさんから一通り話を聞いて、俺とミウは今、再び《エーレンの森》に戻ってきていた。

 俺は《索敵》スキルの効果範囲をを全開まで広げて、辺りを確認しながら歩く。

 ナフさんの話はこうだった。

 

 

 ーーミレーシャを助けてくれたその腕前、僕たちに貸してはくれないだろうか?

 

 ーーと言っても《エイジス》を倒してほしいわけじゃないんだ。人手が足りていない見回りの手伝いをしてほしい。

 

 ーー見回りは、この国を覆う森、つまり《エーレンの森》を歩き回ってもらうだけでいい。

 

 ーー見回り時間が終われば、僕かミレーシャに報告する、お願いの内容はそれだけ。剣士さまたちの貴重な時間を奪ってしまうのだから、もちろんそれに見合うだけの報酬は用意させてもらう。

 

 ーーって、おい! まだやるとは一言も......!!

 

 ーーどうか、力を貸してくれないか?

 

 ーーやります!!

 

 ーーミウぅ......

 

 

 

 ーーーーこんな感じ。

 あぁ......なんかすごい勢いで変な出来事に巻き込まれていってる気がする。

 

 多分、このクエストはたまにある連続ものだ。

 一つのクエストをクリアしてそれで終了、とはならずに、その後また新たなクエストに挑戦できるようになるタイプのやつ。

 こういうタイプのクエストって、下手すると何層も続くことあるからなぁ......

 俺はため息をつく。

 今回のため息は、この妙なクエストに対して、でもあるが、もう一つ理由がある。

 それは、ここまでの話を踏まえた上でも、俺は前ほど忌避感を覚えていないからだ。

 誰か見ず知らずの人のために、自分達が傷つくリスクを背負いながら無償で動くなんて馬鹿馬鹿しい。その考えは今でも変わらない。

 ただ。

 

「この森空気美味しいよね。マイナスイオンとか出てそう」

 

「......」

 

「うん? どうしたのコウキ?」

 

「......いや。出てるとするならマイナスイオンじゃなくて何かの周波数とかじゃないか?」

 

「もー、コウキはまたそういう夢のないこと言う!!」

 

「ははっ」

 

 ただ。

 その馬鹿馬鹿しいことでミウがこんなにも嬉しそうで、それを見ている俺が悪くない気持ちになるのなら、それはそれでありかな。そうも思うようになってきた。

 さっきもそうだったけど、誰かに喜ばれるのは悪い気はしないしな。

 でも、その新しい考えを俺が実行するには、やっぱり強さが必要だ。

 ......結局、もっと頑張れってことか。

 

「コウキ!」

 

「うん?」

 

 またミウの話を聞いてなかったかと思って、一瞬焦ったが、ミウを見ても別に不機嫌な色はない。

 ミウは俺の後ろに回ると、そのまま背中を押してくる。

 

「ほら、早く行こ!」

 

「......そうだな。さっさとこの見回り終わらせてレベリングするか!」

 

 ミウに押される形で俺とミウは速い歩調で森を行く。

 ......やっぱり、俺はミウに変えられたのかもしれない。そんな考えがなんとなく浮かんだが、これも悪い気はしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、先ほどと似たような甲冑さんと交戦してなんとか追い払ったりして、今は夜。

 言われた通りナフさんに今日の成果を報告すると、「ありがとうございます」の一言と報酬のアイテムがもらえた。

 一応これでクエストクリアにはなったのだが、この国の問題がなにも解決していない以上、おそらくまたこのクエストは発生するだろう。

 その前兆なのか予防線なのかは分からないが、今日はこの国の宿屋に泊まっていってくれと言われた。

 宿代はタダ。泊まる宿は今用意できる最高のもの、ということだ。

 ......うーん、なんか宿の方が報酬、みたいになってるよなぁ。「一度泊まったんだからこれからもよろしくね、ね?」というようなナフさんの考えが見え隠れしてる気がする。

 とりあえずヨウトに今日は俺とミウが帰らないことを伝えておく......なんだ、この家族がしてそうな連絡。

 

「コウキ、連絡終わった?」

 

「あぁ、終わった」

 

「そっか」

 

「......」

 

「......」

 

 俺たちの間に、沈黙が訪れる。

 といってもこの沈黙は別に空気が悪いものではなく、ただ互いに小休憩が重なっただけで、このぐらいのことなら毎日あるし問題ない。

 ただ、今は違う。俺は今、ものすごく後悔していた。

 なんだかんだいって、ここ最近はミウと一緒にいる時間がかなり減って、レベリング、攻略中も、mobを気にしていたり景観で話題を作ったりと、ミウとゆっくりする時間というのがほとんどなかった。

 だけど今、落ち着いた。落ち着いてしまった。

 そうなれば、思い出してしまうのは当然あの朝の出来事。

 ミウの綺麗な笑顔と、あの言葉だ。

 ......あれは、どういう意味だったのだろう?

 俺の考えを壊す、って言ってたけど、そもそも俺の考えってなんだ? いやそれよりもあの辺りから妙にミウの笑顔が、なんというか、かわいーーーー

 

「コウキどうしたの? 急に唸りだして」

 

「なんでもないですごめんなさいなにも考えてません」

 

「?」

 

 いやいや落ち着こうぜ俺。

 ミウが美少女なのは元からだ。だからああいう表情をすれば誰だって可愛いというだろう。現にヨウトとかアルゴはちょくちょく言ってるし。

 気分を変えるためにも俺は自分達が今いる部屋を見渡す。

 一人部屋。今用意できる最高の部屋と言われただけあってベットはフカフカだし、クローゼットや机といった家具も高そうなものばかりだ。確かこういうのはアンティーク風、だったか。

 ミウも隣の部屋に泊まることになっていて、その部屋も俺の部屋と作りは同じだ。

 ここまで豪華な部屋をこんなに簡単に用意するなんて......やっぱ過剰にもてなされてる感が半端ないな.....

 ......うーん。

 

「なぁ、ミウ。ミウはナフさんやミレーシャさんと話してみて、どう感じた?」

 

「え? どうって......いい人たちだな~かな? あ、あとすごい綺麗な人たちだよね」

 

「なにか、違和感なかったか?」

 

「違和感?」

 

「あぁ。なんというか......普通にプレイヤーと話してるみたいじゃなかったか?」

 

 ナフさんに対して感じた違和感。そして俺も騙されたほどの話術。それを普通のNPCが行っていた、というのがしっくりこない。

 ナフさんの話術はそれこそヒースクリフのような『上』の存在から感じる隠された威圧感のようなものがあった。

 それにこちらの出方を探りながら話すあの感じ。NPCが本当にそんなことできるのか?

 俺もミウ同様、NPCをただのデータだとは思っていないが、それでもこの不気味さはまた別だ。

 なんというか、人間味がありすぎるのだ。

 俺の言葉を聞いて、ミウは小さく唸る。

 

「......でも、仮にナフさんたちが特殊なNPCだったとしても、それはなにか問題のあることじゃないでしょ? だったら気にしなくてもいいんじゃない?」

 

「まぁ、そうなんだけどな」

 

 これ以上考えても無意味、か。

 確かに俺たちは製作側じゃないんだからNPCの違いなんて考えてもそうそう分からないしな。

 

 空気もなんとか入れ換えられたので、それから少しミウと話していると、コンコン、とノック音が聞こえた。

 返事をすると、部屋の扉がゆっくりと開かれる。向こうに立っていたのは、昼にも見たメイドさんだ。

 

「失礼します。ミウさま。浴場の準備が整いました」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「場所はご存じでしょうか?」

 

 ここの浴場は身分や位がいくら違っても皆入る場所は同じで(さすがに男女は違うが)、時間帯で分けたりして人が混まないよううまく調整しているらしい。

 メイドさんは浴場がすいたタイミングで声をかけに来てくれたのだ。

 

「はい、大丈夫です」

 

「失礼しました」

 

 では私はこれで失礼します。そう言ってメイドさんは退出していった。

 

「じゃあ、お先にお風呂もらうね」

 

「あぁ、いってらっしゃい」

 

「......のぞかないでね?」

 

「ぶっ!? のぞかないよ!? なんでそうなるんだよ!!」

 

「あはは......いやー、こういう時の定番かなって」

 

 どんな定番だよそれは......

 そんな、「エロに嘘つかない」とか豪語してるヨウトじゃあるまいし......のぞきなんて.......

 ごくり。無意識のうちに唾を飲み込んでしまった。やべ。

 

「えっと......本当にのぞかないでね? 私信じてるよ?」

 

「だだだだだだからのぞかないって!! 俺はそんな不毛なことしません!!」

 

「......そうだよね。私の裸なんて見ても仕方ないし。見るのならミレーシャさんみたいな人の方がコウキもいいよね」

 

「えっ!? い、いや、そういう話じゃなくてだな!?」

 

「じゃあ、どういう意味なの?」

 

 ミウが拗ねたように小首を傾げて聞いてくる。

 なんだこの変な雰囲気。これならさっきまでの沈黙の方がまだよかった!!

 ミウが不安そうに見つめてくるなか、もうどうにでもなれとばかりに俺は口を動かした。

 

「だ、だからその......そんな、ミウに嫌われそうなこと、したくないというか......そりゃ見たいか見たくないかで聞かれれば見たい、というか......いや、なんかこれは違う気がする!!」

 

「......コウキ」

 

「な、なんだよ......」

 

「......エッチ」

 

 そういう割に、ミウの表情はいつの間にか小悪魔のようなしたり顔になっていた。

 

「~~~~~っ!! だ、大体浴場には見張りとかもいるだろうが! いらん心配しないでいいから早く入ってきなさい!!」

 

 はーい。とニコニコ笑いながらミウが部屋から出ていく。しまった、今完全にからかわれてた......

 あーもう。なんでここまでペース乱されてんだ俺......いやまぁ、いつものことと言えばそうなんだけど。

 

「はぁ.......あー」

 

 最近、またミウのことが分からなくなってきた......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 SIDE Miu

 

「うぅ......」

 

 恥ずかしかった.......

 ミレーシャさんたちに教えてもらった浴場は、すごく大きな露天風呂だった。

 辺りを見渡せば岩や木が視界に入ってくるし、お風呂に浸かりながら自然の空気を肺一杯に吸い込むとすごく気持ちいい。しかも今私しかいないし。

 けど、今の私はそんな自然の恩恵に預かれそうにもない。

 湯船に浸かりながら私はずっと顔を伏せていた。

 今顔をあげたらタコみたいになってそうで、とてもじゃないけどあげられないよ。

 うぅ......自分から攻めるのなら恥ずかしくないかなって、思ったけど、やっぱりそんなこと全然ない。恥ずかしいものは恥ずかしいよ......

 ......私は、コウキの『考え』を壊すって決めた。そのために私ができること、それは私の『好意』をこれでもかってぐらいにコウキにあげることだと思う。

 コウキが、大切な人や大好きな人はいなくなる、裏切られるって考えているのなら、私がそんな考えを壊せるほどの好意を、コウキに与える。そう考えた。

 もちろんこれはなにか義務感に駈られてしてることじゃなくて、私のしたいことでもある。

 コウキに私を好きになってもらいたい。そのためには私がコウキを好きって気持ちを伝えなきゃ、伝えようとしなきゃダメだと思うから。

 

「でも.......」

 

 さすがにさっきのはやりすぎた......

 思いきりが肝心。前に進むことを恐れるな等々......やることが大事みたいな名言はすごくたくさんあるけど、今回のは違った。

 あれは違う。あれはどっちかっていうと初めて自転車に乗れた子供が坂を下っちゃって、ブレーキのかけ方を知らないから止まれないみたいな感じだった気がする。

 はぁ.......今もまだちょっと心臓鳴ってるよ......

 ..........................。

 

 

 

 

 バフン!! と頭が爆発したような気がした。

 

 

 

 

 ど、どどどどどどうしよう!? コウキ、私の裸に興味持ってたさっき!! 私の体見たいって、でも、それはさすがに恥ずかしいというか、でも見たいって言ってくれたのは嬉しくてあーもう、コウキなんでたまにそういうこと言うかなぁ!!!!?

 

「ふへへへ......」

 

 ダメだ。やっぱり顔がにやけるの止められない。

 メイドさんが浴場がすいてる時間を教えてくれてなかったら、こんな間抜けな顔誰かに見られてたかもしれないよね。本当にメイドさんに感謝感謝ーー

 

「お隣よろしいですか?」

 

「うぇっ!?」

 

 誰もいないと思っていたのに、後ろから声をかけられた。

 振り返ると、そこには裸のミレーシャさんがいた。

 ......いやまぁ、お風呂なんだから裸で当然と言えば当然なんだけど、タオルもなにもまとわないで堂々と立ってるから少し圧倒されてしまった。私はやっぱり、体に自信がないからタオルで前隠すし。

 ......胸、大きいなぁミレーシャさん。

 いやいや、羨ましくはないよ? もう全然羨ましくない。本当に本当に羨ましくないったら!! ......ぐすん。

 私が笑顔で、「いいよ」と言うと、ミレーシャさんが音を一切経てずに湯船に浸かった。

 ミレーシャさんは気持ち良さそうに小さく声をあげた。

 それから少し沈黙の時間が続き、先に口を開いたのは向こうだった。

 

「あの、剣士さま」

 

「あ、ミウでいいよ。さまもいらないし」

 

「え、でも、剣士さまは私たちをーー」

 

「ミウだよ」

 

 ミレーシャさんーー私もミレーシャって呼ぼうーーは私の提案に困惑していたけど、最終的には折れて、「ミウ......」と呼んでくれた。

 

「ミウたちは......明日以降も私たちのことを、手伝ってくれますか?」

 

「え......? うん。もちろんそのつもりだよ」

 

 そのことはコウキとも話し合った。

 このクエストはまだ分からないことも多いけど、分からないまま離れるのも嫌だし、誰かが傷つけられてるのならそれをなんとかしたい。

 どうしてそんなこと聞いてくるんだろう? と首をかしげると、ミレーシャが小さく笑った。

 その笑顔は、どこか悲しげに見える。

 

「では、聞いていただいてもよろしいですか? この国のことを」

 

「え......でもナフさんは......」

 

「はい。ですが今日のミウたちの働きを見て、ナフもようやく少しだけミウたちのことを信用したみたいで。ある程度のことは話してもいいと」

 

 偉そうなふるまいでごめんなさい。とミレーシャは続けたけど、それは仕方がないと思う。

 ナフさんは多分、この国でもすごく上の人だ。そんな人が外から来た人をほいほい信用するわけにはいかないだろう。

 

「じゃあ、聞かせてもらってもいい? この国のこと」

 

 これ以上前置きを長くすると、ミレーシャの気分が沈んでしまいそうだったから、私は話を促した。

 そして、ミレーシャは目を閉じて、静かに語り出した。

 

「......私たちの国、《ガイア》はその名の通り大地の女神の名前を有する国。大地の加護を受けている国です」

 

 ガイア......確かなにかの神話に出てくる神様の名前だった......よね?

 

「そして国の民衆である私たちは自然に愛され、自然を愛している。だからこそ私たちはここーー《エーレンの森》深くに住んでいるのです」

 

「じゃあ、さっき言ってた人間国宝『みたいな』ものっていうのは?」

 

「はい。それはそのままの意味でもあります。少しだけ特別な人間が国の宝になった、それだけの話ですが、その特別というのが少々ややこしくて......」

 

 ミレーシャは少し困ったような笑みを浮かべた。

 

「ややこしい?」

 

「えーっと......端的に言うと、私やナフには《森力(しんりょく)》という特別な力があるのです。私たちはこの力を神や森からの贈り物、と考えています。そして、この力を有する私たちのような存在を、《森人》といいます」

 

 なるほど、つまり皆が大好きな神さまや森から与えられた特別な力、それを持ってる人も皆から上位の存在だって思われるってことか。

 でも逆に言えば、そういう人は貴重な存在だからこそさっきみたいに狙われることもある。特別な力、ていうのがどんなものかは分からないけど、他人と違う力を持ってるってだけで誰かに狙われるのには十分な理由だ。

 

「って、大それた言い方をしましたが、本当になんでもない力なんですよ? 私たちの中で一番力が強いナフでも、誰かの傷を癒すだけですし......ミウたちが来たとき、ナフがすごく疲弊していたのを覚えていますか?」

 

「うん、すごく疲れてた」

 

「あれは、《森力》を使った副作用なんです。外で《エイジス》と戦って負傷してしまった民の傷を癒した後だったので」

 

「えっと......その《エイジス》っていうのは、あのミレーシャを襲ってた甲冑さんたちのことだよね? あの人たちは......?」

 

「はい.......彼らは《ガイア》と古来から友好を深めてきた国ーー《ナーザ》の騎士たちです」

 

「《ナーザ》......」

 

 甲冑さんたちが言ってた単語......あれは国の名前だったんだ。

 

「《ナーザ》は、戦の女神に愛されし国です。そのため、少々気性が荒いところも昔からありましたが、それでも《ナーザ》の先代国王が統治していた頃は仲もよく、私たちは互いに手を取り合って、頑張ってきていたんです」

 

「じゃあ、なんでさっきみたいな......」

 

「最近.....正確に言えば《ナーザ》の国王が新しくなってから、《エイジス》たちは私たちを襲うようになってきたのです......」

 

 ミレーシャは私に今の表情を見られたくないのか顔を少しうつむけるけど、温泉の水面に自分の沈んでいる顔が写ったみたいですぐに顔を上げた。

 

「私たち、《森人》を狙うのは分かります。何にかは分かりませんが、きっと利用価値があるのでしょう。ですが、民を襲う理由が分かりません」

 

 お湯のなかでミレーシャが拳を握るのが分かった。

 

 

 

 

「このような辛き思いをするのは、私たち《森人》のような『上』の者たちだけでいいんです。民までもが傷ついてはいけません......ですから、改めてお願いします。私たちに、どうかお力を貸してください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 SIDE Kouki

 

「ーーってことなんだけど」

 

「ふむ......」

 

 風呂から戻って来たミウにミレーシャさんの話を聞いた。

 なんというかまぁ......思った通りというか想像以上にというか、中々に大変そうな話だ。

 色々分かったことはあったが、やっぱり一番の謎は《エイジス》が《森人》だけじゃなくて、普通の人たちも襲ってる、ってことか。

 今までの友好関係を壊してでも行っているのだから、ただの気紛れ、なんてのはありえないし。ってことは重要なのは《森人》の力じゃなくて、《ガイア》の国民ってことか......?

 どうにもまだ情報が虫食いな気がする。もしかしたらナフさんはまだ情報を隠し持っているのかもしれない。

 結局、真相を知りたければもっとナフさんに信用してもらわなきゃダメってことか。

 

「私は、あの話を聞いちゃったからには、もう途中で降りるなんてあり得ないと思ってる」

 

「ミウならそうだろうな」

 

「うん。それで、コウキは?」

 

「そうだな......」

 

 俺としては、ミウの手伝いができれば、割とそれで満足だった。

 だった、のだが。

 脳裏に浮かぶのは、先ほどミウから聞いた最後のミレーシャさんの言葉。

 誰かを、大切な人たちを守りたいという、強い言葉。

 ......あんな言葉聞いたら、そりゃあな。

 

「......俺も、ちょっと火がついた、かな?」

 

 不条理な暴力にさらされて悲しんでいる人たちがいて。

 その人たちをミウが助けようとしていて。

 それならば、俺は全力を尽くしたいと思う。

 誰か大切な人たちを守ろうとしている人の、力になりたいと思う。

 ミウの力になりたいと思う。

 こんなちっぽけな俺の力だけど、それでもなにかしたい、そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜が明けて次の日早朝。俺はヨウトたちと、ミウはニックさんとの訓練のために街に全力で戻らないといけないということを思い出してあたふたしたりした。

 そんな時に限って頭が回らないで《転移結晶》の存在を忘れたり、そのせいで俺が《疾走》スキルを取るハメになったりしたが......それはまた別の話。

 




はい、話が膨らんでいく回でした。

今回はテンポがどうにも悪いですねぇ。上手に話をまとめる方法が未だに分からない......

この話は《ガイア》という国を助けよう!というテーマでは実はないです。いや、それもあるにはあるのですが、他にも色々ついてきます。なのでもう少し長ったらしい展開を暖かい目で見ていてください.....

次回は、多分ASですかね? 多分ツンデレさんが頑張ります。
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