ヨウト達と特訓を始めて、そして《ガイア》に出入りするようになってから数日が過ぎた。
毎日3時間の特訓。自分の力のなさに悲観する毎日だ。でもそれは同時に自分に足りないものが一つ一つ表面化していくということでもある。それらを認識し、少しずつ改善していくのは小さな達成感と確かな自信に繋がっていき、そんな場合ではないと分かりつつも、俺はこの特訓の時間そのものが楽しくなってきていた。
だから問題があるとするならーー
「どうして私がヨウトさんと模擬戦しなくちゃいけないんですか......」
「はは......まぁまぁ。そう言わずにな? 互いに力はつくしコウキの力になれるし、リリちゃんからしてもいいこと尽くしだろ?」
「どうして私がこんな変態の人と模擬戦しなくちゃいけないんですか......」
「あれ? フォローしたのに悪化した!?」
ーーこの二人だよなぁ......
この特訓が開始されてからヨウトとリリが一緒にいる時間は格段に増えた。元々ヨウトを避けていた節があるリリとしてはストレスが溜まる一方だろう。
一緒にいる時間が増えたことで仲が良くなったのか、それともリリのストレスが許容量を越えたのか(後者の可能性大)、リリのヨウトへの八つ当たりは遠慮がなくなっていくばかりだった。
なんというか......やっぱ人選ミスった感じが半端ない。もっとどうにかならなかったものか数日前の俺。
だが二人の模擬戦が俺の力になっているというヨウトの意見はまったくもってその通りだ。
相手を見ることに優れているらしい俺の『目』。戦闘では相手の行動を先読みするのに役立ってくれるのだが、こういった
まず戦闘中と違って客観的に場を見ることができるから、戦っている二人から得られる情報が段違いだ。
短い時間のなかで少しでも多くの情報や技術を身につけないといけない今の俺にとってみては、これほどいい
そしてそれが分かっているから、リリも口では不満不平を垂らしながらもヨウトと模擬戦をしてくれる。二人には本当に感謝してもしきれない。
「じゃ、いくよ」
「はい。よろしくお願いします」
ヨウトの掛け声。リリの生真面目な返答が聞こえてきた直後、金属同士が擦れあう甲高い音がこの場を支配した。
支配の元。つまり音の発生源は二人の武器、ヨウトが振り抜いた片手剣をリリの短剣が弾いた音だ。
金属音による場の支配は一瞬では終わらない。休まることなく音は鳴り響き、高レベルな斬撃と防御が繰り広げら始める。
ヨウトとリリ。この二人の戦闘は基本的にこういった展開になることが多い。
そうなる大きな要因はヨウトの戦闘スタイルだろう。
ヨウトのスタイルはミウやアスナに近いスピード重視のものだ。重い一撃などは考えず、的確に鋭く速い連続攻撃を放ち続ける。
ヨウトは一撃の鋭さ、威力はミウやアスナには一歩劣ってしまうが、その代わりに攻撃スピード、そして攻撃の間隔の速さは群を抜いている。
その攻撃は一度波に乗せてしまえば機関銃を彷彿とさせるほどのもので、手がつけられなくなり止めるのは至難の技だ。
だからこそリリはヨウトの攻撃を弾かなければならない。受けるのはもちろん、下手にかわしても体勢を立て直すよりも先にヨウトの斬撃が飛んできてしまうからだ。
そしてリリはヒットアンドアウェイのスタイル。相手から距離をとる方法、相手の攻撃を捌く方法は元々上手く、ヨウトと模擬戦をするようになってからはさらに磨きがかかっていた。今では前線のプレイヤーとも遜色劣らない......いや、それ以上になっている部分もあるかもしれない。
そんな要因が絡んだ結果今のような状況に至る。
剣閃を残すヨウトの剣戟。そしてそれを紙一重で弾き続けるリリ。二人が作り出す空間は、二人の関係など問題ないと言わんばかりの美しいものだ。
こればかりは何度見ても飽きがこない。ずっと見ていたいと思ってしまうほどに美しい光景ーーだが、それもすぐ終わりが来る。
理由は単純。
「......参りました」
ヨウトの一閃を捌き損ねたリリが、自分の横腹に突きつけられた剣を見ながら悔しそうに夢のような時間の終わりを宣言した。
「やっぱごり押しされるとキツいか?」
「はい......攻撃そのものは見えているんですけど、体がついてこなくて......だから余計に悔しいです」
休憩時間。ベンチに座って休んでいたリリの隣に座りながら話しかける。
リリは小さく微笑みながら返してくれるが、どこか悔しそうな雰囲気が隠しきれていない。俺も最近知ったのだが、普段から回りに気を使いまくっているこの少女は意外と負けず嫌いだ。
顔を俯けながら拗ねているリリに笑みを返す。
「確かにリリぐらいパリィ上手いと弾けない攻撃ってのは悔しいかもな。でもさすがにレベル差的に仕方ないとこもあると思うぞ?」
むしろヨウトとリリのレベルを考えるならあれほど互角の戦闘を繰り広げられているだけでもすごいのだ。
最近リリのレベルも上昇してきているが、それでも最前線で戦うヨウトにはまだ遠いのだから。
誰が見てもリリの力は確実に成長している......と思うのだが、それは本人の自覚がなければ意味がない。
「私なんかよりも防御が上手い人はたくさんいますよ......私なんてまだまだです。だからヨウトさんの攻撃も捌けないし、コウキさんの力にも......」
「んー......」
今のリリの姿は今までの俺だ。
相手の善意は分かっているし、言われていることが事実であることもなんとなくは理解できる。
ただ自分に自信がない。自信がないから賞賛の言葉を素直に飲み込めない。
謙遜は悪いことじゃない。自分はまだまだだと思うからこそ研鑽を積み続けられるのだから。
でも、俺やリリの、言うなれば
リリにはそんな俺と同じ轍は踏んでほしくなかったーーだから。
「え......?」
リリが珍しく呆けた声を漏らす。
俺はその声の原因であるリリの頭に乗せた手をゆっくり動かして頭を撫でてやる。
「ーーリリはしっかり俺たちの力になってくれてるよ。間違いない」
「コウキ......さん?」
「リリがいるから俺もヒットアンドアウェイのスタイルを練習できた。リリがいるからヨウトも気兼ねなく全力で特訓できる。どっちもリリなしじゃあり得ないことだよ」
上手くできているのかは分からないが、できる限り本心をリリに伝えていく。
他人の本心というのは、どういう形であれ心に響く。俺が本心をぶつけられてそうだったように。
これで少しでもリリの力になることができれば、そう思いながら頭を撫で続け、リリも先ほどとは違い穏やかな表情でそれを受け入れてくれた。
どれほど伝わったのかは分からない。それでも確かに『何か』は伝わったはずだ。そのことが俺も嬉しくなる。
リリの頭を撫でるだけの穏やかな時間が流れる。いつまでも女の子の頭を撫でるのもどうかと思ったが、やめてしまえばこの心地よい時間が終わってしまうような気がして、そしてリリもこの時間を少しでも多く味わおうとしているのが伝わってきて手を止められなかった。
それから数分、この時間を破ったのは意外にもリリの方だった。
「ありがとうございます......でも、この特訓が行き詰まってるのは本当のことですよね......?」
「リリは痛いとこ突いてくるなぁ......」
リリの指摘には苦笑いを返すしかなかった。
この特訓の主目的は言わずもがな、俺の実力アップだ。
リリやヨウトのお陰で俺は強くなれた。間違いなく特訓前よりも成長できている。特に基礎能力やスキルは見違えるほど成長したはずだ。
でもそれだけだ。
成長はできても、俺の目標であるミウには全然到達できていない。
......それは結局のところ、俺のスタイルが確立していないからだろう。ヨウトのスピードでのごり押し。リリの翻弄するスタイル。そんな
それには比較的早い段階に気づくことができた。だから色々試してみたのだが......どうにも上手くいかない。
さらに、これだけずっと戦ってきたせいか、3人とも他2人のスタイルや攻撃のテンポを覚えてしまったということもある。特訓に付き合ってもらっている身で言うのもなんだが、これではどれだけ特訓しても効果は半減だろう。
ミウとの時もそうだ。ある程度戦うと攻撃のテンポや癖を覚えてしまって、そればかりを無意識に突いてしまう特訓にーー待てよ?
「......リリ」
「はい、どうかしましたか?」
「ちょっと試したいことができた、付き合ってもらえるか?」
Side Miu
「むー、ニックさんめ......」
傍若無人に服を着せたら
そんな失礼なことを考えてしまって申し訳ないと思わなくもないけど、今回に限っては反省はしない。
今日のニックさんはいくらなんでも勝手が過ぎた。
朝会った時からなんだか機嫌が悪いと思えば、それを私にぶつけるかのように無茶な攻撃ばかりしてきて。あんまりだったから私が声をかければ今度は無視。こんな日もあるかなって諦めようとしたら、終いには「用ができた」とか急に言ってどこかに立ち去って。
私が頼んで鍛えてもらってるとは言っても、さすがにこれはどうかと思う。
何か事情があったのは何となく察したけど、それを聞こうとしても取りつく島もないし......モヤモヤするなぁ。
仕方なく一人取り残された私は軽く剣を振って、今日の特訓はそれで終わりにした。
私一人で特訓しても限度があるし、何よりも今のこの精神状態だと何をしても効果は薄いと思ったからだ。
心の調整は体を鍛えるよりも大切なこと。というのはあまり言葉では教えてくれないニックさんが教えてくれた数少ない技術だ。
完全なバトルジャンキーだと思っていたニックさんからそんな技術を教えてもらった時は目を丸くしたけど、小さなことでもこれは確かに重要なことだというのは身をもって理解できた。
「きっと、
知れば知るほど、ニックさんは私よりも高いところにいるということが分かる。
でもそうなると、やっぱりさっきまでのニックさんの振る舞いはらしくない。そもそも洞察力はそこまで優れてない私でも分かるほどにニックさんが苛ついているのが分かる時点でもうおかしい。
私にコウキほどの洞察力があれば何か分かったのかもしれないけど......
「とにかく、コウキと合流しよう」
無い物ねだりしても仕方ない。分からないものは分からないんだから。
あのニックさんのことだから命に関わるようなことはないだろう。もしかしたら今日は本当にただ虫の居所が悪いだけだったかもしれないし。
深呼吸して空気と気分を入れかえる。
私がニックさんと特訓している場所とコウキたちが特訓している場所はそう遠くない。せいぜい歩いて10分ほどだ。
早く終わったから向かうことをコウキにメッセで伝えようかとも考えたけど、特訓の邪魔をしちゃいけないと思ってやめておいた。
それにちょっとだけコウキが特訓しているところを覗きたいっていう邪心もあったりなかったり......こ、これぐらいは許してほしい。
私はニックさんの方針で町の広場で特訓してるけど、特訓は隠れた場所で行うのが普通だ。
だからコウキたちはそれに倣ってほとんど人気がない開いた空間で特訓している。
「そう言えば、前はこの道も分からないで何回か迷ってたなー......」
ちょっと苦い記憶がフラッシュバックしながら、しばらくいりくんだ道を歩く。
すると聞き慣れたーーというか、さっきまで私自身が作り出していた金属音が聞こえてきた。
剣舞。と言われることもあることから、実力者同士の戦闘はどこか舞踊じみてくる。特に武器がぶつかる音は一種の音楽に近いものになる。
この音は......コウキとリリちゃんかな?
ヨウトならもっと慌ただしい音が混じるし、この相手の隙をうかがうようなゆったりとしたテンポはあの二人で間違いない。
ちょうどいいタイミングだったかな、そう思いながら最後の角を右に曲がるーー瞬間。
ズガガガッッ!! とまるで
「え......?」
その音を聞いた瞬間、まさか3人同時に戦って特訓しているのかと思った。
だがその予想に反して、私の視界に映ったのは、凄まじい勢いで繰り出される剣撃を必死に捌いているリリちゃん。
そしてーーその攻撃を今まさに繰り出しているコウキの姿だ。
「コウキ......?」
「ん? あ、ミウ。どうしたんだ? 集合時間まではまだ時間あるよな?」
私が驚きのあまり名前を呼ぶと、それに反応してコウキは攻撃の手を止めて私の方を振り向いた。
やっぱり、コウキで間違いない。コウキの格好をしたヨウトとかいうことはなさそうだ。
でもそれならなおさら謎が深まる。だって、さっきの攻撃のテンポは......
「やっぱミウちゃんも驚くよなー。俺自身驚いてるもん」
端の方に寄っていたヨウトが私に話しかけながら近づいてくる。コウキたちの模擬戦を見守っていたのかもしれないけど......その表情はいつもみたいな笑顔ではなく苦笑いだ。
「ヨウト......なら、さっきのコウキの攻撃って」
「間違いなく俺のテンポ、というかスタイルの模倣だろうな。だろ、コウキ?」
「ははは、やっぱ二人にはすぐにばれるか」
コウキは笑って、隠すこともなく認めた。
さらに再びヨウトの速いテンポで剣を空に向かって振る。やっぱりさっき見たのは偶然なんかじゃない。
コウキはいとも簡単にそれをやってのけるけど、これは完全に異常と呼ばれるものだ。
戦闘中攻撃のタイミングをずらすことは少なくない。でもコウキのこれはそういう次元を越えてる。
他人のテンポの模倣。そんなことすれば自分の本来のテンポを忘れてしまう可能性だってあるし、もっと酷いことになればテンポそのものが崩れてしまってなんの形にもならない。
それをコウキは完全に使い分けていた。いや、それだけならまだ練習次第で私にもできるかもしれない。でも多分、コウキのこの模倣はまだ先がある。
「ねぇコウキ。今のはヨウトのテンポの模倣だったけど、他の......例えば私とかリリちゃんの模倣もできるの?」
「ミウとリリの? 多分できると思うけど......」
答えるとコウキは一度息を吐き、剣を構える。
そしてーー次に動いたときにはまたコウキのものとは別のテンポで剣を振っていた。
コウキのテンポよりもさらに遅くて、掴み所がないテンポ。これはリリちゃんのものだ。何よりも本人が驚いたように目を見開いているのだから間違いない。
コウキは剣を振り降ろすと一度動きを止める。そして再び動き出すと今度は速いテンポのなかに急激なストップと加速が入り交じったもの。これは私の模倣だ。
やっぱり間違いない。コウキは見たことのあるテンポを自分のなかで混ざることなく再現できるんだ。
「すごい......すごいすごい!」
衝撃によって置いてけぼりされていた私の感情がようやく追い付く。
だって、すごいとしか言いようがない!
他人のテンポのコピー。そんなこと実践でされれば間違いなく相手はペースを崩される。
もちろん見た回数によってその再現度には違いがあると思うけど、それでもソードスキルを放つぐらいの隙を作り出すには十分すぎる。
こんなこと普通はできない。これが可能なのはコウキの気が遠くなるほどの基礎練習とコウキの『目』があったからだ。
他の誰にも真似できないコウキだけの武器。これがあればコウキの戦術が一気に広がるのが私でも分かる。
でも。
「んー......」
この最高の結果のあとだと言うのに、コウキの表情は芳しくなかった。
まるで「まだ足りない」と言うかのようなコウキの唸り声に愕然とする。
コウキの目標が見えない。コウキが目指しているところは、もっと上......?
でも、今の模倣よりも上なんて......
そう考えたとき、なんとなく理解した。
そうか、これが前にニックさんが言っていた、
完成してしまってるから、新しい発想がない。今あるもので十分だと思ってしまう。
このまま行ってしまったら、私の成長はどこかで頭打ちになってしまう。それはダメだ。それじゃあコウキの隣に立てなくなる。
私ももっと、もっと違う発想がないとーー
「ミウ?」
「え......?」
「なんでもうここにいるのか聞いてたんだけど......大丈夫か? もしかして体調悪い?」
コウキの声に気づけば、コウキだけじゃなくてリリちゃんやヨウトも私の顔色を覗いていた。
それに笑って「何でもない」と返す。
しまった、また考え込んでしまってた。すぐに結論なんて出ないんだから急いでも仕方がないんだ。何でもかんでも答えを求めるな。
心のなかで自分に叱責してから、私はコウキたちに私の特訓が早く終わった理由を説明する。
ニックさんの様子を聞いたコウキはその光景が簡単に予想できたのか苦笑いしていた。
私の説明が終わると、ちょうど今日の特訓の終わりを告げる鐘の音が聞こえてきた。
いつもなら皆で昼食を食べたあと各々解散ってことになるんだけど......今日は少し流れが違った。
コウキは一瞬考える素振りを見せたのち、ヨウトとリリちゃんの方に向き直った。
「ーー二人にちょっと話があるんだけど、いいか?」
Side Kouki
いつものように昼食を取り終わり、話しにくくなる前にとボックス席の向かいに座ったリリとヨウトに話を向ける。
「二人はガイアクエストって知ってるか?」
俺の問いかけにヨウトは頷き、リリちゃんは首を降った。
ガイアクエスト。言わずもがな今俺たちが関わっている国《ガイア》を舞台としたクエストのことだ。
このクエストはまだあまり知れ渡っていないクエスト......というより、あまり有名ではないクエストと言った方が適切か。
「ガイアクエストってコウキたちが今挑戦してる、森の人たちを助けようってやつだよな? 発生条件とかクリア条件がかなりシビアだってアルゴに聞いたぞ?」
存在を知らないリリのためか、いつもよりも若干説明口調でヨウトが説明してくれる。
今ヨウトが説明した理由も有名でない理由の一つ。有名になるクエストと言うのは結局は
それに対してガイアクエストは、クエスト発生条件も曖昧、クリア条件も曖昧、その上クリアしてももらえるアイテムもさほどレアではない。なのにクエストに絡んでくるmobはそこそこ強い。これでは旨味どころか、挑戦したら損するほどだ。噂話には上がっても、有名にはならないだろう。
それを説明するとリリは理解したことを頷いて示す。
「あの、でもならどうしてコウキさんたちはそのクエストにチャレンジしてるんですか......?」
「もちろん《ガイア》の人たちを助けたいからだよ」
いつも通りミウ節を展開するミウ。いつもなら程々に抑えるところだが今回は違う。
「守りたくても力が足りないって、悲しんでるやつがいたんだ」
ミウから話を聞いたあの夜から、頭から抜けない。
その思いは痛いほどに分かる。あれは......キツいんだ。自分が何を代償にしてでも守りたいものを傷つけられるのは。そしてそれをどうにもできない自分という存在は。
まだまだ未熟で、ちっぽけなこんな俺の手だけど。それでも力になれるというのなら、できる限り差し伸べたい。
「でも、そいつを助けるには俺たち二人の力じゃ足りない。それが、ここ最近の特訓で分かった。むしろ今までが上手く行きすぎてたんだ......俺はもう誰も失いたくないし、守れない悔しさなんて味わいたくない。だからどうか、俺たちに二人の力を貸してほしい」
「その、力を貸すってのは......」
「あぁ。ーーーー俺たちと、パーティーを組んでくれ!」
その決定的な一言を告げ、向かいの席に座る二人に頭を下げる。それに合わせてミウも頭を下げた。
思っていたよりも口に出すのが簡単だったことに驚く。前まではあれほど避けていた言葉がすんなりと出てきた。
これを成長と言うのかどうかは分からないが、今の俺に必要なものだと思った。
しかし、いつまで経っても二人の返答がない。俺たちの席を幾拍か静寂が包み込む。
俺もミウも二人のそんな反応にどう返していいのか分からず言葉を出しかねていると、最初に口を開いたのはやはりと言うべきかヨウトだった。
「意外だったよ」
「俺が素直に二人を頼ったことがか?」
「あぁ。前にコウキは変わったって言ったけどさ、まさかここまで変わってたとは思わなかった......いや、変わったんじゃなくて戻ったって言うべきなのかもな」
ヨウトは目を閉じ微笑みながら俺の変化を誉める。
瞼の裏にヨウトが見ているのは、もしかしたら過去の俺かもしれない。そう思えるほどに、俺自身変わることができたと思っている。
ヨウトの称賛を素直に受け取り俺も微笑む。しかしヨウトはすぐにその笑みを隠すと咎めるようにため息をつく。
「でもさ、そんな変な言い回しして落とすみたいに俺たちを誘わなくてもさ、俺もリリちゃんもコウキたちの頼みなら切り捨てたりしねぇよ。な、リリちゃん」
「はい......こればっかりはヨウトさんと同意見です」
断言する二人を見て、やはり俺はいい仲間をもったと再確認する。
俺の力になりたいと言ってくれて、俺の間違いを正してくれて、俺のことを尊敬してくれて。こんな世界でこんな素晴らしい仲間に出会えたのは幸運以外の何物でもない。一生大切にしたい繋がりだと思う。
ーーでも、
「それは逆だよ」
俺の代わりに、今度はヨウトたちに真っ直ぐと視線を向けたミウがヨウトに返す。
「逆?」
「うん......本当に仲間だと思っているからこそ、対等な関係でありたいと思うからこそ、私もコウキも二人を説得したいんだ」
無条件の信頼、それも良いかもしれない。きっとそれは綺麗で素敵な絆なんだろう。
でも俺は、二人とは互いに助け合う関係でーー仲間でありたい。
俺たちが頼んだから力を貸してもらうんじゃ、それは主従関係のようなものだ。間違っても仲間なんて言えない。
だから俺たちは言葉を、会話を用いる。本心をぶつける。
「......ははっ」
ヨウトは小さく笑った。俺の目はそちらに向けられる。
その笑顔は知識として記憶にある。父さんや母さんが俺が何か新しくできることが増えたときに見せてくれた顔。そしてあの事件以降
そんな笑顔でヨウトは俺を見ていた。
「......っ」
リリは言葉に詰まっていた。
その表情に浮かんでいるのは驚きと喜び。その表情は経験として知っている。『こんな自分』と卑下していた自分が誰かの役に立てる、必要とされていることに対する感情が抑えきれない時の表情だ。
ーーしかしその表情は、すぐに俺が
変わらずいつもと同じヨウトの笑顔と、いつもと違う表情を隠すようなリリの表情。
それを見て俺たちの本心はちゃんと心に響いたのだと確信した。
本心の言葉は心に響く。それが、良いものか悪いものかは分からないけれど。
目の前の二人はその顔を崩さず、暖かみのある好意的な声色で俺たちに言葉を返す。
「コウキとミウちゃんにそこまで言われちゃ俺も黙ってらんないな! いいじゃん、本当の仲間。一緒に頑張ろうぜ!」
「はい......私なんかでどこまで力になれるか、本当の仲間になれるか、正直不安ですけど......精一杯頑張りますっ」
返ってきた言葉に俺とミウは互いに微笑む。
元々ミウは今回のことも二人でやろうと言っていて、誰かが介入することを反対していた。いや、今回だけじゃないか。ミウはいつも俺とミウだけで完結したがっていた。
まるで他のものは何もいらないとばかりに......
でも同時にヨウトやリリとは一緒に行動したがっていたと思う。それもあったからこそ今回、リリとヨウトを誘うことに納得してくれた。
そして、ミウはそれを乗り越えた。俺もずっと怖かった自分のことで誰かに頼るということができた。
二人の返答は俺たちが最も欲していた言葉。今この瞬間は俺たちがまた一歩、前に進むことができた、いや
それなのに俺の内心は、妙なしこりを感じてスッキリとはしなかった。
俺はその妙なしこりを気のせいだと判断し、二人とパーティ編成と今後の動きを話し合う。
ーーーーこれが俺たちのパーティ結成の瞬間。
各々が多くのものを抱えたまま
それが後々どういうことになるのか、このときの俺はまだ知らないーー
お久しぶりです、Arukiです。
半年以上の投稿放棄、申し訳ありませんでした。
理由は多々あるのですが、これからはこんなことにならないよう努めます。
ただ、これだけでは前と同じなので私も学習しました。
何話かストックを溜めた状態で今回は投稿再開しています。
なのでこれからは週一月曜か日曜に投稿。少なくともこれで年明け手前まではノンストップでできます。
ストックが溜まっていきしだいたまに2話連続などもあると思います。
これからも力無き少年のソードアート・オンラインをよろしくお願いします!