力無き少年のソードアート・オンライン   作:Aruki

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54話目 有力な少女が手に入れた力

「やぁ、コウキくんたちじゃないか」

「お、ほんとだ! 俺のこと覚えてるか~!?」

「......シーヴェルスに、レン......?」

 

 森の道の横合いから5人の集団(パーティ)が出てくる。

 そのメンバーは一人一人最前線で戦えるだろうことが予想できるほど、装備、身のこなしが優れているのが見た瞬間に分かる。

 だが、俺が驚いたのはそこではない。

 

「何でお前らがここに......?」

 

 シーヴェルスのパーティと言えば、攻略組の中でもかなり名が通っている。

 パーティリーダーであるシーヴェルスの実力はもちろん、回りを固めているメンバーも大物揃い。レンは25層のボス戦以来シーヴェルスと行動を共にしていることも聞いていた。

 そんな実力者が多く揃っているシーヴェルスパーティは、ギルドに属していないにも関わらず、その実力、攻略状況が現状トップギルドの《Kob》にも劣らないという化け物っぷりだ。

 そんな最前線で活躍しているパーティだからこそ、今は攻略にかかりきりでこんなところにいる暇なんてないと思うのだが......

 俺の驚きとは裏腹に、シーヴェルスは人当たりのいい笑みを浮かべる。

 

「久しぶりだね。そう話を急がなくてもいいだろう? こっちは最近ボス戦に出てこない君たちを心配していたんだから」

「あ、あぁ......悪いな。最近はちょっとクエストとか私用にかかりきりでさ」

「そうか。何か危険な目にあって休んでいるとかじゃないのなら良かった」

 

 そこでシーヴェルスが言葉を切れば、代わりに話し出したのは今か今かと口を開くタイミングを探していたレンだ。

 

「俺も久しぶりだな! お前たちがいない間ボス戦は順調だったぜ!」

「久しぶりだね。最近のレンの噂は聞いてるよ」

「いやー、そんなことも、まぁあるけど? そんなに聞こえちゃってたか~」

 

 ミウがテンション爆上がり状態のレンに笑って返す。

 そう、前線を離れている俺たちにすら聞こえてくるほどに、レンの最近の活躍は凄まじい。

 25層での戦いから何か掴んだのか、ボス戦では何度もレイドの危機を救い、今では攻略組でも一、二を争うタンクになっているらしい。

 自分の実力に伸び悩んでいる俺からしてみれば、レンのような人物は憧れの対象だ。

 

 軽い会話を済ませ、レンのテンションが落ち着いたところで再び話はシーヴェルスに戻る。

 シーヴェルスは「ふむ」と呟けば、大人びた笑みを浮かべる。

 

「それで、どうして僕たちがここにいるか、だったかな? 簡潔に言うとするならそれは僕たちがパーティだから、だよ」

「......あくまで小規模なパーティだから、ギルドみたいに縛られるものが何もなく、自由に動きやすいってことか? それこそ、前線でもない不人気のクエストに出てこれるぐらいに」

 

 詳しくは知らないが、ギルドにはレベル上げノルマや、進行ノルマ等、個人の行動の自由を縛るものが多いらしい。まぁ、そのぶん高い安全性を確保できているのだからメリットデメリットの問題なのだが。

 だが、ソロプレイヤーや、小規模なパーティはそういう縛りがない。それこそ俺たちのパーティのようにだ。

 

「ふふ、正解だよ。ただクエストの部分は少し訂正が必要かな......今《ガイアクエスト》はかなり人気がある上級のクエストだよ」

「《ガイアクエスト》がか?」

「あぁ。そもそも《ガイアクエスト》のようなストーリークエストは最終的な報酬がかなりいいものがほとんどだ。君たちが情報屋に《ガイアクエスト》の長さと内容を伝えることで、これは実は旨いクエストなんじゃないか、とワラワラプレイヤーが集まってきてるのさ。現に《ガイアクエスト》に今挑戦しているプレイヤーは相当数いる」

「あの......多分本当のことだと思います。私も、そんな話......聞きました」

 

 シーヴェルスの言葉に中層との関わりが強いリリも頷き情報の裏がとれる。

 同じ《ガイアクエスト》でも他のプレイヤーと出くわさないのはおそらく進行具合の違いだろう。

 俺たちは《ガイアクエスト》に挑戦できる最初期から挑戦していたから、《ガイアクエスト》では一番進んでいるパーティのはずだ。だからこそ他のプレイヤーとの接点が少ない。

 それにしても、あの鼠情報屋め、《ガイアクエスト》の情報こっちに流さなかったな......まさかこの前のミウとのこと勘繰ってきたメッセスルーしたの根に持ってんじゃないだろうな......

 

「今は大人気の《ガイアクエスト》。でもその内容を聞いてふと思ったことがあったのさ。それは、《ガイア》の言い分も分かるが《ナーザ》の言い分も分かるということだ」

 

 シーヴェルスは自分を大きく見せるように両腕を大きく広げる。

 

「結局《ナーザ》が言っていることは、自分達の種族で繁栄したいという至極当然のもの。ならば、そんな考えを持っている相手ならそちらに組みしてもなんら問題はないのではないか、とね」

「......まさか」

「相変わらず頭の回転が速いね。君の推測通り僕たちは《ガイアクエスト》の対となるクエスト、《ナーザクエスト》にチャレンジしているのさ」

「......ありえない。俺たち『人』のことを『害物』として扱っているあの《ナーザ》があんた達を受け入れようだなんて考えるわけが」

「本当にそう考えているかい?」

「それは......」

「どこにだって例外はいる......って、ことか?」

 

 俺が言葉につまっていると、代わりにとヨウトが一歩前に出て返す。

 

「ご明察。君たちももうソルグのことは知っているんだろう? 彼のように僕たち『人』を受け入れようとする相手はいるのさ。それに、《森人》が君たちを受け入れたからこそ、僕たちを受け入れる壁も低くなったのかもしれないね」

 

 そこでシーヴェルスは言葉を切ることで上がりかけていたテンションを落とし、俺たちに染み込ませるかのような、低い声で言った。

 

「君はなぜ僕たちがここにいるのかを質問したね。その問いに対する正しい回答はこう......僕たちは、君たちの排除するために、ここにいる」

 

 シーヴェルスの言葉に咄嗟に剣を握ることができなかったのは、彼の言葉に圧倒されたためか、それとも完全に虚を付かれたためか......その両方か。

 だが、実際どうする?

 シーヴェルスのパーティと俺たちはパーティが正面からぶつかったとして、勝てるのか? いや、安全を確保できるのか?

 おそらく、どちらか一方のワンサイドゲームにはならないだろう。だが、相手の方が人数が多い上に、俺たちはレイアさんを守りながら戦わなくてはならない。これではあまりに不利だ。

 なら、ここはやはりなりふり構わず逃走が最善手。

 ごくり、と唾を飲み込みながら彼我の力量とこれからの算段を計っていると、そんな俺の反応を見て不意に堪えきれなくなったようなシーヴェルスの笑い声聞こえてきた。

 

「はははっ、君は本当にいい反応をするね。すまない、大仰な言い方をしたけれど別に今から殺し合いをしようなんてことはないよ」

「いつもいつもお前は分かりにくいんだよ! 妙に悪人ぶって子供か!」

「いやいや、僕だってこういうことしてみたかったんだよ。いつもいつも堅苦しいのも疲れるんだ」

 

 場を包んでいるシリアスな雰囲気とは反対に、シーヴェルスとレンの間に流れる空気は穏やかだ。

 何となく、不思議な人だなと思った。

 シーヴェルスは話していると雰囲気があっちにいったりこっちにいったりして、ヨウトとは別の意味でとらえどころがない。

 しかし、ここでシーヴェルスたちと戦うことに変わりはないようだ。緊張を切らさないよう注意しながらシーヴェルスに問いかける。

 

「で、正面戦闘はしないってことらしいけど、どうするんだ?」

「あぁ。クエスト一つで殺し合う訳にもいかないし、そこまで精神的に殺伐としている訳でもないからね。互いのパーティから代表者を1人選出してデュエルで勝った方がクエストを進める、というのはどうだろう?」

「《圏外》でデュエルするのか? 決着後HPが減ったままになるぞ?」

「それについても問題ない。ちょうどこの先に《宝珠》が祀ってある祠がある。そこは《圏内》設定なっているみたいだ。そこならHPも回復するよ」

「......準備がいいことで」

 

 さすがは攻略組トップパーティ。そう思いながら俺たちは素直にシーヴェルスたちの案内に同行したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もしかしたらこのままどこかトラップ地帯や、《エイジス》たちがうじゃうじゃいる場所に連れていかれるかもしれない可能性も考慮し、いつでも動けるようにしていたのだがそんなこともなく。連れてこられたのはシーヴェルスが言ったように森の中にある小さな祠だった。

 レイアさんにも確認を取ったところ、やはり場所に間違いはなかった。ここが俺たちの3つ目の目的地だ。

 祠がある場所は森の中でも特別開けた場所、ということもなく、ほんとうにただただ森の中だ。なにも考えずにまっすぐ歩けば間違いなく木に激突してしまうだろう。

 ヨウトやレンなんかは傍の木に背中を預けている。

 確かに、これだけ木が乱立した場所なら、レイアさんやシーヴェルスの案内がなければ祠を見つけることは難しかっただろう。

 

 少し離れた場所に集まっているシーヴェルスたちを盗み見ながら、俺たちも話をまとめることにする。

 

「それで、俺たちの方からは誰が出る?」

「はい! 今度こそ私が行く!」

 

 俺の質問にソルグの時同様に勢いよく手を上げたのはミウだ。

 今日はミウもドレスを着ているわけでもないし、そもそも俺たちのメンバーの中で一番強いのは、多分変わらずにミウのままだ。

 だからミウが出ることに反対なんてない......のだが、一つだけ気になることがあった。

 

「なぁ、前に人相手だと調子がおかしいって言ってたけど大丈夫か?」

「うん、大丈夫。ニックさんには一応「良し」って言われたしね」

「え.......そう、なんだ」

 

 ミウがあっけらかんと言うのに対して、俺の内心はあまり穏やかではなかった。

 2層でニックと戦ったとき、そして今も。ニックから「良し」なんて言われたことは俺はない。

 いや、ミウと俺では元から比較するのもおかしいぐらいに『違い』があるのは分かっているのだが.......それでも、ずっと目指していたものをミウに先を越されるというのは、あまりいい気はなしない。

 他の誰かではなく、ミウに負けたような気がして、悔しい。

 俺は悔しさを噛み締め、そんな俺を見て首をかしげる俺の他にも、今の話を聞いて反応を示した人物がいた。

 

「ニックさんに......ですか」

 

 その名前を聞いて、わずかに目を細めたリリだ。

 何を感じているのかよく分からない表情だが、ニックの名前を知らない反応ではない。

 

「あれ? リリってニックと面識あったっけ?」

「あ、いえ......いや、はい。面識というほどでは、ないですが......以前、見かけたことはあります」

 

 話していて、少しずつとだがリリの表情が苦いものへと変わっていく。

 よくよく考えればニックとリリという組み合わせは完全に無しかもしれない。

 基本人見知りのリリと、面白そうな相手を見つけたら猛獣のように目を爛々とさせるニック。以前会った時になにか怖い思いでもしたのかもしれない。

 

「じゃ、行ってくるね!」

「おう! 行ってこい!」

「ミウちゃんなら勝てるぞ!」

「が、頑張ってください......っ」

 

 俺たちの声援を受け、満面の笑みを浮かべたミウがデュエルの開始場所である祠の前に躍り出れば、それを待っていたかのように相手も出てくる。

 出てきたのは......まぁ、やっぱりシーヴェルスか。

 悠々と、という表現がまさしく当てはまる様子でミウの前に立ったシーヴェルスを観察するように眺めていると、隣から声をかけられる。

 今までずっと黙っていたレイアさんだ。

 

「すみません......私たちが動けば《ナーザ》の手の者が動くことは予測できたのに......迂闊でした」

「いや、こっちこそごめんな。レイアさんをこんなことに巻き込んじゃって」

 

 シーヴェルス相手では難しかったかもしれないが、それでも話し合いで解決できる可能性はあった。それを諦めて楽な方に流され、結果俺たちの問題を今回のクエストに持ち込んでしまった。自分から善意で同行を言い出してくれたレイアさんには申し訳ない。

 だが楽な方、と言ってもこちらのほうが話し合いよりも成功率は高いのだ。

 ミウとも話したが、この《ガイアクエスト》は絶対に最後まで行きたい。そしてミレーシャたちに最高のハッピーエンドを迎えてもらいたい。誰かのために努力して報われることを証明したいのだ。

 だからそのためにも、できることは全力でする。

 

「ミウも、レイアさんたちのために絶対に負ける気なんてないだろうから、きっと大丈夫だと思う」

「そうですか......重ね重ねすみません。《宝珠》は、《儀式》には絶対に欠かせない、大切なものなんです。《ガイア》全体を救うためにも、絶対に......だから、どうか、よろしくお願いします」

「じゃあ、その想いもこめて、ミウのことを応援してやってくれ」

「はい! うぉー! ミウ樣頑張ってくださいー!」

 

 両手を突き上げ必死にミウを応援してくれる隣のメイドさんに小さく苦笑いしながらも、俺は再びミウたちに意識を戻す。

 すでにデュエル開始前のカウントダウンは始まっている。

 今回のデュエルは、当然のごとく初撃決着モード。最悪の場合本当に『初撃』で決着なんてこともありうる。そのためデュエルの前はどうしても痛いぐらいの緊張が場を支配する。

 ミウが右手に構えている片手剣は通常の片手剣よりも細剣(レイピア)の細さに近い、剣身全体が水色で彩られたものだ。

 あの剣は元々ミウが使っていた剣を《ガイア》の鍛冶師に加工してもらったもので、現状手に入れられる剣の中ではかなり上位に入る。

 それに対して、シーヴェルスは右手に片手剣を、左手には人ひとりが隠せてしまいそうなほど大きな盾を構えている。

 大盾、と言われると頭に浮かぶのはヒースクリフだ。ちょうどあの盾に似た形状をしている。もしかしたらシーヴェルスなりにトッププレイヤーの一人であるヒースクリフを研究した結果なのかもしれない。

 だが実際、あれほど大きな盾を前面に出されるとかなり攻めにくい。なにしろ相手の体のほとんどが盾で覆われてしまう上に、押し潰されてしまいそうな圧迫感があるからだ。

 そんな相手に対してミウはどう勝ち筋を見出だすのか......

 

 ごくり、とこの場の緊張感に負けたのか、誰かが唾を飲み込んだ音が聞こえる。

 同時にミウとシーヴェルスの間にデュエル開始の合図が表示された。

 

「ふっーーーー」

 

 先に動き出したのは、やはりミウ。

 小さな掛け声と共にその小柄な体躯を走らせ、一気にシーヴェルスに接近する。

 接近する、と言えばただそれだけだが、ミウの場合は止まっている状態から動き出すまでの加速力が以上に高い。そのせいでタイミングの取りにくさをシーヴェルスは感じるだろう。

 そうして放たれたミウの初撃は右からの斬り上げだ。ニックとの特訓でさらに磨きがかったその初撃は並みのプレイヤーならばミウの姿を見失ってしまうかもしれない。それほどに、ミウの加速は速い。

 ただし。

 

「なるほど。さすがは《聖人》だね。最後に見たボス攻略の時よりも数段動きが鋭い」

 

 そのミウの初撃を難なく盾で受け止めるシーヴェルスもまた、並みのプレイヤーではない。

 これが盾持ちプレイヤーの最大の強みとも言える。

 相手の攻撃をかわす、武器で受け止める、受け流すという行動はどうしても挙動が大きくなりやすく、行動が間に合わない場合も多い。

 それに対し盾で防ぐというのは簡単だ。何せ自分の前に盾を構えていればそれだけで相手の攻撃を止められるのだから。

 しかもシーヴェルスが使っているほど大きな盾なら攻撃を防ぐだけなら容易だろう。

 もちろん、デメリットもある。

 盾持ちはその性質上、どうしても動きが遅い。シーヴェルスが使っているほど大きな盾ならば尚更だ。

 ミウもそこをつくようにして、攻撃を弾かれた後も反撃を恐れずに何度も攻撃を続ける。

 何度も何度も斬り下ろし、斬り上げられるミウの剣閃は、どれもがこの世界でも一級品のものだ。

 だが、シーヴェルスはそれを全て完璧に防ぎきる。キリトが前にシーヴェルスは良い目を持っていると言っていた。もしかしたら俺と同じようにミウの攻撃を先読みしているのかもしてない。

 

 そんな俺の予想を肯定するかのように、シーヴェルスはついに完璧にミウの攻撃を捉え、その盾で剣を大きく弾く。盾を使ったパリィだ。

 

「どんな強者でも自分の攻撃が一向に通らなければ、攻撃がどんどん単調になるものさ」

「くっーー」

 

 シーヴェルスの剣が淡く輝きを纏い始めるのを見て、ミウは一瞬動きを止める(、、、)

 ーーしまった、嵌められた!

 普段のミウなら動きを止めるなんてことは絶対にしない。なのに今回は止めてしまった、いや、止められた。

 その原因はこの森だ。祠の前は舗装されているわけでも獣道でもない木が乱立した場所。そのせいで動き回って相手の攻撃をかわそうとすれば木が邪魔だ。これによってミウの武器であるスピードが殺されてしまう。

 さらに、動き回れないということは、盾持ち攻略には絶対に必要とも言える『回り込み』ができない。完全にシーヴェルス有利の地形だ。

 どうしてシーヴェルスたちがわざわざ三つ目の《宝珠》の場所で待ち構えていたのかをもっと考えるべきだった。

 他の場所ではなく、この場所を優先した理由を。

 

 左右は木が邪魔して動けないことを理解するのに僅かではあるが時間を使ってしまいながらも、ミウは後退することを選ぶ。

 しかしシーヴェルスもそれは読みきっているだろう。シーヴェルスが発動したのは突進系ソードスキル《ブレイヴチャージ》。縦の動きでかわそうとするミウには厳しいスキル。

 

「う......やぁっ!」

「っ、上手いね......」

 

 シーヴェルスが持っている巨大な盾がスキルによって迫ってくるのだ。まるで牛が突進してくるかのような、押し潰される感覚を覚えたのか、ミウはシーヴェルスを拒絶するように下がりながら剣を振るう。

 だがその剣も、上手い。ミウが振った剣は横からシーヴェルスの剣ではなく、その大きな盾に当てたのだ。スキルが発動しているのはあくまでも剣。他の部位に攻撃をヒットさせれば相手の体勢を崩すことはできる。

 そうしてミウはさらに何度か後退し、背後ギリギリに木が来るまで下がった。その表情は今しがたレベルの高い攻防をしていたことを証明するように、余裕がない。

 それに対して余裕あるシーヴェルスは不敵に笑う。

 

「ふふ、素晴らしいと思わないかい? この盾、《ナーザ》の鍛冶師に鍛えてもらったんだけど、さすがは戦いの国だね。素晴らしい仕上がりだ」

「......私の剣も、《ガイア》仕立てなんだけどね」

「そうなのかい? なら、この戦いは鍛冶師の戦いでもあるのかな?」

 

 その一言に、ぴくりとミウの体が反応する。

 そしてそれを境に、ミウの表情が再び引き締まる。誰かの想いもこの戦いにかかっていることを再確認したのかもしれない。

 気持ちを一度リセットするためか、ミウが一度深呼吸する。

 吸って、息を吐く。

 ただそれだけ。

 なのに。

 

「え......?」

 

 一瞬、声が漏れる。

 今、自分が見ていた人物が分からなくなる。

 今戦っているのはミウとシーヴェルス。そして押されていたのはミウ。分かる。記憶がなくなったわけでも状況判断能力が死んだわけでもない。

 なのに、今の情報が入ってこない。

 あれは......誰だ?

 俺にそう思わせるほどに、ミウの雰囲気が変わっていた。

 

「じゃあ、2回戦行こうか」

「っーー」

 

 ミウの声と共に、止まっていた全ての時間が動き出す。

 次の瞬間には......一瞬とはいえ、ミウの姿を見失っていた。

 

「「なっ!?」」

「ぐ......さらに鋭くなるのか!?」

 

 今この場にいるほぼ全員がミウの姿を見失い声を上げるなか、おそらくミウと相対していたことで唯一その動きを確認できたシーヴェルスが唸る。

 先ほどの焼き直しのようにミウはさらに何度も剣を振り、猛烈なラッシュをかけていく。

 だが同じようで先ほどとは全く違うのは誰の目から見ても明らかだ。なぜなら、先ほどとは逆で、今笑っているのはミウで、余裕がないのはシーヴェルスだからだ。

 防ぐには防いでいるが、今のシーヴェルスは後手後手でようやくミウの攻撃に追い付けている。あれでは先ほどのように反撃に出るのはほぼ間違いなく不可能だろう。

 すごい、確かにすごい。ミウの今の状況を表現するのであればその言葉以外には思い付かない。

 だけど......なんだ、この違和感は......?

 

「な、低い!?」

「たぁっ!!」

 

 俺が妙な感覚に襲われている間にも場は動く。

 おそらくあの強烈なラッシュには偏りがあったのだろう。シーヴェルスの盾の重心が僅かに上方にずれたのを見て、ミウは限界まで体を落とす。

 そこからミウが放ったのは先ほどの異種返しとばかりに《ブレイヴチャージ》だ。ミウは斜め上に向かって突進する。

 シーヴェルスの高身長。ミウの低身長。重心が上にずれたシーヴェルスの盾。それらが全て噛み合う。

 結果。

 ズガンっっ!! とミウの剣がシーヴェルスの盾に激突した瞬間、その勢いに負けシーヴェルスの体が宙に浮く。

 いくら筋力値に差があるといっても、ミウの方はソードスキル込みだ。こういう結果も不可能ではない。

 不可能ではないが......

 普通、あそこまで条件が重なった瞬間を、一瞬も間違えずに捉えられるか......?

 さらにミウの攻撃は止まらない。

 シーヴェルスの体が浮いたこの瞬間は間違いなく好機だ。そこを逃さずミウはすかさず、いや、それよりも早く(、、、、、、、)シーヴェルスの隣をすり抜け、盾が届かない位置へ回り込む。

 そして恐怖すら覚えるほど早く剣を振るうが、これはシーヴェルスがギリギリで体勢を建て直し盾で弾いた。

 それを見てミウは深追いはせずすぐさまシーヴェルスから距離をとる。

 

「ははは......君の情報も掴んではいたんだけどな......まさかここまでとはね」

「私の情報なんてなんの役にもたたないと思うよ? 評価してもらえるのは嬉しいけどね」

「今ほどの動きをしたあとにそんなこと言われてもただの嫌味だよ.....」

「そうかな?」

 

 いつも通りの受け答えをミウはする。

 本当にいつも通りだ。いつも通り過ぎて逆に今のこのいつも通りじゃない状況が浮き目立ってしまう。

 それに対しシーヴェルスは無理矢理落ち着こうとしているかのように息をつけば、今度はなにも言わずにぐっと重心を低くした。

 突撃体勢だ。おそらく、自分が勝てるのは中途半端ではない、完璧な接近戦だと判断したのだろう。

 そして一切躊躇することなく、シーヴェルスは前進を始めた。

 その姿を見て、ミウはどこか嬉しそうに微笑む。

 

「よかった。下手に長引かされると私が不利になっちゃうから」

 

 そう呟けば、ミウもシーヴェルスに応えるようにして一気に接近する。

 互いの距離は加速度的に潰されていき、ゼロになるーーその一瞬前。

 ふわり、と。シーヴェルスの盾が不自然に前方に突き出された。

 それが、シーヴェルスが盾をミウに向かって投げ出したのだと気付いたのはミウが盾を迎撃するため剣を振ろうと右足を踏み出した瞬間だった。

 俺の位置からは、ミウの動きに対してシーヴェルスがにやりと笑い、身軽になったその体でミウの側面に回り込もうとしているのが見えた。

 自分の盾を使ってミウの視界をほぼ奪い、ミウが剣を振りきったところを狙うつもりか!

 ミウからはシーヴェルスの動きが見えない、まさに絶体絶命。だがもう今から声をかけていたのでは間に合わない。

 今まさに、死角からミウを狙う剣が振り抜かれようとする。

 しかしミウは、それに合わせる(、、、、)ように。踏み込んだ右足を軸にくるりと一回転し、さらに左足を踏み込んだ。

 結果、音をたててミウに盾が激突するが、そこは問題ない。ボスでもなければ正しい使い方をしていない武具は攻撃力をほとんど持たない。

 そうして生まれる新しい場は、再び形成逆転した場。ミウがシーヴェルスと正面から相対している場。

 シーヴェルスとミウ。この二人ではステータスからも技量からも、ミウの方が剣を振り抜くのが早い。

 シーヴェルスのいくつもの策略を、ミウの実力が上回った。その結果がこれ.....その、はずなのに。

 

 

 

 ミウよりも早く、シーヴェルスの剣が放たれる瞬間を、俺は目撃する。

 

 

 

 その一閃は、俺が今まで見たことがないほどに綺麗で、流麗で、そして現実離れしていた。

 だって、そうだろう?

 まるでシーヴェルスの、剣を持つ右手が、ぶれて見えてしまうほどに早い動きを見せたのだから。

 そんなこの世界の極地とも言えそうな剣閃はミウが放つ剣閃よりも僅かに早い。だがその差は決定的な差だ。

 そうして、その差は覆らないまま剣はミウに迫りーーその身体を、上下に別った。

 

 

 

 

 そう、別った......ミウの剣が、シーヴェルスの剣身を。

 

 

 

 

 《武器取落》。それは俺とミウが特訓の末身につけた一つの技だ。

 相手の手首や武器の根本、柄を狙って攻撃することで、武器そのものを取り落とさせる。

 だが、今のミウは武器の重心を見極めるほどの極限の集中力のなかにいる。

 ならば、剣の重心......つまり『弱所』を見つけることなんて、容易だろう。

 ただし。

 振り始めていた剣を途中で目標を切り替えていたのでは、今のタイミングは絶対に間に合わない。

 分かっていたのだ。ミウは。最後の最後でシーヴェルスが、あの剣閃を見せることを。

 それは、なぜ?

 最後に、ミウが剣の切っ先をシーヴェルスに当てる。

 

「これで、私の勝ちかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミウの勝利を証明するファンファーレが流れた直後、ミウの体がその場に崩れそうになる。

 それを見て飛び出した俺の肩にもたれ掛かりながらミウはふにゃりと柔らかく笑った。

 

「えへへ......なんだか役得だぁ......」

「いや、こんな時に何言ってんだよ......、体は大丈夫なのか?」

「うん、大丈夫。頭がちょっと処理落ちしてるだけだから、すぐに治るよ」

「それならいいけど......」

 

 いや、実際よくないけど。俺自身もよくこんな感じになってしまうため慣れてしまった。

 先ほどまでの妙な雰囲気もなければ、おかしいほど鋭い動きもない。いつも通りのすごいようでちょっと抜けているミウだ。先ほどのミウなんていなかったかのような、そんな気さえしてくる。

 しかし、それはありえない。先ほどまでのミウは確かにいた。それを証明するのは今俺と同じく難しい表情をしているシーヴェルスだ。

 先ほどのミウはいくらなんでも神がかりすぎていた。俺もたまに実力以上の力を出すことがあるとは回りから言われるが、ミウのはそんな生ぬるいものではなかった。

 そしてその理由にはなんとなくとだが当たりがついている。

 ニックに「良し」と言われるほどのもの、そして今の状況を鑑みれば絞ることはできた。

 それは。

 

「「《超感覚(ハイパーセンス)》......」」

 

 同じ答えにたどり着いた俺とシーヴェルスの声が重なる。

 《超感覚》。それはプレイヤー達がこの世界で鍛練で得ることができるかもしれない《システム外スキル》の究極系だ。

 《超感覚》は簡単に言ってしまえば相手の気を感じとる能力。これがあれば例えば洞窟で待ち伏せをされても相手の殺気に気づくことができる。

 ただしここは現実世界ではなくゲームの中だ。そんな殺気なんて模糊曖昧としたもの、ゲームの中では眉唾物を越えてオカルト扱いされている。

 だが、今のミウの行動を説明するにはこれしかないのだ。

 装備している本人、観戦している第三者が気づくよりもずっと早く、盾の重心がずれていることに気がつき、さらにシーヴェルスの体が浮くことが分かっているかののような動き、盾の向こうにいる相手の動きを察知し、終いには情報の欠片すらもなかったシーヴェルスの最後の一撃を分かっていたかのように動く。これは相手を見ているだけでは分かるものではない。

 しかし、何度も言うが《超感覚》は相手の気を感じとる程度(、、)に過ぎない。決して急に動きが鋭くなったり、判断力が早くなったりはしないし、ましてや未来が見えたりすることもない。

 だから、あえて今のミウの状況を的確に表現するのであれば。

 ーーミウは今、《超感覚》の先にいる。

 

「はは......」

 

 つい、乾いた笑い声が出てしまう。

 俺の目標はなんて遠いんだ......全然追い付けていない。これが、ニックがOKを出すレベルなのか......

 かなり強く、打ち負かされる。そのはずなのに、今俺の心の中を駆け回っているのは悔しさよりも喜びだった。

 そうだよ、何を追い付いた気になっている。俺の目標は、こんなにすごいやつだから、俺は目標にしたんじゃないか!

 

「いやぁ、負けたよ。結構勝つ気で行ったんだけどなぁ。完敗だ」

「そんなことないでしょ? あの手この手搦め手なんでもありで翻弄されたよ。ほんと、誰かさんと戦ってるみたいだった」

 

 そこでミウが横目で俺のことを見る。

 

「はは、確かに僕とコウキくんは似た者同ーーいや、同種だからね。戦い方も近いものはあるかもしれない」

「シーヴェルス、すごく勉強になったよ。地形まで入れてくるのはさすがだな」

「いやいや、コウキくんだってこれぐらいはすぐに思い付くさ。何て言ったって25層の英雄なんだから」

「変に持ち上げるなって......」

 

 そのままクールダウンも兼ねて談笑を続けながら俺たちは祠の前まで戻ってくる。

 ミウの体は徐々に感覚が戻ってきているのか最初ほど重みを感じなくなっていたのだが、ミウは自分で歩こうとはしない。まぁ元々軽いし、もしかしたらまだ平衡感覚とかは戻っていない可能性もあるため離したりはしない。

 

「レイアさん良かったな。ミウちゃんがあんなになってでも《宝珠》勝ち取ってくれたぞ」

「はい、本当にもうなんとお礼をしていいか分かりません......」

「ミウちゃんならありがとうって言えば喜んでくれるさ」

 

 ついてくる後ろの方でそんな会話が聞こえてきた。

 まぁ確かにミウならそれで喜ぶ......いや、意外と強かなとこあるから交換条件にメイドとしてご奉仕してー!とかって言うかもな。

 等と適当に考えていると、今の会話に気になることでもあったのだろうか? シーヴェルスはヨウトたちの方へ振り向く。

 

「なに......そんな、いやでもまさか......どうしてあれが......?」

「......? シーヴェルス? どうかしたか?」

「いや......すまない、僕の勘違いだ」

 

 不意の出来事に、ついいつもの癖でシーヴェルスの視線を追おうとするが、それよりも早くシーヴェルスの方が視線を切った。

 

 祠の祀ってある《宝珠》は黄緑色に輝いている。

 俺たちがすでに持っている《宝珠》も、色の濃淡の程度はあれど、ほぼ同じ色、同じ輝きを放っていた。

 俺は片手がミウで塞がっているためリリに頼み、リリが落としたりしないよう両手で《宝珠》を手に取れば淡い光と共に《宝珠》は消えてリリのアイテムストレージに入る。

 

「リリ、どうだ?」

「はい、確かに本物の《宝珠》です......これで三つ目ですね」

 

 うし! と俺とヨウトの声が重なった。

 これで《宝珠》の数は3つ。今日1日でもう半分だ。これならば思っていたよりも時間をかけず、すぐに《儀式》とやらを行うことができるかもしれない。

 そうすれば、ミレーシャの願いも叶うーー

 俺たちはそんな甘い考えを持っていた。

 これから待ち受ける、過酷な未来など、一切知らないままーー

 

 

 

 

 




今回は戦闘描写熱すぎたかな......? どうにもスマートでかっこいい表現や展開ができない。
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