力無き少年のソードアート・オンライン   作:Aruki

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59話目 朝は来る。例え何が起ころうとも

 Side Kouki

 

『それ』は、突然闇に覆われたと思ったほどに暗く、黒かった。

 人は完全な虚をつかれると思考に空白が生じると言うが、今まさにそれをされた俺にはとてもじゃないが空白ーー白なんて明るいイメージは持てなかった。

 ただただひたすらに黒。何か変化があっても察することなんて叶うはずもない。何か情報を得ようとしても返ってくるものは何もない。そんな状態では思考も動きようがない。

 思考が闇に包まれてしまえばそれに伴い、今度は体に鎖が巻かれていく。人というのはたった一度虚をつかれるだけでここまで全ての自由が奪われてしまう。

 動け、動け。さもなくばまた後悔するぞ。二度と取り返しがつかなくなるぞ。それでいいのか?

 こんなものはしょせん錯覚に過ぎない。それが俺には分かっている。俺だからこそより分かっている。

 動けーー

 

 

 

 

 

 

 

「Wow......まさか反応されるとはな」

「PoH......っ!」

 

 ーー時間にしておそらく1秒にも満たないほどの思考停止。しかしそれはこの場においては長すぎる時間だ。

 リリが突如現れたラフコフのギルドリーダー、PoHに胴体を撫斬りにされ地面に崩れ落ち、リリが庇ってくれたおかげでその攻撃からすんでの所で避けることができた俺は、勢いのまま後ろへ倒れる。

 声をあげる暇もリリを気遣う余裕もなく、状況は動き続ける。

 まず最初にに反応を示したのは、リリに対して警戒していたのか剣を抜き始めていたヨウトだ。リリを斬りつけた返しの刀で次の目標を狩ろうとするリリやジョニー・ブラックのそれよりも一回り大きな短剣(ダガー)。それをヨウトは持ち前の高速で走る剣閃で一度叩き落とす。しかしPoHは気にした風もなくそのまま体を入れ換えヨウトの横っ腹に回し蹴りを直撃させ吹き飛ばす。

 

 次に動いたのはこの場で誰よりも頼りになるだろうミウ。剣を抜く動作があったためヨウトよりも遅い行動になってしまったがそれでも実際にはヨウトとほぼ変わらないタイミングでの攻撃だ。腰の鞘から剣を引き抜き、一気に集中力を高めたミウは回し蹴り直後で体の浮いているPoHの懐に潜り込み剣を跳ねあげ斬りつける。

 

 

「お前が一番厄介な相手だ《聖人》......だがよぉ? お前の凄まじいその戦闘力ってのは、時間制限付きなんだろ? はてさて、さっきまで戦っていたお前にその時間は残ってんのかな?」

「ーーっ!?」

 

 しかし、その剣閃にはいつものキレは存在しない。それでもミウの剣閃ならば充分トップクラスレベルのそれだが、そんな中途半端な攻撃ではPoHには到底届かない。

 PoHはいつかも見せたいつ受け流したかも分からない奇妙な方法でミウの剣を逸らしやり過ごせば体勢を整え、懐にいるミウ目掛けてダガーを降り下ろす。

 それに対してミウは滑り込ませた自らの剣で受け止めるが、二人では体格も膂力も違いすぎる。一瞬の拮抗はあったが押し潰される形で今度はミウが体勢を崩される。そのまま相手の下で倒れてしまうのは猛獣にマウントポジションを取られるようなものだ。それを嫌いミウは無理矢理地面を蹴って脱出を試みるがいくらなんでも体勢が悪すぎる。すぐさまPoHに行動を読まれ腕を取り押さえられてしまう。

 

 それ以上はさせないと最後に動き出した俺が止めに入る。しかしPoHはミウに今にでもとどめの一撃を放とうとしている。今からできるのはせいぜい一動作、剣を振るうには遠く接近するには時間が足りない。

 もちろんこの世界には腕を振るだけで相手を倒せるような魔法は存在しない。でも、剣の世界とはいえ飛び道具が皆無というわけではない。

 だから俺は、腕を振る。剣を持っていない左腕を(、、、)

 いや、正しくは、左手のなかに握りこんでいた()を。

 PoHは顔を目掛けて放られた砂を回避しようと僅かに顔を背ける。砂はPoHが被っている真っ黒なフードによって防がれてしまったが、構わない。この一瞬の硬直さえあれば俺でも助けに入ることができる。

 今度こそPoHに接近しミウから離すために剣を横一閃に振るう。牽制なんて甘いことはこいつ相手には言ってられないだろう、最悪致命傷になることも覚悟する。

 

「《奇術師》を獲るにはまず《聖人》から。正常な判断ができてないぜ?」

 

 しかし、PoHは俺の攻撃に完璧に対応して見せる。

 俺が振るった剣閃。その軌道上にPoHは握っていたミウの腕を強引に割り込ませたのだ。

 このまま剣を振るえばPoHにダメージは与えられるだろう。しかし同時にミウの腕も飛ぶ。

 これはメリットデメリットの問題。冷静に考えるのであればこのまま剣を振ればいい。なぜならこの世界では部位が破壊されても時間経過で自動回復するのだから。

 それでもーー

 

「ーーくっそぉ!!」

 

 俺は強引に剣閃の軌道を変える。例え答えが分かっている問題だとしても、仲間を、大切な人を斬るなんて選択肢は俺の過去が許さなかった。

 これはソードスキルじゃないからディレイもなにも発生はしない、がそれでもこんな無茶をすれば体勢は間違いなく崩れてしまう。

 

 体勢を大きく崩された俺。腕を吊られすぐには身動きできないミウ。この場でPoHに再アタック可能なのはただ一人。

 

「それで、最後に残ったのはお前か《スピードスター》.......お前には借りがあったよなぁ」

「はっ。前にバカにされたことまだ気にしてんのかよ。案外器が小さいよなお前」

「ふん、口が減らないな」

 

 二人の会話と共に辺りに響くのはヨウトが戦闘する時に響きわたる金属音。これはヨウトが得意とする息つく間もないような連続攻撃だ。

 ガイアで戦ったソルグをほぼ一方的に押しきってしまったヨウトの攻撃、それは今も変わらない。

 そのはずなのに、ヨウトの攻撃はヒットしない。ただ一つとして。いや、それどころかーー

 

「っ......!」

「おいおいどうしたぁ? 口先ばっかり強くても仕方ねぇだろ、おらぁ!」

 

 ーーPoHは、ヨウトのあの数々の攻撃を全て受け止め、かわしきった。それもダガーを持っている片手だけで。

 いや、タネは分かっている。おそらくヨウトも心のどこかでミウの腕を意識してしまっている。だからこそPoHはヨウトの剣戟の軌道をある程度予測できているのだ。

 そこまで読んでいるからこそ、PoHはミウを囮として使っている。

 何度攻撃しても、どう攻撃しても状況はいっこうに変化しない。まるで何もない闇を攻撃し続けているかのように。それを無駄、無意味だと理解してしまえば抗う気力すらも持っていかれてしまう。それだけはダメだ。

 体勢を立て直した俺も加わりひたすらPoHに攻撃を放ち続ける。持てる限りの方法を試行していく。どれか一つが闇を払う方法になればと、それを信じて。

 

 それでも、足りない。届かない。

 実力はともかく、人数や戦力の上では間違いなく勝っている。それでもここまで一方的なのは俺たちの意識がミウに割かれてしまっているからか。

 この状況は打開不可能なものじゃない。今までだってもっと辛い状況を打開してきただろう? 諦めるな、屈するな。こんな闇に呑まれてどうするーー

 

「コウキ!」

 

 俺の思考を断ち切るかのように、ミウが声をあげる。それはちょうど俺が斬りかかるのと同じタイミングで、戦闘中だというのについ視線がミウに向いてしまう。

 視線だけで見たミウは、笑っていた。いつものように明るく、この闇のなかでただ一つだけ見える道標のように。

 再び、思考に空白が訪れる。いや、今度こそというべきか。

 それほどに、明るさを含んだ空白。

 

「怒らないでね......?」

 

 そして鈍い音が響く。次に訪れたのは、やはり光。キラキラと、綺麗な光。ポリゴンの光。

 その光は、ミウの腕の先から溢れていた。

 結果に遅れて、情報が頭を駆け巡る。起こった現象は至極簡単。

 

 

 

 俺の攻撃を受け止めようとしたPoHのダガーの軌道。そこに自ら掴まれている腕を割り込ませた。

 

 

 

「Shit!」

 

 それによって、ミウは体の自由を得て、なおかつ俺の剣を受け止める代わりにミウの腕を斬ってしまったPoHのダガーはその目測を誤る。

 PoHはそれを感じとりこの戦闘で初めて後退するが、一瞬遅い。結果俺の攻撃は通る。浅くとだがPoHの胸を斬りつけることに成功する。ついに、闇を切り裂く。

 しかしその代償は俺にとってあまりにも大きい。

 何度も言うが、この世界では部位が破壊されても時間経過と共に回復するし、痛みも発生しない。ミウのあの行動に実害はほとんどないはずだ。

 それでも、精神的なものは違う。自分の腕を刃物に押し当て、自ら切断に誘導する。それがいったいどれほど勇気がいることか、どれほど嫌悪感を発生させるものなのか。

 考えただけでも腸が煮えくり返る。

 それ以前に、どうしてこいつはこんな場面出てきた? どうしてこんなやつに、やっと闇から解放されかけていたリリが斬られなければならない?

 なによりも。

 仲間(ミウとリリ)を傷つけられてしまった、自分の不甲斐なさが頭に来るーー

 

「「はあぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」」

 

 ここしかない。ここでPoHとの戦いに区切りをつけなければならない。

 俺たち3人の想いと咆哮が重なる。そして、一斉に各々の剣が光を纏う。

 その光はこの状況を完全に切り開こうとする、闇に対する反撃だ。一つ一つの光は淡くとも、それらが合わさることで闇をも照らせる。

 一瞬の停滞の後、後退するPoH目掛けて俺たちのソードスキルが発動する。

 俺は《バーチカル》、ミウは《ホリゾンタル》、ヨウトは《ソニック・リープ》とどれも発動の早い単発ソードスキルだ。

 3つのソードスキルが、一斉にPoHに襲いかかる。そしてーー

 

 

 

 

 

 

 

「危ない危ない。一瞬ヒヤッとしたぜ」

 

 ーー全ての攻撃は、回避される。

 改めて、PoHは化け物だと感じた。前にヤマトと共闘したときも感じたことだが、こいつはこの世界でも異端の中の異端だ。これだけの人数差があっても完全には攻めきれない。相対しているだけで恐怖に包まれてそうになる。

 それでも。

 

「やめだやめだ。そもそも今回の俺の狙いはこいつの回収だしな」

 

 闇は、晴れた。

 PoHは俺たちから距離を取り戦闘範囲から離脱していく。それはPoHが俺たちへの戦意を萎ませていく意だ。

 だが同時に、PoHが目的を達成したという意でもある。

 

「ヘッド~。この縄ほどいてくれよぉ、そんであいつら一緒に殺してやろうぜー。このままやられっぱなしで帰られっかよぉ」

「知るか。お前が勝手に捕まったのがわりぃんだろうが。助けてもらえるだけでも感謝しやがれ」

 

 その証拠にPoHが脇に抱えているのはいつの間にか俺たちの傍から消えていたジョニー・ブラックだ。どうやら今の戦闘のなかでジョニー・ブラックから俺たちは離されるように、PoHは近づいていくような位置取りをさせられていたらしい......あの戦闘のなかまだそんな余裕があることにゾッとする。

 ジョニー・ブラックを今ここで逃がしてしまえばこれからPKにあう被害者はまた増えていくだろう。だが深追いしようものならPoHは再び俺たちに襲いかかってくる。そうなれば俺たちは全滅すらあり得る。それほどに、PoHという闇は深く、強い。

 

「それに、どうやら《奇術師》が一つトラップを張ってたようだからな」

「......なんのことだよ」

「とぼけるなよ。お前、時間差である程度の人数の攻略組をここに突入させる気だったろ? こんな状況で俺たちを一網打尽にしようとするなんて頭イカれてやがんな」

 

 くくっ、と喉の奥で笑うPoHの顔には嘲笑が張り付いているが、声にはそれほど嫌味は感じない。どうやら本当にこの状況を楽しんでいるらしい。

 PoHの言う通り、俺は一つ保険を打っておいた。ジョニー・ブラックと戦闘するにあたってたまたま(、、、、)相性が良かったため完勝することができたが、実際に戦ってみるまではそれは分からなかった。俺が負ける可能性だって考慮していた。

 だから攻略組メンバーーーシーヴェルスに要請していたのだ。もしも時間内に俺たちから連絡がなければこの場所に突入してほしいと。

 本当は俺から直接もっと大人数に声をかけたかったのだが、最近はボス戦にもあまり顔を出してない俺たちだ。そこまで力はないし、あまりに大人数過ぎても相手に感付かれてしまう。

 だからシーヴェルスが声をかけられる範囲で頼んだのだが......結局気づかれたか。

 

「それでどうするんだよ。このまま俺たちと戦っててもお前の状況がどんどん悪くなるだけだぞ?」

「ふん、まだハッタリが下手だな、目が全然現状に満足できてねぇぞ? ......そんなに《聖人》の腕を斬られたのが頭に来たか? くははは!!」

 

 ガキリ、と奥歯を強く噛み締める。その所作がPoHが言うことの証明になってしまった。

 ミウの腕が斬られた、リリが傷つけられた。過程はどうであれその事実が俺の心に苛立ちという薪をくべ続け、怒りという炎が燃え盛る。

 だが先も言ったようにここで深追いすることだけはダメだ。俺の自己満足と皆の安全、どちらを優先すべきかなんてことは分かりきっている。

 小さく息を吐き、PoHの言葉を聞き流す。そんな俺の反応にPoHは肩を竦めれば、くくっ、と卑屈に笑ってみせる。

 

「まぁ、そうだなぁ。このままここにいても本当に囲まれちまいそうだし......ここは引かせてもらうか」

 

 どこか残念そうに、同時にどこか楽しそうに空いた右腕を大きく広げながら首を振るPoH。その姿は狂気なんて言葉では表しきれない闇を全方位に放っていてーー次の瞬間、ボシュッという音と共に辺りが再び闇に包まれた。

 

「なっ、く......煙幕!?」

 

 しかし今度の闇はそんな精神的なものではなく、現実に起こった変化だ。いつの間にか放られていた発煙筒のようなものが発動したのだろうということを口に侵入し、また目に染みる煙から察する。

 煙幕などはmobからの離脱に用いられることが稀にあるが、mobには目を感覚器官として持たないものも多いためあまり実用的とは言えない。故にそこまで有名なアイテムではないのだが......なるほど対人での逃走においてここまで実用的なアイテムもそうはない。

 

 もくもくと視界は塞がれ続ける。しかしこの状況では全員が各々の位置が分からないはず。ならばやはりこれはPoHが逃走用に用意した状況か?

 

「コウキ......さん!」

「リリ!?」

 

 突如聞こえたリリの声と共に激しい金属音が響きわたる。今のはリリが誰かの斬撃を受け止めた音か。

 誰の? そんなもの決まっている。

 

「リリ、大丈夫なのか!?」

「すいません......回復に時間がかかりました、もう大丈夫です!」

 

 思った以上にしっかりとしたリリの声が返ってきて安心しかける俺だが、すぐにそれは間違いだと気づく。

 視界の隅に映るリリのHPバーは全損こそしていないものの、真っ赤な色を示している。一撃でも攻撃を受けてしまえばリリの命が燃え尽きることは間違いないだろう。

 一刻も早くこの状況を脱しなければならないことを再認識する。

 

 だが具体的にどうする?

 互いに場所も状況も分からないこの煙のなか、どうやって相手を補足すればいい? 下手に動けばそれこそ相手の攻撃が当たってしまう可能性もある。

 ならばここは動かず身を固めていた方が攻撃が当たる確率は減るーー

 

「右です!!」

「ーーっ!?」

 

 リリの声にほとんど条件反射で反応し右方に剣を構える。するとそれに応えるようにして俺の剣から金属音が響いた。

 直後僅かにだが人の息づかいが聞こえる。リリのものではない、これはPoHのものだ。

 PoHはすぐさま俺たちのもとを離れていくが、どうしてだ? どうしてPoHは俺たちの居場所が察知できる? なんらかのスキルか? それともアイテムでこの煙幕を無効化しているのか?

 

「音です」

 

 俺のとなりに寄り添ったリリが俺の疑問に答えを与える。

 

「音?」

「はい。足音や呼吸、空気の流れのようなものです。コウキさんが目を使うようにラフコフーー私たちは、耳も使います......そう、習いました」

「......」

 

 リリに思うことは多々ある。話さなければならないことも。

 だから、話そう。すべてが終わったあとに。ミウが言うようにたくさん。

 それを心に刻み、俺は口を閉じる。リリは先程から俺に聞こえる最低限の声量で話しかけている。おそらくこの会話もリリにとってはかなり危ない橋を渡っているのだろう。

 そうするとミウたちに声をかけるのもなしだ。もしかしたら先程から二人の声が聞こえないのは音によってPoHが場を支配してることを気がついているからかもしれない。

 俺が無駄に声をあげていたからこそ逆に位置が特定され狙われてしまっていたのだ。

 

 だが訓練されたリリはともかくとして、俺は呼吸を殺すことも、音を消すことも難しい。

 一応見よう見まねで音を消すことを試みるが、どうしたってどこかから音は漏れてしまう。そう例えば......重心移動による、砂と靴裏の摩擦音とか。

 自分しかいない静かな部屋でようやく聞こえそうなほど小さな音。たったそれだけの情報で、

 

「グッバイ」

「コウキさん! 正面!!」

「ーーっ!?」

 

 闇を掻き分けるようにして、PoHは突如現れる。今度はリリも虚を付かれてしまったのか反応が遅れていた。

 今から反応しても到底間に合わないタイミング。そして位置取り。俺の耳でも聞こえてしまうほどに、その凶刃は速く、もうすぐそこまで迫っていた。

 そのあまりにも恐ろしくて、驚愕な真実に、俺はーー

 

 

 

 ーーにやり、と。ただ小さく笑みを浮かべた。

 

 

 

「ぐぁっ!?」

「左腕もらったぞぉ!」

 

 少しずつとだが薄くなってきている煙幕のなか、剣を振りきった(、、、、、)状態で俺は、足元に落ちてきたPoHの左腕を見て歓喜の声をあげる。

 この視界不良の闇のなか、PoHの居場所を認識するのは至難の技だし、リリのように音から相手の居場所を割り出すのも無理だ。

 ならば、わざと音を出してやればいい。そうするだけで、PoHは俺に接近してくるのだから。

 もちろんその音が罠であることがPoHにバレてしまう可能性もあった。しかしそれでも俺たちの勝ちなのだ。PoHに時間がない以上、罠だとわかればそのまま俺たちへの攻撃を諦め撤退する可能性だってあるのだから。

 

 もう完全に俺たちへの攻撃を諦めたのか、殺意を隠さないままにPoHは自ら俺たちへ話しかけてくる。

 

「......Fuck。どうして俺が正面から攻めてくるとわかった? まさか勘だなんてバカなことは言わねぇよな?」

「お前は殺人鬼であって、暗殺者じゃないってとこに賭けたんだ。戦闘面でも有名なお前だ、最後は正攻法で来ると思ったよ」

 

 相手はこの世界で最高といって間違いない殺人鬼。殺人鬼は殺人を愛するが故にそう呼ばれるのだ。ならばその方法に一定のポリシーのようなものがあると考えてもおかしくはないだろう。その証拠に前に戦ったときもPoH自身は正面戦闘を行っていた。

 だからこそ俺は、PoHが接近するタイミングに合わせて剣を振るうだけでいい。

 

 俺の推測を聞けばPoHは笑いとも怒りとも取れるように「はっ!」と声を漏らす。

 PoHの姿がうすぼんやりと視認できるほど晴れてきた煙幕のなかPoHは手の中でダガーをくるくると回し遊びながら。

 

「今回はお前らの勝ちでいい......今はせいぜいその明るい日常を楽しんでな」

「できれば、もう会いたくないんだけどな」

 

 最後に言葉を交わし終わる。PoHはどこかに置いていたのかジョニー・ブラックを拾うような仕草をした後、その姿を確認できなくなっていった。どうやらもう距離を取られてしまったらしい。

 このあとさらに追撃がある可能性を考慮し警戒は解かなかったが......それは杞憂に終わった。

 視界がほぼ完全に晴れるといつの間に昇っていたのか渓谷に僅かばかりだが陽の光が射し込む。その光は今までの視界不良と真逆でこの世界を明るく照らす。それと同時にこの場にシーヴェルスたちが到着した。

 

 

 ーーこうして、ひとつの戦いが終わりを告げる。今回は(、、、)上手く闇を切り開いた、という結果をもって。

 

 

 

 

 




今回表現を変えてみたら......なんだろう、この中ニ病感



追記 前からずっと章の名前がしっくりこないな、と感じていたのですが、今回一思いに章の名前を変えてみました。
また、47話目以降に章を加えさせてもらいました。私自身の勝手な都合で変えてしまい申し訳ありません。
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