力無き少年のソードアート・オンライン   作:Aruki

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60話目 薄幸少女の悪夢が覚める。代わりに訪れたのは涙と笑顔でした

 PoHたちが完全に去ったことを確認してから数分後、ガシャガシャと金属が擦れあう音を上げながらシーヴェルス一行が到着する。

 

「すまない、思いの外時間がかかってしまった。コウキくんたちは......どうやら全員無事のようだな」

「ああ、お陰さまでな」

 

 俺たち3人が各々に座り込んでいる姿を確認してほっと息をつくシーヴェルス。元々俺が無理をいって援軍を頼んでいた上に連絡すらまともに入れることができなかったのだ。迷惑、心配ともに非常にかけてしまっただろう。いくらでもお詫びはしたいし、感謝も伝えたいのだが......いかんせん4人とも疲労が半端じゃない。考えてみれば昨日の守護モンスターからここのところ連戦、しかも対策やら約束やらでまともに寝ていない。シーヴェルスたちには悪いがこのまま会話を続ける。

 

 俺がその意を伝えるとシーヴェルスは「構わない」と微笑みを返してくれる。こういうところでパーティリーダーとしての器が見え隠れするのがよく分かる。

 するとシーヴェルスの後ろから顔を出してきたレンが俺たちとは違って座っていない1人に目を向けながら訪ねてくる。

 

「んで、なんでまたヨウトの奴だけ殺気満々で立ってんだ? マジで洒落にならねぇ殺気なんだけどあれ」

「あー......軽い問題じゃないけど、気にしなくて大丈夫。今はつついてやらないでくれ」

「ふむ......君のところは相変わらず問題が山積みということか。それなら僕たちが変に介入しない方が良さそうだね。隠し事をされるのは少し癪だけれどね」

「耳が痛いな」

 

 どうやら介入しない代わりに愚痴は溢していくスタイルらしい。それでも俺たちからすればかなり助かる。後で何を要求されるかが少し怖いがシーヴェルスには感謝しかない。

 シーヴェルスは自分のパーティメンバーに指示を出し俺たちに肩を貸してくれる。俺やヨウトはまだしも、ミウとリリの疲労が激しいため申し訳なさはありつつも好意に甘えることにする。

 

「それにしても......」

 

 言うと、シーヴェルスは辺りを見渡す。

 今まで周りに目を向けられるほど余裕がなかったが、シーヴェルスにつられて見渡してみると端的に言ってかなりすごい。

 探そうとしなくても辺り一体に散らばっている様々な種類の武器の数々、その数は二桁は行っている。あれらはおそらくミウが《武器取落》でラフコフのメンバーを無力化しまくった結果だろう。だが散らばっている武器の数があの場にいた敵の数よりも多いということは敵のサブウェポンまで切り落としたということだろうか?

 普段俺とミウは敵を各個撃破、面倒な相手ならコンビネーションで撃破、という動きをするが、今回はヨウトがその敏捷値を生かしヒットアンドアウェイで多くの敵を足止め、動きが止まった敵目掛けてミウが《武器取落》を実行するという動きを見せた。つまりミウの《武器取落》が100%のパフォーマンスを見せたということになる。

 その結果がこの参上な訳だが、武器があちらこちらに散らばっているというのは......なんというか戦死者が大量に出たあとのようで若干怖い。

 

「まさに戦闘後、って感じだね。敗軍の基地みたいな臭いが強いけど」

「まぁ間違ってねぇんじゃねぇか? 実際ミウちゃんが相手をぼこぼこにしたんだろ? これ」

「武器ばかりが転がっているからねぇ......いやはや、こんなことが可能な相手とついこの間一戦交えたのかと思うと胃が痛くなるよ」

「う、うるさいなぁ。人を化け物みたいに言わないでよ」

 

 シーヴェルスとレンの二人がかりでからかわれ、ミウが拗ねたように唇を尖らせる。しかしその可愛い仕草とは裏腹にミウの左腕はまだ回復していない。

 二人のお陰でようやくこの場に明るい空気が流れ始めるが、俺はその事実がどうしても頭から離れなかった。

 もっとうまい方法があったんじゃないか? もっとうまい動きかたがあったんじゃないか? どうしたって、よりよい未来ーーミウが無事だった可能性を考えてしまう。

 だがそれはミウの努力への冒涜だ。ミウのあの行動があったからこそ、今俺たちは光のなかにいる。

 

 俺たちが今生きている、それ以上を求めるのは強欲だろうと思考に区切りをつける。するとそれを見計らったようにシーヴェルスが肩を叩いてくる。

 

「さて、それじゃあ今回の話の流れや細かい内容を詰めていきたい......僕たちもボランティア精神に溢れているわけじゃないからね」

「あぁ、そうだな......分かってる」

 

 ここからが本番だ。

 シーヴェルスたちに援軍を頼んだときは時間がない上にリリの身の安全のために詳しい話をするわけにはいかなかった。だからシーヴェルスには「この前のミウとシーヴェルスのデュエル、賭け決めてなかったよな?」とほとんど詐欺師のようなやり口で援軍を受諾してもらった。

 これが成立したのは俺の交渉の才能みたいなものが覚醒したわけではなく、単純にシーヴェルスの温情だろう。かといってシーヴェルスたちも最前線プレイヤーたちだ。私用でタダ働きをさせるなんて話がまかり通るはずもない。

 

 ーーはずもない、として。じゃあどうする?

 今回の顛末を一から十まで詳しく説明する? ダメだ、それではリリが問答無用で《黒鉄宮》送りになってしまう可能性が高い。リリの罪を踏み倒そうなんて考えはないが、それでも話し合いの場もなくしてそうなるのは避けたい。

 もちろん内容を改変して伝えるのも、かいつまんで話すのも、ましてや黙秘を貫くなんてのはもっての他だ。信用云々の話の前に人として間違っている。

 

 答えが出ないまま俺が返答に窮していると、不意にシーヴェルスが横へと視線を向ける。

 

「その......コウキさん」

「リリ......」

 

 それにつられるがままに俺も視線を向けると、その先にいたのは今にも泣き崩れてしまいそうな顔をしているリリ。錯覚だとは分かっているのに、今何かを一つでも間違ってしまえばリリはこの場から消えてしまう。そんな謎の衝動に襲われた。

 そんなはずはないし、やはりそれは錯覚だが......同時に事実でもある。それがなんとなくだが、分かった。

 俺たちやこの渓谷の闇は晴れても、リリの闇はまだ晴れてやいないんだ。だったら、俺がしたいことはーー

 

「ーーコウキくん」

 

 シーヴェルス、と声をかけるよりも一瞬早く、目の前の青い騎士に声をかけられる。

 

「君たちはかなり疲労しているみたいだし、どうやら先約もいるようだ。こんな状況ではとてもじゃないがまともな話し合いができるとは思えない」

「シーヴェルス......」

「だから、この話し合いは後日ということにしようか。もちろん僕と君の仲なのだから、後日話した内容だって君の言葉であれば僕は信じるよ。僕たちはそういう関係でありたい、と常々思っているからね」

「......ありがとう」

 

 肩を竦めどこか格好つけた言い回しと仕草をこれまた格好つけた笑みで見せるシーヴェルス。ひどく遠回しな言い方をしているがそれはつまりーーいや。言葉にする必要はないのだろう。だからこそ、シーヴェルスはこんな言い方をしている。

 だから俺は、感謝の言葉以上のことはなにも言わない。それだけで十分伝わったとばかりにシーヴェルスが満足そうだから。

 その後シーヴェルスたちは周りを索敵した後、俺たちをmobがポップしない安全地帯まで移動させると一言二言別れを告げて去っていった。

 大きな貸しが一つできてしまったが......嫌な気分ではない。

 また一つ人との繋がりができたことに微笑みーーそれを意識して隠す。

 

 体はまるで全身に重りをつけているかのような倦怠感に包まれ、腕を上げるだけでも体が軋む音が聞こえてきそうなほどに疲れきり今にも地面に崩れてしまいそうだ。

 心は緊張の糸が切れたせいか、今までの精神疲労が全てまとめて襲ってきている。周りの目なんか気にせずに大声をわめき散らし、もうなにも考えなくてもいいと言われたがっている。

 それでも、俺は心を振り絞り、魂という名の燃料を捻出する。そうだ、俺が音を上げるわけにはいかない。何故なら今目の前に、俺なんかよりもよっぽど頑張っている女の子がいるのだから。

 小さく息をはき、ばらばらになっていた集中力をかき集め、構築する。

 

「リリ、話、聞かせてもらってもいいか?」

「......はい」

 

 こうして始まる。俺たちが気付いてあげることができなかったリリの闇を、切り裂くための話し合い(戦い)が。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーこれが、私が辿ってきた、最悪の道のりです」

 

 そう最後にリリは締め、語り終わる。

 リリがこの世界に来た理由。

 リリがこの世界に来てどんな日常を送ってきたのか。

 リリが今まで何を抱え込んできていたのか。

 その全てを、俺たちは聞いた。

 

「......」

 

 何か、言わなければならない。この場にいる誰もがそう思っているのは流れる空気で分かった。

 だがその想いに反して誰一人としてすぐには口を開けない。当然だ。そんなすぐに思い付く言葉なんてものは簡単な慰めやうすっぺらい共感でしかない。そんなにすぐに答えなんて出ない。だからこそ、リリはここまでねじ曲がり、歪んでしまったのだから。

 

「リリは、今後どうしたいんだ?」

 

 それでも、俺は言葉を紡ぐ。

 リリがどうしたら正解なのか、その答えはすぐに閃くなんてことは俺にはできない。

 でも、一つだけ絶対に間違えてはいけないことがある。

 俺は、もう出しているんだ。リリとどう向き合っていくかの答えを。

 

「どう、したいのか......ですか」

「リリの事情から考えれば、問答無用で《黒鉄宮》送りってのは違うんじゃないかって思うんだ」

「......何も、違ってませんよ。確かに私はジョニーたちから......殺人を促されていました。でも、それを踏まえても.....私が人を殺めてしまった。その事実は変わりようがない真実です」

「あぁ、そうだと思うよ。リリが犯した罪は重い。それは決して無視なんてできないものだと思う」

「だっ、たら、やっぱり......っーー」

「それでも、俺はそんな甘い選択(、、、、)は許さない」

 

 《黒鉄宮》は犯罪者プレイヤーを閉じ込めておく場所ではあるが、現実世界の刑務所のような刑を与えて更正を促すような場所ではない。鎖に繋ぎ止めておくだけのただ冷たく暗い場所だ。そんな場所では進むことも変わることもできない。

 つまり、罪を償いたいと考えても何かできる場所ではない。

 この世界をクリアするまでの残り時間がどれだけあるものかは分からない。想像を絶するほどに長いかもしれないし、逆にあっさり攻略してしまって短い時間かもしれない。だがどちらにせよ、その時間の間ずっと暗い牢の中でただただ、自分は悪いことをした、自分は最悪だと自罰に尽くすだけ......その時間はなんて、自分に辛く、それ以上に、自分に甘い時間なのだろう。

 

「罪ってのは、自己完結していたんじゃダメなんだ。責める相手が自分だけなんて、そんな甘いことは許されない......だからこそ、罪を償おうって言うのなら、人との繋がりを強く持たなきゃいけない。自分に罰を与えて、人からも罰を与えられて、その両方から許されたとき、その時こそ罪を償ったって。そう言えると思うんだ」

 

 これが、俺があの事件の日から学んだ一つの事実。

 かくいう俺もまだ父さんを殺してしまった罪を償えたとは欠片も思っていない。なぜなら俺自身がまだ許せていないし、何よりもこの世界に来るまでの俺は現実とも向き合えていなかったのだから。

 完全に償える日が来るかは分からない。それでも、償うための考えや行動は必要なはずだ。

 

「人からの、罰......」

 

 岩に体を預けるようにして座っているミウが小さく繰り返す。ミウは人に底無しかと思うほどに優しい面がある。だからこそ人に罰を与えるというのは中々に酷なことなのかもしれない。それでも罰もなくして罪を許されるのはきっと、どんな仲だろうと間違っている。そう俺は考える。

 

「だから、リリ」

 

 俺は再び泣いてしまいそうになっているリリに手を伸ばす。今度こそちゃんと分かり合えるように、理解のための橋がかかることを祈りながら。

 

「俺たちと、仲間になってくれないか? 一緒に行こう」

「......私、嘘つきですよ? また嘘をついて......みんなを、困らせるかもしれません」

「いいんだよ。その時は全力で怒ればいいだけだ」

「私、今オレンジですよ? コウキさんたちも周りから、白い目で見られるかも.....」

「カーソルがなんだ。リリは俺たちの仲間だ。カーソルの色なんて関係ないよ」

「私ーー」

 

 

 

「ーーここにいても、良いんですか......?」

 

 

 

「当たり前だろうが。また勝手にいなくなったら怒るぞ?」

 

 リリの(不安)を切り払うように迷いなく言い切る。それに応えるようにしてリリは再び泣き出してしまう。

 泣きながら、体を震わせながらでもリリは右手を伸ばし、俺が差し出した手を握り、必死に言葉を紡いでくれる。

 これから罪と共に前に進んでいく覚悟を、示してくれる。

 

「はい......っ、ずっと、着いて、いきます......っ......もうそれっ、だけは絶対に......間違えません.....っ」

 

 渓谷の隙間からリリに向かって光が差し込む。まるでリリの新しい物語の始まりを祝福するように。闇なんて完璧に消し去るように。

 ボロボロと止めどなく溢れてくる涙を何とか止めようと目元を擦るリリだが、それでも涙は止まらない。しかし結果がでないその行動に反してリリは今までにないほど明るく微笑む。

 

「ひっぐ......ふっ、ふふ......、ぐすっ、この、世界では、嬉しい涙は渇れないんですね......っ」

「みたいだな。なら、その発見がリリの最初の一歩だよ」

「はいっ......」

 

 ーーこうしてリリの闇は完全に晴れ、リリにまとわりついていた鎖は、増え、別のものに変化する。

 一つは罰という鎖に。そしてもう一つは......絆に。

 それを確かなものとして噛み締めるように、俺はリリの頭を撫で続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、今回のリリ奪還戦に当たって、色々な人たちに迷惑をかけてしまった。

 まずはシーヴェルスたち。これに関しては話し合ったように、後日改めてシーヴェルスたちに今回の事件の顛末を報告をした。もちろんリリのことはいくらか変更を入れよう......と考えていたのだが、リリ自身がそれを辞退した。

 リリは自分の罪をひた隠しにするのではなく、シーヴェルスたちに知ってもらったその上で彼らの判断に任せたいと言ってきたのだ。

 もし万が一にもシーヴェルスたちがリリのことを口外すれば、その時点でリリは多くのものから追われる身になる。それを承知でリリはシーヴェルスたちに今回のことを報告した。もう嘘はつきたくない、これが最初の一歩だと。

 その言葉を前にして早速リリに負けてしまったと思った。自分の罪に対しての向き合い方なんて、俺が言う前からリリはきちんと理解できているのだ。

 シーヴェルスたちにはお詫びとお礼として、ミウの手料理といくらかのレアアイテムを献上させてもらった。シーヴェルスはその際ずっとにこにこしていたが......あの笑みが逆に怖い。しかしそんな俺の悪寒に反して数日たった今でもリリのことが攻略組やプレイヤーたちの間に知れ渡るようなことはなかった。

 

 次にガイアの人たち。リリ奪還戦を制した俺たちはそのまま安全地帯で眠りこけてしまった。それも夜まで、ぐっすりである。

 ラフコフと戦闘をした後でいくらなんでも危険意識が低すぎると思うが、睡魔に負けてしまったのだから仕方がない。幸い、あの渓谷は不人気スポットである上に、そのせいで出来上がったラフコフの溜まり場を俺たちがめちゃくちゃにした後だったため誰かが近づいてくることはなかった。

 しかし忘れかけてしまっていたが、俺たちはガイアクエストの一つである守護モンスターの同時撃破。ならびに守護されている《宝珠》を届けなければならないクエストの最中だったのだ。今回のクエストは時間制限はないものだったのであとは入手した《宝珠》を届ければいいだけなのだが、やはり無駄に時間をかけてしまったのは申し訳ない。

 そのことを謝りつつ《宝珠》をナフさんたちに渡し、クエストはクリアとなった。今回の報酬は転移結晶が人数分。やはり段々と報酬が高級になっている。このまま最後までいったら一体どんな報酬が待っているのかと考えると少しだけ期待している自分がいる。

 

 クエストもクリアし、残る《宝珠》はあと一つだけ。こうなれば今すぐにでも次のクエストにチャレンジして《宝珠》をコンプリートしたい気持ちは強くあるのだが......俺たちは今13層の東端にある《イーブルの森》に来ていた。

 もちろんその理由はガイアクエストではなくーー

 

「......それにしても、まさかカルマ回復クエストがここまで面倒なものだったなんてな」

 

 ーーリリのカーソルをグリーンに戻すために来ている。

 カーソルがオレンジのままだと《圏内》に入った瞬間にちょっと頭おかしいくらいに強いガーディアンに襲われてしまうのだ。もちろんそこでHPが全損すればゲームオーバー。ちょっと理不尽を感じ得ない。

 

 つまりこのままではリリは普通の町はおろか、下手をするとガイアにも入ることができないことになってしまう。

 それを何とかするため、この世界に唯一存在する犯罪者救済処置であるカルマ回復クエストにリリは今チャレンジしているのだ。

 しかし、これがまたなんとも面倒くさい。

 討伐クエストやお使いクエスト、採集クエストや護衛クエスト等々、多くのクエストを乗り越えた先にようやくカーソルがグリーンに回復するのだ。

 今は数あるクエスト内容の中の採集クエストにチャレンジしているのだが......

 

「《ブルー・ビーの二枚羽根》に《ブルー・ビーの黄金蜂蜜》、その上《ゴブリンキッズの大爪》って.....全部レアアイテムじゃん。最前線の採集クエストでもここまで面倒なクエストないぞ......」

「まぁ、簡単だったら犯罪の抑止力にならないからねー」

「だとしても限度があるだろ......《ブルー・ビーの黄金蜂蜜》なんてドロップしたところ見たことないし」

 

 と、いう問題が発生している。

 この採集リストを一人で集めろと言うのはいくらなんでもキツすぎる。どのアイテムも1時間や2時間粘れば出てくるというものでもないからだ。

 だからこそ、リリ一人にさせるのではなく俺たちも採集を手伝っているのだが......開始から3時間。まだ何一つ出ていない。今さらだがゲームバランス狂ってんじゃないかこのゲーム。

 ミウの言う通り、そのくらいじゃないと抑止力なり得ない、というのも分かるには分かる。でも分かれば納得できるかはまた別問題だ。このドロップ率ふざけんな。

 

 あまりに進まない採集にイライラし始めていると俺のとなりを歩くリリが申し訳なさそうに肩を縮める。

 

「すみません......私の手伝いなんかさせて......」

「気にすんな......とは言えないけど、謝らなくてもいいよ。たまには命の危険がない場所でゆっくりするのも悪くないしな」

「そうそう。それにおかげでリリちゃんともゆっくり話せるしねーすりすり」

「あ、ありがとうございます......でも、ミウさん、擦りつかれるのはちょっと......あはは」

 

 実際、久しぶりに得たゆっくりとするこの時間はかなり貴重なものだ。最近は息が詰まるようなことばかりを連続して行っていたから、悪くない。ドロップ率云々がなければなおのこと良しだが......まぁ、それ以上を望むのはわがままだろう。

 ミウがリリにかわいいかわいいと抱きついているのを見て苦笑いしながら、俺は少し離れた場所を、まるで観察するかのように冷たい目で歩いているヨウトの隣に寄る。

 

「おいおい。怖い目になってるぞ?」

「......まぁ、さすがにすぐには気は抜けねぇよ。口では何とでも言えるしな」

「まだリリのことは信じられないか?」

「信用ってのは築くのは難しいけど壊すのは簡単なものなんだよ.....ってのが答えになるな」

「......そっか」

 

 ヨウトは間違ったことは言わない。常に客観的な目線をいつでも持つことができて、全体から正しい判断を出す。

 だからヨウトがリリのことを信じられないでも仕方がない。この状態では俺が何を言ったところで焼け石に水だろう。そもそも信用なんてものは第三者が与えられるものでもない。

 本当ならヨウトは今すぐにでもリリのことを遠ざけたいのかもしれない。それでもヨウトは今回の被害者は俺、という考えから俺がリリを許すのであれば厳重注意で黙認する、というスタンスを取っている。

 人間関係というものはいつでも難しい......それでも、俺はこの問題を諦めたくはなかった。

 

「じゃあ、リリの今後の動き次第じゃ、信じられる可能性もあるってことか?」

「難しいだろうけど、可能性の話ならな」

「ん、それだけあれば俺は十分だよ......ありがとな、色々」

「おう、どういたしましてー」

 

 最後にいつもの気さくな笑みを見せひらひらと手を振ってくる。つまりはヨウトのことは気にせず二人と話してこい、ということだろう。

 俺とヨウトはこれでもかなり長く、深い付き合いだ。一つの所作だけでも色々と感じ取れるものがある。だからこそヨウトは俺のことで多くのことに気がつき、気にかけてくれる。

 だが、それはヨウトから俺への一方通行なものではなく、互いが互いのことを分かる相互的なものだ。

 

「なぁ、ヨウト」

「ん?」

 

 ヨウトが俺のあれこれを気にかけてくれる。それと同じくらい、俺もーー

 

「俺は、お前ともちゃんと話し合いたい、そう思ってるよ」

「......そうか、じゃ、また今度時間ができたときにな」

 

 ーーそんな俺の気持ちが、きっと分かった上で、ヨウトはぐらかす。いや悟っているとでも言うべきか、まるで俺のことは何でも分かっているとでも言いたげに。

 そんなヨウトの笑みに俺は、いつも通り適当に笑みを返すことしかできず、自分の変わらない無力さに小さく拳を握ることしかできなかったーー

 

 

 

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