力無き少年のソードアート・オンライン   作:Aruki

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最近お気に入り登録や評価をしてもらえることが増えてきました。ありがとうございます、大変執筆の励みになります。
できる限り走り続けますので、どうぞよろしくお願いします。

そして今回はヒロイン3人のちびキャラです! 可愛いし特徴が出てますよね!


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それとすみません。17時20分頃に誤まって書きかけの今話を投稿してしまいました。21時に投稿されたこの回が完全版になります。


63話目 だから無力な少年はその日常を守りたいと願う。

 イベントクエストダンジョンとは読んで字の如く、そのイベント中にしか入ることができないダンジョンである。

 今回の《ローグ遺跡》もその一つで、この遺跡は《ガイアクエスト》の進行度が一定以上に進まないと入ることができない。確か攻略中は遺跡があった場所は遺跡本体はあっても、どこにも入り口がなかったはずだ。

 おそらく《ガイアクエスト》の進行度は俺たちのパーティが最も進んでいる。つまりこの《ローグ遺跡》はまだ誰にも攻略されていない完全未踏破ダンジョンなわけだ。

 

 何が起こるか分からないし、何が出るかも分からない。

 ヨウトが言っていたようにいざという時に緊張して動けないなんてことにならないよう、なおかつ弛緩しすぎて油断に繋がらないよう引き締めて、そのバランスを意識しながらダンジョンを突き進んでいく。突き進んで行って──

 

「──まさか、こんなにも早くボス部屋まで到着するとは」

 

 一つの問題なく、《宝珠》が置いてあるであろう部屋の前まで辿り着いた。

 ここに辿り着くまでにもアストラル系のmobやゴーレム系mobとの戦闘があったり宝箱トラップに引っかかりそうになったりもあった。

 しかしmobはミレーシャさんの協力もあってほぼ敵にならず、トラップに関してはリリが《解錠》スキルを取ってくれていたおかげで事なきを得た。

 

「早く着くことはいいことだろコウキ。消耗もしてないから万全な状態でチャレンジできるしな」

「そうそう、早く《宝珠》をゲットしてミレーシャに渡してあげたいしね」

「とは言ってもチャレンジ1回目でクリアできるか分からないですしね。ちゃんと撤退戦になることも考慮に入れておかないと」

 

 リリの言う通りだ。

 前回の月と太陽を司る《宝珠》と条件が一緒であるならばボスにチャレンンジしても撤退はできるはずだ。ナフさんからも一発でクリアしなければならないというような文言ももらってはいない。

 この層まで攻略してみて分かったが、以前2層でミウとヨウトと戦った《リザードマン・エンド》の時のような撤退不可という戦闘は限りなく数が少ない。

 

 ポーションも転移結晶も持ってきたから何度か挑戦する準備もできているのを確認し、俺はボス部屋の扉に手をかける。

 

「皆、事前情報はほとんどないしぶっつけ本番になると思う。まずは俺とミウがタンクをするからヨウト、リリ、ミレーシャさんがアタッカーをするという形を基本陣形にしていこう」

 

 あぁ、はい! うん! 分かりました。それぞれの返事を聞き最後に自分の覚悟を固めた俺はボス部屋の重い扉を押し開けた。

 人が通れるだけ扉が開けば、俺とミウが先行して中に入り、続いて3人も入ってくる。

 部屋の中には最奥にだけ灯りが灯っていた。緑色の炎と赤色の炎が灯籠のようなものに灯っている。二つの灯籠の中央には炎に照らされて輝いて見えるものがある。あれは……

 

「鎧、でしょうか?」

 

《暗視》スキルを持つリリが最初にその姿を捉え呟く。

 ジリジリと、パーティ全員で部屋をさらに奥へ奥へと進んでいき俺にもようやくその物体の概要が見えてきた。

 昨日見たカイムの鎧と前に見たソルグの鎧、二つの要素を混ぜ合わせたような、これもまた堅牢で荘厳な鎧──というより、あれは甲冑か──が部屋の最奥で片膝を着く形で静かに眠っていた。

 

 守護獣がいるというナフさんの言葉が正しいのであれば、おそらくあれが──とさらに甲冑を注視した瞬間、ボッ!! という大きな音とともに一気に部屋が明るくなった。どうやら天井にいくつものトーチのようなものがあり、それらに一気に火が灯ったようだ。

 そしてそれと同時、甲冑の兜の目の部分に淡く光が灯る。かと思えばギギギッと耳障りな金属音を上げて甲冑が1人でに立ち上がった。高さは2.5メートルはあるだろうか。立ち上がった姿を見るとその鎧のデザインもあってかなりの威圧感がある。さらに甲冑の右上に現れる4本のHPバー。

 間違いない、あいつが、ここの主だ。

 その名を《ザ・エターナルガード・ウォリアー》。その名が意味するところは。

 

「悠久の守り手、ってところか」

「さすがヨウト、博識ー」

「それほどでもないよミウちゃん。それでどうする、コウキ」

「……基本陣形はそのままに、まず俺とミウが先行するから、後から着いてきてくれ」

「あいよ」

 

 会話はそこまで。俺が言い切ると俺とミウは甲冑に向かってダッシュする。それに合わせてただ佇んでいた甲冑も走り出す。

 ──速い。純粋な移動速度ならヨウトにも匹敵するほどに。

 互いの距離を潰し合うように駆けていき、ボス部屋の中央あたりでその距離が0になる。

 ミウの片手剣と、甲冑の片手剣が、交錯した。

 

 

 

 

 

 ──強いな。というのが戦い始めて最初に思った感情だった。

 フロアボスほどでは流石にないが、1パーティで攻略させるには難易度がかなり高い設定になっているように思える。

 攻撃力、防御力、スピードもさることながらプレイヤー並みの技術を感じる片手剣。しかもそれが2.5メートルの巨躯から繰り出されるのだから恐怖すら感じてしまう。

 それでも現状4本あったHPバーのうち1本と半分を順調に削れているのはミレーシャさんという強力な戦力のおかげだろう。

 

「コウキ、そっちに行くよ!」

「了解!」

 

 ミウが甲冑の剣の振り下ろしを弾くと、甲冑はその勢いのままに剣閃の向きを変えて俺に切り掛かってくる。

 このタイミングではかわせない、受けるしかないかと俺が剣を盾代わりに構えた瞬間、甲冑は片手剣を両手で握りしめさらに剣閃の勢いを増してきた。

 そう、こういうところだ。一瞬一瞬の状況判断能力がmobだと思えないほどに早くて正確だ。

 

「こん、にゃろ!!」

 

 受け切ってしまえば純粋なステータス差で有利不利が決まってしまう鍔競り合いの始まりだ。まだ試してはいないが押し負ける可能性が高い。

 そう判断した俺はギリギリのところで受け止める体勢から受け流すように剣の角度を変えて振り抜く。甲冑の巨大な片手剣が俺の肩スレスレのところを猛烈な勢いで通過していく。

 やられっぱなしで終われるか。

 床に剣を叩きつけて一瞬動きが止まった甲冑に対して二連撃片手剣ソードスキル《バーチカル・アーク》を叩き込んでから後ろに下がる。

 

「行きます!」

 

 そしてそれと入れ替わるようにしてミレーシャさんが前に出る。

 瞬間。

 ズドン!! と大砲が打ち込まれたのかと勘違いするほどの轟音が鳴り響く。

 音の発生源は《リニアー》を甲冑に叩き込んだミレーシャさんのレイピアだ。あんな細い剣で何をどうすればあんな音が出るほどの剣撃を打てるのか未だに謎だが、今は有難いウチのパーティの最大攻撃力を持つアタッカーだ。

 

 ソードスキルを2回連続で受けた甲冑は苦しそうにギチギチとその体から金属が擦れ合うような音を出す。効いているのが見た目からもHPバーからも分かる。

 反撃とばかりに甲冑は剣を大きく振り絞る。同時にその剣に纏われるライトエフェクト、その色、モーションから察するに。

 

「ミウ、《ホリゾンタル・デュアル》来るぞ!》

「オッケー!」

 

 掛け声と共に俺とミウは2人ともスキルモーションに入る。

 そして、甲冑のスキルが発動される。

《ホリゾンタル・デュアル》はミウの得意技でもある二連撃技だ。水平方向に広い範囲に剣閃を放つ。俺とミウが左右に別れてタンクをしているのでそのスキルが選ばれたのだろう。普段のミウなら《武器取落》を狙うかもしれないが、今は俺と2人でタンクをしている。ならば俺とミウ互いがソードスキルを発動させて一撃ずつ相殺した方が安全性は高い。

 

 迫ってくる《ホリゾンタル・デュアル》に対して発動させるのは単発片手剣ソードスキル《バーチカル》だ。水平方向の攻撃に対して《バーチカル》は垂直の振り下ろしだ対抗するには打ってつけのスキルだろう。

 金属の衝突音が2回連続して鳴り響く。俺とミウ、互いに相殺に成功したようだ。

 

「ヨウト、スイッチ!!」

 

 甲冑のソードスキルの威力に押される形で俺とミウが後退する。代わりに飛び出してくるのはヨウト、リリ、ミレーシャさんの3人。そしてそれぞれが得意のソードスキルを甲冑に浴びせていく。

 甲冑のスキルディレイの間にヨウトたちが2回ほどソードスキルを叩き込んでいく。その間に俺とミウはポーションを飲んでHPを回復しておく。

 タンクという役割上、どうしてもダメージを受けるのは俺とミウが中心になってしまう。これがレイドであればタンク役も二組に分けてローテーションでタンク役と回復待ちに別れるのだが、俺たちはこうやって騙し騙し回復するしかない。

 だがまぁ、今のところこの方法でも回復は追いついてるしなんとかなるだろう。

 などと考えたのがいけなかったのだろうか? 

 

 

「よっし、2本目削った!!」

 

 ヨウトの嬉しそうな声が響く。確かに甲冑のHPバーは3本目に入っていた。

 しかし、そこで甲冑は大きく飛び上がる。これは……

 

「今までにない行動だ。皆、防御体勢!」

 

 何が起こっても良いように全員が甲冑の動きに集中する。

 バーサークモードに入るにはまだ早い。ということは折り返し地点であるこの場面で新たな攻撃パターンが増えるのか? 

 そのまま甲冑の動きを注視していると甲冑は天井に張り付いていた板のようなものを引っぺがし、それを剣とは反対の手に持って再びボス部屋の最奥へと飛び降りた。どうやらあれは円盤形の金属盾のようだ。

 

 変化は盾が増えただけか? それなら今ままでとそこまで行動パターンに変化はなさそうだが──何をしているんだ、あれは? 

 甲冑は盾を前にしながら剣も前に突き出すような体勢を取る。《ヴォーパル・ストライク》かとも一瞬思ったが違う。そうであるなら腕を引き絞ってもっと腰を落とさないといけないし、何より射程が届いていない。

 ならあの姿勢は──と思ったところで甲冑の剣先が淡く光を灯す。

 瞬間、背中を走る悪寒。

 

「皆避けろぉ!!」

 

 俺が言った瞬間にはもう皆回避行動に移っていた。俺が感じたくらいだ、他の皆も同様の嫌な気配を感じたのだろう。

 俺も横方向に体を投げ出す──するとさっきまで俺がいた場所を光の線が走っていた。

 出どころは当然、甲冑の剣先だ。剣先から何本もの光の線が溢れ出している。

 光の線、つまるところ、ビームだ。

 

 この世界に魔法や遠距離武器といったものは存在しない。精々が投げナイフや鎖を振り回すなどの中距離攻撃。それがソードアート・オンラインというゲームのルールの一つだ。

 しかし、それはプレイヤー側のルールであってmobには反映されない。

 mobにはブレスや今のようなビームを撃つものが少数だが存在する。それは遠距離攻撃を持たない俺たちにとって最も恐れている攻撃の一つと言える。

 

 あんな遠距離攻撃を隠し持っていたなんて──まずい! 

 他のみんなは大丈夫かと確認するとリリが避け損ったのか地面に倒れたまま立ち上がってこない。しかもリリの体に麻痺エフェクトが発生している。あのビームには麻痺効果まであるらしい。

 すぐにヘルプに行かないと、と思うよりも早く甲冑がその重厚な見た目からはとても思えない速度で走り迫ってくる。

 目標は当然、動けないでいるリリだ。

 くそ、ポーションを飲んでいたせいで俺からは距離が遠い! 

 

 歯噛みしていると同じくアタッカーとして動いていて最も近くにいたミレーシャさんがリリの前に立ち塞がる。

 ギィィィィンッッッ!! とボス部屋を揺らすほどの金属音が鳴り響いた。

 甲冑の想い一撃を、ミレーシャさんのレイピアが受け止めた音だ。

 ミレーシャさんのレイピアが悲鳴を上げるかのように鍔迫り合いの音が鳴る。いくらミレーシャさんが高いステータスを持っているからといっても、いくらなんでもボスの一撃を真正面から受け止めるのは厳しいはずだ。一刻の猶予もない! 

 

 ミウ、ヨウトとアイコンタクトを取る。

 次に近くにいたヨウトはリリの元へ駆けつけて後退させ、俺とミウは甲冑の背後を取りスキルモーションに入る。

 が、それにも甲冑は超反応を見せる。

 力任せにミレーシャさんの剣を弾き返すと、すぐさま俺たちの方を振り返り左手に持つ円盾を前に構えた。

 まずい、攻撃のラインを読まれてる!? 

 俺とミウが狙っていた背中に合わせるようにして円盾を構えられてしまった。このままスキルを打ってもその盾に阻まれるだけだ。

 しかしもうスキルモーションに入ってしまっている、攻撃は止められない。

 俺たちは2人とも《スラント》を放ち、あっさりと甲冑の盾に阻まれ、体勢を崩される。

 お返しだとばかりに甲冑の剣が淡く光る。

 

「また《ホリゾンタル・デュアルが来るぞ!!」

 

 声を掛けるがあまりの切り替えの速さに対応しきれない。

 解き放たれた甲冑の二連撃に渡る広範囲技は近くにいた俺、ミウ、ミレーシャさんにヒットする。なんとか全員武器による防御は間に合ったが衝撃を殺しきれはしない。視界の左上に映る3人分のHPがガクッと減る。

 しかし、攻撃はまだ終わらない。

 

「っ、マジかよ……!」

 

 後方へ退避していたヨウトとリリに向かって再び先ほどのビームが撃たれた。

 ヨウトはリリごと体を地面に投げ出すことでビームの下を掻い潜りなんとか回避する。

 

「ヨウトさん、すみません……」

「別に、お前のためじゃねぇよ。パーティ全体のためだ」

 

 そこまでいってようやく甲冑の攻撃は止まり、甲冑は一歩下がり俺とミウから間合いを取る。

 数瞬、この場が静止する。

 その間に何とか突破口を探して俺は思考する。

 ビームは離れている人が1人でもいれば問答無用で打ってくる。でも無闇に近づけばさっきみたいいな超反応で盾を前に出されて受け止められて、少しでもこちらが隙を見せれば全体攻撃系のスキルで一斉に刈られる。

 撤退するべきか、いやだめだ。あの遠距離攻撃相手に撤退戦は不利すぎる。

 ここで倒すしかない。けどどうやって? 決まっている。今まで通りの攻め方で、だ。

 どちらにせよ、俺たちに遠間からの攻撃方法はない。ならばひたすら接近戦に持ち込んでビームの選択肢を甲冑から奪い、とにかくソードスキル対策をしていくしかない。

 

「コウキ、行くよ!」

「あぁ!」

 

 ミウも同じ考えに至ったのか再び甲冑の懐まで接近する。

《ホリゾンタル・デュアル》にだけ焦点を絞ればあのスキルは予備動作が大きい。だから先ほどのように先読みさえできれば弾くことはそう難しくない。

 俺の狙い通り甲冑は再び《ホリゾンタル・デュアル》を使用する。それを俺とミウが弾き、スイッチして残りの3人が攻撃に出る。ここまでは先ほどの焼き直し。

 違うのはここからだ。

 

 甲冑は盾を前に突き出しヨウトたちのスキルを受け止める。

 盾ごしでもいくらかダメージは入るがその体に叩き込むのに比べたら雀の涙ほどのダメージだ。いつかはそれでも勝てるかも知れないが先にこちらの集中力が切れる方が早いだろう。

 

 ……もう少し、せめてあと1人パーティメンバーがいれば博打せずに済むんだけどな。

 仕方がない。

 ヨウトたちがスキルを叩き込んでいる間の僅かな時間を使ってミウに話しかける。

 

「ミウ──」

「絶対嫌」

「まだ何も言ってないんだけど……」

「だってコウキのその顔、また無茶しようとしてる顔だもん。私言ったよね? コウキ1人に無茶はさせないって」

「うん、そうだな」

「だったら──」

「うん、だから──緒に、無茶に付き合ってくれないか?」

 

 俺は、今でもミウの命が危険に晒されるなんてまっぴらごめんだ。そんな可能性があるだけで本当は気が狂いそうにもなる。

 それでも昔の話をして、鍛えて、リリとの和解を経て、俺にも分かったことがある。

 大切な人を守りたいのであれば、自分の命だけでは、足りないんだ。

 人1人を助けるのに、人1人の力ではどうしようもない。少なくとも、俺にはおそらく不可能だろう。

 だからこそ、人に背中を預け、心を預け、命を預ける。そうしてやっと、俺は人並み程度に戦える。

 それがようやく、本当の意味で分かった。守るのではなく守り合う。救うのではなく救い合う。

 1層の頃に、ミウに言われたはずなのに、もっと頼れと。

 ミウを、ヨウトを、リリを、ミレーシャさんを、絶対に守る。

 だから。

 

「ミウの力に頼らせてほしい」

「……そんなの、喜んでやるに決まってるじゃんっ」

 

 ミウと一緒に、ミウを守る。

 それが、俺の新しい答えの一つだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ソードスキルは、この世界のメイン攻撃だ。

 とは言っても身も蓋もない言い方をしてしまえば剣を振っているだけだ。

 なので当然、その対処法は大きく分けて、弾く、受け止める、かわすの3つとなる。

 受け止めるのが1番簡単だが大抵の場合それでは受け手がダメージを受けてしまう。

 弾くのはソードスキルで相殺したり、より強力なスキルを使って打ち勝つことだ。難しく聞こえるかもしれないがタイミングさえ合えばそこまで難しいことではない(《武器取落》のような例外は除いて)。

 そして1番難しいのがかわすだ。弾くのは待ち構えていればいいが、かわすのは相手のスキルの種類を一瞬で判断してその軌道を予測し避けなければならない。

 ただの攻略中ならバックステップで後ろに逃げるという手が使えるが、今回のような戦いではそれをしていたらどんどん戦線が後退してしまって自分達が苦しくなってしまう。だからかわすのであれば後退ではなく、完全に見切ってかわさなければならない。

 

 

「ミウ、次来るぞ!」

「うん!」

 

 

 甲冑の攻撃は強力。受け止めるのは理に敵わない。

 弾いていたんじゃ今までの光景の焼き直しだ。それならば──

 甲冑のスキル攻撃に対して俺たちが取るべき行動は。

 

「──かわせぇ!!」

 

 迫ってくる《ホリゾンタル・デュアル》を地面スレスレまでかがむことでかわす。

 あぶなっ!? 頭ちょっと掠った気がする。髪の毛数本持っていかれてないよね!? 

 だが、今の攻撃をその程度の犠牲で済んだのなら上等だ。今まで通りのアルゴリズムなら甲冑は隙の無いようにすぐさま円盾による防御行動に入る。そこを、

 

「はぁぁあっ!!」

 

 ミウと共に声を上げながら上方単発ソードスキル《ソニックリープ》を発動する。

 この技は空中にいるmobや背の高いmobに対しての空中への攻撃としてよく用いられる。だがその本質は、下段からの切り込みだ。

 それを甲冑が構える盾に向かって突き上げるように放つ。結果。

 ガァァン!! と息の合わさった一撃は、見事甲冑の盾を跳ね上げさせることに成功する。

 さらに体制も崩している、チャンスだ。

 

「スイッチ!!」

 

 ヨウトたちもそんなチャンスを見逃すほど柔なプレイヤーではない。ヨウト、リリ、ミレーシャさんによる3連続のソードスキルが無防備な甲冑に叩き込まれる。

 ヨウトたちの剣閃が当たるたびに甲冑から凄まじい金属音が鳴り響く。

 

 しかし一斉攻撃もそこまでだ。体勢を立て直した甲冑はヨウトたちを引き剥がすように剣を振り回す。無茶苦茶な剣筋ではあるが甲冑ほどのステータスでされてしまえば、どれもが強力な攻撃だ。ヨウトたちは一度後退を余儀なくされる。

 

 でも、いける。今のような攻撃を繰り返しできれば倒すことだって可能だ。

 あとは、俺とミウの集中力がどこまで続くか。

 

 そして、同じ攻防を繰り返す。ビームが来ないよう離れすぎないよう密着しながら、かつ、ヨウトたちにヘイトが向かないよう俺とミウも攻撃を入れて。たまに避け損ねて掠ることもあったが致命傷だけは避けられていた。

 順調だ。そのまま甲冑の3本目のHPバーも削り切り、最後の4本目に突入した瞬間。

 甲冑が、今までとは別のスキルモーションに入る。

 

「しまっ──」

 

 タイミングが悪かった。

 ギリギリ3本目が残るか残らないか分からない攻撃の量で、運が悪いことに3本目を削り切ってしまった。結果、今までの行動アルゴリズムとは別の物がさらに増える。

 俺とミウが、《ホリゾンタル・デュアル》をかわそうと体を動かし始めた、その瞬間に。

 甲冑の構え、あれは──。

 俺がスキルを理解するよりも早く、甲冑のスキルが発動された。

 縦方向への二連撃ソードスキル《バーチカル・アーク》だ。

 動き出し始めてしまっていた俺たちは姿勢を戻しきれない。《バーチカル・アーク》は冷酷にも、問答無用でミウに叩き込まれた。

 

「きゃ、あ、くっ……!!」

「ミウ!!」

 

 Vの字状にダメージエフェクトを刻まれたミウの体が吹き飛ばされる。2回、3回とバウンドし、ようやく止まる。視界内のミウのHPバーは……よかった、まだ3割ほど残っている。

 とはいえ危険ゾーンだ、これ以上ミウに被害を出すわけには──なんて考える暇は俺にはなかったはずなのに。

 甲冑は剣先に光を灯した。

 

「な、まずい、ミウ避けろ!!」

 

 ミウは吹き飛ばされた(・・・・・・・)のだ。遠方まで。そうなってしまえば当然、危険視していたはずのビームが出てくる。

 走るが、遠い。ミウとの距離が何万キロにも感じるほどに、絶対的に届かない距離だ。

 ビームが発射される。黄色い線が空間を貫く。

 間に合わない。そう思った俺の考えを裏切ってくれたのはまたしてもミレーシャさんだった。

 

「づ……ミウ、大丈夫ですか?」

「ミレーシャ、なんで……!」

「友達がピンチなのですから、駆けつけるのは当然でしょう?」

 

 ミウの前に立ちはだかり盾として代わりにビームを受けたミレーシャさんが倒れ、その体に麻痺エフェクトが発生する。

 俺たちのミスをフォローしてくれたミレーシャさんに感謝したい、が、状況がそんな悠長なことを許さない。

 戦線が瓦解する。俺1人では甲冑のヘイトを稼ぎきれない。何よりミウたちはまだ遠方にいる。またビームを撃ち込まれればそれこそ終わりだ。

 ヨウトと一緒にタンクをする? 嫌だめだ。ヨウトのステータスではタンクをするには攻撃力と防御力が圧倒的に足りない。  

 

 他に、何か手は──

 

「──待てよ?」

 

 思い出せ『あの時』、あいつはどうしていた? ほとんど棒立ち状態だったんじゃないか? それにそうだ、盾をあんな風に扱うのは自分に被害が出ないようにしているからだ。それなら。

 ごくり、と唾を飲み込む。

 おそらく、一度のミスで今度こそ戦線は崩壊する。そしてこの中から少なからず死人が出る。

 しかしこのまま動きを見せなくてもミウたちはなぶり殺しにされる。

 決断しろ。今こそ守る時じゃないのか? 

 

「そうだよな、何を今更なこと考えてるんだ俺は」

 

 覚悟は一瞬で固まった。

 

「ヨウト、リリ、引き続きアタッカーを頼む!」

「でも、タンクはどうするんだ!?」

「考えがある。隙ができたらすかさず攻撃頼んだ!」

 

 ミウに向かって走っていた方向を変えて部屋の出入り口側に向かって駆ける。

 走って走って走って──甲冑までの距離が遠距離と呼べる範囲まで出た瞬間。

 視界の隅でキラッと黄色く光が瞬いた。

 それを視認してすぐに右に跳ぶ。するとやはりというべきかビームが俺を射抜かんとばかりに背後から襲ってきた。

 

 予想通り! 

 

 おそらく奴のアルゴリズムの優先度はビームを撃てる状況ができれば迷わず撃つという行動と、ビームが命中し麻痺した相手がいればそいつに斬りかかるという行動が上位にあるのだろう。

 だからこそ、俺が遠距離の範囲まで出れば奴の行動は俺にビームを撃つか、麻痺しているミレーシャさんに斬りかかるの2択になる。

 ミレーシャさんに斬りかかられるのは良い、近くにいるミウが反応してくれるだろうから。

 俺にビームを撃たれるのもいい。弾速もかなり早く予備動作も少ないが避けられないほどではないから。

 1番嫌なのはミウとミレーシャさんにビームを撃たれる展開なのだ。そうなってしまうとあのビームは防御するのは難しいし、ミレーシャさんは今はかわせない。

 

 俺が囮になり他のみんなが体勢を立て直し、攻撃する時間を稼ぐ、これが最善策。

 さらに、それだけじゃない。

 

 再び光が瞬く。そして同時に回避行動に移る俺。

 そう、この瞬間だけは、甲冑の目標は俺だけになり、さらに剣も盾も固定されている無防備な状態を晒す! 

 

「いけぇ!! ヨウトォ!!」

「おうよ!!」

 

 棒立ちになっている甲冑目がけてヨウトとリリがソードスキルを叩き込む。

 その状態が甲冑のウィークポイントに設定されているのか、あまりパワーのない2人の攻撃でもぐんぐんと甲冑のHPが減っていく。

 その間も俺目がけて何発も光の矢が放たれるがなんとかギリギリのところでがむしゃらにかわし続ける。

 

 そして甲冑のHPバーが残り1割になったところで甲冑は違う行動を見せる。

 甲冑がその片足でドン!! と床を踏みつけると緑色の衝撃波のようなものがそこから円形状に拡散して床を這うように広がっていく。至近距離にいたヨウトとリリはかわし損ね、ミウと回復したミレーシャさんはジャンプして回避してみせ、俺のいる場所までは衝撃波は届かなかった。

 

「な、これは!?」

拘束(バインド)状態……!?」

 

 

 ヒットしてしまったヨウトとリリの体には蔓のようなものが巻きつき、2人の体を拘束している。

 拘束状態。麻痺と似ているデバフだが、拘束状態はその持続時間が麻痺よりも長い代わりに一回でも攻撃を受けると解けるという効果を持っている。

 麻痺と比べたらどちらがキツいのかと言われると状況次第で変わってくるが、今のようなボス戦で拘束を喰らってしまうのはかなり辛い。

 

 何せ、その一回の攻撃が途轍もなく重いのだ。さらに持続時間も長いためパーティやレイド戦で複数人が拘束にかかってしまえば機能不全すら起こしてしまう。

 

 さらに最悪なことに甲冑は近くにいる拘束状態のヨウトとリリには目もくれず俺へ向かって猛然と走り出した。

 ここに来て連続したアルゴリズムとは違う行動。間違いない、バーサークモードに入ったのだ。

 打ち合う覚悟を決め剣を構えようとし──あぶな!? 

 

「こいつ、走りながらビーム打ってくるのかよ……!!」

 

 腰を落とすようにして顔直撃だったビームをかわした俺はさらに横に跳ぶ。こいつ、間髪入れずに撃ってきやがる。

 まずい、距離が近くなっていくことでビームの発射と着弾にほとんど差がなくなってきている。しかももう遠距離でもないのに撃ってくるし、かわし続けるのも限界が近い。

 

「う、おぉぉぉぉおおお!!」

 

 こうなれば、強引にでも攻め込むしかない。俺は逃げようとしていた足を踏みとどまらせ、逆に甲冑に向かって走り出した。

 光った瞬間に屈み、かわしながらも前に突き進む。残り数メートル、この距離なら突進系のスキルを使えば射程圏内だ。

 そうして発動させるのは《ブレイヴチャージ》。甲冑の胸元目がけて高速で突き進む。

 

 ビームも掻い潜った、届く! 

 

 ガキキィィンッッ!! 俺の確信とは裏腹に俺の剣が甲冑の胴体を捉えることはなかった。

 甲冑もソードスキル、《ホリゾンタル》を使用したからだ。

 スキル同士が、剣同士が自分の方が上だと言わんばかりに鍔競り合う。

《ホリゾンタル》はどちらかと言えば範囲攻撃系のスキルだ。それと俺の《ブレイヴチャージ》が同等の威力というのも甲冑のステータスの高さが怖くなるが、そんなことを言っている場合ではない。

 ぶつかり合っていた剣は互いに弾け合う。相打ちだ。互いに体がのけ反るが、未だその距離は至近。剣を振れば簡単に届く距離に互いがいる。

 

 数瞬の互いのスキルディレイ。それから解放された後、再び互いの剣がライトエフェクトを纏う。

 種類は互いに4連撃片手剣ソードスキル。しかしスキル自体は違う。

 甲冑は水平4連撃技の《ホリゾンタル・スクエア》。

 俺は垂直4連撃技の《バーチカル・スクエア》だ。

 

 縦と横、計8本の剣閃がボス部屋を支配する。

 1撃、2撃と互いに相殺していくなか、ふと、シバとの戦闘を思い出した。

 あの時は3撃目までは完全に対応できていたのに、4撃目で俺の集中力が切れて攻撃を外してしまった。

 3撃目の衝突。

 でも、今は。

 4撃目。

 あの時とは、何もかも違うんだよぉ!! 

 

 4度目の衝撃音が鳴り響き、互いのソードスキルは終了した。

 競り切った。打ち負けなかった。最後まで逃げなかった。それだけでも、あの時とは違う、成長できていると実感できた。

 そして、この終わりにも。

 

「今回は、ちゃんとミウを守り切ってやったぜ」

「──、────、────」

 

 甲冑の背後より忍び近づいたミウが、甲冑のお株を奪うように最後の《ホリゾンタル・スクエア》を叩き込み、甲冑は断末魔のようなものをあげながら、無数のポリゴンへと爆散した。

 

 




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