力無き少年のソードアート・オンライン   作:Aruki

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64話目 それでも現実は無慈悲にも日常を薙ぎ払う。

 

「はぁ、ミウ、助かったよ」

「もうコウキは! 舌の根も乾かないうちにすぐに無茶して!」

「そうだぞー。なんで自分を囮にしたがるんだお前は」

「あはは……ごめんなさい」

 

 甲冑を倒しきり全員ポーションや結晶を使って体力を万全にする。

 今は体力というよりは気力を回復するために皆が輪になって話し合いをしている。俺なんか気が抜けて座り込んでしまったほどだ。

 

「コウキさん、すみませんでした。途中と最後、足を引っ張ってしまって」

「いやいやどっちも初見の攻撃だったんだから仕方がないって。俺もかわせたのはただ運が良かっただけだと思うし。

 

 謙遜なくそう思う。最後の方甲冑との戦いは初見殺しの行動があまりに多かった。何か一つ選択が違えば俺や、ミウや、他の人が倒れていてもおかしくなかった。

 さらにリリは攻撃を受けた後も冷静に行動してた。俺としてはそちらの方がすこいことだと思う。

 

「だからさ、あんま落ち込む必要もないと思うぞ?」

「そうそう。むしろ反省すべきはコウキの方だもんねー? ねー?」

「ごめんなさいごめんなさい、語尾を伸ばさないでくださいなんか生命の危機を感じました」

 

 マジで。可愛い反応のはずなのに怒気と襲ってくる寒気が半端じゃない。さっきよりも死を身近に感じる。

 そんな頭が上がらない俺を見てミレーシャさんがくすくすと笑う。しまった、今日は身内だけじゃなかったのに、恥ずかしいところを見せてしまった。え、いつものこと? うるさい聞こえない。

 

 そんなことをしているとミレーシャさんが何かに気づいたのか声を上げる。

 

「皆さん、部屋の奥に台座のようなものが」

「え、あれ、ほんとだ。さっきまでなかったよね?」

 

 ミレーシャさんの指差す方向を見れば確かに、最初に甲冑が膝付いていた辺りに台座が床から生えていた。その上に何か球状のものも見える。

 それを見て、ようやくクエストのクリアを感じる。

 何がそれほど難しいクエストではないだろう、だ。パーティの危険が何度もあるほどの難易度だ。戦闘前に自分ではあれほど気を張っていたつもりだったのに、俺自身にもどこか油断があった。

 

 はぁ、と自省しながら立ち上がる。まだまだ未熟な我が身ではあるが勝利の余韻に浸るくらいは良いだろう。今は早く帰ってまた温泉に入りたい。

 

「よし、《宝珠》回収して皆で帰ろう」

「おー! じゃあ私取ってくるね」

「あぁ、お願いするよ」

 

 よーし! とすぐさま走っていってしまったミウ。

 

「ミウちゃん元気だなぁ。さっきまであんな戦闘してたのに」

「ミウはいつもあんな感じだよ。ミウがヘトヘトなら多分俺は過労死してるよ」

「コウキさんそれちょっと笑えませんよ……」

 

 うん、俺も言っていて本当にそうなりそうでちょっと怖くなった。

 皆で苦笑いしながらミウの後に続く。

 走っていった癖に皆が来るまで《宝珠》を回収しないあたりがミウらしさを感じる。

 最後の《宝珠》はあの甲冑を模しているかのように赤と緑色が入り混じっているような見た目をしているものだった。

 ねじれ、絡まり合いながらも決して合成色になることはない。まるで水と油みたいな関係性を表していて、その形はまるで──《ガイア》と《ナーザ》の在り方のようで。

 なんて穿って考えすぎだな。

 

 そうして皆が揃った時にミウが行くよー! と台座から《宝珠》を持ち上げた──瞬間。

 

 

 

 ゾクリッッッ!!!! 体が、震え上がった。

 

 

 

 背中に氷を入れられたとかそんなレベルではない。震え上がり切ってしまって心臓が鼓動を忘れてしまったのではないかと思うほどの、悪寒。

 これは、なんだ? プレッシャー? 

 先ほどまでの《ザ・エターナルガード・ウォリアー》なんかとは比にならないほどのものだ

 一体どこから。俺は辺りを見回すがどこにも変化はない。ならこの悪寒の出所は──

 

「──コウキさん、上です!!」

「っ!?」

 

 俺と同じく悪寒を感じ取っていたのだろう。見回していたリリの視線が一点を見つめる。

 それは身長が低くてミウが持っている《宝珠》を見上げる形でリリだからこそ気づけた位置。

 

 

 

 天井、そこに大きな魔法陣のようなものが浮かび上がり、そこから巨大な獣の顔が生えてきていた。

 

「ガァァァァァアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!!」

 

 咆哮と共に魔法陣から獣の全身が出てくる、つまり、その巨体が、天井から降ってくる。

 

「ミウ避けろぉ!!」

 

 俺の声よりも早く異常を感じ取ったミウは地面に体を投げ出して回避行動に移っていた。

 俺たちも逃げるように回避すると同時、ズゥゥゥゥン……ッッッ!! と地響きが伝播し砂埃が舞い上がる。

 全員無事かとHPバーを確認するが誰一人としてHPが減っている人はいなかったことにとりあえず安堵する。

 が、すぐに切り替え今降ってきたものの姿を見上げる。

 

 デカい。さっきの甲冑なんて目じゃない。高さだけでも4メートルはある狼のようなフォルムをしていた。全身長なら6〜7メートルはあるんじゃないだろうか。

 先ほど飛び出ていた顔は狼らしく鋭い牙と猛獣の特有の三白眼。それらは見ているだけでも痛みを感じそうな恐怖が襲ってくるが同時に雄々しさも感じさせる立派なものだ。

 体毛は先端は鋭くも柔らかそうな蒼銀の毛並み。足の先には牙と同じく真っ白でその毛並みとの色合いでより巨大に感じる爪。胸元には宝石が埋め込まれており、それは偶然なのかミウが持っている《宝珠》と同じ色合いと形をしていた。

 

 名前は……Unknown? 名前がない? こんなことは初めてだ。いつもは何かしらの名前がついているのに。

 こんなものが出てくるなんて情報は一つとしてなかった。ナフさんの情報が間違っていたのか、それとも──。

 

 しかし状況が俺に考える時間を与えない。

 巨狼は再び咆哮すると1番近くにいたのであろうミウ目がけて足を振り上げ──薙いだ。

 

 

「かはっ……!?」

「ミウ!!」

 

 するとまるでオモチャかのようにミウの体は真横に吹っ飛び部屋の壁に激突した。

 愕然とする。そのミウが反応しきれない攻撃のスピードにもだが、問題は威力だ。

 今ミウはかわすことはできなくても寸前で剣を盾にしてガードしていた。なのに、そのHPが一気に残り2割を切ったからだ。

 ガードして、その上でこのダメージ。

 

 さらに遅れて出現した巨狼のHPバー。その数、10本。

 勝てるわけがない。今の攻撃をいなしながらあのHPバーを削る? そんなこと子供にだって分かる。仮に完全レイド48人だとしても10分持たずに壊滅させられるだろう。

 

 あんな獣がなんで突然──と、そこで俺に電撃が走った。

 ナフさんはなんて言っていた? 

 

「最後の《宝珠》は守護獣(・・・)が守っている。その守護獣から《宝珠》を奪えるだけの力を示さなければ《宝珠》は手に入れられないんだ」

 

 守護獣。獣。

 まさか、先ほどの甲冑は、前座でしかなかったのか? 倒す、ではなく奪う、という言葉を使ったのは《宝珠》を持って逃げろということ? あの巨狼──いや、守護獣の異常なステータスを考えるとそちらの方がしっくりくる。

 ミウがあの《宝珠》を持った瞬間こそが、このクエストの起動だったのではないか!? 

 

 だとしたらまずい、もうかなりの時間を消費してしまっている。逃げの一手を打とうにも完全に出遅れてしまった。

 

「皆、こいつは倒せない! 逃げるんだ! 《宝珠》さえ持って逃げ切ればこのクエストはクリアできる!!」

 

 砂埃で部屋の全容を確認できない。今の俺の声も本当に皆に届いたのかも分からない。でも、届いたと信じるしかない。もう1秒だって無駄にすれば。誰かが死ぬ。

 ダメージディレイで動けないでいるミウの方へ駆け寄りながらそう判断する。

 

 すると守護獣のヘイトはミウに向いているのかミウに再び足での踏み付け攻撃が飛んでいく。

 させない! 振り下ろされる守護獣の足の側面に当てるように《ヴォーパル・ストライク》を当てる。

 ほとんど効果がない。僅かに軌道がずらせただけだ。が、そのおかげでミウに足が直撃することはなかった。

 

「ミウ、大丈夫か!?」

「ごめんコウキ、油断しちゃった……」

 

 ミウを背負いながら守護獣のHPバーを見るが、今の攻撃でもほとんど削れていない。

 やっぱり逃げるしかない、とミウを担いだ瞬間走り出す。

 ヨウトやリリは大丈夫だろう。あの2人の敏捷値は俺よりも高いはずだ。迷わず逃げ出せば充分逃げ切れるはず。ミレーシャさんはステータスそのものが高いため言わずもがなだ。

 ならこの中で1番鈍足な俺が逃げ切れれば問題ない、のだが。

 

「くっそ!!」

 

 ジグザグに走り的を絞らせないようにしているが前足での攻撃が止まらず、凄まじい音と振動を上げながら追いかけてくる。

 俺たちは《宝珠》を回収するために部屋の最奥まで行ってしまった。そのせいで出口までの距離が遠い。距離はおそらく50メートルほどなのに、絶望を感じるほどに遠い。

 

「それでも、諦めてたまるか……っ!」

「コウキ……」

 

 ミウに安心しろと伝えるようにミウを担ぐ腕に力を入れる。

 あんな奴に殺されてたまるか、と守護獣の攻撃を見切ろうと後ろを振り向いた瞬間。

 炎。

 視界の一面が、部屋の全体が炎に包まれていた。

 それが守護獣のブレスだと気づいた時には俺の体は業火に包まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

「──キ、コウキ!!」

「っ!?」

 

 がばっと目覚め、体を起こす。どうなった!? いや、そもそも俺気絶していたのか!? こんな時に! 

 

「ミウ、俺どれくらい気失ってた!?」

「多分、2、3秒だけど……それよりもコウキ、HPが!」

 

 ミウに促され自分のHPを見ると俺も残り2割を切っていた。どうやらミウを炎から庇うために咄嗟に体ごと振り返って肉壁になったらしい。そこだけは自分を褒めてもいいだろう。

 でも、全体攻撃でここまでHPを削られるのか……ハハッ。

 乾いた笑みが出てしまう。こんなものどうしようもないじゃないか。作戦だとかそんなものでどうにかなるものではない。

 だったら、諦めるか? それについてはさっきもう言っただろう。出ていけよ、弱気な俺。

 

「コウキ、私もう動けるから! 一緒に逃げよう!」

「あぁ、そうだな。あともうちょっとなんだ」

「うん!」

 

 幸運にもダメージディレイには囚われていない。あのブレスの特性なんだろうか? だとしても速射可能であの攻撃範囲は凶暴すぎるが。

 俺とミウは立ち上がり、なお迫ってくる守護獣から走り逃走する。

 俺が気絶していたせいでせっかく少し開いていた距離がほとんど埋まってしまっている。

 距離が近いせいか再び足の振り下ろし、引っ掻き攻撃が俺たちを襲う。

 

「なぁ、ミウ!」

「何!? うわっと!?」

「帰ったら、何食いに行こうか!!」

「んー、シチュー!!」

「そりゃいい。最近寒くなってきたからな! っと、くっ! クリームの方がいいな!」

「私、作ろうか!?」

「もうそんなものまで作れるんだ、すごいなミウは!」

「ねぇコウキ!!」

「何!?」

「うっ……っ、リリちゃん達と遊びにも行こうよ! 私最近全然遊び足りない!!」

「そうだな、それもいいかもなっ!!」

 

 馬鹿な話をしていると思う。

 今も死へと誘う攻撃は迫ってきて、それをかわしながら、衝撃波をくらってHPをジリジリと減らしながらする会話ではない。

 そんなことわかっているのだ。それでも、いつかの日のように無駄な会話を続ける。あの日常に帰るために。絶望に目を向けないために。諦めないために。

 冷静になれば、もう間に合わないという現実に体が引き込まれてしまうから。

 

 次の衝撃波に足を取られてミウが体制を崩し、転ぶ。

 まずい、こうなったらまた守護獣の攻撃を逸らすしかない! 

 再び振り返り守護獣を見ればその大きな口腔を開いていた。

 あのモーションはさっきと同じ──ーだからなんだ。まだ体は動く。間に合う。間に合わせてみせる。

 

 必死に足を、手を伸ばす。逃げ切るために。生きるために。ミウを守るために──

 

「なら、私に守らせてください」

 

 俺の心の声に応えるようにその声は凛と響いた。

 瞬間、ズドン(・・・)!! と大砲が打ち込(・・・・・・・)まれたのかと(・・・・・・)勘違いするほど(・・・・・・・)の轟音が鳴り響く(・・・・・・・・)

 その音と共に守護獣の顔が跳ね上がり、口は塞がれブレスは失敗に終わる。

 今の音と攻撃は──

 

「──ミレーシャ?」

 

 俺の代わりにミウがその名を口にする。

 ミレーシャさんはいつの間にか守護獣の前に屹然と立ち塞がっていた。

 

「ミレーシャ、何してるの……逃げて、早く!!」

「ミウこそ、早く逃げてください。私なら大丈夫ですから」

「そんな訳無いでしょ! 待ってて、私も今──」

「来ないで!!」

 

 ミウの悲壮な声をピシャリと断ち切る。

 今まで聞いたことのないミレーシャさんの鋭い声にミウの体が止まる。

 そして大声を出したからか、ブレスを妨害したからか。守護獣のヘイトはミレーシャさんに集まりミレーシャさんに前足が振り下ろされる。しかし、それをミレーシャさんはレイピアで防御してみせる。

 ダメージは4割ほど。体も吹っ飛ばず多少後退したほどだ。

 

「ほら、大丈夫でしょう? だからミウは早く行って」

「いや、嫌だよぉ! ミレーシャを置いてなんか行けない! 友達を置いてなんて!!」

「友達だから、私は貴女を守りたいのです」

 

 今度は牙による噛みつき攻撃。これはソードスキルで攻撃を逸らす。

 

「私、ミウが好きでした。ミウとコウキさんが一緒にいるのが好きでした。そこにはいつも笑顔があったから。そんな2人が私たち《ガイア》のことを真剣に悩んで考えてくれて、本当に嬉しかったのです」

「私も、私もミレーシャが大好きだから、だからお願いだから一緒に……」

 

 ミウの言葉がそこで止まる。そうすればその先に待っている未来がミウにも分かっているから。

 そんなミウにふっと優しく微笑み、次に俺と視線を合わせた。

 

「コウキさん後はお願いします。《ガイア》のことを、ミウのことを」

 

 ミレーシャさんはNPCだ。

 その事実だけはどこまで行っても変わらない。人ではない。感情はない。プログラムされた存在であるはずだ。

 ならば、あの姿はなんだ。あの視線はなんだ。俺に全てを託すと、言外に物語って、伝わってくるこの感情はなんだ。

 ミレーシャさんの覚悟が、こんなにも伝わってくる。

 助けたい。そんな彼女を。守りたい。そんな彼女を。

 それでも俺が選べる命は一つしかなくて。もうどうにもならないことが分かっていて。

 悔しくて、悔しくて。悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて!!! 

 それでも、彼女の覚悟を無駄にすることだけは、俺にはどうしてもできなくて。

 

「──分かった。ありがとう、ミレーシャさん」

 

 俺の最後の言葉にミレーシャさんは本当に嬉しそうに笑った。

 

「ミウ、行くぞ」

「え、待って、待ってコウキ! まだそこに、ミレーシャがいる。置いていいけない!」

「……」

「コウキ! ねぇコウキ!!」

「俺のこと恨んでもいいから!!」

 

 強引にミウを抱き上げそのまま走り出す。

 ミウとミレーシャさんの距離が開いていく。どこまでもどこまでも。

 

「コウキ離して! この……ミレーシャ、こんなのってないよ! もっともっと色んなことしようよ、嫌だよこんなのぉお!!! ミレーシャァァァアアア!!!」

「さよなら、ミウ」

 

 最後にその一言を聞いて俺たちはボス部屋から脱出した。

 ミレーシャさんのHPバーが全損したのは、ほぼ同時だった。

 

 




お気に入り、感想、評価、もらえるだけ作者がとてもめちゃくちゃ大喜びしますのでどうかお願いします。

それと今回はなかったイラストですが、こちらも感想等あれば欲しいです。知人が大喜びします。
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