力無き少年のソードアート・オンライン   作:Aruki

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前回のお話ですが、投稿して閲覧数がすごく伸びました! 読者の皆様のおかげです、本当にありがとうございます。


65話目 有力な少女は狂笑する。何もかもから目を背けて。

 ヨウトもリリも無事部屋の外に脱出できていた。やはり1番後ろを走っていたのは俺とミウだったのだ。だからこそ……ミレーシャさんは、助けてくれたのかもしれないけれど。

 ミウのストレージに《宝珠》があることを確認した俺たちは《ガイア》に帰還することにした。

 その間、誰1人として口を開く者はいなかった。

 ボス部屋を出てからもしばらく泣き叫んでいたミウまでも、帰り道は一言も話さず、俺たちの間には、ただただ重く暗い何かが纏わりついていた。

 

《ガイア》に到着するまでに戦闘もあったが、実際に頭が回り始めたのは到着してからだ。

《宝珠》は持ち帰った。それと引き換え、なんて言い方はしたくはないが、犠牲者を出してしまっった。それも《森人》のミレーシャさんだ。

 それは、この《ガイア》に置いて何か罪に問われるのではないのだろうか? 

 いや、仮に罪に問われなかったとしてもミレーシャさんは素晴らしい人格者だった。そんな人の死因に関係する人間なんて印象が悪いに決まっている。

 

 もしかしたら、悪意を向けられる可能性もある。

 その時は、甘んじて受け入れるしかない。事実として、俺たちはミレーシャさんに守られたがミレーシャさんを守ることができなかったのだから。

 でも、だからと言って誰かが危害を加えられそうになった時は、逃げるしかない。

 戦ってはダメだ。《ガイア》を頼んだと言われたのだから。俺は命の恩人を裏切るようなことはしたくない。

 

 そんな、義務感と使命感に体を動かされながら、いつものようにナフさんの部屋にやってきた。

 そして、事の顛末を、報告した。

 糾弾される覚悟はできていた。

 しかし。

 

「そうか、それは残念だったね……《宝珠》の回収、ご苦労様でした」

「は……?」

 

 ナフさんから言われた言葉はそれだけだった。

 悪意も敵意もない。ただ事実を並べ、納得しただけの言葉。

 なんで、それだけで。そんな訳……

 

「《宝珠》さえ揃えば、ミレーシャのことはどうでもいいの?」

 

 今まで無言を貫いていたミウが口を開く。

 俯いていて表情は見えないが声にあからさまに敵意が乗っている。

 しかしそれに対してもナフさんの反応は変わらない。

 

「そんなことはないさ。ミレーシャは《ガイア》にとっても重要で、貴重な存在だった。役割的にも、人物的にも」

「だったら──」

「でもね、僕たち《森人》はこの《ガイア》を支え守るための存在しているんだ。生かすべきは個人ではなく国。ミレーシャのことは本当に残念だったけれど、同じ《森人》としては彼女の生き様に敬服を感じるよ」

 

 ガリッ。ミウが歯を食いしばるような音がする。

 そんなことを聞いているんじゃない。ミレーシャという人間が『いない』ということをまるで誇らしい事のように言うな。そんなミウの心の声が聞こえてくるような音だ。

 それでもミウが踏み止まっているのは、ナフさんは確かにミレーシャさんの遺志を汲み取っているからだ。

 最期まで国のことを憂いていたミレーシャさんをミウも見ていた。だからこそ、否定できない。

 

 ふぅ、と息をついたナフさんはこの場を締めにかかる。

 

「重ね重ねになるが、全ての《宝珠》を集めてくれて、本当にありがとう。これで儀式に取り掛かれる。とはいえすぐにできるわけではないから、準備が整い次第またこちらから連絡させてもらうよ。ここまで、本当にありがとう。《森人》を代表して礼を言わせてもらうよ」

 

 とても綺麗な言葉を並べて礼を言われた。

 俺たちにとっては嬉しい結果のはずなのに、吐き気が止まらなかった。

 

 

 

 

 

 

「とりあえず、今日はお疲れ様、だな」

 

 ヨウトの家に帰っても今までずっと無言だったが、ヨウトがそう切り出す。

 無理やり明るい声を出している、という感は否めないが、今はそれくらいしないとこの澱んでいる空気はいれ変わらないかもしれない。

 

「とりあえず数日は暇ができたって事みたいだけど、コウキ、今後はどうするつもりなんだ?」

「ん……そうだな。とりあえず連絡が来るまでレベリング兼ねながらの攻略、かな。ただ連絡を待っていてもヤキモキするだろうし」

「了解。じゃあ明日からはそういう感じな。今日はもう皆休もう」

 

 言うと、ヨウトは立ち上がり「つっかれたー!」と伸びをして自分の部屋に戻っていく。

 こう言うところヨウトは上手いなと思う。切り替えというか、場の雰囲気の和ませ方が。

 その効果があったのかリリも「私も、失礼します、お休みなさい」と自分の部屋に戻っていった。

 

 そうして残ったのは俺とミウ。偶然か、はたまた必然か、ミレーシャさんに助けられた、2人。

 ミウはずっと俯いていて表情が読めない。悲しんでいるのか、憤っているのか、いつものミウなら表情がコロコロ変わるのに、今は全く分からない。

 

 でも、とにかく、負の感情に包まれているのは分かった。何か、声をかけなければと。

 

「ミウ、あまり気にしすぎるなよ。無茶かもしれないけど、ミレーシャさんのためにも今は前を向くべきだと思う」

「………………うん、そうだね。私も、そう思う。ミレーシャ、最期まで笑ってたもんね」

 

 そこでミウはようやく顔を上げる。その顔に浮かんでいたのは無理やりではあるが笑みだ。

 ミウはおもむろに立ち上がり、自分の部屋へと戻っていく。

 

「コウキ、ありがとね」

「……おう」

 

 ミウの笑みに俺も笑顔で返す。

 そうして今度こそ、ミウは自分の部屋に戻っていった。

 

「……」

 

 リビングに1人残った俺はソファに座りながら天井を見上げる。

 なんてことはない。木造住宅らしい木組の天井だ。

 なんとなく上を見上げてみたが、別にそれで気分が向上するようなことはない。

 俺は、ミレーシャさんの国を守りたいという気持ちを手助けしたくて、このクエストを進めることを決めた。今もその気持ちは変わらない。

 それでも、その本人を守りきれなかったのは、どうしてもダメージが大きい。

 そしてそれは、俺よりもミウの方が大きいはずだ。

 それなのにあんな無理して笑顔を浮かべて。いや、浮かばせて。

 

「何にも守れてないだろうが、俺」

 

 相も変わらず、俺はどこまでも無力だ。

 そうして俺も立ち上がり寝るために自分の部屋に戻った。

 その日は寝るまで、ミウの触れたら全て崩れてしまいそうなあの笑顔が頭から離れなかった。

 

 それから2日が経った。

 パーティ全体で見れば少しずつではあるが以前の明るさや空気感を取り戻してきている。が、ミウだけはあの日以降、今までとは違う雰囲気を纏っていた。

 皆と話していてもどこか心ここに在らずで。戦闘中ですら呆けていることがある。

 それに何より、あの太陽のように輝かしい笑顔が完全に形を潜めていた。

 

 どうにかしてあげたいと思う、でも、どうすればいい? もうどうやってもミレーシャさんは帰ってこない。取り返しはつかないんだ。それぞれが自分の中で区切りをつけて前を向くしかない。

 でも、だからこそ、他人が何を言っても仕方がない。区切りをつけるのは自分自身でしかできないのだから。

 

「コウキさん、大丈夫ですか?」

「リリ……」

 

 声をかけられようやく『今』に意識が戻る。

 今は最前線の層の一つ下の層の荒野でレベリング中だ。隊列を先頭はヨウト、中衛を俺とリリ、後衛をいつもと比べて少し調子の悪そうなミウという配置だ。

 1番近くにいたリリが俺に声をかけてきたのだ。

 

「コウキさん、疲れていませんか? どこか心ここに在らずって感じでしたけど、休憩しますか?」

 

 ……参ったな。ミウのことを考えるあまり自分がそうなっていたか。

 小さくため息をつく、集中力が足りない証拠だ。視界も良いし最前線ではないとはいえ、今の層も十分危険はあるというのに。

 俺はリリを安心させるように頭を撫でながら答える。

 

「大丈夫だよ。ちょっと考え事しちゃっただけ。ごめんな心配かけて」

「いえ、それならいいんですけど……無理は、しないでくださいね」

「おう、もちろん」

 

 リリにまで心配をかけてしまっては元も子もない。今はレベリングに集中しよう。

 そんな俺の考えに反応したわけでもないだろうが、mobの姿が見えた。

 動物、正確には狼型のmobだ。もちろんあの時の守護獣に比べれば体は小さく一般的な体長だ。

 相手は2匹。

 

「……っ」

 

 一瞬、怯む。どうしてもそのフォルムから二日前のことを連想してしまう。

 違う、あのmobはそれほど強力な敵じゃない。頭を切り替えるんだ。

 頭を振って雑念を消せば、戦うか? と先頭のヨウトが俺に視線を送ってきたので頷いて応答する。

 

 全員でmobに近づいていき、ヨウトが先手を仕掛ける。2匹のうちの1匹に《バーチカル》を叩き込む。

 悲鳴に似た狼の咆哮が鳴り響くと同時、2匹のヘイトがヨウトに向く。そこへ中衛の俺とリリがそれぞれ1匹ずつにアタックを仕掛けるのが俺たちの定石だ。が、それよりも早くミウが先行する。

 

「ミウ、先行しすぎだ!」

 

 静止の声をかける、が、ミウの疾走は止まらない。

 ヨウトに向かって飛びかかった狼たちの足元に潜り込めば、体を地面と並行になるほど倒しながら《ホリゾンタル・デュアル》を放つ。

 垂直に弧の字を描く剣閃は狼型mobの共通弱点である腹を正確に切断し、2匹のmobは何もできないまま爆散しポリゴンへと変わっていった。

 

「はぁっ、はっ、はぁっ……!!」

「ミウちゃん……」

 

 ヨウトが心配そうに声をかける。

 一撃で終わった戦闘。しかしそれに対してミウの息は完全に乱れきっている。まるで『何か』に怯え、戦っているかのように。

 その『何か』は分かる、分かるが、今は攻略中だ。余計な思考が命取りになる。

 

「ミウ、今のは俺とリリが出る場面だった。ミウが無理することはなかったよ」

「……ごめん」

「俺たちもいるから、そんなに張り詰めなくても大丈夫だよ」

 

 濁しているだけだな、と自分でも思う。

 きっと今ミウに必要な言葉はこんなものじゃない。それは分かっている。

 それでも、俺にはミウが欲しがっている言葉がなんなのか分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

 静寂な夜の市街区、自然と出たため息が響く。

 ミウの変化には皆気が付いている。だからヨウトとリリの3人で先ほどまで話し合っていたのだが結局見守ることしかできないという結論が出た。

 

 やはり俺でなくとも今のミウにできることはほとんどない。同性の方がまだ良いかとリリにミウのことを励ましてみてもらったりもしたが大した効果はない。

 リリには申し訳なさそうに謝られてしまったが、違う。何も思いつけない俺が悪いんだ。

 ミウは何度も俺を助けてくれた。親身になってくれた。なのに、俺はなんの力にもなれない。それが歯痒くて悔しい。

 

 なんで力になれないのか。何も言ってあげられないのか、それは。

 

「……結局のところ、俺もまだ立ち直れてないんだよな」

 

 守らなければならない人を守れなかった。その事実が俺の心を蝕んでいくのが分かる。

 気分転換に慣れない夜の散歩なんてものもしてみたが、気分は全く晴れない。

 これはさっさと帰って眠った方がいいかと足を戻しかけたその時。

 

「……? ミウ?」

 

 街の門から出ていくミウの姿が見えた。

 見間違いじゃ、ないよな? あの装備は間違いなくミウだ。

 姿が見えなくて静かだったので、てっきり自分の部屋で寝ているものだと思っていたが、気づかない内にヨウトの家を出ていたらしい。

 

 こんな時間に何をしに……つい気になりミウの後を尾ける。

 この層で1人で外に出てもミウなら大丈夫かもしれない、が、ソロプレイは何が起こるかわからないのだ。いざという時は微力かもしれないが手助けに入ろう。

《追跡》スキルも《隠密》スキルも取っていないので、見失えば終わりだし後ろを振り返られても普通にバレる危険が高いが、可能な限り姿を見せないよう移動を続ける。

 

 30分ほど移動して着いたのは今朝来ていた荒野だ。

 なんでまたこんなところに、という俺の疑問はすぐに解消されることになる。

 

 グルルル……と、ミウの前方から唸り声が聞こえる。

《索敵》スキルを取っている俺の方が前をいくミウよりも先に見つけた。これもまた今朝ミウが一撃で倒した狼型のmobだ。

 数は1匹。普通ならソロプレイヤーでも狙いやすい敵だが、このmobには変わった特性がある。

 それは夜の方が凶暴になりステータスが上昇し、さらにHPがレッドゾーンに入ると遠吠えをして仲間を引き寄せるというものだ。

 なので倒す時は朝のように一撃か、ダメージ量を計算してイエローゾーンからソードスキルで一気に倒すかというのが一番いい。

 最悪仲間を呼ばれてもパーティなら対応できるので問題ないのだが……などと俺が考えている間にミウと狼が接敵する。

 

 ミウの取った行動は戦闘だ。抜剣し狼に対して正面から構える。

 朝と同じように仕留めようとしても朝よりも強い狼mobはそう簡単には一撃では倒せないだろう。

 どうするんだ……なっ!? 

 

 思いがけないミウの行動に思わず声が出そうになるのを堪える。

 ミウは狼に接近すると迷わず朝と同じ《ホリゾンタル・デュアル》を叩き込んだ。

 しかしやはり一撃では倒しきれない。狼は瀕死になるとアルゴリズム通り遠吠えをする。

 瞬間、少し離れたところから土を掻く音が複数聞こえ始める。引き寄せられてきた他の狼たちだ。

 

 おいおいおい、ミウは何を考えているんだ。

 ミウは他のmobを視認するともう用はないとばかりに最初の狼に剣を振りトドメを刺す。

 そうして近寄ってきた狼たちに囲まれる。数は、3体。

 やばい、助けるか、と足が動きかけるがそれもすぐに止まってしまう。

 ミウの表情を見て、止まってしまった。

 

 笑み……こんな時に? それもあんなミウの笑い方、見たことがない。

 まるで望み通りだとばかりに。そしてどこか皮肉めいた、よく鏡で見るような気がする、嫌な笑み。

 なんであんな笑い方を、なんて気にしている場合ではない。

 

「はぁあ!!」

 

 気合い一声。

 すぐさま囲んでいるうちの1匹に接近する。しかし獲物が動いたのだ。狼側も行動し始める。

 他2匹の狼はミウの背中に向けて飛び掛かる。

 またソードスキルで切り抜けるのかと思えば接近した勢いを足に溜め反対方向、後ろへ低い姿勢で跳躍。飛びかかってきた狼2匹の真下を潜り抜け包囲から脱出する。

 そしてそのままスキルモーションへ。3匹が固まったところへ突進系片手剣ソードスキル《ヴォーパル・ストライク》。3匹まとめてミウの片手剣が貫く。

 しかしやはり全てを一撃では倒しきれない。2匹ほど仕留め損ね、その2匹がまた遠吠えをする。再び現れる他の狼たち。

 

 これだ。これがこの層の狼たちの怖いところだ。一度仕留め損ねると連鎖式に敵が増えていく。

 危機的状況。そのはずなのに、ミウの笑みをますます深くなっていく。

 

「いいよ……もっと来なよ。皆相手してあげるから」

 

 あれは、本当にミウなのか? 

 そんな考えすら浮かんでしまうほどの異質な笑み。

 さらに増えていく狼たちに対しても紙一重で攻撃をかわし続けながら、いや、攻撃を喰らっても一切怯むこともなく狼たちを切り刻み続ける。

 

 その戦い方は破滅的で、それでいて狂気的な踊りにも見えて。

 俺は最後まで助けに入れず、ただミウを見守り続けることしかできない。

 ミウ、なんで、そこまで…….とそこまで考えてなんとなくだが理解する。

 そうか、ミウが欲しいものは許しでも、癒しでもなくて。

 ただただ、自分を罰したいだけなんだ。

 

「コウキさん、後はお願いします。《ガイア》のことを、ミウのことを」

 

 あの時のことを思い出す。

 ミレーシャさんには分かっていたんだ。だから……。

 改めて思う。

 助けたい、守りたい。いや違う。

 絶対に助ける。助けなくてはならない。そう思う。

 今までは覚悟が固まらなかった。でも今は違う。覚悟できたからには動かなかった足が動く。回らなかった思考が回り出す。燃えなかった感情が燃え始める。

 

 全身にダメージエフェクトを発生させながらも20匹以上の狼を倒し切り、息を切らしているミウ。

 その姿は今にも崩れてしまいそうで、あの夜の笑顔と重なって。

 だから。

 

「ミウ」

「っ……コウ、キ」

 

 俺はミウに手を伸ばす。今度は、俺が助けるために。

 

 




お気に入り、感想、評価、もらえるだけ作者がとてもめちゃくちゃ大喜びしてはしゃぎますのでどうかお願いします。

それと今回はなかったイラストですが、こちらも感想等あれば欲しいです。知人が大喜びします。
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