力無き少年のソードアート・オンライン   作:Aruki

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八話目です!
なんと! 先日ついにUAが1000人超えしました!
もう本当に嬉しい限りです。自分の作品に自信がない私としてはこれ以上に嬉しいことはないです!
これからも読んでもらえるよう頑張ります!


8話目 許し

 あれから約一ヶ月。俺たちは攻略を続けた。

 ずっと位置すらも不明だった迷宮区も見つけられ、攻略もどんどん進められた。攻略をここまで進められた大きな要因はやはりアルゴが無料配布したガイドブックだろう。

 しかもあのガイドブックのおかげでゲームオーバーになるプレイヤーも少し減った、という噂も流れている。

 そんな少しずつと流れがよくなってきた矢先、俺たちは《はじまりの街》で開かれる攻略会議に参加するべく会場に向かっていた。

 

「レベル、これぐらいで大丈夫かな?」

 

 ミウが不安そうに呟く。

 攻略会議というのは、言い方を変えればプレイヤー同士の交流の場だ。しかも話される内容はほとんどが攻略について。

 つまり、周りのプレイヤーたちと極端にレベルや実力差があっては話し合いにならないし、相手にもされない可能性がある。

 まぁ、ミウはレベル云々よりも技術がすごいから大丈夫だと思うが。

 そもそもミウのレベルと実力で相手にされなければ、俺なんかお話にもならない。

 

「とりあえず、ヨウトのレベル1つ下だから大丈夫だと思うけど」

 

 ちなみに俺もミウもレベルは10だ。

 他のプレイヤーとあまり交流をもってこなかったので、今のこのレベルがプレイヤー全体で見たときにどの程度の位置に属するのかは分からないが、今も言ったようにヨウトを基準にすればいいところにはいると思う。

 まぁ、その辺はいい。俺の懸念はもっと別にあった。

 等と考えているうちに会場に着いた。

 ...顔上げづらいな。

 

「コウキ?」

 

 ミウが心配そうに見てくる。

 ...はぁ、なにやってんだ俺は。

 ここまで来てウジウジして、その上ミウにまで心配かけるだなんてバカか。

 それに、俺はーーー

 

「大丈夫、なんでもない」

 

 そう、もう大丈夫なはずだ。

 俺はミウに会って少しは強くなったはずだ。だから、

 

「行こう」

 

 

 

 

 会場は階段が円形状に広がっていて、大学の教室のような作りになっていた。

 円形の中央には鐘のようなものが設置されていて、この街のシンボルとして立っている。

 辺りを見回すと、すでにかなりのプレイヤーが階段に腰を下ろしていて、その中にはもちろん...ヨウトの姿もあった。

 俺たちはヨウトとは反対側ーーーー意識したわけではないがーーーーに座った。

 

「みんな意外と明るいね」

 

 ミウが言ったように、広場には俺たちが想像していたようなギスギスした悪い雰囲気はどこにもなかった。

 どこを見てもみんな明るく談笑している。

 先ほども言ったように他のプレイヤーとほとんど交流をもってこなかった俺としては、ここまで明るい雰囲気がある空間はこの世界にダイブした直後以来だ。

 

「でも、今日の会議はなんなんだろうな?」

 

 会議はこれが初めてではない。前にも何度かあったらしいのだが、それらには全部出席しなかった。

 俺の私情もあったのだが、何よりレベルアップに時間をかけたかったのだ。

 今回出てきたのは、一応アルゴのガイドブックの一層目標レベルに達したからだ。

 それにしてもいつ会議は始まるのだろう? と周りの様子を見ていると、3人のプレイヤーが階段から降りていき、会場の中央に立った。

 

「これより、攻略会議を始める!!」

 

 3人の中央の男性プレイヤーが広場全体に響くような声で言った瞬間に辺りが一気にしん、と静まった。

 

「俺はディアベル。気持ち的にナイトやってます!」

 

 周りからまた笑い声が上がる。俺は初対面だが、あのディアベルってプレイヤー、周りからも信頼されているようだ。

 まぁ、顔も誠実そうで安定感がある雰囲気があるので、好かれそうなタイプだよな。俺はそういったこととは本当に縁遠いので、羨ましい限りだったりする。

 ディアベルは周りからの笑い声を手を上げて制す。

 そして先ほどとはまた違った声色で言った。

 

「俺たちのパーティーは昨夜、ボスの部屋を見つけた」

 

 ざわざわ! 今度は周りが急にざわつき始めた。

 それもそのはず、迷宮区そのものはゲーム開始から半月強で見つかったが、ボス部屋はその存在は分かっていても位置を見つけ出すのに一ヶ月近くもかかったのだ。

 それからはプレイヤーのほとんどが少し浮き足だったが、比較的スムーズに話が進んでいった。

 ボス部屋の場所、ボスの種類、特徴、攻撃手段などの情報が公開された。

 しかも驚いたのが、ボス部屋情報のほとんどがアルゴのガイドブック第二段の内容だったことだ。

 ほんとすごいなあの人。

 隣ではミウも驚いた表情になっていた。

 でも...確かディアベルがボス部屋を見つけたのは昨日だと言っていた。その昨日の今日でアルゴがここまで情報を掴んでいるというのは少し妙だ。

 NPCからの情報を集めまくった、という可能性もあるが、それよりももっと信憑性のある仮定がある。

 アルゴがβテスターということだ。それなら情報をいくら持っていてもおかしくない。

 まぁ、アルゴがβテスターだからなにか変わるって話でもないけどさ。

 ここまでは順調に話が進んでいた。問題はここからだった。

 

「ちょっと待ってんか」

 

 広場の後方から声が響いた直後、一つの集団が階段を降りていく。

 人数は4人。どことなく柄の悪いやつらだ。

 その集団はディアベルの前まで行くと、おそらくリーダー格の頭がモーニングスターのような頭をした男が言う。

 

「ワイはキバオウっちゅうもんや。ワイらもボス攻略に入れてくれんか?」

 

「失礼ですが、レベルはおいくつですか?」

 

「全員4~5ってところやな」

 

「....それは危ない。今回はやめておいた方がいい」

 

 普通は相手のレベル何てものは聞かない。現に俺たちもこの広場にきたとき誰にもそんなことは聞かれなかった。

 そもそも、相手のレベルはその人物の装備や身のこなしでなんとなくとは判断がつく。

 だが、キバオウたちからはそれが感じられなかったからディアベルもレベルを聞いたのだろう。

 確かに4~5というのは頂けない。

 アルゴのガイドブックによると一層ボス攻略の推奨レベルは10だ。

 もちろん推奨レベルでなければ倒せない、というわけではないだろうが、そのぶんだけ死者がでる可能性が上がるのは確かだ。

 まぁ、ぶっちゃけ俺たちもギリギリなんだけど。

 その後もディアベルはそれとなく断っていたのだが、キバオウが引かず、結局ディアベルが折れた。

 その結果キバオウのパーティーはボス戦は端の方で大人しくしておく、ということになった。

 多分キバオウたちとしてはボス戦の経験値や報酬にあやかりたい、といったところだろう。

 ...どこにでもいるんだな。ああいう自分の私利私欲のことしか考えないやつ。この世界に入ってからは、ミウを始めとするいい人にしか会っていなかったので、そういうことを忘れていた。

 

「では、ボス攻略のため6人1組のパーティーを組んでくれ! そしてレイドを作るんだ!」

 

 レイドとは、いくつかあるパーティー同士が一つの集団を作ることだ。つまりパーティーは一人一人のプレイヤーが集まり作るもの。レイドは一つ一つのパーティーが集まって作るもの、ということだ。

 

「俺たちも早く組まないと」

 

「...って、言っても...」

 

 ミウと一緒に周りを見回すが、周りにはすでにパーティーが出来上がっており、頼む人がいない。

 お、おぉう。みんなパーティー作るのはえぇ...これがコミュニケーション能力の差か。

 人と接するのが苦手だと、こういうとき本当にふべーーーー

 

「コウキ」

 

 背後から声をかけられて、一気に体が萎縮する。

 ミウではない。明らかに男の声だ。

 しかももう聞きあきたと思っていたはずの声。

 俺は恐る恐ると振り返る。

 

「...ヨウト」

 

 そこには、予想通りの人物が立っていた。

 随分と久しぶりに名前を呼んだ気がする。

 あの日別れたときとなにも変わらない。強いて言えば服装が変わったくらいだ。

 なにも変わっていないはずなのに、俺の脳はこれでもか、というほどに混乱していた。冷たい痛みのようなものが頭から順に身体中を駆け巡る。

 

「俺もあぶれちゃってさ、お前らのパーティーに入れてくんない?」

 

 俺は軽く明滅する視界を意識的にどうにか落ち着かせる。

 ーー落ち着け、落ち着け。大丈夫だ。

 こんなときがいつか来るのはミウと一緒に《はじまりの街》を出たときから分かっていたはずだ。

 しかもさっきこの場所にヨウトがいることを確認したばかりじゃないか。今のこの状況は予想の範囲内だろう?

 ミウがまた心配そうにこちらを見ている。

 そうだ、もう大丈夫なはずなんだ。

 俺は大丈夫、という意味も込めて笑いながらヨウトに言った。

 

「あぁ、いいよ。どんぐらい強くなったのか見せてもらうからな」

 

「ほー、言ったな? おし、見てろよ。もうお前なんか敵じゃねえしな!」

 

 俺とヨウトはいつものように軽口を言い合い、互いに笑い出した。

 ーーよし、もう大丈夫。

 俺はちゃんと、前に進めている。

 

「それとコウキ、この子は?」

 

「あぁ、《はじまりの街》で知り合ったミウだ...女の子だ!」

 

「いや、見たらわかるけど...なんで強調して言うの?」

 

 いや、念のために...

 って、しまった! こんな言い方したらまたミウが大変なことに...!

 俺は焦ってミウを見る。

 

「...ミウ?」

 

「ふぇっ、あ...」

 

 なんでそんな悲しそうな顔...

 ミウの表情は、怒りなんてものとは程遠い、暗い色に染まっていた。

 しかし、ミウはすぐさま表情を作り直す。

 

「うん、私はミウ。よろしくね」

 

 そしてすぐにいつも通りの笑顔になっていた。

 気のせい...じゃないよな、さすがに。どうしたんだろ?

 

「俺はヨウト。コウキの友達だ。よろしく」

 

「あ、コウキから少し話聞いてるよ。強いんだってね」

 

「ま、コウキよりは」

 

「うるせぇよ...」

 

 そのときの疑問はヨウトとのいつの通りの掛け合いのなかで消えていってしまった。

 そんな感じで互いに自己紹介を終えると同時。

 

「俺たちも入れてくれないか?」

 

 どこか全体的に黒い雰囲気を纏った男と、栗色のケープを着ている女の男女のペアが声をかけてきた。

 ーーそれが、これから長い付き合いになる、キリトとアスナとの出会いだった。

 

 

 

 

 その後は何の滞りもなくーーというわけにはいかなかった。

 一人のプレイヤーが、というかキバオウが情報を独占しているβテスターたちに対して謝罪を要求したのだ。

 自分達は命懸けで戦っているのに、効率のよい狩り場、報酬のいいクエストなどの情報を自分達だけ持っているのはズルいのではないか、と。

 確かに言い分は分からなくはないが、それについてはアルゴが出しているガイドブックで精算しているはずだ。

 ディアベルも同じことを言ってキバオウを説得していた。

 もしかしたらニックが言っていた、βテスターかどうか聞かない方がいい、というのはこういった対立を予期していたのかもしれない。

 そしてその日は解散となった。と言っても連携の確認のためにフィールドに出ているプレイヤーがほとんどだが。

 ボス攻略の日取りは明日の朝からだそうだ。

 それに向けて俺たちも、連携や実力の確認のためにフィールドに出ていた。

 武器はアスナ以外全員盾無しの片手剣。アスナだけが細剣だ。

 ...なんというか、恐ろしく偏ってるなぁ。

 まぁ、片手剣は基本的にバランス型の武器だからいいけど。

 問題は、戦闘スタイルだ。

 

「はっ!」

 

 アスナの細剣単発ソードスキル《リニアー》が猪を貫きポリゴンに還す。

 ...要はスタイルが極端なのだ。

 ミウは判断力、身体能力的速さが高い。

 ヨウトは動き出しにおいてはミウに一歩劣るが、動きそのものが異常なほどに速い。前にヨウトがSPを俊敏力に全振りしていたことを考えれば、まぁ、当然なんだろうけど。

 アスナは使用武器の特性と、身体的及びシステム的速さが半々と言ったところだろう。

 と、言ったようにメンバーがスピード特化すぎる。

 その中でもミウは攻撃力も高くて非常に助かる。

 あとはキリトなのだが...

 一言で言えば強すぎる。

 レベルが12と、攻略組の中でももっとも高いことにも驚いたが、なにより反射速度が速すぎる。

 あのミウが一瞬ついていけなかった、というほどだ。

 さらに攻撃力も明らかに俺よりも高く、本当に強い、という表現しか思い付かない。

 ミウは、みんなすごいなぁ、と言うだけだったが、俺に至っては付いていくのもかなり苦しいレベルだ。

 ...ミウと一緒にいて少しは強くなったと思ったんだけどなぁ。

 

「なぁコウキ」

 

「...なに?」

 

 キリトが話しかけてきたので一旦思考中断。

 

「コウキたちは隠しアビリティって知ってる?」

 

「あ、あぁ、一応」

 

 隠しアビリティとは、mobを攻撃したときなどに与えるダメージを大きくするコツのようなものだ。

 アルゴのガイドブックには『カウンター』『スイングスピード』『ウィークポイント』『高さ』『スキルアシスト』の五つが紹介されていた。

 最初の3つはニュアンス的に分かると思うが、『高さ』というのは、要は上空から落下しながらの攻撃など、攻撃位置によって威力が変わる、というものだ。

 最後の『スキルアシスト』とは、ソードスキルに限らずスキルを使う際、モーションをとるとシステムに自動的に体が動かされスキルが発動する。

 その際に、体が動かされる方向に意識的に自分でも体を動かすと威力が上がるのだ。

 もちろん、少しでも違った動きをすればファンブルーースキル中断による長いスキルディレイに囚われてしまうので注意が必要だが。

 では、なぜ俺がこの万能なシステムを使っていないのかと言うと...

 ーーーー覚えようとしても出来なかったんだよ畜生!!

 いえ、最後の以外はさすがにできたんですよ!? 内容もそのまんまだし。でも最後のだけはどうしても出来ないんだよ!

 なんだろ? 俺ってソードスキルに嫌われてんのかな?

 するとキリトは少し考える素振りを見せる。

 

「ちょっとあいつにソードスキル使ってみてくれないか?」

 

「りょ、了解」

 

 キリトに言われて指定された猪に向かう。なんか大勢に見られてるし、緊張するな...。

 一度深呼吸し、剣を構える。

 とりあえず、一番得意な《バーチカル》でいいかな。

 俺は一度頭のなかで動きを確認してから、《バーチカル》のモーションに入る。

 そしていつものように体が自動的に動くべき方向へ動かされる。

 

「はぁっ!」

 

 そのまま流れるように剣で切りつけられた猪は、ポリゴンになり跡形もなく砕け散った。

 ふぅ...上手くいった。

 密かに安堵している俺に対して、キリトは少し驚いたようにように言う。

 

「やっぱり...」

 

 ...えーと、何が? もしかして、やっぱりヘッポコすぎるってことですかね?

 

「コウキは隠しアビリティが使えないんじゃなくて、ほぼ完璧なんだ」

 

「...へ?」

 

 その場にいた全員がポカンとしている。

 キリトの言っていることがいまいち伝わってこない。

 それはつまり....

 

「なるほど。つまり何度やってもできないと思っていたのが、実はほとんどできててこれ以上威力の上げようがなかったと」

 

「あぁ。まぁ、細かいことを言えばまだ使ってない隠しアビリティもあるから完璧っていうのは少し違うかもしれないけど...」

 

 いち早く理解したヨウトがキリトと話を進める。

 あー、うん。なるほど? もうできてたんだ。まぁ、それはよかった...

 

「でも確かに分かるかも。コウキ、自分は覚えが悪い! とか言って夜中もモーションとスキルの練習してるし」

 

「え、気づいてたの!?」

 

「あ...ごめんね? 気づいてない振りしようと思ってたんだけど...」

 

 うぅ、別にそれはいいんだけど、せめて他の人がいないときに言って欲しかった...

 これじゃあ、ただの赤裸々暴露大会(俺に限る)状態だよ...

 

「真面目な人なのね」

 

 俺が小さく唸っていると、アスナがクスリと笑ってきた。

 ...笑うとすごい綺麗だなぁ、とか今さら気づいたけどアスナってすごい美人だな、とか思うことは色々あるけど、とりあえず。

 うーわー!! 恥ずかしい!!

 

 

 

 

「今日楽しかったねー」

 

「俺は疲れたよ...」

 

 ミウの言葉に苦笑いで返す。

 日が落ちると各々解散となり、アスナは一人で帰ってしまい、キリトもそれに続くようなどこかに消えてしまったように。

 ヨウトは装備品を見に行くといって表通りに行った。

 ...何故か別れ際のヨウトのなんとも言えない様な表情が印象に残ったが、気のせいだろう。

 そして今ミウを部屋に送り届け、あとは別れるだけだ。

 

「...ミウ?」

 

 だがミウは部屋の前に来ても俺から離れなかった。

 おかしいな...いつもなら「おやすみ! 明日も頑張ろうねー!」とでも言って手を振ってくるので俺も手を振り返すのだが...

 ミウは今、顔を下に向けて俯いている。

 伝わってくる雰囲気は、悲しみや怒りというより、迷い。

 気のせいか手も強く握りしめている気がする。

 

「コウキ...」

 

「どうしたミウ。変だぞ?」

 

 ミウが顔をあげる。

 そこにはいつものような笑顔はなく、決意の籠った目があった。

 その視線を俺に向けてくる。

 

「私の部屋、上がってってよ」

 

 

 

 

 ...ミウの雰囲気が茶化すことを拒んでいたし、断ることも許していなかったので俺は素直にミウの部屋に上がった。

 ミウは今着替え中で別の部屋にいる。(一瞬その場で着替えないことに疑問を持ってしまったが、なんとか堪えた)

 その間特にすることもないので、失礼とは知りつつも俺は部屋のなかを見回していた。

 ミウの爽やかな感じの見た目から考えれば以外、ミウの性格から考えれば予想通りな感じで、部屋のなかにはぬいぐるみが多かった。おそらく、攻略中にたまに帰ってきたときにでも部屋に置いていったのだろう。

 何度か出店とかでぬいぐるみとかが売ってると買ってたしな。

 まぁ、なんというか、ファンシーな部屋だな。それに片付いていて綺麗だ。部屋の基調は水色ですごくミウにマッチしているように思う。

 俺の部屋なんてミウの部屋に比べたらほとんど物置だよなぁ...

 

「おまたせ」

 

 もう少し部屋にこだわってみようかと考えていると、着替え終わったようでミウがこちらの部屋に戻ってきた。

 

「いんや、全然待ってーーーー」

 

 う...わぁ...

 一瞬、頭の中の思考が全部吹っ飛んだ。

 見とれなかった、と言えば嘘になる。正直くらっときた。

 こんなに印象変わるのか...

 なぜ俺は最初にミウを男だと思ったのか、と思うほどに今のミウは女の子らしかった。

 上はポロシャツ、下はショートパンツとラフな格好ではあったが、それが逆にミウの快活さのようなものを引き立てているような気がした。

 薄着になったことで分かったが、ミウはかなりスタイルがいいみたいだ。

 本人も気にしている部分いついてはなにも言わないが、なんというか、体の一つ一つがすごくバランスがいい。腰だって細いし、臀部だって形のいい小尻...だと思う。比較対象が少ないからいまいち分かんないけど。

 

「どうしたの?」

 

「ん? あ、いや、なんでもない」

 

 あはは、と笑ってごまかす。

 ...本当のところ、いつもはアンダーシャツとか防具とかで隠れている腕やら足やらの部位が非常に眩しかったりするが、これだけはばれたら不味い。

 ミウは恐ろしく勘がいいけど、自分のことになった途端に鈍くなるから大丈夫なはず。いや、ばれたら不味いってのは別に性的な意味で見ている、とかそういう話じゃないですよ? いやこれは本当に。

 

「? まぁ、いいや。時間経っちゃうと気持ちが緩んじゃいそうだから、早速言うよ」

 

 言いながらミウは俺の前に座る。

 そこでミウの雰囲気が先程のものに戻ったので、こちらも気を引き締める。

 ミウが一度深呼吸する。

 

「コウキ、自分で気づいてる?」

 

「...なんのこと?」

 

 やっぱり。ミウが呟いて悲しそうな表情になった。

 だが、普通はいきなりそんなことを聞かれてもわからないと思う。俺、何か見落としてたか?

 考えても分からないし、とにかく今はミウに声をかけようとする。

 が、それよりもミウの方が早かった。

 

 

 

「コウキ、ヨウトと会ってから笑えてないよ」

 

 

 

「えっ......?」

 

 ミウがなにを言っているのか分からなかった。

 

「な、なに言ってんだよ? 結構笑ってたぞ。それにヨウトと会って分かったけど、俺もう大丈夫だって」

 

 あれ、おかしい。なんで俺、こんなに声震えているんだ?

 これ以上の会話はまずい、頭のどこかではそれを理解していたが、ミウは続ける。

 

「キリトとアスナが来てからはそれほどでもなかったけど、それでも変だった」

 

 その時のことを思い出したのか、ミウの表情はさらに曇っていく。

 そしておもむろに手鏡ーーーーゲーム初日に茅場さんから貰ったものーーーーをストレージから取り出すと、俺に自分の顔が見えるように見せてきた。

 

「自分では笑えてるみたいだったけど、ずっと嫌な笑顔だった」

 

 鏡のなかには、ひどい顔をした俺がいた。自分とは思えないほどに弱々しく、皮肉めいている顔だ。

 自分の顔を見ると、どんな風に笑っていたのか想像できた。

 きっと、自分を傷つけるような笑い方をしていたのだろう。

 つまり、自分へ向けた、嘲笑だ。

 なに自分が裏切ったヨウトと楽しくおかしくしてんだよ。お前にそんな資格ないだろう。

 そんな思いが、無意識のうちに自分のなかを駆け巡っていたのかもしれない。

 ...そうか、だからミウもヨウトもあんな表情をしていたのか。

 俺が黙りこんでいると、ミウがもう一度深呼吸した。

 

「...私は、コウキじゃなければ、どんなに頑張ってもコウキにはなれないし、ましてやコウキの心のなかが見られるようになる訳じゃないからコウキの気持ちは全部は分かってあげられない」

 

 でも、ミウはそう付け加えた。

 

「でも、話は聞いてあげられると思う、相談にも乗れると思う! 一緒に悩むこともできると思う!!」

 

 ミウ...

 そんなこと考えていたのか...

 今までミウのここまで感情を前に出した姿を見たことがなかった俺は、ただ呆然としかできなかった。

 

「だから!!」

 

 感情の上昇に伴うように声の大きさも徐々に大きくしていったミウは一気に吐き出すように言うと、一度呼吸を整える。

 

「もっと....私を頼ってよ...!」

 

 ミウは、とても悲しそうに笑っていた。

 コウキの辛そうな姿を見てるだけなのは嫌なんだ。ミウの目はそう語っているように思えた。

 

 

 

 

「...ごめんね」

 

「いや、こっちこそ...」

 

 少し時間を置くと、ミウは落ち着きを取り戻したようで、いつもの笑顔に戻っていた。

 だがミウが纏う雰囲気は、先程までと何ら変わらない。100%俺を心配して、力になりたいと物語っている。

 俺、最低だな。心配させた挙げ句にあんな顔までさせて...

 そんな自分とはミウを比較して自分が本当に惨めだと思えて嫌気がさす。

 ごめん。ミウに心のなかで謝り、ミウを見据える。

 ...正直、まだ抵抗はある。これは俺の罪のようなものなのだから俺自身で解決するべきだとも思う。

 なにより、これ以上ミウを踏み込ませていいのか?

 これ以上ミウを踏み込ませれば、俺はまた『大切』なものが増えてしまう。また失ってしまうかもしれない...

 でも...

 思い出すのは、この前垣間見えたミウの過去。俺はあのとき自分が踏み込むことではないと引いた。

 だがミウは、今こうして俺に一歩踏み込んできている。俺にはできなかったことを簡単にしてきている。

 ただ、俺のことを心配して。

 ...だったら、俺のミウに対する誠意というのは。俺がしたいこと、するべきことというのは。

 俺はまた震えだそうとする体を無理矢理押さえ込んだ。

 

「ミウ、聞いてくれないか」

 

 俺の言葉に、ミウは頷いた。

 

 

 

 

 俺はヨウトのことを話した。

 ヨウトのことは、そういう友達がいる、という程度にしかミウには言っていなかったので初めて心境を吐露することになった。

 リアルでのこと、ヨウトを見捨てたんじゃないかということ、俺がミウやヨウトのように強かったらあのときヨウトの手を取れたんじゃないかということ。

 話している間、ミウは一言も喋らずに聞いていた。

 

 

 

 

「...まぁ、こんな感じ」

 

 俺は話し終え、顔を伏せた。

 ミウ、なんて言うだろうな。

 それは期待ではなく、恐怖を含んだ諦め、そして自分への惨めさだった。

 こんな話を聞いて、ミウは俺から離れていくかもしれない、もしくは失望するかもしれない。

 俺は、今のミウとの関係をすごく気に入っている。最初は困惑したが、今は一緒にいられてものすごく楽しい。ここまで人間関係で大切にしたいと思ったのはヨウトぐらいだ。(本人たちには死んでも言えないが)

 ミウは俺の話を聞き終えたあとも黙っていたが、ついに口を開いた。

 

「大丈夫だよ」

 

 ミウの思わぬ言葉に驚き、顔を上げると、ミウは笑っていた。

 どこまでも優しく。

 

「コウキはさ、《はじまりの街》に留まってるプレイヤーたちをひどいと思う?」

 

 俺は首を振る。

 ミウは嬉しそうに笑う。

 

「でしょ? それと同じ。ヨウトと別れた時コウキがとった行動は当然のものだし、仕方がないと思う」

 

「でも! 俺はーーーー」

 

「それに、私がコウキとは違うように、コウキはヨウトと違う。それこそどうしようもないよ。どうやっても二人は違う存在だし、だからこそ、考え方も違う。そこに行動の違いも出るのはやっぱり仕方がないこと」

 

 ミウは俺の目の前まで詰め寄ってくる。

 するとミウはまたいつものように笑う。

 

「ほら、コウキが気にすることじゃないでしょ?」

 

 ...それは、許しだ。

 俺が自分自身を許すことを許す。いわば免罪符。

 でも、ダメだ。俺はここで自分を許してしまったら、また同じことを繰り返す。また大切な人の危機に手を伸ばせなくなる。

 もう、そんなことを繰り返してはダメなのだ。もうあんな思いだけは、だからーーー

 

「それにさ」

 

 ミウの言葉が俺の思考を遮った。

 

「コウキだからこそできることもたくさんあると思うよ」

 

 ーーーーっ!

 はっとした。

 それは《はじまりの街》で、俺がミウを助けるための原動力となった言葉だったからだ。

 

「私は嬉しかったよ。他の誰でもない、コウキに助けてもらえて」

 

 ...ダメだ。ダメだ。ダメなのに。ダメなはずなのに。

 俺はもっと苦しまなければいけないのに。

 俺は思わずまた俯いてしまった。

 

「...いいのかな?」

 

「...何が?」

 

 ミウは優しく俺に聞いてくる。

 俺はもうボロボロになりつつある声でミウに聞く。

 

 

 

「俺、自分を許してもいいのかな...?」

 

 

 

「良いも悪いも、誰もコウキのことを恨んでも憎んでもないよ。だから、泣きたいときには泣いてもいいんだよ」

 

 

 

 ミウがにこりと笑った。

 ...ミウは、ずるいなぁ。

 そうやっていつもきれいな笑顔で全部を吹き飛ばして、俺を助けてくれるんだから。

 本当、ずるいわ。

 もう限界だった。

 

「うっく、っく、あああぁぁぁぁぁぁああ!!」

 

 今、やっと分かった。

 俺が欲しかったのは、罰なんかじゃなかった。

 俺は、誰かに隣で言って欲しかったんだ。

 お前は悪くない、大変だったなって。

 

 

 その後、俺はデスゲーム初日からのずっと溜め込んでいたかのように泣き散らした。

 その間、ミウはずっと優しく抱き締めてくれていた。

 

 

 

 

 

 




ある意味、コウキはこの瞬間初めてミウを自分の仲間だと受け入れたのかもしれません。
大切なものが増えればそれだけ無くす可能性も増えて、無くしたときの痛みも増えてしまうから。
だからコウキは一人であることを望んでいた。
それをぶち破ったミウさんは本当に主人公体質やばす。

次回はボス戦....かな?
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