ナフさんから《ナーザ》の戦線布告を聞いた俺たちは次の日すぐに神殿へと向かった。
俺たちが到着した時にはレイアさんやカイム、ナフさんに戦士の人たちが数人集まって、広間の台座を覗き込んでいた。
「すみません、遅くなりました」
「いや、そんなことはないよ。急な招集だというのにこんなにも早く来てもらえて嬉しいよ」
ナフさんは気にするなとばかりに俺たちに言うが、その視線は変わらず台座の上へと向かっている。
俺たちも円陣の中に加わり台座のを覗き込む。そこに広げられていたのは地図と宣戦布告を告知するために届けられたのだと思われる手紙だった。
手紙には戦争の開始日時とその戦闘範囲について記されていて、地図にはその範囲が分かりやすくなるよう円形に線が引かれていた。
というか、この戦闘範囲は……
「かなり広いな」
俺と同じ感想をヨウトが言う。
イベント用のインスタントマップを使って戦争が行われるわけだが、その広さがとにかく広大だ。
広さはおよそ44層の面積の4分の1にも匹敵しそうだ。
「こんなに広く戦闘範囲を広げるのに意味あるのか? ただ規模がデカくなるだけで作戦も人員配置も大雑把になりそうだけど」
「いや、むしろそれが狙いなんだと思うよ。彼ら《エイジス》にしてみれば個々人の戦闘が最も確実な勝利に繋がるからね。人員と戦闘力の差がそのまま反映される広さと言ってもいいかもしれない」
「と言うことは、カイムとソルグをぶつけてこっちの動きを封じる作戦も兼ねてるのかこれ」
「おそらくね。全く、僕のことを高く買ってくれるのはありがたいが、いくらなんでも高く見積もりすぎだと思うけれどね」
いや、ソルグと同等の戦闘力ならこれでもまだやりすぎとは言えないだろう、というツッコミは飲み込んでおくことにする。
こちらとして1番嫌なのは、最大戦力となりうるカイムを人海戦術で包囲されて完全に無力化されることだ。それと比べれば人員を広く薄く広げてくれるのはむしろありがたい。
でも、そんなことは向こうも分かっているはず。ならどうしてそうしないのか。いやそもそも。
「なんで戦線布告なんて律儀なことしてくれるんだろうな。1番《ナーザ》的に楽なのは人数差に物言わせた急襲だろうに」
「ヨウト君、それは彼ら《ナーザ》が国としてのしきたりを重んじるところがあるからさ」
「しきたり?」
「あぁ、彼ら《ナーザ》は礼節や義を重んじる傾向がある。それ故に正々堂々や一騎討ちといった戦法を好むのさ。カイムをソルグと一騎討ちさせるというのも、その流儀に則ったものだろう。だからこそ、この手紙の範囲や日時が書いてあるものと違うことは考えにくいし、罠や多対一を好む僕たち《ガイア》のやり口とはまさに正反対と言ったところだね」
「なんだか、そうやって聞くと私たちの方が悪者みたいな感じに聞こえちゃいますね……」
リリの言葉に俺も苦笑いを溢してしまうがこればかりは仕方がないだろう。
戦闘力として劣っているのであれば策を弄するしかない。知恵を振りしぼるしかないと言うのは古代から続く生物の本能のようなものだ。というか、正に俺自身がそういうタイプだ。
だがそうやって勝つしかないのであれば、やはり知恵を絞るしかない。
地図を改めて見返すとあることに気がつく。
「この戦闘範囲、この神殿も戦闘範囲に入ってるな。もしかして攻城戦も兼ねてやるのか」
「そう言うことになるだろうね。攻城戦を行なってこの儀式城を守りながら敵の主力、もしくは大将格を討ち取る、これが僕たちの勝利条件ということになるだろう」
「それはまた……なんて無理難題だ」
現状の詰み具合に冷や汗が浮き出てしまう。
人員が少ない上にこの状況、いくらなんでも不利すぎる。これはもう降伏も視野に入れた方が良いんじゃないか?
なんて考えながらミウの方を見ると、意外にもミウも俺と同じように現状の不利な具合に難色を示していた。
こう言う時諦めず頑張ろうと言うのがミウだと思っていたのだが、少し驚いた。そしてその間にミウが口を開く。
「《ナーザ》が攻め込んでくるのって《ガイア》の儀式を邪魔するためなんだよね? それなのにこの戦闘範囲はやっぱり無駄に広すぎるんじゃないかな?」
確かに。儀式を邪魔したいのであればただこの神殿を攻撃したら良いだけの話だ。それをわざわざ戦闘が起こりやすい状況を作り出しているってことは。
「《ナーザ》の狙いは、戦闘そのもの……?」
「可能性は、あるだろうね。《ナーザ》には僕たち《森人》のような特別な力を持つ者はいないが、その代わりに戦えば戦うほど力を増していくという特性がある。無闇に戦闘範囲が広い理由の一つにはそれもあると思う」
相手の目的は儀式の妨害に戦闘そのもの。こちらの勝利条件は敵大将の討伐。敗北条件は戦闘の長期化、または儀式場まで辿り着かれること。
並べて見返してみればみるほど不利な状況だ。不利すぎて頭が痛くなってくる……いや、いくらなんでも状況が悪すぎる、か?
もしこれが開戦までもう少し時間があれば下層にいる《ガイア》の戦士を連れてきて戦況を有利にできたかもしれない。罠を作る時間ができてこちらに有利になっていたかもしれない。
それにだ。俺たちはこの神殿に来るまで今回あ《エイジス》と戦闘をしなかった。つまり、ここにいることをおそらくはバレていないし、何よりなぜこの神殿の位置がバレているんだ?
位置は《ナーザ》側も古い付き合いだから元々知っていた、ということで納得できるが、タイミングに関してだけは俺たちがここにいることを知らないと開戦もできない。
なんでこんな良いタイミング、いや悪いタイミングで……と考えていると、ここまで沈黙を守ってきていたレイアさんが口を開く。
「私の、タイミングが悪かったのかもしれません。《宝珠》が集まったことは《ナーザ》側も情報を掴んでいたはず。そこから満月の日を逆算されて私たちの移動日を先読みしたのかもしれません」
「襲っては来なくても《エイジス》に皆で移動するところを見られてたってことか」
可能性としては、それが1番高いか。俺たちも今回の護衛は気張りすぎていて誰から観察されている可能性なんてものは頭から抜けていたし、いくら俺が《索敵》スキルを持っているからと言っても隠れている者を全員見つけられるわけではない。
今の状況把握は、こんなところか。何度も言ってしまうが、やはりかなり分が悪い。
「それでも、今の状況をなんとかしないとね」
俺の考えを察してか、ミウが力強く言う。
それに俺も頷き返す。そうだ、昨日誓ったばかりではないか。ミレーシャさんの願いを叶えてみせる。絶対に。それにあの守護獣に襲われていた時に比べればまだまだイージーだ。音を上げている場合ではない。
ミウの言葉を聞きナフさんとカイムも同じく頷いた。
「そう言ってもらえて助かるよ。こちらの戦力は確かに足りていないかもしれないが、それは僕の《治癒》の力で支えてみせよう。全体の戦士の回復は難しいかもしれないが、攻城戦に参加する戦士ならば回復させ続けてあげられると思う」
「僕も可能な限りの戦果はあげよう。君たち剣士様にここまで言ってもらえるんだ。ここで僕が戦果を上げなければいつ上げるんだ、と言うことになるからね」
2人の言葉にこの場にいる全員の目に意志が宿る。士気が向上していくのを感じる。
やっぱりこういう時に1番力をもらえる言葉を言ってくれるのはミウだなと小さく笑う。おかげで少しビビりかけていた俺の心にも火が灯る。絶対に守りきってみせるという覚悟と共に。
「では、詳しく戦線の話に入ろう。まずカイムは──」
SIDE Miu
「ミウ様、少しよろしいでしょうか?」
緊急会議が終わり各々が明日への準備を始めると、レイアさんに呼び止められた。
呼び方的に私だけに用があるらしい。少し外れても良いかなとコウキに視線を送れば、いいよと優しく微笑み返してくれた。
そのままレイアと歩いていき広間の端の方に着くとレイアが私の方を振り返った。
「ごめんなさい、急にお呼び止めしてしまって」
「ううん大丈夫だよ。準備って言っても私たちの場合できることってあんまりないから。それでどうしたの? 何か用事?」
「はい、実は……ミレーシャのことで、少しお話が」
ドクン、と心臓が飛び跳ねる音が聞こえた気がした。
この体は本物の私の体ではないのに。一気に鼓動が早くなっていくのが分かる。手のひらにうっすらと汗が滲む……逃げ出したくなる。
きっと、笑って何でもないように振る舞うのが楽だ。振りでもそうしていれば自分をも誤魔化せる気がするから。
でも、それじゃあもうダメなんだって、コウキが教えてくれた。だから私は、私のままで会話を続ける。
今の私のまま──罪悪感に押しつぶされそうで、必死に泣きたくなるのを我慢している私のまま。
「うん、ミレーシャが、どうかした?」
「……身勝手なことも、失礼極まりないことも分かっています。それでも、どうか、お聞かせください。彼女の、ミレーシャの最期が、どういったものだったのかを」
レイアさんも申し訳なさと私への罪悪感を必死に噛み殺したような表情で言う。それはまるで、私と同じ、ミレーシャの死は自分の責任であると言わんばかりに背負い込んでいるかのような目で。
確かに、レイアさんにはミレーシャがどういう風に私たちを守って戦ってくれたのかを、細かくは話していない。レイアさんはミレーシャと仲が良いように見えた。友人であるならミレーシャのことを知りたい気持ちは分からないでもない。
「でも、聞いて気分悪くしたりしない? 明日は大事な戦いなのに」
「いいえ、違いますよミウ様。だからこそ、私は知らなくてはいけないのです。私も明日は死ぬ運命かもしれません。ミレーシャと同じように。そしてそんな時でも、足をすくませず、前を向いていたいから、同胞の生き様を知っておきたいのです」
「……」
すごいな、と思った。
私は今でもミレーシャの死と本当の意味で真正面から向き合えているかと言われると、おそらく向き合えていない。
そんな私と違ってレイアさんはミレーシャの死を過去にしないまま、自分も一緒に悲しみを背負う覚悟で、今こんなことを聞いてきているんだ。
これが、王女になる人の器か。私とは全然違うその大きさにただただ感服するしかない。
それでも、私も前に進まなきゃいけないのは同じだ。だから、逃げてはいけない。
私は一度息を吸って自分の中に力を溜める。逃げないように。前を向いていられるように。
「なら、私のこと、ミウって呼んでよ。様付けなんかじゃなくてさ。レイアさん──ううん、レイアとも、私は友達になりたいから」
「それは……ミウ様たちには私たちを守ってもらうのですから、そんな不遜なことは……」
「でも、ミレーシャは呼んでくれたよ? 《宝珠》の時、私を応援してくれたレイアなら呼んでくれると思うけどなー」
「う、あれはその……はぁ、分かりました。では、ミウ」
少し拗ねたようなでも親しみを感じる呼び捨ての名前。
それまでの過程とか呼び方はどこか彼女に似ていて、少し笑ってしまった。
「どうかしましたか?」
「ううん、ミレーシャともこんな会話したなぁって思い出して」
あれは2人で温泉に入っている時だっただろうか。今では少し懐かしくて、切なくて。でもやっぱり大切な思い出のひとつだ。
「それで、ミレーシャのことだったね。うん、話すよ。ミレーシャは──」
私は語る。友達の生き様を。私が守れなくて、私を守ってくれた、大切な、友達の話を。
涙声になったり、詰まったりもしたけど、それでも最後には笑顔でいられた私は、少しは前に進めているんだと思う。
SIDE Kouki
「コウキくん、少し良いかな?」
「カイム」
ミウを見送った後、今度はカイムに話しかけられた。彼は俺の名前を呼んだがレイアさん違って用があるのは俺たち全員のようだが。
「少し《エイジス》のことで話をしておきたいと思ってね。今は何よりも欲しいのは情報だろう?」
「そうだな。俺ももう少し話を聞きたいと思ってたんだ」
作戦や対策の話は先ほどもできたが、《エイジス》自体の詳しい話やそれぞれの所感は聞いている暇がなかった。とは言っても皆忙しそうだからこちらから聞くのは少し憚られていたのだが、カイムの方からそう言ってもらえるのはありがたい。
「君たちは《エイジス》やソルグとも戦闘をしたんだよね? 彼らについて、どう思った?」
「そうだなぁ……まぁ、良くも悪くも、正々堂々だな、って思ったよ」
襲ってくる時も必ず正面から、しかも声を上げながら迫ってくるのだからタイミングは分かりやすいし仮にソードスキルを使われても対処しやすかった。
ソルグと戦ったヨウトも俺も同感とばかりに頷く。
「俺もソルグと戦った時はそんな感じだったな。しかも初撃を俺に譲ってくるくらいだし。まぁあれは油断もあったのかもしれないけど」
「そう、それが彼らの習性とも言える。良くも悪くも王道な戦い方をする。だからこそ、搦手には少し脆い部分があるんだ」
でも、とカイムは付け加える。
「だからこそ、型にハマった時の彼らの戦闘力は桁違いに高くなる。真正面から撃ち合えばその筋力差で押し負けることも考慮に入れた方がいい。何より、彼らは僕たちには使えない不思議な剣術を使うからね」
「え、不思議なって」
ソードスキルのことだよな。と聞いてその言葉の意味がカイムに分かるのかどうかが謎だったため続きの言葉は発せなかった。
だが納得のいく部分もあった。確かにカイムたち《ガイア》の戦士はソードスキルを使った場面を見たことがない。護衛の際も力押しよりも連携を基本とするからソードスキルを使わないんだろうと思っていたが、まさか使わないんじゃなくて使えないとは。
「君たちが使う剣術と似たようなものだよ。あれこそが僕たち《ガイア》と《ナーザ》の決定的な戦力差とも、種族としての違いとも言える。戦の神に愛された《ナーザ》は昔から伝え教えられてきた不思議な剣術を扱い、圧倒的な戦力を身につける。あれと打ち合えるのは君たちか、《ガイア》の主力舞台でも数名というところだね」
厳しそうな表情で言うカイム。だが確かに、その情報は聞いておいてよかったと思う。開戦してから知っていたんじゃその場で慌てふためいてゲームオーバーだったかもしれない。
というか、ソードスキルなしでソルグと互角以上に戦えるカイムがいよいよ化け物じみてきた。この人、NPCよりもmobに近いんじゃないだろうか。
「彼らと打ち合える君たちは僕たちにとって切り札のようなものだ。だから打ち合えるからといって真正面から戦うんじゃなくて、僕たちと同じように側面から叩いて一人一人に時間をかけないことを勧めるよ。特にソルグとその側近の2人の二将軍。そして大将である《エイジス》の王は危険んだ」
二将軍と《エイジス》の王。それは新しい情報だ。
「ソルグはわかるとして……やっぱり他の奴らも強いのか?」
「あぁ。二将軍は2人合わさればソルグをも超えるかもしれない強さを誇る。基本2人揃って行動しているから僕たちの戦隊のど真ん中にやってきて大暴れされる可能性が高い。この2人を早めに抑えないと僕たちの戦隊の瓦解は必至だろう」
そうか、基本多対一の多側を好まない《ナーザ》はその二人組であっても1人の相手を狙うようなことはしない。それはありがたいことかもしれないが、だからと言って多対二での戦いを好んで行われて、しかも戦線を崩されるのはこれもまた最悪だ。
「そして《ナーザ》の王。彼は戦の国のトップに座する方だ。その強さは僕にも測りきれない。間違いなく、僕や部下のソルグよりも強いことだけは確定だろうけどね」
王様の情報はカイムもそれ以上は持っていないらしく「力になれなくてすまない」と謝ってきたがそんなことはない、知らなかったらどれも最悪の結末を迎えていたかもしれない情報ばかりだ。
「カイム、どれも助かる情報だったよ。わざわざ時間まで取って教えてくれてありがとう」
「当然のことさ。僕たちは仲間なんだから。ソルグのことは必ず抑えて倒してみせる。だから君たちも明日はどうか気をつけて戦ってほしい」
「あぁ、分かったよ」
カイムはそう言って、戦争の準備へと戻っていった、俺たちも何か手伝いたいができることがほとんどない。精々俺とリリが前に教わったトラバサミをいくつか作ったり荷物運びを手伝うことぐらいだ。
それでも、各々ができることする。守るために。失わないために。
そうして動いている間にどんどん時間は過ぎ去っていき、そして、夜が明ける。
開戦の日が、やってきた。
最近ポケモンに時間使いすぎて執筆時間がががががが
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