力無き少年のソードアート・オンライン   作:Aruki

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九話目です!
今回はバリバリ戦います!
戦闘描写頑張りました!
楽しんでいただけると嬉しいです!
それではどうぞ!!


9話目 1層

 どうしよう......

 俺は今、非常に困っていた。

 それはもうどうしようもないぐらいに。

 昨日、あのあとある程度落ち着いたら俺は自分の部屋に帰って、幾分楽になった心持ちで眠りについた。

 そして今はベッドの上に寝転がって、いや、うずくまっている。

 端的に言えば。

 ーー昨日のことが今になって恥ずかしくなってきたのだ!!

 うわぁ!! 思い出したらまた恥ずかしくなってきた!?

 昨日はミウへの感謝とかそんな気持ちしかなかったのにぃ!?

 思い出すまいとすればするほど昨夜の記憶が鮮明に思い出される。

 俺、昨日ミウの前で子供みたいに泣いて、しかも抱き締められて慰められて、それがすごい落ち着いて......

 

「う、うんがーーーーーー!!!」

 

 

 

 

「おはよう......」

 

「あ、コウキおはーーどうしたの!?」

 

 ミウが驚くのも無理はないだろう。俺は朝から全身ボロボロで待ち合わせ場所に現れたのだから(と言っても圏内ではHPは減らないので、あくまでも雰囲気が、だが)

 現在午前8時ちょうど。約束通りの時間だが、俺はいつも約束の時刻よりも早く来るので、いつもよりも少し遅い。

 でも、少し遅れた分恥ずかしさはもう消えたので結果オーライで。

 

「ミウ、昨日はその、本当にありがと」

 

「あはは、どういたしまして」

 

 ミウはいつものように笑って言う、が、

 

「ところでコウキ、なんでさっきからこっち見ないの?」

 

 はい、ごめんなさい。嘘です。出任せです。正直今も恥ずかしくてミウの顔が見られません。

 いや、でも仕方ないじゃん!? さすがにたかだか1~2時間で切り替えとか無理だから!!

 

「......気にしないで」

 

「いや!? そんな顔で言われたら余計に気になるよ!?」

 

 ミウが俺が顔を背けている方向に回り込んでくる。

 目の前に現れるミウの顔。それはまるで昨日の再現のようで......

 

「ぎゃーーーーー!! あともうちょっとでなんとかなりそうだから今は気にしないでくださいお願いしますーーーーーー!!」

 

 ......そんなこんなで、この世界初めてのボス攻略の一日は始まった。

 

 

 

 

「おー、おはよう......ミウ、コウキはどうしたんだ?」

 

「知らない!」

 

「なぁ、コウキ、なんかあった?」

 

 俺たちは移動して今は攻略組の集合場所にいる。もちろん、ここにはディアベルやキバオウたちも集まっている。

 あのあと、俺もミウもどちらも譲らなかったので、ミウが少し拗ねてしまったのだ。

 ヨウトは少し困ったように聞いてきたが、さすがにありのままを話すわけにもいかないので黙っておく。

 

「いや、まぁ、ちょっと色々......」

 

「へ~!」

 

 まずい、ヨウトのやつ目を輝かせてやがる。

 昔からヨウトは他人の心中を察するのが得意だった。そのせいか相手が少しでも楽しそうなこと(弄りネタになるもの)を隠し持っていることを勘づくと、それを暴こうとしてくるのだ。

 しかもヨウトの場合コミュニケーション能力も高いから余計に悪質だ。

 このままでは昨夜のことがヨウトにばれてしまう。そんなことになったら、いったい同じネタで何ヵ月弄られることか......

 俺は何か話題を逸らすものがないかと思考を必死に動かしていると、ちょうどヨウトに話したい内容があることを思い出した。

 少し恥ずかしいが......けじめは大事だ。俺が悪いのは明らかなんだから。

 

「ヨウト」

 

「ん? やっぱ相談する気になったか?」

 

「いや、そうじゃなくて......」

 

 だから目ぇ輝かせんな。こちとら真面目な話しようとしてんだよ。

 悪いのは俺。それは分かっているのだが、どうしてもこいつのキラキラ輝いている目を見ると舌打ちしそうになる。

 小さくため息をつく。

 まぁ、こいつ相手にはこれぐらいがちょうどいいのかも。

 

「......ごめん」

 

 軽い雰囲気になっても少し抵抗があったが、思っていたよりも素直に口から出た。

 もしかしたら昨夜の盛大な暴露のせいで少し口が軽くなっているのかもしれない。

 ヨウトも俺が謝った理由が分かったのだろう、一瞬驚いたような顔をしていたが、すぐににかっと笑う。

 

「おう! 気にすんな!」

 

 ヨウトは明るく笑って言った。

 それは正真正銘、今度こそいつも通りの俺たちの会話だったと思う。

 ふとミウを見ると、安心したように笑っていた。

 ミウには今回、本当に心配かけたし、今度何か甘いものでも奢るかな?

 ミウのことだから、そんなの貰えないとか言いつつ甘いものから目が話せない状態にでもなりそうだ。

 想像しただけでも軽く笑える。

 ......今度は本物を見て笑えるように、今日無事に帰らないとな。

 

「よしっ!」

 

 俺は両頬を叩き、気を引き締めた。

 

「おはよう」

 

「おはよう、キリト、アスナ」

 

 数分すると、キリトとアスナも合流した。

 それとほぼ同時に攻略メンバーが全員集まったので、ついに出発することになった。

 

 

 

 

 俺たちのパーティー、F隊の今回のボス戦での役割は、1層のボスである《イルファング・ザ・コボルトロード》の取り巻き《ルインコボルト・センチネル》の駆除、及びボス本体と戦っている部隊のアシストだ。

 まぁ、要は何でも屋。ザ・雑用だが。

 俺たちのパーティーは正直な話、現時点では個々の能力も総合力も最強だと思う(俺を除いて)

 それなのに仕事は雑用と、扱いが悪いのは別にディアベルの性格が悪い、というわけではない。

 ウチのメンバーが目立ちすぎているせいだ。

 キリトは現時点最高レベルで、それは他のプレイヤーにもそこそこ知られているらしく、快く思われていない。

 昨日知ったが、ミウもあちらこちらでプレイヤーを助けていたこともあり、何気に名前が通っている。

 ヨウトは...正直こいつが一番問題だ。

 攻略中他方ででしゃばりまくっていたらしくーー俺が知っているのはmobを狩り尽くしただの、迷宮区攻略中1人突っ走った等。他多数ーー攻略組のプレイヤーには目の敵のように見られている。

 と、目立つプレイヤー、もしくは人はどんな世界でもあまり面白く思われない。レイドの不和を生み出さないように、ディアベルは俺たちをこの役割に置いたのだと思う。

 

「今日はよろしく」

 

「こちらこそ」

 

 今は迷宮区に向かって進行中だ。

 今挨拶したのはエギル。俺たちのパーティーがアシストする部隊のメンバーだ。

 肌は黒ですごくがたいがいい。筋骨隆々というのがまさに当てはまる男性プレイヤーだ。

 そのエギルは申し訳なさそうに謝ってくる。

 

「すまんな。お前たちの方が明らかに強いだろうに......」

 

「いや、まぁ仕方ないよ。ある意味ではこれが最善だと思うし。ありがと」

 

「そうだよな、仕方ない、仕方ない」

 

「おいコラ、バカヨウト。ほとんどお前のせいだろうが」

 

「......めっちゃ楽しかったぜ!」

 

「なんで開き直ってんの!? お前絶対自覚あんだろ!?」

 

 なぜか元凶が一番楽しそうにしていたのがムカついたので、軽く頭を叩いておく。

 エギルにバカが悪いな、と謝っていると、

 

「......へぇ」

 

 少し離れて歩いていたミウが(機嫌は直ったようだ)俺を見てそんなことを言った。

 

「どうしたミウ?」

 

「いや、これが本当のコウキなんだなぁって思ってただけ」

 

「......俺、そんなに違う?」

 

 ミウが言っているのは昨日までの俺と比べて、ということだろう。

 確かに心境としてはかなり変わったけど......

 そんな態度とかまで違うつもりはないんだけどなぁ。

 ミウも俺の考えと同じように、笑って首を振る。

 

「ううん、でもやっぱりどこか自然体じゃなかった気がするから」

 

 うっ、なんか自分のことを自分以上に理解されてるって恥ずかしいな......

 でも、今こうしていられるのは間違いなくミウのお陰だ。

 

「......ありがと」

 

「ふふっ、今度の層でパフェ出たら奢ってね?」

 

 うぐっ。まぁ、考えてたからいいけど......。

 

 

 

 

「みんな、着いたぞ!」

 

「ここが......」

 

 迷宮区に入ってから約1時間、俺たちはボス部屋の前に到着した。

 迷宮区は主に石が積まれた壁や天井と、遺跡のような形で作られていて不気味さ満点の作りになっているが、ここ、ボス部屋の前はそれに輪をかけて全く別の空間のように感じた。

 その最たる要因はやはり、部屋に入るために通るこの巨大な扉だろう。

 天井までの高さを誇り、完全に扉が開けば50人程度は余裕で通れそうな扉の大きさだ。

 しかもその巨大な扉の表面には何か紋様のようなものが掘られていて、不気味さをより醸し出している。

 ......さすがに少し怖いな。

 別に力んでいるわけでもないのに、体の節々に勝手に力が入ってしまう。

 隣を見れば、ミウも少し緊張した面持ちになっていた。

 いかんいかん、もっとしっかりしなければ。俺は何かミウに声をかけようとする。

 

「コウキ、ミウも」

 

 が、それよりも一瞬早くキリトが声をかけてきた。

 

「落ち着いて、いつも通りに戦えば大丈夫だ」

 

「えっと、ばれてたか?」

 

 キリトが苦笑いで返してくる。

 くそう、ミウはともかく、俺はそこまで顔に出ないほうだと思ってたんだけどな......

 キリトは一度目をつぶった後、再び俺は見据えてくる。

 

「お互い、生き残ろう」

 

「......あぁ!」

 

 俺たちがお互いを鼓舞し合ったところで、ディアベルがメンバー全員に聞こえるように叫ぶ。

 

「みんな! 俺たちがここで勝てばプレイヤーたち全員の希望になる! 自分のため、みんなのため、勝とう!!」

 

「「「おぉぉぉぉぉぉぉお!!」」」

 

 ディアベルの言葉にメンバー全員が雄叫びを上げた。

 ......すごいな。これだけの人数を完璧に先導してる。しかも士気の上げかたも上手い。

 この世界の戦いは一度死ねば即ゲームオーバーだ。そんな中のボス戦なのだから、どうしても及び腰になるプレイヤー、それこそ俺みたいなやつもいただろう。

 それをここまでモチベーションを上げるのだから見事の一言しかない。

 

「コウキ」

 

「ん?」

 

 ミウが笑いながら手の甲を俺に向けてくる。

 どうやら緊張は幾分軽くなったようだ。

 

「がんばろっ!」

 

「あぁ!」

 

 確かに恐怖はあるし、体も微かにだが震えてはいる。

 だがそれよりも今はミウたちと一緒にいることの方が心強かった。

 俺もミウに会わせるように手の甲を当てる。

 それとほぼ同時に、不気味な雰囲気をまとった巨大な扉が動き始めた。

 いよいよだ。

 ゆっくりと、重苦しい音を上げながら扉が開いていく。

 まるで重苦しい音そのものが巨大なmobの唸り声のようだ。

 

「総員、突撃ーーーーーー!!」

 

 そして門が完全に開いた瞬間、ディアベルの合図と共に全員が門のなかに入っていった。

 中は明かりひとつなく、ただただ暗い空間だったが、少しすると壁に並ぶように飾ってあった松明が一斉に火を灯し部屋を照らした。

 かなり広いな......

 部屋の全体が見渡せるようになったことで部屋の規模が分かった。なるほど、確かにボスのような大型mobでも不自由なく動けそうな部屋だ。

 部屋の奥には馬鹿でかい玉座のようなものがあり、そこにはこの層のボス《イルファング・ザ・コボルトロード》が俺たちを待ち構えるように座っていた。

 コボルトロードは豚か犬を亜人化したような姿をしていて、全長は3メートル程度、腰には剣を1本帯刀していた。

 さすがはこの1層の門番。そんじょそこらのmobとは比べ物にもならないほどの威圧感がある。

 コボルトロードは玉座から立ち上がると、脇にあった斧を拾い上げる。

 そして、

 

「オァァァァァァァァアア!!」

 

 叫び、自分のHPバーを出現させると、俺たちに向かって走ってきた。これほどの大きさのmobが猛然と走ってくる様は俺たちに恐怖を与えるには十分すぎる。

 走っている最中、コボルトロードの両脇に《ルインコボルト・センチネル》が出現する。

 センチネルは大きさこそはコボルトロードのような巨体ではないが、体を所々鎧で纏っていて、コボルトロードの取り巻きらしく武器は斧、ということもあり、ボス戦に相応しい存在感を放っている。

 

「A隊、B隊は前衛、C隊、D隊はスイッチ準備、E隊は後方でソードスキル用意、F隊はセンチネルを近づけるな!!」

 

「「「了解!!」」」

 

 ディアベルの指示に全員従い、行動を開始する。

 瞬間、ミウ、ヨウト、アスナが飛び出しセンチネルを攻撃した。

 行きなり攻撃されたことに虚を付かれたのか、センチネルたちは簡単に後方に吹っ飛んでくれた。

 これが俺とキリトが考えた作戦だ。

 まず、スピードが攻略組でも突出している3人が速攻でセンチネルのタゲを取り、撹乱しつつ攻撃。少しでも隙が出来たら攻撃力のある俺かキリトが叩く、というものだ。

 これならば全員の長所をそのまま生かすことができる。

 

「スイッチ!」

 

 ミウが早速言ってくる。

 ミウがパリングしたことで斧をあらぬ方向へ振らされ、隙だらけのセンチネルに《バーチカル》を叩き込む。

 が、さすがはボス部屋。センチネルは一撃では倒れてくれず俺の攻撃に耐えきると、斧を振り回すように反撃してきた。

 

「っ、しぶといな」

 

 俺はスキル発動後の硬直からギリギリ抜けて、剣を盾のようにして防御する。

 センチネルの斧が剣に当たった瞬間、軽く後退させられる。

 っと。さすがに斧の攻撃は重いな......

 これはあまり大振りな攻撃と正面からの防御はやめた方がいいと思いつつ、俺は後方で待機していたミウと一度入れ替わる。

 

「ミウ、アスナはそのまま作戦続行! ヨウトは後ろに下がってスイッチ準備だ!!」

 

「「了解!」」

 

「それとキリト。センチネルの耐久力が予想よりも高いから止め以外はスキルはなしの方がいいかも」

 

「あぁ。分かった」

 

 俺は全員に指示を出し、スイッチの準備にはいる。

 えっ? なんで俺が指示を出しているかって?

 それは俺がこのパーティーの作戦隊長だからですヨ!

 誰だ!? 今頼り無さそうとか言ったやつは!?

 

「コウキ君、スイッチ!」

 

 ミウと同じようにセンチネルの斧を跳ね上げたアスナが言ってくる。

 

「あぁ!」

 

 スイッチする瞬間、アスナが相手していたセンチネルを見る。

 HPは残り四割。これならいける!

 俺は二度目の《バーチカル》を決め、今度こそセンチネルを倒す。

 ミウたちの方を見ると、キリトとミウがスイッチして《バーチカル・アーク》で同じくセンチネルを沈めていた。

 たしかあっちのセンチネルはまだHPを7割ほど残していたはずなのに、それを一撃か......さすが。

 センチネルは倒して10秒ほど経つとリポップするので一息つく暇もない。

 その10秒の間にボス本体の様子を見る。

 4本あったHPバーは既に2本なくなり、3本目ももう半分を過ぎていた。

 本当にディアベルのカリスマ性と指揮能力は本物だな......すごいとしか言いようがない。

 いくらプレイヤーの数も質もいいといっても、数分でここまで削れるのはディアベルの力なしには不可能だろう。

 

「コウキ、来たぞ!」

 

 ヨウトに言われ、意識を目の前に戻すと、ミウがリポップしたセンチネルに囲まれていた。

 その数は3体。

 

「くそっ!!」

 

 ミウのほうに走りながら吐き捨てる。

 センチネルのリポップ範囲はこの部屋全体。なのでリポップ位置はかなりバラける......はずなのだが、まさか3匹のリポップ場所が全部被るなんて。

 ミウもこの状況はまずいと、3匹の包囲を抜けようとするが、人型のmobはAIも高いのでミウも苦戦しているようだ。

 すると、ミウが走ってくる俺に気付き、センチネルたちの隙をつくように全体攻撃スキル《ホリゾンタル》を3匹に当てる。

 

「ナイス!」

 

 ミウの攻撃によって一瞬怯んだセンチネルの一匹に《スラント》を叩き込む。

 かなり防御力も高いセンチネルだが、連続して攻撃を食らったことにより受けきれずに吹っ飛んでいく。

 倒すには至らなかったが、これで時間が稼げる。

 他の2匹を見ると、ヨウトとアスナがそれぞれ相手をしていた。

 とりあえず、これで大丈夫か......

 安心して息をつきそうになったが、まだ何も終わっていないと自戒する。

 それと同時に、

 

「アアアアアアアアアア!!」

 

 HPバーが残り1本になった瞬間、コボルトロードが再度叫んだ。

 そしてそれに呼応するようにコボルトロードの纏う雰囲気が先程までよりもさらに凶悪になった。

 バーサークモード。ボスクラスのモンスターのHPバーが残り1本になった時、平常時より攻撃力が上がり、行動パターンにも変化が現れる、というものだ。

 すると、コボルトロードは手に持っていた斧を投げ捨てると、帯刀していた武器に手を伸ばした。

 

「あれ?」

 

 その時、俺は妙な違和感に襲われた。

 会議の時の話ではコボルトロードが持ち替える武器は曲刀カテゴリのタルワールという話だった。

 だが、あいつが今持った武器、前にどこかで...

 そうだ、リアルでヨウトにSAOのカタログを見せてもらった時だ。名前は確か...

 

「ノダチ......情報と違うだと!?」

 

 そうだ、ノダチだ......って、じゃあ!!

 背筋を一気に冷たい感覚が走り抜ける。

 まずい、このままじゃ......!

 

「総員引け! 俺が行く!!」

 

 声が響くと同時にディアベルがコボルトロードに突っ込んでいく。

 あの様子だとディアベルは武器が違うことに気づいていない。

 周りも気づいていないらしく、行けーーー!! というような歓声が。

 

「ダメだ!! 行くな!!」

 

 そのせいでキリトの制止の声は全てかき消されてしまった。

 コボルトロードの持つノダチが赤く光る。ソードスキルのモーションに入った証だ。

 そしてその巨体が高速でディアベルに接近し、躊躇なくノダチを振り抜いた。

 あのスキルは、アルゴのガイドブックに載っていた。

 《龍尾》刀スキルの超攻撃的スキルで、抜刀術のような動きで相手を切り裂く。

 普通はただ相手を切るだけのスキルなのだが、コボルトロードほどの巨体で切りつけられれば、人など簡単に吹き飛ぶ。

 それに準ずるように攻撃を正面から喰らったディアベルは壁際まで吹き飛ばされた。

 

「ディアベル!!」

 

 キリトは叫ぶと、ディアベルのもとに駆け寄っていった。

 そしてディアベルが倒れたことにより、プレイヤー間に動揺が一気に広がっていく。

 まずい! 戦線が崩れる!!

 

「ミウ、ヨウト。アスナ! 頼む、少しの間戦線を保ってくれ!!」

 

 言って、俺は3人の返事を聞くよりも早くキリトを追っていく。

 キリトのやつ、今襲われたらどうする気だよ!

 今ももちろん、センチネルは行動している。

 幸い、今は近くにはいないが、キリトがディアベルを助けている最中に寄ってくるということもある。

 キリトに追い付くと、キリトがディアベルにポーションを飲ませようとしていた。

 その判断は正しい。ディアベルのHPは今すぐポーションを飲ませないと、死ぬかどうかというほどに減っていたからだ。

 キリトがポーションをディアベルに差し出す、がーーディアベルはそれを拒んだ。

 ディアベルの顔はもう自分の死を受け入れているようだった。

 ......ムカつくな。

 

「いいからさっさと飲め」

 

 俺はディアベルが拒んだポーションをキリトから奪い、無理矢理ディアベルの口に突っ込んだ。

 

「うぷっ!?」

 

 ......なんか喉の奥に当たったような感触が伝わってきたが、まぁ、気のせいだろう。

 一応ディアベルがポーションを飲んだか確認してから言う。

 

「あんたがこんなところで死んでも何にもなんねぇよ」

 

 ゆっくりとHPバーが回復していくディアベルがこちらを見る。

 

「あんたが言ったんだろ? 希望になるって。あんたを慕ってる人たちだって、求めている人たちだっているんだ。その人たちを悲しませるなよ」

 

「ーーっ!」

 

 ディアベルがはっとした顔になる。

 それに対して俺は......少し自嘲していた。

 今言ってるこれ、ただの昔の俺の願望だったことだよな......

 しかも俺は今、心が折れかかっているディアベルを利用し、この戦いに勝つことしか考えていない。醜いことこの上ない。

 俺は小さくため息をつき、思考をもとに戻す。今はこのことは考えなくていい。

 

「それとも、ラストアタックのことを気にして、それに少しでも罪悪感を感じてるのなら、生きて、あんたのその力でみんなを引っ張っていくことで償えよ......死ぬことで、じゃなくてさ」

 

「......すまない。だが、君もラストアタックのことを知っていたのか?」

 

 俺はそれに無言で返す。

 ラストアタックのことは昨日、βテスターであるという告白と共にキリトから聞いていた。

 もしかしたら、最後の一撃を狙ってβテスターが動くかもしれない、と。

 まぁ、それがディアベルだったとは俺もキリトも予想していなかったが。

 ......さて、あとはキリトの役目かね。キリトに目で話を振る。

 

「あんたは俺には、俺たち他のβテスターには出来なかったすごいことをしたんだ。こんなところで死んでほしくない」

 

 俺たち二人はコボルトロードの方を向く。

 3人の他にも何人かが戦って戦線を保ってくれている。

 だが、あのままでは戦線が崩れるのも時間の問題だろう。先程までは30人以上の人数で保っていたものを今は10人にも満たない人数でしているのだから当然だ。

 

「ディアベル、あんたは瓦解しかかってる部隊に指示を頼む。あいつは俺たちで何とかするから」

 

 俺はそう言って駆け出した。

 キリトも俺に続く。

 

「っ! まずい!!」

 

 キリトが叫ぶと同時、コボルトロードが刀スキル《水面》を放った。

 《水面》は《ホリゾンタル》の刀バージョンだが、威力は《水面》の方がかなり高い。

 ミウはギリギリかわしたようだが、ヨウトとアスナ、他のプレイヤーはかわしきれずほとんど吹っ飛んでいった。

 

「くそっ!!」

 

 キリトはコボルトロードに接近すると、腹めがけて剣を振り抜く。

 それがヒットし、コボルトロードが苦しそうに頭を下げた瞬間、俺はその顔に突進系ソードスキル《ソニックリープ》を叩き込んだ。

 このスキルは威力は少し低いが、上空に向かって撃てるので空中にいるmobや背の高いmobに有効だ。

 腹と頭、コボルトロードは二ヶ所から同じ方向に攻撃をくらい、その巨体を僅かながらも後退させた。

 

「みんな、大丈夫か!?」

 

 呼び掛けると同時に他のプレイヤーのHPを見る。

 よかった。みんなある程度減ってはいるけど、今すぐどうこうというレベルではない。

 コボルトロードに視線を戻すと再び《龍尾》を放とうとしていた。しかもターゲットは、俺。

 しまった、もう回復したのか!? 間に合わない!!

 咄嗟に体を動かそうとするが、それよりもコボルトロードの方が早い。

 隣でキリトも俺に向かって駆け出し始めているが、間に合わない。

 

「やらせるかぁぁぁぁあ!!」

 

 そんななか、1人いち早く動き出したのはミウだった。

 ミウは走りながら《スラント》のモーションに入る。

 《スラント》の発動モーションは上半身だけなので、ミウのように走りながらでもスキルを発動することができる。

 そしてミウの《スラント》とコボルトロードの《龍尾》が同時に発動する。

 威力は《龍尾》の方が圧倒的に上だ。まともにぶつかり合えば間違いなくミウが吹き飛ばされる。

 コボルトロードはターゲットを俺からミウに変更し、ミウに《龍尾》が襲いかかる。

 対するミウはコボルトロードの体ではなく、武器であるノダチ目掛けて《スラント》を放った。

 いや、正しくはノダチの鍔の部分を狙って。

 

「はぁっ!!」

 

 一閃。

 次の瞬間、ミウとコボルトロードの『互い』の武器が叩かれた方向に吹っ飛んでいった。

 ミウも自分の力がコボルトロードに対して圧倒的に劣っているのを分かっていたのだろう。

 だからミウは真っ向から剣をぶつけるのではなく、持ち手から近く力の入りづらいノダチの『鍔』を叩くことで、少ない力で強力な《龍尾》発動中のコボルトロードのノダチを吹き飛ばせたのだ。

 なんてむちゃくちゃを......

 少しでも叩く場所がずれたら取り返しがつかないことになっていたかもしれないのに。

 とにかく今は......!

 俺は今の攻防で減ったミウのHPを回復しようとミウに駆け寄った。

 

「グッジョブ!」

 

 それに対してキリトはミウの離れ業を褒め、コボルトロードに向かって走り出した。隣には既に回復したアスナの姿が。

 キリトたちは真正面からコボルトロードに接近していくが、コボルトロードは何も反応を示さなかった。

 いや、できないのだ。

 スキルディレイ。

 ソードスキル発動後、スキルによって違いはあるが、数瞬から数秒の硬直に囚われる。

 だが、ソードスキル発動中にシステムと違った動きをするとスキルが強制解除され、それによるペナルティの硬直、発動後の硬直が重複して来るので、結果、少なくとも3秒程度の硬直を強いられる。

 二人はそのまま接近すると、まずはアスナが重三連攻撃ソードスキル《ペイル・スプラッシュ》を叩き込む。

 重攻撃は大型mobにはダメージが増える。さらに《ペイル・スプラッシュ》は高いタンブル効果(転倒効果)を持っているので有効的だ。

 そしてアスナの狙い通り、コボルトロードはタンブルした。

 さらにそこへキリトがスイッチし、《バーチカル・アーク》で止めをさしにいく。

 完璧なタイミング、ソードスキルの威力も十分。完全に決まった。

 誰もがそう思った、が。

 

「なっ!?」

 

 気づいたときには、コボルトロードが先ほど投げ捨てたはずの斧を持っていた。

 それだけならば何も問題はないが、コボルトロードはそれをソードスキル発動中のキリトに投げつけた。

 本来、どの武器も正しい持ち方、使用方法をしなければ大したダメージは与えられない。これはmobにも適用される。

 だが、コボルトロードが使っていたような馬鹿でかい武器ならどうだ? それをボスクラスのモンスターの能力値で投げつけたら?

 答えは明白だった。

 

「ぐっ、ふっ!?」

 

 斧はキリトに命中し、キリトは後ろにいたアスナも巻き込みながら後方に吹き飛ばされていった。

 今のは、反応速度が異常に早いキリトでなければ下手をしたら死んでいただろう。

 キリトは《バーチカル・アーク》のスキルによって腕が自分の胸の前に来た瞬間に、わざとスキルを強制解除して防御に回したのだ。

 だが、今度はキリトがスキルディレイに囚われて、今も動けないでいる。

 その間にコボルトロードはタンブルから回復してノダチを拾い、キリトとアスナに向かってソードスキルを発動しようとしていた。

 あれは《山嵐》!? また強力なスキルを!!

 三連撃ソードスキル《山嵐》一撃目は正面から高速で走り込んできてすれ違い様に。二撃目は通りすぎた後に振り返り、再び走り込んできて背後から一撃。三連撃目は一撃目と同じように切り込むスキルだ。

 このスキルは《龍尾》のように一撃必殺のような攻撃力はないが、二撃目に背後から攻撃する際にクリティカルが出やすく、厄介さはある意味《龍尾》以上だ。

 

「はぁっ!!」

 

 だが、《山嵐》が発動する寸前に、ヨウトの《ソニック・リープ》ががら空きのコボルトロードの腹に深々と突き刺さる。

 続けてエギルもコボルトロードの前に躍り出る。

 

「大丈夫か!?」

 

「ここは俺たちで支える! その間に回復しろ!!」

 

 キリトたちにヨウトとエギルがそれぞれ声をかける。

 その直後、瓦解していたはずの他のプレイヤーたちも雄叫びをあげながらコボルトロードに襲いかかった。

 俺は驚き、後ろを見るとディアベルがもう部隊を立て直していた。

 ......さすがだな。まだ2分も経っていないのに。

 そして後方に下がったキリトとアスナがポーションを飲んでいると、

 

「グアアアアアアアアア!!!」

 

 コボルトロードが悲鳴にも似た鳴き声を発した。

 それと同時に《水面》を放ち、周りに取りついていたプレイヤーたちを強引に吹き飛ばす。

 HPバーはもう最後の1本の3割程度しか残っていない。

 最後の悪あがきってか、厄介な。

 しかもコボルトロードはさらに動きの早さを増して、すぐさま吹き飛んだヨウトたち目掛けて再び《山嵐》を放とうとする。

 《山嵐》はその性質上、一人に対して使うことにも有効だが、多人数に対しての使用にも有効なのだ。

 くそっ、間に合え!!

 俺はコボルトロードに向かって駆け出した。

 ミウも回復しきってない今、近くで動けるのは俺だけだ。

 俺は先ほどのミウ同様、走りながらソードスキルを発動させた。

 だが、発動するのは《スラント》ではない。

 

「コウキ!?」

 

 ミウたちの驚愕の声が聞こえる。

 それもそのはず、俺は今にも《山嵐》を発動しようとしているコボルトロードに向かってではなく、ヨウトたちの『上空』に向けて《ソニックリープ》を発動したのだ。

 体が剣につられように高速で宙に浮いていく。

 《ソニックリープ》は上空にいるmobに対しても使える突進系のソードスキル。つまりただ上空に向けて打てばある程度の高さまで上がることができるのだ。

 そして4メートルほど上がったところでスキルが終了する。

 高度は十分だ。いくぞ!!

 上昇が終わったことにより落下が始まる。

 それと同時、コボルトロードがヨウトたちに向かって動き始めた。《山嵐》が発動したのだ。

 それに合わせるように俺はヨウトたちの上空からコボルトロードに向けて《バーチカル》を発動する。

 《ソニックリープ》は硬直時間が短いからこんなこともできる......今さっき気づいたけど。

 俺にはミウみたいな技術も勝負強さもない。それでも!

 スキルの照準をコボルトロードが持つノダチに変える。

 

「いっっけぇぇぇぇぇぇぇぇえええ!!」

 

 そして、《バーチカル》をスキル発動中のノダチの刀身に叩きつけた!

 ガキィィィィン!!

 鉄と鉄がぶつかり合う甲高い音が部屋の中に響きわたる。

 ひどく耳障りな音ではあるが、俺にはこの音がファンファーレに聞こえた。

 この音は、俺がコボルトロードのノダチを弾くことに成功した証拠なのだから。

 俺はなんとか体勢を整え、受け身を取りながら着地する。

 ......さすがにミウみたいに手放させるのは無理か。まぁ、刀身に当てて押し負けなかったのだから、俺ならばこれ以上ないぐらいに上出来だ。

 

「コウキ、こんなに強かったのか......」

 

 ヨウトたちの驚く声が聞こえる。

 それもそのはず。今俺がしたことは隠しアビリティをほぼフルに使った攻撃なのだが......

 実はこれ、失敗=死だったりする。

 弾くのに失敗して《山嵐》が直撃しても死亡。《バーチカル》を当て損ねて着地に失敗しても死亡。

 我ながらよくやったものだ。今はとにかく地面が恋しいッス。離れるどころかジャンプもしたくないッス。

 というかそんな俺がすごいみたいな視線を向けないでください。ぶっちゃけほぼ偶然です。

 ......だが、俺は賭けに勝った。それはつまり、

 

「キリト、あとは頼む!!」

 

「あぁ!!!」

 

 キリトが俺の脇を駆け抜けていく。

 

「はぁぁぁぁぁあ!!」

 

 キリトの剣が赤く輝き、今度こそ《バーチカル・アーク》が発動する。

 剣の軌跡が見事なVの字をコボルトロードの腹に描き、HPバーをどんどん削っていく。

 

「グシャアアアアァァァアア!!?」

 

 コボルトロードの断末魔がボス部屋に響きわたる。

 ボス攻略開始から18分。

 第1層がクリアされた瞬間だった。

 

 




1層ボス攻略回でした。
色々言いたいことはありますが、まず一言目は.....



長い!!!
とにかく長い!!!


おっと、すいません。取り乱しました。
ですが前回も長くなったというのに、今回も長くなるとは私自身でも驚きです。
私の書き方の場合描写に量が出るので戦闘になればどうしても量は増えてしまうのですが...
これぐらいの長さというのは、読む場合はやはり長いでしょうか?
失礼ながら、感想をもらえると嬉しいです。
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