それは私にとって突然だった。
『ユニウスセブンが地球軍の放った核攻撃により崩壊しました! 犠牲者は実に25万人以上! これはユニウスセブンに住む全ての人口です』
その事件が15歳の思春期真っ只中の私に与えた影響はとても強かった。
「ミレイちゃん......!」
後ろから突然おばあちゃんに抱き締められた。その後ろではおじいちゃんが大粒の涙を流していた。
「ユニウスセブンが......! お父さん......お母さん......!」
当時の私達はユニウスセブンに住んでいたのだが、プラント本国に住んでいる祖父母の家に弟と共に遊びに来ていた。そしてそこで悲劇が起きた。
「姉ちゃん......父さんと母さんは ......」
私達姉弟は、コーディネイターではそれほど数のいない一卵性双生児の双子。
弟と私はユニウスセブンにある中高一貫性の学校に通っていた。ユニウスセブンが全滅したことでクラスメートや友達も宇宙の藻屑となってしまった。勿論お父さんとお母さんだけが無事なはずはない。他の人達のようにユニウスセブンと運命を共にしてしまった。
元々ユニウスセブンが攻撃される謂れはない。それなのに『ナチュラル』共は野蛮な核攻撃を行った。民間人が多数生活する平穏なコロニーを丸々一つ消し去った。
地図の上から小さな点を消すかのごとき所業。地図の上から人の数は解らないのと同様に宇宙から見たコロニーは只の巨大建造物。しかし、その中には大勢の人が生活していた。外側からでは決して見えることのない風景。ナチュラルはそこに漬け込み核攻撃をした!
コーディネイターの中にはナチュラルに対して慎重な......穏健的な意見を持つ人もいる。私達コーディネイターからナチュラル共に歩み寄ろうとしていたのにそれを払い除けるだけでは飽きたらず、最悪な手段で踏みにじった。
先のコペルニクスの悲劇もナチュラル共が大義名分欲しさに仕組んだ自作自演なのに!
挙げ句の果てにはユニウスセブンの崩壊をコーディネイターによる地球連合を貶めるための自爆作戦だと抜かした!
だから私達コーディネイターはナチュラル共に天誅を与えるべく、Z.A.F.Tの精鋭の人達が衛星軌道上で行われた世界樹攻戦の最中にNジャマーを地球に投下。Nジャマーにより地球は未曾有の混乱に陥った。
お父さんやお母さんユニウスセブンな皆の事を考えれば生きているだけましで、当然の報いだ。
それ以前にナチュラル共は私達に宣戦布告したが、私達が開発したMSの前にナチュラル共は手も足も出なかった。良い気味だ。
更にNジャマーの投下によりナチュラル共は主力兵器を無力化された。MSを有するZ.A.F.Tが開戦から今日まで快進撃を続けている。ナチュラル共の拠点でもある地球も私達の手に落ちている地域もある。
ナチュラル共が自らの行いに贖罪し、哭いて赦しを乞うときが来たのだ。そして地球はナチュラルではなく私達素晴らしきコーディネイターが統治すべきなのだ。
◆ ◆ ◆
「巡回お疲れ様ミレイ」
巡回から戻った私は乗機である『ZGMF-1017ジン』を地球におけるZ.A.F.T最大の基地拠点、カーペンタリア基地に帰還。ジンを格納庫まで操縦し、格納庫のMSようの固定具に固定させた。
固定後はジンのコックピトから地面に降りて、メットをとりパイロットスーツのファスナーを少しだけ開いた。
「ここのところナチュラル共は大人しいわね」
同僚から水を受けとると頭から水を流す。パイロットスーツに密閉されたコックピット内は室温が高い。パイロットスーツが蒸れて仕方がないし、暑くて暑くて汗だくだった。
しかも季節外れな気温で外に出ても暑さ地獄が待っていた。貰った水を口に流して残りを頭から被ったのもこの後に浴びるシャワーの繋ぎ合わせ。
「アラスカに戦力を集中させているからじゃない?」
「只でさえ歯ごたえの無いナチュラルなのに、数まで減ったら良いところ無しじゃない」
ナチュラルは私達コーディネイターよりも遥かに劣る。それなのに今日まで繁栄を続け生き残っている。しぶとさだけは素直に評価できる。
しかし、他はダメだ。不完全なナチュラル共は多くの問題を地球環境にも与えている。謂わばナチュラルは地球に寄生する寄生虫なのだ。
「アラスカと言えばスピットブレイクがもう行われている頃じゃない?」
「そうだね。作戦開始から結構時間が経っているからもう終わっているかもね。そしたらナチュラルは最大の拠点を失ったも同然。私達の勝利は近いわね」
「ナチュラルと争うだけ時間の無駄だから早く終わって平和になって欲しいわ」
コーディネイターはナチュラルを恨んでいる。この戦争でもナチュラルに対して皆がそれぞれの思いと恨みをぶつけている。
けど私達は不完全なナチュラルではない優れた優良種。いつまでもこんなことを続けている場合ではない。ナチュラルを掃討した後は残りのナチュラルの統治と今後の人類のためのプランを考えなければならないの。
「じゃあ私は報告を終えたらシャワーを浴びてくるから」
「次は夕飯で」
同僚と別れた私は所属する第32小隊マルセイユ隊に所属している。Z.A.F.Tでは珍しい女性だけの部隊。ヴァルキリアの名も冠している。隊長は赤服のエリートで赤服といえば、最近のだと『ザラ議長の息子』や『ジュール議員の息子』やその他にも有名な人の息子達は赤服だと聞く。その上、ヘリオポリスで奪取したナチュラル共のMSに乗っているとか。実際に会ったことがないから詳細はわからないけど。一つ言えるのはナチュラルがMSを造るなんて生意気なのよ。
◆ ◆ ◆
「報告ご苦労だったな」
「それが任務ですから」
隊長の待つ個室にノックをして室内に入った私は、中央の机で書類を整理していた隊長に任務報告をした。特に報告するような異常もなく報告は簡単に受理された。
「ミレイ......最近動き過ぎて疲れているだろう。お前たち姉弟は良く働いている。少しぐらい休め。戦争中だが私達は優勢だ。逆転されることはない。兵士には休息も必要だ」
「ご配慮ありがとうございます。しかし、私も早くこの戦争を終わらせたいので休んでいる時間が勿体無いのです。恐らく弟も同じことを言うと思います」
「堅物の部下を持つと苦労するよ......まぁ、良いだろ。要望は可能な限り何時でも聞く。下がって良いぞ」
「はっ! 失礼します」
隊長に敬礼をし私は部屋を後にしロッカールームに向かう。
ロッカールームでパイロットスーツを脱ぎ、下着も外し同室内に設置されているシャワー室で任務でかいた汗を流す。
こんな暑い日は本国のアミューズメントプールに飛び込みたいが戦争が終わるまで贅沢は言ってられない。
20分間シャワーを浴びた私はドライヤーで髪を乾かし、替えの下着を身につけラフなジャージ姿に着替えた。
夕食までまだ時間があるし、任務を終えた直後のこの時間は次の任務が入るまで自由時間。
私はロッカールームから寝室である共同居室に戻った。居室居室には二段ベットが全部で5つある。10人が共に共有するこの部屋はそれなりに広い。この部屋の物は全部私の所属する部隊員のもの。私のベットは入り口の一番右側の手前の二段ベッドの一番上。自分のベッドの上に上がり足を伸ばして寝転がる。
共同居室にはテレビも備えられているが今はテレビを見る気になれない。このまま少し仮眠を取ることにした。
目を瞑りながらお父さんやお母さんの命を奪ったナチュラル共のことを思い出す。
ユニウスセブンの事件後、私達姉弟はZ.A.F.Tに入隊を決意しMSのパイロットととして厳しい訓練過程を終えて部隊配属された。弟とはそこで離れ離れになったが、地球に降下後偶然にもこの基地で再開した。
弟は気弱でお人好しなところがある。MS訓練過程ではかなり辛い思いをていた。それでも弟が乗り越えれたのは死んでいったお父さんやお母さんの無念を張らすため。
今弟は地球軍のアラスカ基地侵攻作戦のオペレーション・スピットブレイクに参加している。
作戦後にはきっと弟も一皮剥けていることだろう。この先共に任務に当たれる日が来ることが待ち遠しい。
しかし私の願いは叶うことはなかった。
◆ ◆ ◆
食堂に入った私を待っていたのは美味しい夕食ではなかった。
同僚の思い詰めた表情から何かあったことは察することが出来たが、こんなことは想像していなかった。
「............今なんて」
「......スピットブレイクが失敗したの。ほぼ全ての侵攻部隊が全滅。ミレイ......あなたの弟さんも......ミレイ!」
気がつかば私はその場に崩れ落ちていた。足に力が入らず立つことも出来ない。また事実を受け入れることも出来ない。
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ............
弟が死ぬはずかない......だって作戦前の出撃前にも弱々しながらも精一杯の笑顔で「姉ちゃん行ってくるよ。大丈夫。無事に帰ってくるから心配しないで」と言っていたのに......何かの間違いよ。弟は何処かで生きている。そうよ運良く難を逃れたはずよ。あんなに優しい弟が死ぬなんて......ナチュラル共の手に掛かるはずがあるわけない。
信じない......そんなこと絶対に信じない。
「ナチュラル共はアラスカ基地を捨てゴマにしてサイクロプスによる自爆をした。気の毒だが第一陣としたアラスカ基地に侵攻したお前の弟は......」
隊長も食堂に姿を現し、アラスカ基地で起きたことの詳細を話してくれた。
サイクロプス? 核に続きあんな非人道的な兵器を使ったのかナチュラル共は! よりによって弟がそんな兵器の犠牲になるなんて......
「犠牲になったのはお前の弟だけではない。多くの同胞の命が同時に失われた。野蛮なナチュラル共の蛮行によって......」
私は大粒の涙を流し両手で顔を覆った。おじいちゃんもおばあちゃんもユニウスセブンの事件のショックで倒れてそのまま帰らない人になった。お父さんとお母さんもユニウスセブンで殺された。そして最後の身内である弟までもがナチュラルに奪われた!
憎い......ナチュラルが憎い......許さない......絶対に許さない。
「悲しみに暮れている暇は私達にはない。この悲しみを怒りに変えてナチュラルにぶつけなければならない。新たな作戦が命じられた。地球軍のパナマ基地への侵攻作戦だ。パナマ基地は地球軍の重要拠点の一つ。マスドライバーがその基地には設備されており、地上と宇宙を繋ぐ拠点だ。ここを落とせば宇宙にいる地球軍への支援が減少する」
重要拠点だろうがなんだろうが関係ない......今は一人でも多くのナチュラルを殺せればいい。
「出発は明日0800だ。私達の思いをナチュラル共に見せつけるぞ」
同僚達が一斉に「Z.A.F.Tの為に」と忠誠の証を叫ぶ。私はその中には加わらず、顔を覆っていた両手を離し目を細め、憎悪に満ちた瞳で床を睨んでいた。
涙は枯れた。人間らしく涙を流すのもこれが最後かもしれない。もう私には何も残っていない。もう私は戦うことしか出来ない。お父さんとお母さんとおじいちゃんとおばあちゃんと弟と、今まで亡くなってきたコーディネイターの人達の為にも。
今日から私は復讐の鬼になることを決意した。ナチュラル共を殺して殺しまくる人の道を外れた修羅として。
「ミレイ......お前は今回は外れろ。今のお前の精神状態で作戦に加わるのは無理だ」
外れる......? そんなわけないじゃないですか。
抜けていた力が戻っていき自然にその場に立ち上がり隊長の方を向く。
「私は平気です。悲しいのは私だけではありません。皆状況は一緒です。なのに一人だけ外れるわけにはいきません」
「ミレイ......」
そして最後に私はかつてない憎悪に満ちた言葉と顔を隊長に残した。それが私の覚悟の表れだった。
「何よりナチュラル共を沢山殺せるんですよ......? 参加しないわけないじゃないですか」
先程の細めていた目とは別に、今度は大きく目を見開き口角を三日月のように吊り上げた非常に醜く歪んだ表情をしていることだろう。
私の顔に威圧された隊長が少し威圧されたいた。隊長の返事を待たずに私は自分の部屋に戻りベットに横になり、明日を待つ。
毛布に体をくるみナチュラルへの憎しみの言葉を呟きながら深い眠りについた。
◆ ◆ ◆
そして翌朝時間通り作戦は開始され、地球軍とパナマ基地で激しい戦闘を繰り広げる。
「死ねナチュラル共......」
憎悪の目で一人......また一人とナチュラル共を葬っていく。淡々と機械のように。
ナチュラルの戦車部隊やヘリ部隊や固定機銃が私のMSや同僚のMSに反撃するが、既に旧式化している兵器で対等に渡り合えるわけがない。豆鉄砲程度の攻撃で倒されるMSではない。
向かってくる部隊を76mm重突撃銃で破壊する。レバーのボタンを押す度にジンの指が銃の引き金を引き、巨大な弾頭が一発一発銃口から飛び出す。排出された空薬莢は煙を上げながら大地へと落下していく。
「か、母さん......!」
「皆が受けた苦しみはこんなものじゃない。思いしれ」
逃げ惑う兵を追い、無慈悲に踏み潰していく。
「ざまぁ見ろ!」
女とは思えない醜い高笑いを上げていた私の横のジンが吹き飛んだ。
顔をしかめ辺りを見渡すと、森の影から人型の兵器が何機か立っていた。その腕にはビームライフルが握られている。
「地球軍のMSか!」
舌打ちをしながら地球軍のMSにジンを向ける。地球軍のMSから放たれた緑色のビームが私のジンの真横を通過する。
「ビームライフルとは厄介なものを......」
地球軍がMSを開発していたことに驚いているのは私だけではなく、周りの仲間も驚いていた。
「地球軍の『ストライク』とかいうMSか!?」
誰かがそんなことを言った。ストライク......確かヘリオポリスで唯一奪取出来なかった連合のMS。
「いや、違う」
すると頭上から青色の特徴的な顔をした友軍のMSが降りながらビームライフルで地球軍のMSを破壊していく。並のパイロットには出来ない芸当だ。それにあの機体......『クルーゼ隊』のところの赤服か。確か『足付き』を追っていたはず。まぁ、今はどうでもいいか。目の前のことに集中。
「まもなくグングニルが投下される。あのMSはこちらで抑える。グングニールを死守し作動させろ」
グングニール......今作戦の要。強力なEMP発生機であり、これにより基地システムをダウンさせ制圧するのがこの作戦。こちらはEMP対策は施してあるため被害を受けるのはナチュラルのみ。パナマ基地がEMP対策を講じてないのは事前の情報で入手済み。
「来たか......」
空から降りてくる一番近くのポイントにあるグングニールまで駆け寄る。
「ミレイ!」
「ナジェンダ、グングニールを準備しろ。コイツらは私が殺る」
落下したグングニールに寄せられ地球軍のMSが3機ほど近づいてきていた。
ビームサーベルを装備したMSが突っ込んでくるが、非常に単調なその動きを予測回避することは難しくはない。
寸でのところでビームサーベルを左手で払い除けると、そのまま右手の重突撃銃で敵のMSの胸部を撃ち抜いていく。大きな穴を開けて後方に倒れるMS。やはりコックピットが胸部なのも同じか。それにこちらの急な動きに対応できていない。恐らくMSのOSと奴等の技量に関係しているのだろう。
付け焼き刃の即席MSなど怖くなどない。余裕で叩き潰してくれる。
一機では敵わないと見て敵は二人同時に迫ってくるが、問題はない。
敵のサーベルを交わしながらこちらも重斬刀で応戦する。生意気にも装備されているシールドで重斬刀を防ぐが重斬刀を防ぐことに気を取られ過ぎている。腹部ががら空き。サーベルを右手で持ち直し、腰にマウントさせた重突撃銃を左手で構える。
引き金を引こうとしたが、もう一機のMSのビームライフルによってそれが阻まれた。ビームライフルが直撃した重突撃銃に装填されていた火薬に引火し、小規模の爆発を起こす。ジンに支障はないレベルの爆発だから行動に問題はない。
少し気を取られていたところを敵のMSはシールドで防いでいた重斬刀を押し返した。押し返された衝撃で少し後方に交代させられる。その隙をついて先程のビームライフルを撃ったMSが今度はビームサーベルを引き抜き突撃してくる。
「グングニール準備よし」
「二機なのはそっちだけじゃないのよ」
迫ってくるMSの足が吹き飛んだ。吹き飛ばしたのはもう一人の同僚のジンのバズーカー。
「援護するわよミレイ」
同僚の援護により足を吹き飛ばされたMSはバズーカーによって頭部、シールドと破壊されていき最後は上半身が吹き飛んだ。
「あんたで最後ね」
重斬刀でたじろぐ敵MSのコックピットを貫く。所詮MSがあったところでこれがナチュラルの限界。
「グングニール作動するわよ」
作動したグングニールがパナマ基地の全ての電子機器を破壊していく。レーダー、通信装置を含めた装備を。そう地球軍のMSさえも。
電子機器を破壊され機能が停止した地球軍のMSはこれでただの人形。煮るなり焼くなりこちらの好きにできる。
「EMP対策も万全にしていないとは」
「いかにも急いで作りましたよ感があるわね」
棒立ちになったMSは軽く押しただけで地面に倒れる。機能が停止したことで脱出機能も作動しないだろう。
私は動かなくなったMSのコックピットを重斬刀で貫いていく。
他の場所でも同様のこたとが行われているのだろう。悲鳴と仲間の笑い声が聞こえてくる。
何名かの地球軍兵士が降伏してくるが私には関係なかった。降伏した兵士を踏み潰す。
「思いしれナチュラル」
こうしてパナマ基地は私達コーディネイターのZ.A.F.Tの手に落ちた。そして私、ミレイ・シュナイゼルの空しい戦いが始まったのだ。
「動けない敵を撃って何が面白い......」