ビクトリア基地が陥落した情報は即座にカーペンタリア基地を始めとした全ての基地並びにZ.A.F.T兵の耳に届くこととなった。
プラント本国では連合が再びマスドライバーを手にいれたことによる勢力図の均衡を嘆いていた。連合もMS開発に本格的に着手し、それを成功させてしまったため、元より数で劣る我らでさえも無視することわけにはいかなくなった。
連合の主力がMAからMSに移り始めている。連合のメビウス3機でジン1機分に相当することは量陣営の間では有名なこと。
しかしながらメビウスから量産型MSに移り始めたことでその物差しは使えない。質では劣るがそれを補う数。質で劣ると言っても機体性能は低くは決してない。それは相対した私の感想でもある。
ナチュラル用のOSは我らのような繊細な動作が出来ない。扱いやすいように人を選ばないように簡略化されている。絶対数の多い連合ならではなの考えだ。我らのようなピーキーな物になってくると人を選ぶ。コーディネーターの中には独自にOSを書き換えて自分好みに機体をチューニングしている者もいる。同じコーディネーターであっても操縦は至難となってくる。全てのコーディネーターの能力は均一ではないだけではなく、望んだ通りの能力を得ること事態も希。基本的に資質は高いが必ずしもそれが個人の能力の高さに繋がる訳ではない。
ナチュラルと違い、訓練や努力をすればほぼ報われることが約束されているといったところだろう。
私達でも同胞には及ばないこともある。MSの操縦能力にしても一般レベルでは決して敵うことの出来ない高位のコーディネーターはいる。それがZ.A.F.Tの赤と一般の違いでもある。
しかし、ナチュラルにはそのような問題は我々ほどはない。ずば抜けている者も中にはいるが、基本的にほとんどの者の能力は均一。MSもそれに合わせている。
どちらが優れているかや、どちらがましなのかはこの際は追求しないが、それぞれにはそれぞれの合った色がある。それがコーディネーターのMSとナチュラルのMSの決定的な違い。
だが、もし両者が混ざったようなモノが存在したら?
コーディネーターの能力を持ち、ナチュラルのMSのように万人向けに調整された機体をコーディネーターの能力で補う。
もしそのような存在が実在するのならば私達にとってはかつてない脅威となり得る。
だが、ナチュラルとコーディネーターは水と油。両者が混ざることなどない。要するにそのような存在など実在しない。............彼らに出会うまではそう思っていた。
◆ ◆ ◆
ビクトリア基地を落としたことで地球上の勢力図に著しい変化が訪れていた。これを気に連合はZ.A.F.Tが地球上で占領・支配していた地域の奪還に連合踏み出した。
勢い付いた連合の士気は旺盛。Z.A.F.Tはアラスカ・パナマで疲弊していたところにビクトリア基地陥落を受けて混迷と気力を欠かれていた。
マスドライバーを入手し宇宙への切符を手にいれた連合は再び宇宙へ進出し、プラント本国への攻撃を企てている。
Z.A.F.Tは地球上で得ていた鋼材資源を始めとした天然資源を惜しみ無く宇宙へと送っていた。連合との決戦は地上ではなく宇宙で行われることになるだろう。
優勢であったZ.A.F.Tは宇宙へと押し返され、劣性の一途を辿ってしまっている。決戦は宇宙で行われると言ったが、実際のところは連合がプラント本国に攻めいるのを防ぐための防衛戦である。
だからといって地球上から全面撤退するわけではない。主要な基地・拠点の存続は変わらない。守備への力も緩めることはない。
主要な戦闘が地球から宇宙へと移りつつあるが、未だに地上でも激しい戦闘は繰り広げられている。今の私達のように......
「はぁ、はぁ、まさか連合がここまで攻め込んでくるとは......」
「主要な部隊は宇宙へと上がっているというのにこの物量は異常ね」
私達6人のマルセイユ隊の周りには迎撃した連合のMSストライクダガーが転がっている。転がっているストライクダガー頭部メインカメラの光は消えており、穴の空いたコックピット部と思わしき胸部。敵は完全に沈黙しており、二度と動くことのない残骸、ガラクタと化している。
ビクトリア基地陥落から同月の7月24日にZ.A.F.Tはジブラルタル基地放棄を決定した。カサブランカ海峡における『グーン』『ゾノ』編成の海上部隊を連合に破られ、Z.A.F.Tは長きに渡るヨーロッパ・アフリカ侵攻の要でもあり、地上におけるZ.A.F.Tの支えとなっていたジブラルタルを放棄するのは相当な痛手。地球における戦線はカーペンタリアへと移された。それにあたって私達の隊はジブラルタル残存戦力である友軍の撤退支援のためにカーペンタリアから出撃していた。
放棄されたジブラルタルは既に連合に押収・接収され、私達撤退部隊への追撃部隊前線基地として機能していた。
迫り来る追撃部隊の猛攻を退けながら、残存戦力と負傷兵の防衛を務める私達の疲労もピークに達しようとしている。周囲警戒を高めながら撤退地点までの離脱を急ぐ。退路は既に別動部隊が確保してくれているはず。離脱地点から脱出用の『ボズゴロフ級潜水艦マークレス』も待ってくれている。後はそこにたどり着くまで持ちこたえるのみ。
幸いにも天候は急激に崩れ、澄んだ晴天も今では暴風雨の悪天候。此方の見張らしは悪くなるがそれは敵も同じこと。レーダーを頼りに此方を見つけようが、こんな天候化でナチュラル共がMSをまともに操縦できるはずはない。
それを証拠に、天候が優れている時は連中も躍起になって私達を追撃してきていたが、今ではその様子をピクリとも見せない。連中もこの天候下では追撃を諦めたのだろう。
「もう少しで離脱できる。全員最後まで気を抜くな」
「「「「イエス、マム」」」」
私達を奮い立たせるべく隊長が渇を入れてくる。隊長の乗る『シグー』は致命傷となる被弾はしていないが、各部の装甲には傷が付いている。敵との衝突や攻撃が掠めたりしたときに出来た傷。その傷は隊長のシグーだけではなく、私達のジンにも同様の傷が出来ている。隊からの死傷者もいない。
「動きっぱなしだったから休みたいのは山々だけど、この天候を逆手に早く離脱した方が良いわよね」
「他の隊も上手く離脱しているはず。もしかしたらもう先に到着してくれているかも」
私達が時間を稼いでいる間に離脱した友軍は早ければそれぞれの脱出地点に到着してくれている。
だが、他の隊にも連合の追撃の魔の手が忍び寄ってきていただろう。全滅していないことを願いたいが、それでも疲弊はしているはず。
この天候と背中にコンテナを背負っている状態での度重なる戦闘でジンに何らかの不具合が生じてないかを計器で確認する。と、同時に残弾も確認する。背中のコンテナは予備の武装が詰め込まれている。コンテナ外での武装は支援の為通常の出撃よりも弾薬を多めに所持していたが、そのほとんどの弾薬が失われていた。
本来ならば対拠点戦略のための重爆撃装備のD装備で出撃していたが、私のジンのミサイルランチャー『M66キャニス 短距離誘導弾発射筒』とミサイルポッド『M68パルデュス 3連装短距離誘導弾発射筒』は撤退支援で全て使い果たしている。予備で装備している重突撃銃の弾倉も残り2。1マガジンに60発程度しか装弾されていないため、手持ちの弾薬は120と重斬刀のみ。
脱出地点までの距離はそう遠くない。弾薬は心もと無いが何とか凌ぎきれる。
移動にあたり、私達はイベリア半島に連なる山岳地帯を移動し、西の脱出地点の大西洋沿岸を目指していた。エネルギー節約のため、歩行を余儀なくされている。脱出地点までの到達距離はざっと100km。この天候にこの歩行距離に敵の追っ手と楽しいハイキングになりそうでもある。
「適度に水分と軽食は摂れよ。まだまだ長丁場になる」
こうなることを見越して予めコックピット内には乾パンや水筒等を持ち込んでいる。狭いコックピット内に当然そんな物を置ける隙間はない。だから無理矢理シートの裏や足元に置いてある。当然戦闘の衝撃や籠った熱などで乾パン以外のチョコレートといった溶けやすいもの溶けてしまっている。水もキンキンに冷えたものではなく、なまるい。
それでも喉に通す。通らなければ水で無理矢理流し込む。MSの操縦も以外と神経を削り体力を消耗するのだ。
分厚い装甲に覆われた機動兵器だが、万能ではない。被弾すれば当然ダメージを負い、当たり所が悪ければ一発であの世。おまけに地雷などの通常兵器でも破壊される時は破壊される。大きさが仇となって目立ち、狙われやすくもなる。そうなれば自然と周囲の警戒に努めなければならない。巨大さ故に人間と違い姿を隠すのはほとんど不可能。長距離通信も宛にならはない有視界での戦闘では一瞬足りと気が抜けない緊張感を常に維持。トラップなどの仕掛けにも気を付けなければならない。下手をすれば生身で戦うことよりも神経を削るやも知れない。
その上マルセイユ隊は全員女。コーディネーターとはいえ、男よりもそういった分野場面においては遅れを取ってしまう。にもかかわらず私達は誰一人と欠けることなく今日まで生き抜いている。
運命の女神というのは気紛れだ。気まぐれで人の運命を左右してしまう。内容によっては女神が死神に変わることもある。
「隊長......センサーに反応が......何かが近づいてきます!」
「各員戦闘用意!」
安堵の息をつくのも束の間、連合の追っ手が再び私達の元へと向かってきていた。私のジンのセンサーににも反応が出ている。数は......4。決して多くはないが、少なくもない。此方は疲弊しているだが追っ手は補給整備の必要のない万全な状態のはず。相手がナチュラルであろうが尚更気は抜けない。戦闘とは常に自分にとって最悪のケースを予測しないとならない。この場合では相手は万全の状態の追撃に精通している部隊といったところか。
「こちらから仕掛けろ」
「先手必勝! 最後の一発を食らえ!」
センサーで探知可能な距離と言うことは向こうも此方を捉えている可能性がある。待ち伏せしても構わないと頭を過ったが、私達はこの地の理に詳しくない。昨日今日この地に訪れた人間が下調べもせずに即興で待ち伏せすることなど無意味であると即座に判断。
隊長もそのことに気づいている。だからこそこちらから仕掛けさせたのだ。
遠目で完全な識別はまだ無理だが、MSなのは間違いなく、敵は上空でも此方は地。姿を捉えているのも此方。向こうはまだ此方を捉えていないのかもしれない。希望的観測に過ぎないが悲観的になりすぎても良いことはない。最悪を想定しつつ希望を導くのみ。
例え此方の攻撃が外れようが敵の意表をつくことはできる。意表をつけなくとも先手を取ることで流れを此方に寄せれる。疲弊した状態で戦闘をするのに後手に回るわけにもいかない。
野太い緑色のビーム砲が追っ手のMSへと向かう。『M69バルルス改 特火重粒子砲』の砲撃を狼煙に追っ手への迎撃が始まった。
最後の一つのカートリッジ内のエネルギーから放たれたビームだが、敵のMSに易々と避けられてしまった。中央を飛ぶMS目掛けて放たれたビームの狙いは悪くはなかった。それを上回る技量が相手にはあったということだ。この天候とビームの密度。更には中央というこもあり、周辺には味方が飛んでいる。味方に衝突することなくビームの当たらない範囲を見極め繊細な操作で回避を行った。
言葉でいうのは簡単だがそれを平然と実行するのは別問題。天候で視界も悪く操作がしづらいはず。慣れていない私達でさえ思うようにいかないときもある。ナチュラルなら尚のこと。遠方からのビームを避けるのも反応が高くなければ実現は不可能でナチュラルが易々と出来るものではない。
今のあの動きはMS操縦への慣れと経験によって裏打ちされる技量。連合のMSが起動に乗ってからまだ1ヶ月ちょっと。そんな短期間でナチュラルの操縦練度が飛躍的に上昇するはずがない。
「あいつら......本当にナチュラルなの......?」
残りの逃走時間距離も考えて弾薬を無駄には出来ない。一発も無駄に出来ないからこそ精度を上げ必中に努めなければならない。
精密射撃に徹し、弾幕による面攻撃こそ実施してはいないが、それでもまだ『M68キャットゥス 500mm無反動砲』と火力が高い武器は残されている。いや残していたと言うべきだろう。
こんな時のために別で用意していたコンテナの中のキャットゥスとその弾薬。敵は動きが機敏で手強い。通常の弾頭ではなく、散弾をキャットゥスに装填していく。
威力は低いが、炸裂後の散弾により複数体の相手に面攻撃を仕掛けることができる。威力が低いとはいいつつもMS用の兵器。散弾だからと言って侮っていれば穴だらけになる。
「このぉ!」
コンテナから取り出した散弾を装填したキャットゥスを手近な仲間に3丁投げ渡す。受け取られたキャットゥスから飛び出す弾頭は、空中で分散し分散された弾頭からは無数の弾丸が飛び出す。
「ばかな......あれだけ広範囲の散弾に掠りもしないだと......」
散弾は弾丸の直撃による機体の撃破ではなく、命中による間接部やメインカメラなどのパーツ破壊を主眼に置いてある弾丸。そのため口径も小さいが範囲は広く、一発も掠りもしないことはナチュラルには異常としか思えない。
「こいつらの機体......ストライクダガーではない!」
敵のMSが接近するに連れてMSの姿形が露のものとなった。しかし、そこにあったMSは私達の知る連合の量産型MSのストライクダガーではなかった。
ぱっと見の外見はストライクダガーと変わらないが、カラーリングが全体的に黒ぽく、肩部は橙色に塗装されている。
何よりも、ストライクダガーよりも装甲が一回りほど重厚。大きく出っ張った肩部とその右肩と左肩に装着されている武器は、Z.A.F.Tの奪取した『デュエル』の追加パーツとして取り付けられた『アサルトシュラウド』にそっくりである。
従来のストライクダガーにはアサルトシュラウドのような追加パーツは装着されていない。一部では改修及びエース向けの調整機体として幾つかのバリュエーション機が存在するとは耳に挟んでいたが、それが目の前の機体なのだろうか。
だが、バリュエーション機といってもエース向けといっても所詮はナチュラル。コーディネーターのような繊細で緻密な操縦は易々と出来るものではない。あの動きは明らかにコーディネーターの動きだった。
「コイツら......噂に聞く連合の戦闘用のコーディネーター部隊『ソキウス』なのか?」
隊長が呟いたソキウスとかいう部隊。会ったこともなく話自体もあまり聞いたことがない。けど、今の隊長の呟きを聞く限りには『連合製のコーディネーター』のようだ。
あれだけ私達コーディネーターのことは毛嫌いしておきながら、自分達は自分達で都合の良いコーディネーターを生み出しているときた。
何が化け物で何が青き清浄なる世界の為にだ。自分達も全く同じことをしているのに。これだからナチュラルは信用ならず、愚かなのだ。
それは置いといて、相手がコーディネーターならば先程までの回避動作は納得がつく。コーディネーターならば、あの操縦も可能でそれを支える機体のOSもコーディネーター用のはず。
納得いったが、私達にとってピンチで脅威であることには変わりない。相手は同族であるコーディネーターなのだから。
「私達に同族殺しをさせるなんて......どこまでも卑劣な奴らなんだナチュラルは!」
ナチュラルに対する激情私を含めた隊員皆寄せているが、だからといって戦闘には決して熱くなってはない。従来のストライクダガーでさえ、ビーム兵器を携行しており、集団で集まれば厄介なモノ。それがコーディネーター用に調整と強化が施されたMSなのだから感情に任せて戦えば負けてしまう。落ち着くためにもナチュラルへの怒りを腹の内に収める。
「速い......」
サーベルで斬り掛かってきたと思えば即座に距離を離しビームライフルの射撃に切り替えている。器用に障害物である木々などにも身を隠しながら。
「幾らコーディネーターとはいえ容赦はしない」
私達一般隊員が苦戦する中でマルセイユ隊長だけは違った。的確に相手の動きを先読みし、移動場所に予測射撃をしている。
相手の機体も盾やステップで回避を行う。しかし、隊長の攻撃は致命傷にこそなってはいないが、敵MSの装甲を削っていく。アサルトシュラウドに似た装甲では中々撃破には繋がらないがそれも時間の問題かもしれない。
マルセイユ隊長はオペーション・ウロボロスと同時平衡で実施された第一陣降下作戦のメンバー。カーペンタリア・サンディエゴ・ビクトリアと地球におけるZ.A.F.T侵攻を支え生き残ってきた第一人者。そんじょそこらのコーディネーターとは戦績も経験も違う。隊長と実施する模擬戦でと私達は束になっても敵わなかった。そんな隊長の負ける姿は想像できない。
「あの戦いは隊長の勝ちね」
隊長と相対するMSは防戦一方。終始隊長のペース。始めの勢いも失速しており今では敵に脅威は然程感じられない。
「コイツらきっとまだ戦闘に機体に慣れてないのよ」
素早く行動も正確だが、どこかぎこちなさが目立つ。まるでマニュアル通りの動きしかしてこない。攻撃にしろ防御にしろ。
「貰った!」
形勢がこちらに傾き始め、私達は敵のMSを押し返しているところに、隊長のシグーがその内の1機に対し急接近し重斬刀でMSの胸部から腹部までの装甲を切り裂いた。切り裂かれた装甲の隙間からはMSのコックピットが覗けるようななり、操縦者も視認できる。
切り裂かれた衝撃でよろめいた隙を隊長は見逃さず、急旋回からの木々を蹴りMSに重斬刀の剣先を向け突撃する。
「............っ!?」
ところが隊長は剣先がコックピットを貫く寸前で動きを止めてしまった。止めてしまっただけでなく重斬刀を引っ込め後退している。
「アルベルト......? お前アルベルト隊のジーニス・アルベルトではないのか!! 何故お前が......死んだはずのお前が何故連合のMSに乗っている!」
コックピット全体に響き渡る声量で叫ぶ隊長の声が通信機を通して私達の耳に入る。隊長の反応からあのMSのパイロットは隊長の知り合いらしいが、『死んだはず』とは......? それに隊長の知り合いということは連合のコーディネーターではなく、私達と同じコーディネーターなのか?
「私だマルセイユだ! 私が判らないのかアルベルト!」
MSを停止させコックピットを開き中から体を出し、メットを取った隊長は自分の顔を敵に向かって見せて、胸に右手を当てながら自分のことを必死にアピールする。
無茶だ......戦闘中に取った隊長の行動は尋常じゃない。自殺行為だ。
動きが止まった隊長にビームサーベルで反撃を仕掛ける敵のMS。隊長は回避動作をとろうとしない。このままじゃ不味い。
私はキャットゥスを投げ捨て、両腰に備え付けられている重斬刀を握り、隊長と敵の間に割って入り重斬刀でビームサーベルが握られている右前腕部を左腕の重斬刀で切り上げる。反対の重斬刀で剥き出しのコックピットを狙うがバックステップを取られてしまい外れた。
そして遥か遠方に打ち上げられた目映い色鮮やかな閃光の光を視認した。撤退時に合図として打ち上げられる信号弾の光である。
敵のMS達は戦闘行動を停止し、一斉に空中に飛び上がり信号弾が打ち上げられた方角へと飛びさっていく。
「アルベルト......」
飛び去ろうとするMSを撃ち落とそうとするが、意気消沈する今の隊長の状態は非常に危険である。この後も戦闘が発生しないとは限らない。去る敵は追わず、立ち止まる隊長のシグーの両脇を抱え私達は脱出地点まで急いだ。
その後敵からの追撃はなく無事に領域を脱出した私達だが、隊長は思い詰めた表情のまま。それに隊長が言っていたことが本当であれば、私達は『本当の意味で同族同士での殺し合い』をさせられていたことになる。隊長の知り合いとそっくりさんで関係のない人物かもしれないが、もしもの場合もある。そしてもしかすれば、あのパイロットだけではなく私達が戦っていた敵のパイロットも『同胞』だったかもしれない。
一体どういった経緯でそうなってしまったのかは解らない。今言えることは更なる疑問と戦場における私達への揺さぶりを掛けられてしまう危険性があるということ。