『ストライクダガー収容完了。作業員は速やかに退避せよ。繰り返す。作業員は速やかに退避せよ』
ブリーフィング終了後ロッカールームで黄色のパイロットスーツに着替えた俺達は、整備兵の調整が終了したストライクダガーに乗り込み移動用の輸送機に機体ごと登場した。
ストライクダガーのモニターに移る基地の作業員の表情が険しい。無理もない俺達部隊の異名は葬儀部隊。敵仲間問わず棺桶を出棺してしまうため、味方内からも余り良くは思われていない。同じ任務に着いた仲間や同僚が死ぬジレンマを抱えてしまっている。
ロッカールームで着替える際に擦れ違った基地の兵士からも厄介者を見るかのようなあからさまな表情をしていた。基地だけではなく、ここまで運んでくれた輸送艦でも同様の視線等を受けていた。恐らく影では色々と陰口を叩いているのだろう。
「ちっ、ここの連中もかよ。どこに行っても嫌われものなんだな俺達」
舌打ちしながら自傷するアキム。慣れているとは言え、仲間内から邪見にされてはいい気分ではない。
「隊長......顔色が悪いですがどうかなさったのですか?」
コックピットに隊長の顔がカメラで映し出されるが、隊長の顔は青ざめていて見るからに気分が優れていない。いつもなら作戦前に何かと一言で俺達を活気付けてくれている隊長なだけに様子の違いに全員が違和感を感じ取っていた。
「......いや、何でもない」
そういって口を閉ざす隊長。やはりどこかおかしい。作戦に支障をきたさず隊長の身に何事もなければいいのだが。
地球連合の中では容姿も格好も愚連隊のようなならず者の俺達を隊長は父親のように接してくれている。行き場がなく軍に入るしかなかった者。血の気が多く直ぐに問題行動を起こす者。より危険な任務を望む者。この部隊にはそんな連中が集まっている。誰も俺達のことを親身に気遣ってくれる者はいない。隊長を除いて。
時間は着実にす進んでいく。俺達を乗せたVTOL輸送機『トロイ』は予定時刻通りに基地を離陸し、目標空域までの空の旅が始まった。
◆ ◆ ◆
VTOL輸送機『トロイ』に乗り込み基地を離陸すること2時間。作戦空域に到達した俺達は開放されたハッチ付近までストライクダガーを動かし降下の合図を待っている。
2時間というごく短い時間の空の旅だったが、輸送機には旅客機よりも小さな窓が取り付けられているだけで空を眺めようにも大した景色は見れなかった。食事も貧相なもので、チューブ状の携行食と乾燥させたパンぐらいしかない。快適には程遠い。
このVTOL輸送機は1機でMS3機の輸送が可能。オーブ解放戦線やパナマでも運用された空の運び屋。俺達の隊と今作戦の為に加わった三人の為に合計4機のトロイが中東イスラエルの上空3000mを航空している。
かの地は旧時代においても多くの熾烈を極めた戦地としても有名であり、C.Eになってもそれは変わってはいなかった。だがそれも直に終わる。Z.A.F.Tが地上から宇宙へと決戦の舞台を移したことで中東の地もZ.A.F.Tの支配から解放されつつあった。そしてこの地にZ.A.F.Tの残存部隊が隠れおおせている。
「降下3分前だ。各員計器とパラシュートパックに異常がないか再度確認せよ」
空中からの降下作戦に際してストライクダガーのバックパックは、MS降下用のパラシュートが組み込まれているパラシュートパックに換装されている。
このパラシュートパックはMSを空中から地上に降下奇襲作戦の為に開発された装備である。しかしながら、このパラシュートパックにはビームサーベルが搭載できるスペースがないため、やむ終えずビームサーベルはオミットされてしまっている。そのため武装が必然的にライフルとバルカンだけになってしまうのが欠点だ。
「各機降下!」
号令と共に一斉に大空へと飛び出すMS群。僚機と接触しないよう機体を操りながら鉄の塊は地球の重力に引っ張られながら目標ポイントに猛スピードで落下を続ける。
落下に際しての重力加速で機体が大きく揺れ、その影響はコックピット内にも伝わっている。握ってい操縦捍からも大きな振動が走る。当然操縦捍だけではなくコックピット全体が大きく揺れている。ベルトを付け体を固定しているシートも大した意味を辞さず、上下に小刻みに体が揺れる。
カメラ越しの地上の風景もぶれぶれで、速度計には時速300kmが表示され、他の計器も振動により鈍い擬音を放っている。
自由落下の時間はものの数十秒間であった。高度が1000mに達する前にパラシュートパックを展開。マッシュルーム状のキャノピーが上昇気流による揚力を受け、機体の落下速度を減速させる。
MSを浮かせる程の揚力を得る為には必然的にキャノピーの大きさも大きくなり、大きくなればなるほどコントロール性は失われる。無理にバーニアを吹かせ機体をコントロールするにしても、バーニアの熱でブレイクコードが切れかねないため、落下中のバーニアでの機体操作は望めない。
そのため、高度が100m未満に近づいた段階でパラシュートパックを切り離し、バーニアによる落下速度を維持したまま地上に着地するのだ。
「どうなってやがる? 地上でどんぱちを繰り広げている様子がないぜ」
降下しながら地上の風景を眺めるが、地上では戦闘による攻撃の爆発、飛び交う銃弾とビーム等が見られない。中東の荒野でそれらが見られないことなどまずあり得ない。
「俺達が来る前に作戦は終わっちまったのか?」
「全くの無駄足だってことか?」
パラシュートパックを切り離し地上に着地した俺達は再度周囲を見渡す。見渡せば見渡すほど周囲には何もない荒野が広がっているだけだった。残骸等も何も見当たらない。元々戦闘など起きてなどいなかったかのように。
「地図に誤りはなさそうだ。ここが目標の降下ポイントであることに間違いはない。だが、肝心の作戦が展開されていない。これはどういうことだ?」
確かにコックピット内に表示されている周辺地形図は一致している。地図ないの赤い降下ポイントも俺達が立っている地点で間違いない。なのに作戦だけが展開されていない。この不自然さは流石におかしい。
「我々も戸惑っているところだ。我々にもこればかりはわからん」
三人の特使の内のリーダー各の105ダガーに乗っているメルサ中尉が答えた。どうやら彼らもこのことは知らないようだ。
「グタグタじゃねぇか。どうなってんだよ連合内部は」
「アサン本部と連絡は?」
「ダメだね。本部とは離れ過ぎているせいで通信不能」
どうしていいか分からず五里霧中になる一同。俺達の部隊は決まった拠点、所属基地を持たない流浪の部隊。基地から基地に流れてはその場で作戦を言い渡される。だからこういったイレギュラーな事態で問い詰める場所がない。作戦の考案も連合本部で行われており、現地基地に問い詰めたところで解答は返ってこない。特使達も通信不能となっているため、本部からは何も情報が下りてこないことになる。
「一先ず落ち着ける場所で落ち着くしかない。確か付近には集落があったはずだ」
現場から西に30km離れた場所に小さな集落がある。こんな辺鄙の荒野で立ち往生したところでエネルギーの無駄であり、俺達の身も持たない。軍事基地でないため、MSの補給は望めないが、今のところ消耗品がないため補給の必要はない。だが、パイロットである俺達の補給は必要だ。水に食料の何から何まで。
本来ならとっと作戦を遂行して日帰りで帰れるはずだったのだが、作戦がこのような展開になってしまったためにすんなりと直ぐに帰るわけにもいかない。迎えが来るのも作戦完了を確認した段階でこちらに来ることになっている。だから作戦が遂行できない以上迎えもこない。
情報が正確で当初の作戦内容であるならば、この近辺にはZ.A.F.Tの残党が身を潜めている。もしかしたら何処かで見ているのかもしれない。狙い撃ちされてはたまったものではない。危険かもしれないが、一端移動する必要がある。そのついでに状況整理をするための落ち着ける場所に向かわなければならなかった。
「周囲の警戒を怠るなよ」
縦列の隊列を組ながら集落に向かって移動を始めた。センサーにはMSや航空機の反応はなく、俺達の他に何もないことに安堵したのか、隊長の表情が元の明るさを戻していた。
この時移動をする彼らのことを岩影から見詰める黒い影が3つ程あったのだが、そのことに彼らは気づかなかった。 黒い影達はMSの進行方向を確認すると馬に跨がり、何処かへと走りさっていった。
◆ ◆ ◆
「申し訳ない村長。少しの間厄介になる」
「何もない小さな村ですがゆっくりしていって下さい」
1時間程移動しでようやく集落まで辿り着けた。集落の家は全て岩を削って作られたものがほとんどであり、集落内を山羊などの家畜を引き連れて歩く人影の姿があり、女性は全員がローブのような者に身を包んでいる。
寝泊まりや食事などはなんとかなりそうだが、娯楽や日用品を手に入れることは難しそうである。始めはMSに驚いていた住民も次第に物珍しさにMSの周辺に群がってきていた。
そしてその中の一人にこの集落の代表が名乗り出てきた。俺達も隊長を代表としてこの集落で少し世話になれないかの交渉に出た。
交渉は思いの外上手く事が運び、特に対価などを求められずにゆっくりと寛げることになった。この集落の住民達が友好的で助かった。
「可能であるのならば家を幾つか貸して貰いたい」
「それならば使われていない家が2軒程あるのでそちらをご利用ください」
MSから降りた俺達の元に大勢の子供が群がってきた。日に焼けた褐色の皮膚をした子供達は俺達に詰め寄り手を出しては何か物を要求してくる。
「悪いなこんなものぐらいしか持ってない」
増過食として持ち合わせていたスナック菓子やチョコレートといった食べ物をコックピット内から取りだし子供達に配る。
受け取った子供は笑いながら遊び場である広場のようなところで貰ったばかりの菓子を口にしだした。
本当だったらこういったことはしないほうが良いのだが、突然押し掛けて迷惑をかけるのだから最低限これぐらいはしてやろうと思ったのだ。
「戯れるのもいいが、行くぞ」
MSのハッチの閉鎖を確認し俺達は使われていない空き家に入っていった。使われていない空き家というだけに中は人の住んでいた形跡が長く見当たらない荒れ具合となっていた。辛うじて使えるのは長机と毛布ぐらい。絨毯も引かれていないため寝るときは岩肌に横にならないといけないが、一通りこういった状況でも寝れるように訓練は受けているため苦ではない。
「メルサ少尉。もう一度作戦の整合を取りたい。付き合ってくれ」
「勿論だ」
「隊長、俺達は?」
「村長の話ではこの村には唯一の軽食屋があるとのことだ。町から食料等を輸入しているため酒などもある。お前達はそこで鋭気を養っていろ。恐らく作戦は今日中には実行しない。だからといって余り飲みすぎるなよ?」
「「「「はい喜んで!!」」」」
軍人にあるまじきことだが、まぁ、致し方ないとするか。隊長の鶴の一声に一斉に口を合わせて感謝の意を表明する仲間に混じって俺も軽食屋に向かうことにした。
◆ ◆ ◆
「ギャハハハ!」
木製のコップに注がれる酒を次々と飲み干しながら、出されるオニオンスープや芋や干された肉等の食事を進める俺達。案外此方の食事も口に合い、地下水から造り出されている酒も美味い。
少ない持ち合わせの中で注文しているのだが、レートの違いなのか俺達の手持ちの少ないドルでもそれなりに注文が出来る。
「おじさん軍人なんだよね?」
店の主の子供なのか給士を勤める10歳ぐらいの少年が料理をテーブルに置くと同時に俺に質問してきた。おじさんという年齢ではないのにおじさん扱いされたことに少しショックだった。
「あぁ、そうだよ。それがどうしたんだ?」
「軍人さんって戦場で戦って死んじゃうんでしょ? 死ぬのは怖くないの?」
純粋無垢な目で質問してくる少年。確かにその通りだ。軍人は金を貰い戦場で戦う人にはお薦め出来ない職業であり、死ぬ危険性も他よりも高い。それでも必ず死ぬわけではない。
「死ぬのは怖いさ」
それでも死ぬのは怖い。大勢の仲間や人間がこの戦争で死んでいった。家族にも会えず、別れの言葉も告げれずにむざむざと。死体が残っているだけましな状況だってある。死ぬのが怖くない奴なんていないさ。
「なら何で軍人を辞めないの?」
「軍人になったからさ。途中で逃げ出すわけにはいかないんだ。死ぬのが嫌で逃げ出したら死んでいった仲間に申し訳もない」
そうだ。逃げ出すわけにはいかないんだ。
「......ボクはそれでもイヤだね。死にたくない。ボクだったら逃げる」
「逃げることが悪いとは言ってないさ。自分の気持ちに嘘をついたまま、迷いを持ったまま戦場に出たら死期を早めるだけさ。考えなんて人それぞれ。君がそう思っているのならばそれでいいんだよ」
年端もいかない子供なのだ。こんなことを言ってもあまり現実味がないのかもしれない。この戦争とは無縁の地域も多数あるから地球上の人間が皆戦争に参加しているわけではない。ここも残党が展開していなければ戦争とは無縁だろう。
その後少年は何も言わずにまた自分の仕事へと戻っていった。そしてまた運ばれてきた食事を他愛のない会話をしながら咀嚼していく。
「そろそろいくぞ」
夜もいい具合に更けてきたところで俺達は明日のことも踏まえて切り上げることにした。勘定を払い、店を後にしようとしたころで、出入り口から先程の少年が出てきて俺に一言言ってきた。
「早くここから出てください」
その言葉の意味は酒のせいで頭が上手く働かず、深い意味など何も詮索せず、少年の頭を撫でただけでその場を後にした。
◆ ◆ ◆
「昨日は迷惑を掛けました」
「いえいえ、そんなことありません」
翌朝。今日は連合軍基地がある大きな街に向かうことになった。その街の基地で再度本部と連絡を取り、事情を説明することになった。そしてそのまま基地の支援を受けて次なる任務地に向かう。その手はずだ。ようするにこの作戦は遂行不能ということ。遂行するにしても当初と大きくかけ離れた作戦内容になってしまっていて、支援も援軍も無しに単独での作戦展開が出来ないからだ。
「アキムなにやってたんだよ」
ストライクダガーに乗り込み待機していると、アキムが昨日止まった家から遅れて出てきた。
「悪い、トイレが長引いた」
「早くしろよ」
何事もなく集落を出れる筈だった。ストライクダガーに乗り込もうとするアキムの前に一人の子供が笑顔のまはま近づいてきていた。その手には何かが握られていた。そして笑顔のまま子供は手に握られていたモノを振りかざしピンを抜いた。
「アキム危ない!」
俺が叫んだ時にはもう遅かった。コックピット内でも響き渡る爆音と爆風に飲まれるアキム。子供が抜いたピンは対戦車手榴弾のピンだった。MSであっても地雷は被害の対象であり、戦場では地雷にやられるMSも少なくない。それを使われたのだ。
爆煙が晴れる頃にはアキムの姿は何処にも無かった。骨一つ残さず粉々に吹き飛んだアキムと子供。アキムのストライクダガーも爆発の影響で装甲が吹き飛んだり、両足が吹き飛んだりと大破していた。
あまりにも信じられない出来事に俺達は頭の中が真っ白になっていた。
「いまだ! かかれ!」
俺達が我に返ったのはそれまで温厚だった住民が武器を片手に決起してきたからである。MS相手に生身などと思っていたが、全てのMSの脚部が一斉に吹き飛んだ。
「ファック! 罠だったのかよ!」
「昨日の夜の内に仕掛けられたんだ!」
両足が吹き飛んだMSに鬼気迫る表情で詰め寄る住民達。命の危険を察知した俺達はコックピットから外に出て携行している拳銃や備え付けの小銃で応戦を開始した。
「よくもやりやがったなテメェら!」
「死ね死ね死ね死ね!」
「畜生が!」
此方の攻撃もお構い無しに進撃を続ける住民。何が彼らをここまで駆り立たせたのか。けど、今はそんなことはどうでもよくなっていた。俺は友人が殺されたことに血が登り他のことを考えられなくなっていた。
「村長! 一体なぜこんなことを!」
「許してください。あなた方がいけないのです。あなた方が地球連合軍が」
「あなた達は一体......」
「私たちは地球に移民したコーディネーター。そしてここを治めていたZ.A.F.T軍の身内でもあります。これは死んでいった家族への弔いなのです」
隊長に向けて拳銃を構える村長。立ち尽くす隊長を守るため俺は拳銃で村長の頭と胴体を何発も撃ち抜いていく。
「よせ! 撃つな!」
村長の返り血を浴びながら隊長は住民に一斉射撃をする俺達に向かって叫んだが、その時には既に動ける住民は一人もいなかった。
手持ちの弾倉が無くなるまで弾を撃ちまくり、足元には無数の空薬莢が散りばめられ、外れた弾丸の弾痕が住居に刻まれている。
騒ぎが終息したところで冷静になった俺達は散ったアキムの死を嘆き涙を流した。そして俺は悲しみながら今回の騒動は俺達による虐殺ではないのかと考え伏せてしまった。同時に過去の苦い記憶が甦る。Z.A.F.Tの誤爆により家族をことを。そして今回のことはそれと同じではないのかと思ってしまっていた。