なるべくコンパクトに纏めようと思ってたのに・・・・・
そんな少し長めの3話です。
「何なんだお前は!ストーカーか?」
「失礼な!こんな美少女と毎日下校出来るんだから感謝してもらいたいくらいだよ!」
現在、斥亜が竜太に付きまとい始めてから一週間が経過しようとしていた。
「マジでいい加減にしてくんない?クラスで変な噂が立ってきてるんだけど。」
「お、なになに!もしかして『阿久津には超絶美少女の彼女がいる』とか?」
「いや、『阿久津にはヤバイ髪の色の彼女がいる』て噂だ。」
「何で全員髪の色に拘るの!?異形系の人とかもっとインパクトのある見た目してるはずだよね!」
斥亜の言い分も一理あるだろう。
「・・・・・・・もう諦めろよ。俺はヒーローにはなれないって言ってんだろ。」
「やだね!アタシはもう君とヒーローになるって決めたんだ!」
斥亜の諦め知らない性格に、竜太はうんざりとしていた。
「・・・・・・俺のこと何も知らねえだろ・・・・勝手なこと言うな。」
竜太は少し怒気を含んだ言葉を発した。
「うん。知らないから勝手に言えるんだよ。勝手を言ってほしくないなら君のことをもっと教えてほしいな。」
斥亜はそんな竜太に笑顔で返した。
「・・・・・ そうだな。来い、俺の個性を見せてやるよ。」
「お!いいねいいね~!やっと進展だよ。」
そう言い、竜太は斥亜に手招きしながら歩いていく。
そして、二人は人気のない路地裏にたどり着いた。
「ちょっと~、いきなりこんな所に連れ込んで・・・・気が早いんだから~。」
「お前そろそろひっぱたくぞ!」
竜太の堪忍袋の緒が限界のようだ。
「俺の個性を見せる前に、お前の個性を見せてくれないか?」
「ああ、人に尋ねるときは自分から、てやつ?いいよ。ちょっと離れててね。」
そう言い、斥亜は両手を横に広げた。
そして、彼女を中心として球状に半透明の紫色の膜のようなものが現れる。
「アタシの個性は『斥力バリア』。外側から触れたモノを弾き飛ばす斥力の膜を掌から張る個性だよ。形はある程度変えられるけど、表面積に限りがあるんだ。」
説明を終えた斥亜は、斥力のバリアを消した。
そして、斥亜の個性を見て、竜太は嘲笑のような笑みを浮かべた。
「ハッ、流石はヒーローヒーローって言うだけあるな。人を護る盾かよ。正にヒーロー向きの個性じゃねえか。」
「・・・・・・」
竜太の言葉に、斥亜は微妙な表情を浮かべる。
「さて、俺の個性だったな・・・・・・俺のは・・・」
竜太は自分の個性を発動する。
彼の右腕に黒い鱗が現れ、さらに鉤爪が生える。そして今度は顔の右半分にまで鱗が広がり、右側頭部から角が生える。
そしてそのまま、竜太はその爪の切っ先を斥亜の目の前に突きだした。
「これが俺の個性、『竜化』だ。・・・・・・今は抑えてるが全身変化すると尻尾も生える。・・・・・・・人間じゃねえよ、こんなの。」
竜太は自嘲気味に笑った。
「でも!その個性だって使いようによっては人を守れるよ!」
鋭い鉤爪を突き付けられているというのに、斥亜は少しも怯まず竜太を説得する。
しかし、竜太はまたも嘲笑のような・・・しかしどこか悲しみを含んだようなような表情を浮かべた。
「俺は小学生の時、この爪でクラスメイトに一生消えない傷を残したんだよ。」
「え・・・・・?」
予想外の話に、流石の斥亜も目を丸くしている。
「勿論わざとじゃねえ・・・・・・ちょっとした口論だった。先に突き飛ばしてきたのは相手だったよ。・・・・・・俺はそれが頭に来て、そいつをひっぱたこうと思った・・・・そしたらどうだよ・・・・手に残ったのは何かを抉ったような感触、相手の顔に残ったのは血が流れ出す爪痕・・・・・・俺の手は、黒い鱗と鉤爪が生えてた・・・・・・しかも・・・・女の子だったんだよ、その相手は。」
「・・・・・・・・」
斥亜は竜太の話を、悲しげな顔で聞いている。
「分かったろ?俺の個性は・・・・・この力は、誰かを守れるもんじゃねえ・・・・・・誰かを傷付けるもんだ。」
話を終えた竜太は、変身を解いた。
「だから・・・・・もう俺に関わるな。」
そう言い、彼は斥亜に背を向け、去っていった。
「・・・・・・アタシのバカ・・・・」
斥亜は壁に背をもたれながら、腰をおろした。
「無理矢理迫って・・・・・相手の傷口開くなんて、最低だよ。・・・・・・・何となく分かってたじゃん、“ アタシと似てる ” て・・・・・・・」
斥亜は暫くそこから動くことはなかった。
(・・・・・静かだな。)
斥亜と別れた帰り道、それは一週間ぶりに一人で歩く下校ルートであり、車が行き交い、人は大勢歩いているというのに、彼女のいない帰り道は・・・ 酷く静かで、退屈な気がした。
(何でだ?アイツと会う前はこれが普通だったろ。何で今更違和感があんだよ・・・・・・?)
竜太は分からなかった。今彼の心を支配しているモヤモヤとした感情が一体何なのか。
(クソッ!なんだってんだ!スッキリしねえ・・・・・・・・・ まさか、後悔してんのか?)
彼は知らなかった。たった一週間、しかも付きまとわれていただけの少女が・・・・・・彼の中でどんな存在になっていたのかを・・・
しかし、彼の悩みを吹き飛ばすかのように、突如爆音が鳴り響いた。まるで、何かが壊れたような音だ。
そして、竜太の背後からどんどん人が走ってきて、竜太を追い抜いていく。
「な!?何があったんだよ!?」
「君!早く逃げるんだ!!」
立ち止まっている竜太に、見ず知らずの男性が声をかけてきた。
「何があったんですか!?」
「向こうの交差点でヴィランが暴れてるんだよ!!」
「な!?」
竜太に事態を説明し、男性はそのまま走り去っていった。
しかし、竜太は交差点の方を見据え動かない。
(何してんだよ!俺は民間人だぞ!ヒーローじゃねえんだ、逃げればいいだろ!!)
しかし彼の足は動かない。まるで逃げることを拒否しているように。
(逃げろよ!!さっさと逃げてヒーローをまてば・・・・)
「おい!さっき親子が逃げ遅れてなかったか!?」
「ヒーローはまだ来ないのかよ!!」
すれ違う人込みの中で、そんな話し声が聞こえた。
そして、竜太は人の波に逆らって、交差点へと向かう。
その足に迷いはない。
(バカだな、ヒーローになれないっていったのは俺だってのに・・・・・)
『誰かを守るのに向いてる向いてないはないんじゃない?』
竜太の頭の中で彼女の言葉がリピートされる。
(まあ、たまには他人の言葉を信じてやるよ!)
そして、人込み抜け出た竜太が見たのは・・・・怪物のような姿の二メートル以上の異形系のヴィランが腕を振り上げ、逃げ遅れた母娘に降り下ろそうとしている場面だった。
どうあがいても、たとえ個性を全開で使ったとしても間に合わない。竜太はそう悟った。
だか、それでも彼は足を止めない。
何故なら、彼女なら間に合うと思ったから。自分の向かいの道から走ってきている紫髪の彼女なら間に合うと。
「斥亜あああああ!!」
竜太が出した大声に、一瞬だけヴィランは竜太の方を見た。
その隙に、母娘とヴィランの間に、紫色の髪の少女が・・・・斥亜が割り込んだ。
彼女の乱入に気付いたヴィランは、直ぐにその腕を三人に目掛けて降りおろす。
しかし、その腕は紫色の斥力バリアによって阻まれた。
「いっけええええええええッ!!」
斥亜の掛け声と共に、ヴィランの背後に竜が現れる。
全身に黒い鱗を纏い、鋭い鉤爪を携え、頭から角を生やし、さらに長い尻尾を生やした黒竜が。
「食らえクソヤロおおおおおお!!!」
「クボアアアッ!?」
そして、その強靭な尻尾がヴィランの顔面に叩き込まれ、ヴィランを思い切り吹き飛ばした。
そのまま、ヴィランはピクピクと痙攣し、意識を手放したようだ。
そして、思わぬ再会を果たした二人は互いに、笑い合う。
「『もう俺に関わるな』とか言ってなかったっけ?」
「うるせえ、緊急事態だったんだからノーカンだよ。」
そう言い、竜太は変身を解いた。
「あの!」
二人が軽口叩きあっていると、母親の方が声をかけてきた。
「ありがとうございます!あなたたちがいなかったらどうなっていたか・・・・・」
「イエイエ、アタシたちはヒーローを目指す者として当然のことをしたまでです。」
「おい!俺は目指してねえぞ!」
竜太はまだ渋っているようだ。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、」
そんなやり取りをしていると、母親が抱いていた七歳ぐらいの女の子が口を開いた。
「たすけてくれて、ありがとうございました。」
ペコリと二人にお辞儀をしてきた。
「なんのなんの。困ったときはいつでも呼んでね。今はまだモグリだけど、いつか本物のヒーローになって見せるから!アタシたち!」
「だから俺は目指してねえ!」
そこから、また二人の言い合いが始まった。
「フフ、」
すると、その光景を見て、母親が優しく笑った。
「貴方たち、とってもいいコンビね。」
「ええ!?」
「そうなんですよ!分かります?」
「ええ、とってもお似合いよ。」
「ちょっとまてえええええ!!」
竜太の叫びがビルに反響したとき、救助に来たヒーローたちが駆けつけたのであった。
「はー、やっと事情聴取終わった・・・・・」
「いいじゃん。何か既に卒業後うちに来ないか?て言ってくれる人もいたし。」
二人はヒーローや警察からの事情聴取が終わり、既に日が落ちた夜道を歩いていた。
「どう?アタシの言った通りだったでしょ?」
どや顔の斥亜に、竜太は少し笑う。
「そうだな・・・・案外この力も捨てたもんじゃねえかもな・・・」
竜太の言葉を聞き、斥亜も優しげな笑みを浮かべる。
「さて、では晴れてアタシのパートナー、及びライバルとなった君にとっておきの話をしてあげよう!」
「なってねえよ勝手に決めんな。」
「まあまあ、とりあえず聞きなよ。」
ふざけた言い回しながらも、真剣な顔をした斥亜を見て、竜太は言われるままに聞くことにした。
「アタシはね、この力を中学になるまで使いこなせなかった。少しでもカッとなると、すぐにバリアが発動して、相手を弾き飛ばした。そんなアタシに近寄る子なんていなかった。・・・・・分かる?アタシの個性は人を護る盾じゃなかった。アタシと人とを隔離する、殻だったんだよ。」
「・・・・お前、」
斥亜の話に、今度は竜太が目を丸くした。あんなに明るい彼女に、そんなに暗い過去があったなんて。
「中学に上がる前に何とか個性を制御できるようになってね。アタシは知り合いが一人もいない遠い中学に進学した。中学では友達もいたし、順調だった。そんで、そこからヒーローを目指そうと思ったの。アタシの個性は孤独の殻じゃない、救いの盾だってことを証明するために。・・・・・でも、雄英に入るって決めたとき、アタシはまた一人ぼっちになった。勿論皆受験で忙しいのは分かってる。だけど、アタシはそれに耐えられなかった。また、あの時みたいに一人ぼっちになるんじゃないかって思った・・・・・だからずっと探してた。アタシを支えてくれるパートナーを。アタシと競ってくれるライバルを!」
そして、斥亜は竜太の目を真っ直ぐに見つめる。
「改めてお願い事します。阿久津竜太君。アタシを支えてくれるパートナーになってください!アタシと競ってくれるライバルになってください!アタシと・・・ヒーローを目指してください!!」
頭を下げた彼女を見て、竜太は思った。彼女と自分は確かに似ている。お互い、自分の個性に苦しんだ。
言うなれば、同類だろう。
そして彼は考えた、彼女との一週間を。たかが下校の時間だけの付き合い、しかもしつこいストーカーのような少女。そんな彼女が、彼の中でどんな存在であるのかを。
そして、答えを出す。
「ヒーローを目指す、か。・・・・ダメだな。」
「・・・・・・そっか、ごめんね。」
斥亜の声が震え、その頬を涙が伝う。
勝手だと言うのは斥亜も分かっていた。分かっていたけど泣かずにはいられなかったのだ。
「ごめんね。色々迷惑かけたね、それじゃ。」
そう言い、斥亜は竜太に背を向けた。
「目指すだけなんて中途半端なことは出来ねえよ。」
「・・・・・え?」
振り返った斥亜に、竜太はニヤリと笑って見せる。
「ヒーローに “ なる ” 。そう言い切って貰わねえとな。パートナーとしては不安だし、ライバルとしては張り合いがねえよ。」
「この・・・・・・意地悪!!カッコつけた言い方して!アタシの泣き損だよ!!」
「知らねえよ。お前が勝手に泣き出したんだろ?」
「ぐぬうううううムカつく!!絶対君よりすごいヒーローになってやる!!」
「望むところだな。それまで頼むぜ、斥亜。」
「目にもの見せてやるからね!それまでよろしく、竜ちゃん。」
「待ってそのあだ名はやめて。」
こうして、二人のヒーローへの一歩が踏み出された!