東方物部録   作:COM7M

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この作品の投稿ペースですが、今までは週1~3くらいのペースでやっていけたのですが、リアルの都合により不定期更新に変わります。申し訳ありません。
一週間後に投稿できるかもしれませんし、一か月や二か月先になるかもしれません。どちらにせよ投稿ペースは一気に落ちます。
おそらく投稿ペースが安定するようになるのはかなり先になると思います。

投稿当初はここまでたくさんの方に見ていただけるとは思っても居らず、また描写や展開はともかく、布都に憑依するという発想自体はよいと自負しており、私自身この作品に愛着があるので、頑張って続けていきたいと思っております。

また、感想の返信や修正が遅れたりするかもしれませんがご了承願います。



可憐で清楚な乙女

霍青娥、いつかは会うだろうと思っていたがこれほど早く彼女に会えるとは…いや、彼女に発見されてしまうとは想像していなかった。彼女はよく悪人と勘違いされるが実際は少し違う。彼女は己の欲望を満たす為なら正義にでも悪にでもなり、物よりも人に執着し、他人を弄り回すのが好きなだけである。それを悪人と言えばそれまでだが。

彼女を目にして抱いた感想はたったの一つ。ここまで胡散臭い奴がこの世にいるのか。顔は美人だからやはり胡散臭く感じる原因は雰囲気と口調からか。兎に角、こいつの口にする事を鵜呑みにしてはいけないと初対面ながら直感した。それは神子様も屠自古も同じなのか、不審者を見る目で青娥を睨みつけ、警戒を強めている。

 

「あら、そんな反応されると悲しいですわ」

 

ニヤニヤとワザとらしく笑みを作る青娥。本当に此奴が後に神子様の師になる女なのだろうか?我の知っている霍青娥と見た目や口調は完全に一致しているが、余りの胡散臭さから原作の知識が全く信用できん。

だが原作を知っている我は青娥が我等に対して敵対心を抱いていない事は分かっていたので、比較的心境は穏やかだった。問題は神子様と屠自古で、神子様は青娥が何者か読めないのと青娥の胡散臭さが相まって、七星剣に手を置いており、屠自古に関しては野獣の如く低い唸り声を上げて威嚇している。

 

「何が目的だ。お前なのだろう、妖怪を嗾けて私たちを襲わせたのは」

 

「流石、正解ですよ」

 

「えっ!?」

 

前言撤回、やっぱりこやつは悪人だ。流石1400年後に邪仙と呼ばれるだけはあり、微塵も負い目を感じていない。

にしても何故神子様はそれが分かったのだ?いくら神子様が聡明な方とは言え、超能力者ではあるまいし。

 

「どうやって私が犯人と?」

 

「…そもそもこの生駒山は神霊の加護により妖怪が好む場所ではなく、本来ならこの山で妖怪に襲われる事はまずない。それに加え妖怪の気配を察知した時、前兆が無かったのも気になる。普通なら音が少しずつ近づいてくる筈だが、私が察知した時は既に囲まれていた。そしてお前もまた妖怪達と同じように私に覚られずに、突如目の前に現れた。これだけでお前を犯人と決め付けるのは十分だが、付け加えるならカマを掛けた」

 

やはり神子様は天才だ。並々ならぬ推理力に観察力、そして不審者相手にも一歩も引かぬ堂々とした態度は一般人には到底できるものではない。推理はズバリ当たっていたのか、青娥は嬉しそうにパチパチと手を叩く。

しかし待てよ。青娥が気配を消していたのなら神子様は青娥に気づくことができたのだ?

またもや疑問が浮かんできたのであれやこれやと考えてみるが見当もつかず、結局神子様の言葉を待つこととなった。

 

「と、私がこの推理にたどり着くのもまたお前の予想通り。姿を消しておきながらワザと物音を立てたのも、妖怪と同じようにあえて私に悟られず目の前に現れたのも、私を試したかったからだろう?大方先ほど寄越した妖怪たちは布都への挑戦と言ったところか」

 

「あら~、そこまで分かります?可愛くないガキですわねぇ」

 

神子様の推理は正解だったようで、青娥はニコニコと笑みを浮かべながらも毒舌を吐く。神子様は一歩も引かず青娥を見上げ睨みつけている。頭脳と頭脳のぶつかり合いは、聞いているだけで頭が痛くなりそうだ。

そんな中この空気を気にせずに口を挟む猛者がいた。

 

「神子様が可愛くないとか目が腐ってんのかこの婆!」

 

屠自古だ。神子様大好きな我が言うのもアレだが、屠自古もまた我と同じかそれ以上に神子様を崇拝している。一度(ひとたび)神子様の悪口を聞いてしまえばそれが最後、驚く程に沸点が低くなる。全くなんと浅はかなのであろう…とは残念ながら思えぬ。我もまた屠自古と同じだからだ。

 

「そうじゃ、この若作りの年増め!神子様をあろうことか可愛くないと申したか!可憐で清楚で凛々しい神子様に対しそのような暴言、万死に値するぞ!」

 

「い、いや、二人とも?庇護してくれるのは嬉しいですが、この方はそのような意味で可愛くないと言った訳ではないのですよ?」

 

空気が一変し、神子様の口調がいつもの穏やかなものへと変わる。一方青娥の空気は神子様と正反対のドス黒いものへと変化し、我等二人を鬼のような目で見つめるが我等は一歩も引かん。

 

「フフッ、私とした事が耳が悪くなりましたか?わたくしには似つかわしくない言葉が聞こえた気がしますが」

 

「目だけじゃなく耳まで悪くなってるのか!?」

 

「そもそも妖怪を嗾けて、自分は高みの見物をする思想が年寄臭いのじゃ!」

 

悪口となれば子供は無駄に強い。我の暴言に関してはもはや主観的意見であり、理屈もなにもあったものではない。しかし青娥には十分に効いたのか、相も変わらず笑顔のまま我等の元へ歩き、満身創痍で地面に横になっている我と、膝枕をしている屠自古を見下ろすように青娥が立つ。

我等を見下ろす青娥の瞳を見た我等はビクッと肩が震えた。その瞳には殺意が籠っていた訳ではなく、闘士や覇気が籠っていた訳でもない。それはまるで、幼子がおもちゃを見るような純粋な瞳で我等を眺めていた。青娥の風体や雰囲気からかけ離れているもので不気味だった。

青娥への悪口を忘れ、すっかり黙り込んでしまっていると我等の間に神子様が入り助けて下さる。

 

「待て。布都と屠自古の暴言、私から謝罪する。だがお前の目的が何であれ、我等を攻撃したのは確かだ。むしろこの程度の暴言で済んだと思うべきではないか?」

 

「…あなたもあなた。少し私の実力を軽視しているのでは?」

 

途端、青娥の雰囲気がガラリと変わる。今まで我等に向けていたドス黒いものはただのお遊びだったと体で理解した。

言葉で説明できるものではない威圧感。殺意や闘志が込められているのではない、比喩もできない独特な威圧感が神子様に向けられる。第三の視点から見ている我や屠自古でさえ青娥の迫力に圧倒されたが、当の神子様は表情一つ崩さずに青娥の瞳から視線を反らさなかった。あれ程のプレッシャーを与えられながらも一歩も引かぬだけでも尋常ではない精神力だが、あろうことか神子様からもまた只ならぬ雰囲気が発せられる。日常生活でも時折その片鱗を見せていた神子様の持つ覇気だ。

思わず呼吸も忘れただ茫然と二人を見ていた。

 

「…フフッ、冗談ですわ。本気にしなくたっていいじゃありませんか~。私だって女性、年老いて見られるのは不愉快です」

 

嘘だ。先ほどまでの青娥の雰囲気が冗談で出せるものではないと我でも分かる。当然その威圧感を直に受けた神子様も分かっているはず。だがここで引かなければ、本当に青娥の実力を味わうことになってしまう事も神子様は気づいておられる。

 

「それは失礼。それとあの二人の暴言は忘れなさい、あなたは若く美しい。普通の者には無い危なくも魅力的な美しさをあなたは持っている」

 

「まあっ!一国の皇子に褒めて貰えるなんて青娥嬉しい!」

 

「むぐっ!?」

 

神子様の気障な口説き文句に青娥はぶりっ子丸出しの気色悪い声を上げて、神子様をその豊満な二つの山の間に抱き寄せる。三文芝居もいいところだが、非常に腹立たしい。

 

「おい屠自古、いつかあの女絶対絞めるぞ」

 

「当たり前だ。お前以上に大っ嫌いだよあいつ」

 

「奇遇じゃな、我もだ」

 

この時ほど我と屠自古の結束が強まった事はないであろう。ワザとらしくギューと神子様の顔を胸に押し込む淫乱仙人を睨みつけながら、我と屠自古は熱い握手を交わした。

 

それから十数分後、青娥の案内の元、我等は川の近くにやってきた。せめてもの詫びにと我の治療をしてくれるそうだ。我は勿論、神子様も屠自古も青娥の言葉を信用できなかったが、ここで我等を騙しても青娥に得は無いと神子様が判断されたので、渋々と付いていく事となった。我等が焼肉をしたところも川の傍だったがそこではなく、神子様達が逃げ込んだ洞穴とは別の洞穴を抜けた場所。川の流れる先は滝になっており、下から水の打たれる音が聞こえてくる。ここまでの道中は神子様がおんぶして運んでくれ、申し訳ない気持ちもあったがそれ以上に神子様の繊細な背中に触れられて嬉しく、また道中掴まるフリをして神子様に抱き付く事ができたりと、まさに怪我の功名と言えよう。

 

「豊聡耳様、物部様を下してくださいな」

 

青娥はチラリと川の方へ視線を流しながら言った。川へ下せとのこと。青娥に言われなくとも怪我した部位を冷やしておきたかったので丁度良かった。神子様は大丈夫かと優しく声を掛けながら、そっと我を下してくれた。何気ない仕草に隠された優しさも、数多ある神子様の魅力の一つだ。

我は怪我した右足に体重を掛けないように、そっと透き通った川へ足を入れる。ひんやりとした水が心地よく、少しだが右足首の痛みが和らいだ気がした。

 

「それでどうすんだよ?後遺症が残るほどじゃないが布都の怪我は結構酷いぞ」

 

「私も布都を怪我させておきながら、川で冷やしておけの一言で終わるのなら怒りますよ」

 

青娥の正体を知っている我は、この胡散臭い女がどうやって治療するかは薄々見当がついていた。彼女は薬学の知識に長けた仙人、まあ原作で此奴が薬学に精通している設定は無かったが、丹を作ったりしておるのは確かだから、薬学に関しては心配ないだろう。

 

「心配ご無用ですわ。これを使えば物部様はイチコロ…おっと、一発で治りますわ」

 

青娥は大きな谷間から薬の瓶を取り出すと、見せびらかす様に瓶を回転させる。

 

「おい、今イチコロと言ったなおぬし」

 

「なんの事でしょう?」

 

「おぬしの所為で我が死んだら、何千年後も名を轟かせる大悪霊となって永遠にお前を呪ってやる」

 

「それはいいですわ!是非毒薬に変えましょう!」

 

「…その瓶でよい。さっさと一思いにやれ」

 

嫌味や脅しに動じない胡散臭い仙人こそが霍青娥。此奴には下手に突っ掛るよりも、手短に話を終わらせるべきだな。

緊張感のない声で返事をした青娥は瓶の蓋を取り中に入っていた液体を数滴川へと落とすと、穏やかに流れる浅い川に小さい波紋が一瞬だけ浮かび上がる。すると怪しい液体が混ざった川は、優しい青い光を薄らと放ち始めた。まるで川が浄化されている様な幻想的な光景に思わず見惚れてしまう。

 

「足の傷が…消えていく?」

 

足の感覚に変化があったので川に浸けている足を眺めると、まるで時間が遡るかの様に、紫色に変色して腫れていた足首が元へと戻っていく。それはまるで何十倍にも早送りされた映像を見ているようで愉快かつ神秘的なものだった。神子様も覗き込むように我の足を見ており、目を何度も瞬きしている。

 

「上半身も怪我されているのでしょう?浸かればすぐに傷は癒えますわ」

 

我は小さく頷くと着物を脱いで裸になると、傷に沁みないよう何度か傷跡にかけ水をした後に湖に浸かる。川岸を見ると、屠自古は顔を真っ赤にして金魚の様に口をパクパクさえて我を指差しており、神子様も頬を赤らめて瞳を手で覆っているが、指の隙間からチラチラと見ているのが分かる。

別にこの場には女しか居らぬのだから気にする事なかろうに。それと神子様は、そのむっつりスケベみたいな反応は止めて頂きたい。

二人の反応に違和感を覚えた我だったが、10や11となるとそろそろ性に関して興味を抱く頃であるため、同性とは言え野外で他人の裸を見るのは恥ずかしいのかもしれん。自分が裸になるならともかく、見るだけなら別段恥ずかしくないと思うがのぅ。

ひんやりとした川の水を肌一杯で感じながら、裸の自分の体を眺める。僅かに膨らみかけている胸の下、赤くなっていた腹が次第に元の白い肌へと戻っていき、体全身の痛みが一気に消えていく。

妖怪の返り血も浴びていたのでそのまま髪も洗い、一人自由に水浴びを堪能したところで立ち上がる。すると屠自古は急いで我から視線を反らし、下手に反応しない方がよいと悟ったのか神子様はマジマジと我の方を見ていたが、それはそれでどうかと思いますぞ…。

 

「助かったぞ青娥、感謝する」

 

青娥が渡してくれた綺麗な布で体を拭きながら静かに礼を言う。

「いえいえ、私の方こそ礼を言わせて下さい。物部様の可愛らしい裸も見て、幼児体型でもやらしい色気を出せるものだと教えられましたわ」

 

「おぬし…それは流石に引くぞ?」

 

今の発言は流石に身の危険を感じたので咄嗟に拭いていた布で体を隠し、下種を見る目で青娥を睨みつける。が、相も変わらず青娥は胡散臭い作り笑いを崩さん。

 

「ならわたくしよりもこの二人に言うべきではないでしょうか?あなたの裸に興味シンシンでしたわ」

 

「せ、青娥!?違いますよ布都!」

 

「わわっ、私は別に布都の裸なんか見てないしッ!」

 

ここに更に同性愛者兼ロリコン疑惑が二人現れてしまい、我は現在素っ裸のまま三人の性犯罪者予備軍の真ん中にいる状態になってしまう。

いやまあ実際のところ神子様と屠自古は上記の通り、我の裸と言うよりも性そのものに興味を持っているだけだろうし、青娥は使えるネタは何でも使って場を掻き乱そうとしているだけであろう。

 

「…とりあえず青娥と屠自古は後ろを向いておれ」

 

すると二人は大人しく後ろへ振り返り、一人だけ名指しされなかった神子様は気まずそうに我の方を見る。我は肌を隠している布の一部だけチラリとはだけさせ、平たい胸元と太ももを見せると、甘えた声で囁く。

 

「神子様はその、見たければ、ど、どうぞ…」

 

「う、後ろ向いてます!」

 

神子様の顔が下から上へとみるみると真っ赤になり、我の太ももと胸元へ一度ずつ視線を動かしてすぐに勢いよく振り向いた。

いつも神子様に赤面させられる我だが、今回は我の方が数枚上手の様であった。これも神子様がある程度の年になられると使えぬだろうが、神子様を真っ赤にさせるのは非常に愉快である。普段我をからかう神子様の気持ちが少し理解できた。

 

「ふふふっ。神子様もまだまだ初ですの~」

 

勝ち誇る様に鼻歌を歌いながら、我は脱ぎ散らかした着物を羽織った。

 

神子様が平静を取り戻したのはそれから数分後。周りを偽る為に女性を口説いている内に、本当にそっちの趣味に芽生えてしまったのではないかと心配している頃に神子様は正気に戻った。

神子様はわざとらしく咳払いを繰り返して真剣な空気を作り出すと、落ち着いた口調で青娥に問う。

 

「今の術といい青娥、お前は何者だ?神や仏の遣いとは到底思えぬが、妖怪とも言いにくい。ならばお前はいったいなんなのだ?」

 

神子様の頬は青娥への知的好奇心からか緩んでいる。正体を明かせる青娥は嬉しそうにニヤッと笑みを浮かべると、ワンピースの裾を両手で軽く持ち上げて一礼する。

 

「改めまして。私は霍青娥、またの名を青娥娘々。この国に道教を伝えに来た仙人ですわ」

 

霍青娥と出会ったここから神子様の人生が大きく分岐するのだろう。仏教でも神道でも無い宗教、道教を知った神子様は、ここから新たな道を歩み始める。それは即ち、我の人生も大きく変えることになる。

 




みんな、カメラは持ったか! 山の中へのりこめー^^

布都ちゃんの水浴びシーンを間に挟んだ所為で最後が雑になってしまい面目ありません。上手ければもっといい感じの描写挟んだりできるのでしょうが、嫦娥の所為で私には書けませんでした。嫦娥最低だな。

布都ちゃんの裸に神子や屠自古が赤面した理由は、布都ちゃんの想像とはまた別に、青娥が言った通り、ストレートで言うならエロかったからです。普段アホとたくましさが混ざっている布都ちゃんですが、脱げば大人っぽくなる。そういうギャップ…いいと思います。


さて、前書きにも書きましたが次がいつになるかは私にも分かりません。私も今までのペースで投稿を続けたいのですが、いつ執筆できるかが私にも分からないので、くどいですが不定期になります。
それでもよろしければ今後ともお願いします。


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