東方物部録   作:COM7M

17 / 34
初輝針城プレイ時

1面 わかさぎ姫だよね。道中は➈か

2面 2面か。ばんきっきどんな弾幕使ってくるのかな。

3面 3面は影狼で確か地味に厄介な弾幕使ってくる噂を聞いた。

4面 ……えっ、ボス誰?正邪は確か五ボス。もしかして五ボスと掛け持ちで四ボス勤めてるのかな→八橋登場→あっ(察し)

影の薄いキャラって本当に出て来ないんですね。
こんなんだからライオンにされるんだよ!




日本刀

「私の店を紹介してほしい、ですか?」

 

「そうだ。知っての通り我の剣は無くなってしもうたから、新しいのを探さんといかんでな」

 

首を傾げる門番の男。いつも剣の鍛錬に付き合ってくれている者で、彼の家は武器倉…武器屋と呼んだ方が伝わりやすいか、そこの末っ子だ。

 

青娥と出会ってから早一週間が過ぎたか。あの後当然だが父上と母上にもお叱りを受け、一週間の間自宅謹慎となってしまった。神子様と屠自古にその件を手紙で伝えたが返事からするに、どうやら我はまだマシな方だったらしい。屠自古は我の知っている馬子殿からは想像も出来ぬ程に怒られたらしく、ぶっ倒れるまで走り込みをさせられ、神子様も母上殿に文字通りボコボコにされたそうな。二人の親に比べ父上と母上の叱りが少なかったのは、理由は何であれ我が数多の妖怪を倒したのが誇らしかったのであろう。どいつも下級妖怪であったが、それでも十の少女が退治できる妖怪では無いのは火を見るよりも明らかだ。故に父上は呆れた表情を作りながらも、我が妖怪を倒したと自慢しているそうな。

因みに事の発端である青娥だが、我の治療が終わった後に我等と馬を山の麓へ下してから姿を消し今どこにいるか見当も付かんが、どうせどこかで悪巧みしているのだろう。青娥の件で一つ。これはこの一週間で気づいた事なのだが、妖怪と一緒に退治した腐った男の正体に思うところがある。結論から言うと腐った男の正体は妖怪では無くゾンビなのだろう。そこに至る過程としては腐った男が退魔の力で浄化されなかった事と、原作で登場する宮古芳香の存在からだ。思い返すと青娥は原作で宮古芳香と呼ばれるキョンシーを操っておったが、このあいだ青娥と会った時は彼女の姿が無かった。おそらく青娥はまだ完全にキョンシーを作る事が出来ないので、練習としてあのゾンビを作ったのだろう。つくづくふざけた輩である。

青娥の事を思い出してまた苛立ってきておると、門番の男は謹慎について知っていたのか、誰もが抱く疑問を聞いてきた。

 

「ですが布都様はまだ謹慎中なのでは?」

 

「今日で終いじゃ終い」

 

一国の皇子の命が危機に晒された割には随分と軽い罰なのも、上記の理由に加えて神子様が自分の責だと父上にお伝えして下さったおかげである。だが僅か一週間の自宅謹慎が信じられんのか、門番の男は不審そうに我を見ておる。疑り深い男は嫌われるぞ…妻帯者に言っても意味がないか。

 

「ええい、さっさと教えんか。何なら別の店に行っても構わんのだぞ。この十市には武器倉が多いのはおぬしの方が知っておろう」

 

「わ、分かりました。ですが私は仕事がありますからお伝えするだけでいいですか?」

 

「元よりそのつもりじゃ」

 

 

 

門番の男が教えてくれた実家の武器倉は我が家から少し離れた場所に立っており、店の前には刀魂の看板が立っていた。店を見た感じは可もなく不可もなく。武器を製作する必要がある為、辺りの店に比べると敷地は大きいが、繁盛している武器倉よりかは小さく、外装もいささか陳腐か。

因みに今の我の格好だが、地味な着物と傘を深く被る事でなるべく目立たぬようにしていた。別に顔を見られてやましい気持ちがある訳では無いのだが、我の容姿についての噂はここ十市では特に広まっておる為、変装もせずに道を歩けば周りの者は我の正体に気付くであろう。それで現代の超有名人の様にパニックになる訳でもないが、すれ違う民達が道を空けんといかんくなり、そっちの方が変装するより面倒だった。

そんな庶民にも気を使える物部布都であるが、我の変装を馬鹿にするかのように店の前には品の良い馬が暇そうにしていた。店を横切る庶民達が馬を見るや早足で通り過ぎる姿から分かるが、どこかの豪族が来ているのであろう。アポ無しで来た我にも問題はあるが、順番待ちになったら面倒じゃのう。

 

「邪魔するぞ」

 

「すいませんお客様。今主人は奥でお客様と対談中でして」

 

ガラリと扉を開けて中に入ると、三十代半ばの女性が申し訳なさそうに頭を下げる。門番の男の話じゃと、今は一番上の長男がこの店を切り盛りしておるらしいからこの女性は長男の妻か。

 

「構わん。適当に見せてもらうぞ」

 

「は、はぁ…」

 

煮え切らん返事をする奴じゃのう…って、失念しておった。変装したのはいいものの身長は子供。子供がこの店に来る時点で多少なりとも身分のある者と言っておるようなもの。おまけに彼女に対する我の口調、あれが庶民の口調で無い事は明白だ。

だが我の変装はあくまで往来で姿を隠す為であって、元より店に入ったら変装用の被り物は脱ごうと思っておったし丁度よいか。我は被っていた傘を脱ぎ、傘の中で束ねていた髪を下ろす。

 

「えっ、ええええっ!?ひょっ、ひょっとして、物部布都様でしょうか?」

 

「あ~うん。そうである」

 

我の髪を見るや目を見開いて大声を上げる女性に苦笑しながら頷く。幸いここには我以外の客は居らず面倒事にはならなかったが、再程の彼女の声は奥にいる店主と馬に乗って来た豪族にも聞こえたらしく、ドタバタと慌ただしい物音が店の奥から響いてくる。どこの豪族が出てくるのかと構えていたのも束の間、店奥から出てきたのは神子様であった。

 

「布都!」

 

「みっ、神子さまぁッ!?」

 

予想外の登場人物に思わず語尾が上がってしまうが、お構いなしにと神子様は我の手を握ってブンブンと大きく振る。手紙によると神子様は確か一か月の間は謹慎中だし、そもそも武器倉に来られる様なお方でもないがいったい何故ここに?

神子様に続くように店の奥から三十代半ばの男性が現れ、妻の女性と同じようなリアクションを取り茫然としていた。

 

「何故神子様がこのような店に?」

 

「丁度よかった。今あなたの剣について話していたところでして」

 

「へっ?それはうれしゅうございます…ではなく、神子様は謹慎中では?」

 

「そんなもの当の昔に終わりましたよ。周りの中では私の謹慎は続いているみたいですが」

 

それってまだ謹慎中は終わっていないではありませんか。要するに逃げ出して来たのですね…。

しかしまあ一週間前に逃げ出して酷い目に合ったばかりなのに、勇気があるのか、楽観的であるのか。厳しい母上殿が知ったらますます謹慎が伸びそうであるが、我が説得して神子様を宮まで返したところで既に宮では問題になっているであろう。存外我や屠自古よりも神子様が一番の問題児かもしれん。

 

「実はここ、七星剣を作ってもらった店でもあるのです。私の所為で布都のお気に入りの剣が駄目になってしまったでしょう?ですから是非ここの一級の品を布都に渡したいと思って」

 

なんと!?ここであの無駄にキラキラとした七星剣が作られたというのか!にしてはいささかボロい気が…。てっきりもっと無駄に外装に気を使う気取った店で作られた物と思っていたが、意外と庶民的な場所で生まれたようだ。

 

「神子様の所為などとんでもありません。我が未熟ゆえの失態であり、そもそもあの女が全ての元凶です。しかも結局襲ってきた理由も分からず仕舞い。思い出しただけでも腹が立ちます」

 

「青娥か。彼女と会った時に少し話しましたが、おそらく彼女は布都を試したかったのでしょう」

 

神子様がそう仰ったのは我もよく覚えておるが、神子様がそこに行き着くまでの経緯はこの一週間考えても分からぬままだった。

我が小さく唸りながら首を傾げると、神子様は微笑ましく笑って優しく頭を撫でてくれた。神子様の手の平の温かさの所為か、妙に頬が熱くなるのが自分でも分かる。

 

「あの時はまだ確証はありませんでしたが、彼女は一度たりとも屠自古の名を口にしなかった。こう言っては屠自古に失礼だが、彼女は屠自古に興味を持っておらず、私とあなたに興味を示していた様に見えます。ほら、私も布都も色々噂になっているでしょう?おそらく聡明と噂されている私には観察力を、勇敢と噂されている布都には武術を試し、私たちが本当に噂通りの少年少女なのか確認した」

 

彼女の事だから私の性別(正体)には気が付いていただろう、と小さく付け加える。

言われるまで気にもしなかったが、思い返せば無視とまではいかぬが、青娥は屠自古の名を一度も呼ばなかった。つまり青娥の狙いは端から我と神子様で、しかも妖怪の襲撃に関してはターゲットは我一人。ならば我が一人の時に襲ってくれた方が本来の力を存分に発揮できるし、神子様に怖い思いをさせずに済んだではないか。いかにも適当そうなあいつの事じゃ。面倒ですから物部様と豊聡耳様の試験を一気にやりしょうですわぁ~とでも思っておったのだろう。

 

「ハァ…。互いに危ない奴に目を付けられてしまいましたな」

 

「フフッ、ですが青娥の力には非常に興味があります…。さて、この話はまた後でしましょうか。今は店の方を待たせていますし」

 

「い、いえ!滅相もございません!このような場でよければいくらでも」

 

相手が天下の皇子と物部氏の娘ともなれば、大の男もこうやって頭を下げる。時にはそれが誇らしく感じ、時にはひどく切なくも感じる。贅沢な暮らしができる豪族に生まれてよかったと思うが、貧富の差はあっても身分の差のない現代日本の記憶があるからか、身分と言うものは未だにどこか慣れない。

 

「ここに来たと言う事は布都も剣を探していたのでしょう?」

 

「ええ。ですが我は剣ではなく、刀を作ってもらいたくここに来ました」

 

 

 

日本刀。日本が生み出した独特な刀で、薄さや形状と言った様々な特徴があるが、一番の特徴は何といっても刃が片方だけの片刃であろうか。和の美を表す形状を持ちながらもその性能は折り紙付きで、折れず、曲がらず、よく切れるの相反する三つを兼ね備えた刀なのだ。折角タイムスリップしたからには我も日本刀を振りたかったが、残念な事に日本刀と呼ばれるものは平安時代末期以降に主流となり、飛鳥時代にはまだ存在しない代物。そんな理由もあり日本刀を手にするのを諦めていたのだが、日本刀への欲求を今一度燃やしてくれたのが布都御魂剣。あれは従来の日本刀とは逆の反りをしており短めの刀だが、基本的な形状は日本刀と変わらないはず。ならば布都御魂剣を元にすれば日本刀を作れるのではないかと思ったのだ。当然布都御魂剣は神が作った剣で、時代も文化も超えて存在している代物。この時代の人の手で作れるかは分からないが、ものは試しである。

とりあえず店主に伝えるよりも先に、実際に布都御魂剣を見た事のある神子様に我が作って欲しい剣について話す。

 

「なるほど、布都御魂剣の形状を使うのか…。これはまた面白そうですね」

 

「ええ。思うに本来あの薄さでは斬るより先に刀が折れてしまいますが、独特な反りと片刃の二つが合わさる事で、通常の剣よりはるかに優れた性能の剣が生まれると思います」

 

「その剣と言うのが、先ほど物部様が仰っていた刀ですか?」

 

「左様。あくまで我がそう呼んでいるだけだが、何事も分別は大事じゃ。形状はこんな感じでこう曲がっておる」

 

我は人差し指でなぞる様に空に思い描いた刀を作る。しかしそれはよく伝わらないのか、主人も奥さんも曖昧な返事をされておった。それに見かねたのか神子様は一枚の紙と筆を借りると、布都御魂剣の反りを逆、つまり一般の日本刀と同じ様に描いていく。お世辞にも質の良いとは呼べぬ筆にも関わらず、描かれていく刀には刀身の形や峰までも細かく写されており、前世から変わらず絵心の無い我は関心の溜息を吐く。チラリと絵を描く神子様の顔を覗き込むと、先ほどまで我に見せてくれていた穏やかな顔ではなく、青娥や妖怪と対面した時の真剣なものであり、その凛々しさに不覚にも心ときめいてしまう。

 

我が頭にある刀の形状をなるべく細かく説明し、神子様が紙に写して視覚で確認できるものへと作り上げていく。この作業を鍛冶屋夫婦はただ静かに見守っており、完成した紙を神子様が手渡すと、まるで命令書を受け取るが如く丁寧に受け取った。

店主は紙に書かれた刀の絵を見て職人としての血が疼いたのか、目力を籠めて一枚の紙をジリジリと睨みつけていた。

 

「どうだろう?もっと細かく書いた方がよければ、もう少し手を加えるが」

 

「いえ、とても分かりやすい絵でございます。……ですが本当にこのような形状で斬れるのでしょうか?」

 

「分からん。仮に形状が布都御魂剣と一寸違わぬとも、そこに行き着くまでの製造方法や素材によってまた変わるだろう。だがもし我の描いている刀を製造できれば、今の剣とは比べ物に性能を誇るはずだ」

 

昔から…と言っても今より何百年も後の事だが、日本刀は海外への有力な貿易品でもあり、日本人は当然の事、外国人の日本刀に対する評価は昔から高かった。我の知る日本刀が再現出来るのなら性能は間違いない。そう、目の前に描かれているものは本来なら何百年後に存在する未知なる武器。それがどれほど価値のある物かは一々説明せずとも分かるだろう。だが、職人なら喉から手が出る程に欲しい紙を持っている夫婦の表情は決して明るいものではなかった。

言わずとも察せる。日本刀の完成図はできているものの、作るまでの過程は未知の領域であり、この時代で作れるかどうかは分からない。更にその完成図を思案したのはまだ十の幼子であり、信用もしにくい。それに加え、日本刀を作成するにあたって質の良い鉄や鋼が必要になるが、この店の雰囲気を見る限り、貧しくは無いが繁盛している店に比べるといささか目劣りする。要は制作費に余裕がないのであろう。

我が二人の心境を読め、天才的な観察力を持つ神子様が読めぬ訳がない。無言で紙を見つめる二人に応え、神子様は懐から両手サイズの膨らんだ袋を取り出して机に置いた。袋が机に置かれると、中から金属がぶつかり合う音とズッシリとした重い音が鳴る。

 

「費用に関しては私が出す。とりあえず頭金として受け取って頂きたい」

 

「み、神子様!?これはあくまで我の買い物で…」

 

「大丈夫。私は資金以外には一切口を挟みませんし、もしこの方が本当に布都の思い描く刀を作り上げても、それは布都とこの方達のものです。あくまで私は布都の代わりに資金を渡すだけであり、投資者は布都です」

 

神子様はいわゆる特許と呼ばれる事への心配をしている様だがそうではない。確かにこの額は天皇家の神子様にとっては勿論、我が物部氏にとっても決して大きい額ではない。しかし民にとっては大金であり、豪族と言えど子供がおいそれと出してよい額ではない。農民ともなればこれで一年は贅沢して暮らせる程だ。

 

「それにさっきも言ったでしょう?布都が剣を失った責任は私にある。なに、役人の無駄遣いに比べると有意義な投資です。それに私は布都に命を救われた、むしろこれくらいはさせて欲しいですね」

 

うっ…神子様の願いとなると我は何も言えん。神子様も分かってその様な言い方をされたのだろう。

 

「分かりました…ではお言葉に甘えさせてもらいます」

 

「ええ、そうして下さい。さて、肝心の投資先のあなた達はどうだろう?なんの成果も上げずにただ投資金を貪るだけになるならそれなりの対価を払う事になるだろうが、成果を上げたら投資金は無論あなた達の物だし、売り上げの一部は発案者であり投資者でもある布都の物になるが、それでも今よりかは繁盛すると思う」

 

決して悪くない話ではあるが未だ主人は首を縦に頷こうとはせず、妻の方も夫の心境が分かるのか沈黙のままだ。もし我が相手の立場なら、是が非でも投資金を受け取って製造に力を入れると思うがそれでは駄目なのだろうか?

 

「あなた達が言いたいのは分かる。未知数の製造方法を生み出すのは並々ならぬ根気と時間が必要となる。ただ開発を続けては、本来のあなた達の仕事が疎かになってしまい、収入は投資金が主なものになるだろう。当然成功すれば投資金はそちらの物になり、売り上げも格段に上がるだろうが、失敗となると投資金は没収となり、進行次第では投資金で貪っていたと判断され路頭に迷う羽目になる。あなた達はそれが怖い」

 

神子様の言葉には一寸の間違いも無い様で店主は静かに頭を下げた。なるほど、確かに投資するこちらとしては、いかに相手が真面目に働いていようとも全く成果が出なければ投資金を無駄に使ったと見るしかない。未知の武器を作る側としては、唯でさえ完成の可能性が低い、言うなれば脆いつり橋を渡る状況なわけだ。そんなつり橋を渡るだけでも大変だが、そこに更に手すりが無くなってしまうのだ。いくらつり橋の先に金の山があろうとも、十分に食っていける収入を持っている彼らからすれば、橋を渡らない選択肢も視野に入る。

 

「だが考えてもみなさい、そもそも何の賭けも無しに大金は入らない。あなたも店を構える者ならそれが分かるはずだ。確かに七星剣を打ったあなたの腕は確かだが、生産性は他店に比べると落ちる。いくら質が良くとも生産量が少なければ、いずれ他の武器倉と徐々に差を付けられ収入が減るだろう。例えあなたの代にそうならずとも、息子や孫の代にはそうなってしまうかもしれない」

 

「そ、それは…」

 

男も思うところがあったのか、反論が思いつかない様子。

 

「ならば今、あなたが布都と契約を結ぶ事が後々起こりうる結末を回避するだけでなく、お子さんや兄弟、そして奥さんに贅沢な暮らしをさせてあげられます。それでもなお断ると言うのなら、私もこれ以上は言わない」

 

流石神子様、こちらからの一方的な提案であるのにも関わらず、完全にペースを掴んでいる。

実際七星剣を打ったこの店主の腕は確かなものであり、あの腕が受け継がれていけば、例え生産性で他店より劣ろうともこの店が無くなる事はまずない。皇子でありながらも、政治に並々ならぬ想いを抱いている神子様は庶民の生活にも結構詳しい。この店がそう易々と潰れる店ではないと分かっておられるはず。

だが神子様は強い口調と、細く幼い体から想像もできぬプレッシャーで相手を追い込み不安を仰ぐと同時に、飴を与える事によって、上手く店主に不安の種を植え付けることに成功した。

これだけでも店主の頭の中にある、安定と賭けの天秤は賭けの方に下がりかけているが、店主が感じているプレッシャーはそれだけではない。あろうことか、その交渉相手が天皇の皇子なのだ。絶対権力者の息子の頼みに二言でイエスと答えぬ店主を見る限り、おそらく神子様は自らの身分をある程度落としておられるのだろう。だがそれでも身なりや雰囲気から、少なくともそこ等の豪族よりかは遥かに偉いというのは、誰の目から見ても明らかであろう。

神子様の話術と地位による二重のプレッシャー。これに首を横に振れる者はそうそういない。神子様もそれが分かった上で話を進めていたのだろう。

我はもはや蚊帳の外にいるので、こうやって冷静に神子様の意図と店主の心境を察することができたが、もし当事者としてこの場に居合わせておれば冷静に状況判断できなかったであろう。

 

「…わ、分かりました。その案、ありがたく受けさせてもらいます」

 

店主は握りしめた拳を震わせながら、我等に深々と頭を下げた。妻の方もそれに続く。店主を震わせるものは怒りか、それとも恐怖からか。少なくとも感動から来ている震えではないのは分かった。

七星剣を打ってくれた恩のある店主をここまで追い詰める必要があるのかと思ったが、こちらからの押し付けとは言えかなりの額を投資するのだ。投資金を持ち逃げされる可能性もあるし、制作の意欲を上げる為にも多少の恐怖も必要か。

 

「そう言ってくれると信じてましたよ。では改めてこちらにお金を送らせてもらいます」

 

ニコリと美しい笑みを浮かべ、頭を下げる店主を見下ろす神子様。それは決して我に向けてくれるような優しいものではない。何というべきだろうか…強いて言うのであれば、身分の力を利用して他者を蔑む者の冷たい笑み、刀を作らなければ唯ではすまないと、覇気の籠った目が怒鳴っている。

これが政治家としての神子様か…。

 

「わ、我からも少し話があるので少々よろしいですか?」

 

店主が可哀想に見えて来たので、空気を壊す様に子供らしいトーンでお茶を濁す。

 

「ええ、もちろんですよ」

 

「んん゛っ!まずは二人とも頭を上げるがよい。あくまで頼んでいるのは我等の方だ、そうかしこまらんでくれ」

 

豪族としての威厳は崩さぬ事を意識しながらも、優しく声をかけて二人の頭を上げさせる。

 

「いくら金を与えるからと言って、人手や設備が必要となる。それに万一すぐに刀を作れたとしても、いくつも作ってみらん事には質の良し悪しも分からん。色々と壁がある故、もし新しい設備の建設や人手の募集に当てが無い時や金が足りなくなれば、手間を掛けるが我を尋ねに来てくれ。ただ投資の増額に関しては、何らかの成果や発展、最悪失敗作でも構わんから持って来なければこちらとしてもやりにくい。それは分かってくれ」

 

「はい…」

 

う~む、やはり不安が強いのか凹んでおるのう…。

 

「あ~、それと我の様な子供の案は不安であろうが、上手くいけば必ず儲かる。それは保証しよう。おぬし等からすれば生意気な豪族の戯れに巻き込まれと思うかもしれんが、頑張ってくれ」

 

我は手を頭に擦りながらなるべく彼の心境を考えて告げると、店主は少し顔を晴らして先ほどよりも力強く頷いた。

 

「はい、分かりました」

 





こいつまた妙なところ伸ばしてんな。
それと神子様がほぼ皆勤賞な件について。

一応理由がありまして、前者に関してはもうそろそろ山場に入ると思うので、子供時代の内に街に出したかったのがあります。何しろ今のいままで舞台が布都家と皇居と山しかない。それと今まで優しい神子様しか書いていなかったので、ここでちょっと悪い神子様を。

後者の神子様の出番の多さですが、布都ちゃん一人で書くのは難しいからです。ならモブを使えばいいのですが、モブって地味に結構厄介なところがあり、そうなると自然と原作キャラの神子様を出すのが楽なんですよ。何より神子様を書きたい(本音)


幻想入りしたらいちふと(友達)書きたく、いちふとの妄想で執筆妨害されております。最近一輪さんにハマってます。次回の投票では是非一輪さんに入れて順位上げてやりたい。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。