東方物部録   作:COM7M

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嫦娥よ、見ているか!? 天人は 桃しか食べない(ドヤァ)


今回初めの方に長ったらしい説明ありますが、なるべく飛ばさずに読んでもらった方がいいと思います。力量不足故、情報量が一点に詰め込まれております。

それと今までわざと!や?の後にスペース入れずに書いていましたが、今回から普通にスペース空けます。改めて見るとやっぱりスペースある方が見やすいと気づきました。


カチコミ

神子様とキスをしてから三年の月日が流れた。我や屠自古は13となり、神子様は14となられた。

来るな来るなと願っていたが現実とは非常なもので、ついに恐れていた事態が起こってしまった。この三年で世界は大きく動き、物部氏と蘇我氏の溝は深いものになっていた。

事のきっかけは二年前から流行り出した疫病。どこからともなく現れた疫病は瞬く間に国中に広がり、多くの病死者が現れ、その数は今もなお増え続けている。幸いと言うべきか我は疫病に犯されはしなかったが、召使の数人が病気となり中には亡くなった者もおると、決して他人事では無かった。

医学技術が発達していない今でこそ、この国は一丸となって病と戦わなければならない。そんな状況下にありながら、物部氏の過激派の一部が、疫病が流行ったのは異国の神を信仰した蘇我の仕業だと言いだした所為で、国は二つに大きく分断されていた。何とか両者の仲をよくできないかと考えている間もなく、両者の仲は本来の姿へと戻っていた。

しかも唯の難癖合いならまだよかった。それならまだ平和的なものだし、難癖合いくらいは現代の政治にもある。しかし力が支配するこの時代ではそれだけで止まらない。

廃仏派は守屋殿を筆頭に、いくつもの寺に火を放ち焼き討ちをし、また仏像を海に投げ捨てたりしており、それに続いて各地の分家の者達も過激的な行為をしている。本来なら蘇我氏が黙っておく訳も無く、目には目を歯には歯をと、蘇我氏も対抗してくるだろうが、今の蘇我は廃仏行為に対して何もできない状態だ。あろうことか仏教徒の用明天皇が自ら廃仏令を出したからだ。仏教を愛して止まない用明天皇が仏教を裏切った訳は、彼もまた疫病に掛かってしまったからだろう。疫病に掛かってしまった用明天皇は己が死を恐れていた。そんな中、物部の誰かが何らかの方法で説得したのだろう。この国から仏教を捨てる事で疫病が治ると信じ込ませたらしく、廃仏行為が天命であるとのお触れを出した。

大王の後ろ盾が出来た廃仏派はそれをいいことにやりたい放題。廃仏派の攻撃はエスカレートしていき、最近では三人の尼の衣を剥ぎ取って全裸にし、公衆の目前で鞭打ちする事件まで起こったらしい。その事件の首謀者もまた守屋殿だった。

しかもこれで廃仏派の立場が危うくなるのなら対処のしようもあるが、実際はその逆。気付けば物部のほとんどが、疫病の原因は蘇我氏と決め付け、守屋殿に賛同する声が多く聞こえた。その中にはあろうことか、父上と母上も入っており、蘇我との戦に前向きな姿勢を見せていた。父上と母上は心優しいお方だが、それでも物部氏のトップである事を除けばごく普通の飛鳥時代の人。蘇我氏が仏教を広めた所為で疫病が広るという、理屈も証拠もなんら無い噂を信用してしまったのだ。

 

勿論何度も蘇我氏が原因ではないとお二人を説得したのだが、全く聞く耳を持ってくれんかった。そして今日も父上は首を横に振るだけで話を聞いてくれん。

 

「もうよい。布都よ、お前の話は聞き飽きた」

 

「しかし蘇我が疫病の原因となる証拠はどこにもないのですぞ!」

 

「なら逆に問う。蘇我が無実だという証拠はどこにあるのだ」

 

父上の返答に対し我は押し黙る。今の父上の質問は悪魔の証明と呼ばれるもので、必ず矛盾が発生してしまう。

悪魔が存在するかという質問にYESと答えれば、当然悪魔がいる証拠を出せと言われる。勿論そんな証拠がある訳がなく、普通はYESと答えた者が嘘つき扱いされるだけだが、逆に悪魔が存在しない証拠を出せと言われれば、それもまたある訳がない。結果悪魔が存在するか否かの議論は平行線を辿るだけ。悪魔の証明が起こりゆる場合、本来なら先に言いだした側、つまり疫病は蘇我が原因と言い出した過激派が先に証拠を出すのが暗黙の了解なのだが、飛鳥時代の人物相手にそんなルールは通じない。

かれこれもう数ヶ月間は同じ言葉で父上を説得しているので、いつかはこう返されるだろうと思っていたが、やはりいざ返されるとどうしようもないな…。

 

「あーもー! どうして父上はそう周りに影響されやすいのですか! 守屋殿がやっている行為は明らかに行き過ぎです! このままでは民の信頼が底に尽く事が分からぬのですか!」

 

そう、廃仏派がやっていることは明らかにやり過ぎなのだ。大王の名を使った一方的な暴力。それは権力的弱者である民達からすれば見ていて気持ちよいものではない。いつかは仏教徒と同じように自分達もああなってしまうのではないかと、物部への恐怖が生まれてしまい、それはやがて反乱に繋がってしまう可能性もある。

 

「父に向ってその口の利き方はなんだッ! 民の信頼がどうなろうと、蘇我が滅びれば関係ないだろう!」

 

「蘇我がこのまま黙って見ているとでも思っているのですか!? 父上が逆の立場ならどうです!? 背水の陣となった彼らは全勢力を上げ反撃してきます。蘇我よりも物部の方が強いと思うならそれは甘いです! 民の信用がなくなれば、いくらこちらに天命があろうとも民達も蘇我に付き反乱を起こすかもしれません」

 

蘇我には馬子殿、そしてなにより神子様がおられる。特に神子様の話術があれば逆境になった事を逆手に取り、申した通りの方法で瞬く間に兵を集めてくるかもしれない。そうでなくとも、このまま蘇我が黙って寺を燃やされるのを見ているだけとは思えぬ。

しかしこれだけ我が言おうとも父上の表情はただ険しくなるばかり。父上はバンと床を叩き、我を睨みつけた。

 

「馬鹿馬鹿しい。もうよい! 布都、お前はしばらく部屋から出るな! 頭を冷やしていろ!」

 

なっ!? そ、そこまで言うかこの石頭。我は物部の将来を案じておるのにも関わらず…。

元々感情的になっていたのもあり、父上の怒鳴り声からすぐ怒りの沸点に達した。我もまたバンと父上以上の力で床を殴りつけると、スッと立ち上がると父上を見下ろしながら言った。

 

「お・こ・と・わ・り・し・ま・す!」

 

厭味ったらしく一文字一文字丁寧に言うと、バシンと勢いよく扉を開く。扉の外から聞き耳を立てていたのか、勢いよく扉が開かれた所為でバランスを崩した数人の侍女が倒れていた。我は侍女たちの中にいる、いつも世話になっている侍女の見つめると刺々しく告げた。

 

「今すぐ剣と札を持ってこい、少し出かける」

 

「どこに行くと言うのだ!?」

 

侍女は頷くとすぐに我の部屋へと走っていき、同時に父上の怒鳴り声が部屋に響いた。父上の低い怒鳴り声は盗み聞きしていた侍女達の肩を震わせたが、外食屋を提案した時に散々父上の怒鳴り声を聞いて慣れていたからか、我は動揺一つ見せずに父上に振り向いた。

 

嶋宮(しまのみや)です!」

 

「なっ!? 馬鹿者が! お前たち、布都を止めんか!」

 

父上は庭に立っていた警備の者二人へと怒鳴りつけると、警備の男二人は情けなく声を震わせながら返事をした。警備兵の中で最も仲のよい、剣と弓の鍛錬に付き合ってくれている二人だ。二人はすぐに持っていた槍を逆手に持って、持ち手の部分を我へと向ける。刃の部分が自分に向いてしまい槍を自由に動かせないが、我に刃を向ける訳にもいかんだろう。

 

「何をしておる!? 男二人あれば武器はいらぬだろうが!」

 

「…そう言えば父上、最近忙しく我の鍛錬は見ておりませんでしたか」

 

我は曇らせていた表情を解いてニッと笑みを浮かべると、父上から警備の男二人へ体を反転させる。警備の男二人もこうなる事は想像できていたのか、苦笑交じりの顔には冷や汗が流れている。

 

「なら丁度いい。二人共、いつものように付き合ってもらうぞ!」

 

掛け声と共に廊下を蹴って、文字通り二人の元へと跳んだ。我と彼らの間には五メートル近い距離があったが、それは一瞬にして縮まろうとする。しかし我の跳躍力を知っていた警備の男二人は驚いてはいない。むしろ待っていたと言わんばかりに、飛んでいる我の進行方向に棒を構える。空中なら上手く身動きが取れないのを利用したようだ。だが我とてただカッコつけて跳んだのではない。重心を前に移動させ車輪の様に回転させると、速度と回転力が込められた蹴り、通称踵落としを進行方向にある棒へと放つ。

槍の持ち手だった物はバキッと大きな音を立てたのを機に、折れ曲がった木の棒へと変わる。着地の邪魔していた木の棒が無くなった事により無事着地で来た我は、相手に体制を立て直す隙を与えずに次の行動に移る。体制を低くして槍を折った男の懐に入り込むと、両方の手の平を男の腹へと打つ。傍から見れば少女に軽く押されただけの様に見えるだろうが、男は一メートル程後方に飛んで地面に倒れた。相撲で言う張り手や突っ張りの様なものだ。

 

「隙あり!」

 

もう一人の男の掛け声と共に我へと伸びる棒。だがそちらの注意を怠っていた訳では無く、伸びて来た棒を手の平で軽くいなすと、先ほどと同じように懐に潜り込む。しかし相手は私の師匠とも言える、武器倉の末っ子の警備の男であり、バックステップをすることで距離を取る。本来なら持ち武器に合わせた距離を取るのは好手だが、相手が悪い。男がバックステップを取るのとほぼ同時に我も続いて男へと跳ぶ。男はしまったと表情を顰めるがもう遅い。男が着地すると同時に、先ほど同様手の平をぶつけて一メートル後方へ飛ばす。

約10秒で警備の男二人を地面に横にさせた我は、男の手からこぼれた槍を拾うと地面に突き刺し、部屋の中からこちらを見ている父上に向かって言った。

 

「我はいつか起こりうる戦に備え、鍛錬をしてきました。しかしそれは蘇我を滅ぼす為ではなく、物部が生き残るため。今一度お考え直し下さい父上。蘇我と共存する道もあるのです」

 

「……」

 

父上は我の瞳を真っ直ぐと見つめるだけで一切の言葉を告げなかった。それが何を思っての事なのか、我には分からないが、これ以上父上と顔を合わせていても互いに冷静になれないのは分かっていた。丁度よいタイミングで侍女が我の剣と札を持って来てくれたのでそれを受け取ると、愛馬に跨り十市を後にした。

 

 

 

父上に申した我の目的地、嶋宮は高市群と呼ばれる群にあるとある豪族の館なのだが、まずは十市群と高市群の位置関係について説明しようか。この二つは隣同士隣接した群であり、地図で見れば高市群が左で十市群が右のご近所さんだ。そして嶋宮に住むとある豪族こそ馬子殿であり、我が会うべき人だった。

しかし隣接すると言っても馬で走って一時間半、休みをいれたら二時間弱は掛かるだろうか。地図上では隣と言えど、実際に移動するとなるとそれなりの距離だ。

高市群に入って真っ先に目に入ったのは、燃やされた木材の集まりを覇気の無い瞳で片付ける民の姿。当事者に聞かずとも、燃やされた木材がなんであったかは検討がつく。寺だ。廃仏派によって燃やされた寺の残骸を彼らは必死になって集め、元通りにしようと働いているのだ。

 

「…野蛮人めが」

 

チッと舌打ちをし、頭に浮かんだ大男、物部守屋に悪態をつく。同じ物部氏とは思えぬ悪逆非道にふつふつと確かな怒りを感じる。我の思想が仏教に偏っている訳では無い。だが物部と蘇我の争いには何ら関係の無い民達を、宗教の違いと言う点だけで、彼らの心の拠り所になっていた寺を燃やしたのが許せなかった。

それから更に馬を走らせたが、似たような惨状の寺が二つほど見つかった。大きい寺は身を挺して守ったのか傷一つないが、小さい寺は標的とされやすいのか上記の通りの有様だ。

これに加え、疫病に苦しんでいる病人が道端に倒れている姿をチラホラと見る。これは十市群にも言える事だが、我が群は率先して病人を隔離する施設を作った為にこの様に道端に倒れている者は滅多にいない。発症者はゆっくりとした寝床を確保でき、非発症者は空気感染を防げる、双方得する案であった為すぐ父上に採用されたのだ。

予め持って来ていた布を結び簡易的なマスクにしつつ十市群の街を進み、我はこの辺り一帯で最も広い家の前に着いた。今まで一度も来たことが無いが、門の前には我が家と同じように二人の門番がおるしここで間違いないだろう。我は門の前で馬から降りると、被っていた傘を脱ぐ。二人の反応は予想通りのものだった。

 

「なっ!? その銀髪、物部布都だな!」

 

「お前を通すわけにはいかん。ここから立ち去るがいい!」

 

門番二人は我の要件を聞くより先に、杖代わりに使っていた槍を本来の持ち方に変え、矛先を我へと向ける。

今物部と蘇我は最悪な状態である。門番という低い身分の独断で、豪族である我を追い払えるのもそれがあるからだ。

だが元よりこうなることくらいは分かっていた。我はスッと腰を落として拳を作ると、門番の男二人を見上げながら言った。

 

「門番は引っ込んでいろ。馬子殿に話がある」

 

 

 

 

ハァ…。自分の短い緑の髪をクルクルと弄りながら、私こと蘇我屠自古は深い溜息を吐いた。これから私達蘇我氏はどうなるんだろうか? 最近そんな事をよく思う。疫病が萬栄するだけでも一大事だというのに、あろうことか物部の馬鹿共が疫病は仏教が原因だとか意味不明な事を言い出し、最近では寺を燃やしたり仏像を捨てたりと好き勝手やっていた。疫病が流行り出した一年前から神子様と会う機会は一気に減り、布都に関しては会うどころか手紙のやり取りもできなくなった。神子様とお会いできるのも、最近では父上との会合ついで程度で、家に来てもほとんど父上とこれからについて話し合っている。その父上も最近では余裕が無いのか、滅多に笑顔を見せなくなり、遂には病気に掛かってしまった。

 

「だぁ~も~、物部の糞野郎共が! ハァ…今頃どうしてるんだろ?」

 

私の頭には最愛のお方の笑顔が映し出される。神子様の事だからきっと今の情勢を打破する策を練っておられるのだろうが、父上含め役人共はどいつもこいつも頭が固いからそこが心配だ。

いかんいかん。最近少しボーとするとすぐに神子様の事を考えてしまう。いや、前からもそうじゃないかと言われれば否定できないが、前以上に悪化している。

そして神子様のついでにもう一人、布都の事も頭に浮かぶ。認め無くないがあいつは神子様並に頭がいい奴だし、争いを好むような奴じゃないから、物部のやり口にも反対するはず。ここ最近あいつの噂は耳に入って来ないところを見ると、きっとあいつは物部の総意とは反対、つまり廃仏行為に対して反論していると私は思うが……。

 

「って、何にせよ私が考えたところでなぁ…。私は二人みたいに賢くもないし」

 

行き着く先は才能を理由にした自己嫌悪。私の悪い癖だ。自分でも分かっているが、神子様と布都は正真正銘の誰もが認める天才なのだ。そんな二人が間近にいるのだから少しくらいの自己嫌悪は許して欲しい。

誰に対してかも分からず溜息を吐きながら許しを乞うていると、突然部屋の外がワーワーと騒がしくなり私は現実へと引き戻された。折角物思いに耽っていると言うのに台無しだ。大方警備の男達が喧嘩でもして盛り上がっているに違いないと決め付けた私は、喧嘩をしているであろう男達を叱る為に重い腰を上げた。

だが扉を開くと共に、只事では無いと理解した。家中の警備兵達が武器を手に、険しい表情で表の門の方へと走っていく姿が視界に横切ったのだ。

 

「なんだなんだ!?」

 

私も彼らに続き、回り廊下を使って門が見えるところまで走る。門へと近づくにつれ警備の男達の悲鳴が聞こえ、まさか物部の奴等が攻めて来たのかと最悪の事態が頭を過る。

現場に到着し騒ぎの原因を見た瞬間に、あぁ…と息を吐いて納得した。確かに私の思った最悪の事態は当たっていた。が、攻めて来た相手は他の誰でもない、物部布都そいつだった。何を思ってかは知らないが、槍を持った警備兵等に囲まれているのを見ると、家に殴り込みに来たようだ。

殴り込みに来た張本人こと布都は、四方八方から槍先を向けられているのにも関わらず、まるで動揺していない。全く動じない布都に警戒してか、皆動かない無音の時間があったが、ヒュ~と風が靡く音と共に警備兵の男達が動き出した。同時に突けば避けようがないと思ったのか、一人の男の合図と共に一斉に布都へと突きを放つ。だが布都は驚く程冷静に体を屈めそれを避け、即座に前方にいる男の足を薙ぎ払って転ばせる。更に布都の攻撃は続き、転ばせた男の右隣りにいる男の溝へ拳を打ち込み、反対側の男の同じ場所へ蹴りをかます。布都が槍を回避して男三人を地面に転がすまでの時間はものの数秒だった。

 

「くっ!」

 

「焦るな、相手は子供一人だ! 槍の長さを利用して一気に倒すぞ!」

 

恐らく警備兵達の纏め役であろう男が後ろにいる四人の男達を鼓舞する。私は戦いについて詳しい訳では無いが、布都相手にそれは悪手だと思う。何度か布都の戦いを見て、布都の強さについて分かった事がある。それは勿論、剣の腕や神道を巧みに使いこなすなどもそうだが、一番の強さは俊敏な速さを利用した独特な立ち回り。

一斉に布都へと襲い掛かる五人の男達。それに合わせ布都も男達へ動く。まず布都から見て一番手前にいた男の槍を左手で軽く受け流して男の懐に入り込むと、顎へ目掛けて平手を打ち込む。すると男は不思議なくらい上へと飛び、バタンと地面に叩きつけられる。

 

「なっ!?くっ、なんてや――グアッ!?」

 

警備兵の視線が気絶した男に行っている間にも布都の攻撃は止まらない。気付けば布都の蹴りがもう一人の男の顔面を捉えており、更に着地と同時に別の男に突進して溝に肘を打ち込む。ゴフッと現実的な呻き声を上げ二人の男が地面に倒れる。

残り二人の警備兵も同じようなものだった。一人はまた懐に入られそのまま張り手を入れられる。もう一人は布都の戦い方を察したのか、懐に入らせまいと上手く間合いをとっていたのだが勝機を急いでしまい、彼が突き出した槍は布都の頭上を素通りし、屈められた足からの蹴り上げを腹へと受けてしまい気絶。

先程まで賑やかだった景色は、倒れた男達の中を一人の少女だけが立っているという死屍累々とした景色に変わっていた。私の他にも騒ぎを聞きつけた召使達が集まっていたが、その光景に何も言えない状態だった。

 

「やれやれ、大人しくしておれば痛い目を見ずに済んだものの。おっ? そこにおるのは屠自古ではないか!」

 

先程までの一騎当千の文字を背負っていた雰囲気はどこにいったのか、私の名を呼ぶ声はいつものアホっぽい布都だった。

 

「いや~よかったよかった。せっかく我がお淑やかに入ろうとしたのにこいつ等としたら礼儀がなっておらんのう。突然我に斬りかかってきよった。まあ武器を使うまでも無い雑魚じゃったが」

 

ここ最近物騒な事件が起きているから警備を厳重にしたと言うのに、こいつときたら雑魚の一言で片づけやがった。つくづく滅茶苦茶な奴だ。もしこいつみたいな奴が物部に五万といるのなら蘇我に勝ち目はないが、幸か不幸か布都程の実力者は物部にも蘇我にもそうそういない。父上から聞いた話によると、ここまで強い奴のほとんどが変人で一つの場所に留まる事を嫌い、世界各地を歩いて妖怪退治を生業としているらしい。

まあ今はそんな事はどうでもいい。私が真っ先にやるべきことは、ニコニコとアホ丸出しの笑みを浮かべる布都の頭を思いっきり叩く事だった。

 

「うにゃっ!? なっ、なにをする屠自古!?」

 

パーンと高い音を立てる馬鹿の頭。周りの召使達はビクッと肩を震わせるが私は一歩も引かず、一年前からほとんど成長していない布都を見下ろしながら怒鳴る。

 

「何がよかっただ! 家の警備兵に何て事してくれる! 家に入りたければ私の部屋に忍び込んで来るとか方法があるだろう!」

 

「じゃ、じゃがおぬしの部屋は知らんし、堂々と正面から入るのが礼儀と言うものであろう…」

 

「敷地内で乱闘しておいて礼儀も糞もあるか! ハァ…ったく。それで、どうして物部のお前が家に来たんだ?」

 

涙目になりながら頭を押さえる布都を軽く睨みつけながら問う。初めは不満そうに唇を尖らせていた布都だったが、口を開くと同時に真剣な表情に変わる。

 

「実は馬子殿にお話があるのだが――」

 

「私ならここに居ますよ」

 

クルリと体を反転させて後ろを見ると、曲がり角から父上と母上が現れた。母上は病気で弱った父上の体を支えており、父上はゴホッゴホッと咳をしながらゆっくり歩いてくる。布都の姿を見た二人の反応は正反対で、父上は病気で辛そうなものの優しい笑みを浮かべており、母上は警戒しているのか布都を睨みつけている。元は物部氏の母上だが、仏教の教えを聞いてからはすっかり仏道に熱心になっており、今では自分の旧姓である物部を敵とみなすほどだ。

そんな母上に睨まれている奴の方をチラリと見ると、既に剣を自分から遠ざけたところに置いて頭を下げており、父上に敵対心は無いと態度で表していた。

 

「物部氏のあなたが、何故私に会いに来たのですか?」

 

普段の父上なら軽い世間話から会話を始めるが、体がきついからか随分真っ直ぐな言い方だった。布都も父上の容体を察したのか前置き等をすっ飛ばして、とんでもない発言を繰り出した。

 

「単刀直入に申します。蘇我馬子殿。物部氏と蘇我氏の仲を良好なものへと戻す為、我と結婚してもらえませぬか?」

 

 

 




悪魔の証明の説明が難しい…。少し間違ってる気がしますが、概要は合ってるかと。

なんか布都ちゃん無双だ(他人事)
まあ10歳から妖怪バンバン倒してたからこんなものでしょう。もはや戦い方がひじりんとなんら変わらない件。ひじみこ(というかみこびゃく)書きてぇ…。

今まで結構のんびり進んできましたが、今回から良くも悪くもストーリーが一気に進みます。


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