東方物部録 作:COM7M
物部家ののんびりとした回です。結構短い。
もうちょっと展開や会話を入れてもしれませんが、私の力では中途半端になってしまう。文字数調節って意外と大変。
改めて言うが、我は名家である物部家に生まれた。近い将来滅びるという運命を背負っておるものの、今はまだかなりの力を持っておるため、普通の農民(
我は扇子を仰いでいた扇子をパタンと閉じると、喉が渇いたので井戸に向かった。本当なら召使の者に頼んでもよいのだが、それくらいは自分でやらんとだらけてしまう。召使の見よう見真似で井戸水を組み上げようと心得るが、なにぶんまだ幼い体ゆえに力が足りない。だがこの暑い中大声を上げて召使を呼ぶのも億劫だったので、上手くテコの原理を使って桶を持ち上げる。
「まったく、水を飲むのにも一苦労するのう」
軽く手を洗った後に手で皿を作って水を飲む。日本の水が美味しいのは1400年前も変わらないようで、喉を通る水は癖や臭みを感じられぬまろやかなものだ。
神子様と出会ったのが二カ月前。あれから神子様と会う機会は無く、父上が持って来て下さった書物に道教に関する書物は無かった。まあ物部家は神道と押す最前線と言っても過言ではないので、異教徒の書物は意図して置いてないのだろう。
どうしたものかと考えながら、桶を持って柄杓で掬った水を庭にばら撒く。打ち水のやり方や何故涼しくなるのかの論理は知らないが、ばら撒いていれば少しは涼しくなるだろう。
「布都、何をやっておるのですか?」
回り廊下を歩いていた母上が我に気付いた様で、不思議そうにこちらを見ておった。母上の周りにおる下女達も互いに顔を見合わせ、首を横に振っておる。
まさか…この時代には打ち水すらないと申すか。ここでようやくテレビで江戸時代の庶民の知恵だと言っていたのを思い出した。なにぶんどうでもいい雑学の為記憶の奥底に仕舞い込んでおった。
「布都?」
「え、え~とですね。これは我が発明した打ち水ですぞ!」
「打ち水?」
こうなればもう自棄である。ただの水遊びと嘘を吐いてもよいが、株は上げれるところで上げておきたい。首を傾げる母上に、我は何か適当な説明をする。
「風呂に上がった後に風を浴びるとより一層涼しく感じられると思います」
「はぁ、確かにそうですね」
「ならそれと似たように、地面に水を撒いていけば通る風が涼しくなるかなぁ……と、思いまして…」
我ながら適当な説明だ。打ち水が効果的なのは確かであったはずじゃが、試したのはこれが初めて。
母上は少し悩んだような顔をし、それから靡く風を受けるように手を伸ばす。母が風を意識して十秒程経っただろうか。
「確かに、風がいつもより涼しい気がします。布都は賢いですね。さて、では私は今から街に出かけに行きます」
「へ?あ、はい。行ってらっしゃいませ」
ペコリと頭を下げて母上を見送る。
我も風を意識しておったのだが、涼しくなった感じはなかった。周りにおる下女達も微笑ましそうにしておったので、多分我に気を使ったのだろう。ぐぬぬ…打ち水が効果的であるのは確かなのだが、実証できない限りただの子供の戯言で終わってしまう。我はまた桶を担ぎ、水の撒かれた跡のある道を辿っていく。
やはり打つ場所や時間帯も重要なのかもしれんの。冷静に考えると、熱い地面に水を打っても水蒸気が出て湿度が上がり、むしろ逆効果になってしまうかもしれん。
「丁度良い。夏休みの宿題感覚で打ち水をやっていくかの。暇じゃし」
それから二週間後。定期的にいくつかのポイントに別けた場所に水を撒いていくと、理屈は分からないが答えは出た。どうやら比較的涼しい午前中や夕方の日陰や砂利に撒くと涼しくなり、上記の条件かつ風通しの良い地点の近くに撒くと明らかに変わった。
その変化には両親や召使も気付いた様で、我のおかげで涼しくなったと褒めてくれた。
「よくぞ打ち水に気付いた布都!お前のおかげで今年の夏は随分涼しい」
「ほんと、随分と風が気持ちよいです」
「うむ!喜んでもらえて嬉しいですぞ」
自分の為にやった事だが予想以上の反響で、今我の鼻は天狗の様に伸びていた。
打ち水のやり方と効力を知った父上は早速お偉方の集まりの時に話したようだ。そこまで大それた技術ではないのだが、この暑い夏を過ごすには持って来いの術だったのだろう。数日後には反響の声が上がったようで、感謝の言葉を貰った父上は今の我のように鼻を伸ばしていた。
似た者親子の我等二人を微笑みながら見ておった母上は何か思いついたのか、父上に声を掛ける。
「あなた、何か布都に褒美をやってはどうでしょう?」
「おお、確かにそうであるな。布都、何か欲しいものはないか?流石に大量の書物は無理だが、一つや二つくらいなら買ってやるぞ」
唐突なプレゼントタイムに、咄嗟に道教の書物が欲しいと言いかけたが慌てて出かかった言葉を飲み込む。父上や母上は我が書物好きだと勘違いしておるが正確には違う。書物を読む以外にやることがないので古臭い文章の文字列を読んでおるのだ。
我が欲しいものは一つ、異能の力じゃ。せっかく東方Projectの世界に生まれたのならもっと奇奇怪怪な能力を身に付けたいし、もし無事に神子様と幻想郷に行けたら弾幕ごっこをする時もあるだろう。
柔らかな表現でその事を伝えたいのだが、いきなり空を飛びたいだの弾幕を撃ちたいだの言えば、間違いなく変な目で見られるであろう。腕を組んで一分ほど経っただろうか。まるで頭の中に神のお告げが来たかの如く突如名案を浮かんだ我は、ポンと手を叩いて二人に伝える。
「我は妖怪と戦う術を持ちたいですぞ!」
シーンと父上と母上だけでなく、周りの召使たちも固まった。
この時代は妖怪の存在が一般化しており、五歳である我の耳にも、どこで妖怪が出たなどが入って来る。その為都や大きな街には必ず退魔師が存在しており、日々妖怪の手から人を守っておる。我も実際に一度だけ退魔師の術を見たことがあるが、それは現代の人間にはできない非科学的なものであった。つまり非科学的な力を手に入れる=妖怪と戦う術を持つがなりたつ。突拍子も無く空を飛びたいなど言うよりも、かなり具体的ではあるが遠回しに伝えられたと思ったが不味かったかのう…。
先程まで笑顔だった父上は突如真剣な顔つきになって口を開いた。
「布都よ、何故女子のお前が妖怪と戦う術が欲しい?」
中二心が疼くため、とりあえず暇つぶしなどとは口が裂けても言える訳もないので、とりあえず比較的子供らしい理由をつけることにした。
「確かに今の世、女子は争い事には関わらず、家を守るのが務めです。ですが我はもっともっとたくさんの事を知り、体験してみたいのです!それに妖怪に怯えるのは嫌でございます」
全てではないがしっかりと本心を言った。もし将来、物部氏の滅亡が無くとも我は普通の女で終わるつもりもないし、妖怪が闊歩する世界で力が無いのも不安だ。
「む~、しかしのぉ…」
てっきりと頭ごなしに否定してくると思っておったが、意外にも父上は腕を組んで小さく唸る。むしろ母上の方が否定的な様で、先程とは違う冷たい視線で我を見ておった。この飛鳥時代は決して男尊女卑の時代ではないが、それでも女性が戦う事は避けれれており、特に豪族の女性は万一怪我して子を産めなくなったら大変なので戦いとは無縁の存在だった。
「あなた。布都はまだ子供なのですよ。こんな事に耳を傾けてはいけません」
「父上!確かに我はまだ妖怪の恐ろしさをよく知りませぬ。ですがこのまま力を持たぬままの方がもっと怖い。我は身を守る術が欲しいのです」
「それなら退魔師に頼めるでしょう?何故布都自身がやるのです」
母上がここまで頭が固いとは思わなく、我はついカッとなって少々強い口調で返す。冷静に考えればこの程度の反対は当たり前で、むしろいきなりぶたないだけ両親は優しかった。だが魂が既に物部布都になっておるのか、それとも子供ゆえ怒りの沸点が低いのか、それに気付けなかった。
「もし今この場に妖怪が現れ襲われたとき、悠長に街の退魔師まで行って依頼するのですか!」
「そうならない為に警備の者がおるのでしょう!」
「その警備の者も深夜は寝ているではありませんか!妖怪が最も好む時間帯に」
我だけでなく母上の口調も激しくなり、次第に召使の者達も我等の口論を止めようとするが、我等親子が怒鳴ると皆一様に後ずさる。分からず屋の母上を何とか説得しようと、より声を上げるがむしろ逆効果。しかし感情的になっている為止めようと思っても止められん。
その時だった。部屋に父上の声が響いたのは。
「二人とも静かにせんかッ!」
我等親子はビクッと肩を震わす。まだ言いたいことはあるが、父上に歯向かう訳にはいかず、母上から少し離れた場所に座る。
「布都よ。母の気持ちを分かってやってくれ。妖怪は本当に危険な存在だ。母はお前に危険な事をさせたくないのだ」
「我は妖怪と戦いたいとは言ってませぬ。先程も申した通り、守る術が欲しいのです」
すると父上は暫く口を開かず、ジッと我の瞳を見つめる。いつもの優しさを感じられるものとは違う、真っ直ぐで真剣な、力強い目だった。我の意志を確認されているのであろう。果たして傍から見たら我の瞳はどう映っているのか。
確かに動機は胸を張って言えるものではない。現に動機の全てを伝えている訳ではない。だがしかし、動機がどうであろうと我は本心から異能の力を手に入れたいと思っておる。その意思を父上が察してくれるかどうかだ。
数十秒か、数分か。物部家の広間を包んでいた沈黙は、母上の名を呼ぶ父上の声で破られた。
「阿佐よ、布都の望みを叶えてやろうではないか」
「本気でございますか!?」
「ああ、だが布都が少しでも弱音を吐いたらすぐに辞めさせる。布都もそれでよいな」
「はい!ありがとうございまする!」
嬉しさの余り我は父上に抱き付くと、父上は笑いながら我を抱きしめてくれた。
正直なところ最初は軽い気持ちで言ったのだが、父上は我の気持ちを理解してくれ、望みを叶えてくれた。
母上は未だ納得していない表情だが、父上に言われた以上何も言えないのであろう。しかし母上も我の為を思ってのこと、後日母上にまた直接挨拶するとしよう。
「ところで父上」
「なんじゃ?」
「どうやって妖怪と戦う術を身につけるのですか?」
やはり退魔師のところへ行って弟子入りするのだろうか。はたまた物部氏にある由緒正しき魔導書的なものがあるのだろうか。異能の力を手に入れられると考えるとワクワクが止まらない。
首を傾げながら父上を見上げると、父上はニコッと笑みを浮かべる。とても優しい笑みであったが、どこか恐ろしさを感じる笑みである。
「もちろん、我が直々に教えるのだ」
「へ?」
求口録に昔は普通に妖怪がいたと言っていましたから、普通に異能の力を持った人間もいると思います。布都はその事気づいて、その力が欲しいと言った感じです。
それと布都の性格や精神についてですが、男が布都に転生したよりも、前世の記憶を持った布都を意識しております。布都>男の式が分かりやすいでしょうか。
しかし紙は高級で、扇子も本来は豪族であろうと女の子が暑さ対策に扇げるものかも微妙。打ち水も日本刀も無く、水が美味しいかも分からん。時代って凄いな。