通話機能付き目覚まし時計を叩いて消し、リビングへと向かう。
この時期、やはり朝は辛い。
こんな朝は熱く甘い珈琲に限る。これ即ち、MAXコーヒー最強。
そしてMAXコーヒーのストックがない。
いそいそとインスタント珈琲を淹れていると小町が降りてきた。
だぼっとした寝巻きからは肩が露出している。右手で目をごしごししている小町。
小町ちゃん、非常に可愛いんだけど、その肩はどうかと思うなお兄ちゃん。そのままゴミ出しにでも行かれたら俺は道行く男どもの顔にみかんの汁を噴射しなくてはいけない。
「お兄ちゃんおはよ。今日はどっか出かけるの?」
「ああ、まあな」
「じゃあ雪乃さんと結衣さんにもよろしく言っといて」
誰とどこに行くのかすらも聞いてきてないのに。え、小町ちゃんエスパーなの。
「それと、出かける前に服装チェックするから後で小町のところに来るように」
どこの上司だよ。でもまあ小町にチェックしてもらえるなら安心ではある。
俺自体は別にどうでもいいが、あいつらにまで恥をかかせるのは気が引ける。
というか別に俺必要なくね?むしろ邪魔になったりしないのかしら。
とりあえず食事を済ませ、風呂に入る。
昨日は奉仕部に陽乃さんが来て色々引っ掻き回される悪夢を見てしまって汗をかいてしまったのだ。
ほんと陽乃さんは夢の中でも怖い。
風呂を上がり、服をてきとーに取り出して履いて確認してみる。特に問題はない。
小町コーディネーターの元へ行くと次の瞬間には、
「はぁ〜。これだからごみぃちゃんは」
とある意味予想通りの反応をさせた。
最早清々しい。
小町コーディネートに身を包み、小町に見送られる。今日はいい日だ。
待ち合わせの場所に着き、暇を持て余す俺。予定より20分早く着いてしまったためだ。
仕方が無いのでカバンから「妹だけいればいい」を取り出し読み始める。
顔がにやけないよう注意しないとまた由比ヶ浜と雪ノ下に
「ヒッキーキモい」
「由比ヶ浜さん、通報してもらえるかしら」
などと言われかねない。
というか何度か言われたし。もう開き直っちゃうかな。
「ヒッキー、やっはろー」
「おう、由比ヶ浜」
「ゆきのんはまだなんだ」
「そうみたいだな。まあ電車だろうし、多少時間がかかってもしょうがないだろ」
というかまだ約束の五分ほど前だし。
「…」
「どうした、由比ヶ浜?」
「…ばか」
「え、俺なんかした?」
なぜ由比ヶ浜は拗ねているんだ。っていうか俺ほんとになにかしたのか。全然わからない。雪ノ下がいないからばかって言われたのか?
『ごみぃちゃん、私服の女の子に会ったらちゃんと褒めなきゃだめだよ。それ小町的にポイント低いから』
ああ、そう言えば小町がそんなこと言って気がする。
「まあ、その、なんだ、あれだ。似合ってるぞ」
女の子ってのは色々面倒だな。やっぱりぼっちは家に引きこもるのが一番だな。
「あ、ありがと」
目を逸らして頭のお団子に手を当てている。そんな反応するなら言わせるなよ。可愛いとか思っちゃうだろ。てか思っちゃったし。
「ごめんなさい、待たせてしまったかしら」
「やっはろーゆきのん」
「こんにちは由比ヶ浜さん」
「揃ったし、さっさと用を済ませて帰ろうぜ」
明日の番組録画するの忘れてたし、忘れないうちにしないとスーパーヒーロータイムを見逃す可能性もあるからな。録画しとけば災厄寝過ごしても大丈夫だし、安心。
「はぁ、これだから比企がえる君は…」
「とりあえず行こっか」
「雪ノ下、相変わらず猫好きだな。もう猫ノ下でいいんじゃないの?」
猫ノ下が肩から掛けているバックには小さく猫のプリントがされているのだ。流石は猫ノ下猫乃さん。
「…悪くないわね」
「じゃあ私これからねこのんって呼ぼうかな」
こういう他愛もない会話を3人でするのは、悪くない。
猫ノ下と百合ヶ浜はいつものようにいちゃいちゃしているが、これにも慣れてしまった。
少し前は色々問題が多くて大変だったが、これでよかったのかもしれない。
だがそれと同時にどこかで俺はまた何か間違ってしまっているのではないだろうかといつも不安になる。
何度見返しても、何度問い直しても、答えはわからなかった。