やはり比企谷八幡は捻くれている。   作:秋乃樹涼悟

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ちょっとだけ葉山出ます。


葉山隼人は仄かな火を灯す

奉仕部へ行かなくなった私の生活はモノクロの写真のように味気なくなった。

 

これでいい、これでいいと自分に言い聞かせる。

私のせんぱいに対する気持ちはいつかなくなって、ふと思い出すくらいの懐かしい思い出になる。

 

あの頃は私せんぱいが好きだったんだなーとか言って笑ってるはず。

 

…またせんぱいのことを考えている。

もう、辛いだけなのに。

 

仕事をしていたはずの私の手はいつの間にか止まり、ただ涙を堪える。

 

渇きゆく喉と心を癒そうとMAXコーヒーに手を伸ばす。

缶から流れ落ちる水滴は私の涙を誤魔化してくれる。

 

MAXコーヒーを飲むようになったのも、生徒会長になって仕事しているのも、こんなに苦しいのも、全部せんぱいのせいだ。

 

 

 

 

 

卒業式当日。

正直他人の卒業式なんて退屈で、睡魔との戦いで忙しい。

 

三年生で知り合いなんて城廻先輩しか知らないし、そんなに親しいわけでもない。

 

せいぜい、残念に思うくらいだろう。

 

中学の時の卒業式で俺は喜んでいた。

中学では恥をかき、他人に指を差され笑われて。

だからなぜこいつらは卒業式でこんなにも泣いているのか理解出来なかった。

 

人をあざ笑って、そして泣いているやつら。

人にあざ笑われて、泣くどころか喜びすら感じる俺。

 

どうしてここまで違うのだろうか。

卒業式をするたびに自分はとても醜いやつなのだと感じる。

 

一色が送辞をするために舞台に上がる。

久しぶりに一色を見た気がする。

一色が奉仕部へ来なくなって一週間。

あの悲しげな笑顔以降顔を見ていないのだ。

 

一色が抱えているであろう事について、俺はどうしていいかわからずにいる。

 

自ら踏み込んでいいのかわからないのだ。

 

ずっと独りだった俺は奉仕部に入りなにか変わったのかもしれないが、今だに人との距離がわからない。

 

結局、俺は成長していないのだろう。

 

 

 

 

 

「ねぇヒッキー、いろはちゃんとなにかあったの?」

 

卒業式を終えての奉仕部の部室。

一色が来なくなって静かだが、どことなく雰囲気は暗い。

 

「いや、なにも」

「でも急に来なくなるのはおかしくない?」

 

一色になにがあったのか、俺は知らないし、どうしていいかもわからない。

 

一色は来なくなったのはどうしてか、奉仕部に行きづらくなるなにかがあったのか。

考えても、なにもわからない。

 

 

 

 

 

 

卒業式の後片付けと生徒会の仕事を終え、今日はもうすることがなくなった。

 

ちょっとまえの私なら、迷うこともなく奉仕部へ足を運んでせんぱいをからかっていただろう。

 

普通の女子高生なら友達と遊びに行ったりするかもだけど。

私には友達いませんしね。

なんせ生徒会長に推薦されるくらいですから。

 

ふとサッカー部のマネージャーだったことを思い出す。

そういえばマネージャーでしたね。

せんぱいのことしか考えてなくてすっかり忘れてました。

 

久々にサッカー部へ顔を出す。

葉山先輩は変わらずイケメンで、戸部先輩は変わらず練習中でも鬱陶しい。

 

サッカー部は奉仕部とは違い活気があって、冬のはずなのに暑苦しい。とくに戸部先輩。

白い息を吐き出して、あんな薄着で走り回る。

奉仕部ではない光景です。

 

グラウンドを紅く照らす沈みかけの太陽が部活の終わりを知らせたのか、葉山先輩が片付けの支持をする。

 

私も道具の後片付けを始める。

 

「いろは、珍しいな」

「葉山先輩…」

「比企谷となにかあったのか…」

「いえ、ただたまには顔を出そうと思っただけですよ」

 

葉山先輩はあの3人の中で言うと、結衣先輩に似ている。

空気を察して上手く対応している。

 

そうやって人と適切な距離を保っている。

 

私、またそうやって奉仕部のことを考えている。

未練たらたらじゃないですか。

 

「比企谷はいろんな人を変えていく。雪ノ下さんもゆいも、いろは、君もだ」

 

葉山先輩は私になにを言いたいのだろう。

 

「君はもっと、自分の気持ちを大切にしないといけない。たとえあのふたりがいても。君はあのふたりにはないもので闘えるだろう。君はまだ、諦めてはいけない」

 

葉山先輩は消したはずのロウソクに火を灯す。けれどその火は小さくて、冬の風に晒されてすぐに消えてしまうだろう。

 

 

 

 

 

「なあ、大掃除の日って部活あるのか?」

あれ、無視ですか?え、酷くない?俺なんかしたのか?

本読んでたくらいしかしてないんだが。

 

「…もしかして、私たちに話しかけていたのかしら?ごめんなさい。てっきり空気の友達に話しかけていたと思っていたわ」

 

俺にはエア友達もいません。

でもいいかもな。トモちゃんって名前でもつけてさ。

きっと俺みたいな捻くれたろくでなしのやつにも優しいんだろうな。

 

「さっきの問いだけれど、どうしようか考えているわ。依頼者が来なければ意味のないことなのだし」

「じゃあみんなでどっか遊びに行かない⁈お疲れ様会みたいな感じで」

「お疲れ様会は行かないが、小町の合格祝いをしたいと思っていてな。家でやるのとは別に」

 

小町頑張ってたしな。

それに小町はこいつらと会うときとか結構楽しそうだしな。

由比ヶ浜の誕生日パーティーとか文化祭の打ち上げとかクリスマスパーティーとかな。

 

「それで合格祝いをするならここでやってやりたいと思ってな」

「だったらカラオケでよくない?騒いでも怒られないし」

「いや、ここじゃないと意味がないというか、あーなんて言えばいいんだ」

「比企谷君の言いたいことはなんとなくわかったわ」

「あっそうだ。じゃあいろはちゃんも誘おうよ。みんなで初詣行ったときいろはちゃん誘われなかったって怒ってたし」

 

そういえばあいつそんなこと言ってたな。

あのときもあざとかったな。一色。

でもあいつ来るかな。

 

「小町さんと一色さんは面識はあるのかしら?当日にぎこちなくなったりしなければいいのだけど」

「小町なら大丈夫だろ。俺と違ってコミュ力高いしな」

 

もうスカウターで計測したら壊れちゃうレベル。

ちなみに比企谷八幡はコミュ力たったの5。

っふ、ゴミめ。

 

自分でいうと悲しいな、余計に。

 

「でもいろはちゃん来るかな…」

「大丈夫だ。あいつは一度来てしまったらとりあえず場の空気に合わせるだろ。だから当日ここに来させればいい。小町はすぐ仲良くなるから後はそこから問題を見つければいいし、もしかしたら小町がそのまま解決してしまうかもしれない」

 

それに一色と仲良くしてもらっていた方が良い。

俺が卒業しちまっても一色に面倒見せれるし、俺の代わりに悪い虫がつかないようにしてもらえるかもしれないしな。小町は可愛すぎるからな。

 

問題は一色をどう引っ張ってくるかだ。

 

 




次のドラマCDでいろはが出てきたらいいなと願いを込めて書いてみました。
なにげにまだいろはは出てきてないんですよね。

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