東方吸血鬼転生   作:肥満猫

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第二話『少女は悩む』

「私の下僕になりなさい」

「嫌だと言っている」

「なんでよ?」

 

 この会話を、実はかれこれ数十分は続けている。

 彼と話す少女は『可憐』という言葉が良く似合っていて、見た目だけなら守ってあげたくなるのだ。所謂、庇護欲をそそるのだが、この少女と言葉を交わせば、それは簡単に打ち砕かれる。

 

「私みたいな“か弱い”少女の頼みを無碍にするの?」

「“か弱い”ね……吸血鬼の癖に面白い嘘だな」

「あら? 酷い事を言うのね」

 

 ころころと笑う少女に、彼は頭を抱えたい衝動に駆られている。

 少女は人間ではなく、吸血鬼。それも肌で感じるだけで理解させられる程の絶対的強者の雰囲気を醸し出している。

 人間として平和に暮らしていたからこそわかることがあるのだ。鬼道は。少女には並々ならぬ存在を感じる。決して見た目に惑わされてはダメであると。

 例え、見た目が幼く見えても、それは敵を騙す一つの手段と言ってもいい。

 

 少女――レミリア・スカーレット――は、青みがかった銀色の髪を弄りながら、口を開く。

 

「まぁ、下僕は保留にするにして、貴方の頼みを受けてあげるわ」

「助かる」

「いいのよ。どうせ部屋は余りあるほどあるんだから。どうせならずっとここにいてもいいわよ?」

 

 クスっと笑いながら話す小さな吸血鬼に、彼は頭痛を感じる。

 どうやらまったく諦めていないようだ。彼としては早々に諦めてほしいものだが、こればかりは仕方ない。目の前の少女は面白いと思うものは欲しくなるようだから。

 

「遠慮しておく。俺は自由が好きだからな」

「フフッつれないのね」

「それはすまないな」

 

 どこまでも優雅な少女に、鬼道は顔を背けておざなりな謝罪をする。

 少女は少し不満そうに頬を膨らませるが、彼は敢えて無視する方向を選ぶ。反応すればまた同じことの繰り返しになると、鬼道はもう学習している。

 

「はぁ……わかったわ。もうこの話はしないから。咲夜」

「はい。鬼道を部屋に送ります」

「えぇ、頼むわ。私はそろそろ眠るわ」

 

 ふわぁ~と、欠伸を噛み殺すレミリアと、完璧を地で行くメイド長の『十六夜(いざよい)咲夜(さくや)』のやりとりを見守りながら、彼はある疑問を覚えた。

 吸血鬼でありながら、レミリアは“寝る”と言った。

 これが昼ならわかるが、今はまだ深夜だ。普通なら吸血鬼たちの活動時間のはずだが、この少女はその常識に当て嵌まらないのか?

 

 鬼道が疑問に思っていたのを察したのか、レミリアは笑みを作ると、話す。

 

「私は昼に活動して夜に寝るのよ? 吸血鬼なのに、まるで“人間”みたいって思うでしょ?」

「そうだな。まるで人間のようだ」

「私は常識に囚われないのよ」

 

 楽しそうに言う少女に、鬼道は思った。この少女には敵わないなと。

 

「それじゃ、お休み、咲夜、それと鬼道」

「お休みなさいませ。お嬢様」

「あぁ、お休み」

 

 レミリアの言葉に、鬼道と咲夜は返すと、少女は気分良さそうに部屋から出て行った。

 その後姿は見た目の幼さを感じさせていた。

 

「それじゃ、部屋に案内するわ」

「頼む」

 

 咲夜の言葉に短く答える彼は、部屋から出る彼女の後ろについて行った。

 

 

 

 

 

  ――――吸血鬼&少女移動中――――

 

 

 

 

 外の壁も紅かったが、中も同じように壁が辺り一色、紅く彩られていた。

 地面にはこれまた紅い絨毯が敷かれ、その上を鬼道は踏み歩く中、気づいた事があった。

 この洋館の窓は明らかに数が少ない。

 理由は考えるまでもなく、レミリアが吸血鬼だからだろう。そういう意味では、吸血鬼として生きる鬼道にもこの洋館は住みやすいが、その問題は鬼道の能力で解決する。

 

 それに、前まで一応人間だったのだ。太陽のない生活をしたいとは、鬼道は思わない。

 

「ねぇ、貴方は吸血鬼なのに、コウモリの羽はないの?」

 

 廊下を歩き続けていると、徐ろに彼女は口を開いた。

 鬼道はその質問に、そういえば、と、今更だが気付き、咲夜に返答するのに時間を要した。

 彼は歩きを止め、それに合わせるように咲夜も止まる。

 

「そう言えばなんでだろうか?」

「質問をしたのは私なんだけど……お嬢様や妹様には羽があるのに、貴方にはないものだから、少し気になったの」

「レミリアには妹がいるのか?」

「えぇ、姉のお嬢様と違って無邪気で可愛いわよ」

 

 今まで鉄仮面を被っている様に無表情だった咲夜に、笑みが溢れる。

 それに対して少しだけ鬼道は驚きを露わにするが、咲夜から見ると無表情から何も変わっていなかったりする。

 

「貴方は私以上に表情に乏しいわね」

「よく言われる」

 

 鬼道は人間の頃から感情を表に出すのが苦手で、表情筋が死んでいるみたいに動かないのだ。

 最初は頑張って感情を表そうと努力したが、結果は散々であった。笑おうとすれば子供はおろか、大人にも逃げられるという悲しい過去を持つ。

 

 別に彼はコミュニケーションが苦手ではない。得意とまではいかなくても、不得意と言うほどでもない。ただ、顔で損をしているだけである。

 つり上がった目と無表情が相手を威圧しているようだと、彼は昔友人に言われた。今はどうかは、鬼道はわからない。

 

 悲しい事に、彼の目は作り変えられてなお、直っていなかったが、彼は知る由もない。

 

「貴方の部屋はここよ」

 

 数歩あるいた先で彼女は鬼道の部屋をゆびで指し示す。

 鬼道は指された部屋に歩み寄り、ゆっくりとドアを開くと、そこには簡素な風景が見える。

 ベッドとタンス、それと小さめな机と椅子が置かれているだけで、他は何もない。

 

「案内ご苦労。十六夜」

 

 鬼道がそう言うと、咲夜は不満気な顔をして一言。

 

「咲夜」

「ん?」

「咲夜と呼んでと言っているの。苗字の方はあまり呼び慣れていないから、下の名前で呼んでくれるかしら?」

 

 彼女の言いたいことを理解した鬼道は、頷くことで肯定する。

 

「わかった。これからよろしく。咲夜」

「えぇ、鬼道」

 

 ほんの少し嬉しそうに頬を緩ませる彼女に、鬼道は首を傾げるが、まぁいいかと、自己完結する。

 

「咲夜は人間だ。もうそろそろ寝た方がいい。俺は吸血鬼だから平気だが、人間が夜遅く起きているのは身体に良くない」

「身体の気遣い感謝するわ。私もそろそろ横になろうと思っていたから、心配は無用よ。それじゃ、お休み」

「お休み、咲夜」

 

 鬼道から発せられる低い声に、咲夜は片手で受け答えると、暗い廊下から姿を消した。

 

 残った鬼道は、しばらくそこでボ~とし、部屋にあるベッドに無造作に倒れ、そのままうつ伏せになって、彼は綺麗な寝息を立て始めた。

 

 

 

 

 

  ☆   ★   ☆   ★

 

 

 

 

 闇に覆われた室内に、ロウソクの火が淡く光る。

 鬼道の部屋のような簡素さはない。様々な装飾がふんだんに使われているベッドは、屋根がついていて、布団は柔らかく弾力のある高級さだ。

 そして、なによりも目につくのは、色。

 

 真っ赤な壁に紅い屋根付きベッド、紅色に染められた部屋。

 屋根付きベッドの上には、青みがかった銀髪を散らして仰向けで寝る少女――レミリアだ。

 少女は腕を天井に向けて伸ばす。

 

「欲しいわ……ね」

 

 少女の呟きは、誰にも聞かれず、発した声は消える。

 強く欲しているが、相手は物ではなく、意思を持って動く自分と同じ吸血鬼。

 少女は自分の屋敷に突如現れた男を思い出していた。

 黒色一色の目付きの悪い男、荒倉 鬼道。彼の第一印象はそんなものであった。

 

 だが、レミリアは自分でも驚くほどに『嬉しかった』のだ。出会えて、話せて。

 それがなんなのか、初な少女にはわからない。

 五百年を生きてきた吸血鬼だとしても、彼女は異性との経験は皆無だった。

 

 だからこそ、少女はその胸に押し寄せる気持ちが理解できずにいた。

 

「これじゃあ眠れないわね」

 

 疲れたような声音で、身体をよりベッドに沈める。

 腕で顔を隠し、ゆっくりと深呼吸するも、レミリアの脳裏には鬼道の顔が浮かんでしまう。

 冷静になろうとしたが逆効果になり、呼吸を荒く、まるで発情しているように息を荒くさせる。

 

「はぁはぁ……んっもう!」

 

 バッと身体を起こしたレミリアは、髪を乱暴に掻く。

 乱れた髪をそのままに、彼女は自分の部屋から抜け出し、数少ない窓のある廊下に向かった。

 

 時間はまだ夜遅く、静かな森は風に吹かれて揺れている。

 それ以外に音と言えるものはなく、静寂が辺りを包む。

 

「静かね……」

 

 火照っている身体には丁度いい風に、レミリアは期限良さそうに微笑み、何かを思い出したように囁く。

 

「鬼道もここで一緒に……」

 

 その言葉は最後まで言うことはなかった。

 その代わり、その頬は朱色に染まっていた。

 

 

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