女3人寄れば姦しいという言葉がある。
特に女子高生にはそれが顕著に当てはまる。
1人や2人のときはそれ程騒がしくはないのだが、3人以上になるといきなり声のボリュームが上がったり不用意に大きい声で盛り上がる。
さながら動物の威嚇のようである。
周りに自分という存在を知らしめて、自分の存在価値を見出している。そこが自らの居場所であると叫んでいる。
それは、獣が自分の縄張りを誇示するために行う威嚇となんら変わりはない。
周りからしたらほんと迷惑なので静かにしてくれませんかねぇ…。
けれど、どんなことにも例外というものが存在する。
例えば、今現在この状況がそうである。
部室にいつもの奉仕部の面々が、いつものごとく鎮座する。
普段から基本的に会話はあまりしないので、沈黙が教室を支配することは多くあるが、こと今日に関してはいつもと違った嫌な空気が漂っていた。
有体でいえば、その原因は間違いなく俺の隣に座っている渋谷凛という人間のせいだろう。
というかこの人すごい近くて緊張しちゃうんですけど…。
このように、今をときめく華の女子高生が3人集まったところで、騒がしくならないこともある。
まぁ初対面だしね、仕方ないね。
もしくは俺という冴えない男子高校生がこの場に交じっているから例外的になっているのかもしれない。マジ俺時代の異端児。存在するだけで沈黙を作るとか絶対芸人に嫌われる。芸人の知り合いいないけど。なんなら普通の知り合いすらほとんどいないまである。なにそれ悲しい。
今更ではあるのだが、由比ヶ浜と雪ノ下からの視線が痛い。特に雪ノ下さんはゴミを見るような目でこちらを睨んでいる。
「…それで、これは一体どういうことかしら?ゴミ谷君」
さすがにこの空気に耐えかねたのか、雪ノ下が寒々とした、ともすれば凍えてしまいかねないような笑顔で俺に問いかける。
「…いや、まぁなんつーか、なりゆきでな」
「何一つ説明になっていないのだけれど」
おっしゃる通りで。
けれども、俺だってこの状況をどう説明したらいいかとか分からん。何から説明すべきだろうか。
頭の中でどうすべきか考え込んでいると、黙りこくっていた由比ヶ浜が口を開いた。
「なんで渋谷さんがここにいるの?」
「八幡に勉強教えてもらおうと思って」
「名前呼び!?」
由比ヶ浜が驚きのあまり大きな音を立てて椅子から立ち上がった。
いや、僕もその件に関しては納得してないんですけどね?
渋谷曰く、「私は名前で呼んでほしいけど、八幡は呼んでくれない。それなら私は八幡のこと名前で呼ぶよ。だって八幡名前で呼ばれたくないでしょ?仕返しだよ」だそうだ。
ちなみにその際、舌をだしてべーっとしてる表情には不覚にも萌えた。
「本当は教室でやる予定だったんだが、お前らが部活サボるなっていうから、ここでやることになったんだよ」
心底嫌そうな態度をとりながら答える。
それでも納得いかないのか雪ノ下は尚、問いかける。
「では何故その男を選んだのかしら?その男数学は学年最下位レベルよ?」
「私が八幡に教えてもらいたいからって理由じゃダメなの?」
純粋に、何の邪気もなく渋谷は答える。
そう言われてしまうと反論の余地もない。
あと雪ノ下さんは、俺を貶めるための事実確認はやめてね?事実すぎて反論不可だから。
雪ノ下も諦めたのか、深いため息をついて再び渋谷に向き直る。
「私は雪ノ下雪乃。奉仕部の部長をしているわ」
「渋谷凛です。…えーっと、八幡の友達です」
自信満々というか、堂々と自己紹介する雪ノ下に対し、少し恥ずかしげに自己紹介をする渋谷。
その二言目は完全に余分だからね?そして、友達なの初知りなんですけど…。いやまぁ別にいいんですけどね。
その後はそれまでの沈黙が嘘だったかのように、みんなで楽しくお話をした。(俺を除く)
× × ×
夏が終わり秋を迎えようというこの時期は、日が経つごとに陽の短さを感じる。
それに伴い我が部活も下校時間が早まる。ありがとうお日様!ありがとう秋!
結局渋谷は、話をするばかりで全く勉強をしなかった。
そんな気はしてた。由比ヶ浜たちと仲良くなれたみたいだし、俺も教えるの面倒だったから万々歳だけど。
雪ノ下がいつものように終わりの合図をすると、それぞれが帰宅のために荷物をまとめる。
少しのぬくもりの残った教室をあとにすると、俺と渋谷は下駄箱へ、雪ノ下と由比ヶ浜はカギを返すため職員室に向かって歩き出した。
「あの2人仲いいんだね」
「そうだな。おかげで俺は部活内でもぼっちだ」
「でもあの2人とは友達なんでしょ?」
「ちげーよ。雪ノ下に関しては友達になるの拒否されてるからな」
「ふーん。その割には仲良さそうだったけど…」
若干拗ねたような様子で渋谷は呟く。
何故拗ねているのかは分からないけれど、こいつはどんな表情や仕草でも様になってしまうから質が悪い。
こりゃ勘違いして惚れてしまうやつの気持ちもわからんでもない。
「それよりお前全く勉強しなかったけどいいのかよ」
「…明日からちゃんとやる」
「明日もやること確定なんですね…」
「ちゃんと付き合ってもらうからね?」
「へいへい、わかりましたよ…」
「じゃあ、また明日ね八幡」
「…おう」
渋谷は胸の前で控えめに手を振って、楽しそうに小走りで駆けていく。
その後ろ姿が見えなくなるまで、俺はその場に立ち尽くしていた。
× × ×
それから、俺の学校生活の大部分は渋谷と一緒にいることになった。
授業中は隣同士なので割と話をするし、休み時間も寝たふりをしていると頭を小突かれて話しかけられる。
昼休みは何も言わずとも同じ場所で一緒に食べるし、放課後は一緒に勉強したり、奉仕部に顔を出したりする。
四六時中といっていいほど彼女と俺は行動を共にしていた。
彼女は不思議な人間で、俺といるのは飽きなくて楽しいといって何よりも、誰よりも優先して俺のそばにいた。きっとその言葉に嘘はなく、いつも一人でいる俺に同情をしているわけでもないのはありありと感じ取れた。
そして、そんな日常を悪くないと、一緒にいて楽しいと思っている自分がいた。
言葉や言動に裏のない彼女といるのは、居心地がよく、変に勘ぐる必要がないため楽だった。
初めて見たときのような機械的な表情でなく、いろいろな顔をする彼女をみていると飽きなかった。
彼女のことをもっと知りたい。もっと理解したいと思った。
この頃から既に彼女に惹かれ始めている自分を否定することができなかった。
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