英雄になりたいと少年は思った   作:DICEK

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トリスメギストスの仕事

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神とは元来自由な生き物である。神話の世界ならば派閥ごとの優劣は存在していたが、神力のほとんどが封印された地上ではその拘束力も少ない。地上で物を言うのは子供の数と強さ。一言で言うならば、所有するファミリアの規模である。

 

 現状、オラリオで最大の勢力を誇っているのはどちらも探索系であるロキ・ファミリアとフレイヤ・ファミリアだ。トップに限って言えば、ゼウスとヘラのギリシャ系の時代が終わり、現在は北欧系の時代と言ったところだろう。これに鍛冶ファミリアの最大手であるヘファイストス・ファミリアと、商業系大手であるガネーシャ・ファミリア、オラリオの歓楽街を実質的に仕切っているイシュタル・ファミリアなどが続いている。

 

 さて、これらの神々が参加する『神会』だが、何より神々の行動を制限しないために、三か月に一度の開催となっている。拘束されるのも一日だ。実質的なオラリオの最高意思決定機関が、平常時ならば一年に四日しか仕事をしないというのもあんまりな話であるが、実際の都市の運営は所謂お役所が行っているので、都市の運営そのものに今のところ問題は起こっていない。

 

 冒険者が絡む案件にはギルドが動くし、絡まない案件には他の治安維持部隊が動く。人口が多いため犯罪の発生件数そのものは多いが、解決率もそれに比例して高い。トータルで見ればオラリオはこの世界でも有数の治安の良い都市と言えるだろう。

 

 基本、年に四回しか開催されない『神会』であるが、臨時に召集されることがたまにある。都市にとって、あるいは『神会』そのものにとって重要な案件が持ち上がった時だ。ラキア王国など外部の勢力がオラリオに侵攻してきた時などが良い例であるが、それ以外――神々が最も楽しみにしている臨時開催が、『戦争遊戯』が成立した時である。

 

 神々の代理戦争である『戦争遊戯』は公正を期すため、『神会』の仕切りによって行われる。これは弱いファミリアが一方的に敗北して、ゲームがすぐに終わることを防ぐためだが、そも、ファミリア同士に優劣、強弱が定まっている時点で、真に公正な勝負などありはしない。

 

 あくまでゲームとして面白くするために神々も横やりを入れるが、基本、強いと目されているファミリアが勝ち、弱いファミリアが負けるというのがいつもの流れだった。

 

 今回『戦争遊戯』をするのは最大手の一つであるロキ・ファミリアと、あくまで中堅の域を出ないアポロン・ファミリアである。この『戦争遊戯』が成立したことは既にオラリオ中に知れ渡っている。冒険者を含めたオラリオの住人たちは、ロキ・ファミリアの圧勝ということで結果の予想は一致していた。

 

 これはアポロンの乱心であり、子供たちはそれに付き合わされている。これでアポロン・ファミリアは凋落するだろう。冒険者の間では既に、悲観論まで出ている始末だ。ヒュアキントスを始めとした、アポロン・ファミリアの団員にとっては、まさに生きた心地のしない期間である。

 

 彼らも他の冒険者たち同様、自分たちの敗北を予感――いや、確信していた。神のためとあらば誰とでも戦うが、それはあくまで気持ちの問題である。世の中には往々にして勝てる相手と勝てない相手が存在するのだ。ロキ・ファミリアの猛者たちはその典型であり、冒険者としての質、量ともに彼らに劣ると自覚しているアポロン・ファミリアには既にお通夜ムードが漂っていた。

 

 その暗い雰囲気を物ともしていなかったのは、『戦争遊戯』をしかけた主神アポロンその人と、アポロン・ファミリアの中では変人と目されているカサンドラだけだった。

 

 アポロン・ファミリアの敗北は規定事項である。相手であるロキもそれを認識していたが、裏でフレイヤが動いていると確信していた彼女は、この『戦争遊戯』にきな臭いものを感じ取っていた。

 

 とは言え、相手がどのように動くか解らないことには、手の打ちようもない。いまいち乗り切らない気分のまま『神会』に参加したロキは、その会合でも意気揚々と『戦争遊戯』の開催を宣言するアポロンに、やはり不審なものを感じ取っていた。

 

 最高の楽しみの一つである『戦争遊戯』の取り決めを行うとあって、ほとんどの神が出席している。主だったところで姿が見えないのは、ウラノスの依頼で祭具の作成を行っているヘファイストスと、後はイシュタルくらいだろうか。ヘファイストスは解るが、イシュタル欠席の理由は、ロキにも想像がつかなかった。

 

 彼女はフレイヤと仲が悪い。これもフレイヤの企みと何か関係があるのだろうか。考えを巡らせている内に、『神会』の議題は、『戦争遊戯』の内容へと至った。漸くか、とロキが小さく溜息を吐く。会議が始まってから十分少々。これまで時間を食っていたのは、アポロンの演説一つである。

 

 神の中にはこの手の自己顕示欲の強い者が多い。かく言うロキもその系統だが、他人の演説になど興味がない神がほとんどだ。それがまさにこれから喧嘩をしようとしている神ならば猶更である。大半の神に聞き流されていた演説を満足顔で終わらせると、アポロンは芝居がかった仕草でロキに向き直った。

 

「さて、ロキ。勝負内容を決める前に賞品を決めようか。君が勝ったら、私に何を求める?」

「貴様の処分はウチやなくベルに決めさす。何を言われても拒否すんなや」

 

 ロキが要求したのは、『戦争遊戯』における賞品で最も重いものだ。ここでそれを受け入れると、本当に何を要求されても拒否することはできない。個々神の契約ならばまだしも、これだけ立会い神がいる中でそれを反故することは、地上においての破滅に等しい。

 

 しかも、強いファミリアの神が、弱いファミリアの神にそれを要求しているのだ。普通に考えれば陰湿ないじめも良いところだったが、弱いファミリアの神であるはずのアポロンは、ロキの提案を二つ返事で受け入れた。

 

 ロキにとっては、予定通りである。おそらく彼は、この場に居並んだ神の中で最もアポロン・ファミリアの勝利を疑っていない。それだけ後ろについている女神のことを信頼しているのだ。それさえあればロキ・ファミリアに勝てると本気で思っているのである。実に我慢がならない。

 

「せやったら、貴様はウチに何を求める?」

「そうだね……特に希望はなかったんだけど、あの白兎くんでも貰おうかな」

「…………なんやて?」

 

 自分の苛立ちも忘れて、ロキはアポロンに問い返した。場にも、白けた空気が漂い始めている。あらゆる神にとって、アポロンの言動は予想外だった。ロキがちらと視線を向けると、フレイヤまで表情を引きつらせている。彼女にとっても、完全に予定外なのだ。情報交換が上手く行っていなかったのか、アポロンの独断専行なのか知らないが、いずれにしても、これで黒幕の予定が大きく狂ったことは間違いがない。

 

 予定が狂ったのであれば、付け入る余地は大いにある。元より、好みでないはずのアポロンにフレイヤが声をかけたのは、単純に利害が一致していたからだ。

 

 先の言動を振り返ってみるに、フレイヤの最大の利はベル・クラネルに他ならない。大前提としてベル・クラネルとの距離が近くならないのであれば、フレイヤがアポロンに手を貸すメリットは全くと言って良い程ないのだが、自分の勝利を疑っていないアポロンがそれに気付いた様子はない。

 

 そこまで観察して、ロキは思い至った。この前の命名式の時、アポロンはその場にいなかった。フレイヤがベルに執着しているという事実そのものを、彼は知らないのだ。神気者であるフレイヤの、誰それに熱をあげているという情報は神々の間でもそれなりの量が飛び交っているが、こと地上の子供相手であるとその頻度は激減する。

 

 特に今回は勝手が違った。ベル・クラネルはフレイヤのライバルであるロキの子供であり、この話を盛り上げることはロキの逆鱗に触れることにもなりかねない。他人の喧嘩に大盛り上がりする神々であるが、それは火の粉が自分に降りかからないという前提である。誰も彼も、当事者にはなりたくないのだ。

 

 つまりは、今回のロキの喧嘩相手がアポロン以外。あの日、命名式に参加していた神であれば、間違っても対価にベルを要求したりはしなかっただろう。自分の立場を良く理解している神々は、アポロンがそれを口にした瞬間、今回の『戦争遊戯』の趣向がどういうものかを理解した。

 

「そか。別にそれでええで。ウチが負けるはずないもんな」

 

 フレイヤが軌道修正を始めるよりも先に、ロキはアポロンの提案を受け入れた。これでアポロンが勝てば、ベルはアポロン・ファミリアに移籍することが決定する。ギルドとの協定により、一度改宗した子供はそれから一年、他の神に改宗することができない。アポロンの手に渡ったら、例えフレイヤであっても一年はお預けを食らうのだ。

 

 影でこっそり、という訳にもいかない。今回のことでロキ・ファミリアそのものを壊滅させることができたとしても、ベル個人が既に注目され過ぎている。フレイヤとて何でもかんでも好き勝手にできる訳ではない。既に何人も他のファミリアから引き抜きを行っているフレイヤはギルドから目を付けられており、ベルのことで強硬策に出ればギルドのマークがさらに厳しくなりかねない。

 

 最大ファミリアでこそあるが、フレイヤ・ファミリアだけで他全てのファミリアを相手にできる訳ではない。フレイヤ個人に忠誠を誓っている神もいるが、それらを含めてもそれ以外のファミリア全てと戦争することはできないだろう。

 

 ならばベルのことは我慢するより他はない。アポロンのところに一年預けて、ほとぼりが冷めたら改めてファミリアに迎え入れるというのが、フレイヤにとって現状、最も無難な選択肢である。神にとって一年など瞬きの間に等しいが、既に手の届くところまで――フレイヤ的には既に手に入ったつもりでいたベルのことを一年も待つなど耐えられないに違いない。

 

 付き合いが長いロキは、フレイヤの性格を良く知っている。子供への情愛に関して横やりを入れるような存在を、フレイヤは何があっても許すことはない。ロキはフレイヤに視線を送った。表情の変化は些細な物である。おそらくロキでもなければ見逃してしまいそうな程微かに、フレイヤは眉根を寄せて小さく頷いた。

 

 ロキはうつむき、笑みを深くする。その笑みは子供たちの背中に刻まれた、道化師の笑みに酷似していた。その笑みをおくびにも出さず、ロキは先程までの自分に戻った。直情径行と思われているロキだが、腹芸は何より得意とするところだ。伊達に一つの神話体系において、最高のトリックスターと持ち上げられている訳ではないのだ。

 

「では、勝負内容を決めようじゃないか。できるだけ公正なものをお願いしたいね」

「団員全員参加の、平野での総力戦なんてええんやない?」

 

 苛立っている風を装っているロキの語調は強い。先のアポロンの言動がなければ、本当に怒りを堪えて発言しているように見えるだろう。それを意識していないのはアポロンだけだ。ここまで話が傾いてしまうと、もはや茶番であるが、伊達や酔狂を楽しむのもまた、神の流儀である。

 

「それだと趣がないと思わない?」

 

 鈴を転がすような声で、フレイヤが言う。ここで口を挟むというのは、当初からの計画通りなのだろう。自分の生命線である対戦内容の取り決めに、よりによって対戦相手の知己が絡んできているというのに、アポロンに取り乱した様子はなかった。腹芸のできない男だ、とロキは心中で嘆息する。

 

「なんや、フレイヤ。貴様に何か良い案があるとでも?」

「ええ。聞けば、この諍いの発端には兎さんが関わっているんでしょう?」

「せやな。盗人の小人を私刑にかけようとしとったアポロンの子供たちから、そいつを庇おうとして殴られたわ」

「それはお気の毒ね。かわいい顔に傷が残らないと良いけれど……」

 

 フレイヤの声音から、彼女が本当に心配しているのが伝わってくる。誰の子供であろうと、自分が気に入った子供には惜しまずに愛情を注ぐのがフレイヤだ。子供の輝きを増すためならば、多少痛めつけてしまっても構わないという、ある種倒錯した愛情ではあるがそれでも、愛していることに代わりはない。

 

「……話が逸れてしまったわね。私としては、小人を守るために立ち上がった、兎さんの気持ちを尊重してあげたいのだけど――」

「言われるまでもないわ。今度の『戦争遊戯』にベルも参加するで」

「そうじゃないのよ、かわいいロキ。私は、兎さん()()()()()戦ってほしいの。勿論、アポロン・ファミリア全員とね。ロキ・ファミリアの構成員が協力するのはダメよ。兎さんには、ロキ・ファミリアを代表して、ただ一人で戦ってもらうわ」

 

 正気を疑うような提案である。そしてフレイヤは、この案が通るということを微塵も疑っている様子はない。既に彼女は敵ではないという認識でいるロキでさえ、フレイヤのこの物言い、態度にはカチンとくるものがあった。何も知らない状態で聞いていたらここが『神会』の場であることも忘れて怒鳴り散らしていただろう。本当に、この女神は得体が知れない。 

 

 その得体の知れない提案は、本来であれば神々の望むところではない。安全なところで見る喧嘩が一方的なものであることに、楽しみを見出せる神は少ない。一方的な蹂躙劇もそれはそれで需要があるが、神と、そして地上の子供たちが望んでいるのは、血沸き肉躍る緊迫した戦いなのだ。

 

 フレイヤの提案は、それを根本から覆すものである。いくらフレイヤの提案であっても、即座――とはいかないまでも、迂遠な方法で回避されるのが普通であるのだが、

 

「私の提案に賛成してくれるかしら?」

 

 フレイヤの言葉に、居並んだ神々が一斉に立ち上がった。ロキ以外、全員である。

 

 『神会』での決定は、多数決に依って行われる。ファミリアの規模も考慮されるため、弱小ファミリアと大手ファミリアの一票は等価値ではないが、ここまで大量に差がついてしまうと、ロキとは言え覆すことはできない。

そもそも、ロキ・ファミリアと同格であるフレイヤが賛成に回っているのだ。ロキ一人がどうこう言った所で意味はない。

 

 フレイヤが『神会』の場で発議した時点で、彼女の案は採用が約束されていたのだ。自分の知らないところで、ここまで根回ししていたことに、ロキは心中でフレイヤに称賛の声を送った。トリックスターの面目丸つぶれである。

 

 そして、この結果が事前に解っていたのであれば、アポロンの強気の態度にも合点がいった。ここまで有利な条件でカードを組めれば、アポロン・ファミリアの勝利は固い。おそらく助っ人くらいは認めるという譲歩がこの後にあるのだろうが、他のファミリアが全て敵に回っていること、時の人とは言えレベル2の冒険者が中堅ファミリアを相手に一人で戦う状況を強いられていること。

 

 その条件を加味してまでベルに味方をしようという冒険者は、極々少数に限られる。ましてこの提案はフレイヤが発議したもので、状況を見ればロキと抗争中であるのは見て取れる。ロキに恩を売れるというのは大きいかもしれないが、それは同時にフレイヤと彼女に属する神々全てを敵に回すということだ。

 

 個人的に、ベルの状況に思うところがあったとしても、自分の所属するファミリアのことまで考えれば、軽々味方をすることはできない。

 

 基本的に自由な神であるがオラリオに籍を置いている以上、『神会』での決定には拘束される。これに反逆するということは即ち、『神会』に名を連ねる神々全てに喧嘩を売ることに等しい。フレイヤは本気で、自分を潰しに来ていたのだ。

 

 全てが彼女の思い通りに行っていたら、ロキも大いに怒り全てを敵に回してでも強い行動を起こしていただろう。やはりあの女神は油断ならない。胸の内に渦巻く激情を全く顔に出さず――ロキには、激怒しているのが手に取るように解ったが――フレイヤは、怒りのあまり言葉もなく立ち上がったふりをするロキに声をかけた。

 

「ロキ。兎さんによろしく伝えておいてもらえるかしら?」

 

 軽い、友人同士の会話である。これはアポロンにはこの上ない嫌味に聞こえ、他の神々には悔し紛れの負け惜しみに聞こえ、そしてロキにはある提案に聞こえた。

 

「首を洗って待っとき。もう貴様と話すことは何もないわ」

「それは残念ね。あぁ、他のファミリアであれば助っ人を認めるわ。開催は二週間後。どういう内容で戦うかは――」

「知らん。そっちで勝手に決めい」

「細かいことが決まったらお知らせするわ。楽しいゲームにするから楽しみにしていて?」

「貴様も、ウチの怒りにやられてころりと天界に戻らんようにな。全く、こないにキレたんはアレや、トールのお友達の緑のデカ物にぶっ飛ばされて以来やな……」

 

 激怒した様子でバベルを出たロキは、ラウルの操る馬車に飛び乗って、黄昏の館への道を急いだ。馬車の中は無言である。明らかに機嫌が悪いロキに、態々話しかけるような真似を、ラウルはしない。準幹部筆頭格であり、かつて魔石をちょろまかしたことがバレたこともある彼は、自分が危ないと思ったものには、なるべく近寄らないようにしているのだ。

 

 中を沈黙が支配した馬車が道も半ばまで進んだ頃、馬車の屋根が軽く小突かれた。走っている馬車である。天界の乗り物と速度は比べるべくもないが、それでも飛び乗れるような代物でもないし、飛び乗ろうする人間を見れば、いくらラウルでも声を挙げているはずだ。

 

 それをしない、あるいはできなかった相手に、ロキは大いに心当たりがあった。自分宛の使者であることを確信したロキは、誰何の声も上げずに窓をあけ、彼女を中に招き入れた。ここまで来れば、ラウルも馬車の重さが変わったことに気づいていたが、それでも彼は声を挙げなかった。悪い顔をしている時の己が主神には、関わり合いにならないのが一番である。

 

 そんなラウルの焦燥と諦観を背中に受けながら、ロキの前で尋ね人は姿を現した。水色の髪にメガネの奥の理知的な瞳。オラリオにその名を轟かせる、アイテムメイカーはロキを前に、洗練された動作で恭しく頭を下げた。

 

「ヘルメス・ファミリアが団長。『万能者』アスフィ・アル・アンドロメダ。主命によりまかり越しました」

「ご苦労さん。それで、ヘルメスは何て?」

「馬車はこのまま黄昏の館へ。御身は私と共にフォールクヴァンクまでご足労願うと」

「……早速切られてもうたか。敵ながら、アポロンが少しかわいそになってきたわ」

「心にもないことを仰います」

「あら、流石に解るか? せやな、ええ気味や。奴は何より、ウチの子供に手ぇ出したんや。そのツケは何が何でも払わさんとな……」

 

 その報復に、フレイヤの手を借りるというのも業腹ではあるが、およそ利害が一致する限り、あの女神は全ての神の中で最も信頼できる。特に男が絡めば上出来だ。ベルをアポロンの手に渡さないためならば、彼女はもう何でもするに違いないのだ。

 

「それから、トリスメギストスにも礼言っとかんとな。アポロンを唆したんは、あいつなんやろ?」

「そんな名前の御神は存じ上げませんが、神ロキがそう仰っていましたことは主神に伝えておきます」

「よろしゅうな。さて、これから一世一代の大芝居や。いやー楽しみやなー」

「私は、ロキ・ファミリアの皆さんがどれだけ気をもむのかを思うと、他人事ではいられません」

「せやなぁ。まぁ、フィンとリヴェリアとガレスくらいには伝えとかんとな。アポロンに感づかれても興ざめやし」

 

 例え気づかれたとしても、既に成立してしまった『戦争遊戯』を取り消すことはできない。できたとしても中堅のアポロン・ファミリアでは払いきれない程の、莫大なペナルティを背負わされるだろう。

 

 既にアポロンの命運は決したのだ。

 

 

 

 

 


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