やはり俺は浮遊城にいること自体が間違っている(凍結中) 作:毛利 綾斗
「お兄ちゃん、早く起きなよ〜。今日予定あるんでしょ!」
そんな小町の声で起こされた俺は世界で一番しあわせだ。だって世界で一番可愛い妹に起こされたんだぜ。
「っとこんな事考えてる暇は無かった。つか何で小町は俺の予定把握してんだよ」
そう。俺こと比企谷八幡は今日決断を下さねばならない。俺はあの場所を守りたかった。初めて俺が居たいと思った場所を。でもそうするためには…………。
今日俺は決着を付けたい、いや付けるんだ。これは自分の失態を挽回するためのもの。俺のせいで雰囲気が悪くなってしまったあの場所を取り戻すための戦いだ。
人は俺のやり方を最低だと言うかも知れない。
過去の俺なら、それはお前が一番嫌っていた欺瞞だというだろう。
でも俺は俺を含めた皆を救う方法を取りたい。そう思ってしまうほどに、あの場所は大切なのだ。あの二人と、まあプラスαも含めたあの空間が。
約束の時間は18時。まだ時間がある。トリマ落ち着くためにゲームでもするか。
そう言って俺は顔を囲む様に機械を取り付け、
リンクスタート
と呟く。そうたまたまβテストに当たってしまったゲームの正規サービスで遊ぶために。
「久しぶりに戻ってきた」
誰にも聞かれていないかと心配になり辺りを見回す。まだインしている人は少ない様で周りには誰もいなかった。そして俺は走り出す。新しい武器を手に入れるために。
俺が手に取った武器は曲刀だ。少ない手数で大ダメージを与えられるこの武器はヒットアンドアウェイ戦法に向いている。そして第一層の雑魚モブ、フレンジーボアをボコし続けた。現在のレベルは5。かれこれここで4時間粘ったがこれ以上上がりそうにない。
出かける準備もあるしそろそろ上がるか。
そう思い、左腕を振り下げアイコンを出す。
ログアウト、ログアウトっと。確か設定の一番下にあったよな?
と同時に
リーンゴーン、リーンゴーン
と鐘がなる。始まりの街の大広場にあった鐘の音だ。
その瞬間に俺の体は青白い光に包まれ目の前が真っ白になる。気がついたら俺は、いや俺だけじゃない。たくさんの人間が始まりの街の大広場にいる。
辺りからはやっとか、など些か怒気を孕んだ声が聞こえる。恐らくログアウトができなかったってところか。
ちょっと待てよ。普通はこんな所に集めずに一斉ログアウトをして、後で謝罪っていうのが普通じゃないだろうか?
これは何か起こるかもしれない。
俺は一番後ろまで下がり辺りの状況を見回せるようにする。
「アレ、お前ハーちゃんカ?」
隣から聞こえてきた中性的で特徴的な話し声。広場の真ん中から何か聞こえるが気にしない。
「その声は鼠か?」
振り向くとポリゴン片が輝いていてその中から浅黒い女の子が現れる。
「そーだゼ、ハーちゃん。ってどうなってんのこれ?」
途中から声が変わっていることに気付き焦る鼠の。これ凄いレアじゃね?つか彼奴って女だったのか。どうせ女だとゲーム内で信用を勝ち得ないとか思ってだろうな。
「おい、鼠の。素が出てるぞ、素が。あととりあえず此処から離れるぞ。」
取り敢えず混乱した人に巻き込まれたくなかったから圏外まで出たが現状が把握できてない。やっぱ、ボッチは一つのことに気をとられると何もできなくなるらしい。
「おいハーちゃん。これからどうするんだヨ……。100層までクリアとかいう無理ゲーになったわけダガ」
どうやら2ヶ月で10層までしか行けなかった俺たちはこのゲームに閉じ込められてしまったらしい。しかもゲーム内での死=現実での死という等式までセットらしい。
今の時間は17時30分。
どうやら約束には間に合わないらしい。かといって彼奴らに会うことなく死ぬなんて嫌だ。早く会いたい。
なら最善の一手を取るしかない。
「鼠の、俺は攻略に出る。お前はどうせ情報屋をするんだろ。だったら資金も情報収集も手伝ってやるから攻略本を作ってくれ」
「ワカッタ。いや、わかったよアハト。じゃあ一時間ほど待って」
そう言って書き始めた物を雑貨屋に入って印刷し本にして配った。
内容はこの世界での生き方。レベリングの方法。そして一番重要なフィールドのことなどだ。最後にこれはβ版の情報です。変更点がある可能性があります。
と注意書きを書いた。
さて、これが吉と出るか凶と出るかだ。
まず俺たちができる最大のことをした。次はレベリングだ。
行くぞ、鼠の
一言呟き鼠とフィールドへ駆け出した。