やはり俺は浮遊城にいること自体が間違っている(凍結中)   作:毛利 綾斗

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第2の被害

「それでどうダ、キー坊」

 

 

 

今、俺の左手の甲には貫通、継続ダメージ込みのショートピックが刺さっている。

視界の端では圏内へ入った時に出る表示が薄くなっていく。

hpバーには目立つ変動は........無い。

 

 

 

「圏内に入った瞬間にダメージは無くなった。圏内で感じるのは異物が刺さっている違和感だけだよ」

 

 

 

これまでに思いつく手段の全てを実験してきたが、やはり圏内に入るとダメージは全く入らない。

これであの殺人が決闘モードによってhpが全損したか、それとも俺たちでは思いつかないようなシステムの穴を見つけたかの2択になった。

 

 

ピピ、と電子音がなり視界の端には手紙のマークが浮かぶ。

 

 

 

『すまん、少し立て込んでてな。

後1、2日でカタがつく筈だからそれ次第お前に会いに行く。

俺も調べるから要件だけ返してくれ』

 

 

 

要件のみを書き、要件のみの返信を求める他人とのコミュニケーションを一切度外視したメッセージ。

俺でも少し引いてしまうような簡潔さだが、コミュ障な俺には余計な事を考えずに書けるからありがたい。

俺は事件のこと、槍のこと、検証結果のこと、その他の事件に関係しそうな事を全て書いた。

その量メッセージ10件分。

 

 

 

「待たせて悪かったよ、アルゴ。

一応だけど警戒の強化と前に知らせたような注意をもう一度して欲しい。頼めるかな?」

 

 

 

「わかったゼ。オネーサンに任せときナ」

 

 

俺とアルゴはそこで別れた。

その夜、再びピピ、と電子音が頭に直接響く。

 

 

 

『キリト君、明日ヨルコさんから話を聞くんだけど一緒に来てくれないかな?』

 

 

俺はアスナに肯定のメッセを送ると宿まで帰り眠りについた。

 

 

 

 

 

 

翌日の昼頃、57層の主街地にある宿屋の一室にいる。

 

 

「それではヨルコさん、お話を伺ってもよろしいですか?」

 

 

「ちょっと待ってくれ。ヨルこさん、グリムロックという名前を知っていますか?」

 

 

ヨルこさんは頷き何かを察すると話し始めた。

 

 

「前にもお話ししたと思いますが、カインズと私は同じギルドに所属していました。ある事をきっかけに今はもうなくなってしまいましたが......。きっとそれが今回の事件の始まりだったのでしょう。

あれは一年前のことです。私たちギルドメンバーは当時の最前線よりも10層近く低い層で狩りをしていました。

その時に指輪がドロップしたんです。

それは俊敏値20上げるという物でした。最前線でもドロップしない程の高性能な指輪を手にした私たちは話し合いました。この指輪を売るべきかと。

私たちのギルドは5人で構成されていたのでちょうど良く、度々意見が二つに割れた時は多数決で決めてきたんです。だからその時も多数決を取る流れになりました。

いつもは全員が見ている状況で手を上げるのですがその時は、禍根を残すといけないから、という意見でギルマスであるグリセルダさんが決を取るという流れになったんです。

結果は4:1で売却するという形になりました。

後から話してわかったのですが私とカインズ、そしてシュミットが売却に賛成していました。

売却に決まった後のグリセルダさんの行動は早かったです。

彼女は準備を済ませると次の日には最前線へと向かいました。それから数時間後、彼女のHPバーに麻痺のデバフが表示され急速に減り、そして全損したんです。

私たちは最前線まで急ぎました。彼女の足跡は圏外まで続き、門を出たところで途切れていた。ただ一つ、ギルドの紋章が刻まれた指輪を残して。彼女は逝ってしまいました。

ただ不思議な点はいくつかありました。いくら最前線とはいえ私たちの中でも最高レベルだった彼女が門から出た付近で一気にやられるとは思えないのです。一つの仮定ですが私は他のプレイヤーに殺されたんだと思っています。

それからグリムロックさんは塞ぎこむようになり、ギルド内の雰囲気は悪化、解散となりました。

それから一年。私はカインズと連絡を取り合い、会うことになりました。

そして彼は死にました。彼が死ぬ直前、彼の後ろにグリセルダさんがいたんです。いえ、顔を見たわけでは.....。ただ彼女が愛用していたマントにフード姿が見えただけなんです。ただその姿がグリセルダさんそのもので.....。

あれはきっとグリセルダさんだったんです。私たちが売却を選ばなければ彼女は死ななかった。だから彼女は売却を選んだ私たちを......」

 

 

突然話すのをやめたヨルコさん。

顔を見ると苦痛に満ちた表情で満たされている。そのまま彼女は力が抜けたのか窓から落ちていく。

俺は身を乗り出してヨルコさんを視認しようとすると

 

 

「キリトくん、屋根を見て!」

 

 

と声がかけられる。

屋根の上にはマントを着ている奴がいる。

俺は窓から飛び降りると跳び、屋根に乗る。その時には既に誰もおらず、人混みに紛れられたのだと察した。

マントを脱がれてしまえば先ほどの人物が誰だなんてわからない。

屋根から降りるとヨルコさんが落ちたところに向かう。

そこには険しい顔をしたアスナが1人、短剣を持っていた。

 


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