やはり俺は浮遊城にいること自体が間違っている(凍結中) 作:毛利 綾斗
作者の思いつきで描いたものですが面白ければ幸いです。
段々鬱のような文になって来ている気がするんですが大丈夫ですよね?
皆さんも『光があるところに影がある』という様な言葉を聞いたことがあるだろう。
これは性善説に基づく考えだと俺は思っている。
宇宙誕生はどうだろうか。無しかない暗闇の空間に突如光を発し、宇宙は誕生した。
かつての生き物は全て、光が当たらない様な深海で生き、活動して来た。それが形を、姿を変え、住む場所を深海、浅瀬、陸地と次第に光を得られるところに進んで来た。
中には闇の中で生活する生き物もいる。
ただそれは次第に個体数を減らしていく一方であり、またそれらは暗闇のみでなく、明るいところでも生きる術を身につける様になって来た。
人間は夜の暗闇を恐れ、夜に活発に活動する獣を恐れて光を、火を生み出した。
だってそうだろう。人間には暗所恐怖症はいても明所恐怖症なんていない。
だから俺は言おう。
全ては影から生まれたのだと。『光があるから影がある』のではない。『影があるから光がある』のだと。
今から話すのは『哀れな狼』と『愚かな羊』の物語。『哀れな狼』が狂った物語だ。
彼は少し身体が弱く、気も弱かった。
その為か、いつも塞ぎがちだった彼にはなかなか友達ができなかった。いつも独りだった彼に大学で初めて友人と呼べるモノが4人も出来た。
大学時代を友人と過ごした彼は塞ぎがちだった性格も改善され、少しずつだったが言いたいことも言える様になっていた。
そんな彼は就職活動を終え、働き始め、金を貯める様になり余裕が出る頃に、あるゲームの発売が発表された。
それがソード・アート・オンライン。
彼は友人を誘い、仕事の休みも取り、久しぶりに友人と集まってゲームを買った。
初のVRMMORPGということで1時間もかからずにどの店舗でも完売した様で、手に入れられた時には奇跡に感謝し、友人と喜び合っていた。
ゲームを始める前に互いの名前を教え合い、すぐに合流することを約束して家へと帰って行く。
ゲームを始めたらすぐに合流でき、そのまま流れでレベリングをしていた。全員のレベルが3になる頃に、鐘が鳴り響いたのである。全てを狂わせる死の鐘が。
デスゲーム開始を知らされた彼らは話し合い、攻略組の後をゆっくりと追うという事で一致した。
彼らは常に安全に気を使い、生活に余裕を持てる程のコルを集めていた。
だからきっと慢心していたのだろう。
38層
『迷宮前ダンジョン』での狩りをしていた時だった。いつも通りの場所でいつも通りの狩りだった。........その筈だった。
ただ違和感があったとすればいつもに比べてmobの数が少ない気がしたというだけだった。
誰も何も言わないし俺の気のせいということで放っておいたが、いつも狩りを終える時間になってもいつもの2/3にしか満たなかった。
話し合いの結果、後1時間だけ狩りを続けることになった。
この選択があんな結果になるなんて誰も思っていなかった。
あんな結果になるなんて分かっていたら満場一致で帰っていただろう。
狩りを続けてから10分後のことだった。漸くいつもの様に会敵する様になったと思っていたらいつの間にかmobに囲まれていた。
いつもならば囲まれたとしても3、4体なのに対して、今は10体に囲まれている。
今の状態でも絶望的なのにmobは湧き続けてくるのだ。
そういえば、とこんな時に脳裏に浮かび上がる。
攻略本にはこう書かれていたのだ。
『一定の場所で長期間狩りをするプレイヤーへ
いつもに比べてmobが少ないと感じた時は直ぐにその場を離れることをお勧めする。
各エリアには時間当たりのpop数が決められており、時に湧かなくなることがある。
エリア内にmobがいない場合に時間がリセットされると大量のmobが湧く可能性がある』
まさにその通りの状況なのだろう。
要するに絶体絶命のピンチ。倍以上のmobを相手にどれだけ耐えられるのだろうか。そんな事を考えながら武器を構えるが恐怖には勝てなかった。
連携は乱れ、踏み込みは甘く、段々とHPバーは緑から黄、黄から赤に変わる者も出て来た時だった。
赤く染まり、身体が強張ってしまった仲間に鎌を振り下ろすmob。
明らかにオーバーキルな一撃だと言うことはここにいる全員がわかっていたのに誰1人として動こうとしない。いや、動けなかった。
自分達も既に黄色で、助けるために動けば今度はその隙に自分が死ぬ目に合うかもしれない。
ここにいる全員がそう考えているかは分からない。ただ俺はそう思ってしまった。
仲間だった彼が懇願の視線を俺に送ってくる。俺はそれを振り切ると自らの武器を握りしめて自分に襲いかかろうとしていたmobを叩き斬る。
俺は彼を見捨てたのだ。
その直後だった。突如ローブを着た奴が現れ、俺たちを囲んでいた十数ものmobを僅か数十秒でポリゴン片へと変える。
助かった、そう安堵すると俺は地面に座り込んでしまう。
そう、誰一人として犠牲を出さずに俺たちは、俺と彼らは助かったのだ。
友情という大切な繋がりを犠牲に助かってしまったのだ。
「すまなかった。今日はこれまでにして宿で休んだ方がいい」
そういうとローブ姿の男は去って行く。
俺は直ぐには動けなかった。ローブの影から此方を見ていたあの目に恐怖し、畏怖し、そして見とれてしまった。
世界に絶望したように腐りきった目に。
それからというと、死にかけた彼は狩りに出るのをやめ、比較的無事だった4人のみで狩りをするようになった。
今まで5人での狩りしかしてこなかった俺たちは4人での狩りに苦戦し、また1人、また1人と狩りを恐れ最初の彼と同じように街から出なくなった。
俺1人が狩りをするようになるまでには時間はかからなかった。
本当にあっという間だった。
1人で5人分のコルを集めるようになってからはレベルの上がりが早く、段々とソロで上の層に挑むようになった。
死にかけることもあったが見捨てたという負い目があるから辞めることはできない。そうすれば俺も彼らも死んでしまうから。
ただ、時々思うのだ。友情が無くなった俺と彼らを繋ぐものは何なのだろうかと。
あの時は全員が被害者で加害者なんかいなかったはずだ。なのに何故か俺が加害者のように扱わ.......ダメだ。彼らは仲間じゃないか。
仲間が苦しんでいるから俺が助けているんじゃないか。
そう思わなければ今直ぐにでも壊れてしまいそうになっているという事に俺自身まだ気がついていなかった。
いや、気づかないフリをしていた。
...........あの日までは。
あの日からひと月が経とうとしている時だった。いつもの様に1人での狩りをホームに帰ってきた時だった。
「あいつが仲間でよかったよな」
「あぁ。本当に助かるよ」
ここで中に入れば良かったのだ。
ただいま、と言い扉を開け、何の話をしてたんだと笑いながら聞く。
そうすればみんなはきっと笑いながら過ごして行けたんだろう。
ただ少し俺が動きを止めなければ良かったんだ。
「あいつに見捨てられた時はマジで死んだと思ったけどな」
「でもそのおかげであいつは俺らの分も稼いでくれるんだろ。生きてるんだし結果オーライだな」
「本当にだよな。っとそろそろ帰ってくる頃か」
聞こえてくる笑い声は歪んで聞こえる。気持ちが悪い。
奴らの言う仲間は俺の考えていた物ではない。ただ自分たちに都合が良いからそう呼んでいるだけのただの他人なんだろう。
もういい。疲れた。この皮を被り続けるのはもう辞めよう。俺の中の怪物を解き放とう。
記憶に残っていたのはあの日見た腐った目と仲間だったモノがポリゴン片へと変わる瞬間の断末魔だけだった。
気がつくと俺は『ラフィンコフィン』というギルドをつくり、ギルマスになっていた。
そして気がつく。俺は狂ってしまったのだと。だから俺は探す、あの人を.......。