やはり俺は浮遊城にいること自体が間違っている(凍結中) 作:毛利 綾斗
休みに突入したのでペースは戻ると思います。
青髮が扉を開く。そこにはただ広い空間、玉座の間が広がり正面の大きい椅子には何かの影が。
俺たちは武器を構えゆっくりと近づいていく。その差は50メートル、まだ全員入っていない。
45メートル、ラストの1人が扉の中に入った。
と同時に今まで身動き一つ取らなかった巨体が勢いよく飛び上がりこちらに来る。
持っている武器は斧。腰にもう一つの武器が挿してある。βテストと同じならこれはタルワールのはずだ。
少し刀身が真っ直ぐすぎる気もするが気のせいだと思うことにする。
開幕の一撃であるロードの叩きつけは不発に終わる。それと同時にセンチネルが三匹現れた。
行くぞ
そう短く告げ地面を蹴りセンチネルの後ろに回り込み目をそっと抑える。此処までにかかった時間は3秒。一瞬にして目の前が真っ暗になって驚いたのだろうセンチネルの動きが止まる。そのまま曲刀で首を掻っ切る。センチネルはポリゴン片になって消えていく。
辺りは唖然とする者、驚きの声を上げる者の2種類で埋め尽くされた。
「ちょ、アハト。俺にも戦わせてくれよ」
「じゃあ1匹任せるぞ。お前はこい」
そう言って1匹のセンチネルを任せ、フードとともにもう1匹を狩りに行く。本当は1匹だけでいいのだが他の担当が動かないのだ。
フードが突き俺が攻撃を弾く、それを3回繰り返すとまたもポリゴン片になって霧散していった。
後これが3回も続くのか........。
特に変わったこともなく狩り続けているとロードのHPバーのラスト一本が赤く染まる。ロードは斧を捨て新しい武器を取ろうとする。
青髮が口を開く。此処は全員で囲んで一斉攻撃のはずだ。そう思って走り出した俺の耳に届いた言葉は
「後一息だ。此処は俺に任せてくれ」
という言葉だった。
それに従う馬鹿ども、どう考えてもおかしいだろその命令。何で全員動きを止めるんだよ。
青髮と一瞬目が合った気がした。いや俺じゃなく後ろにいるキリトとかもしれない。だがあれは笑っていた。しかもあれは嘲笑う目だ。
今はそんな事どうでもいい。青髮が死ぬ。まだ彼奴は気付いてないようだ、ロードが抜いたのはタルワールでないだけでなく曲刀ではない。野太刀という事に。
「「下がるんだ!」」
俺の声と共にあげられた声。
それを無視し突っ込んでいく青髮をロードはニヤッと笑い構えを取る。あの構えは《旋車》。きっとあの後には《幻月》、《浮舟》と続く。
俺はさらに加速する。
ロードの回転斬りで逃げ遅れた三人が巻き込まれる。
まだだ、まだ間に合う。
ロードの振り上げで宙に浮かぶ青髮。
頼む間に合ってくれ。
そう思いながらボス戦で初めてソードスキルを使う。
《フェル・クレセント》
横に一振りの一撃が運よく束縛を勝ち取りソードスキルをキャンセルさせる。高く上がった青髮は部屋の端まで吹き飛ばされそれをキリトがキャッチ、そのままポーションを飲ませようとする。彼奴のHPがほとんど残っていたのならギリギリ間に合った筈だ。回復は任せた、俺は後始末だ。
頭の中でカチリ、と何かの音がした。
さっきまで火照っていた身体が一気に冷え視界がクリアになり、ボスの一挙一動で動きが手に取るように理解できる。
そこからは一方的だった。
野太刀を持っていた手の腱を切られ武器を落とすボスに両足の腱を切り跪かせる。さらに腕を斬り落とし地面に額を付かせ意地で起き上がろうと挙げられた顔を一閃。残り数ドット、俺は優しくロードの首を斬り落とした。
俺の視界に浮かぶ『Congratulation!』と『You got last attack!』のアイコン。俺はさっさとそれを閉じる。と再びアイコンが。今度はレベルアップを告げるものだ。
辺りの奴らはまだ呆然としている。勝った現実を受け入れられてないのだろうか。それとも俺に怯えているのだろうか。
「アハトお疲れ」
「アハト君お疲れ様」
二人の声に何故かホッとする俺だったがこの場の雰囲気のせいで気を許せていない。
「なんでや。何でディアベルはんを見殺しにしたんや」
この声はモヤットボール。って事は青髮は死んだのか。
「彼奴らボスが持ち帰る武器の変更を知ってたんだ。だからすぐに反応できたんだよ」
モヤットボールのパーティの1人がさらに言った。
辺りから、そう言えばとか、まさかなどの声が聞こえてくる。
此処から如何する。手札は沢山ある。ただ誰かを犠牲にしてしまうものばかりだ。それに上手くいく光景が浮かばない。
「見殺しだと、馬鹿にしてんのか。全く動かなかったお前らの方が見殺しにしてるだろ。第一にお前ら可笑しいと思わなかったのかよ。何でリーダー様は1人で特攻したのかってな」
「それは思ったけどディアベルはんの命令は絶対やから」
「甘いんだよ。彼奴はこの部屋に入るまでに誰1人欠けずに勝つと言ったんだぞ、それは如何した。普通はとりかこむ場面だっただろ」
そ、それは....
やはり違和感はあったみたいだ。後一息でこいつらは落ちる。
「それを奴は自分の欲の為に単独行動をとり、β時代の情報だけで慢心し、そして死んだ」
「彼奴が攻撃された時に如何して誰も助けようとしなかった。助ける為に動いた俺たちを糾弾する資格がお前らにあるのか」
「じゃあ、如何してあんた達は武器の変更に気づけたんだ」
モブの1人が疑問を口にする。周りからも説明を求める声が上がり始める。
「逆に曲刀使いに聞くが如何して気づけなかったんだ。如何考えても曲刀にしては真っ直ぐすぎるだろ」
周りの曲刀使いに視線がいくが直ぐに戻ってくる。きっと仲間の非を認めるよりも俺に責任を押し付けたいのだろう。ほーら簡単だ、だんだんと誰も傷つかない世界が出来始めていく。
「如何してリーダー様があんな行動したか分かるか?それはモヤットボール、お前の責任も少なからずあるんだぞ」
「なんでや!わしが何したっちゅうねん」
「攻略会議でβテスターを糾弾しただろ。
あれからリーダー様の様子が変わったんだよ。早くこの場から立ち去りたさそうにな。
だから話し合うこともなく会議が終了した。
そして奴は見せたかったんだろうな、βテスターだからこそ俺らの上に立って引っ張っていくぞっていう意気込みを」
自分にも責任がある。そう思って頭の中がゴチャゴチャになったのだろう。モヤットボールは落ちていた得物を取り俺に飛びかかってくる。
目を充血させ奇声をあげている姿は見るに耐えないものだった。
めちゃくちゃな動きで一振り一振りがバラバラだ。こういう時ほど規則性が見つかりやすい。俺はゆっくり観察しながら剣を避け続ける。此処であたるのは楽だがそうすれば奴の心が壊れ死ぬだろう。
モヤットボールがモーションを取る。
《レイジスパイク》
軌道が読みやすい技で良かった。攻撃を避けるとモヤットボールの目を左手で隠し、右手で奴の腕を持つ。
今、自分の首に自分の剣を当てているのだが前が見えず冷静さをかけている奴は気づいていない。奴の首から出血を表す赤いエフェクトが微かに出てきた。
「お前らは弱い。だからせめて俺に一太刀入れられる位にはなってくれよ。そうすれば俺が自由に動ける」
周りの奴らは一言も発しない。それもそうだろう。
ボスを一人で圧倒したのだから。
だがこれでは団結できない。まだ、まだなんだ。奴ら、攻略組に火を点ける言葉はなんだ。
......................
なんだ簡単なことだった。やっぱり俺がこの世界でも悪者になれば良いんだ。そうすれば誰も傷つかず、団結出来るだろう。
すまない、雪ノ下に由比ヶ浜。如何やら俺はまだ変われないらしいわ。短い間だったが鼠にも悪い事したかな。
「俺は2層のアクティベートにいく。青髮の無駄死にの所為で辛気臭いこの場所に長居する意味もねぇしな」
目が変わった。畏怖の視線から怒りへと。やっぱりこれが一番簡単だ。俺が敵になればいい。共通の敵の存在が団結には一番だ。
俺はLAボーナスの《コート・オブ・ミッドナイト》を装備する。
「おーっと、俺の後ろを狙うのは良いが今のお前らじゃ俺を殺すどころか次の街に着くまでにザコモブに殺られるぞ。死ぬ覚悟がない奴は帰るんだな」
そう言って背中を向け歩き始める。
おい、アハト!
キリトの声がする。それと同時に俺は隠蔽を発動し立ち去る。もう誰の目にも映っていないだろう。
パーティから抜けますか?
YES/NO
躊躇わずにYESを押し鼠とのフレンド登録も消す。これでいい、俺が関わると彼奴らまで敵意を買うことになる。これまでと変わらないことだ。逆に今までがおかしかったんだ。自分にそう言い聞かせた。
やはり俺は再び独りになる。