Happy Birthday
三月十三日。
この日は栴納さんや裕唯、俺にとって特別な日だ。
俺に、人の温かみを教えてくれた人がこの世に生を受けた日であり、栴納さんや裕唯にとっての宝物ができた大切な日だ。
そう、篁唯依が産まれた日だ。
「……なに恥ずかしいこと口走ってるんですか」
「あっ、声に出てた? でも、それだけ俺にとってかけがえのない日だってこと」
だって、この日は俺が本当に心から愛せる人が産まれた日だから。
「ふふ、そこまで言われるとこっちまで恥ずかしくなりますね。さあ、もうすぐ着きますよ」
俺たちは唯依ちゃんの誕生日を祝うため、京都にある唯依ちゃんの実家へと向かっている。
毎年、この日は唯依ちゃんの家にみんなで集まって祝うことになっている。
栴納さんの手料理を楽しみ、唯依ちゃんにプレゼントを渡すと言うのが毎年の恒例だ。
「今年は、ちゃんと冬夜もいてくれるんですよね」
「もちろん。もう勝手にいなくならないって言っただろう?」
「はい」
この笑顔を曇らせてしまった以前の自分に無性に腹が立つが、過去を悔やんでいても仕方がない。これから末永く唯依ちゃんと幸せに過ごせるようにしていけばいいことだ。
「えーと、確か榮二さんが迎えに来てくれてるはずなんだけど……」
辺りを見回すと厳つい顔の傷と優しげな表情がミスマッチしている大柄な人がすぐに見つかる。
「やあ、おかえり。冬夜くん」
「ただいまです、榮二さん」
「唯依ちゃんも、おかえり。そして、誕生日おめでとう。いやぁ〜、前までこんなに小さかった唯依ちゃんもすっかり大人だな」
「私なんてまだまだ子供ですよ、巌谷のおじ様」
「そうかい? 冬夜くん的にはどう思う?」
「唯依ちゃんの魅力に年齢は関係ありませんよ。俺の目には常に世界で一番可愛い女の子として映ってます」
「もぅ……」
そんな俺たちのやり取りを見た、榮二さんはガハハと豪快に笑う。ほんと、こんな温和な人が昔はエースパイロットだったなんて信じられないな。
「さて、立ち話もいいが栴納さんが待っているからそろそろ移動しようか。二人とも車に乗ってくれ」
黒塗りの高級車に乗った俺たちは榮二さんの運転で唯依ちゃんの実家へと向かう。
車に揺られること数十分、唯依ちゃんの実家についた俺たちは栴納さんの笑顔に迎えられた。
「おかえりなさい、冬夜さん、唯依」
「ただいまです、栴納さん」
「母様、ただいま」
帰宅の挨拶を済ませた俺たちは、料理組と部屋の飾り付け組に分かれる。
本当は唯依ちゃんにはゆっくりしてもらう予定だったのだが、「冬夜には私の料理を食べてもらいたいので」という一言によって唯依ちゃんも料理組となった。
「さてと、それじゃあ、やりますか」
料理組の準備が終わるまでに俺と榮二さんとで部屋の飾り付けをこなしていく。
そして、大方の飾り付けが終わった頃、出来上がった料理を持った唯依ちゃん達が台所から出てくる。
出来上がった料理を食卓へと並べ、席へと着く。
「では。唯依ちゃんの誕生日にカンパーイ!」
「「「カンパーイ!」」」
いつもなら、食事中に騒ぐのはご法度だが、今日だけは賑やかに料理を食べ進めていく。
料理を食べ終え、片付けが済んだところで、榮二さんと栴納さんのプレゼントが渡される。
「唯依ちゃん、私からはこれだ」
榮二さんが懐から取り出したのは、高級料亭のペア食事券だ。
「唯依、私からはこれを」
栴納さんからは山吹色の和服。
「母様、巌谷のおじ様、ありがとうございます」
二人からのプレゼントに太陽のような笑顔を浮かべる唯依ちゃん。
そして、俺も二人に続く形でプレゼントを取り出す。
「唯依ちゃん、ちょっと目をつむって後ろ向いて」
「はい」
唯依ちゃんの綺麗な首にプレゼントのリングネックレスをつける。
「もう目を開けてもいいよ」
目を開けた唯依ちゃんは首にかかった二つの指輪を見つめる。
「一つは誕生石のアクアマリン。もう一つは、その……ストックって花で、花言葉は永遠に続く愛の絆……」
「冬夜、目をつぶってくれませんか?」
我ながらかなり恥ずかしいことを言ったなと思っていると唯依ちゃんから目をつむってと言われ、目をつむると、
「ん……」
唇にすごく柔らかなものが触れる。
「えっ……も、もしかして」
「私のファーストキスです。素敵なプレゼントをくれた冬夜へのお返しです。嫌でしたか?」
「い、嫌なんて、そんな! 正直、ちゃんと見たかったっていうか、なんというか!」
突然の事態に正常な思考ができなくってしまいあたふたとしてしまう。
てか、いきなり、キスって! それも、ファーストキス!
「ふふ、慌ててる冬夜というのもいいですね」
「うふふ。唯依の初めてを受け取ってしまったんですから、これはもう結婚しかありませんね」
「そうだぞ、冬夜くん。男子たるもの、好いている女の子からここまでされたら、もう結婚しかないぞ」
栴納さんと榮二さんが何か言ってるが、俺は唯依ちゃんからのキスで完全にまともな思考力をなくしてしまい、顔を真っ赤にして、あたふたとする他なくなってしまい、その後何があったか全く記憶に残こらなかった。