「近接武器を使った格闘戦については今更言うことはないだろうから、今日は射撃武器について説明しておくよ」
「はい、お願いします」
デュノアさんが転校してきてから五日が経った土曜日。IS学園では土曜日の午前は倫理学習、午後は完全に自由時間となっている。とはいえ土曜日はアリーナが全開放なのでほとんどの生徒が実習に使う。それは俺も同じで今日はこうして唯依ちゃんとIS戦闘について訓練中だ。
「何はともかく、撃ってみようか。はい、これ」
そう言って唯依ちゃんに《87式突撃砲》を渡す。
「
「は、はい」
形状が普通の銃とは違うから持ちにくかな?
「か、構え方はこうでいいですか?」
「うん、そんな感じ。その銃は基本片手撃ちだけど、初めてだから左手を添えた方がいいかも。持ちにくかったら別のあるけど大丈夫?」
「だ、大丈夫です」
「火薬銃だから瞬間的に大きな反動があるけど、ISがほとんど相殺するから心配しなくていいよ。センサー・リンクは出来てる?」
「銃器を使用するときのやつですよね?ええ、大丈夫です」
ISの戦闘は基本、高速戦闘なので射撃には当然ハイパーセンサーとの連携が必要だ。
「では、いきます」
バンッ!!
「きゃっ!?」
「はは、どうだった?」
「そ、その、冬夜が撃つのは見たことがあるのですが、自分で撃つとこうも違うものなのですね」
「まあ、そうだろうね。それにものすごく『速い』でしょ」
「はい」
「ISの加速も十分速いけど、弾丸は面積が小さい分より速い。だから、軌道予測さえできれば簡単に当たるし外れたとしても牽制になる」
「な、なるほど」
「それじゃあ、連射の練習も兼ねてワンマグ使い切っていいから俺を狙ってみて。適当に避けてるから」
「わかりました」
左右に弾を避けながら説明を続ける。
「連射するとどうしても狙いがブレるから気をつけてね。そうそう、初めてにしてはいい感じ」
一通りの練習を終えて、丁度いい時間なので唯依ちゃんと一緒に食堂で夕飯を食べることになった。
「学年別トーナメントが個人戦じゃなければ唯依ちゃんと組めたのになぁ」
「仕方ありませんよ、決まりなんですから。でも、私にとってはいい機会です。冬夜と当たることができれば自分がどの位未熟なのか知ることができますから」
そんな会話をしながら食堂へ向かっていると女子が騒いでることに気がつく。
「ああっ、いいなぁ……」
「両手に花ってやつね」
「幼なじみってずるい」
「専用機持ちってずるい」
気になって覗いてみると弟くんの腕が羨ま……大変なことになっていた。
「あの大胆さにはある意味、敬服しますね……」
「うん。俺もして欲しいけど、さすがに同級生に見られるのは恥ずかしいよ」
それにしても胸に腕が挟まれるってどんな感じなんだろ。唯依ちゃんの胸は触ったことないから感触がわからないので想像できないのが残念だ。
「して欲しいって……あ、ああいうのが冬夜は好きなんですか?」
「多分、嫌いな男子はいないと思うよ?」
「そ、それは本当ですの!?」
「う、ウソついてないでしょうね!?」
月曜の朝、教室に向かっていた俺は廊下にまで聞こえる声に目をしばたたかせた。
「なんでしょうか?」
「さあ?」
いつも通り隣にいるのは
「本当だってば!この噂、学園中で持ちきりなのよ?月末の学年別トーナメントで優勝したら織斑君か白崎君と交際でき──」
「俺がどうかした?」
「「「きゃああっ!?」」」
交際とか聞こえたんだけど……。
「で、結局何の話だったの?俺や弟くんの名前が出てたけど」
「う、うん?」
「さ、さあ、どうだったかしら?」
まあ、なんにせよ俺は廊下唯依ちゃん以外はあり得ないんだけど。
「じゃ、あたし自分のクラスに戻るから!」
「そ、そうですわね!わたくしも自分の席につきませんと」
ふむ、弟くんが交際か……。大方箒ちゃんあたりの話が広がったとかだろ。
「なんだったんでしょうか」
「気にしなくていいんじゃない?」
放課後、特に予定がないのでどうしようかと話していると第三アリーナで誰かが模擬戦をやっているという話を聞き、向かうことにする。
「話に上がるほどとなると代表候補生同士の模擬戦とかかな?」
「後学のために見ておいて損はないでしょう」
俺は自分の戦い方を確立してるからそこまで意味はないけど代表候補生なら専用機が見れるかもしれないな。
「でも、模擬戦にしては様子が──」
ドゴォンッ!
「「!?」」
突然の爆発音に驚き、急いで観客席に入るとその煙を切り裂くように二体の影が飛び出してくる。
「鈴さん!セシリアさん!」
アリーナは特殊なエネルギーシールドで隔離されているのでこちらに爆発が及ぶことはないが、同時にこちら側の声も届かない。
二人は苦い表情のまま爆発の中心へと視線を向ける。そこにいたのはドイツ第三世代IS『
二人のISはところどころが損傷し見た目だけでもかなりのダメージだとわかる。対してボーデヴィッヒさんは無傷とはいかずともかなりの軽傷だった。
「くらえっ!!」
ジャカッ!と鈴ちゃんのIS『甲龍』の両肩が開き衝撃砲《龍咆》が最大出力で放たれる。しかし、ボーデヴィッヒさんは避けようとはしない。
「無駄だ。このシュヴァルツェア・レーゲンの停止結界の前ではな」
確か、ドイツの第三世代兵器《
「くっ!まさかこうまで相性が悪いだなんて……!」
衝撃砲を無力化したボーデヴィッヒさんはすぐさま攻撃へと転じる。手首に搭載されたブレードワイヤーを射出して、鈴ちゃんの左足を捕らえる。
「そうそう何度もさせるものですかっ!」
鈴ちゃんの援護のため、射撃を行うオルコットさん。同時にビットを射出、ボーデヴィッヒさんへ向かわせる。
「ふん……。理論値最大稼働のブルー・ティアーズならいざ知らず、この程度の仕上がりで第三世代型兵器とは笑わせる」
オルコットさんの精密狙撃とビットによる視界外攻撃。その両方をかわしながら両手を左右に突き出しビットを停止させる。
「動きが止まりましたわね!」
「貴様もな」
オルコットさんの狙撃はボーデヴィッヒさんの大型カノンによって相殺される。すぐさま連続射撃の状態に移行しようとするオルコットさんを、ボーデヴィッヒさんは全国捕まえた鈴ちゃんをワイヤーによる振り子の原理でぶつける。
「きゃああっ!」
衝突の影響で一瞬姿勢を崩したふたりへボーデヴィッヒさんが瞬時加速で間合いを詰める。
「このっ……!」
ボーデヴィッヒさんのプラズマ手刀を《双天牙月》の連結を解いて交代しながら凌ぐ。しかし、いくら格闘戦に慣れているとはいえ三次元躍動するワイヤーブレード六つにプラズマ手刀の全てを捌くには練度が足りていない。
「くっ!」
再度、衝撃砲を展開し、その砲弾エネルギーを集中させる。
「甘いな。この状況でウェイトのある空間圧縮兵器を使うとは」
その言葉通り、衝撃砲は射出寸前にボーデヴィッヒさんの実弾兵器によって爆散する。
「もらった」
「!」
肩のアーマーを吹き飛ばされ大きく体勢を崩した鈴ちゃんをプラズマ手刀が迫る。
「させませんわ!」
間一髪のところで鈴ちゃんとボーデヴィッヒさんの間に割り入ったオルコットさんは、《スターライトmkⅢ》を立て代わりに使うと同時に
ドガァァァァッ!
危険な接近戦でのミサイル攻撃。その爆発は鈴ちゃんとオルコットさんも巻き込み、ふたりは地面へと叩きつけられる。
「無茶するわね、アンタ……」
「苦情は後で。けれど、これなら確実にダメージが──」
オルコットさんの言葉は途中で止まる。
「……………」
煙が晴れ、そこに佇んでいるのはほぼノーダメージのボーデヴィッヒさんだった。
「終わりか?ならば──わたしの番だ」
言うと同時に瞬時加速で地上へと移動、鈴ちゃんを蹴り飛ばし、オルコットさんに近距離からの砲撃を当てる。さらにワイヤーブレードで飛ばされたふたりを捕まえそこから一方的な暴虐を開始する。
「ああああっ!」
その腕に、脚に、体に、ボーデヴィッヒさんの拳が叩き込まれる。シールドエネルギーは瞬く間に減り
「これ以上は、さすがにマズイか」
「おおおおおっ!」
二人の生命に関わるので、止めに入ろうとした時、弟くんが『零落白夜』を発動しアリーナのバリアーを切り裂き、突入する。
「はあ、頭に血が上りすぎだ」
『EF-2000 タイフーン』を装備しその後を追って、アリーナへと突入する。
「その手を離せ!!!」
「ふん……。感情的で直線的、絵に描いたような愚図だな」
「な、なんだ!?くそっ、体がっ……!」
考えなしで突っ込むなんてボーデヴィッヒさんの言葉を否定できないじゃないか……。
AICに動きを止められた弟くんを援護するためボーデヴィッヒさんに威嚇射撃を行う。
「貴様も邪魔をするか」
「いいや。ただ、やり過ぎだから止めに来ただけさ。弟くん、シャルル、二人を連れて離れて」
「わかった!」
弟くんとデュノアさんが二人を連れて離れたのを確認してからボーデヴィッヒさんに話しかける。
「今日は、この辺にしておきなよ。今回の勝負は内容は抜きにして君の勝ちだ。今から俺と戦って負けを乗せなくてもいいだろう?」
「私が貴様に負けるだと?──いいだろ、貴様も有象無象に過ぎないと言うことを教えやるっ!」
ボーデヴィッヒさんが飛び出そうとした瞬間、俺たちの間に影が割り入ってくる。
ガギンッ!
金属同士がぶつかる音が響き、ボーデヴィッヒさんは加速を中断する。
「……やれやれ、これだからガキの相手は疲れる」
「ちーちゃん、遅かったじゃんか。もう少しでいじめられることろだったんだよ?」
「よく言う。あと、織斑先生だ」
なんの装備もなしにIS用近接ブレードを扱ってるんだから、つくづく常人離れしてるよ。
「模擬戦をやるのは構わん。──が、アリーナのバリアーまで破壊する事態になられては教師として黙認しかねる。この戦いの決着は学年別トーナメントでつけてもらおうか」
「教官がそう仰るなら」
素直に頷いて、ボーデヴィッヒさんはISの装着状態を解除する。
「白崎、織斑とデュノアにも伝えておけ」
「はいはい」
「では、学年別トーナメントまで私闘の一切を禁止する。解散!」
パンッ!とちーちゃんが強く手を叩く。それはまるで銃声のように鋭く響いた。