「……………」
「……………」
場所は保健室。時間はさっきの一件から一時間が経過していた。ベッドの上では打撲の治療を受けて包帯を巻かれた鈴ちゃんとオルコットさんがむっすーとした顔で視線をあらぬ方向へと向けていた。
「別に助けてくれなくてよかったのに」
「あのまま続けていれば勝っていましたわ」
二人とも怪我の割には元気なようでよかった。
「お前らなあ…………。はあ、でもまあ、怪我がたいしたことなくて安心したぜ」
「ほんと間に合ってよかったよ」
「こんなの怪我のうちに入らな──いたたたっ!」
「そもそもこうやって横になっていること自体無意味──つううっ!」
言わんこっちゃない。
「バカってなによバカって!バカ!」
「一夏さんこそ大バカですわ!」
「好きな人に格好悪いところを見られたから、恥ずかしいんだよ」
ひどい反撃を受けた弟くんに飲み物を買って戻ってきたデュノアさんがフォローになってないフォローを入れる。
「なななな何を言っているのか全っ然っわかんないわね!これだから欧州人って困るのよねえっ!」
「べべっ、別にわたくしはっ!そ、そういう邪推をされるといささか気分を害しますわねっ!」
二人とも顔を赤くしてる。
「はい、ウーロン茶と紅茶。とりあえず飲んで落ち着いて、ね?」
「ふ、ふんっ!」
「不本意ですがいただきましょうっ!」
鈴ちゃんもオルコットさんも渡された飲み物をひったくるように受け取って、ペットボトルの口を開けるなりごくごく飲み干す。冷たいものを一気に飲むと体に悪いよ?
「ま、先生も落ち着いたら帰っていいって言ってるし、しばらく休んだら──」
ドドドドドドドッ……!
「な、なんだ?何の音だ?」
廊下から聞こえてくる地鳴りのようなものがだんだんと近づいてきたと思ったらドカーン!と保健室のドアが吹き飛んだ。テレビ以外でドアが吹き飛ぶなんて初めて見た……。
「織斑君!」
「デュノア君!」
「白崎君!」
ドアから雪崩れ込んできたのは数十名の女子達だった。広い保健室はあっという間に人で埋め尽くされる。しかも、俺たちを見つけるなり一斉に取り囲み、バーゲンセール中の主婦のように手を伸ばしてきた。
「な、な、なんだなんだ!?」
「ど、どうしたの、みんな……ちょ、ちょっと落ち着いて」
「ストップストップ!」
状況が飲み込めない俺たちに、バン!と女子一同が出してきたのは学内の緊急告知文が書かれた申込書だった。
「な、なになに……?」
「『今月開催する学年別トーナメントでは、より実戦的な模擬戦闘を行うため、ふたり組での参加を必須とする。なお、ペアが出来なかった者は抽選によります選ばれた生徒同士で組むものとする。締め切りは』──」
「ああ、そこまででいいから!とにかくっ!」
そしてまた一斉に手を伸ばしてくる。
「私と組もう、織斑君!」
「私と組んで、デュノア君!」
「私と組んでよ、白崎君!」
先月の一件が関係して学年別トーナメントの仕様変更があったんだろう。学園内で三人だけの男子とともかく組もうと、先手必勝とばかりに勇み迫ってきているのだろう。しかし──
「ごめんね。俺は唯依ちゃんと組むから」
「ええー!」
「やっぱり篁さんと白崎君って……」
「まだ、確定じゃないわ!もしそうでも、織斑君とデュノア君がいるわ」
俺は唯依ちゃん以外と組むつもりはない。なので、弟くんとデュノアさんに任せよう。
「え、えっと……」
ああ、そういえば同室の弟くんはともかくデュノアさんが誰かと組むのはリスクがあるのか。
「悪いな。俺はシャルルと組むから諦めてくれ!」
しーん……。少し気まずい空気が流れる。
「まあ、そういうことなら……」
「他の女子と組まれるよりはいいし……」
「男同士っていうのも絵になるし……ごほんごほん」
とりあえず、一人危ない子がいたのはスルーしようか。そうして、納得した女子達は各々が仕方ないかと口にしながら一人また一人と保健室を去っていく。
「ふう……」
「あ、あの、一夏──」
「一夏っ!」
「一夏さんっ!」
安堵のため息をついた弟くんにデュノアさんが声をかけようとして、それを上回る勢いで鈴ちゃんとオルコットさんがベッドから飛び出していく。
「あ、あたしと組みなさいよ!幼なじみでしょうが!」
「いえ、クラスメイトとしてここはわたくしと!」
この二人はバカなのかな?
「ダメに決まってるだろ」
「ダメですよ」
山田先生と声がかぶる。てか、いたんですね、気づきませんでしたよ。すごくいいタイミングですけどもしかして隠れてました?
「おふたりのISの状態をさっき確認しましたけど、ダメージレベルがCを超えています。当分は修復に専念しないと後々重大な欠陥を生じさせますよ。ISを休ませる意味でも、トーナメント参加は許可できません」
これはISの蓄積経験と呼ばれるものでISはあらゆる経験を積むことで自己進化していく。その経験には損傷時の稼働も含まれるので不完全な状態での稼働を経験させてしまうと平常時に悪影響を及ぼしてしまうのだ。
「うっ、ぐっ……!わ、わかりました……」
「不本意ですが……非常に、非常にっ!不本意ですが!トーナメント参加は辞退します……」
さすがは代表候補生、賢明な判断だね。
「わかってくれて先生嬉しいです。ISに無理をさせるとそのツケはいつか自分が支払うことになりますからね。肝心なところでチャンスを失うのは、とても残念なことです。あなたたちにはそうなってほしくありません」
「はい……」
「わかっていますわ……」
と、そこでわかってなさそうな顔をしてる弟くんにデュノアさんが説明をいれる。
「一夏、IS基礎理論の蓄積経験についての注意事項第三だよ」
「え、えーと……」
「簡単に言うと骨折しているときに無理をすると筋肉を痛めるだ」
「お、おう。それならわかる」
はあ、お兄さんは君の将来が心配です。
「しかし、何だってラウラとバトルすることになったんだ?」
「え、いや、それは……」
「ま、まあ、なんと言いますか……女のプライドを侮辱されたから、ですわね」
「? ふうん?」
なるほど。多分、弟くんのことをボーデヴィッヒさんが悪く言ってそれに対して戦いを挑んだってところかな。
「ああ。もしかして一夏のことを──」
「あああっ!デュノアは一言多いわねえ!」
「そ、そうですわ!まったくです!おほほほほ!」
デュノアさんや、それは言わぬが花ですぜ。
「こらこら、やめろって。シャルルが困ってるだろうが。それにさっきからケガ人のくせに体を動かしすぎだぞ。ホレ」
弟くんが鈴ちゃんとオルコットさんの肩を指でつつく。
「「ぴぐっ!」」
れっと。っていいうキャラがいたな。
「……………」
「……………」
「あ……すまん。そんなに痛いとは思わなかった。悪い」
俺は、どうなっても知らないよ?
「い、い、いちかぁ……あんたねぇ……」
「あ、あと、で……おぼえていらっしゃい……」
織斑一夏、享年16歳。死亡原因、同級生による暴行。ちーん、合掌。
「唯依ちゃん、俺と組んでください!」
部屋に戻った俺は開口一番、例の告知文を手に頭を下げる。
「なんですか、一体」
あれ?唯依ちゃんは知らないのかな?
「学年別トーナメントがふたり組になったから唯依ちゃんと組もうと」
「それくらいは知っています。でも、冬夜はもう組んでいるのでしょう?」
へ?初耳なんですけど……。
「一年の子が言っていました。『私は白崎君と組むことになったから、今回は諦めてね。まあ、実力的に私と組むのが正解だし』と」
誰だよっ!?
「あれだけ好き好きと言っておきながら……」
「ちょ、ちょっと、待った!俺そんな話知らないんだけどっ!?」
「言い訳は結構です」
そっぽ向かないでよ……。
「なんて、冗談です。冬夜が私を裏切るようなことをしないことくらいわかってます。だから、そんな顔をしないでください」
じょ、冗談……?
「ほ、ほんと?」
「ええ。実際にそう言ってきた子はいましたが逆に『あなたが何を言おうが関係ありません。冬夜は私と組むと信じていますから』と言い返してやりました」
ゆ、唯依ちゃん……。
「ですから、先ほどの組んでほしいという件、お受けしま──冬夜っ!?」
こんな可愛い唯依ちゃんを前に我慢できません!その場からジャンプした俺は唯依ちゃんに一直線!──の筈だった。
ドゴッ!!
体重の乗った非常に重い拳が顔にめり込んで気絶──ごはぁっ!?