唯依ちゃん好きのIS学園記   作:ニーベルングの指輪

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作戦失敗

「たっ、た、大変です!お、おお、織斑先生っ!」

 

山田先生の尋常じゃない慌てぶりがことの重大さを伝えてくれる。

「どうした?」

「こ、こっ、これをっ!」

 

渡された小型端末の画面を見てちーちゃんの表情が曇る。

「特命任務レベルA、現時刻より対策をはじめられたし……」

「そ、それが、その、ハワイ沖で試験稼働をしていた──」

「しっ。機密事項を口にするな。生徒たちに聞こえる」

「す、すみませんっ……」

「専用機持ちは?」

「ひ、ひとり欠席していますが、それ以外は」

 

うん。ハワイ沖で試験稼働っていうと激しく嫌な予感がする。

「そ、そ、それでは、私は他の先生たちにも連絡してきますのでっ」

「了解した。──全員、注目!」

 

山田先生が走り去った後、ちーちゃんはパンパンと手を叩いて生徒全員を振り向かせる。

「現時刻よりIS学園教員は特殊任務行動へと移る。今日のテスト稼働は中止。各班、ISを片付けて旅館へ戻れ。連絡があるまで各自室内待機すること。以上だ!」

「冬夜、いったい何事ですか!?」

「大丈夫。唯依ちゃんは落ち着いて旅館で待ってて」

「……また、私は……」

 

唯依ちゃんが何かつぶやいたみたいだけど今はそれどころじゃない。さっき確認してみたけど、どうやら嫌な予感が当たったみたいだ。

「専用機持ちは全員集合しろ!白崎、織斑、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰!──それと篠ノ之も来い」

「はい!」

 

妙に返事に気合いが入ってるけど逆にそれが俺の不安を募らせる。

(大丈夫だよな……?)

 

 

「では、現状を説明する」

 

旅館の一番奥に設けられた宴会用の大座敷・風花の間では、俺たち専用機持ち全員と教師陣が集められた。

証明を落とした薄暗い室内に、ぼうっと大型の空中投影ディスプレイが浮かんでいる。

「二時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型の軍用IS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が制御下を離れて暴走。監視空域より離脱したとの連絡があった」

 

弟くんと箒ちゃんはわかってないけど正直状況はけっこう最悪だ。

「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから二キロ先の空域を通過することがわかった。時間にして五十分後。学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処することとなった」

 

ちーちゃんは淡々と続ける。そして次の言葉は予想通りのものだった。

「教員は学園の訓練機を使用して空域及び海域の閉鎖を行う。よって本作戦の要は専用機持ちに担当してもらう」

 

軍用ISの制圧。正直このメンツでは不安要素が多いな……。

「それでは作戦会議を始める。意見があるものは挙手するように」

「はい」

 

手を挙げたのはセシリアさん。

「目標ISの詳細なスペックデータを要求します」

「わかった。ただし、これらは二カ国の最重要軍事機密だ。けして口外するな。情報が漏洩した場合、諸君には査問委員会による裁判と最低でも二年の監視がつけられる」

「了解しました」

 

データが開示される。

「広域殲滅を目的とした特殊射撃型……わたくしのISと同じく、オールレンジ攻撃を行えるようですわね」

「火力は比較にならないけどね。機動性も中々だな」

「攻撃と機動の両方を特化した機体ね。厄介だわ。しかもスペック上ではあたしの甲龍を上回ってるから、向こうの方が有利……」

「問題は何よりこの三六門の特殊武装『銀の鐘(シルバー・ベル)』だな。いくら固い機体でも連続防御は難しいだろう」

「しかも、このデータでは格闘性能が未知数だ。持っているスキルもわからん。偵察は行えないのですか?」

 

それぞれが真剣に意見を交わす。

「無理だな。この機体は現在も超音速飛行を続けている。最高速度はニ四五○キロを超えるとある。アプローチは一回が限界だろう」

「一回きりのチャンス……ということはやはり、一撃必殺の攻撃力を持った機体で当たるのしかありませんね」

 

一撃必殺の攻撃力といったら……。

「え……?」

「一夏、あんたの零落白夜で落とすのよ」

「それしかありませんわね。ただ、問題は──」

「どうやって一夏をそこまで運ぶか、だね。エネルギーは全部攻撃に使わないと難しいだろうから、移動をどうするか」

「しかも目標に追いつける速度が出せるISでなければいけないな。超高感度のハイパーセンサーも必要だろう」

「ちょっ、ちょっと待ってくれ!お、おれが行くのか!?」

「「「「当然」」」」

 

四人の声が見事に重なった。

「弟くん、これは実戦だ。覚悟がないなら、無理強いはしない」

「やる。俺が、やってみせる」

「よし、それでは作戦の具体的な内容に入る。現在、この専用機持ちの中で最高速度が出せる機体はどれだ?」

「『F-15・ACTV アクティブ・イーグル』だな」

「白崎、超音速下での戦闘訓練時間は?」

「確認の必要ある?」

「そうだったな……。ならば適任──」

 

だな、と言おうとしたちーちゃんを、いきなり底抜けに明るい声が遮る。

「待った待ーった。その作戦はちょっと待ったなんだよ〜!」

 

しかも、声の発生源は天井からだ。全員が見上げると、部屋のど真ん中の天井から束ちゃんの首が逆さまに生えていた。

「……山田先生、室外への強制退去を」

「えっ!?は、はいっ。あの、篠ノ之博士、とりあえず降りてきてください……」

「とうっ★」

 

くるりんと空中で一回転して着地。

「ちーちゃん、ちーちゃん。もっといい作戦が私の頭の中にナウ・プリンティング!」

「……出て行け」

 

この状況でこのテンション。頭が痛くなりそう。

「聞いて聞いて!ふーくんには悪いけどここは断・然!紅椿の出番なんだよっ!」

「なに?」

「ああ、確かに紅椿なら俺のよりもスピードは出るな」

「そうなんだよ!さすがふーくん!紅椿の展開装甲を調整して、ほいほいほいっと。ホラ!これでスピードはばっちり!」

 

本当、全身の展開装甲だなんてやりすぎだよ。

「説明しましょ〜そうしましょ〜。展開装甲というのはだね、この天才の束さんが作った第四世代型ISの装備なんだよー」

 

はあ……。各国IS開発陣が可哀想に思えてきた。

「はーい、ここで心優しい束さんの解説開始〜。いっくんのためにね。へへん、嬉しいかい?まず、第一世代というのは………。はい、いっくん理解できました?先生は優秀な子が大好きです」

 

 

そんな感じで話は進み、作戦の最終的な確認になった。

「よし。では本作戦では、織斑・篠ノ之による目標の追跡及び撃墜を目的とする。作戦開始は三○分後。各員、ただちに準備にかかれ」

 

ぱん、とちーちゃんが手を叩く。それを皮切りに各々が行動に移る。

「ええと、俺は何をしたら……?」

「とりあえず、肩の力を抜いて。それからセシリアさんに高速戦闘のレクチャーを受けておきなよ」

「お、おう」

 

しかし、どうも嫌な予感が拭えないな。

「しら──いや、冬夜」

 

珍しくちーちゃんが名前で呼んでくる。

「どうしたの?」

「いや、なんでもない。気にするな」

 

やっぱりちーちゃんもか……

「なるようになるさ。今は2人を信じよう」

「ああ……」

 

 

時刻は十一時半。

七月の空はこれでもかとばかりに晴れ渡り、容赦のない陽光が降り注いでいる。

「来い、白式」

「行くぞ、紅椿」

「じゃあ、箒。よろしく頼む」

「本来なら女の上に男が乗るなど私のプライドが許さないが、今回だけは特別だぞ」

 

作戦の性質上、移動のすべてを箒ちゃんが担うことになるので、弟くんは背中に乗る形になった。

(しかし、これはマズイな……)

「それにしても、たまたま私たちがいたことが幸いしたな。私と一夏が力を合わせればできないことなどない。そうだろう?」

「ああ、そうだな。でも箒、先生たちも言ってたけどこれは訓練じゃないんだ。実戦では何が起きるかわからない。十分に注意して──」

「無論、わかっているさ。ふふ、どうした?怖いのか?」

 

 

『織斑、篠ノ之、聞こえるか?』

 

ISのオープンチャンネルからちーちゃんの声が聞こえる。

『今回の作戦の要は一撃必殺(ワンアプローチ・ワンダウン)だ。短時間での決着を心がけろ。万が一、失敗した場合は白崎に任せて即時撤退しろ』

「了解」

「織斑先生、私は状況に応じて一夏のサポートをすればよろしいですか?」

『そうだな。だが、無理はするな。お前はその専用機をつかいはじめてからの実戦経験は皆無だ。突然、なにかしらの問題が出るとも限らない。白崎もいることだ極力無理は避けろ」

「わかりました。できる範囲で支援します」

 

箒ちゃん、どうみても浮かれてるよ。

『──織斑』

「は、はい」

 

今度はプライベートチャンネルでちーちゃんが弟くんに話しかける。

『篠ノ之はどうも浮かれているな。あんな状態ではなにかをし損じるやもしれん。いざというときはサポートしてやれ』

「わかりました。ちゃんと意識しておきます」

『頼むぞ』

 

また、ちーちゃんの声がオープンに切り替わり、号令をかけた。

『では、はじめ!』

 

二人が白と紅をまとい、福音へと向かっていく。

(どうか、何事もなく終わってくれ……)

 

 

 

だが、そんな願いも虚しく作戦は密漁船を庇い零落白夜のエネルギー切れ及び箒ちゃんを庇って弟くんが意識不明となり、失敗した……。

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