夏の始まりと一夏ちゃん
八月、IS学園は遅めの夏休みを迎えた。
夏休み初日といえば遅くまで惰眠を貪ったりしたいものだが、IS学園の学生寮には朝早く、悲鳴が響いた。
「な、なんじゃこりゃぁぁぁぁああ!!!」
声の主はこの学園の二人しかいない男子生徒の一人である『織斑 一夏』。俺の幼なじみの弟だ。
そして、俺は弟くんの悲鳴を聞いて湧き上がる笑いを必死にこらえている。
「くっ……ふふっ……」
おおっと、たまらず笑い声が漏れてしまった。もうそろそろ、来るだろうから普段と同じ顔で迎えなくては。
ドドドドッ!
足音がだんだんと近づいてきて、扉が勢いよく開かれる。
「冬夜兄ぃ!」
「どうかした?
扉の前に立っているのはいつもと違う、弟くん。いや、妹ちゃんかな?
「やっぱり、冬夜兄ぃの仕業か……。今すぐ、元に戻せ!」
織斑一夏であることに違いはないがその体には、男にはあるはずのない膨らみがあり、短かった髪も肩甲骨あたりまで伸びていている。そして顔もいつものイケメンフェイスではなく、一般に可愛いとされる女の子の顔に変わっている。
「いやー、これほど似合うとは。いっそのこと女の子として生活してみるのも一興じゃね?」
「ふ・ざ・け・る・なっ!」
胸ぐらをつかんで揺すられるが女の子である一夏ちゃんの力ではそんなに問題はない。
「ほらほら、女の子がそんな口の利き方をしちゃいけないだろ?」
ついでにどのくらい胸があるのか服をめくってみる。
ほう、なかなか。
「ん〜……。朝から何を騒いでるんで……何をしているんですか、冬夜」
唯依ちゃんの声が聞こえたので、顔を向けると唯依ちゃんがものすごく蔑んだ目で俺を見ている。それはそれで、興奮するんだけど、はて?何かしたかな?
「どうしたの?」
「自分が一番わかってるはずですが、もしかして冬夜のしている変態的な行為を私に説明させるつもりですか?」
変態的な行為?俺はただ一夏ちゃんの胸をかくに………っ!?
「これは違っ、そういうのじゃなくて!この子は弟くんだから!ほら、弟くんも何か言ってよ!」
「うぅ……。嫌って言ったのに、無理矢理……」
こいつ……!
「いつまで、めくり上げているつもりですか?」
「あっ!いや、これはっ!」
慌てて弟くんの服をはなす。
おい、そこで泣くふりをするな!
「取り敢えず、着替えますので冬夜は、外で正座してて下さい」
「べ、弁明をっ!」
「結構です」
くそーーーっ!
しかし、予定は狂ったけど、唯依ちゃんからの入室の許可が出るまでの間に一夏LOVERsとちーちゃんを呼んでおくか。
数分経ち、一夏LOVERsとちーちゃんが集まった。
「冬夜さん、どうして廊下で正座なんてしているんですの?」
「アンタ、一体何したのよ」
「白崎、自白すれば罰を軽くしてやろう」
この信用のなさ、酷すぎない?
「いや、弟くんで実験したら唯依ちゃんに勘違いされて罰の正座中です。この後、お話しすることになってる」
「一夏で実験って、何したの?」
シャルロットくん、よくぞ聞いてくれた。が、それは見てからのお楽しみだよ。
「まあ、見ればわかるよ」
そして、唯依ちゃんから入室の許可が出る。
「冬夜、取り敢えず入っていいですよ。それと、何故みなさんが?」
「俺が呼んだんだよ。色々と説明することがあるから。それと、唯依ちゃんは勘違いしてるからね?」
「言い訳は中で聞きます。織斑先生もいらっしゃるなら一緒にどうぞ」
「ああ、失礼する」
部屋に入るとチーちゃんを見た弟くんが驚きの声をあげる。
「ち、千冬姉!?」
「私はお前のような妹を持った覚えはないぞ? そもそもお前は誰だ。お前のような生徒はいなかったはずだが」
「俺は──」
「その子は弟くんだよ。ちょっと、新薬の実験で女の子になってもらったわけ」
「「…………は?」」
「ネタバレも済んだし次は説明かな。それじゃあ、みんな入ってきて」
部屋の外で待ってる一夏LOVERsを部屋の中に呼ぶ。
さあ、驚嘆の声をあげるがいい!
「なんなのだ、一体。私には嫁と過ごすという大事な予定が……」
「全くですわ、わたくしも一夏さんと夏休みの予定について……」
部屋に入った一夏LOVERsは部屋にいるどことなく弟くんに似ている
「い、一夏なのか……? いや、しかし……」
「一夏に妹なんかいないわよ……ね?」
「その子は紛れもなく
思いの外、完璧に女子になってるから自分でも驚きだね。
「ぶい☆じゃなくて、元に戻せ!」
「まあまあ、いいじゃないか。アトラクション的なものだと思って楽しんでよ。明日には治ってるから」
「明日までどうやって過ごせっていうんだよ!」
「それは、ほら。君にはこんなに可愛い子たちがたくさんいるんだから大丈夫でしょ。さて、唯依ちゃん。俺が弟くんの服をまくって胸を見てたのは真っ平らなのがどの程度になるのかの科学的な確認でいやらしい気持ちはこれぽっちもなかったんだよ? 第一、目の前に至高の胸である唯依ちゃんのオッパイ、固有名詞『ゆいパイ』があるのに他の胸に浮気なんてありえないし」
文部科学省に頼んで辞書に追加してもらおうかな。
「とりあえず、誤解?だったことは認めます。そして、いろいろと突っ込みたいところですが、とりあえず恥ずかしい固有名詞を作らないでくれますか」
「それは却下だね。唯依ちゃんのオッパイと他の胸を一緒にするなんて。俺は巌谷さんにおっパブに誘われても『唯依ちゃん以上のオッパイはありません』って断る男だよ?」
「……………」
あっ……。これ内緒だった……。ま、まあ、この状況だし、仕方ないよね……?うん、仕方ない。
そして、黙っていた唯依ちゃんは無言で携帯を取り出すとどこかへ電話をかける。
「もしもし、唯依です。……ええ。それと、巌谷のおじさま。明日から、そちらへ帰るのですが、大事な話がありますので逃げないでくださいね。逃げたら……わかっているのなら結構です。はい、それでは失礼します」
ハイライトの消えた目をした唯依ちゃんから発声られるいつもより数段低い声。正直に言おう。ちょー怖い。
(これは、完全に怒ってるな……。巌谷さん、生き残れたらまた会いましょう)
「と、とりあえず、一夏ちゃんは明日には一夏くんに戻るから安心していいよ。それまではみんなにお願いしておくね」
「ま、まあ、冬夜がそういうなら、仕方ないな。うん」
「そ、そうね。一夏が変なことしないように見張ってないとだもんね」
「まったくその通りですわね」
「うん、実にいい案だ」
「そ、そういうことなら、仕方ないよね」
五人が納得するなか、ちーちゃんがため息をつく。
「はぁ。まったく、お前といい束といい、どうして問題ばかり起こすんだ」
「そう言わないでよ。コレあげるからさ」
ちーちゃんに耳打ちしてある薬を握らせる。
「なんだ、コレは」
「若返り薬。ただし、使えるのは弟くんにだけ。ちーちゃんならもうわかるよね?」
そう、コレはショタ一夏化のための薬。たまにはちーちゃんも楽しませてあげないと。
「ショタ化中は今の記憶はなくなって精神も昔に戻るから家で二人きりの時とかに使うといいよ」
「ま、まあ、今回は大目に見てやろ」
ちーちゃん、陥落。
さて、唯依ちゃんの誤解も解けたし、説明も終わったし、一件落着かな。
「冬夜」
「ん?なに?」
唯依ちゃんに呼ばれて振り返る。
「今回の件はこれで終わりですが、人の体で実験をするのは良くないと思います。今後は慎んでくださいね? 私もこんなことで冬夜を嫌いたくありませんから」
可愛い唯依ちゃんにそんなこと言われたら、逆らえないじゃないか。
「うん、わかった」