「さてと、二人ともそろそろ喧嘩はやめて一緒に宇治金時でも食べよう」
肩で息をするほどヒートアップしてきた二人をなだめて注文しておいた宇治金時を渡す。
「まあ、トウヤがそういうならそうするわ」
「そうですね。休憩の為に寄ったのに余計に疲れてしまっては本末転倒ですし」
「そうそう。俺の為に争ってくれるのは嬉しいけど、二人に仲良くしてほしいしね」
しかしなんというか、この一夏LOVERsに劣るとも勝らない美少女二人が俺を取り合うという状況は男冥利につきる。
いや、しかし俺には唯依ちゃんという心に決めた女の子がっ!
「別にトウヤの為じゃないわよ?」
「私も別に冬夜の為ではありませんよ?」
……へ?
「私はこの方の『牛乳女』とか『だらしない体』を訂正して欲しかっただけです」
「私もそうよ。この女にトウヤが誰のもの理解させたかっただけ」
ということは、俺の勘違い……?
「あれ? もしかして、女の子二人が自分を取り合ってくれて男冥利につきるとか思ってたの?」
「冬夜は、そんな自意識過剰みたいなことしません! ねっ、冬夜」
「あ、あの、二人ともそろそろ……」
──────
「あれぇ〜、もしかして……」
「冬夜、まさか……」
「うわぁぁああ!やめてくれ〜!」
恥ずかしさで、死ぬぅっ!
もにゅっ!
恥ずかしさのあまり手をバタつかせると何やら柔らかいものに当たる。
「は……? もにゅ? 何この手に吸い付くような柔らかで触るだけで幸福感に満たされる物体は」
「何をするんですかぁぁぁっ!」
ゴスッ!!!
「ごはぁっ!?」
突然顔面に痛みが走り目が覚める。
ん? 目が……覚める?
「い、いきなり、胸を掴むなんて何を考えているんですか!」
「トウヤ、そんなに触りたいなら私の触らせてあげよっか?」
えーと……。
「もしかして寝てた?」
「寝てたと言うよりは倒れた方が近いかもしれませんね。私を膝に乗せた後、少ししてから私を抱えたままバタンといきましたので」
はぁー、良かった。夢オチで。
「いやぁ、ごめんね。心配かけちゃって。……自分で思ってるより疲れてるのかもな。気を付けないと……」
「ほんとですよ。熱射病だったらどうしようと……」
「まあ、気持ち良さそうに寝てるだけだったからそのまま寝かせてあげることになったんだけどね。それよりも、トウヤが起きたんなら早く膝枕やめなさいよ。私もしたいのを我慢してるんだから」
何ぃ! 唯依ちゃんの膝枕だとぉ!
さっきから後頭部に感じる幸福感はそれかだったのか! そうとわかれば一八○度回転!
「唯依ちゃんの太もも、はあはあ♡」
「きゃぁぁぁああ!」
このすべすべの肌、頰ずりが止まらないぜ!唯依ちゃんの太もも最高!ヒャッハァァッ!
「私の前で、他の女にセクハラとはいい度胸ね。ふんっ!」
「え……? ぐはっ!?」
ガシッ! ポイッ! ズガァンッ!
今起こったことを擬音だけで表すとこんな感じ。
「痛いな、亦菲! いきなり投げることないじゃない!」
「投げられて当然です! あんな変態的なことするなんて信じられません! もう二度と、冬夜に膝枕なんかしてあげませんからね!」
ちょっ! それは困る。ひじょーに困る。卒業して結婚したら唯依ちゃんに膝枕してもらいながらマイホームの縁側で昼寝するという俺のささやかな夢が実現しなくなってしまう!
ええい、ならばこの技でもって許してもらう他あるまい。
見よ、我が必殺の──
「すいませんでしたー!」
ジャンピング土下座をっ!
「ぜっっっったいに許しません!」
そ、そんなぁ……。
「おやおや、こんな往来で騒ぐなんて武家の娘にあるまじき行為ですね」
「あなたは……」
いきなり話しかけてきた男の顔を見るなり唯依ちゃんの表情が曇る。
「あんた、誰だよ」
「おお、これは申し遅れました。私、篁唯依さんの未来の夫である『暮幸 雪平』と申します」
未来の夫……?
「そのお話はお断りしましたし、話自体もなくなったはずです。これ以上、その話をするなら警察に訴えますよ」
「おお、これは失礼を。あなたの心を手に入れる前に夫にはと名乗るのはいささか早かったですね。いずれそうなるとしても過程は大事ですものね」
こいつが誰かは知らないが、ただ一つ言えることは、俺はこいつが嫌いだ。
「誰かは知らないが、これ以上は変質者として通報させてもらう。その前に失せろ」
「私もあなたがどこの誰かは知りませんが初対面の人間に失せろとは。いやはや、躾のできていない男ですね。さすがは人の妻となるべき女に手を出す傲岸不遜な精神の持ち主だ」
イラッ。
「貴様……」
「おおっと、もうこんな時間か。唯依さん。では、いずれまた。近いうちに会うかもしれませんね」
暮幸はそう言うとその場から去って行った。
「ねぇ、唯依ちゃん。あいつが言ってたことって……」
「以前、彼の家からお見合いを申し込まれたことがあったんですよ。彼の家はこの辺りでは有名な家でして断れなくて形だけはお受けしたんですよ。もちろん縁談はお断りしましたが、彼と彼の家は諦めてはくれなかったようですね……」
粘着体質ときたか。また厄介な……。
「皆さん、ごめんなさい。私の個人的な事情で不快な思いを……」
「気にしなくていいわ。どこにいてもあの手の輩はいるもんだしね」
「私の場合はラトロワ中佐が守ってくれましたけど、唯依さんにはトウヤお兄ちゃんがいますから安心です」
そうそう。俺がいる限り、唯依ちゃんに近づく馬の骨どもは滅ぼす。
「そうですね。冬夜がいますもんね」
「おう。任せといて、唯依ちゃん」
「はいっ!」