「(いい、いかん! 落ち着くんだ俺!)」
あの後、ラトロワ中佐に事の巻末を説明(何故か、ペンチや注射器が用意された部屋で。マジ、おそロシア)し終えた俺は、半強制的に唯依ちゃんとの混浴タイムへと突入しようとしていた。
「(そうだ、こういう時は円周率を数えてれば! 3.14159265……)」
「し、失礼します」
「ひゃ、ひゃい! どうぞ!」
くっそ! 唯依ちゃんの前で間抜けな声がっ!
「その、我が儘を聞いていただきありがとうございます」
「い、いや、我が儘じゃないよ! むしろご褒美だと思うかな!?」
「今回は、その、お話がありまして」
お話? はっ。もしかして!
「な、何かな!? このままベッドインなら俺は嬉しいけど、それはまだ早い気がするんだけど!? いや、俺的には全然オッケーなわけで……」
「真面目な話です」
「はい……」
ぴとっ……と、俺の背中に唯依ちゃんの手が触れる。
「ゆ、唯依ちゃ──」
そのまま手は俺を抱きしめる。背中に唯依ちゃんの体が密着して、俺の心臓は口から飛び出しそうなくらい跳ね上がる。
「一人でなんでも済まそうとしないで下さい。私にも、冬夜を守らせて下さい」
「な、なんのことかな?」
「今回の件、敵にとって私は冬夜を釣るための囮だったんですよね。だから、冬夜はわざわざ私に変装してまで」
全部お見通しか……。
「私と冬夜はこれから何十年もずっと一緒なんですから、一人で背負いこまないで私にも背負わせて下さい」
「ごめん。それは、できない。俺は君を守りたいから。それに、これが俺が裕唯さんに返せる唯一のことだから」
「私だって同じですよ。私も冬夜を守りたいんです。どちらか一方だけが守られるんじゃなくてお互いを守り合う関係になりましょう。それに私だって父様から冬夜を任されてるんですよ?」
なにそれ、初耳なんですけど……。
「『あの子はきっとお前を守るためなら命だって易々とかけるだろう。だから、唯依。君を守るために命をかけるあの子を君も守ってあげなさい。唯依と冬夜くんは二人で一人なのだから』と」
あの人には、勝てないなぁ。
「そうだね。一方通行の関係は壊れやすいって言うしね。これからはそうしよっか」
「ありがとうございます」
「なら、そろそろかな〜」
「何がですか?」
「唯依ちゃんの専用機」
「へ……?」
おお、驚いてる驚いてる。その顔、心の画像フォルダに保存っと。
「いずれは唯依ちゃんにも必要になるものだし、前々から準備はしてたんだよ。コアはもう完成してるし、後は機体を組み上げるだけ」
「専用機ですか?」
「そう。新規製造のコアを使った唯依ちゃんだけのIS」
「ちょ、ちょっと、待ってください! そんな簡単に専用機なんていいんですか!?」
「いいんじゃね?」
「そんな、適当な……」
「いいんだって。製作者が良いって言ってるんだからオッケーだって」
唯依ちゃんなら、大丈夫でしょ。それに俺なんて、束ちゃんに比べたら可愛いもんでしょ。
「というわけで、IS学園に戻ったら色々と忙しくなるので明日は目一杯楽しもう!」
さて、言うこと言い切ったしもういいかな? 正直なところ、もう我慢できません! さっきから背中に当たるマシュマロのような柔らかさを持ちつつ十代特有の張りのある唯依ちゃんのおっぱい! そして、その中心にある●首!
「ぶほぉ!!」
「きゃああ!?」
あ、貧血で意識が……………。
「ちょっと! しっかりしてください!」
………………………………。
う、う〜ん。興奮で火照った体に夜風が当たって気持ちいい〜。
「起きましたか」
「あ、あれ? お風呂にいたはずじゃ……」
「冬夜の鼻血でお湯が血の池になってしまったので」
「面目ない」
でももう一回鼻血噴きそうです。だって目が覚めて最初に目にしたのが月明かりに照らされながら夜風に髪をなびかせて浴衣唯依ちゃんなんて、ヤバイすぎる。
「冬夜、明日はお祭りがあるようですよ。今年はまだ一緒に行けてませんし、どうです?」
「もちろん行くよ」
唯依ちゃんと浴衣デートかぁ。夢が一つ叶ったな。
翌日の夜。お互い浴衣に着替えた俺と唯依ちゃんの前には見知った顔が二つあった。
「で、なんであなた方がいるんですか?」
「アンタだけトウヤと夏祭りデートなんてさせると思う?」
「私も中尉も日本のお祭りは初めてですので折角ならトウヤお兄ちゃんと、と思いまして」
「そうですか。 はぁ……」
大体の予想はついてたけどさ。やっぱりこの夏はこうなるみたいだね。
「さぁー、休暇最後のイベント。夏祭りを楽しむわよぉ〜。まずは……」
まあ、浴衣美少女三人と夏祭りなのに文句言ったら罰が当たるよね。
三人でお祭りを回ることになり、金魚すくい、スクラッチアウトなどど色々回って射的をしようと射的屋へと向かった俺たち一行は二回驚かされることになった。
まず一つ、夏祭りの射的のくせにガチ過ぎること。何だよ、二キロ先の的を撃ちぬけって。商品取らせるつもりねぇだろ……。
そして二つ目は、何とそのキチガイ射的の景品を全部掻っ攫った少女がいたことだ。首に大きな鈴を付けた猫のような雰囲気の少女は渡された銃を手に楽々と的を撃ち抜いていった。ふざけるのはその物理法則を無視した髪型だけにしておいてくれ……。
「ありえねえだろ」
「あの子に実銃もたせたらどうなるのかしらね」
「多分、世界最高レベルではないかと」
あの物理法則を無視した髪型もそうだが、なんだよあの射撃。もしや、俺が知らないだけで高名なスナイパーなのか!? そして、一緒にいたあの男と周りの女子も何かしらの軍関係者なのか!?
「それにしてもあの女の子、凄かったですね。景品全部持って行くもんだから射的屋のおじさん、顔真っ青でしたもんね」
唯依ちゃんはなにもわからないみたいだからいいけど、俺は自信をなくしたよ。あの射撃を見たら俺の射撃なんて……。
「俺、元軍人なのに……あんな少女に負けた……」
「私達なんて現役ですよ……」
「「「はぁ……」」」
「えーと、皆さんが何で落ち込んでいるかわかりませんがとりあえず元気出して下さい。ほら、花火始まりますよ?」
ドーーーーーーン!!
打ち上げれる花火は本当に綺麗で少女に射撃負けた俺たちの心を癒してくれた。
「そうそう、忘れるところだったわ」
花火も終わり、そろそろ帰ろうとなった時。
「トウヤ少佐、お話が」
「わかった。唯依ちゃん、すぐ戻るからちょっと待ってて」
「? はい」
亦菲とターシャたんに呼ばれて唯依ちゃんから少し離れて木陰へと移動する。
「もうわかってると思うけど連中の動きが最近怪しくなってきてるわ」
「近々、何かしらの行動を起こすかもしれません」
「わかってる。説明した通り、あの一件も連中──『亡国企業』が絡んでたしね」
俺は、唯依ちゃんと楽しく学園生活を送りたいんだけどそうもいかないのかなぁ。
「あそこは国連も干渉できないから『オリムラ イチカ』とトウヤが狙われているということは覚えておいて」
「了解、二人も気をつけてね。イギリスとアメリカ、二つの大国からあいつらはISを強奪できるだけの力はあるみたいだし」
「ご心配、ありがとうございます」
「私も大丈夫よ」
「「私たちはトウヤ/トウヤお兄ちゃんに鍛えてもらったパイロットだから」」
「そっか。では──ナスターシャ大尉並びに亦菲中尉、此度の護衛ご苦労であった」
「「はっ! 元少佐もお元気で」」
久方ぶりに軍人ぽい別れを告げて唯依ちゃんの元へと戻る。
「なに話してたんですか?」
「元気でねって」
「そうですか」
これにて夏休み帰省編は終了です。