唯依ちゃんとの訓練の翌日。SHRと一限目の半分を使っての全校集会が行われた。内容は今月半ばにある学園祭についてだ。
(わかってはいたが、女子が多いな……)
女子の集まりというのはそれだけで騒がしい。というか姦しい。
「それでは、生徒会長から説明させていただきます」
生徒会役員が静かに告げる。その声で、ざわつきがさーっと引き潮のように消えた。
「やあみんな。おはよう」
…………どこかで、見たことあるような気がする。
「さてさて、今年は色々と立て込んでてちゃんとした挨拶がまだだったね。私の名前は更識楯無。君たち生徒の長よ。以後、よろしく」
ああーーー! 思い出した!! 日本の対暗部用暗部の更識家当主にしてロシアの国家代表じゃん!
「では、今月の一大イベント学園祭だけど、今回に限り特別ルールを導入するわ。その内容というのは」
一度は会っておこうと思ってたのに唯依ちゃんとの再会が嬉しすぎて完全に忘れたわ。てか、この学園の生徒会長やってたんすか。まあ、実力的に妥当だとは思うけど。
「名付けて『各部対抗織斑一夏争奪戦』!」
てか、話聞いてなかったんだけど、なんでディスプレイに弟くんの写真がデカデカと出てるんだ?
「ええええええええ〜〜〜〜〜〜っ!?」
「静かに。学園祭では毎年各部活動ごとの催し物を出し、それに対して投票を行って、上位組は部費に特別助成金が出る仕組みでした。しかし、今回はそれではつまらないと思い──」
やはり、弟くんはパンダだな。
「織斑一夏を、一位の部活動に強制入部させましょう!」
今度、パンダの着ぐるみでも贈ってやるか。
「うおおおおおおっ!」
「素晴らしい、素晴らしいわ会長!」
「こうなったら、やってやる……やぁぁぁってやるわ!」
「今日からすぐに準備を始めるわよ! 秋季大会? ほっとけ、あんなん!」
秋季大会をあんなん呼ばわりするほど嬉しいのか……。
ポジションはマネージャーってとこか。オカン系男子マネージャー……新たなジャンルの先駆者になりそうだな。
「というか、俺の了承とか無いぞ……」
「部活に入ってなかった自分が悪いと諦めなよ」
「そういう冬夜兄ぃも入ってないじゃないか」
「俺は『唯依ちゃんとイチャラブする部』に所属してるから問題ない」
そういうと弟くんが諦めたような顔をするがまあ、放置でいいだろう。
「よしよしよしっ、盛り上がってきたぁぁ!」
「今日の放課後から集会するわよ! 意見の出し合いで多数決取るから!」
「最高で一位、最低でも一位よ!」
そして、一度火が付いた女子の群れは止まらない。
かくして、全校生徒による弟くんの争奪戦がはじまったのだった。
同日、教室にて放課後の特別HR。議題はクラスの出し物についてだ。
「えーと……」
代表として意見をまとめる役にある弟くんが情けなくも困惑しているが今回ばかりは仕方ないだろう。なぜなら──
(出た案が『織斑一夏&白崎冬夜のホストクラブ』『織斑一夏or白崎冬夜とツイスター』『織斑一夏or白崎冬夜と王様ゲーム』だと!? ひどすぎる……)
「「却下」」
二人揃って拒否すると、えええええー!! と大音量サラウンドでブーイングが響く。
「あ、アホか! 誰が嬉しいんだ、こんなもん!」
「まったくだ。弟くんだけならまだしも」
「私は二人一緒の方が嬉しいわね。断言する!」
「そうだそうだ! 女子を喜ばせる義務を全うせよ!」
「一組男子は共有財産である!」
「他のクラスから色々言われてるんだってば。うちの部の先輩もうるさいし」
「助けると思って!」
「メシア気取りで!」
なんだそれは。
藁にもすがるつもりで視線を動かしても頼みのちーちゃんは『時間がかかりそうだから、私は職員室に戻る。あとで結果報告に来い』と去っていった。なんと、お優しい幼馴染みか。仕方ないから唯依ちゃんでも見て落ち着こう。
「山田先生、ダメですよね? こういうおかしな企画は」
「えっ!? わ、私に振るんですか!?」
マジか……。
「え、えーと……うーん、わ、私はポッキーのなんかいいと思いますよ……?」
まさか、あなたが地雷だったとは。
「とにかくもっと普通の意見をだな!」
「メイド喫茶はどうだ」
そういったのはボーデヴィッヒさんだった。……は?
俺だけでなく、クラスの全員がぽかんとしている。
「客受はいいだろう。それに、飲食店は経費の回収が行える。確か、招待券制で外部からと入れるのだろう? それなら、休憩所おしえの需要も少なからずあるはずだ」
えーと、君ってそんなキャラだったけ? 夏休みに何かあったの?
「え、えーと……みんなはどう思う?」
多数決を取るにしても反応を見なければ仕方ないがクラスの女子全員が予想外のことに反応できていなかった。
「いいんじゃないかな?一夏と冬夜には執事か厨房を担当してもらえばオーケーだよね」
そのシャルロットのボーデヴィッヒさんへの援護射撃は見事ヒットした。
「執事、いい!」
「それでそれで!」
「メイド服はどうする!? 私、演劇部衣装係だから縫えるけど!」
一気に盛り上がるクラス女子一同。
(まあ、さっきまでのに比べれば問題ないか。ただ一つ問題があるとすれば唯依ちゃんのメイド服姿をあの馬鹿にも見られるというところくらいか。それは、今度二人きりの時にスク水ニーソメイドか和服に割烹着の和風メイドでも頼むとして我慢しよう)
「メイド服ならツテがある。執事服も含めて貸してもらえるか聞いてみよう」
ボーデヴィッヒさんにメイド服のツテだと……!?
「──ごほん。シャルロットが、な」
顔を赤らめてボーデヴィッヒさんがシャルロットに降る。
「え、えっと、ラウラ? それって、先月の……?」
「うむ」
「き、訊いてみるだけ訊いてみるけど、無理でも怒らないでね」
そんなに不安げに言わなくても、唯依ちゃんのメイド服が見れるなら俺が私財を投じてもいいから安心したまえ。
かくして、一年一組の出し物はメイド喫茶改め『ご奉仕喫茶』に決まった。