唯依ちゃん好きのIS学園記   作:ニーベルングの指輪

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既視感と成長しない弟くん

 ちーちゃんに出し物の報告へ行くという弟くんと別れた後、そういえば入学してから挨拶していなかったことを思い出した俺は生徒会室へと向かったのは良いんだが……。やはりというか何というか俺を出迎えたのは、かなりの値打ち品であろう重厚な開き戸だった。

 

「さすが特殊国立」

 

 

 若干の緊張を感じながら戸をノックし、中からの反応を待つ。

 

「はい、どなたですか?」

「一年生の白崎です。更識会長にご挨拶をと思いまして」

 

 中からの声にそう答えるときしみの一つも立てずに戸が開き、めがねに三つ編みのまるで秘書のような三年生が出てきた。

 どうでも良いですけど、片手に持ったファイルがよく似合ってますね。

 

「申し訳ありませんが、会長は今席を外しておりまして……。よろしければお待ちになりますか?」

 

 留守か。さて、どうしたものかな。この後、特に用事があるわけでもないから待つ分には問題ないが……。

 

「ふふ、会長ならすぐにお戻りになられると思いますよ。どうぞ、お気になさらず」

「そうですか。なら、お言葉に甘えまして」

 

 そう言って戸をくぐった俺の目に飛び込んできたのは意外な顔だった。

 

「わー……。さきさきだ~……」

 

 べちゃりと顔をテーブルに付け、いつもの六割り増しで眠そうにしている我がクラスのマスコットであるのほほんさんこと『布仏本音』さんだ。

 

「本音、いい加減ちゃんとしなさい。お客様がいらっしゃってるのよ?」

「後少し……。眠……睡眠……」

 

 そこまで言うとのほほんさんは上げかけていた顔を戻してしまった。

 

「もう……」

「あはは、まあ見慣れたものですよ」

「今、お茶を用意しますね」

「ありがとうございます」

 

 三年生がお茶を入れに行こうとした瞬間、戸が開き生徒が二人入ってくる。

 

「おかえりなさい、会長」

「ただいま。あら? そこにいるのは……」

 

更識会長と何故か弟くんだ。

 

「初めまして、更識会長。遅くなりましたがご挨拶をと思いましてお伺いさせてもらいました」

「彼の有名な殿方から挨拶に来てもらえるなんて、おねーさん嬉しいわ~」

 

 口調は軽い感じだけど、自然体のまま心の内を覗いてくるのはさすが更識の人間だな。

 

「あれ? なんで冬夜兄ぃがいるんだ?」

「俺と弟くんが入学してから色々と迷惑がかかってるだろうから一度くらいは挨拶しとこうというわけ」

 

 他にも束ちゃんの件とか。

 

「あらあら。そんなの別に気にしなくても良いのに」

「そういうわけにもいきませんよ。これからもご迷惑をかけてしまうかもしれませんしね。……亡霊とか」

「……そうね」

 

 弟くんには聞こえない声で言った言葉に更識会長の表情が硬くなる。

 更識家の方でも『亡国企業』が動いているという情報を掴んでいるんだろう。

 

 

「詳しい話は又後ほどと言うことで」

 

 ちらりと視線を弟くんの方に流すだけで更識会長は俺の意図を読み取ったらしく話も話題を変えてくれる。

 

「そういえば二人とも虚とは初対面よね? 紹介するわ。彼女は布仏虚。私の幼なじみよ」

 

 お茶の準備を任せた虚さんの紹介をしながら、更識会長は優雅に腕組みをして座席にかける。

 

「ご紹介に預かりました、布仏虚です。いつも妹がお世話になってます」

 

 お茶の準備が終わり、戻ってきた虚さんがカップを配り、注ぎ終えてから一礼をする。

 その仕草は非常に様になっていて、まるでメイド長かのような雰囲気だ。

 

「妹ってのほほんさんのこと?」

「あら、あだ名なんて、仲いいのね」

 

 違うんです、会長。弟くんは女子と仲いいんじゃなくてただの女たらしなんです。

 そうやって親近感を出すことで女子を落とすのが常套手段なんですっ!

 

「あー、いや、その……本名知らないんで……」

「ええ~!?」

 

 がばりっ、とのほほんさんが初めて聞く大きな声で起き上がる。

 というか、クラスメイトの名前を覚えてないなんてひどすぎるだろ……。それで女子からモテモテとか滅び去れイケメン!!。

 

「ひどいっ、ずっと私をあだ名で呼ぶからてっきり好きなんだと思ってた~……」

「いや、その……ごめん」

 

 

 目に見えてしょんぼりとするのほほんさんに頭を下げる弟くんを後でちーちゃんに言い付けてやろうと考えていると、虚さんが口を挟む。

 

「本音、嘘をつくのはやめなさい」

「てひひ、バレた。わかったよー、お姉ちゃん~」

「むかーしから、更識家のお手伝いさんなんだよー。うちは、代々」

「楯無先輩の家ってすごいんですね」

「まあね~」

 

 更識会長が気軽に言ってるから弟くんは気付いてないけど更識蹴っていえばその筋では結構有名なんだぜ?

 しかも『楯無』の名前は当主が引き継ぐ名前。つまり、更識会長は一家のご当主様なんだぜって言っても弟くんにはわからないよなぁ。

 

「ていうか、姉妹で生徒会に?」

「そうよ。生徒会長は道中説明した通り最強でないといけないけど、他のメンバーは定員数になるまで好きに入れていいの。だから、私は幼なじみの二人をね」

 

 信用できる人間で周りを固めた方がやりやすいというのは俺もよくわかる。

 実際昔はそうしてたし。

 

「お嬢様に仕えるのが私どもの仕事ですので」

「あん、お嬢様はやめてよ」

「失礼しました。ついクセで」

 

 そんなやりとりからは更識会長と虚さんの仲が、俺と唯依ちゃん並みに良いことが伝わってくる。

 

「さ、織斑くんに白崎くん、会長も冷めないうちにどうぞ」

「ど、どうも」

「いただきます」

 

 注いでもらったお茶を飲む。

 高価そうなカップに注がれたお茶も高級品で、その優しい香りがたまらない。

 

「本音ちゃん、冷蔵庫からケーキを出してきて」

「はーい。目が覚めた私はすごい仕事のできる子~」

 

 ま、まあ、普段よりは?

 普段よりはといった程度の相変わらずゆっくりとした動作で、怪しい足取りで、のほほんさんがケーキを持ってくる。

 

「おりむー、さきさき、ここはねー。ここのケーキはねー、ちょおちょおちょおちょお~……おいしいんだよー」

 

 そういいながらのほほんさんはまず自分の分を取り出して食べる。

 

「やめなさい、本音。布仏家の常識が疑われるわ」

「だいじょうぶ、だいじょうぶっ。うまうま♪」

「…………」

 

 俺からしてみればいつも通りののほほんさんだが、今日は厳格な姉が同席している。

 ごちっ! と、虚さんがのほほんさんを思いっきりグーで叩いた。

「うええっ……。いたぁ……」

「本音、まだ叩かれたい? ……そう、仕方ないわね」

「まだ何も言ってない~。言ってないよ~」

 

 のほほんさんは涙目になっていたが、俺はその様子をうい笑ってしまう。

 

「ふふ、ははは」

「あ~、さきさき笑うなんてひどいよ~」

「ああ、いや、違うんだ。懐かしくて、ついね」

 

 妹をたしなめる姉か……。本当に懐かしい。

 昔はちーちゃんがよく束ちゃんをちーちゃんが叱ってたっけ。

 三人で遊んでいた時のことを思い出して回想に浸ってる。あの頃は本当に楽しかったなぁ。

 

「はいはい、姉妹仲がいいのはわかったから。お客様の前よ」

「失礼しました」

「し、失礼、しましたぁ……」

 

 そして、更識会長が咳払いをすると、改めて生徒会メンバーの三人が弟くんに向き合う。

 

「一応、最初から説明するわね。一夏くんが部活動に入らないことで色々と苦情が寄せられていてね。

生徒会はキミを何処かに入部させないとまずいことになっちゃったのよ」

「それで学園祭の投票決戦ですか……。あれ、それだと冬夜兄ぃはどうなるんです?」

 

 もっともな疑問を弟くんが口にするがそれにかんしてはあの生徒集会で説明したじゃないか。

 

「言っただろう、俺はもう『唯依ちゃんとイチャラブする部』に所属してるって」

「その話本気だったのかよっ!?」

 

 当然だろう? 俺が唯依ちゃん関連で話してるときはいつだって本気なんだぜ?

 

「まあ、白崎くんの件は置いとくとして、交換条件としてこれから学園祭の間まで私が特別に鍛えてあげましょう。ISも、生身もね」

 

 学園最強の更識会長の個人レッスンか。

 更識会長は唯依ちゃん程ではないけどかなりの美少女だしこれはまた一夏LOVER,sとの間に一悶着ありそうだな。

 

「遠慮します」

 

 ……マジで?

 新たな笑いのネタにほくそ笑んでいる俺の期待を裏切る返答が弟くんの口から放たれる。

 

「そう言わずに。あ、お茶飲んでみて。おいしいから」

「……いただきます」

 

 そう言ってカップに口を付ける弟くん。

 

「おいしいですね、これ」

「虚ちゃんの紅茶は世界一よ。次は、ケーキもどうぞ」

 

 進められるままケーキを食べる弟くんに更識会長はさらに自分の指導を勧める。

 

「そして私の指導もどうぞ」

「いや、だからそれはいいですって。大体、どうして指導してくれるんですか?」

「ん? それは簡単。キミが弱いからだよ」

 

 更識会長の指摘はなにも間違ってはいなかったが弟くんのプライドに触れたようで、弟くんは表情が変わる。

 

「それなりに弱くはないつもりですが」

「ううん、弱いよ。無茶苦茶弱い。だから、ちょっとでもマシになるように私が鍛えてあげようというお話」

 

 なんとまあ、さすがは対暗部用暗部の当主様。人を操るのが上手い。

 事実弟くんは自分で気付かないまま更識会長の手の平で遊ばれてるし。

「じゃあ、勝負しましょう。俺が負けたら従います」

「うん、いいよ」

 

 ……はぁ、弟くん。

 既視感のあるやりとりに心の中でため息をつく俺、今更に嵌められたことに気付いた弟くん、にやりと笑う更識会長。

 そんな感じで生徒会室でのお茶会は幕を閉じた。

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