二月某日。
IS学園学生寮の某所で、女生徒八人がある会議を開こうとしていた。
「それじゃあ、『第一回ドキドキ♡バレンタイン〜私のチョコで気になる彼もメロメロ大作戦〜』の会議を開催します」
司会進行役のIS学園生徒会長──更識楯無の宣言に他の七人が頷く。
「趣旨としては、鈍感唐変木な一夏くんに愛情たっぷりのチョコを渡して私たちの思いに気づいてもらおうって感じかな」
一夏LOVER'sは楯無の発言にそれぞれ感想を漏らす。
「さすがの一夏さんでも、本命チョコを渡せば気づいてくださるはずですわ」
「いや、どうだろうな。私も過去何回も渡してはいるが一夏は全く気付いてくれなかったぞ」
「あたしもそんな感じだったのよね」
「一夏の鈍感ぶりはたまにわざとじゃないかなって思う時があるもんね」
「まったく。私の嫁のくせに鈍い奴だ」
「で、でも、負けたくないから……」
最後の女の子が言い終わると同時に他の七人の視線が集まる。
それに、驚き肩をすくめながら、少女が「なに……?」と不安げに尋ねると、
「いや、アンタはまだ未登場のキャラでしょうが」
「原作では登場済みだが、この物語ではまだだろう」
「そうですわ」
「またしても嫁の周りに女子が……」
「まあまあ、みんな。そう目くじら立てずに、ね?」
「そうそう。せっかくのバレンタインなんだから、メタいこというよりも、甘い話をしましょう。とういうことで、この中で唯一両思いの唯依ちゃんに話を聞いてみようかしら」
「わ、私ですか?」
今まで、無言を貫いていた唯依はいきなり話を振られ、若干動揺してしまう。
しかし、この中で自分だけが思い人である思い人である冬夜と気持ちが通じ合ってると思われたことに頬を緩める。
「まあ、冬夜は織斑くんほど鈍感ではないですから。でも、初めの方の何回かは気付いてもらえなかったんですよ?」
「あら、意外ね。真面目なくせにあなた相手だと変態になる彼のことだからてっきり初めてチョコを渡した時に一緒に食べられたのかと思ってた」
「そ、そんなこと、ありません! 私と冬夜は清い間柄なんです! 卒業して結婚するまでは、そういうことはなしって決めてるんです」
今時珍しすぎるほどのお堅い貞操観念だが、大和撫子を体現した様な唯依だからこそ誰も疑問に思わず、なんとなく納得してしまう。
「でも、実際羨ましいよ。しっかり気持ちに気づいてくれて、ちゃんと待っててくれる男の子なんて」
「そうそう。だからアンタもアイツが時々するセクハラを許してるんでしょ?」
「許してるわけではないですが、信じてますから。それに、冬夜も健全な男子ですし、その……少しは発散させてあげないと暴走されても困りますから」
それにスカートをめくられて下着を見られたり、体を視姦する様に見られるというのも冬夜ならそこまでイヤじゃないと言う唯依に、聞いといてなんだが消化不良を起こしそうになってきた一夏LOVER'sは話題を戻して、どんなチョコをあげるかを話し合う。
そうして、お互いにどんなチョコを作るかが決まり、続いてチョコを渡す順番を決める。
そんな、一夏LOVER'sを見ながら唯依はどんな渡し方が冬夜に一番喜んでもらえるかを考える。
「(冬夜は私が何をしても全力で喜ぶせいで、どんな渡し方が一番嬉しいのかわからないのが困りものですね)」
冬夜にとって唯依がしてくれることの全てが全力で喜ぶことでありそれを隠す必要もないと思っているため、特別なシュチュエーションに毎年頭を悩ませている。そのくせ冬夜はどこから知るのか唯依が喜ぶ事の全てを把握しているせいで、対等な関係を良しとする唯依の心情的には複雑なものがある。
そんな恋する乙女思想全開の唯依と一夏LOVER'sの『第一回ドキドキ♡バレンタイン〜私のチョコで気になる彼もメロメロ大作戦〜』の会議は夜明けまで続くこととなった。