唯依ちゃんの肉じゃがに舌鼓を打った翌日、朝のSHR。面白いことが起こっていた。
「では、一年一組代表は織斑一夏くんに決定です。あ、一繋がりでいい感じですね!」
嬉々として喋る山田先生、大いに盛り上がるクラスの女子たち、ゲスな笑みを弟くんに送る俺。
「先生、質問です」
弟くんが手を挙げて質問する。まあ、当然だろうな。
「はい、織斑くん」
「俺は昨日の試合に全敗したんですが、なんでクラス代表になってるんでしょうか?」
「それは──」
「それはわたくしが辞退したからですわ!」
「それは俺が辞退したからだ」
同時に弟くんに言い放つ。
「まあ、勝負はあなたの負けでしたが、しかしそれは考えてみれば当然のこと。なにせわたくしセシリア・オルコットが相手だったのですから。それは仕方のないことですわ」
事実負けてるから反論できないよね。
「それで、まあ、わたくしも大人げなく怒ったことを反省しまして“一夏さん”にクラス代表を譲ることにしましたわ。やはりIS操縦には実戦が何よりの糧。クラス代表ともなれば戦いには事欠きませんもの」
「俺は単純に面倒くさい。第一、唯依ちゃんとの時間をわざわざ減らすようなことをする訳ないだろ?」
「ちょっ!そんな理由ありかよ!?」
「語るに及ばず。昔から言うだろ、勝てば官軍負ければ賊軍と。負けた弟くんに文句を言う資格はない!」
「ぐぬぬ」
これが勝者の特権というものさ。
「そ、それでですわね」
コホンと咳払いをして、あごに手を当てるオルコットさん。いつもと違うポーズの意味はやはり……。
「わたくしのように優秀かつエレガント、華麗にしてパーフェクトな人間がIS操縦を教えて差し上げれば、それはもうみるみるうちに成長を遂げ──」
バン!机を叩く音が響き、箒ちゃんが立ち上がる。やっぱり一夏LOVERとしては黙っていられないよね。
「あいにくだが、一夏の教官は足りている。私が直接頼まれたからな」
『私が』を強調するあたり、箒ちゃんも可愛いな。殺気立った瞳で睨んでるがオルコットさんは誇らしげに視線を返す。
「あら、あなたはISランクCの篠ノ之さん。Aのわたくしに
何かご用かしら?」
「ら、ランクは関係ない!頼まれたのは私だ。い、一夏がどうしてもと懇願するからだ」
「え、箒ってランクCなのか……?」
「だ、だからランクは関係ないと言っている!」
因みに俺はちーちゃんと同じSランク。まあ、これは割と変動するからあんまり意味ないんだけどね。
「座れ、馬鹿ども」
すたすたと歩いていってオルコットさん、箒ちゃんの頭をばしんと叩く。さすがは世界大会の覇者、凄味が違う。
バシン!
「その得意げな顔はなんだ。やめろ」
弟くんが叩かれた。多分、しょうもないことでも考えてたんだろ。
「お前たちのランクなどゴミだ。私からしたらどれも平等にひよっこだ。まだ殻も破れていない段階で優劣を付けようとするな」
さすがのオルコットさんも反論の余地なしだな。何か言いたそうなのを飲み込んだ。
「代表候補生でも一から勉強してもらうと前に言っただろう。くだらん揉め事は十代の特権だが、あいにく今は私の管轄時間だ。自重しろ」
とても、下着の洗濯も自分でできないちーちゃんには見えない。下着の洗濯もできない?はっ。唯依ちゃんが洗濯できなかったら唯依ちゃんの下着を見放題、触り放題の楽園なんじゃ!?
「唯依ちゃん!」
「何ですか?」
「これからは洗濯できなくなって!」
「は?」
「そうすれば唯依ちゃんの下着を──」
バシン!
「今は私の管轄時間だと言ったはずだが?」
「すみませんでした」
「わかればいい」
「冬夜、本当に気持ち悪いです」
ガーン!いい考えだと思ったのに、唯依ちゃんには気に入ってもらえなかったみたいだ。
「クラス代表は織斑一夏。異存はないな」
はーいとクラス一丸となって返事をする。団結はいいね。
「ではこれよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。織斑、オルコット、白崎。試しに飛んでみせろ」
四月も下旬、遅咲きの桜が全て散った頃。俺たちは今日もこうして鬼教官ことちーちゃんの授業を受けていた。
「早くしろ、織斑、オルコット。熟練した操縦者は展開まて一秒とかからないぞ」
とりあえず展開し終わり、他の二人を待つ。因みにISは待機状態ではアクセサリーの形状になる。オルコットさんは左耳のイヤーカフス。弟くんは右腕のガントレット。俺はドッグタグ。因みに今回は『97式戦術歩行高等練習機 吹雪』だ。そして、今回は普通のISスーツだ。
「よし、飛べ」
全員が展開し終わるとちーちゃんから指示がでる。言われて、オルコットさんと俺が急上昇し、弟くんが遅れる。
「何をやっている。スペック上の出力は白式の方が上だぞ」
まあ、束ちゃんがいじってるんだからそうだろうな。
「一夏さん、イメージは所詮イメージ。自分が自分がやりやすい方法を模索する方が建設的でしてよ」
「そう言われてもなぁ。大体、空を飛ぶ感覚自体がまだあやふやなんだよ。なんで浮いてるんだ、これ」
「忘れるな。イメージするのは常に(クラスで)浮いている自分だ」
「なんか、嫌なニュアンスを含んでないか!?」
気のせいだ。
「一夏っ!いつまでそんなところにいる!早く降りてこい!」
いきなり通信回線から怒鳴り声が響く。見ると、遠くの地上で山田先生がインカムを箒ちゃんに奪われておたおたしていた。ちなみにハイパーセンサーのお陰でこの距離からでも唯依ちゃんをバッチリ見れる。ハイパーセンサーさまさまだな。
「織斑、オルコット、白崎、急降下と完全停止をやって見せろ。目標は地表から十センチだ」
「了解です。では一夏さん、白崎しん、お先に」
言って、すぐさまオルコットさんは地上に向かう。さすがは代表候補生、見事なお手並み。
「じゃ、俺も」
跳躍ユニットを全開にして一気に地上へ向かい、丁度良いところで逆噴射で完全停止する。
「さて、弟くんはどうかなっ!?」
ギュンッ──────ズドォォンッッ!!!
今起こったことを簡単に言うとこんな感じ。弟くん、それは急降下からの完全停止ではなく墜落と言うんだよ?
「馬鹿者。誰が地上に激突しろと言った。グラウンドに穴を開けてどうする」
「……すみません」
馬鹿な弟くんを放置して唯依ちゃんの方を見る。うん、ISスーツ姿の唯依ちゃん。すごく良い!
「み、見ないでください!」
考えてることがばれたのか顔を赤くした胸元を隠す。それも良い!
「唯依ちゃん、良い感じ!」
「もうっ!冬夜なんか知りません!」
「おい、馬鹿者。セクハラしてないでささっとこっちに来い」
ちーちゃんから呼ばれて仕方なく向かう。
「織斑、武装を展開しろ。それくらいは自在にできるようになっただろう」
「は、はあ」
「返事は『はい』だ」
「は、はいっ」
「よし。でははじめろ」
手のひらに光が放出し《雪片弍型》が形成される。一週間訓練したとはいえ、まだ遅いかな。
「遅い。○・五秒で出せるようになれ」
まあ、それくらいじゃないと実践では使えないか。
「セシリア、武装を展開しろ」
「はい」
右手を肩の高さまで上げ、真横に腕を突き出す。すると一瞬にして狙撃銃《スターライトmkⅢ》が握られる。さすが、オルコットさん。
「さすがだな、代表候補生。──ただし、そのポーズはやめろ。横に向かって銃身を展開させて誰を撃つ気だ。正面に展開できるようにしろ」
「で、ですがこれはわたくしのイメージをまとめるために必要な──」
「直せ。いいな」
「──、……はい」
反論しそうなオルコットさんを一睨みで黙らせる。さすがちーちゃん。
「セシリア、近接用の武装を展開しろ」
「えっ。あ、はっ、はいっ」
多分、さっきの文句を頭の中で言っていたのか反応が遅れる。
「くっ……」
「まだか?」
「す、すぐです。──ああ、もうっ、《インターセプター》!」
やっぱり名前を呼ぶってことはそれだけ不慣れななんだな。ちなみにこれは『初心者用』の手段だ。
「……何秒かかっている。お前は、実戦でも相手に待ってもらうつもりか?」
「じ、実戦では近接の間合いに入られません!ですから、問題ありませんわ!」
「ほう。織斑との対戦で初心者に簡単に懐を許していたように見えたが?」
「あ、あれは、その……」
「次回までに改善しておけ。最後は白崎、お前だ。私の知る限りお前の最高タイムは○・二秒だったな。これを越えたらグラウンド十周だ」
なんと、横暴な。唯依ちゃんとの時間のためにやるしかないな。
「オルコット、時間を計ってやれ」
「は、はい」
「………」
いつものように右手と左可動兵装担架に突撃砲、右可動兵装担架に長刀を呼び出す。
「何秒だ」
「……○・一秒ですわ」
「ふぅ」
「記録更新か。まあ、良いだろ。全員、最高はこれを目指すように。時間だな。今日の授業はここまでだ。織斑、グラウンドを片付けておけよ」
手伝ってくれという視線を感じたがあえて無視する。自業自得だよ、弟くん。