かくして、私は裏ボスになりました   作:ツム太郎

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ちょっとした昔話。


狂神

狂神

 

 

 

 

 

…なんや、お前?

 

おくつろぎ中に大変失礼いたします。 …貴方が、噂に聞く狂神様…でよろしいのでしょうか?

 

はん、その呼び名は様付で言うモンやないわボケ。 …ていうか、ホンマお前何モンや? 今まで一回も見たことない…しかもこの臭い…「下」の奴か。

 

えぇ、お初にお目にかかります。 私の名は…言う必要も無いでしょう。 私は下界に住む全ての生き物の代表として貴方にお目通り願いたく参った所存です。

 

なら、その願いは叶ったわけや。 今は機嫌がエエから、そのまま帰れや。

 

いえ、そう言うわけにもいきません。 貴方が他の神々と戦争をし続けているおかげで、下界にもそれなりの悪影響が出ております。 なので、もう戦は控えていただきたく…。

 

…お前耳悪いんか? ウチが帰れ言うとるんや、黙って…帰らんかい!! …ッ!?

 

…なるほど、これが神の一撃。 身を焦がすほどの熱量を一瞬で…感服いたします。

 

お前、なんで今の攻撃が直撃して立ってられるンや? 使い魔程度ならモロに喰らえば一発で即消滅のハズやで?

 

私の体は少々丈夫ですので…それに、今のは直撃ではなく足元に逸れていたので間接的なダメージしか…。

 

黙れ、余計なことは喋んなや。 …人間、いや人間か? まぁええわ、お前をこのまま返すわけにはイカンくなったわ。 ウチの攻撃を受けてノウノウと立ってられる奴なんぞ神以外はおらへん。 いたらアカンのや…絶対にここで殺したる。

 

フフ、話しを聞いて頂けません。 …しかし、貴方のその闘いへの欲求はどこから湧いてくるのでしょうか?

 

あん? 別に理由なんかあれへん。 ウチがやりたいからやるだけや、文句あるんか?

 

いいえ、それはありません。 戦士が戦うのは生活のため、騎士が戦うのは守るため、狂戦士が戦うのは欲求のため、冒険者が戦うのは栄光のため…理由は様々で多少歪んだ方もいらっしゃいますが、皆それぞれ理由を持って戦っています。

 

なんか調子狂うやっちゃな………なら、お前は息をする理由が言えるか? ウチが殺し合いをするんはな、本当に特に理由なんてあれへん。 それこそ息をしたりするのとおんなじなんや。 どや、何か反論できるか?

 

………。

 

ふん、言葉すら出ぇへんやろ。 ほら、さっさと武器を構え…。

 

…なるほど、なら生きるためでしょう?

 

…は?

 

私は、生きるために息をしております。 息をしないと苦しくなって死んでしまいますから。 故に、貴方も生きるために日々戦争を仕掛けている…違いますか?

 

お前、何言ってるんや、ワケの分からんこ…と…。

 

…? どうかなさいましたか?

 

いや、お前の言いたいことがちょっと分かった気がしただけや。 …成程、「生きる」ためか…ハハッ、考えヘんかったわ。 なぁ、下界にはお前みたいなオモロイ奴が一杯おるんか?

 

えぇ、私など足元に及ばないような…素晴らしい方々が地上にはおります。 そう、我々の世界はありとあらゆる感情で混沌としている。 …故に、貴方もきっと退屈しないでしょう。

 

ふーん。 …確か、神々の中で地上に降り立とうとしとる奴らがおったな…後で話でも聞いてみるか。

 

おぉ、ソレは素晴らしい。 きっと地上の方々もお喜びになるでしょう。

 

あぁ、でもまぁ…まずはお前の強さを確かめヘんとな。

 

…私の、ですか?

 

お前以外にだれがいるんや。 神々の領域に土足で入るだけでもありえヘんのに、その上攻撃すらも簡単に受けきる…お前神より強いん違うか?

 

…フフ、買い被りを。 私はただの一般人です。

 

あほ抜かせ、お前みたいなんがゴロゴロおったらラグナロクどころの騒ぎじゃあらへんわ。 …まぁ、買い被りかは今から明らかになる…覚悟せぇよッ!!

 

…お相手、仕りましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でな、新人の子が重傷を負ってしまったんや、ウチがあの子の力をしっかり見定めんかったからこんなことに…」

 

「いえ、貴方は挑戦したいというその方の希望を叶えただけのこと。 逆にそれを教訓にし、彼をさらに強くさせていけば宜しいかと…大切なのは過去ではなく未来…ということです」

 

深夜、気まぐれで開かれる小さな店の中で、二人の声が響く。

一人は店主であるパンドラ、そしてもう一人はオラリオにて巨大ファミリアを築く神、ロキであった。

彼女はお気に入りの酒をグラスごと持ち上げ、一気に飲み干し気兼ねなく弱音を吐く。

 

「ふぅ…せやけどなぁ、ウチがあの子を傷つけたんは事実やし…これからどう顔を合わせたらええか分からんのや…」

 

「フフ…貴方は貴方らしく今まで通り接するのが一番かと。 彼も、きっと貴方の気持ちを理解している筈ですから」

 

「…そぉか、ありがとな。 これ、おかわり」

 

そう言ってロキはグラスを渡すと、パンドラは同じ酒を造り始めた。

そんな彼をジッと見ながら、ロキは少しだけ目を開いた。

 

「…そや、最近思いついたんやけどな。 ここってウチの家から結構遠いやん? せやから、もっと近いとこに住めばエエと思うんやー…」

 

「おや、私の店は引っ越ししていただくほど上等な店ではありませんよ?」

 

「お前がや、ドアホ」

 

彼女は手をヒラヒラと振りながらパンドラと軽口を交わす。

その口調はとても柔らかく、このやりとりそのものを楽しんでいるかのようであった。

 

「なぁー、いつになったらアンタはウチんとこに来るんや? もうかれこれ数十年以上待ってるんやけどなー…おぉ?」

 

「申し訳ありませんが、まだこの店を畳むつもりはありませんので…それに、私がどこかのファミリアに加わると、色々と大変かと」

 

そう言って、彼はロキに新しい酒を渡す。

彼は、自分が街でどういう存在なのか一応理解している。

故に人間が自分にどのような感情を抱いているかも。

もちろん負の感情だけではないが大体の人間は自分に対し恐怖を抱いている。

そう、下手をすれば神でさえも。

 

しかし、それでも都市にて生活しているのは、その溢れ出る欲求を少しでも鎮めるためである。

彼は話をしたい気持ちを抑え、必要以上に接することを控えている。

買い物などの必要最低限な用事以外で外に出ることもあまりない。

そのため、彼に挑む挑戦者は唯一の人間との接点でもあるのだ。

 

実の所、本人は未だ自身にそんな力は無いと信じているのだが、それでも周りが皆裏ボスだなどと呼ぶのだから仕方ない、と諦めてしまっている。

 

そして、そんな自分がファミリアなんかに入ったらどうなるかも分かっていた。

恐らくいい方向には進まないだろう。

メンバーや主神は白い目で見られ、最悪迫害…追放もあり得るだろう。

彼は人や神同士でそんなことをしてほしくないと常々思っている。

 

「………」

 

ロキもソレを重々理解している。

彼が人間という種をもっともっと理解したいという感情を隠し、こんなこじんまりした店で数名の常連客との僅かな会話だけで堪えているという事実を。

 

よく分かっている。

 

「…そんなモン、ウチには関係あらへん」

 

分かったうえで、否定した。

 

「アンタが子どもたちに対して遠慮する必要なんてあらへん、ウチは子どもたちは大好きやけど…これだけは我慢できんわ」

 

真っ直ぐパンドラを見つめ、彼女は言葉を続ける。

そこに先ほどの愚痴をこぼしていた弱弱しい彼女はいなかった。

 

「アンタは今まで、地上のために一杯頑張ってきた。 天界にまでやってきて神を止めるなんて神話級のことまで。 …なのに、みぃんなアンタを怖がっとる上に…アンタがやったことをまるで分かっとらんやろ!」

 

「人とはそういう生き物です。 自分より強い相手に恐怖し、制御しようとする…そしてできなければ排除。 無暗に動けば、それこそ戦争になりかねません。 それがどれほど悲しい事か…貴方なら分かるでしょう?」

 

そう言われ、ロキはハッとすると反論できずに無言で顔を伏せた。

先程の荒々しい様子は収まり、冷静になったようであった。

 

「…気分を害させてしまって申し訳ありません。 御代は結構ですので…今日はもうお引き取りを」

 

そう言って、パンドラは彼女を出口へ促す。

その優しげな眼に、底知れない深い闇を抱いていた。

 

ロキもこれ以上の言及は無理かと諦め、外へと向かった。

 

「…覚悟せぇよ」

 

しかし、それはあくまで今回だけのこと。

 

「アンタは…いつかウチが日の当たる場所へ叩き出したる。 あんな胸糞悪い依頼書なんかビリビリに破いて、ウチのファミリアに迎えたるからな」

 

「…えぇ、楽しみにしております。 …狂神様」

 

そう言って、彼はゆっくりと扉を閉ざした。

彼女は暗い夜道を歩きながら、微笑み口を開く。

 

「…その呼び名で様は止めろって言うとるやろ。 ドアホ」

 

 

 

一年以内で、彼に自分の名前を呼んでもらう。

 

 

 

(新しい目標ができたわ…ふふん)

 

そんなことを考えながら、彼女は深夜の裏路地を歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因みに余談ではあるが、彼女のファミリアは店から歩いてほんの少しの所に住居を構えていたりする。

 




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