高校生の時、”オタク”である男の子と”リア充”である女の子が出会った。
二人には好きな人がいて、しかし次第に惹かれあうようになり……原作では10巻の後のお話です。※原作のネタバレ回避のため、詳しい記述は避けます。


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 『おまえをオタクにしてやるから、俺をリア充にしてくれ!』という作品が大好き過ぎて、ヒロインの誕生日に星空文庫様に掲載させていただいた作品を、今回改稿して、投稿しました。そして、少しでも原作小説に興味を持っていただけたなら幸いです。


記念日

 俺が就職し、桃に正式にプロポーズしてから一年が経ち――――。

俺たちは東京の、地元の一軒家を住まいとすることにしている。親父さんの仕事が一段落したことにより、両家の間で挨拶や必要な段階も済ませているということで、俺と桃は、三月からはこちらに引っ越して二人暮らし――正確に言えば、”夫婦”として生活がスタートする。

思えば今までいろいろなことがあったとしみじみ思わされる。高校一年生の春、俺の所持していたライトノベルが間違って桃の手に渡り、そしてお互いの好きな人のために協定関係を結んだことが、もはや昔の事に感じられる。

それで桃にはいろいろと迷惑も掛けたんだっけな……文化祭前に鈴木の家で集まってその帰りに、どうして関係を結んでいるだけのはずの相手にそんなに優しくするのかと桃に聞かれたとき、俺は「大事な友達」だと言って……。

後に告白されその時には既に俺の事が好きだったのだということを、小豆ちゃんや、彼女が託してくれたラジオの音源から知ったのだったが。

 その後桃とは大学生活を送る中で何回か会ったりもして、特に高校卒業後の旅行の後に桃が東京に来た時の彼女

に、私は女の子として魅力がないのかと、”そういうことをしたい”と思わないのかと聞かれたときは本当にびっくりした……。

そして、俺は長谷川と同じ大学に入れたことにより、桃が小説家や読者モデルをやっているという話を聞いて、少しでも良い就職先を得られるのを目標に勉強に励み————そしてつい一年ほど前に、桃にプロポーズしたのであった。

 そして今はその引越し準備の真っ最中であった。あれから一年経って未だ様変わりすることのない家に、一抹の淋しさを感じるのは、どうしてなのだろうか……そういえば家にも何回か、桃や小豆ちゃんが来たことがあったっけな、今となっては懐かしい想い出の一つとして俺の心に刻みつけられている。

俺がせっせと表に停められた車の荷台に段ボールなどを積み込んでいき、もう少しで終わろうかという頃、インターホンが鳴る。あかりが「は~い!!」と呑気に玄関まで走って行き、扉を開けると、そこから現れたのはなんと桃だった。

「桃さんこんにちは」

「こんにちはあかりさん。作業は進んでる?」

「はいっ。直輝もしっかりとやってますよ」

「そっか、なら大丈夫だね」

桃は靴を脱いで上がると、一直線に俺の元へやって来て、いきなり俺にキスしてきた……それも直で……。

「久しぶりだね直輝」

「……あ、ああ。桃」

「何よ。せっかく女の子が勇気を出してキスしてあげたのに、何の一言も無しなの?」

「お前なあ……ありがとう、大好きだよ桃」

桃はその言葉にボンっとほおずきのように顔を真っ赤にして、俯いてしまい、やがて俺と目を合わせるとこつんと俺の胸元に頭を預け、

「……直輝のばか。私だって同じよ……」

「桃……」

俺はそっと桃の頭を撫でてやる。いきなり触れてしまったせいか、桃は肩をびくっと震わせて俺を見つめる。しかしすぐに気持ちよさそうに目を閉じて、体重を預けてきた。その様子を見ていたと思われるおかんとあかりが、こちらを意地悪い笑みで見つめている。

「直輝、本当に桃さんと仲良しなのね」

「直輝がいつのまにかリア充になってる……」

あかりに至っては珍獣を見るかのような目で俺を見ている……まあ、高一の初期と比べたら、確かに無理ない。

……何せ今は、生涯の伴侶を得たわけだから……。

桃はぱっと顔を離す。もう先ほどまでのしおらしい雰囲気は無く、いつもの溌剌とした感じが戻っていた。

「そうだ、せっかく来たんだし、私も手伝うよ」

「いやいいって。荷物ももう少しなんだし」

「……あんたまさか、私に見られたらマズイもんでもあるの?」

「うっ……」

桃はじとーっと俺を睨む。昔からこいつは妙に勘が良いところがあって、散々ドキドキさせられたもんだが、俺はとりあえず誤魔化すしかなかった。

「何にもねえよ……」

「——まっいいわ。あんたのそういう興味は、私も同人誌とかにはまってるから、あまり人のこと言えないしね」

「お前も今となってはすっかりオタクになったよなあ。昔なんて、エロゲーを買うの一つも無理とかいって拒否していたくせに」

「そりゃあまあね。あの時に比べたら男の人も大分苦手では無くなって来たし、人ごみもまた然りよね。小説のサイン会とかで人と触れ合う機会があっても、そこまで拒否反応が出るなんてこともほとんど無いし。——————これもあんたのおかげかもね」

「ばっ、俺のおかげとか、そんなんじゃねえよ。桃が必死になってオタクを理解しようとした結果が、今のお前なんだろ?俺は別に褒められるような事は何にもしてねえよ」

「……あんたって昔からそういうところから変わってないわよね。褒められるとそうやって謙遜するところ。

高校の時、小豆ちゃんとか長谷川さんにされたときだって、あんた鼻の下伸ばしまくりでうざかったわよ」

「うるせえよ。そういうお前だって、まだ最初の頃、鈴木と会うだけで、魚みたいに口をぱくぱくさせてたじゃんか」

「あれは関係ないでしょう!? なんで今鈴木君の事がでてくるわけ!? ていうか、私はあんたの事が大好きなんだから、そういうことは話題にすんな!!」

そう言って桃はどすどすと階段を上がっていってしまった。すぐ扉の閉まる音がしたので、恐らく俺の部屋に入ったのだろう。

ああなってはてこでも動かない桃だから、俺はそっとしておくことにする。

よっこらしょと荷物を抱えると、不意におかんとあかりの視線がぶつかる。「「直輝ったら相変わらずね」」とでも言いたげだ。俺は「うるせ。黙っとけ」と送り、車に黙々と荷物を積み込んでいくのだった。

 

 その日中に荷物をまとめて、俺と桃は車で新居へ向かった。来るまで十数分、何の縁か藤見高校からは徒歩五分以内というアクセスの良さだ。……将来子供とか出来たら便利そうな気はするが。

渋滞にも巻き込まれること無く、無事に新居に到着する。既に引っ越し業者の人たちが荷物が家財などを運び込んでいる。

これらは全て事前に桃とホームセンターで選んでおいたもので、その時の彼女の様子は、まさにおもちゃを買ってもらった子供の様だった。片っ端からあれがいいこれもいいとはしゃぎまくって、これでもかというくらいに女の子だった。

 俺たちが到着してから僅か十分弱。引っ越しのお兄さんさんたちが作業完了の旨を告げてトラックで去って行った。

「じゃあ入るか」

隣の桃に問い掛けると、俺を見上げた彼女はにこっと微笑んで「うん」と言った。手を繋いでそっと玄関を開ける。

そこは地中海を思わせるような白塗りの、涼しげな内装の家だった。玄関から二階までが吹き抜けになっていて、天井には風車が回っている。桃は歓声をあげながらくまなく部屋を見て回った。……その時の様子が、さながらトトロのヒロインたちが初めて家を探索する時のノリに似ていた事は秘密だ……。

 

 新居での初めての夜。

お互いにお風呂や歯磨きなどを済ませて、今後”夫婦”の部屋として使う予定の部屋で一つのベッドに横になる。

最初は気恥ずかしさからか僅かに隙間を開けていた俺と桃だったが、何となく寂しさを感じて距離を詰め、そしてどちらからともなく互いに手を回して抱き合う格好になる。目の前に桃の整った貌があって、吐息が俺の頬にかかってくすぐったいし、さらさらの髪に触ってみたいという衝動に駆られて、ぷるぷるの唇にキスをしたい……という感情さえ起こる。今まさに桃という女の子の存在を至近に感じていた。————心なしか桃の瞳が潤んでいるのは気のせいだろうか。

「ねえ。直輝……」

「ん?」

「改めて考えてみても、あたしと直輝が結婚して……それで夫婦になったって、まだ実感が湧かないんだよね……」

桃は一旦腕を離し胸の前で組んで見せる。その姿は酷く切なげに映って……俺は思わず彼女の髪をさらさらと梳いていた。

「……直輝?」

「……俺もだよ桃。高校生の時にあんな出会い方したおまえと、こうして思い合って結婚して、同じベッドで寝るなんて、その時の俺らからしたら考えられないだろうなって——————その時の俺たちが聞いたらびっくりするだろうなって」

「……そうだね。あの時の私たちって、ただの”協定関係を結んでいるだけの関係”だったからね……それにしてもあんた、どうしてあの時、あたしにそこまで優しくするのかって聞いたときに、『大事な友達』だとか言ったの? 今でもホント謎なんだけど」

「……しょうがねえだろ。あの時は、お前はまだ鈴木のことが好きなのかと思っていたし……確かにお前のことを異性として意識していたのは事実だけど、協定がある以上、そういうのは言っちゃいけないのかと思ったんだよ……」

どこか言い訳がましくも聞こえる俺の言葉に、しかし、桃はふっと微笑んで、

「……そんなところもあんたらしいけどね」

そしておもむろに体を寄せてきて、顔を近づけると————そのままキスをした。

いきなりに感ぜられる桃の、しっとりした、みずみずしい、それでいて人肌のぬくもりに俺は息がつまる。たっぷり数分し離された後、桃は俺を一途に見て言った。

「……これからもよろしくしてよね直輝」

「ああ。こちらこそよろしくな桃。……」

そして俺たちはもう一度、確かな気持ちを確かめ合い、俺は桃が寝るまで、優しく髪や頭を撫でてやるのだった————。

 

 翌日、二月二十八日————今日は桃の誕生日だ。

俺は桃がいないのを確認して、自室の引き出しに隠してあった箱を取り出す。丁寧にラッピングされている。俺はそれをポケットに入れて、リビングに降りると、ちょうど台所では桃が朝食を作っているところ。俺たちは家事全般は二人で分担してやろうと決めたのだ。俺が来たのを見て、桃はすかさず寄ってきて、俺の頬にキスをする。しっとりとした唇の感触に俺は一瞬どきっとしてしまうが、お返しに桃のもちもちとした頬にもする。

「……ん。おはよう直輝。朝ごはんもう少しで出来るから、ちょっと待っててね」

————そうして朝ごはんも食べ終わり、リビングでくつろぎ、時刻がお昼前になった頃。

桃が昼食を作ろうとたったところでインターホンが鳴る。俺は玄関を開けて来客を招き入れリビング前で待機させる。

そして合図をして一斉に突入!!

————パンパンパン!!

クラッカーの弾ける音がして、何だと桃が振り返り……俺の後ろに立つ人たちを見た瞬間「えっ、嘘……」と口元に手をあてて驚く。

「「「「桃お誕生日おめでとう!!」」」」

高校の同級生たいが勢揃いしており、一様に手にはプレゼントと思われるものを持っている。

鈴木に小豆ちゃん、笹川や雨宮、ムラサキさんこと狭川さん、二階堂さん、永瀬さんなどの俺たちにゆかりのある顔ぶれだ。

桃はそのメンツに驚いたかと思うと俺の方を見る。その瞳はどうしてだと語っていて……俺は軽く肩を竦めて見せるだけに留める。

 その後桃はメンバーから祝福されケーキなども食べてすっかり機嫌が上がっていた。隅の方できゃあきゃあと盛り上がっていたり、仕事の都合で参加できなかった長谷川からのプレゼントを俺が渡すと、とても喜んだり。

————そんな感じで桃のお誕生日パーティーもたけなわとなった頃、俺は渡そうとしていたプレゼントを渡すべく、桃に歩み寄る。

「桃、俺からもプレゼントだ」

「まさかその箱って……」

桃は俺の持つ小さな箱に注目して目を見開いている。ひとまず無視して俺は徐々に包みを解いていく。取り出したものを桃の左手薬指にはめ……俺が桃にプレゼントしたかったもの、それは————

「——これって……婚約指輪……?」

「ああ。こうして婚約したは良いけど、ちゃんと夫婦になったって証が無かったし……それに結婚式もまだだったし……」

桃は数十秒もの間俯いて、黙った後、ぱっと顔をあげる。

「……あんたって本当に、女の子の気持ちに鈍感で鈍いけど……こういう時だけ、しっかりしているんだから。……」

そこで桃はぐすっと涙を滲ませ、そして頬をそっと涙が伝う。それに気づいたのか桃は頬を赤らめ慌てて拭い取り、

「ありがとう直輝……大好き!!」

そして俺の抱き付いてきて、何度目か分からないキスをした————。

 

 最初協定関係を結んだときは、一体どうなるのかと不安になったりもした桃との日々。好きな人との恋の成就のために手を借りつつアプローチしたり、はたまた彼女のためにいろいろと考えて行動したり……今となってはそんな日々も悪くなかったのかなと、俺に顔を埋めて泣きじゃくっている桃を見るとそう思う。

お互いに好きな人がいたがためにすれちがいもしてケンカだってして、桃から去って行ってしまうとなった時、仲を結び直したりして——そんな何度もの苦難や困難を乗り越えてきた時、いつもそばにはこいつがいた。

 

————横暴でわがままでギャルでスイーツ(笑)でどこまでもお嬢様な恋ケ崎桃。

 

————根は優しく人に気を遣え、好きな人には一途になり、自分の感情を犠牲にしてまで他人を応援してしまう

 

どうしようもないくらいに可愛い俺の彼女——否、相手。俺は心からこの恋ケ崎桃という女の子に出会えて良かったと思う。だからこそ俺は、一生忘れられない言葉を、心の中で叫ぶ……

 

      ————————『おまえをオタクにしてやるから、俺をリア充にしてくれ!』




 他の作品でもお会いできたら、これに勝る幸せはありません。これからもどうぞよろしくお願いします!!

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