遊戯王 Spirit Code   作:久那月

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15 遊びに来ている訳ではありません

「出張、ですか?」

「ああ、出張だ。いつものことだろう?」

 

いつものようにA・O・Jエンデュミオン支部、ゼロのオフィス。

 

ダルクはハストールから新しい仕事の指令を受けていた。

 

「そりゃぁ、まぁ、いつものことなんですけど……。なんかこう、気乗りしないなぁ、って」

「ふむ……。確かに私も今のお前に頼むのは気乗りしないんだ。こう、何故かシャキっとしてない感じがしてなぁ……」

「なんででしょうね?」

「何故だろうか」

 

二人してテーブルを挟んでお茶を啜る。

そして、

 

「「やっぱりアバンスがいないからだろうな(でしょうね)」」

 

そう、今日のオフィスにはアバンスがいない。

数日前から別の任務で出張中なのだ。

いつもならデスクワークを後回しに机で寝息を立てるか、別室で筋トレしているかのどちらかなのだが基本ボーっとした奴がいないからなのか、どうも仕事に身が入らない。

 

「なんだかんだ言って、あいつとは20年以上の付き合いだからなぁ……。そりゃやる気にも影響するわ」

「ふむ……。まぁ、たまには一人で事務仕事でもしてくるといい。どのみちデータセンターでの仕事はお前に任せるのが一番だからな」

「俺、SEじゃないんですけどね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザザァン……ザザァン……

 

コバルトブルーの海がアバンスの身体を包む。

すぐ後ろには色とりどりのサンゴ礁、命の源たる海の息吹を全身で受けとめる。

 

「……行くか」

 

背中の筋肉を使って、真下に潜り、右手を伸ばす。

 

その手の先にあるのは……サザエ貝。

 

「シャァッ!」

 

そして、左手に握った銛が勢いよく放たれ、狙った魚を貫く。

その後、海面に浮上したアバンスが一言。

 

「獲ったど~~!!!」

 

 

 

 

 

アバンスはエンデュミオンから遠く離れた南の国、アトランティス王国へと来ていた。

もちろん、観光目的ではない。

 

手にはバター醤油、足元には熱気を放ち、獲れたての魚介類が載ったバーベキューセットがあったとしても決して遊びに来ている訳ではない。

 

『ネェネェお兄サン、アタシ達と一緒に遊ばない?』

『冷えたお酒と果物もあるよ♪』

『サンオイル塗ってくれたら嬉しいナァ♪』

 

健康的に日焼けした水着ギャルに声をかけられているが、決して遊びに来ている訳では(ry

 

「……ねぇ、そこのお嬢さん達、ウチのダンナに何か御用?」

 

一人のパレオスタイルの水着を身に纏った赤髪の女性が水着ギャルに涼やかな声をかける。

 

「ん、エイミィお帰り」

 

もむもむ、と咀嚼していたものをビールで流し込むとアバンスがエイミィ、リチュア・エミリアに声をかける。

 

「それで、何か御用でも?」

 

涼やかな、されど目がまったく笑っていない笑顔で”正妻”エミリアが水着ギャルを睥睨すると、そそくさと退散していった。

 

……嫁同伴で仕事に来ていたとしても、決して遊んでいる訳じゃ(ry

 

 

 

アバンスはここ、A・O・Jアトランティス支部からの要請で、遠路はるばるこの南の島まで来ているのも理由がある。

それは、この近辺を荒らしまわる海竜の討伐の任を請けたからに他ならない。

本来、この手のことは地元自治体が解決するのが当たり前なのだが、今回は事情が違った。

 

「とてつもなくヤバい、か。どんな奴なんだろうな」

 

そう、今回は標的の強さが段違いらしいのだ。

つい最近、この近辺で見かけるようになり、近くの海域を荒らしまわっているらしく、討伐に挑んだ地元の腕自慢や賞金稼ぎは軒並み歯が立たず、確実に討伐し海の平穏を取り戻すためにA・O・J上位戦力、『十本指』の序列七位であるアバンスに白羽の矢が立った。

 

「住処らしき場所は見つかったの?」

「ああ。それらしい場所にレーダー付きのエサを仕掛けておいた。かなりの大食らいらしいし、目につきゃ食べると思う」

 

そう、先ほどアバンスが海に潜ってサザエやら魚やらを獲っていたのも、釣り餌の調達が為だったのだ。

……余った分はアバンスの腹に収まってはいるが。

 

「生け捕り頼むよ?研究サンプルに欲しくて一緒に来たんだから」

「わーってるよ。午後からまた出る」

 

エミリアもフィールドワークの一環としてアバンスと共にこの地に赴いている。

ビーチパラソルの下でトロピカルグラス片手にくつろいではいるが、遊びに(ry

 

 

「っていうかさ、アバンス。さっきまた女の子に絡まれてたでしょ?ダメだよ、上手くあしらう術を身につけなきゃ。あんた自分が思ってるよりモテるんだから」

「む……」

 

柴色の髪に、透き通った蒼い瞳。

整った鼻梁と鋭い刃を思わせる釣り気味な切れ長の目。

そして何より、長年の鍛錬の賜物であろう鍛え上げられた逞しい身体。

 

常日頃不愛想で無口なのも、アバンスに気を寄せるものはシャイでクールと自動変換されている。

 

「ダルクみたいに口八丁手八丁で云々っていうのは無理だと分かってるけどさ。イヤならイヤって言わなきゃ」

「……アイツには、そういうとこ助かってるからなぁ……。俺、自分で人見知りするの分かってるし……」

 

昔から得意分野と不得意分野をカバーしあってきたのだ、誰かと関わるときは言葉足らずなアバンスのクッションをダルクがこなしていた。

 

『俺、話すの下手だし、言葉足りないとか言われっけど、これだけは伝える。エイミィ、お前が好きだ!結婚してくれ!!』

 

去年の春頃の突然なプロポーズ。

真っ赤な顔で成長した弟分から想いを告げられたのを思い出し、エミリアは照れ隠しにアバンスの背中から腕を回す。

 

「ちょ、エイミィ、胸……」

「当ててんのよ。いいじゃん、夫婦なんだし」

 

布一枚を隔てた豊満なバストがアバンスの背中に押し付けられる。

そして免罪符を口に、エミリアがアバンスの頬に顔を寄せた瞬間

 

__溢れる敵意。

 

 

「ッ、エイミィ、逃げろ!!」

「へぇっ!?」

 

 

ザッバァァァァァァァァァァンッ!!!

 

 

「ギャオオオオオオオオォォォォッッ!!!」

 

新婚夫婦の甘いムードはどこへやら、砂浜にこだまする咆哮と共に波が割れ、巨大な首が海面から姿を現した。

 

「で、出たぁぁぁっ!!?」

「いいからさっさと逃げろ!奴さん、何故だか目がイっちまってる!」

 

唸り声を上げ、巨大な首の持ち主『海皇龍 ポセイドラ』は強者の波動を感じ取ったのだろう、アバンスに視線を向ける。

 

「我が身を捧げる、異界の徒よ我が身と一つとなれ!!」

 

傍らの刀を抜き放ち、柄の鏡に印を切り異界の自分と契約を交わす。

すると、アバンスの身体は無数の蒼い鱗に覆われ、翼が、尻尾が生え竜そのものの姿へと変身した。

 

ポセイドラは臨戦態勢に入ったアバンスにのみ視線を向けると、10mはあろうかという巨躯を活かした尻尾により眼前の砂浜を薙ぎ払う。

 

身長が2mを少し越した程度のものに直撃すれば重症は避けられないだろう。

__だが、それがアバンスではなかったならば、その通りだったのだが。

 

「……なぁ、そんなもんか?」

「ガァッ……!?」

 

今まで挑んできたハンターはこの一撃で重症もしくは吹っ飛ばされていた。

しかし、アバンスは右腕一本でそのスイングを受け止めていた。

 

「せぇ……のぉっ!!」

「ガゥッ!?」

 

掛け声とともに全身の力を腕に集め、尻尾を掴みポセイドラを上空に投げ飛ばす。

そして追い打ちをかけるように飛翔し、左片手突きの構えをとり、突撃する。

 

「牙突」

 

一瞬の内に間合いを詰め、狙うは龍種の弱点の一つ、角の中の瘤。

そこに正確無比な鋭い一撃角の付け根に差し込み、貫く。

 

「ギャッ、ガァァァァァァァァ!!!」

 

ポセイドラは悲鳴のような咆哮を上げながら派手な水煙を上げて海面に落下した。

 

「……この程度か。これならダルクでも倒せそうだ。満身創痍確実だろうけどな」

 

ゆっくりと水面に向けて降りてゆく。

ポセイドラは力の差は悟ったものの、まだ戦意を失ってはいないようで、血走った眼をギラつかせアバンスを睨んでいる。

 

ポセイドラはアバンスが水面に降り立ったのを確認すると、短く吠える。

すると、海が16個の枠を作るように割れた。

 

「デュエルフィールド、か。力で勝てねぇなら仕方がねぇな。生け捕りもしやすそうだし、いいだろう、受けてやる」

 

アバンスも竜化を解かぬまま、ディスクとデッキを構える。

 

 

「「決闘(ガウッ)!!」

 

 

 

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