昔々あるところに、傷だらけの竜の子供が倒れていました。
その竜は今にも死にそうで、か細い呼吸を少しずつ続けているだけです。
そして、今にも消え入りそうな声でこう言いました。
「神さまの大嘘つき……」
昔々あるところに、二人の神様がいました。
一人は黄色い衣を纏った風の神様、もう一人は、悪戯好きで嘘つきな神様です。
二人は、この崩れてしまった世界を巡っていました。
そして、偶々死にかけている一匹の竜の子供を見かけました。
そして、こんな言葉が聞こえます。
『神さまの大嘘つき』
神様は、とてもとても強い力を持つ神様は、胸の奥がチクリと痛み、竜の子供に怪我を治す魔法を使い、こう問いかけます。
「坊や、神様は嘘つきって、どうしてそう思うんだい?」
「……神さまは、とっても、意地悪だから」
竜の子供は、ぽつりぽつりと語り出しました。
つい少し前に世界全体を襲った『炎の洪水』により、両親も、友達も、家も、何もかもを失ったこと。
竜の子供はとても優しくて良い子で、毎日神さまにお祈りをしていたこと。
けれど、炎の洪水は、神さまによって引き起こされた事を、竜の子供は村の大人から聞いてしまったこと。
祈っても、祈っても、祈っても、炎の洪水は止まりません。
いずれそれは、子供の全てを飲み込み焼き払いました。
竜の子供は思いました。
神さまはとても意地悪だ、って。
神さまは何もしてくれない、って。
神さまは大嘘つきだ、って。
二人の神様は思いました。
私達は意地悪なのか、と。
私達は何もしていないのか、と。
私達は大嘘つきなのか、と。
嘘つきな神様は、決心したようにこう言いました。
「なら、神様に嘘をつかせない世界を作らないかい?」
風の神様もそれに頷きこう言いました。
「私達、神がそれを手伝おう。坊や、君の名は?」
「……アランレイヴ」
神様が伸ばした手を、アランレイヴが掴みます。
そう、この日この時、終焉を見定める者の運命の歯車が回り始めたのです。
「……準備はいいかい、アラン」
扉の先の遺跡内部。
東と西の両端に祭壇があり、向かい合うようにナイアルラとアランレイヴが立つ。
ここは神聖な儀式を執り行う場。
過去に置いて来た自分を、取り戻すために。
「ああ、始めてくれ。……安心しろ、私は絶対に負けない」
「当然だ。負けたら君も死ぬんだからそのつもりで」
儀式の供物は、神の魂。
それはつまり、ナイアルラを。
育ての親を、賭け皿に乗せるということ。
ナイアルラはアランレイヴの言葉に頷くと、儀式を開始するための呪文を唱え始める。
__健闘を祈る。
最後にそう呟いたかと思うと、ナイアルラが黒い霧に包まれる。
儀式が、始まったのだ。
黒い霧はナイアルラを依代として、その身体を形作っていく。
アランレイヴは、構築されていく『それ』を見て顔を引きつらせる。
その姿形はまるで、自分自身ではないか、と。
「ンっ、ん~。アぁ、よく寝たァ……。七千年振りくらいか?なぁ、アランレイヴ。いや、抜け殻よぉ?」
「……あぁ、本当に久し振りだな、95番。お前の恨み節を聞かずに眠れた七千年間、実に快適だったよ」
粗暴な口調の、アランレイヴそっくりの姿をとった95番と呼ばれた存在は、アランレイヴを、もう一人の自分を睨みつける。
「ハッ、随分とまぁ、丸くなったじゃねぇの。俺様が眠ってる間に何やってたかは知らねぇが。で、何の用だ?七千年前に無理やり封印した、人工生命によぉ?アァーン?」
「なんだ、まだ怒っていたのか。私の人格をベースにしたにも関わらず、口の悪さも粗暴さも相変わらずだ。……そんなことはどうでもいい。私の元に戻ってもらう、そのためにナイアを媒体にお前を呼び戻した」
淡々としたアランレイヴの口調に、95番のこめかみに青筋が立つ。
「……ザッケんなよテメェ……!!」
「いい加減、お前を待たせすぎた。そろそろ、過去の不始末をつける時がきたんだよ。構えろ、95番、ダークマター」
アランレイヴは左手を突き出し、虚空から生み出した決闘盤を腕に装着する。
「何が過去の不始末だ……!!いいぜ、叩き起こされた憂さ晴らしついでに、テメェをブチのめす!!」
95番、ダークマターは右腕に同じ形状のものを生み出し、装着する。
「「決闘!!」」