「はい、逮捕」
「くっ……」
「あ、くっ殺とかいいんで、姫騎士じゃないと萌えないんで」
ダルクはシナトの手に手錠をかけると、懐からロープを取り出し、シナトを縛り始めた。
「ぐ、貴様、やめろ、おぉぉぉぉっ……!」
ギチギチ、と音を立てるほどに縄がシナトを締め付ける。
見事な亀甲縛りだった。
「ダルク、終わったか?……って、うわ……」
「おお、アバンス。戻ったか」
カイザー・シーホースに投げ渡されたトランクを抱えながら、アバンスが部屋に入る。
入るなり目撃したのが、男神の亀甲縛り状態という誰得なものだが。
「シーホースは適当にボコって拘束。バイヤーを纏めて御用するのは成功したわけだ」
「イェーイ」
ダルクがハイタッチを求め、アバンスは気怠そうに応じる。
「捕縛したら後は警察局の仕事だ。オレらは面倒ごとにならん内に事務所に戻るぞ。……ほらもう午前2時だ……」
「また今日も事務所帰り……。ま、土日休みなのは救いか」
A・O・J(アーリー・オブ・ジャスティス)精霊界最大の連合公共機関。
その中にいくつもの組織を抱え、精霊界に暮らす者の生活を支援する、いわばお役所である。
教育委員会から警察組織まで、公職の全てを司る機関であり、就活生は
『んー……とりあえずA・O・Jのどっかかなぁ……』
と挙げるくらい、安定した職業の代名詞でもある。
ダルクとアバンスはその連合組織の一つ、特務部に所属していた。
「はい、こちらが今回の任務の報告書と回収物です」
「ふむふむ、ご苦労ご苦労。ヌルフフフフ」
『特務部』通称『ゼロ』
少々特殊な職務を主に担当するため、所属する人員は少なく、そして癖が強い。何より、精鋭揃いだ。
「特に、この妙な笑い方の不定形上司は……っと」
「ダルクくん、何を書いているんだねぇ〜?」
「……ナイア先輩、人の手帳覗き見るとか悪趣味が過ぎますよ……」
オフィスのデスクに座り、アバンスからの報告書を受け取ったかと思いきや、ソファに腰掛け手帳にペンを走らせていたダルクの傍で手帳を盗み見る。
この自由過ぎる不定形こそが、ダルクとアバンスの上司[外神ナイアルラ]だ。
「うむ、今回もアレは取り引きされ無かったようで安心した。アバンス、ダルク、夜遅くまでよくやってくれた。ゆっくり休むといい」
「ハストルさんマジ理想の上司」
トランクの中身を確認していた[古神ハストル]はダルクとアバンスを労う。少々堅い部分もあるが、実直で誠実なためか、『ゼロ』に関係する部署での信望も厚い。
「……しっかし、例のブツって本当にこの街に存在してるんですか?幻とすら言われてるブツが何度も開発工事されてる場所で見つかるとはとてもとても……」
「ヌルフフフ、それは真か偽か、どちらかで言えばもちろん真さぁ〜。私の触手がビリリと来たらそれはすぐに見つかるのさ。君の落とした1ドラクマだろうが、『No.』だろうが、ねぇ。ヌルフフ」
『No.』
世界の記憶を百と数個に分けた特別なカード。
それ一枚で無限の叡智を、巨万の富を有することができるとも言われているが、存在自体が幻、御伽噺の中の宝物のような扱いをされることも少なくない。
しかし、確かに存在はしている。
何せナイアルラの触手がビビッと来たのだから。
そして、ダルク達の主な任務はナイアルラがビビッと来た地域を虱潰しに捜索し、『No.』を回収すること。
「……研修終わってからもうすぐ1年。前任が3年がかりで集めたのが
『No.』の16、30、42、49、56、63、74、80の8枚。俺とダルクが回収できたのが69、81の2枚……。先は長いな……」
「探した場所がどこもだだっ広い場所だったけどな。今度も探索範囲が広いエンデュミオンだ。……知ってるかアバンス、人間界って定年退職があるらしいぞ」
「マジか。……そりゃ1世紀生きられるかわかんねぇ個体ならそういうのもあるだろうよ。……なんにせよ、そういう年齢になっちまうくらいには苦労しそうだ」
アバンスが苦笑するのを尻目に、ダルクは手帳を閉じる。
「この仕事は長い付き合いになりそうだ。よろしく頼むぞ、相棒」
「分かってる。……そこ、何ニヤついてるんスか、ハストルさんまで」
「いやぁ、若いねぇ……。我らも若い頃は良く人間をいびったものさ」
「SAN値擦り減らして発狂するのを見るのはいいものだ」
「「本当最低ですねあんたら!」」
……兎にも角にも、『ゼロ』の任務は、前途多難で騒がしい。
これにて、ダルク回完結です。
プロローグから1ヶ月のお付き合いありがとうございました。